この息が止まるその日まで   作:りんごあめ

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第二十一話よろしくお願いします。


第二十一話 「さくらめぐみせんせい」

ゆっくりと慎重に足を踏み入れる。水の跳ねる音がして自分の足元が冷たくなる。周りを見渡すとシャッターの中はくるぶしの辺りまで水が張っていた。

 

そこからゆっくりと足を2歩、3歩と進める、がそこで2人は歩みを止めた。

 

視線を感じる、そう思い目を細めると小さな明かりの向こうからゆっくりと近づいてくる人影が見えた。そして明かりを越えこちら側に来たそれはやはり……。

 

 

あの日、あの時と同じ見慣れた髪型、服。間違いない、あの人だ。

隣りにいる美紀を横目で見るとあの人をしっかりと見据え顔をこわばらせて固まっている。

 

「一旦向こうに戻るぞ、早く」

 

そう言いながら彼女の手を掴みシャッターをくぐり抜ける。

 

「…あの人ですよね?」

 

呼吸を整え緊張した面持ちで美紀が問いかける。それに光は無言で頷きじっとシャッターの方を見つめる。ガシャン、と何かがぶつかる音がした。開いている隙間から足が見えた。どうやらくぐることができずそのままシャッターを叩き続けているようだ。

 

 

大きく深呼吸をして光はゆっくりと口を開いた。

 

「久しぶりだな、めぐねぇ」

 

そこにいるのはあの日かれらから命を犠牲にして自分達を助けてくれためぐねぇと呼び慕っていたあの人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…俺のこと覚えてる?あれから大変だったけどなんとかみんなで、たまには喧嘩したこともあったけどなんとか今日まで全員無事に生きてこれたよ。新しい部員も増えたんだよ。びっくりしちゃうよな。」

 

穏やかな声でそう語りかけながら光はゆっくりと近づいていく。その様子に慌てたように美紀が声をかける。

 

「せ、先輩!危ないですよ」

 

「…最後に挨拶しておきたいんだ。ちゃんと気持ちが届くはわかんないけどさ、りーさんともそう約束したし…それにみきもいるから俺はもう大丈夫だ。」

 

穏やかな笑みを浮かべながら光はゆっくりと近づいていく。すると美紀もそれに続きゆっくりとあの人の前まで近づいた。

 

「‪新入部員ですからね、私もちゃんと挨拶するべきだと思って」

 

「そっか。」

 

そう言って2人は彼女の前に立った。

 

「はじめまして。新入部員の直樹美紀です。めぐねぇのことはみんなから聞きました、優しくていつもみんなを支えてたって…お会いできてよかったです。」

 

美紀の挨拶が終わり今度は光が声をかける。ガシャガシャと音を立てているシャッターに手を当てながら口を開く。

 

「俺達のこと傷つけたくなかったからこんなとこに来たんだよな?ずっと1人で……。でももう俺達大丈夫だから……。

 

 

 

りーさんは前よりもみんなことしっかりまとめくれる。物の管理も正確にやってちゃんと先の事まで考えて助けてくれるし。ゆきはちょっとおかしくなったのは変わんないけどあいつのふとした閃きがみんなを助けたり元気にしたりしてくれる。くるみは危ないこととか力仕事とか大変な事をどんどん自分がやるって買って出てくれてみんなのことをいつも守ってくれる…新しく入ったみきはすごい真面目で冷静に物事を考えてるし困った時にはちゃんと手を貸してくれる。みんな強くなった。いい意味で変わったんだ。おれだけ、何にも変わんないで弱いままで…」

 

悲しげに笑う光を美紀が否定する。

 

「ひかる先輩はすごく強いですよ。いつもみんなのことを考えて動いてくれますしちゃんと守ってくれます。すごく頼りになる人です。みんなすごく強くて頼りになる、こうなれたのはめぐねぇのおかげだと思います。私だってめぐねぇがいなかったらここにいなかったと思います。」

 

 

「俺達は5人で力合わせて暮らしているから、いままでも…これからもきっとそうやって全部乗り越えていくから、もう休んでいいよ。めぐねぇのことは絶対忘れないから、だから!………」

 

そう言って言葉を続けようとしたその時、足を掴まれる、彼の足を掴んだそれはとても冷たく人の手とは思えないほどであった。そこで改めて実感する。自分達を支えてくれた温かくて優しいあの人はもういないのだと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ…もう終わりだ。そろそろ本当に別れを告げなければならない。ここで彼女と別れて自分達は先に進まなければならない。その瞬間思い出す。みんなで協力して成し遂げたこと、みんなで話し笑ったこと、そして彼女の自分達に向けていたあの笑顔を。たくさんのことが走馬灯のように駆け巡り彼の手を震わせる。

 

 

だからこそ言わなければならない。最後に1番伝えたかったあの言葉を……!

 

 

 

震える手をそのままに持っているゴルフクラブを強く握りしめ頭上へ振り上げる。そしてシャッターから覗かせた頭へ狙いを定める。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました…佐倉慈先生。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう叫びクラブを振り下ろす彼の頬には一筋の涙がつたっていた。

 




読んでいただきありがとうございました。

今回はめぐねぇに別れを告げるところまでということでちょっと短めになっちゃいました。ここで終わらせた方がキリがいいかなと思って、

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m
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