やはり吸血鬼の世界は間違っている。   作:Qualidia

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お願いします。


〈総武祭篇〉『いつか』と余熱。

 

 

 

 

「――んぅ?」

 

 

そんな可愛らしい声で咲良が目を覚ます。

 

謎の男に襲われた一連の戦いから僅か数分で咲良を見つけることが出来た。

思った以上に早く見つけられたことと、咲良がどこも怪我していなかったことは不幸中の幸いだろう。

 

もしも、あの男に負けていたら小町と咲良は今頃――、

 

そんなことを想像してしまい、気分が悪くなった八幡は首を振って想像を外へと追いやった。

 

 

「あー…まぁ今は訳が分からんと思うが…小町、頼むわ」

 

 

そういって八幡は少し遠ざかる。

 

大きな木にそっともたれかかるように座っていた咲良。

不気味なほど丁寧に扱われていた咲良の様子にまた八幡は気分を悪くした。

 

一見、怪我はないように見えるが精神面的なところや、女性ではないと分からない部分、話したくないことだってあるだろう。

 

咲良に抱きつき大丈夫?と繰り返し聞く小町をよそに八幡はなんとも言えない気まずさを空を見ることでごまかしていた。

 

 

「比企谷くん」

 

 

そんな八幡に陽乃が話しかける。

小町の処置により大きな怪我はないが、歩かせるのもよくない。

 

ここまでも小町がおぶって来ていたのだが陽乃だったがどうやら隙を突いてこちらへ来たようだ。

 

 

「歩いたら小町に怒られますよ」

 

「帰りはちゃんと黙っておぶってもらうからいいよ。まぁほんとは比企谷くんにおぶってもらいたいんだけどね」

 

「俺がおぶろうとしたらあいつなぜか怒るんですよ。まぁ別にどっちでもいいですけど」

 

 

戦いの後、咲良を探しに行くため陽乃を背負おうとしたら、小町が全力でダメと言って怒ったので八幡は黙って従った。

 

その理由をどうやら陽乃は知っているらしいがきっと聞いても答えてくれないだろう。

 

そんな会話を一度断ち切るように、八幡はおほん、とわざとらしく咳払いをし、

 

 

「で、どうしましたか」

 

「とりあえず咲良ちゃん?だっけ、あの子は大丈夫っぽいよ。攫われたときのことは覚えて恐怖にはなってると思うけど」

 

「まぁ…仕方ないですね」

 

「そして…ごめんなさい」

 

「…は?」

 

 

唐突に頭を下げ、謝罪の言葉を口にする陽乃に八幡は困惑の声しか出ない。

 

少ない会話からもきっとこの人はプライドが高く、人に謝るところなど想像できないと思っていた八幡にとっては驚きの光景だ。

 

 

「ちょ、ちょっとなんですかいきなり」

 

「色々と…あの男に負けたこととか…ガーディアンとしてのこと」

 

「…別に全員無事ならいいんじゃないですかね。特に小町が無事だったこととか」

 

「ううん、完全に油断してた…きっと無意識で私は負けないとか思ってたんだと思う」

 

「まぁぶっちゃけ俺もそう思ってましたけど」

 

「どれだけ警戒しても…本音、心の奥底に微かな慢心があって…」

 

「ちょっと…なんかそこまで素直に反省されると怖いですって…」

 

 

陽乃らしくない、と言って良いほど陽乃を知らない八幡だが自分の中で出来ていた陽乃とはほぼ反対の行動にさらに動揺する。

 

根は真面目、というか真面目さあってのあの奔放さなのだろう。

 

 

「とにかく、今は学校に戻りましょう。あといつもの感じに戻ってくれないとこっちがやりづらいです」

 

「そっか」

 

 

八幡の言葉をどう受け取ったかは分からないが、陽乃の暗くない表情を見て八幡は少し安堵し小町と咲良のところまで歩き出す。

 

 

「ま、これからもよろしくね、ひっきがやくん!」

 

「戻るの速すぎだろ…」

 

 

肩を組んでこようとする陽乃の右手をひらりひらりと躱す。

 

そんな八幡を見て楽しそうに笑う陽乃だったが、何度か繰り返したところで諦め、普通に歩き出した。

 

 

「あ、お兄ちゃん」

 

「ん。大丈夫…って聞いてもいいか」

 

「なにその質問。咲良ちゃんはそこらへんの心が弱い子じゃないから大丈夫だよ」

 

「小町の友達だしな」

 

「まぁね」

 

 

にひひっと笑う小町の隣で咲良がどこか申し訳なさそうに手を合わせ八幡を見上げていた。

 

その視線を感じ取った八幡は咲良と目を合わせどうかしたかと問いかけた。

 

 

「その…すみませんでした…こんな時に」

 

 

暗い顔に暗い声。

それはきっとあの男に攫われた恐怖ではなく、本当に申し訳なく思う気持ちがあるからこそのものだろう。

 

なんて声をかければいいかと悩んでいると、不意に小町と目が合う。

小町は優しげな笑みを浮かべたまま何も言わない。

 

まるで自分の次の言葉を信じているかのように。

 

その意図をくみ取った八幡は、咲良と同じ目線までしゃがみ頭に軽く手を乗せる。

 

 

「確かに俺たちに迷惑をかけたのは事実だ。桜木が無事ならそれでいい、なんてことは言わない」

 

 

八幡の手厳しく思える一言に咲良はびくりと肩を揺らした。

 

 

「けど、こういうときは迷惑をかけたーとか考えるのはいい大人になってからでいい。今は子供らしく、ごめんなさいじゃなくてありがとう、だろ」

 

 

そう言うと同時にぽんぽんと軽く頭を叩いてから立ち上がる。

 

らしくないことを言ってしまった、という自覚からどこか気恥ずかしさを覚えた。

 

 

「比企谷くん、かっこつけすぎじゃない?」

 

「ぐっ…いいでしょこういうときくらい」

 

「しかも最後の言葉、アニメとかでありそうだしー…あ、言ってみたかったとか?」

 

「もう辞めてくださいお願いします」

 

 

傷口に塩を塗る…どころが岩塩をごりごり削ってくる陽乃さんに全力で謝りつつ、逃げるように小町に話しかけた。

 

 

「はぁ…小町、とりあえず学校戻るぞ」

 

「――お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「なんで咲良ちゃんの頭なでるのさ!」

 

「えぇ…お前昔はそうされるのが安心するって言ってたじゃねぇか…」

 

「それとこれとは別!もうなんでそんなことするの!?」

 

「いやだから昔な…」

 

「――もう!バカ!知らない!」

 

「なんでだ…」

 

 

ぷいっとそっぽを向く小町に八幡はおろおろとするばかり。

 

 

「あ、そういえば比企谷くん、総武祭の決勝戦の時間もう過ぎてるよ」

 

「もっと早く言えよ!あぁもう!小町後で全部聞くから今は学校行くぞ」

 

「…分かった」

 

「よし、じゃあ桜木、嫌かもしれんが俺の背中に…」

 

「お兄ちゃん!?なんで咲良ちゃんをおんぶしようとしてるの!」

 

「…なんでさっきから怒るの!?小町が雪ノ下さんをおぶるから俺は桜木をだな」

 

「ぐっ…陽乃さん…いやでも大きさ的には咲良ちゃんの方がよさそうだし…でもでも発展しそうなのは咲良ちゃんで…」

 

「なにブツブツ言ってんだ?じゃあ重さ的にも俺が雪ノ下さんを――」

 

「――比企谷くん?」

 

「…ごめんなさい」

 

 

結局、小町の判断により八幡が陽乃を、小町が咲良をおぶりスピードを挙げながら学校へと向かう。

 

とてつもなく遠い距離ではない学校へは思ったより早く到着し、ざわざわとしている学校内へと走って行く。

 

とりあえずは、平塚先生の下へ…そう思い職員室へと向かおうとすると外で見回りをしていた平塚先生本人と出会った。

 

 

「比企谷!それに陽乃まで…」

 

「先生、とりあえず事情は雪ノ下さんから聞いてください」

 

「…あぁ、そうだな。とりあえず君は神宮司先生のところへ言って指示を貰ってこい」

 

「分かりました」

 

 

陽乃を受け渡し、控え室かどこかで待っているであろう神宮司先生の下へと走り出した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷くん!良かった…」

 

 

安堵する神宮司先生に申し訳なく思い、謝ろうとする八幡だったがそれを手で制される。

 

 

「詳しくは知らないが何も知らないわけじゃない。とりあえず今の事情を説明すると…」

 

 

神宮司先生の話によれば、

 

まずクイーン戦決勝戦は、雪乃が負傷によりでれず予定繰り上げ。

次のキング戦決勝も最上が最後まで説得に応じなかったため、八幡の不戦勝になるのだがその八幡がいなかったためアナウンス出来なかったらしい。

 

しかし、あまり待たせる訳にも行かず少し前にアナウンスはかけられたらしい。

 

 

「…了解です。じゃあこれからは表彰式とかそんな感じですかね」

 

「そうだ。流石に表彰式にキングがいないのは締まらないからね」

 

 

少し残念な形で新しいクイーンとキングが成立したが、めぐりと八幡の実力はその名に恥じないものであるのは全校生徒は感じているだろう。

 

全員揃っている、との言葉で八幡と神宮司先生は舞台袖まで早足で向かった。

 

その舞台袖には、最上、八幡と準決勝で戦った3年生、そして意識を失っていた葉山が待っていた。

 

 

「…遅れてすみません」

 

「神宮司先生からしょうがない事情で、と聞いてるから何も言えないよ」

 

「そうか…で、お前体は大丈夫なのか」

 

「この通り大丈夫だ。君が心配してくれるなんて光栄だね」

 

「やめろ、どっかの赤眼鏡の子が喜ぶ」

 

「姫奈のこと知ってるのかい?」

 

「普通に教室で聞こえてんだよ…」

 

 

どこか遠くで聞こえるキマシタワーの声に八幡は冷や汗を垂らした。

本当に辞めて欲しいと願うが、きっとそれは無理な話。

 

実況の声で、4人が歩き出す。

入場の時と同じで反対側からの入場口からクイーン戦上位4人の姿が目に入った。

 

中央に集まった8人は端から順位事に並ぶ。

 

一番端がクイーンであり、その隣にキングが並ぶ。

そうやって男女が交互にならんでいく。

 

そうなれば自然と両隣は…

 

 

「あ、比企谷くんお疲れ様~」

 

「…お疲れ様」

 

 

クイーンに輝いためぐりと、準クイーンの雪乃だ。

 

同じタイミングで話しかけられたためどうしようかと悩んだが、年上であるめぐりへと軽く会釈して会話を続けた。

 

 

「…どうも。その…クイーンおめでとうございます」

 

「比企谷くんもキングおめでと、まぁお互い決勝戦しなかったからなんとも言えないけどね」

 

「まぁ確かに…楽で良かったですけどね」

 

「あはは確かにね~」

 

 

一区切りついた、というか八幡が勝手に一区切りついたと判断し、雪乃に話しかける。

 

先ほどからなぜか脇腹に小さなエルボーが打ち込まれてきていて、表情はぶすっとしていた。

 

 

「痛い、痛いよ…で、なにどしたの」

 

「…私と城廻先輩の対応に差があるのはなぜかしら」

 

「別に普通だろ…」

 

「む…」

 

 

八幡の最後の一言にもどこか気にくわなかったのか不機嫌度が上昇していくのが八幡にも分かった。

 

そしてその上昇をさらに加速させる言葉が意外にもめぐりから発せられた。

 

 

「それはクイーンと準クイーンの差だよ、雪ノ下さん」

 

 

火に油を注いだめぐりはいつも通り柔らかな笑みを浮かべているが、その裏から微かに除く八幡には分からない感情が恐怖を誘う。

 

 

「…教えてくれてありがとうございます。決勝戦がなかった城廻先輩」

 

「どこかの誰かが大けがしちゃってなかったんだよねー」

 

「良かったんじゃないですか?そのおかげで楽にクイーンになれたんですから…もしかしたらクイーンになれなかった可能性もありますし」

 

「俺がいなかった間になんでそんなに仲悪くなってんだよ…怖い、あと怖い」

 

 

八幡にとっては意外すぎる間でばちばちと火花が上がる。

 

女の意地、と大きく言えるそれをきっと八幡が知るのは遠い未来だろう。

 

その後、メダルと賞状の授与が校長から行われ時間がなかったためか、それだけで表彰式は終ってしまった。

両側へ、男女で捌けていく直前にめぐりからまた話かけられる。

 

 

「実は、神宮司先生にお願いしてたんだよね」

 

「何をですか?」

 

「クイーン戦とキング戦の決勝がどっちとも行えないことを言われたとき…じゃあ私と比企谷くんとでエキシビションマッチみたいなのやらせてください、って」

 

「まじですか」

 

「うん、まじ。だけどやっぱり取り下げたんだよね」

 

「まぁ…俺的にはどっちでもいいですけど」

 

「私が嫌だったから取り下げたの」

 

「…え?でも提案したのは城廻先輩ですよね?」

 

「そうなんだけどね…」

 

 

そこで一つ、言葉を止めためぐり。

八幡は続きの言葉を聞こうと、めぐりと目を合わせた。

 

そこにはやはりいつもと同じ柔らかく、優しく、惚れてしまいそうになる笑みが1つ。

 

けれど…八幡は思わず全身に力を込めた。

 

 

「私は全力の比企谷くんと、本気の戦いがしたかったの…私に来年はないから…『いつか』、ね」

 

 

――『いつか』

 

 

そこで少しだけめぐりの口角が上がった。ように見えただけかもしれないが八幡は確かに受け取った。

 

変わらぬ笑み、そこに裏の感情は確かになかった。

 

だからこそ、この人は素直に、純粋に、自分と真っ向勝負がしたいのだと痛いくらい感じた。

 

強者にしか出来ない、その立ち振る舞い。

 

結局、八幡はめぐりに言葉を返せないまま、退場となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぁ…」

 

 

総武祭から早くも数日が経っていた。

 

通常通りに戻った授業も相変わらず、寝て過ごし終ったら奉仕部にいって本を読む。

これらがサイクルになってきていた最近だったが、少しだけ変わったことがある。

 

1つ目、

 

 

「あの時の試合やばくなかった?ほら、一瞬で相手に尻餅つかせた…」

 

「2年生キングとかかっこいいよねー…」

 

「割とあり?」

 

「よく知らないからなんとも」

 

 

周りの男女、特に女子がやたらとうるさい。

ぼっちスキルである『聞き耳』は常時発動しているのでこうやって内緒話も少しは聞こえてしまうのだ。

 

確かに2年生キングとして学校全体、それどころか学校外にまで知れ渡った八幡は話のタネぐらいにはなるだろう。

 

そして2つ目、

 

 

「…ど、どうもお兄さん…」

 

 

最近やたらと咲良が比企谷家に来るようになったのだ。

小町と友達のため、家に来ることは自然なのだが何せ来る頻度が高い、ような気がする。

 

家に呼ぶ友達がいなかった八幡は基準が分からないがきっと高い。

そして小町の機嫌があまりよくない。

もう八幡分からない。

 

こんな感じで学校外の生活は過ぎていった。

 

 

人の噂も七十五日、その言葉を信じて、八幡は総武祭の余熱が冷めていくことを心の底から祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。
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