やはり吸血鬼の世界は間違っている。   作:Qualidia

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お願いします。


〈総武祭篇〉信頼の果て。

 

 

──お兄ちゃんは1人だった。

 

友達がいない、そういう意味でもあるけど色々な意味で。

 

理由は教えてくれなかったけどいじめられてたお兄ちゃんはいつも傷だらけで帰ってきてた。

せっかく吸血鬼の高位種として生まれたんだから、やり返せば?って聞いた時もあった。そしたらお兄ちゃんは、「こういうのは最後にやり返すから格好いいんだよ」って笑って返した。

 

その無理した笑顔に、泣いたのを覚えてる。

 

 

けれど、お兄ちゃんへのいじめは小町に移ってくるようになった。お兄ちゃんの友達から聞こえるように悪口を言われるのはマシだった。

 

だけどそれが暴力へ変わった時、初めてお兄ちゃんがそいつらにやり返したんだ。

 

制御しきれてない炎がお兄ちゃんの友達を、火傷させた。

 

その時小町はお兄ちゃんのことを初めて怖いと思った。

 

圧倒的な力の差。

 

それを小町のためとはいえ、全力で使ったお兄ちゃんは別人に見えた。

 

けど、怖いと思ったんだけど…隣にいたい、いなきゃとも思った。

 

だからその日から小町はお兄ちゃんと一緒に強くなろうと努力した。

 

その思い出があるから──小町はお兄ちゃんの隣を譲らない。

この想いの強さだけは絶対に誰にも負けない。

 

弱いお兄ちゃんも強いお兄ちゃんも知っているのは小町だけ。

 

いつも通り、お兄ちゃんの左側の半歩後ろ。

整った横顔を見て安堵する。

 

やることは同じ。言葉はいらない。きっと合図だっていらない。

 

それが小町達の『普通』だから。

 

他とは違う『兄妹』。

 

 

──その力を見せつけよう。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「…2人揃って立ち向かう…普通なら卑怯と一言言いたいところだがまぁ構わないよ。ボクはそんな小さなことは気にしないからね。存分に掛かってくるといい」

 

「…」

 

「…」

 

「なんだったら作戦会議の時間をあげても構わないよ?2人というのは人数的には有利だが、動きづらくなるからね。熟練したパートナー同士じゃないと上手くいかない。兄妹なんていうちっぽけな関係だけじゃ意思疎通はできない……」

 

「──うるせぇな…デートでしゃべりすぎる男子は嫌われるぞ。ソースは俺」

 

「お兄ちゃんも喋ってるけどね……〈集い成れ、炎刀〉」

 

「これぐらいいいんだよ……」

 

 

小町が炎の剣、八幡が血の剣を再顕現させる。

 

敵意を孕んだ目と剣先は真っ直ぐ男を見つめる。

決勝戦…そんなこと考えている余裕はないが時間がないのは確か。

 

ここは攫われた咲良のためにもすぐに終わらせなければならない。

 

 

「…綺麗だね。ボクはあまり二刀流は得意じゃないんだけど…まぁ仕方ないね。あぁ大丈夫だよ、得意じゃないと言っても君たちを叩き落とす程度の腕はあるから」

 

「…行くぞ」

 

「…うん」

 

 

そして──、

 

 

 

 

「───!」

 

 

 

音も立てず、2人の吸血鬼が瞬く間にその距離を0へと変換する。

 

翼を生やしているとはいえ、常軌を逸したそのスピードに男の顔が引きつる。

 

 

「く、っ──」

 

 

左右同じタイミングで、首を取りに来る剣をギリギリで受け止める。

 

男の反射神経も、狂っているがこれぐらいは予定通り。

 

一撃で終わらず攻撃の勢いにスピードを灯す。

 

 

「──小町、10から」

 

 

ぽつり、と呟かれた数字を聞いて男は何事かと顔をしかめる。

 

そのまま剣技か、はたまた詠唱か。

読み合いなど上の者と戦う時はいらない。

 

頼るは自分の経験と勘。

 

 

「ちっ──後ろか、っ!」

 

 

──小町がするりと男の後ろに回り込み、剣を振るう。

 

それを眼前で躱しきり、次はどう来ると体勢を整えようとする、が。

 

 

「しっ──!」

 

 

今戦っているのは、小町ではなく『兄妹』だ。

 

少しでも小町に気を取られ隙が生まれて仕舞えば、それを見逃す八幡ではない。

 

二対一において、最も有効な戦法であり最も基礎的な動き。

 

高速で横薙ぎに振るわれる禍々しく光る緋色の剣。

 

それを受け止められる体勢ではない──。

 

 

「ぐっ──!」

 

 

小さな呻き声とともに、大きな音を立てて男が地面に叩き落される。

 

確かな感触があった一撃。

勝負がついた…そこまでではないものの傷は合わせた。

 

 

「…切れなかった」

 

 

 

──しかし、腑に落ちない点が1つ。

血で作ろうが炎で作ろうが、剣は剣。

そこには確かな鋭さがあるはずなのに男は体を2つにすることなく、地面に落ちた。

 

 

「…お兄ちゃん」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

「──くそが。よくも…よくもよくもよくもよくも…このボクの顔に…傷をつけたな」

 

「…」

 

「大体卑怯だろ。こういう時は一対一でやるのが普通で常識だろ。なのに…なのになのになのになのになのに、お前らときたら…」

 

「…」

 

「──許さない」

 

 

 

そう呟いた男は光の剣を再顕現させ構える。

 

今度の攻撃はあちらか──。

 

 

 

 

「…ぁ?」

 

 

 

 

──いない。

 

さっきまでそこに佇んでいた男が何の跡形もなく、姿を消した。

 

姿を見えなくする詠唱か認識に誤作動を起こさせる詠唱か──いや、そんなものよりも確実で簡単な方法がある。

 

 

 

「!──小町、後ろ、っ!」

 

 

 

…2人が追い切れないスピードで背後に回ればいいだけ。

 

 

 

 

「──あはっ。まずは1人」

 

 

 

 

淡々と、底冷えするような笑い声で男が呟く。

 

小町の無事──それよりもまず男をどうにかしなければ。

 

地面に叩き落された小町の姿を確認するより前に、体が反射的に後ろへ動く。

本能的に行われた回避行動も男にとっては織り込み済みの動き。

 

すぐさま男の剣が八幡の首を飛ばそうと振るわれる。

 

 

 

「ちっ…」

 

 

 

しかし、八幡も冷静。

 

頭を下げて剣を躱すと同時に詠唱を唱えようと相手を視認する。

 

 

──だが。

 

 

 

「…させるわけがないだろう。男であるお前は容赦なく叩き潰す」

 

 

 

それすらも男の想像通りだったならば。

 

視認されないように八幡の後ろへ回り込んだ男は、上から思い切り剣を振り下ろす。

 

その一撃を八幡は『後ろを見ずに』剣で防いで見せた。

 

直感か…八幡の読みか。

 

 

「っ…おも、た、っ!」

 

 

受け止めたと思われたその一撃は、予想以上のパワー。そのせいで八幡が下に落ち始める。

叩き落された、そんなスピードではないが体勢が悪い。

これでは男の追撃に対応出来ない──、

 

 

「あはははっ──!いいねぇいいねぇその表情!その体勢!見事なまでに滑稽で恥ずかしいだろうなぁ!」

 

 

心の底から嬉しそうに、男が嗤う。

 

落下中を狙って繰り返される乱撃を、八幡はなんとか捌ききるがこのまま地面に落下して仕舞えば逃げ場はない。

 

かといってこの空中で逃げようとする余裕もない。

 

 

──ならば。

 

 

 

「く、っ──!」

 

 

 

男の止まらぬ剣撃の合間をつき、八幡が思い切り剣で『地面を叩く』。

 

八幡の行動に一瞬疑問符を浮かべた男だが、すぐさま目的に気づく。

 

地面を叩くと同時に湧き上がる『土煙』。

いつもならば一切影響しないが、八幡の腕力によって繰り出された土煙は濃度が高く、男の視界を奪う。

 

 

 

「ちっ」

 

 

 

堪らず男は土煙よりも高く飛ぶ。

 

今の一瞬で八幡は男の追撃を躱しきり、逃げることに成功した。

 

未だ晴れぬ土煙を前に男は苛立ちを募らせる。

この状況は男にとっては良くない。

 

どこから詠唱攻撃が来るのか分からないのだから。

 

 

「〈降り注げ、光芒〉」

 

 

そんな中男の取った行動は詠唱による広範囲攻撃。

 

数千本の光の矢が、所構わず地面へと突き刺さり、その衝撃で土煙が晴れる。

 

綺麗になる景色の中で男は八幡を探す。

 

 

 

「──お前なら、ここは狙わないと思ったわ」

 

 

 

──地面に横たわる、『小町の隣』で八幡が不敵に笑う。

 

その少し離れた場所で八幡が静かに目を閉じた。

 

そして男は気づく。

 

 

「しまっ──!」

 

 

八幡の狙いが、詠唱であると。

詠唱は剣よりも攻撃力を上げることが出来る希少な手段。

 

男に対し詠唱が最も効果的な攻撃手段であると踏んだ八幡は距離を取ろうと模索するもなかなかその機会は来なかった。

 

しかし男が詠唱を使うために空へ昇ったとしたら。

 

いや──昇ると予想出来たなら。

 

 

「〈血を響かせ、〉」

 

 

詠唱が開始される。

しかもそれは『長節詠唱』。めぐりが一度見せた熟練者のみに許された珠玉の一手。

 

 

「く、っそ…!」

 

 

男が反射的に、八幡へと向かう。

 

きっとこの詠唱が完成したならば、男に防ぐ手段はない。そう本能が告げている。

 

そんな詠唱を完成させてはならない。

 

その一心でスピードを上げる。

 

 

 

「〈炎を纏い、〉」

 

 

 

二節目。

 

男は最早八幡の声を聞いていないほどのスピードにまで達している。

しかしそんなことはどうでもいい。

 

この詠唱を陽乃は行うことができない。

吸血鬼ならではの詠唱の言葉。

ならばそれは八幡のものだと断定できる。

 

 

 

「間に合っ、───!」

 

 

 

──八幡の詠唱完成か、男な剣先か。

 

先を取ったのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

男の剣先である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──焦ったな?」

 

 

 

 

 

 

「…ぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

八幡が、唱えない。

完成となる三節目。

 

きっと三節目を唱えても、途中で男の剣に邪魔され、完成はしなかっただろう。

 

けれど何故そもそも唱えなかったのか。

 

諦めたか……はたまた、それまでも作戦なのか。

 

 

 

 

 

「〈耀き踊れ、劫火〉」

 

 

 

 

 

とんっ、と軽く後ろに飛んで男の剣を回避する八幡。

 

空を切る男の剣…そして攻撃後の隙だらけの体勢。

 

 

 

 

その間に入るのは────詠唱を完成させた小町だ。

 

 

 

 

右手を突き出して、炎を操る。

粉塵爆発を起こしたかのような爆撃音と凄まじい炎が細い右手から吹き出る。

 

 

男は気づくべきだったのだ。

初めから詠唱しているのが八幡ではないことに。

 

それは──紛れも無い『焦り』だ。

 

 

 

 

 

「────」

 

 

 

 

 

不完全な体勢だったため、回避行動も出来ず真正面から攻撃を受けた男に炎が直撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──普通、ならば。

 

 

 

 

 

 

「…あはっ」

 

 

 

 

 

 

形を成した詠唱が終わると同時。

 

まるでそこにずっと立っていたかのように『剣を構えた』男の姿が。

 

化け物、そんな言葉が可愛く見えるほど。

それは小町の攻撃が完璧なタイミング、完璧過ぎる威力だったから。

 

 

「…油断したね?」

 

 

ニヤリと笑うと軽く一歩前へ。

 

 

それだけでもう『小町の眼前』まで迫ると同義。

 

無防備な体に…息の根はあくまで止めない洗練された一撃が小町を襲い──、

 

 

 

 

 

「…どっちが?」

 

 

 

 

 

笑って、いる。

 

 

剣を目の前まで向けられているのに、目を閉じるどころか瞬きもせずそこに剣などないように、笑う。

 

 

男は鳥肌を止める事が出来ない。

 

なぜこの少女は笑っているのか──。

 

 

 

 

 

 

「〈鳴り爆ぜよ、火雷〉」

 

 

 

 

 

小町の後ろ…肩口から、手だけが伸びてくる。

 

そして何の前触れも、躊躇いもなく詠唱を完成させた。

 

それが出来るのはもちろんたった1人──八幡である。

 

 

 

 

「──っ、ぁ…!」

 

 

 

 

断末魔などなく、男が消え去る。

 

今度は正真正銘、倒しきって消えたのだろう。

周りを警戒しても気配は感じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ん、お疲れさん」

 

「はぁ…ぴくりとも動かないって意外と疲れるんだね」

 

「俺は得意だぞそういうの」

 

「お兄ちゃんは家でぴくりとも動かずゲームしてるもんね」

 

「それだと俺が引きこもりみたいだろやめろ」

 

「…否定出来ないんだけど」

 

「…」

 

 

今までの戦闘がまるで幻だったように、気の抜けた会話をする八幡と小町。

 

それを遠くの木陰で見ていた陽乃は最早笑うことしかできない。

 

 

 

「(──最後、小町ちゃんは比企谷くんが助けてくれると信じきっていた…けど……それでも、剣先を向けられて笑えるなんて…一体どれだけの信頼を…いや)」

 

 

 

それはもう信頼なのだろうか。

そんな疑問が陽乃の頭の中に思い浮かぶ。

 

 

しかし小町にとってはそれが『当たり前』なのだ。

信頼してるから目を瞑らなかったのではなく、八幡が最後に仕留めてくれると『知っていた』。

 

 

1+1が2であるようにそれが当然のことなのだ。

 

 

絶対不変の事実だったから、目を開けていられた。

 

 

 

「(話し合う時間もなし。お互いが最善だと判断した行動と信頼関係が織り成す一級品)」

 

 

 

恐怖心などもはやなく、ただただ尊敬と賞賛しか送れない。

 

それと同時に少しだけ──憧れてしまった。

 

 

 

「(この…天才兄妹に届く事が出来たなら)」

 

 

 

それは葉山も抱いた思い。

 

数十年生きていて、初めて誰かに憧れた史上最年少ガーディアン。

 

それは今後どういう影響を及ぼすのか──、

 

 

 

 

 

「…早く桜木を見つけに行きますよ雪ノ下さん」

 

 

 

 

どこか照れくさそうに呼びかける八幡と、いじけたようにぶすっと頬を膨らませる小町。

 

その声に連れられて陽乃は少し良くなった体を起こした。

 

 

 

 

 

 

──天才兄妹の底は未だ知れず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。
私にしては改行控えめ(?)でしたね。
流石に多いなと思って書いてたら、案の定いっぱい改行に関する感想が来ました。

すみません。少しずつ直していけたらなとおもいます。

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