やはり吸血鬼の世界は間違っている。   作:Qualidia

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お願いします。


〈林間学校篇〉無事な1日目と始まりの始まり。

 

 

 

林間学校当日。

 

準備をバッチリと終え、平塚先生に言われた通りの場所へと向かい、舞台となる千葉村へと到着した。

 

集合場所では、遅いと言われたり戸塚が何故か来たりなどしたが、走行中に平塚先生は何も話してくれずされるがままここまで来てしまった。

 

小学生の林間学校となる千葉村に到着し、車から降りると出迎えてくれたのは山の稜線だった。

 

「おぉ、すげぇ…山だ」

 

「ほんと、山ね」

 

「ふむ、山だな」

 

 

そんな安直な感想しか出てこないほどの緑の風景。

周りは案外混んでいるようで、人が少なくない。近くにキャンプ場や温泉地があることと関連があるのだろう。

 

全員の荷物を下ろし、一息つくと八幡がずっと聞きたかった質問を平塚先生へ投げかけた。

 

 

「で、なんで戸塚までいるんですかね」

 

「あぁそういえばそうだったな…と、その説明の前にあれを見たまえ」

 

 

平塚先生が指す先には自分達が乗っていた車と似たような車があった。

そこから降りてくるのは、葉山と優美子。

 

だけではなく、葉山と優美子のグループである海老名姫奈や、戸部翔までもが車から降りてきた。

 

 

「ちょっと…」

 

 

どうしてあいつらまで、という視線を平塚先生へ向ける。

 

 

「君たちだって由比ヶ浜を連れてきただろう?流石に君と雪ノ下、葉山に三浦の4人では何かと問題が起きそうでね」

 

「確実に起こりますね、特に女子」

 

「そこでまぁ1人ぐらいなら友達枠として呼んでもいいと言ったんだ。戸部と海老名は成績も悪くない。軽くなら特別講義に出しても支障は無いだろう」

 

「はぁ…まぁそこはどうでもいいですけど…戸塚は?」

 

「一応君の友達枠だな。君も葉山と戸部の3人部屋は抵抗があるだろう?私なりの配慮だったのだが、余計なお世話だったかな?」

 

「いえ、全然、むしろ助かりました。もし戸塚がいなかったら戸部をどうにかしてたかもしれないんで」

 

「何故戸部だけなんだ…まぁいい。すぐに挨拶があるから荷物を部屋に持っていったらここに集まってくれ」

 

 

千葉村の小さなマップのようなものを広げ、大広場を指さすとさっさと自分の荷物を持って平塚先生は行ってしまう。

 

言われたとおりに荷物を置き、小学生が集まる広場まで足を運ぶ。

 

 

「(そういえば、俺と戸塚が知り合いなの言ったか…?)」

 

 

戸塚と八幡が知り合ったのは数日前の出来事。

それを何故平塚先生が知っているのか…結衣などが伝えた可能性もあるがきっとあの人なら細かいとこまで見てる、という可能性の方が大きいと自然と思えてしまう。

 

 

「(ほんとなんで結婚できねぇんだろうな)」

 

 

仕切り役であろう先生が小学生が静かになるまで待ってから話を切り出した。

 

 

「みんなを色々指導してくれるお兄さんお姉さんを紹介します。まずはご挨拶をしましょうね。よろしくお願いします」

 

「よろしくおねがいしまーす」

 

 

小学生特有の、卒業式でよくある間延びした挨拶、を聞き終えてからマイクを貰った葉山が一歩前へ出て挨拶をする。

 

 

「これからみんなのお手伝いを三日間、やらせてもらいます。わからないことがあったらいつでも言ってくださいね」

 

 

お見事、と言わざるを得ない完璧な笑顔と声のトーン。

八幡や雪乃には絶対にない、葉山のコミュニケーション能力の高さだろう。

 

 

「お前も一応、挨拶しといた方が良いんじゃねぇのか」

 

 

グループ分けされているわけではないが、奉仕部の部長として挨拶しておいた方が良いと思った八幡は雪乃にそう問いかけた。

 

 

「人前に立つのは苦手なの」

 

「意外、でもねぇか」

 

「人の上に立つのは好きなのだけれど…」

 

「こえぇよ…」

 

「はーい!では、前に伝えた通り生物で別れてくださーい!」

 

 

先生のかけ声と共に、生徒がグループ分けされていく。

 

そのかけ声で八幡は、生物ごとに別れることを知り驚く。それと同時に安心と不安がごちゃまぜになってやってきた。

 

 

「…ま、そりゃそうか」

 

 

総武校の生徒も別れ始める。

八幡の不安の1つはここである。多少なりとも面識のある結衣か雪乃が居てくれればいいのだがこれでは別れざるを得ない。

 

そしてもう1つ。生物別に別れると言うことは、

 

 

「よろしく頼む、ヒキタニくん」

 

 

葉山と同じ、ということなのだ。

だがしかし、ここには安心もある。葉山と一緒なのは嫌だが、楽なのも確か。

 

他人に任せて自分はさぼれる最高のシチュエーションだ。

 

 

「はぁ…あ、そういえば戸塚は…」

 

「戸塚は悪魔の上位種だからね、あっちに姫奈といるよ」

 

「あ?戸塚は天使だろ、何言ってんだ」

 

「君こそ何言ってるんだ…?」

 

 

戸塚の生物はともかく、これも平塚先生の計画通りなのか総武の生徒が綺麗に別れた。

 

吸血鬼は八幡と葉山。

人間は雪乃と結衣。

天使は優美子。

鬼は戸部。

悪魔は戸塚と姫奈だ。

 

 

「…おい、鬼やべぇぞ」

 

「え…?あぁ戸部か?あそこなら優美子が天使と鬼をまとめて見ることなってる。それに鬼の方は平塚先生がつくようだしね」

 

「まとめて…混合種だったか」

 

「あぁ、天使が6で鬼が4のね」

 

「なんだそれ」

 

「混ざり合ってる割合だよ。多い方の生物の力の方がより強く出せる」

 

「そんなもんなのか…」

 

「知らなかったとは意外だな」

 

「そういう根本的なことは疎いんだよ。人間のことも雪ノ下からちょくちょく教えて貰ってたしな」

 

「へぇ…」

 

「吸血鬼のお二人ですか?」

 

 

八幡と葉山の会話を遮ってきたのは若めの女性教師だ。

流石に生徒をそのまま丸投げはせず、何人かに別れて監視役があるようだ。

 

その女性教師の後ろにいる人物はきっと取材班だろう。

 

 

「あ、すみません。俺たち2人です」

 

「えっと…とりあえずこちらに…あと、先日の総武祭の映像見ました。葉山くんと比企谷くん、だったよね?」

 

「はい」

 

「…どうも」

 

「なんだか有名人に会った気分です!大人の私より全然強くてかっこいいなぁって思ってました!」

 

 

屈託のない女性教師の笑顔に、葉山は完璧スマイル、八幡は引き笑いで返す。

 

総武祭の映像が好評とは聞いていたがその反響は思ったよりも大きいものらしい。

 

 

「強いだなんて…この特別講義では最低限の防御技と攻撃技を教えるってことでいいんですよね?」

 

「はい、私もそう聞いてます」

 

 

少し大広場から離れたところに数人の小学生が集まっていた。

きっと彼らが、上位高位関係なく吸血鬼の子達なのだろう。

 

 

「……」

 

 

吸血鬼グループの子供達から数歩離れたところに1人の少女がどこか落ち込んでいるように下を向き立っていた。

 

 

「(ぼっちはぼっちを見つけるのに長けているな)」

 

 

長い黒髪はとても綺麗で、小学生にしては大人びた印象を持つ、少女は雪乃に似ているようで八幡に何故か強く印象に残ってしまった。

 

 

「それでヒキ…比企谷、どうやって教える?」

 

「お前に任せる」

 

「そんなこと言うなよ…僕は総武祭から調子が悪くてね。口の説明は別に良いけど性質の実践は君にやって貰わないと」

 

「嫌だ…と言いたいところだがそれぐらいならまぁ…」

 

「それで進め方だが…まずは火の扱い方を調べてからまずは慣れてもらう…って感じかな」

 

「ん、それでいいんじゃねぇか」

 

「雑だな…」

 

 

八幡と葉山が前に立つと会話は自然と減り、小学生はどこかワクワクした様子でこちらを見上げている。

 

 

「それじゃあ早速始めていこうと思う。まずは…吸血鬼についての質問です。吸血鬼が使える性質と言われるものは何と何でしょう」

 

「はーい!」

 

 

先生のように話始めた葉山の横で八幡はぼーっとする。

自分は言わば葉山の助手。言われた最低限の仕事をすれば良いのだ。

 

 

「じゃあそこの君」

 

「血と火がつかえます!」

 

「正解。火は体の表面から自然と出てくるけど、みんなは無意識にこれをコントロール出来ているよね。今回はこの火使って、自分の守り方と敵の追い払いかたを教えたいと思います」

 

「おぉー…」

 

「お兄さん!」

 

「どうかした?」

 

「どうして血は使わないんですか?」

 

「んー…自分の血を使いすぎると倒れちゃうからね。基本的には火の使い方を教えるよ」

 

 

目をキラキラと輝かせながら反応や質問をしてくれる生徒に葉山も先生役としてやりやすいだろう。

 

 

「まずはみんなが火をどれくらい使えるかを見てみようかな。広がってくれる?」

 

「はーい!」

 

「よし、じゃあ手のひらに火をだしてみよう。比企谷、軽く火を出してみてくれ」

 

「あいよ」

 

 

言われるまま、ボッと火の玉が八幡の手のひらに生成される。

日頃火を押さえているコントロールを徐々に解く、という感覚の世界だが、火を出ないようにコントロール出来ているのならば出すことぐらいは出来るだろう。

 

 

「おぉー…」

 

「慣れてしまえばこうやってすぐに出せます。そして種が高い人ほど熱く、大きな火を作れることが出来るんだけど…比企谷、頼む」

 

「…」

 

 

助手らしく葉山の指示に従う。

先ほどより幾分か大きく、そして離れたとこからでも熱を感じれるほどの熱さを込める。

 

 

「おぉー!」

 

 

大きくなった声に八幡は照れたように火を消した。

 

 

「お兄さんたちは何種なんですか?」

 

「えーとね…」

 

 

言葉を止めた葉山が八幡に視線を送る。

細かなことだが、何種かを言っても良いのか、という問いかけだろう。

 

首を縦に振ると、葉山が小学生達に向き合った。

 

 

「僕が上位種で、こっちのお兄さんが高位種だよ」

 

「高位種!?」

 

「すごーい…」

 

「みえないねー…」

 

「(見えないって言った奴どいつだ)」

 

 

八幡の文句は空を切り、葉山が話を元に戻す。

 

 

「そういえば聞いてなかったね。吸血鬼の混合種だよーって子はどれぐらいいるかな」

 

 

ぼちぼちと上がる手は約3分の2ほど。

 

 

「じゃあ上位種の子は?…最後に高位種の子…はい、ありがとね」

 

 

集計結果は上位種が3名、高位種が1名。

思いのほか潜在能力の高い子が多い小学校らしく、葉山も少し驚いていた。

 

しかし、八幡は静かに1人の生徒を見つめる。

 

 

「(…あいつ、高位種なのか)」

 

 

たった1人の高位種。それはあのぼっちの少女だった。

どこか遠慮したように手をあげたその少女に、数名の小学生がくすくすと笑う。

 

その空気は葉山も感じただろうが、気づかないふりをし、講義を再開した。

 

 

「それじゃあみんなも出してみようか!くれぐれも我慢しないように」

 

 

葉山の明るい声に呼応するように、生徒達が楽しそうに火を扱い始めた。

 

進め方の影響もあってか、吸血鬼グループの講義は何事もなく1日目を終えることになった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

その夜、どこか寝付けなかった八幡は飲み物を飲んでから、目的もなく辺りをぶらつき始めた。

 

講義終わりに生徒達に、「すごい大技をやって!」としつこく言われたせいもあってかどこか精神的に疲れていた。

 

しばらく歩いているとそこには見知った人物が空を見上げていた。

 

 

「…誰?」

 

 

気配を感じたのか、雪乃がこちらに向かって問いかけた。

 

にゃーと鳴くお約束もせず、普通に雪乃に姿を見せた八幡。

 

 

「俺だ」

 

「…誰?」

 

「なんでさっきと同じ問いなんだよ」

 

 

雪乃の近くまで寄ると、柑橘系の綺麗な匂いが鼻をくすぐった。

体育終わりの女子から発せられる制汗剤の匂いのようだがそれにしては上品なものだった。

 

 

「…匂うかしら」

 

「あ、いや、別にそういうわけじゃなくて…普通に風呂入っただろ」

 

「そうなのだけど…少し、ね」

 

「なんだよ」

 

「お風呂上がりの部屋で三浦さんと少しもめてね…この前の再戦を申し込んできたわ」

 

「…血の気が多いな」

 

「全くね…それで少しの間離れたところで戦ってたのだけれど…」

 

「お前も多いじゃねぇか…」

 

「…途中で由比ヶ浜さんと海老名さんに止められて…」

 

「汗掻くぐらいガチでやるなよ…」

 

 

その通りだけどあなたに言われるのはなんだか嫌、と表情にそのまま出ているが八幡は気にせず近くの気に腰掛けた。

 

空を見上げると都会では中々見れない星空がこちらを覗いていた。

 

 

「そちらの方はどう?…と言っても葉山くんがやっているのでしょうけど」

 

「まぁな。楽にやれてる…逆にそっちは大変そうだな」

 

「そうでもないわ、私の説明を上手く由比ヶ浜さんがかみ砕いて伝えてくれてるもの」

 

「小学生には小学生の言葉で伝えるのが一番だもんなぁ…」

 

「生徒達も積極的でやりやすいわ」

 

「あー…」

 

 

積極的、と言う言葉に引っかかる生徒がいたことを八幡は思い出す。

やる気が無いわけでは無いが、遠慮がちにしていたあの少女は何かしらの問題を抱えている様に見えた。

 

 

「…どうかしたの?」

 

「1人気になる生徒がいてな…」

 

「…通報したわ」

 

「おい待て。そういう意味じゃない。なんつーか…嫌な空気が流れてる気がする」

 

「嫌な空気…いじめとかそういうもののことかしら」

 

「言葉を選ばないならな。まぁまだなんとも言えない状況だが…葉山が平塚先生にでも伝えてるだろ」

 

「そう…」

 

 

風が会話を連れ去るように、静かに時が流れる。

 

数分、数秒経たずして雪乃が言葉を発した。

 

 

「そろそろ戻るわ。その子のことは何も出来ないでしょうけど…犯罪だけは、」

 

「しないしない。ほら、早く戻って三浦と仲直りでもしてこい」

 

「…おやすみなさい」

 

 

特に言葉を返さず、雪乃を見送った。

 

無事に終った1日目。

 

それとは裏腹に、2日目、そして3日目に起こる事態を知る由もなく、八幡は布団の中で夢に向かって目を閉じた。

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。
ルミルミのファンの方、もう少しお待ちを。

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