やはり吸血鬼の世界は間違っている。   作:Qualidia

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お願いします。


〈総武祭篇〉「──いつか」

 

 

 

 

 

総武祭は一時中断となり、観客も騒然としていた。

 

優勝候補の1人だった葉山隼人の事故。

すぐに医務室に運ばれ結果は最上の不戦勝。

 

運営側も本人も納得の行っている結果とは言えないが、勝敗をつけないわけにもいかず不戦勝となったのだ。

 

 

「…それで、何で俺が呼ばれたんですかね」

 

「同じ吸血鬼として、こういった場合のアドバイスをもらおうと思ってね」

 

「はぁ…俺はこんな風になったことがないのであくまで推測ですけど…『性質』のコントロールが出来ていないんだと思います」

 

「…血と火が使えなくなる、と?」

 

 

神宮寺先生に呼び出され、医務室に足を運んで見ればアドバイスを欲しいときたもんだ。この後試合を控えている八幡にさせることではないが学校側も必死なのだろう。

 

 

「そんだけならいいんですがね…生物が『性質』を使えるのはそれがその場にある時だけ。天使なら灯り、悪魔なら暗闇や影、人間なら風、鬼は地面。吸血鬼以外はどこにでもあるしすぐに作れるものなんです」

 

「…それで?」

 

「じゃあ吸血鬼の火は……体の表面が意識しないと火に纏われるんですよ。だから吸血鬼はまずそのコントロールを無意識に出来るようにする」

 

「…そういう理屈だったのか」

 

「これを特別な才能とかずるいとか言う奴がいますけど…俺からすれば余計なもんですよ」

 

「…あまり僕は吸血鬼のことを知らなくてね」

 

「まぁそんなもんですよ。で、今の葉山はそれがうまく出来なくなってます。火に焼かれて死ぬ…なんてことはないですが辛いのは変わらないかと」

 

 

八幡の話を聞いて、顎に手を当てて考え込む。

現状、何も出来ないのが現実だが、そうは言っても落ち着かない。

 

相手は名家の葉山家の1人息子。

 

体裁を保っている場合ではないが考えてしまうのは仕方のないことだろう。

 

 

「…今は何も出来ることはないし、特別焦る事でもない…って事でいいかな?」

 

「それで大丈夫だと思いますよ。ただし詠唱と血は使わせないように…少し寝てれば普通通りに過ごせるようになりますし」

 

「そうか、ならばそれを信じよう」

 

 

どうやら神宮寺先生は解説へと戻り、葉山の面倒は平塚先生が見ることになったらしい。

 

八幡も控室に戻され、クイーン戦準決勝を見る。

 

葉山のことが頭の中にないとは言えないが、特別仲が良いわけではない。だから今後の試合に支障は出ない。

 

 

 

が、葉山の怪我で最も動揺する人物が闘技場にいる。

 

 

 

 

 

「隼人……」

 

 

 

 

 

その想いは戦闘においてどう働くか。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

『…ここでみなさんにお知らせします。先ほどの戦いで葉山隼人くんが負傷したためキング戦準決勝第1試合は最上大雅くんの勝利とします』

 

 

葉山が優勢のまま終わったためか、不満の声が上がるが最上を倒した後に負傷した訳ではない。

 

そのこともどこかで分かっているの観客の不満の声は予想以上に少なかった。

 

 

『そして葉山隼人くんの容態ですが、命の別状はないと判断したためこのまま総武祭、クイーン戦並びにキング戦は再開させていただきます』

 

 

神宮寺先生の冷静な声が闘技場に響き渡る。

 

が、やはり観客は素直に盛り上がらないのか、ざわざわと騒つくのみ。

葉山と関係のない者は声を出しているがそれも少量だ。

 

 

『はい!ではクイーン戦準決勝第2試合から総武祭を再開したいと思います!葉山くんの容態は心配ですが、こちらの勝敗も見逃せません!』

 

 

流石、という言葉を送って良いかわからないが、葉山のことを気遣いつつ場を盛り上げる声を上げる実況。

 

その声に呼応するように観客の声も熱を取り戻し始める。

葉山のことは気にしなくなったわけではないが、今、こちらが気になるのもまた事実。

 

対戦カードは、共に2年生。

お互いにめぐりへいい勝負を持ちかけられるのではないかと、期待が上がる美少女同士の対決。

 

両者の登場に、男子の声が強くなる。

 

 

『一回戦では楽々3年生を倒し、その名に負けない実力を見せつけた雪ノ下雪乃さん。そしてこちらも3年生を倒した期待のルーキー三浦優美子さん!いやー!どちらも美少女!』

 

『男子生徒の声が凄いですね…』

 

『さてさて、両者が立ち位置に着きました!』

 

 

 

 

「…こりゃ勝負にならねぇな」

 

 

 

 

『それでは参りましょう!クイーン戦準決勝第2試合、よーいスタート!』

 

 

今日何度目かのゴングが鳴る。

 

雪乃は風の剣を、優美子は光の剣を顕現させる。

 

教科書通り。

ここから分岐として、詠唱が来るか剣術が来るか。

 

 

 

 

「──なめないで貰えるかしら」

 

 

 

 

 

「──っ!」

 

 

 

 

 

明確な、敵意。

 

 

雪乃の強みは風で自分の体を強化した、高速で繰り出される連撃だ。

自分の足に風を纏わせ、速度を上げる。

 

 

 

「ふっ──!」

 

 

 

息を吐く。

 

それだけでもう雪乃は優美子の懐に入る。

 

スピードはもちろん、目で追いにくい角度で沈む雪乃の体を追うのは中々に難しい。

 

 

──けれど。

 

 

 

「く、っ…!」

 

 

 

雪乃の下から振り上げる剣を、体を反らしながらかわし、続いて飛んでくる正確な突きを剣で弾いていなす。

 

一方的な試合展開。

 

剣を弾いても風を操り、体勢を整える。

 

一度スピードに乗った雪乃を止めるには何か大きな一手がなければならない。

 

止まらぬ連撃に、防戦一方の優美子。

 

 

 

 

そしてそれは必ず綻びを生む。

 

 

 

『こりゃ決まったね』

 

 

 

神宮寺先生の先読みの言葉の直後、雪乃のとどめの一発が優美子の脇を抉り──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────つまらない」

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

その一撃を打ち込まず、一歩二歩下がって優美子を真っ直ぐと見つめる。

 

 

試合の放棄、戦意の喪失、その他諸々の理由を考えるが正確な理由は見つからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あなたは彼が少し怪我をしたくらいで毎度こんな風になるつもりなのかしら」

 

「…」

 

「焦り、不安…やる気がないのなら辞退しなさい。こんな試合続けたくないわ」

 

「っ…」

 

「私は…こんな試合望んでいないの。自分を高められる試合がしたい。自分は弱いと気付けたから」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あなたは誰かに憧れたことがある?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突な質問に優美子は意味が分からず、言葉を詰まらせる。

 

今は戦いの真っ最中。

 

なのに、それなのに。

雪乃は何を喋っているのだろうか。

 

 

「誰かの隣に立ちたいと、誰かのようになりたいと思ったことがあるかしら?」

 

「そ、そんな…の、隼人の横に…」

 

「だったら彼に恥じぬ姿を見せなさい」

 

 

その瞳はどこまでも真っ直ぐに。

 

たった1人、たった一瞬で自分を変えたある人物に向かってただひたすらに。

 

 

 

「憧れた人の横に並ぶ者は、そういう覚悟を持ちなさい」

 

 

 

…そう話す雪乃の心情も格好いいものではない。

 

 

 

 

「あなたの感情は憧れよりも恋…に近いのでしょうけど──羨ましいわね」

 

 

 

最後の言葉は誰かに聞こえただろうか。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「(少し、話しすぎたかしら)」

 

 

そう思いながら、さっきよりかはマシになった優美子の剣筋の綻びを探す。

 

剣がぶつかり、甲高い音が鳴り響く。

 

それが何故か心地よく鼓膜を揺らす。

 

 

「(全く…私はこんなに軽い女だったかしら?)」

 

 

自分の思ったことに自然と笑みが出た。

 

 

 

「なに、笑ってんだ、し──!」

 

 

 

辛い体勢からも剣を振るう優美子。

 

その瞳の中の迷いは少しだけ消えているように見えた。

 

 

 

「(私も葉山くんと同じようになっていたかもしれない。天才に挑むのは私も同じ…葉山くんと見ている相手が同じだけれど)」

 

 

 

風で雪乃の綺麗な髪がなびく。

 

優美子の光が煌めき、雪乃の風が巻き上がる。

 

攻守がめまぐるしく変わり、段々とペースが上がる。

 

 

 

──そこに開始直後の甘い剣筋は1つもない。

 

 

 

 

「(…隼人の隣にいたい。立ちたい。戦いたい)」

 

 

 

 

1人の少女の恋心と憧れが力へと変わる。

 

未だスピードを上げる2つの影。

その表情は可憐な少女のものではなく、自分の方が上ということを誇示したいだけの醜いものだ。

 

 

 

『…これはどういうことだろうね』

 

「…すげぇ」

 

「──綺麗」

 

 

 

そんな言葉が観客から漏れる。

 

人はここまでの領域に達することが出来るのか。

 

才能に恵まれた、とは言えない2人の凡人がどれだけ努力すればこのレベルの秀才へとなり得るのか。

 

 

こんなにも剣撃だけで、人を魅了できるものなのか。

 

 

 

「憧れ、ならっ、あーしの、方が、っ…上だしっ──!」

 

 

 

とっくに体がついて来ていない。

 

けれど止まらない。ここで止めれば自分の想い人への気持ちが消えてしまう気がするから。

 

 

 

「っ──憧れは、歴じゃない!」

 

 

 

雪乃が声を荒げるところを始めて見る。

 

それほどなの、だろうか。

 

 

 

気力を、体力を、身体中の至る所から集める。

 

互いの急所を狙う、刃が縦横無尽に駆け巡る。

 

 

「づ、あああああぁぁぁぁぁ──!」

 

「ぢ、あああああぁぁぁぁぁ──!」

 

 

最早、美少女と呼べる容姿ではなくなっている。

 

髪はぼさぼさ、服も汚れ、うっすらと笑みを浮かべながら声を荒げる2人の獣。

 

けれどそれが全てを魅了する。

 

特に、同じ女子ならば多くを受け取れるだろう。

 

 

 

 

 

そして──、

 

 

 

 

 

 

 

「私の、」

 

 

 

「────」

 

 

 

「私の、勝ち」

 

 

 

 

首筋にぴったりと剣をつけた、雪乃がそう呟く。

 

息切れも激しく、足もガクガク震えている。

 

 

 

けれど──雪乃が勝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

息を止めて見ていた観客が、思い出したように声をあげた。

 

 

2人の少女への喝采、賞賛、尊敬。

それら全てを乗っけた拍手と歓声。

 

 

試合時間はたったの5分程度。

けれどそれ以上の時間が確かに流れていた。

 

 

『っ…先生!い、今の試合は…』

 

『…どう、だろうね。みんながどういう風に受け取ったが分からないが…僕は全身全霊、彼女らに拍手を送ろう』

 

 

 

詠唱は一度もなし。

 

正真正銘、剣技だけの戦いであった。

 

 

 

「ふぅ──」

 

 

 

1つ、安堵の息を漏らした雪乃が、剣先をカメラに向ける。

 

それは闘技場の大モニターや、控室、学校内のテレビ画面に繋がるカメラであった。

 

そこに剣先を真っ直ぐ、輝かせながら向けると、にやりと不敵に笑う。

 

 

 

 

「わぁぁぁあああ──!」

 

「雪ノ下ぁぁぁぁああああ──!」

 

「雪ノ下さーん!」

 

 

 

 

勝者のガッツポーズのように取れるその行動は、『約2名』にとっては全く別の意味に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──はるさんの妹さん、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──やってくれるじゃねぇか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紛う事なき天才たちへの『宣戦布告』。

 

 

 

 

 

 

その瞳はこう言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──いつか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──いつかあなた達の元までたどり着く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。
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