第十五話よろしくお願いします。
目の前で頭から血が滲み全く動かなくなったものを虚ろな目で黙って見下ろす。しばらくしてはぁ、とため息をついて振り返り歩き出す。かれらにゴルフクラブを振り降ろした時ふと昨日の胡桃の話を思い出したがやはり何も感じなかった。そんな自分に呆れ光はまたため息をつく。やはり自分には人の心がないのではないか、そんなことを思いながらバリケードの中へと戻っていった。
屋上で血に濡れたクラブを洗ってから部室へ戻る。
「ただいまー」
「待てぇー!太郎丸〜!」
「わん!」
「こらー!待てぇ〜!」
「…ん?」
てっきりおかえりとひと言言われ出迎えられると思っていたため目の前で起こっている状況に頭が追いつかずその場で固まる。太郎丸が部室を駆け回り由紀もその後を追い走り回る。そんな様子を黙って目で追っていると「おかえり」と苦笑いでいる胡桃に声をかけられた。由紀達の邪魔にならないように小走りで胡桃達の元に歩み寄った。
「…あいつら一体なにしてんの?」
「由紀が太郎丸を風呂に入れようとしてるところ。」
「それがなんであんな追いかけっこになってたんだよ、早く入れればいいじゃん」
胡桃の回答に首を傾げる光に美紀が困ったように答えた。
「そうしたいんですけど太郎丸お風呂入りたがらないんですよ、だからあんなふうに…」
「あ〜そういうことね…」
苦笑いで光も由紀と太郎丸を目で追う。4人でその光景を微笑ましく眺めていると突然由紀が足を滑らせて棚へ勢いよくぶつかってしまう。その衝撃で上に置かれていた箱が音を立てて次々に落ちてくる。4人は慌てて由紀に駆け寄り声をかける。由紀は照れくさそうに笑うと床に散らばった箱や紙を片付けはじめた。光達も紙を拾い上げまとめていく。そんな中由紀がある箱に気づきそれを拾う。くまの絵が描かれた可愛らしい箱だった。
「これって…」
「めぐねぇの私物かしら?」
箱に描かれたくまがめぐねぇの車にあったものと同じだったことに気づき声をかける。由紀は近くに落ちている便箋を手にとると何かひらめいたように顔を輝かせて立ち上がった。
「みんな!お手紙、書いてみようよ!」
「でも手紙を書いたとしてどうやって出すんだ?」
「あっ!郵便局は学校の外だった…」
「先輩気づいてなかったんですか」
「確かに郵便局には行けないしな〜学校から出せればいいけどな」
由紀の提案で手紙を書くことにしたものの肝心の手紙を出す方法がなく彼らは頭を悩ませていた。
「じゃあひかるくんが言うように学校から直接出しましょう」
「まぁ、そうは言ったけどどうやって?」
思いつきで適当に言ったことが採用されそうになり光は待ったをかける。すると胡桃が何か思いついたようで「あっ!」と声を上げた。
「手紙と言ったら伝書鳩だ!」
「…へ〜それでその肝心なハトがいないんだけど?」
「そりゃあこれから捕まえるんだよ」
「どうやって?」
「そりゃあ…こう!」
そう言うと胡桃はシャベルを思い切り振り下ろした。
「いやいや死ぬ、そんなしたらハト飛ばす前に死んじゃう!」
すかさず光がツッコミをいれる。胡桃は気にせず話を続ける。
「大丈夫、峰打ちにするから!こう!」
「無理だから、そもそも多分そんなんしてもハトに当たらないから!」
更にツッコミをいれた。胡桃は「そうかな?」と首を傾げ光ははぁ、と呆れたようにため息をつく。それを見ていた悠里と美紀も苦笑いで頷く。すると由紀が4人を呼び持っていた物を前に突きだした。
「お手紙といったらこれ!」
「ん、風船か〜そんなもんどこにあったんだ?」
「この前のえんそくの時実は買ってきてたんだよ〜」
光の問いかけに対し自慢げに答えると風船を1つ取り出し息を吹いて膨らませていく。それを見た美紀が「それじゃ飛ばないでしょう」と呟くが由紀気にせず息を吹き続ける。そしてパンッ!と大きな音で割れた。
「…さてどうやって飛ばせるくらいまで風船膨らませるか」
「伝書鳩は…」
「それはない。」
由紀の持っていた風船で手紙を飛ばすことになったが大きく膨らまる手段がなく手紙を出せないとなり話は降り出しに戻ってしまう。胡桃がハトを使おうとしつこく提案してきたがその度に光が「それはない。」と一蹴した。
「ヘリウムガスとかあれば飛ばせそうですけど…」
美紀のひと言で悠里が思い出したように声を上げる。
「そういえば昔スキューバ部が使ってたのがあったかも」
「そんな部活あったんですね。初めて聞きました」
美紀が少し驚いたように答えた。
「確かにそれ使えばなんとかなりそうだな。俺取ってくるわ」
そう言って光が立ち上がると「待って」と悠里が引き止めた。
「ボンベは1人じゃ運べないわ」
「それならあたしも行くよ」
悠里の言葉を聞くと胡桃も立ち上がり自分も行くと申しでた。
「そう。なら2人にお願いしていい?」
「任しとけ!力仕事はあたしらの仕事だしな」
胡桃は二っと歯を見せて笑った。
「そうかもな。じゃあちょっくら行ってくる」
部室を出て廊下を歩く。そこで光はずっと考えていたことを胡桃に問いかけた。
「なあ、手紙を書いたとして受けとってくれる人っていると思うか?」
「あたしはいると思うぜ。人類がみんないなくなったってことはないだろ」
「…だよな、俺らみたいに生き残った強運の持ち主も少しはいるよな」
「ああ、万が一ってことがあるからな。当てにしてる、おまえとは1番付き合い長いし」
「そうだな。部活一緒だったもんな、…クラスもだっけか?」
「そうだぞ、なんだよ忘れてたのか」
ケラケラと笑い走っていく胡桃を見て光もそっと微笑み後を追いかけた。追いつくとひと言、
「俺も当てにしてる。」
そう呟いて胡桃を抜き去って先に部屋と入った。胡桃は驚いた顔をして一瞬立ち止まると嬉しそうな笑みを浮かべて光の後を追った。
「お、本当にあった。これを台車に乗っけていけばいいか…ん?」
物置として使われていた部屋に着いてからヘリウムガスはすぐに見つかった。ちょうど部屋にあった台車に乗せようと後ろを振り返ると胡桃が次々に物を乗せていた。
「そのカゴとか糸とか何に使おうとしてんだ?」
「そりゃハト捕まえる罠に決まってんだろ?」
「諦めてなかったのかよ!…まぁいいやガス乗せるの手伝え」
目的のヘリウムガスも手に入れ2人は部室へ戻る。残っていた3人は既に手紙を書き始めていたようで机に向かってペンを走らせていた。
台車を部室の中へ入れると胡桃はすぐにカゴや糸を拾い上げる。そして興奮ぎみに声をかける。
「それじゃああたしはハト捕まえてくる!」
「いってらっしゃ〜い」
胡桃を見送り手紙の続きを書こうと急かされ光も席に着こうとする。すると美紀が怪訝そうな顔をしているのに気づき声をかける。
「みきどうかしたのか?」
「あ、いえなんでもないです。さ、先輩も早く手紙書きましょう」
「お、おうわかった。」
このまま問いつめても答えてくれないような気がしたため光は諦め席に着く。手紙を書こうにも何を書いたらいいか分からず考え込む。しばらくの間考えたが結局何も思い浮かばず自分達の居場所や人数を書き最後にこれを読む人を労うような言葉を並べた。由紀は手紙の他に絵を描いたりもしていたが自分は絵が得意ではなかったためその1枚だけにした。
それからしばらくすると胡桃が上機嫌な様子で帰ってきた。そして持っていたカゴを自慢げに見せつけてくる。
「じゃーん!ハト捕まえてきたぜ!」
「え、本当に捕まえたのかよ。失敗すると思ってたのに」
「な、失礼な!あたしにかかればこんなもん楽勝だよ!」
「すっご〜い!くるみちゃんやるねぇ〜」
「ほんとに捕まえてくるとは…」
「ちょっとびっくりね…」
他の3人もそれぞれ感想を述べながらカゴの中のハトをジロジロと見つめる。胡桃は誇らしげな顔をしてハトを見て言った。
「伝書鳩も捕まえたし手紙、飛ばそうぜ!」
ヘリウムガスで膨らまた風船に手紙を括りつけて屋上へ出ようとする、が突然雨が降ってきてしまい手紙を出すのは明日ということになった。それからはいつも通り夕食を取りシャワーを浴び寝床についた。
翌日天気は晴れ、屋上へ出ると青空が広がっていた。由紀が胡桃の捕まえたハトに声をかけた。
「鳩子ちゃんも頑張ってねー」
「ちょっと待て誰が鳩子ちゃんだ。」
すぐさま胡桃が不服そうに聞き返す。
「この子だよー鳩錦鳩子ちゃん。」
「違う!こいつはアルノーだ」
「えー私も名前つけたい〜」
「そもそも捕まえのはあたしだ!」
「鳩子ちゃんの方が絶対かわいい!」
「こいつアルノーって感じの顔してるだろう!」
伝書鳩の名前で由紀と胡桃が何故か喧嘩を始めてしまった。困ったように美紀は仲裁しようとするが一向に終わりそうにない。しょうもない事で喧嘩なんかしやがって。と心の中でだけ吐き捨て2人に声をかけた。
「じゃあ間をとってアルノー鳩錦三世にしよう。」
2人は顔を見合わせると「仕方ない。」と言って喧嘩をやめた。どうやら納得してくれたらしい。
「今日からおまえはアルノー鳩錦三世だぞ!」
改めて由紀がハトに名前を呼びかけた。
「三世は一体どこから…」
悠里が聞いてきたが光は咳払いをしてそっぽを向いた。
「アルノー鳩錦三世、飛んでくれよ!」
「じゃあみんなで一斉に飛ばそ!」
いよいよ手紙を飛ばす。
「せーの!」
悠里のひと声で数を数える。
「「いち、にー、さーん!」」
掛け声で同時に手を離す。明るい青空に色鮮やかな風船、そして伝書鳩アルノー鳩錦三世が優雅に飛んでいく。飛ばした手紙を誰かが受け取り読んでくれると信じて。5人は自然と笑顔になり手紙が飛んでいく様をそれが見えなくなるまでいつまでも手を振り眺めていた。
読んでいただきありがとうございました!
なかなか書く時間が取れなくて^^;来週から大学も始まるのでまたさらに遅くなるかも(T^T)
マイペースに頑張ります。