平日はなかなか書く時間なくて全然進まなくなっちゃうんですよね、なんとか土日だけでも書き上げないと…(笑)
第十九話よろしくお願いします。
ゴルフクラブをぎゅっと強く握り締め走る。正面から両手をだらしなくのばしこちらに向かってくるモノがくる。その腕が自分に触れる前に握り締めたゴルフクラブを首の辺りを狙い横殴りに振る。狙い通り首に当たると勢いよく壁に叩きつけられ動かなくなる。割れた窓から入る雨に濡れながらかれらが蔓延る校舎を彼は1人走りぬける。
どうしてこうなるのか。この地獄のような世界で少しの平穏や幸せを求めてはいけなかったのか?もし神様なんてものがいるならその理由を問いつめてやりたい。そんなことを心の中で吐き捨てながら彼はひたすらに走った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「太郎丸まだ帰ってこないのか?」
「うん、いつもならご飯になるとすぐ戻ってくるのに」
太郎丸がいない、それに最初に気づいたのは由紀だった。いつもなら名前を呼ぶとすぐに駆けつけてくるが今日は何度呼んでも姿が見えない。普段から賢いためむやみにバリケードの外へ出たりもしないため近くの教室を探したが見つからなかった。
「賢すぎるのも困りものだな…」
「首輪めいいっぱいきつくしてたんだけどね」
胡桃と悠里が困ったように息を吐く。
「私もう一度探してきます、どこかで迷子になってるのかもしれないし…」
「私も!雨降ってるし風邪引いたら大変だもん」
よほど太郎丸が心配らしい、美紀がもう一度行ってくると言い出し由紀も一緒に行こうとしているようだ。それを聞き胡桃がシャベルを持ち立ち上がる。
「じゃあみんなでもっかい行くか!あいつ頭いいしワケもなく危ないとこ突っ込んだりしないだろうしみんなはこの階を重点的に探してくれ、他はあたしが行く」
「1人じゃ危ねえだろ雨も降ってるし…」
「いいや、大丈夫だ。1人の方が動きやすいし任せとけって」
光がそう言いかけた所で手を前に突き出し胡桃が答える。自信ありげで聞く耳を持たなそうな様子だった為彼はそれ以上は言わなかった。
「じゃあこの辺は任せたぞー」
階段の前で背を向けたまま胡桃が言う。
「ああ、お前も気をつけろよ」
光もひと言そう答えるとお互い「じゃあな」と手を振る。胡桃が階段を降りていき視界から消えそうになる。
「…くるみ!」
「ん、どしたー?」
呼び止められた胡桃は首をかしげながら振り返る。しかし光はなにも答えない。なぜ呼び止めたのか自分でも分からなかった。理由の分からぬ不安に駆られ咄嗟に呼び止めてしまった。
「……いやなんでもない。気をつけて行ってこいよ。」
「おう!」
光の返事を聞いてニッと歯を見せて笑うと彼女は階段を駆け下りていった。胸に残る不安は消えることなく彼はそれからしばらく階段をじっと見下ろしたまま動くことができなかった。
「太郎丸ー!どこだ〜?おーーい」
胡桃と別れ1人太郎丸を探す、が彼は教室の中をよく探すことなく反射的に声を上げていた。さきほど感じた不安がずっとまとわりついていて太郎丸を探すことへ集中できていなかった。
「なんなんだろうな…すごいモヤモヤする。ひとまず由紀達と合流しよ…」
指で頬をかきながらそうつぶやき部室へ戻る。中へ入ると由紀と美紀、そして悠里は既に帰ってきていた。
「先輩おかえりなさい、どうでした?」
「いやダメだった、そっちもか?」
扉を閉めながらそう問いかけると美紀達は残念そうにうなずいた。4人で探して見つからなかった、そこからどうやらこの階には太郎丸はいないという結論に至った。
「…そうなると下にいるかもしれないってことよね、下にはくるみが行ったのよね?」
「うん、そういえばくるみちゃん遅いね…迷子にでもなったのかなー?」
「くるみ先輩にかぎってそんなことにはならないですよ。きっともうすぐ帰ってきますって」
由紀と美紀の会話を聞き光は思いだす。自分が感じた不安は胡桃と別れる頃からだ、彼女1人に任せてよかったのだろうか。いままでと同じように無事に帰ってくるのか、自分もやっぱりついていくべきだったのではないか。いまさらになって後悔の念が彼を襲う。
彼がそう頭を悩ませているちょうどその時、部室の扉がカタカタと音を立てた。それを聞きつけた由紀がパタパタと走りながら扉へと向かう。その瞬間光の中に悪寒が走りぬける。そしてハッとして声を出す。
「…っ!待て!」
「わ!ひ、ひかる君どうしたの?」
自分が思っていたよりも大きな声が出ていたらしい、由紀はビクッと肩を震わせ振り向いた。
「……俺が開ける、下がってろ」
神妙な面持ちをしていた彼の圧に押され訳も分からぬまま由紀はうんうんと頷き後ろに下がる。なぜこんなことをしたのか自分でも分からない、だが開けてはならないそんな気がした。彼は大きく息を吐きながらゆっくり扉に手をかける。もしもということに備えてゴルフクラブを握りしめながらそっとその扉を開けた。
「……なんだくるみか。びっくりさせやがって…ずいぶんと遅かったけど大丈夫だった……か?」
扉の前にいたのが胡桃だと分かるとはあ、と安堵の息を漏らしそう問いかけるがその時彼女の体がふらりと揺れて光の方へ倒れ込んでくる。慌てて抱きとめると今にも消え入りそうな声でぽつりとつぶやいた。
「………ミスっ、た……」
「え?………………ぁ」
そこで光は悟った。苦しそうに息をする血色の悪い顔、そして抑えられた腕にある噛まれたような傷とそこから流れる赤い血。なにがあったのかすぐに理解する。噛まれたのだ、と……。
「……っ、くるみ!」
「そんな……!」
悠里と美紀が目を見開き口元を両手で覆う。かなりのショックを受けているようだった。3人が驚きのあまり言葉を失う中、普段とは違い凛とした声で由紀が声を上げる。
「……救急箱、職員室にあったよね?取ってくる!」
そう言って部室を飛び出す由紀を見て我に返った光はかすれた声を上げる。
「……りーさん、手伝って、くれ。ひとまず寝かせないと……」
「そうね、このままじゃ…いけないものね……」
その声にハッとしたように顔を上げ悠里はすぐに駆け寄り片方の肩を担ぐ。2人で胡桃の肩を担ぎ部室をゆっくりと出る。後ろから美紀も付き添おうとしてきたが由紀の方も心配だから様子を見てきてほしいと頼み向かわせた。
寝室を目指しゆっくりと歩みを進める。その途中ら胡桃が小さな声をしぼりだす。
「めぐ、ねぇ…めぐねぇ、だったんだ…。」
「「……!」」
めぐねぇ、その名前を聞き2人は驚き目を見開く。2人は何も返すことができずただ黙り込みひたすら歩いた。寝室に着くと胡桃をソファーにそっと寝かせる。背後から駆け足でこちらに来る足音が聞こえ振り返ると救急箱を持った由紀と美紀が飛びこんでくる。2人は共に息を切らし心配そうに横たわる胡桃を見つめていた。
悠里に替えの包帯を持ってもらい腕の傷に手際よく包帯を巻いていく。その間苦しそうに息をする胡桃を見て光は後悔の念に押しつぶされそうになりぎゅっと唇を噛み締める。あの時1人で行かせてしまった自分が憎くてたまらなかった。
「ねぇひかるくん、なにか手伝えることないかな……?」
「………いや、今は特にない、かな。」
心配そうに問いかけてきた由紀に普段の彼からは想像もつかないほど細く弱々しい声でそう答える。
「じゃあゆきちゃん、お湯沸かしてきてくれる…?」
「…!うん、行ってくる!」
悠里からそう頼まれた由紀は力強く頷き部室へ駆けだしていく。
「ひかる先輩もゆうり先輩も少し休んでください、私も手伝いますから」
2人のことが心配になった美紀が声を上げる。
「休むわけにはいかないわ、ゆきちゃんばかりに頑張らせるわけにもいかないから…」
立ち上がり美紀にそう答えたところで悠里はふらりと立ちくらみを起こし倒れそうになる。慌てて美紀が抱きとめ声をかける。
「そんなことないですよ!先輩も十分頑張ってます、でも少しは休まないと…」
「あぁあああぁっ!」
その時胡桃がこれまでとは比べ物にならないほど大きな叫び声を上げる。光はすぐに額の汗をタオルで拭き取ってやる。その最中、腕の傷口の辺りがびきびきと不気味に蠢いた。
「………っ!」
それを見て光は血の気が引いていくのを感じた。胡桃の容態が悪化しているにも関わらず自分にはどうすることもできずいる、その事への焦りや苛立ちが頭がいっぱいになっていた。背中には嫌な汗がまとわりつき額には大粒の汗が流れる。
「ダメ、だった……ごめん、太郎、丸……。」
「ぇ……うそ…。」
胡桃の言葉を聞き美紀は青ざめた顔を両手で覆う。胡桃は苦しそうに息を切らしながら何があったのか話はじめる。
「避難、区画に…めぐねぇがぁ、、ちくしょう………!」
その場にいた全員がショックのあまりその場で動くことができなかった。いままで積み上げてきた大切なものが音を立てて崩れ去る、そんなイメージが彼の中で流れた。
部屋には外で降り続ける雨音、そして胡桃の悲痛な叫び声だけが響いていた。
読んでいただきありがとうございました!
前回が「はれのひ」だったのに対し今回は「あめのひ」として前回の明るい日常回とは違い暗いお話になっているというのを表現してみました。
次回もよろしくお願いします┏( .-. ┏ ) ┓