やはり吸血鬼の世界は間違っている。   作:Qualidia

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お願いします。


悪い知らせと悪い知らせ。

 

 

 

 

八幡にとって良い出来事が少ないように感じた総武祭から数週間。

様々な変化にも順応せざるを得ない状況だったため、そうしてきたが、それらのことも少しずつ慣れてきた今日この頃。

 

総武祭前に行っていた、由比ヶ浜強化プロジェクト(八幡命名)が再開された。

再開というのは、総武祭に出場する八幡と雪乃を気遣って結衣本人から、一旦中止の申し出があったからだ。

 

数時間、奉仕部で時間を潰してから借りている第四実技場へと足を運ぶ。

 

基本的には雪乃と戦い、何か思うところがあれば雪乃か八幡が止めアドバイスを行う。

例えアホだろうが、結衣は立派な人間の『高位種』だ。頭一つ抜けている、とまではいかないが頭半分ぐらいは抜けている。なんかぐろい。

 

 

「そこで風を使って体を起こして――」

 

 

雪乃のアドバイスを真剣に聞く結衣。

そんな2人を遠くからぼーっと…いや、幾分か前より真剣に八幡は見つめる。

 

 

「少し休憩にしましょう」

 

 

アドバイスの後、雪乃の一声で場の空気が少し軽くなったように感じる。

重いわけではなくそれだけ、2人が真剣ということだろう。

 

雪乃と結衣はそれぞれ八幡の隣に座り、事前に買っていたであろうスポーツ飲料を口に含む。

 

 

「何かあなたからはないの?」

 

「あー…そうだな…まぁ最初の頃よりはいくらか良くなってるだろ」

 

「ほんと?ならいいんだけど…」

 

「雪ノ下と戦ってるからわかんないだろうな。そこらへんの生徒と戦えば自分の成長が分かると思うぞ」

 

「自分より強い人と戦ってもわかんないってこと?」

 

「そういうことじゃないが…」

 

 

なんと言ったものか、と言葉選びを慎重に行う。

自分が吸血鬼でそこそこの強さを持っているという自覚ぐらいは八幡にもある。だがそれ故に嫌味に取られてしまうことを恐れたのだ。

 

 

「大丈夫、はっきり言って」

 

 

そんな八幡の悩みを表情からくみ取ったのか、結衣が柔らかく微笑みながらそう答えた。

 

周りの目を気にしてきた結衣にとって、これぐらいはわざわざ言うほどのことではないかもしれないが、八幡にとっては少し驚く出来事だった。

 

 

「雪ノ下とお前じゃ、レベルが違いすぎる。強い相手と戦って手応えを感じるには差がありすぎるってことだ」

 

「……」

 

 

八幡の言葉を聞いて結衣はうつむく。

それをとっさに傷つけた、と思った八幡はすぐさまフォローの言葉を入れる。

 

 

「まぁ、雪ノ下は家柄からしても昔から鍛えられていただろうからな、差があるのは当たり前だ」

 

「私の場合、1人でどうにかしてきた時の方が多いのだけれど」

 

「ちょっと?なんでそういうこと言うの?」

 

「あはは、大丈夫だよ、傷ついた訳じゃないから。なんていうか…それじゃヒッキーと戦えないんだなーって思っただけ」

 

「俺とって…俺と模擬戦闘したいってことか?」

 

「そうじゃなくて、ヒッキーと一緒に戦えないってこと」

 

 

先ほどの柔らかな笑みに確かな決意が込められた結衣の表情に、八幡は少しだけ鼓動を早くした。

幼い女子らしくも、気丈な女性のようにも取れるその表情に見惚れてしまったのだ。

 

 

「…そういえば雪ノ下さんから桜木のこと聞いたんだっけか」

 

「えぇ。姉さんは一応人間の私達にも伝えておくって。その桜木さんも人間なのでしょう?」

 

「俺は後から聞いたけどな。けどお前らみたいに高位種じゃない。普通に過ごしてる人間だ…まぁ最近は小町に色々戦闘について教えて貰ってるみたいだがな」

 

 

人間の『高位種』とはそもそも戦闘に特化した者のことを言う。

古来より鬼や吸血鬼に虐げられていた人間が対抗するべく、技術を磨き地位を築いてきた。

 

そのためどの生物にも言えることではあるが、自身を鍛えず平穏に暮らすという選択肢だって存在する。

 

 

「小町ちゃんとヒッキーの戦いのことも聞いた。あたしはその瞬間を見てないからわかんないけど…そうやって守りながら助けながら支えてる存在っていいなぁって思ったんだ」

 

 

その言葉に雪乃は少しだけ笑みを浮かべた。

それは結衣と同様に優しく、結衣の言葉に心底同感しているかのよう。

 

同じでなくとも近い感情がある2人だからこそ分かるのだろう。

 

しかし、2人に対し八幡の表情は柔らかくも笑みもない。

それに気づいた2人は心配そうに八幡を見つめる。

 

 

「…確かに、そうやって戦えることは俺も良いことだと思う」

 

「…」

 

「…」

 

 

八幡の言葉と表情があまり合っていないことにまたも心配の表情を浮かべる。

 

 

「でもそれは戦うことが前提、だろ」

 

「どういうこと?」

 

「…由比ヶ浜、弱いことは幸せで、強いことは不幸だ」

 

「え…?」

 

 

八幡の言葉の奥が見えず、結衣が不安を募らせる。

 

結衣は、逆ではないかとすぐさま考える。強いことは格好良い。頼られ、守ることが出来、他者に色々と教えることが出来る。

 

もちろん強い人や、他を圧倒する才能を持つ人特有の悩みがあるのは知っているつもりだが、それを考慮しても結衣は納得できなかった。

 

いや、そもそも理解が出来ていなかった。

 

 

「…いや、別にどうでもいいことだな」

 

 

どこか空気を入れ換えたいという気持ちから、行われた八幡の発言。

雪乃もどうしたらいいものかと目を泳がせている。

 

 

「それじゃ、俺から由比ヶ浜にアドバイスを1つやろう」

 

「な、なに?」

 

「雪ノ下のスタイルを真似しすぎだ。さっきもいったがお前と雪ノ下にはかなりの差がある」

 

「――」

 

「それにお前はアホだ」

 

「急に悪口だ!?」

 

「まぁ…そうね」

 

「ゆきのんまで!?」

 

「雪ノ下の動きは思考があってこそのものだ。しかもそれが速い。まぁ端的に言えば頭が切れるってこと」

 

「そ、それはあたしにも分かるけど…」

 

「由比ヶ浜の利点は、自分の体に触れている風の扱いが上手いことだ。それは雪ノ下に負けていない」

 

 

雪乃に負けていない、と八幡から言われれば嬉しくない訳はなく、モチベーションだってあがる。

その証拠に結衣の後ろの尻尾がぶんぶんと振られている…ような錯覚が見える。

 

 

「だから次はこうして、とか考えるんじゃなくて直感でやってみろ。そんで、体も風で好きなように動かしてみろ。由比ヶ浜は型にはまらない動きの方が合ってる」

 

「おぉー…」

 

「多分、きっと、おそらく」

 

「急に格好悪いし…」

 

「…私よりも優れているというのは置いといて確かに比企谷くんの言ってることは的を外していないようにも見えるわね」

 

「どんだけ俺のこと認めたくないの?それにお前より優れてるなんて言ってないんだが」

 

「よーし!なんか今ならゆきのんに勝てる気がしてきたかも!もしあたしがゆきのんに勝ったらヒッキーに相手して貰うからね!」

 

 

そう言って結衣は実技場の中央まで走り出す。

雪乃の指導も軽いものではないはずだが、どこからそんな元気が出てくるのか八幡は素直に疑問を持った。

 

そんな八幡は隣の雪乃に目を移す。

指導方法について悩んでいなければいいが、と心配していたがそうではないらしい。

 

どこか女王様のような笑みを浮かべている。

 

 

「お、おい、俺のアドバイスが正しくてもそんなすぐに出来ることじゃないからな?由比ヶ浜には優しく教えろよ?」

 

「それぐらい分かっているわ」

 

「ならいいが…」

 

「えぇ、では行ってくるわ」

 

 

凛とした佇まいで歩み始める雪乃の背中を見て、八幡はほっとする。

流石は総武高校準クイーン、大人げない姿は見せない。

 

 

「では由比ヶ浜さん、今度は詠唱ありの模擬戦闘をしましょうか」

 

「えぇ!?あたし詠唱はちょっと苦手意識があるっていうか…」

 

「――じゃあ始め」

 

「めちゃくちゃだせぇな準クイーン…」

 

 

あたふたする結衣に容赦なく詠唱を唱える雪乃を八幡が押さえ、ドタバタとする光景は大変そうであり、どこか楽しそうにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…痛い…」

 

 

その翌日、奉仕部で筋肉痛に苛まれている結衣を八幡はかわいそうな目で眺めていた。

 

ちなみに雪乃は我関せずと言った様子で本から目を離さない。

 

 

「あー…大丈夫か由比ヶ浜」

 

「うー…ゆきのんほんと容赦ないんだもん…」

 

「別に私は今までと変わらなかったと思うけど」

 

「時間も内容も全然きつかったよ!?」

 

「そう」

 

「それだけ!?ゆきのん悔しかったんだもんねー、ヒッキーがゆきのんよりあたしの方が優秀だって言ったことが」

 

「言ってない言ってない」

 

「…それはあなたの妄想よ。比企谷くんは私の方が全てにおいて勝っていると言っていたじゃない」

 

「言ってない言ってない」

 

「むっ…」

 

「…」

 

「誰か助けて…」

 

 

ばちばちと火花を散らす2人を視界の外へを追い出し、なんとしてでも読書に夢中になろうとじっと本を見つめる。

 

なんとも言えない空気の中、ドアを開かれる音が奉仕部に響いた。

ドアをノックしないで入ってくると言うことはあの人で間違いないのだが。

 

 

「…平塚先生、ノックをしてといつも」

 

「あぁ、すまんな今度から気をつける」

 

「…」

 

「おー、ちゃんと比企谷が部活動をしているとは…元気にやってるか?」

 

 

どこか親戚の人のように軽く手を振りながら八幡の方に歩き始める。

 

その光景を見て八幡は嫌な顔をせず、げぇ…と声に出した。

 

 

「なんだその顔は」

 

「誰だって厄介事が手を振って歩いて来たら嫌な顔しますよ」

 

「ほぅ…?」

 

「なんでもないです」

 

 

手を鳴らす平塚先生を見て八幡はすぐさま白旗を全力で振る。

鬼である平塚先生の一撃を軽々、もらえるほど八幡はMではない。

 

平塚先生がはぁ、とため息を一つつく。

 

そして、「しかし」と言葉を続けた。

 

 

「厄介事、というのは否定できないな」

 

「というと?」

 

「まぁ、少し話を聞いてくれ」

 

 

そう言って平塚先生は椅子にどかっと座る。

その姿に八幡はまた一言言おうとするが、なんとかそれを飲み下した。

 

 

「先日の総武祭がネットで配信されていたのは知っていただろうが…それが思った以上に好評でな」

 

「それは学校側からはいいことだと思いますが」

 

「あぁ、その通り。総武の名が広がり上は大盛り上がりだ。だが、少々盛り上がりが過ぎることがあってな」

 

 

平塚先生の言葉を誰も遮らず、次の言葉を待つ。

 

 

「実は千葉村で行われる林間学校に総武の生徒を派遣し、小学生に特別講義をしないかという案が先日、職員会議で挙げられた」

 

「林間学校?」

 

「君たちも経験があるだろう?そこで総武の優秀な生徒が講義を行いさらにアピールをしたいというのがこの案の本音だ」

 

「…」

 

 

雪乃が顎に手をやり、考えを巡らせる。

それは総武にとってはいいことなのだろう。ガーディアンである陽乃の輩出に、めぐり、そして八幡ももしかしたら目をつけられているかもしれない。

 

そんな有名な総武の名をさらに売りたい気持ちは分からなくもない。

 

 

「比企谷、君はどう思う」

 

 

端的に告げられた質問に八幡が平塚先生と目を合わせる。

 

細かな質問ではなく、大雑把な質問だがきっと八幡は平塚先生が求めている内容を答える。

そのことを目で訴えられている。

 

 

「――いや、やめておいたほうが良いでしょ」

 

 

はっきりとした口調で答える八幡に、結衣も雪乃もなぜか、ということを聞くため視線を送った。

 

 

「メリットはあるかもしれませんが、デメリットの方が多いと思いますが」

 

「そのデメリットとは例えば何が挙げられる?」

 

「そもそも俺らは高校生です。そんな俺たちが人に教えられる訳がない。せめて大学生、大人がやるべきだと思いますけどね」

 

 

それに、と八幡は続ける。

 

 

「万が一、小学生に教えている間に怪我をしたときの責任はどうなるのか…とかまぁ色々危ないんじゃないですかね」

 

「確かにそれらの意見は先日の職員会議でも言われたものだ。学校側としてはそういった責任問題が起きないように優秀な生徒を数人だけ行かせるつもりのようだ」

 

 

そんなことは建前だ。

このことを雪乃と八幡はすぐさま理解する。

 

賭けにしては危なすぎるその案は許可しづらい。するならば中学生との小さな交流会にするなど、もっと安全に配慮された案にこれから改良されるだろう。

 

 

「まぁ君たちの言いたいことは分かる。じゃあここで、悪い知らせと悪い知らせがあるんだがどっちから聞きたい?」

 

「…どっちも聞きたくないですね」

 

「なんか嫌な予感がするし…」

 

「えぇ…良い知らせがないのが特に…ね」

 

 

頭の隅にちらつく黒い予想を見ないようにしていたが、どうやらそれは平塚先生によって聞かされるらしい。

 

 

「それじゃあ悪い知らせから…この案が先ほどの職員会議で通った。つまり、今言ったことは案ではなく実行されるということだ」

 

「うげぇ…」

 

「そんな嫌な顔をするな比企谷。もう一つ知らせがあるから安心しろ」

 

「それも悪い知らせだからなんも安心できないんだよなぁ…」

 

 

一つ、深呼吸をしてから平塚先生が口を開く。

 

 

「もう一つは…林間学校に行く生徒の候補として、雪ノ下と比企谷が挙げられている」

 

「はぁ…」

 

「はぁ…」

 

 

奉仕部に入部して以来初となる、雪乃と八幡の言葉が重なった瞬間だった。

 

 

 

 

 




ありがとうございました。
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