第二十二話よろしくお願いします。
「ここのどこかに薬が…」
「薬見つけてすぐに戻るぞ。ここの探索は後からでもできるだろうしな。」
避難区画の奥まで進むと倉庫のような部屋に行きついた。そこに置いてあるダンボールや箱を見ると食料や衣類などが置かれてるいるとわかった。しかし今の目的はそれらではない。感染した者にも効く可能性のある薬だ。
「先輩、こんなところに机があります」
薬の捜索をしていると美紀に呼ばれすぐに駆け寄る。美紀の言う通りそこに机がひとつ。職員室で使われている物と同じ机と椅子が置かれていた。そしてその上には1冊のノートが。
「……めぐねぇ。ありがとな、俺達ちゃんと生きるよ」
ノートには小さな子供が書くような文字には見えないぐにゃぐにゃとした線ばかりが書かれていた。しかしその中ではっきりと文字として読めるものがあった。
それは美紀以外の自分達の名前、そして『生きて』の文字。あのような姿になって1人になってからも彼女は自分達のことを想い続けてくれていた、それが分かり光は嬉しく思い笑みをこぼした。
「あ、先輩救急箱がありました!もしかしたらこの中に…」
振り返ると机の近くに大きな救急箱が置かれていた。持っていたノートを置きすぐに光もそこへ駆け出ししゃがみこんだ。すると箱に赤黒い手形がついていることに気づく。おそらくめぐねぇのであろう。2人はそう察し箱の前で手を合わせた。
「あった!初期感染者用実験薬。これで治せるかもしれない。」
「はい、とりあえず今はこれだけ持ってすぐに帰りましょう」
みつけた薬を美紀が背負ってきていたリュックに詰めてその場を後にしようしたその時だった。
『電力低下により地下区画は非常電源へ切り替わりました』
突然アナウンスが流れ、赤色の明かりへと切り替わった。
「何が起こってんだ、電力低下ってどういうことだ。」
「さっき地下に来る前停電が起きたんです。もしかしたらそのせいかもしれません」
「なるほど、とりあえず早く戻るぞ!」
そう言って2人は走り出した。
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来た道を全速力で走る2人だったが慌てて足を止める。
「おいおい、まじかよ…」
「…っ!時間がないのに…」
2人の行く先から無数のかれらが現れ行く手を阻んでいた。
急いで引き返すがそちらにある扉からもかれらが現れさらに行くてを塞がれる。かれらが現れた扉の向かい側にも扉がある。光はそこに逃げ込もうと考え、勢いよく開く。すると部屋から何か小さな生き物が飛び出してきた。それは光達には目もくれずかれら達の方へ駆け出しっていった。
「いまのは…?」
「おい急げ!早く閉めないとさすがにやばい!」
飛び出してきた何かに気を取られている美紀の腕をつかみすぐに部屋の中に入り扉を閉め近くの荷物を扉に押し当てて塞いだ。
「はぁ、はぁ、どうしましょう、このままじゃ上に戻れませんしくるみ先輩も…」
「さすがにあの数は無理だ。どうにか去ってくれるのを待たないと…!」
そう言った矢先、反対側から強い力で扉を押される。2人は体ごと扉を押して必死に押し返そうと試みる。
しかしその努力もむなしく、あっという間にこじ開けられてしまった。
かれらの大群が一気に光達に押し寄せる。
「みき!奥の棚、上までよじ登るぞ!あの高さなら多分…!」
「…っ、はい!」
2人は部屋の奥にある人が乗っても大丈夫そうな棚によじ登った。光の予想通りかれらが手を伸ばしても届かない高さだった。しかしもうこの部屋はたくさんのかれらによって出口まで塞がれていて到底無傷では行けそうにない。隣にいる美紀を見ると頭を抱え涙を流し、
「ごめん……………圭」
と力なく呟いている。
どうする、どうすればここを出られる。自分を犠牲にして噛まれながらもかれらを倒し美紀を逃がすか?しかしまだ部屋を出てもおそらくかれらはたくさんいる。しかしそれ以外に何も思いつかない。美紀を感染させる訳にはいかない。自分を犠牲にしてでも他の人を助けられるならそれでいい。最初からそう思っていたではないか。でもそんな考えもいまでは揺らいでしまう。
自分はあの人にめぐねぇに言ってしまった。みんなで力を合わせ生きていくと、そしてあの人に別れを告げた、
いや、殺した。自分はそう言って仕方ないからと、命を守るために大切な恩人の息の根を止めてしまった。自分が、自分達が生きるためには邪魔だからと彼女を殺した。そして変わり果てた姿になってもなお自分達のことを想い続け、
『生きて』そう願っていた。それを知ってしまって自分は
生きたい。
そう思ってしまった。彼女達ともっと一緒にいたい。笑いながら過ごしていきたい、そう思ってしまった。そんな少し先の未来をここで捨てたくない。
そう思ってしまい、美紀と同じようにこの場から動けなくなっていた。
そんな自分に嫌気がさしてしまっていたそんな時だった。
『下校時刻になりました。まだ学校に残っている生徒は早くお家に帰りましょう』
突然スピーカーから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「……これってゆき、先輩…?」
その声に美紀も気づき不思議にそうに顔を上げる。
『みんな学校は好きですか?私は大好きです。
変って言われるかもしれないけど…でも学校ってすごいよ!
実験室は変な道具がいっぱい。
音楽室、キレイな楽器とこわい肖像画。
放送室、学校中がステージ。
…なんでもあってまるでひとつの国みたいです!
こんな変な建物は他になくて…私は大好きです』
流れてくる由紀の声は普段の元気にあふれたものとは違い、とても穏やかで優しく、心に語りかけてくるような声をしていた。
その声に光と美紀はじっと耳をすませて聞きいる。
『勉強はキライだけど先生はキライじゃないし、宿題忘れて、見せてもらって、居眠りしちゃって怒られて…。
クラスの人と仲良くなって、ケンカして、みんなで一緒に…時にはひとりで。
楽しいことも悲しいこともいっぱいいっぱいあって、だから…
私はこの学校が大好きです』
「すごい…みんな、いなくなってく…。」
「先輩、いまなら行けるかもしれません!」
由紀の言葉に心を動かされたのは光達だけではなかった。この放送が流れてから、あれだけ自分達へと手を伸ばしていたかれらがそれを止め、それどころか2人には目もくれず皆この部屋から出ていったのだ。
2人が部屋からそっと外へ顔を覗かせるとあれほどいたかれらがひとりもおらずここにいるのは光と美紀の2人だけになっていた。
今なら行ける。そう判断して2人は胡桃や悠里達が待つ3階を目指し走りだす。予想通り地下にはもうだれもおらず簡単に1階へと戻ってくることができた。
「すごい、1階にも全然いない!」
「正直、信じられません!あれだけいたやつらが全くいないなんて…。ゆき先輩のおかげなんでしょうか?」
「それ以外考えられないな、これならすぐに3階まで戻れそうだ!」
1階に出てからもかれらの姿は全くなかった。走りながら2人は驚き目を丸くする。廊下の窓から外を見るとたくさんのかれらが校舎に背を向け学校の外へと向かっていた。由紀の言った言葉の通り、下校しているようであった。
2人が走っている最中も由紀の放送は続く。
『みんなも好きだよね?……ずっとずっと好きだからここにいるんだよね?
でも、どんなにいいことも終わりはあるから…ずっと続くものはなくて、それは悲しいけど…でもそのほうがいいと思うから……。
だから学校はもう終わりです。いつかまた会えると思う、でももう今日は終わり。
いま学校にいるみんな、こんにちは、ありがとう…さようなら。
……またあした』
そうしてプチッ、とスピーカーの切れる音が聞こえこれ以上放送が続くことはなかった。
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「「ただいま!「もどりました!」
思いきり音を立て扉を開ける。その音に驚いたようにこちらを見てやがて安心したように笑みをこぼす。そんな悠里が2人を出迎えてくれた。
「よかった…2人とも無事で、ほんとによかった……。」
目に涙を浮かべながら悠里が駆け寄ってくる。
「ご心配をおかけしました、2人とも無事です」
「ちゃんと薬も見つけてきた、これでなんとかなるはず」
悠里を安心させるため笑顔見せてから目的の達成を報告する。そうして胡桃の前へとしゃがみ美紀のリュックから持ってきた薬を取り出す。
袋を開けると中には注射器が入っていた。どうやらこれを感染者に刺せばいいようだ。噛み傷のある腕に巻かれた包帯を外し注射する。胡桃の顔を見るとさきほどまでよりほんの少しではあるが楽になっているように見えた。
「みんな!」
後ろから声が聞こえ振り向くとそこには由紀がいた。今度は光と美紀が由紀を出迎えに駆け寄った。
「ゆき先輩、無事でよかったです!それに先輩のおかげで私たち帰ってこれました。本当にありがとうございます。」
「え、そうなの?」
「あぁ、お前のおかげだ。ほんとに助かった、ありがとなゆき。」
2人にそう言われ少し戸惑ったようにしていた由紀だったが、
「そっか、それならよかった〜!私もみんなの力になれて嬉しい」
と照れたように笑った。
「あ、そうだ!くるみちゃんは?薬持ってこれたの?」
「もう薬は打ったから多分大丈夫だと思うぞ」
「ほんと!?よかったぁ。あ!それなら太郎丸も!」
「え、太郎丸いるんですか!?」
驚いたように美紀が迫った。
「う、うん。困ってた私を太郎丸が助けてくれたんだ、太郎丸のおかげで放送室に入れたんだよ」
そう微笑んで由紀が答える。見たところ腕に抱えてはいないだろうしリュックの中だろうか。そう思い光は床に置かれた由紀のリュックに近づく。
「一応顔に帽子を被せといたけど大丈夫かな、気をつけてね…?」
「おう、わかってる。」
そう言ってゆっくりとリュックを開けていく。
「バウ!バウ!」
いままでの太郎丸からは想像もできないような唸り声をあげリュックから飛び出そうとする。それをすぐに光は両手で押さえつける。唸り声をあげ暴れる太郎丸の体は冷たくなっておりもう手遅れであるということを嫌でも突きつけてくる。
「…っ、りーさん薬持ってきてくれ、このまま薬打とう」
悠里は頷くと薬を持ってパタパタと駆けてくる。そして太郎丸の傷口の辺りに手早く打ち込む。最初はジタバタと暴れ続けていた太郎丸だったが次第に大人しくなる。聞き耳を立てると浅くではあるが呼吸はしているようであった。
「これで太郎丸も大丈夫でしょうか…。」
少し不安そうに美紀が呟く。
「大丈夫だよ、太郎丸もきっと良くなるよ」
そんな彼女を落ち着かせるように由紀が優しく手を握る。安心したように「そうですよね」と小さく呟き笑みを浮かべた。
「なんか今日はすごい疲れたな」
光が誰に言うでもなくぽつりと呟いた。
「そりゃあそうだよ。今日はみんなすっごくがんばったもん。くるみちゃんも太郎丸も…。」
「そうですね、すみません少し疲れてしまったのでちょっと休んでもいいですか…?」
「ええ、みきさんとても頑張ったもの。ゆっくり休んで」
悠里はそう問いかける美紀に優しく微笑むと胡桃の元に歩み寄り座る。朝まで胡桃のそばにいるつもりらしい。
「私もちょっと疲れちゃった。みーくんと一緒にちょっと休むね」
由紀もそう言って美紀と共にたたまれた布団にもたれかかって目を閉じる。それからあっという間にすうすうと寝息を立てて眠りについてしまった。いつの間にか悠里も疲れていたようで眠ってしまっていた。
起きているのは光ただひとり、だったが
安心したような顔をして倒れるようにその場に寝転びゆっくりと目を閉じた。そしてその直後彼からも寝息が聞こえてくる。
少し休むと言っていた2人も含め、それから全員朝まで目を覚ますことはなかった。
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日が昇り朝が来る。布団も敷かれていない硬い床だったが疲れのせいか気持ちよさそうな寝顔で寝息を立てている光。自力ではもうしばらくは起きそうにないといった様子である。が
「くるみちゃぁあん!!」
「痛っでぇぇ!?」
苦悶の声をあげ飛び起きた。
「くるみちゃん!よかったぁぁ!」
「おいおい、そんな大きな声で騒ぐなって、それにおまえ今ひかるのこと踏んづけて来たろ?あいつすごい上げて飛びおきたぞ?」
「え……?あ!ご、ごめんひかるくん!大丈夫!?」
どうやら自分は由紀に踏んづけられ飛び起きたらしい。
「あ〜いや、うん大丈夫」
背中をさすりながら苦笑いを浮かべながら答えた。
今の騒ぎで目が覚めたようで悠里もゆっくりと
顔を上げ胡桃を見て涙を浮かべ抱きついた。由紀もそれに続いて泣きじゃりながら抱きつく。
当の胡桃は困ったようにわらいながら2人の頭を撫でやがて光の方を見る。そんな彼女に、
「おかえり、くるみ。」
優しく笑いかけた。
その言葉を噛み締めるように胡桃も微笑む。
「ああ……。ただいま」
読んでいただきありがとうございました!
今回のタイトル「おかえり」はかれらに対して学校から家へと『おかえり』という意味と薬を取りに行くのとめぐねえに会いに行った光と美紀、みんなのために1人で頑張り帰ってきた由紀、感染した状態から回復して目を覚ました胡桃への『おかえり』という意味でのおかえりということで付けてみました。
高校編はあと1話か2話で終わる予定です。
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m