またぼちぼちやっていきたいと思います。
第三十三話よろしくお願いします。
「じゃあひかるくんと草加くんはお皿とか洗ってもらえるかしら、私達は外で洗濯してくるから」
「わかった、気をつけてな」
「私と涼音さんで見張りをしながらするから大丈夫だよ!」
「そういうこと!洗い物が終わったら光君達は休んでいいからね!」
草加がこのまま同行することになった次の日、彼らは朝食を済ませ川の近くに車を停めた。
男子が車内で洗い物、女子が見張りとタオルや衣類などの洗濯と二手に分かれることになった。
「…さて、やるか」
女子が車から降りた後、光が呟く。
「フン、指図されなくてもわかってるさ」
「…別に今のはお前に言ったわけじゃないんだけどな、ただの独り言だ」
刺々しい態度で鼻を鳴らす草加に彼はため息まじりにシンクの前に立つ。そんな姿に更に苛立ちを見せるように草加は舌打ちをした。
「そういえば、まだ彼女達に俺のことを話していないみたいだね」
光が洗い草加がそれを受け取り拭く、という分担作業をしているとそう草加がわざとらしく言ってくる。
「…それはお前が割って入ってきたり話を遮ったりあの手この手で邪魔してくるからだろ」
「フッ、そうだったかなぁ?」
「ほら手止めんなよ、早く拭けって」
「チッ……はいはい。」
洗い物が大方終わった後草加が思い出したように「そういえば、」と声を上げた。
「胡桃ちゃん…だったかな?あのコ俺が近づくと避けるように距離を置くんだよ、君にはそんなふうにしないのにさ。もしかして僕のこと嫌いなのかな」
そんなことを言う草加に呆れたようにため息をつき答える。
「さぁ?お前がそう思うならそういうことなんじゃないの」
「もしかしてあのコは君のお気に入りだったりして。君と彼女はそういう関係なのかな、どこまでいったんだい?」
小馬鹿にしたような言い方に光はピクリと眉を動かす。水で濡れた手をタオルで拭きながら低い、苛立った声で草加の方を向いた。
「違う……お前そろそろいい加減にしろよ、さっきから好き勝手言いやがって。何も知らないくせに、誰がお気に入りとかそんなもんねえよ。みんな同じくらい大事に決まってんだろ…!」
彼がそう語気を強めて詰め寄ると草加は乾いた笑い声を上げた。そしてそのまま胸ぐらを掴んで押し殺すような声をぶつける。
「そうかいそうかい。みーんな大事ねぇ……そういう優等生ぶった綺麗事をはくヤツが俺は大嫌いなんだよ!そんな君が彼女達から必要とされなくなるところ、やっぱり僕は見てみたいなぁ…!君と彼女がそういうのじゃないなら俺が食っちゃおうかな、可愛い子ばっかりだし他の子達ともそうするのも良さそうだなぁ」
薄気味悪い笑みを浮かべる草加を睨み返し光も言い返す。
「昨日も言ったけどやれるもんならやってみな。何をするつもりかは知らないけど絶対無理だからな」
「フン、そうやっていられるのも今のうちさ」
「あの、洗い物終わりましたか?様子見てくるようにと言われたんですけ、ど……」
互いにそう言い争っていると車のドアが開かれる音と共に美紀が乗り込んできた。そうして掴みあっていた2人と目が合った時だった。突然草加が腕を押さえしゃがみこんだ。
「ぐっ!ぅぅぅ……」
「え…あの、草加さんどうしたんですか!?大丈夫ですか?」
苦しそうな声を上げた彼に心配そうに美紀が訊ねる。草加が俯いたまま話しはじめた。
「洗い物をしていたら明日野君がいきなり掴みかかってきて……抵抗しようとした時に捻ってしまったみたいで、ぐっ…!」
突然のことに困惑し美紀は光と草加をきょろきょろと交互に見る。そんな彼女に少し慌てて光は口を開く。
「いや、ちがっ…俺はなにも」
「…先輩」
はぁ、と息を吐き静かな声色で呼ぶ。その声に光は顔を強ばらせる。
「来てください、洗濯のお手伝いお願いします」
「ん、それなら俺が手伝うよ」
後ろで聞いていた草加が自分がやると名乗り出てるが美紀はそれに首を横に振る。
「いえ、先輩にお願いします。腕を捻って痛いんですよね?あなたは車で休んでて大丈夫ですよ、さあ先輩行きましょう」
急かすように光の手を取ると美紀はスタスタと車を降りた。
「ちょ、分かったから。そんなに引っ張んなくてもちゃんと歩くから」
美紀から連れられた場所は彼女達が洗濯をしていた河川敷、ではなくその近くにあるバス停だった。なぜこんな所にと彼は首を傾げていると美紀が口を開く。
「先輩が何もしてないのは分かってますよ。窓空いてて聞こえちゃったんですよ、先輩と草加さんが話してるの」
うっすら笑みを浮かべそう言う彼女に光は目を丸くし安堵の息をついた。
「なんだ、そうだったのか……」
「はい、それにしてもあの人なんか嫌な感じがするなって思ってたんですけどあんなこと言う人だったなんて…まったく、最低ですよ」
嫌悪感を露わにし怒った口調で言う彼女に驚きながら問う。
「みきもアイツのこと嫌ってたのか…ちなみに他のみんなもそうだったり?」
「どうでしょう、そういう話はしてなかったので…。
ゆき先輩は誰にでもあんな感じで接しますしゆうり先輩と涼音さんはいつもと変わらないかなって。あ、でもくるみ先輩はちょっと素っ気ない態度だったような気がしました」
「やっぱそうなのか、それ草加も言ってたなぁ。俺のこと嫌いなのかなって」
「じゃあやっぱりくるみ先輩もあまりよく思ってないのかもしれませんね」
そうだなと頷く彼に美紀はこれからどうするか問いかけた。
「すぐ他のみんなにも伝えますか?」
「どうだろうな…。できることなら草加には出ていってもらいたいんだがみんなにこのことを言って追い出せるような流れにできるかな……」
「そうですよね。あの人が私たちの前で実際に何かひどいことをしてみんなの反感を買うような事があれば上手くいきそうですけど……」
「まぁ、それが1番確実かな。すぐにとはいかないかもしれないが、アイツが自爆するのを願ってとりあえず今は様子見かな」
「そうしましょう、私も先輩たちに草加さんのことをどう思ってるかそれとなく聞いてみますね。先輩はまた何か嫌なこと言われるかもしれませんが大丈夫です、私は味方ですから!」
力強くそう言われ光は少し恥ずかしそうに頬をかく。
「はは、それは心強い……ありがとな、みき」
「気にしないでください。そろそろ戻りましょう、あんまり遅くなりすぎると心配されちゃいますし」
穏やかな笑みでそう言い歩きだす美紀に小さく頷き返す。2人は洗濯をしている河川敷へと歩きだした。
なかなか皆に草加のことを打ち明けられず自分だけに攻撃をされ内心ではもどかしさや苛立ちが募っていた。そんな中で美紀が自分は味方だと言ってくれたことに、あまり大きな反応は見せなかったが彼はその言葉に嬉しさや大きな安心感を抱いていた。
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女子達が洗濯をしている河川敷に行くとそこで2人は「げ…」と顔を歪ませた。
「ん、洗濯の手伝いをと言っていたのに明日野君も美紀ちゃんもどこに行っていたんだい?」
そこには車をいたはずの草加がいた。服の袖をまくり手を水で濡らしている、どうやら洗濯をしていたらしい。うっすら笑みを浮かべひかるくん達を見ていた。
「えっと、ちょっといろいろあって…」
「いろいろってなんだい?もしかして明日野君に何かされたのかい!?」
「違います!先輩はそんなことする人じゃありません!」
草加の言葉に美紀が声を荒らげる。すると草加は一瞬残念そうな顔をしてため息をつく。
「…そうか、それはすまなかったね」
そう言いながら肩にぽんと手を置こうとする草加を美紀はすっと後ろに下がり拒む。彼は僅かにその場で固まるが何事も無かったかのように洗濯をする女子達の方に戻っていった。
「まったく、そんなに先輩のことを悪く言いたんですか」
頬をふくらませ怒る美紀を光はまあまあと宥める。
「まぁ、アイツがやらかすの気長に待とうぜ」
ぽんと美紀の肩に手を置き光も女子達の洗濯の手伝いに向かった。
「あ!ひかるくん、みーくんも!2人ともどこ行ってたの?もうお洗濯終わったよ」
「あ、そうなの?悪いなちょっと散歩行ってたんだよ」
「え〜2人だけずるいよ!今度は私も一緒に行きたいぃ〜」
駄々をこねる由紀に苦笑し頬をかく。
「わかったわかった、今度な」
「約束だからね?それよりね、草加くんすごくお洗濯上手なんだよ!ほら、この前私がジュースこぼして汚したタオルこんなに真っ白にしてくれたの!」
機嫌は治してくれたらしい、いつもの調子に戻って目を輝かせる由紀。タオルは見せびらかしなぜかドヤ顔をしていた。
「へーこれはすごいな」
「知り合いがクリーニング店をしていてね、そこでよく仕事の手伝いをしていたんだ。ちょっとしたコツがあるんだよ」
光が感心した顔をしていると草加が自慢げに言ってくる。ふーん、と光が相槌を打っていると少し離れた所から胡桃が声をかけてきた。
「おーい、そろそろ車戻るぞ〜!ひかるとみきも来てくれ〜」
「ん、わかった今いく〜」
手を上げ駆け足で胡桃達の方に向かう。胡桃からジャージなどを渡されそれを両手で抱える。後ろでよいしょ、と胡桃がタオルを持ち上げる。するとそんな彼女に草加が近寄った。
「大変だろう、俺が持つよ」
「…いや、大丈夫だ。そのまま車戻っていいよ、手伝いしてくれてどうも」
そんな彼の手を避けて素っ気なくすたすた歩いていく胡桃。
美紀が言っていたように冷たい態度をとっていた。彼女もやはり草加をよく思っていないようだと彼は確信する。内心喜んでいると突然抱えていた洗濯物を何枚か奪われた。驚き横を見るとニヤニヤしている涼音がいた。
「ボッーとしてたなぁ?まったく、美紀ちゃんとデートなんて羨ましいな、ワタシも美紀ちゃんとデートしたいよぉ」
「いや違うって。涼音さん、というかそれなら俺じゃなく本人に言ったら?」
「あはは〜確かにそうだ……それより光くん何かあった?」
「……へ、なんで急に?」
突然おちゃらけた声から真面目な声色に変わり問われ思わず間抜けな声を出す。
「ん〜ちょっと元気ないかなって、まぁ、女の勘ってやつかな!女の勘って意外と鋭いから甘く見ない方がいいよぉ!ホラお姉さんに何でも相談してみなさい?」
結局元通りに明るい声でそう言ってくる涼音に小さい笑みをこぼす。
「お姉さんって、ちょっとしか歳変わんねえじゃん……ま、気が向いたら相談しようかな〜」
「え〜!つまんないなぁ〜」
肘で小突いてくるを適当にあしらい彼は車に戻った。
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その日の夕方のことだった。今日はここで1日過ごそうということになりそれぞれ思い思いに1日を過し、光が悠里と夕食の準備をしている時だった。
「ひかるくんちょっと聞きたいんだけど草加君のことどう思ってる?」
「どう、か…特に好きって訳ではないな。もしかしてりーさんもあまりよく思ってないのか?」
少し困ったように聞いてきた悠里に彼は周りに聞こえないよう声をひそめて問いかける。
「えぇ、ちょっと。彼少し距離が近すぎるというか…。それになにか信用できないような感じがあって…会ったばかりの人だし決めつけるのもよくないとは思うんだけれどね…」
「そっか。大丈夫だ、そう思ってんのはりーさんだけじゃないから」
そう小さな声で言いながらちらりと草加を盗み見る。
彼は胡桃に話でもあったらしい。椅子に座り窓から外を眺めていた胡桃の机を挟んで向かい側に腰かけた。
「…なにか用か」
それに気づいた一瞬だけ彼を見ると何事も無かったように視線を外に戻した。
「俺は何か気に障るようなことをしてしまったのかな。それなら謝りたいと思って、胡桃ちゃんともいい関係を築いていきたいしさ」
「別になにも?あたしのことは気にしないでいいよ」
机に肘をつき冷たくあしらう彼女に対しそんなことはお構いなしに草加は距離をつめる。
「そういうわけにもいかないだろ、俺はみんなと!」
「…!やめっ、触んな!」
そう言ってパッと胡桃の手を取る。その瞬間胡桃がビクッと肩を震わせ手を払いのけた。
そして払いのけられた草加は目を見開き自らの手を凝視していた。しばらくの沈黙の後、静かに口を開く。
「…俺は前にあいつらから足首を掴まれたことがある。その時の気持ち悪いくらいの手の冷たさを今でも覚えてる……君感染してるね?」
「っ……」
問いかけに黙り込む胡桃にため息をつきながら草加は立ち上がり見下ろす。
「……前言撤回だ、君にはがっかりしたよ。
みんな聞いてくれ!彼女は自分が感染しているにも関わらず黙っていた、これは大きな問題だろう。今後の彼女の処遇について決めたい!」
声高らかに言い放った草加だったが誰も答えることなく、無言のまま視線が集まる。
そしてその沈黙は由紀の一言で破られた。
「知ってたよ?」
「……は?」
「くるみちゃんが大変なのみんな前から知ってたよ、お薬も使ったしくるみちゃんは大丈夫だよ。このままで全っ然大丈夫だから落ち着いて、ね?」
「ふ、ふざけるな!」
由紀の言葉に草加が声を震わせ激昂する。
「君達は感染していると分かっていて一緒にいたっていうのか!?ありえない!いつ襲われるか分からない状態でこんな狭い所にいたら危険だろう!今は大丈夫でもいずれ外のヤツらのようになるんだぞ!すぐにでも追い出すべきだろう!
そんなバケモノとよく一緒にいられるな、理解に苦しむよ…!」
胡桃を指さしバケモノ呼ばわりされ彼の中でプツンと何かが切れた。
草加に掴みかかるとそのまま床に叩きつけた。
「…女の子をバケモノ呼ばわりするとかお前最低だな。謝れよおい……くるみに謝れ!!」
「…………ククク、ハハハハ!」
床に叩きつけられたまま草加は光の顔を見て笑いだした。
「とうとう暴力を振るったね、意見が合わない人にはそうやって手を出すのか、酷い男だ……俺の言ったこと間違ってないだろう、合理的じゃないか」
「……やっぱお前と俺達じゃいろいろと合わないな。お前がここから出ていけば全て丸く収まる、それでいいだろ」
「嫌だね。生存者を君は見捨てるのか、感染者なんて放っておいた方がいいだろ何の得もない」
「草加君」
草加がそう吐き捨てたところで悠里が静かに名前を呼んだ。しかしそれには穏やかな雰囲気などなく冷やかなものであった。
「私もひかるくんの言う通りあなたがこの車を降りればいいと思うわ。方針が合わないんですもの、仕方ないわ」
「悠里ちゃん、君はコイツの肩をもつのか…他のみんなはどうなのかな?教えてくれよ…!」
悠里からも否定され更に機嫌を悪くした様子で問いかける。
そう言われ美紀は草加をにらみながら答えた。
「私もひかる先輩に賛成ですね、あなたが出ていけばいいと思います。先輩からあなたのことも聞きました。はっきり言って私はあなたとは一緒にいたくないです」
「ごめんね、ワタシも光くんに賛成かな。ワタシはね、みんなのこと信じるって決めたの。だから胡桃ちゃんを追い出すなんてありえないよ」
2人に立て続けに言われ草加は唇を震わせる。「そうか…」と小さく呟き由紀の方を向いた。
「由紀ちゃんも俺がいなくなればいいって思ってるのかなぁ?答えくれよ、なぁ…!」
「ううん」
由紀は首を横に振った。そんな彼女に草加は笑みを浮かべた……が由紀は力のこもった顔を彼に向けた。
「出ていけなんて言わないよ、みんな仲良くしていた方がいいし。
でもね、その前に謝ってよ。くるみちゃんにひどいこと言ったんだから謝って!くるみちゃん悲しいのずっと我慢してるんだよ!」
誰もが草加に対し怒りをぶつけていた中、由紀だけは違った。
彼女は友達のことを想い怒っていた。光は改めて由紀が優しい心の持ち主であることを実感した。
「どいつもこいつも…ひかるひかるひかるって!!
……もういいよ、冷めた。もう付き合ってられない。お友達ごっこがしたいなら勝手にすればいい。俺は明日の朝にでも出ていくよ。まったく、喧嘩の1つくらいするかと思ったのにそんなにお互い好きなら無理そうだ。期待外れだよ」
全員の意見を聞き冷めてしまったらしい、悪辣な態度を隠すこともなくさらけ出しさきほどまでの激昂はどこへやら、落ち着きはらって低い声でそう吐き捨てた。諦めて自分が出ていくことにしてくれたらしい、それを聞き皆がほっと息をつく。
「よかった。俺にあんだけ言っといてずいぶん呆気なく諦めたな」
「あぁ、お前らの話聞いて興が醒めたよ、くだらないお友達ごっこをせいぜい今のうちに楽しんでおけばいいさ」
「あなたね!!!」
「ゆうり先輩、あんなの言わせておけばいいんですよ」
腕を広げくつろぎながらそう悪態をつく彼に悠里が食ってかかるがそれを美紀が止める。その通りだと光も頷くと諦めたように肩を落とした。
そんな彼らを鼻で笑いながら草加が声を上げる。
「そんなことより夕食はまだかな?せめて夕食くらいは食わせてから出ていかせてくれよ、まさかそれすらしてくれない薄情者の集まりじゃないだろ?」
「わかったわよ……!…みんなご飯にしましょう」
悠里がこらえるような声で夕食の準備を再開した。
「くるみちゃん大丈夫だよ、私たちはみんな一緒にいるからね!」
その頃由紀は胡桃の手を握り優しく語りかけていた。時折美紀や涼音と背中をさすったりして必死に安心させようとなぐさめる。
「…うん、ありがと………」
目に溜まった涙をこぼさせまいとこらえる胡桃の姿を見て光は改めて草加に強い憤りを感じた。彼女に酷い罵声を浴びせ悪びれることもなく座っている彼をどうしても許すことはできなかった。
それからはほとんど会話もなく暗い雰囲気のまま夕食をとり夜を迎え眠りにつくことになった。
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皆が寝静まった夜、車内から棚が空けられる音や物と物とが擦れるような音がする。それからしばらくしてゆっくりと、できるだけ音を立てないように慎重に車のドアが開けられる。そして慎重に車から降りると、音を立てていた主は駆け足になりすぐにその場から離れようとする。
「待てよ」
後ろから呼び止められる声が聞こえぴたりと足を止めゆっくりと振り返る。
「なんだ起きていたのか。というかドアが開く音がしなかったがどこから出てきた?」
「ベッドの横に大きめの窓があってな、そっからさ。こんな遅くに何してたんだよ」
「気が変わってね夜に出ていこうとしたんだよ、お前らからしたって早くいなくなってくれた方が嬉しいだろ?」
首を傾けながら声をひそめ笑う草加。そんな彼にため息をつく。
「そりゃありがたいさ。でも俺が言ったのはそっちじゃねえ、車の中で何してたか聞いたんだ」
草加の持つバックを指差しながら問う。その行動に草加も視線をバックへと向け「あぁ」と半笑いで答えた。
「食料だよ、すぐに食料のある所へ行き着けるとは限らないからな」
「俺達は食料分けてやるなんて一言も言ってないぞ?何勝手に持ち出してんだよ」
草加が怒気を帯びた声を発する光に低い声で言う。
「言われてないね、でも君達分けるつもりなかったろ?だから独断で詰めさてもらったよ。ま、授業料ということで今回は貰っていくよ」
「は?授業料って一体なんのだよ」
「そりゃ、世の中優しい人だけじゃないから気をつけようねって言う話の……ね!」
草加は意地の悪い笑みを浮かべそう言ったかと思うと踵を返し走り出した。あっと声を上げ慌てて光も後を追い駆けだした。
2人は夜の道を走る。
先を走る草加の持つライトの明かりを頼りにそのあとを追って走る。
しかしそのレースは長くは続くことはなく、
「はい残念、捕まえた」
「……っ、く、離せ!くそ!思いの外、足が速いんだな……!」
「そりゃ一応元陸上部だからな。足には自信があんだよ。
さ、食料返してもらおうか。悪いが俺はお前に何もくれてやるつもりはないからな!」
呆気なく追いつかれ焦る草加がよろけながら掴みかかる光を振りほどく。そうして後ずさりしながら睨む。
「しつこいな!俺はこんなところで死にたくないんだ、お前らは車もあるしまた簡単に物資なんて調達できるだろ!絶対にこれは返さない、次近づいてきたら容赦なく殴るからな!」
バックを胸に抱え叫ぶ彼に光は苛立ち唇をぎゅっと噛む。
どうにかして奪い返したい、自分達が見つけたり悠里が家計簿をつけしっかりと管理までしていた食料をこんな奴にだけは取られたくない。そんな想いから必死に取り返そうと試みた。ここまできたら例え後で彼女達に心配をかけるとしてもお互い痣だらけになるぐらい殴りあってでも取り返すしかない。
そう腹を括り一歩踏み出した時だった。彼はあることに気づきそして、思いついてしまった。自分が無傷で簡単に食料を奪い返す方法を。
「……そうか。分かったこれ以上近づかねえよ、俺はな」
わずかに下を向き表情が見えないようにしながら静かに言う彼を不可解そうに草加は首を傾げた。
「急に大人しくなったな、まあいい。じゃそろそろ行くよ。君らもくだらない現実逃避をせいぜい楽しめよ…!」
そう嫌味を言い背を向けようとした時、光が口を開く。
「残念だったな、こんなところで終わりだなんてさ。そんなに近づいてても気づかねえんじゃどのみち駄目だったろうけどな」
「ハァ?それってどういう……ぁ!!!!」
言葉の真意を問おうとしたその瞬間、背後から草加の肩に手が置かれた。否、置かれるというより手を叩きつけたといったところか、そして力任せに肩を掴む。草加は慌てて振り向き顔を目を見開いた。すぐさま彼の心はきっと恐怖に支配されたのだろう、自らの身に起こったこの状況に発狂した。
「うああぁぁああ!やめろ…離せ!!!」
「背後からノロノロと足引きづる音まで立てて近づいてたのに……もっと周りに注意した方がいいと思うぜ?」
「ああ……ああぁあ!んなこと言ってないで助けろよ!!おい!」
肩をがっしり掴み首元に噛みつこうと顔を近づけてくるかれの額に片腕を押し付け引き剥がそうしながら草加は叫ぶ。青ざめた顔で叫ぶ彼に光は鼻で笑いながら答えた。
「俺言ったよな、これ以上近づかないってさ?お前だってそれを望んでたじゃないか。あ、お前が叫んでばっかだからまた一体来ちゃったぞ」
「そそそ、そんなこと言ってる場合じゃねえだろ早く助けてくれって!!」
「そ。んじゃまず手に持ってるバックこっちにぶん投げな。片手塞がってちゃ危ないだろ」
「がぁ!……っくそ!……ほら、早くこいつら殺してくれよ頼むから!」
左手を軽く出しながらそう言う光に草加は素直にこちらへ奪った食料の入ったバックを投げ渡す。自分の足元その少し先に落ちたバックを光は拾い上げるとそれを肩にかけた。
「なぁおい、何してたんだ………ぐぅっ!早く助けてくれって…それ渡したら助けてくれるって約束だろ……?」
一向に向かってこない光に声を震わせる草加。そんな彼をまっすぐ見つめ彼は答えた。
「ん、俺はバックを渡せって言っただけなんだけど?何か勘違いしてないか」
「へ……お前……!!!あ、がああぁぁああ!やめろおぉおお!」
光の答えに唖然とし力の抜けたその刹那、叫び声に釣られ新たにやってきたもう一体のかれらにも掴みかかられそのまま草加は押し倒され地面に強く打ち付けられる。そうしてとうとうかれらの一体が草加の身体に噛みついた。
「あぁぁぁぁ!!!がぁ、あああぁあああっ!」
身体のあちこちを矢継ぎ早に噛まれ絶叫する彼を見下ろし光は言葉をかける。
「そういやゆきも言ってたけどまだくるみに謝ってもらってないなぁ!謝ってくれれば気が変わるかもしれないなぁ!!」
「……っ!!ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさい!……ごめんなさい!!!」
しかしその言葉を聞いても彼は1歩もその場を動くことなどしない。
「ようやく謝ってくれたか……。
よかったな、これでお前もバケモノの仲間入りだ。くるみにバケモノなんて言ってたが実際自分もそうなってみて今どんな気持ちだ?
バケモノさんよぉ」
ゴミを見るような目で冷たく言い放つ光の声はもう届いていなかったらしい。草加はその問いには答えず身体中を噛まれる痛みや恐怖から喉まで潰し叫ぶばかりだった。
それから数分後のこと、バキッと硬いものが折れる音と共に絶叫は止まった。見ると草加の首が少し変な方向に曲がっている。首の骨を折られとうとう死んでしまったらしい。頬を涙で濡らし光を失った目を開けたままぴくりとも動かなくなった。
そこでようやく光は動きだす。ゴルフクラブを握りしめ今もなお草加を貪るかれらの頭にそれを振り下ろし粉砕した。
「ずいぶん無様な姿になったな。あんなに憎まれ口を叩いていたのがもう懐かしく思えてきやがるよ」
草加、だったものに彼はつぶやく。もちろん返事が帰ってくることなどないとわかっていながらである。
「まったく、馬鹿なヤツめ…俺達にくっだらねえ喧嘩売るからそうなるんだ。自業自得ってやつだな、まあせめてもの慈悲だと思えお前があいつらにならねえように確実に終わらせてやるよ」
冷たく吐き捨てると万が一草加がかれらになってしまうことないようにとゆっくりとクラブを振り上げ狙いを定める。そして、
「バイバイ、草加クン」
口元をわずかに歪ませ一撃、彼の頭を叩き割った。
読んでいただきありがとうございました!
投稿していない間にUAが10000を超えていてちょっとびっくりしました。みなさまありがとうございます(⌒▽⌒)
これからもゆっくりではありますが更新頑張っていきます(^^;
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m