第十七話よろしくお願いします。
知らなければよかった。そう後悔する日はこれから先こないだろうと自信を持って言える。そう思えてしまうほどにこの日彼らの心は大きく揺さぶられた。
「それで、話ってなに?」
何事もなく今日もいつも通りの1日を過ごせた、そう思いながら寝床に就こうとした所で突然光は悠里に呼び止められた。話があると言われ「それなら明日でもいいんじゃない?」と返したがなにやら神妙な面持ちをしていたためひとまず話を聞くことにした。部室で向かい合わせに座りランプだけをつけ今に至る。
「これなんだけど…」
そう言いながら悠里はポケットから鍵を取り出しそっと置いた。
「鍵?これがどうしたんだ?」
鍵を拾い上げながらそう悠里に問いかける。
「それ、佐倉って書いてあるでしょ?この前てがみを書いている時みきさんが見つけたの。」
「なるほど。佐倉ってことは多分めぐねぇのだよな?どこの鍵かわかったのか?」
「いいえ、今日探してみたんだけど見つからなかったわ」
「そっか。」
そこで会話が途切れしばらくの間沈黙が続く。その後光がゆっくりと息を吐きながらその沈黙を破った。
「なぁりーさん……俺このごろ思うことがあってさ。」
「……なに?」
「最近、この学校おかしいんじゃないかって…。ここ、学校にしてはいろいろ設備が整いすぎてる気がして。暮らしに必要な電気や水とかがちゃんと通っていて食料もたくさんあって…まるで最初から生活ができるようにして作ってあるみたいだなって」
それを聞くと少し驚いたような素振りを見せてから口を開いた。
「私も同じこと考えてたの。学校にしては確かに不自然だと思う所が多いわよね。」
そう悠里が話終えた時部室の扉が静かに音をたてて開いた。その音につられ2人は扉の方を向きじっと見つめる。扉を開け現れたのは美紀だった。
「みきさんどうしたの?」
「眠れなくて…先輩たちこそどうしたんですか?」
「私たちも眠れなくて…ココアでも飲む?」
そう言われると「お願いします」と少し申し訳なさそうにしながら静かに椅子に座った。
悠里からココアの入ったカップを差し出されるとそれを一口だけすすり険しい表情をし言った。
「気になることがあったんです。」
「ん、気になることって?」
「私この前いいましたよね。この学校設備が整っているって。」
「…ええ言っていたわね」
「言ってから気づいたんです。……整いすぎじゃありませんか?私改めて学園案内を見返してみたんです。太陽電池も雨水の貯水槽も屋上の畑や食料の備蓄、最初から学校の中で暮らしていけるように作ってあるようで。一つ一つの設備は珍しくないと思います。最新鋭のオフィスビルなら特に…でもそれが学校にあるのはおかしいと思うんです」
「…俺達も同じこと考えてたんだよ、さっきまでその話をしてた」
「え、そうだったんですか?あれ、先輩の持ってる鍵ってこの前の…」
光の持つ鍵をじっと見つめながら美紀はつぶやく。
「この間あなたが見つけてくれたものよ。この鍵が何か謎を解き明かす糸口になるような気がして。ほんとは明日みんなで探すつもりだったけどこれから3人で探してみない?」
そう悠里が真剣な表情で2人を見ながら提案した。
「…じゃあとりあえず職員室行ってみるか」
あくびをしながら光が立ち上がった。美紀も賛成だったようでそのまま3人で職員室へと向かうことにした。
職員室の扉を開け電気をつける。中を見回しながら美紀が言った。
「職員室はもう探したんですよね?それならもう来てもしょうがないんじゃないですか?」
「でもちゃんと探したのはめぐねぇの机くらいだから、今日は眠くなるまで探すことにしましょう?」
「そうですね、もともと眠れなかったわけですしね」
そう苦笑いを浮かべながら鍵に合う物の捜索を始める。最初に教師の机の引き出しの鍵穴にいれていく。しかしどの引き出しにも鍵は合わず他の物を探していく。すると入口の方から声をかけられた。
「あれ?みんなどうしたのー?」
声の主は由紀だった。ぬいぐるみを抱きながら眠たそうに目をこすりながら職員室へ入ってきた。少し焦ったように悠里が答える。
「ゆ、由紀ちゃんこそどうしたの?」
「なんかさ〜怖い夢見ちゃって。起きたら3人ともいなくてびっくりしたよ〜」
「そうだったんですか。すみません佐倉先生から探し物を頼まれて…ね?ひかる先輩!」
「え、あーうん。みきが見つけた鍵がどこのなのか探してほしいってめぐねぇに言われてさ〜うん。」
慌てて言い訳をし光もとりあえず頷きその場を収めようとする。がしかしそれを聞き由紀は目を輝かせた。
「…あ!宝探しだね!私も手伝うよ〜!」
「え!……じゃあ頼む…」
予想外の反応に驚く3人だったがこうなっては仕方ないとため息をつき由紀も加え捜索を再開することにした。
上機嫌な様子で鼻歌を歌いながら大きな棚の中を探す由紀。それからしばらくすると大きな声を上げ3人を呼んだ。
「あ!もしかしてこれじゃない!?」
その声を聞き3人は足早に由紀の元へ集まった。そして固唾を呑んで由紀を見つめる。しかし由紀が取り出したのは帽子を被ったクマのようなぬいぐるみだった。
「かわいいでしょ〜?」
「…そうね〜」
「元の場所に戻しておいてください」
「ええー……」
美紀からそう言われ由紀はがっくりと肩を落とす。その姿をやれやれとため息をつきながら見送り光達は捜索を再開した。
「あ、これじゃないかな!?」
5分ほどすると由紀がまたもや声を上げ光達を呼び寄せた。
「はいはい今度は何ですか〜?」
光が仕方ないと言わんばかりに息を吐きながら由紀に問いかけた。悠里と美紀も同じようにして由紀に注目する。
「じゃーん!全国のみなさん、聴こえてますか〜?」
由紀は取り出したマイクを持ちながらそう言うとなにやらポーズをとり始めた。そして机の上に置いてあるカメラを指さしながら「撮影して」と促した。美紀はやる気なさげにカメラを取り構える。
「…はいじゃあ撮りまーす。」
「え、待って、まだ心の準備ができてな…」
カシャ。
由紀が言い終わる前にシャッターをきったため慌てた様子の由紀がカメラに収められた。美紀は出てきた写真を手渡す。それを受け取った由紀は不思議そうにそれをしばらく見つめると
「ただの紙じゃん!」
勢いよく机に叩きつけた。
「インスタントカメラなんですからすぐに出てくるわけないじゃないですか」
呆れたように美紀が言うとなるほどといったように由紀は頷いた。
「あ、ほんとだ〜!すごいカメラと名付けよう!」
「インスタントカメラです。」
そんな2人を悠里は悲しげな顔で見るとゆっくりと視線を下に落とした。そんな彼女の様子が気になり光がその視線を追うとそこには1枚の写真があった。
「あ、これって…」
悠里はその写真を見つめたまま由紀に問いかける。
「ねえ、ゆきちゃん本当に覚えてないの?このカメラで写真を撮ったこと、この写真を撮った後になにが起きたのか。覚えてないの…?」
声を少しだけ震わせながら問う悠里に何を言っているのかわからないというように困惑した様子で由紀は慌てふためく。
「ゆ、ゆきがふざけてばっかだから怒っちゃったんだよ、俺達が探してんのは鍵で開けられる物だろ?さあ、そろそろまじめに探そうぜ?」
「そっかぁ!わかった、ちゃんと探すね!」
そう言うと由紀はパタパタと走りだしていった。由紀が離れたのを確認すると光は優しく悠里に声をかける。
「いきなりどうしたんだよりーさん。今のゆきにあんなこと言ってもさ、どうにもならないだろ?」
「そうです、らしくないですよゆうり先輩」
美紀も心配そうに言う。少し間を置いて下を向いたままの悠里はゆっくりと口を開いた。
「……ひかる君は覚えてるでしょ?このあとすぐだったの。この写真を撮ったすぐ後にめぐねぇは…」
「…あぁ覚えてるよ。でも今は探し物が先だ、そのめぐねぇが遺してくれた手がかりがあるかもしれないんだ。」
「そうね…」
そう硬い声で言うと光は悠里達の元から離れていった。
あのようになっても無理はない、と光は心の中でつぶやく。あの写真を見てしまっては嫌でもあの時の事を思い出してしまう。実際自分も思い出してしまい気が沈みそうになっていた。そんな自分自身も奮い立たせるためにも突き放すようなことを悠里に言っていた。
「何も見つからないですね…」
「う〜ん、とりあえず明日みんなで探してみるか。職員室以外のところにあるかもしれないしな」
「そうね。また明日頑張りましょう」
それからしばらく職員室をくまなく探したが結局何も見つからず今日は諦めようとしていた。しかしまたもや由紀が声を上げ光達は由紀の元へ集まる。
「今度は何を見つけたんですか?」
最初から諦めたようにそっぽを向いて美紀が訊ねる。表情には出していないが光と悠里も同じであった。
「ここだよ〜」
由紀は自慢げに棚の1番下の戸を指さして示す。
「ん、その棚はもう探したぞ?」
「へへーん、そう思うでしょ?」
ニヤリと笑いながら由紀は戸を奥に押し込む。するとカチッと音がなり隣の戸が横に開いた。どうやら飾り板になっていたようだ。中には小さな金庫が1つしまわれていた。
「飾り板だったのね。よく気づいたわねゆきちゃん」
「すごいでしょー?鍵穴があるしこれに試してみたら?」
光が金庫の前にしゃがみこみ鍵穴へ差し込む。そしてゆっくりと回す。
カチャっ。
「開いた!」
「ねえねえ、何か入ってる?」
そう問われ光はゆっくり中に入っていた物を取り出す。入ってたのは授業で使うDVDとその資料であったようだ。
「うん、授業で使う資料とかばっかりだな」
「なるほど〜めぐねぇから頼まれたのはそれだったんだ〜見つかってよかったね!」
「えぇ。……手がかりはなかったわね。」
「…はい、少し残念ですけどね」
悠里と美紀は由紀に聞こえないよう小さな声で話す。手がかりではなかったものの探し物が見つかったことには安堵しているようであった。
その間光は取り出した資料一枚一枚に目を通していた。何か見落としていたりしないか確認するためだった。一枚、また一枚と目を通しては後ろに周していく。そして最後の一枚にたどり着く。
「……!!」
光はその1枚を見るやいなや目を見開き愕然とする。自分でもうるさく感じるほどに心臓が速く脈打っていた。
見つけてしまった。光にはその1枚の資料への興味と恐怖を感じそれが吐き気を催すほどなにぐるぐるとと目まぐるしく頭の中を巡っていた。
「めぐねぇに頼まれたことってこれで終わり?」
「……!あ、うん。そうだな」
「じゃあめぐねぇに終わったよって伝えてくるね」
由紀がそう言って駆け足で職員室を出ていく。それを見送ってから悠里が不思議そうに訊ねてきた。
「ひかる君大丈夫?なんだか様子がおかしいけど…」
「……………こい。」
「え?」
「……急いでくるみを起こしてこい。」
かすれ気味な声でそう言うと2人の前にゆっくりと『緊急避難マニュアル』と書かれた1枚の冊子を突き出した。
それを見て2人も驚いたように目を見開き顔つきが変わる。足早に職員室を飛び出し胡桃の元へ走った。
由紀を寝かせてから4人は部室に集まる。緊張した顔で3人が見守る中、光がそれを開き読み上げる。
そこには書いてあった。外をうろつくかれらが人為的な生物兵器であること。今自分達の置かれている状況は感染爆発、いわゆるパンデミックの初期の封じ込めに失敗して起きているということ。『そして寛容と労りの精神は今や美徳ではない』といったようないままでの常識ではありえないと言いたくなるようなことがたくさんあった。知りたかったことのほとんどがその1冊には書いてあった。
それを読み終えた光はゆっくりと彼女達の様子を伺う。不安そうな表情をしていたり考えこんだ様子でいたりと様々だった。
「ちょっと待て!!」
胡桃がそう叫び思いきり拳を机に叩きつける。
その声と音に3人はびくりと肩を震わせ胡桃を見る。胡桃は叩きつけた拳を強く握りしめ叫ぶ。
「どういうことだよ……なんなんだよそれ!」
「…くるみ先輩落ち着いてください」
「落ち着いていられる訳ないだろ!今の聞いてお前は何とも思わなかったのかよ!?」
胡桃は美紀の胸ぐらを強く掴んで睨みつける。美紀は焦ったように「そんなことはない」と否定するが胡桃は変わらず鋭い視線を向け続けていた。
「落ち着いてくるみ!みんな気持ちは同じよ。私だって信じられないわ…」
腕を掴み美紀との間に割って入り胡桃をなだめる。それにより胡桃も少しは落ち着いたようで大きくため息をつき静かに椅子に座ると美紀に「悪い。」とひと言謝った。
「…とりあえずみんな今は気持ちを整理する時間を作ろう。とりあえず今日はもう遅いしお開きってことで。落ち着いたらまたみんなで話し合おう」
誰も目を合わせず黙りこみ重苦しくなっている雰囲気をどうにかしようと光が声を上げる。3人もそれに同意しゆっくりと寝室へと戻っていった。
それを見送ってから1人光は屋上へと向かう。そして畑に作られためぐねぇの墓の前にゆっくりと座る。
「…めぐねぇはさ、知ってたの?」
墓を見上げながら小さくつぶやきため息をひとつ。そして思いきりその場に仰向けに寝転がる。
「知らない方がいい事もあるっては言うけど本当その通りだな…やっぱ知りたくなかったよこんなこと。俺は、俺達はこれからどうすればいいんだろうな…。」
気持ちの整理がつくまで彼はただひたすらに星空を眺めていた。屋上を出る頃にはうっすらと明るくなり日が昇り始めていたが気にすることなく寝室へ戻り寝床についた。
読んでいただきありがとうございました!
ようやくここまで来れた…(笑)
なかなか1話書くだけでも数日かかっちゃうし毎日書ける時間があるって訳でもないのでどうしても遅くなってしまうんですよね(._.)他の方たちはどれくらいで書き上げてるのか気になっている今日この頃です(;´∀`)
今月の目標は最低でも2話投稿することです、頑張ります!
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m