やはり吸血鬼の世界は間違っている。   作:Qualidia

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お願いします。


実力の測定。

 

 

 

 

「さて、昨晩この近くで意識不明の鬼が二人、そしてそのまた近いところで鬼の高位種が死体として発見されたそうだが…何か弁論はあるかな比企谷」

 

「なんで俺なんですかね…」

 

「ガーディアンによれば犯人は殺すことに長けていてうちの制服を着た人物を見たという報告もあるんだが…何か弁論はあるかな比企谷」

 

「なにそれ新しい語尾かなんかなの?」

 

 

雪乃が鬼に襲われた事件の翌日。

昼休みに職員室へと呼ばれ、絶賛説教中。

 

それでも僕はやってない、と主張する八幡だが最早犯人は特定済みのようだ。

 

 

「…それで雪ノ下の容態はどうなんだ。先ほど午後の授業だけでも受けると学校に来たそうだが会えなくてな」

 

 

平塚先生が茶番を一区切りするかのようにガーディアンからの資料を机に置き八幡と目を合わせる。

 

 

「足以外はなんともないです。まぁ足の方も吸血鬼の血を垂らしましたから治ってるんじゃないですかね」

 

「…吸血鬼の血を垂らしても大丈夫なのか?」

 

「こっちから明確な理由の元、血を吸わなければ吸血鬼になることはないですよ。血を垂らしたり一滴なめたぐらいじゃなんとも」

 

「なんともならないくせに怪我は治るのか」

 

「くせにって…元々吸血鬼は治癒能力が高いですからね。その効果が血を通して出るんです」

 

「随分便利な効果だな」

 

「自覚はしてます」

 

 

淡々と答える八幡に、心配の気持ちも込めてため息が平塚先生から漏れる。

 

話がなくなってしまったのか静寂に包まれる二人の間を、気まずそうに八幡が咳払いをして「とにかく」と話し始める。

 

 

「用が終ったならもういいですかね…そろそろ授業の準備しなくちゃいけないんですけど」

 

「そういえば次の授業は実技だったか…君の実技は見てみたいものだね」

 

「俺が本気でやると思いますか?」

 

「自慢顔で言うな」

 

 

平塚先生の言う実技、とは別にバスケなどのスポーツを実際するような実技ではなく「戦闘実技」のことである。

 

その名の通り戦闘に関する体術や剣術などを学ぶ実技授業である。

ここ総武高校は優秀な人材を生み出す進学校であり、卒業生は生物問わず様々な政府機関で働いている。

 

実技は二年生から行われもちろん八幡も参加している。

 

 

「…実技の先生から何も苦情が出ていないからな…真面目じゃないと思われない程度で手を抜いているんだろう?」

 

「なんでそこで真面目にやってるという選択肢が出ないんですかね」

 

「逆に真面目だと思われてたのか?それに先ほど自分でも不真面目発言をしていただろ」

 

「俺は本気でやらないってだけで不真面目にはしてませんよ」

 

「授業に全力じゃない時点でそれは不真面目だ」

 

「厳しすぎだろ…って話長引かせないでくださいよ。もう教室戻らないとやばいんで」

 

「今日は真面目にやれよ」

 

「善処します」

 

 

軽くお礼をしてから職員室を出る。

 

八幡のけだるげな背中を見て、どうせ今日も全力でやらないと確信していると隣の席の先生から小さな声で話しかけられる。

 

 

「…平塚先生、あの子が吸血鬼の比企谷くんですか?」

 

「えぇまぁ。あんな性格ですが一応恐れられる高位種です」

 

「はぁ…人は見かけによらないというか…あ、そんなこと言ったらだめですね。それにそもそも人じゃないですしね」

 

「鬼以外は見た目がさほど人間と変わりませんから」

 

「でも平塚先生は鬼でしたよね?」

 

「鬼の力を出すときは多少変わります…」

 

 

なるほど、と言って業務に戻る先生はどうやら少し興味を持って話しかけただけらしい。

 

平塚先生も机の上に置かれたガーディアンからの資料をもう一度手に取り目を通す。

 

 

『――――現場近くの防犯カメラや落ちていた毛髪から、今回の事件の犯人は比企谷八幡であると推測される』

 

 

「…だったらどうして捕まえに来ないんだろうな」

 

 

どこか拭いきれない不安が胸に重くたまっていくように感じた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

教室に戻りジャージを取ってから実技場に向かう。

実技場付属の更衣室で着替え、担当教師が来るまで静かに待機。

 

周りでははしゃぐ男子がプロレスごっこと称して力の見せつけあいのため模擬戦闘をしているが、別に大きくないため無視して良いだろう。

 

いつもより激しく戦う男子達。その理由の一つとして、

 

 

「…奇遇ね、こんなところで会うなんて」

 

「学校内で会って奇遇とは俺の存在感のなさを揶揄してるのか?」

 

「流石に自意識過剰が過ぎるわよ、無し谷君」

 

「めっちゃ揶揄してんじゃん」

 

 

二年J組。雪乃が在籍する女子が多いクラスである。自分の力を使わない事務系の仕事に就く人が多いこのクラスは必然的に女子が多くなる。

 

 

「今日からJ組とF組、合同授業か」

 

「よりにもよってあなたがいるクラスと一緒とは…」

 

「別に関わらねぇだろ。というか、お前としゃべり出してからあいつの目線が痛いんだが」

 

 

ちらりと目線で雪乃に知らせると、雪乃はこめかみに手を当てて腕を組み小さなため息を一つ。

 

何か思うことがあるのだろうか、そう思った八幡に雪乃が説明を始める。

 

 

「――葉山隼人。吸血鬼の上位種で昔からの幼馴染みよ。昔、姉さんの遊び相手を私と彼でしていたから結構な腕の持ち主でもあるわ」

 

「そしてお前はあいつの想い人、ってか」

 

「ばか言わないで。どうせ私が誰かと喋っているのが珍しいだけよ」

 

「そんなもんじゃねぇと思うけど」

 

「…でも、私の結婚相手候補ではあるわね」

 

「あー、なるほどな。上位種ってことはそれなりの名家。お前の相手としては不足ないってことか」

 

「そういうこと。それに最近少なくなっている吸血鬼。私と結婚して運が良ければ生まれる子供は…」

 

「高位種、だな」

 

「……正解よ」

 

 

自分の言葉の最後を取られたからかどこかいじける雪乃は頬を少しだけ膨らませる。

その仕草が子供っぽくて笑いそうになる八幡だがここで笑えば、きっととんでもない精神攻撃(暴言)が来ると察して飲み込む。

 

そんな八幡に「それに」と言ってから雪乃がある場所へ視線を送る。

 

 

「あなたもあの人の想い人となっているのではなくて?」

 

「あ?…誰だよあいつ」

 

 

雪乃へ視線を送る葉山と同じく、八幡へ視線を送る人物。

 

幼い顔立ちに綺麗な髪。美少女と言えば片付くその少女は、

 

 

「――由比ヶ浜結衣。私と同じ人間の高位種…随分可愛らしい子に好かれているのね」

 

「知らないぞあんなやつ…」

 

「同じ女性から見れば嫉妬していることぐらい分かるわ」

 

「ってかなんでお前は知ってるんだよ。シンプルに怖い」

 

「同じクラスの子を知らないあなたより良いと思うけど」

 

「関わらない奴の名前を覚えたってしょうがないだろ。あともう一つ。人間って上位種とかいるの?」

 

「下位種と高位種だけよ。あなたたちと違ってハーフがないでしょう?」

 

「そりゃそうか」

 

 

他生物の種の制度は4つに分かれている。

 

人間とのハーフで人間の力を多く受け継いだ下位種。

 

他生物同士の親から生まれた上位種。

 

人間とのハーフで人間で人間じゃない方の力を多く受け継いだ高位種。

 

そして他生物同士のハーフである混合種。

 

人間は上の制度とは当てはめず、下位種か高位種しか存在しない。

 

 

「ん…やっときたか」

 

 

気づけば授業開始時刻から5分過ぎており、実技場に慌てて入ってくる教師が一人。

 

先生の到着により生徒が慌てて並び始め私語もなくなる。

雪乃と八幡も別れるが、八幡は雪乃の言っていた「ではまたすぐに」という言葉が引っかかっていた。

 

放課後の部活動で会うため間違ってはいないがにやりと笑った笑みが違和感を生む。

 

 

「はぁ…よし、遅れてすまなかった。実技の授業を始める。まぁこれまでは色々と基礎ばっかでつまらなかっただろうし、今日から模擬戦闘に入る」

 

 

先生の声で実技場が一気に盛り上がる。

確かにスポーツでも基礎練より、試合が盛り上がるのは当たり前。

 

さらに今日からJ組との合同授業。

この模擬戦闘を行うために合同となったのだが男子からすれば良いところを見せられる良い機会でしかない。

 

 

「それで僕は君たちの実力を知らないからなぁ…まず始めに僕と剣術で軽く試合をしてからどうしようか決めようかな」

 

 

すぐさま適当に生徒同士で試合をさせるほど危ない思考の持ち主ではないらしく、爽やかな笑みで生徒を一列に並ばせる。

 

が、相手が先生とは言えせっかくの模擬戦闘のはずなのに生徒の表情は微妙だ。

 

その理由は二年生になってから最初の実技授業での先生の発言のせいだ。

 

 

『――初めまして。これから実技に関して教えていきます。ちなみに僕は元ガーディアン候補生だからなんでも戦闘については何でも聞いてね』

 

 

「ってかまじでガーディアン候補生とかやっべーわー、先生の相手になるのとか隼人君ぐらいじゃねー?」

 

「やめろよ戸部、俺なんかが相手になるわけないだろ」

 

 

ふざけることは出来ないが多少、楽しみであることには変わりない。

相手は日本のトップであるガーディアンになる一歩手前の人物。そんな人と戦えるのは凄いことだとみな理解している。

 

 

「よし、それじゃあJ組の女の子達から行こうか。ルールは簡単。君たちは僕に剣を当てられたら勝ち。僕は君たちの腕を叩いて剣を落としたら勝ち。剣は自分の性質で作ってよし。鬼の人は専用の土を使ってね。剣を作れない人はそこにある竹刀でやること」

 

 

簡潔な説明の後、J組の出席番号1番の子が前へ出る。

 

静かになる実技場はその子にとってはやりづらい環境だがしょうがないことだろう。

その子の手には光り輝く刀が一振り。

 

それはつまり鬼が大地を司るように、天使が光を司るときと同じ原理。

 

天使は光からあらゆるものを作りだし操る。

 

 

「…お願いします」

 

「うん、よろしく……じゃあ、はじめ」

 

 

総武高校2学年。実質初めて他の生徒の実力を測れる『模擬戦闘』が始まる

 

 




ありがとうございました。

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