やはり吸血鬼の世界は間違っている。   作:Qualidia

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お願いします。


〈林間学校編〉未だに燃え続けている。

 

 

 

―――どうにかしたい。

 

葉山らしく、綺麗で優しい言い回しだった。

まだ自分の中で解決策がないのか、抽象的な言い方ではあったが、要は留美を助けてあげたいということなのだろう。

 

 

「あなたでは無理よ。それは分かっているでしょう?」

 

「っ…」

 

 

そんな葉山の言葉を、正面からたたき切ったのは凛とした雪乃の声だった。

言い方が冷たいだけでなく、雪乃は葉山に冷たい視線を送った。

 

雪乃の婚約者相手。

それだけは聞いている八幡でも、過去に何かあったのではと勘ぐりたくなる言葉だったがそれを許さないオーラが雪乃にはあった。

 

 

「あんさぁ、雪ノ下さん」

 

「…なにかしら」

 

「隼人と昔何かあったのか知んないけど、その態度どうにかならないわけ?」

 

「その態度…ね」

 

「せっかく隼人がこうやって頼んでんだから、もっと協力的に出来ないの?」

 

「別に非協力というわけではないわ。私もあの子とは少し喋ったのだし…けれど、それと葉山くんに対して私がどう接しようとあなたには関係ないのではないかしら」

 

「この…っ」

 

 

雪乃の高圧的な言葉にさらに優美子が熱くなる。

 

仲が悪い、というか相性が悪い2人である。

 

 

「ゆきのんも優美子も落ち着いて…そ、それで留美ちゃんのことどうしよっか」

 

「あぁ…ありがとう結衣。正直に言うなら、俺もどうにかしたいなんて言いながら解決策は何も思いついていないんだ。けど孤立している状況は今すぐにでも直すべきだと思う」

 

「…違うな。孤立することが悪いんじゃない。悪意によって孤立させられていることが問題なんだ」

 

「…」

 

「あいつの場合は単純な悪意というわけでもないが…まぁそこはいい。で、解決策についてだが…」

 

「ちょっと、あんたまでなんでそんな態度なの?」

 

「ちょっと優美子…」

 

 

別に毅然とした態度であった訳ではないが、自分の過去と重ねてしまった八幡の口調は自分で思っていたよりも強くなっていたようだ。

 

そして、その態度が先ほどの雪乃とかぶったのか、矛先が八幡へ向く。

 

 

「(なに、めちゃくちゃ怖いんだけど)」

 

「あなたこそ非協力的じゃない。そこの役立たず谷くんがせっかく案らしきものを挙げようとしているのに」

 

「はぁ?こんなやつがなんで急に出しゃばってくんの?」

 

「ちょっと?君たちの喧嘩になんで俺の悪口が出てくるの?」

 

 

今の優美子の言葉に、雪乃が思わぬ態度をとった。

 

ガタン、と荒く席を立つと優美子を睨み付けて静かに言う。

 

 

「こんなやつ…あなたが下に見れるほどキングという肩書きは甘くないと思うけれど」

 

「はぁ?それが今、関係あるの?」

 

「彼と戦ったこと…いえ、知らない人が見下せるほど死んだ人間ではないわ」

 

 

きっとそれは、周りから見たら盛大なブーメランだ。

自分だって八幡をけなしている発言をしているのに、優美子がそういった発言をするのは許せないなど、自己中心的にもほどがある。

 

そしてそのことを指摘できるのはきっとこの場に1人しかいない。

 

 

「ダメだよ、ゆきのん。今の言葉は良くないと思う。気持ちは分からなくはない…けど、それは色んな人に失礼なものだと思う」

 

「…そうね。完全に失言だったわ。ごめんなさい」

 

「…ふん」

 

「…あー、まぁ俺のことはどうでもいいんだが…話を戻して良いか?」

 

「えぇ…」

 

「じゃあ…この件についてだが俺に1つ解決出来る方法がある。だから任せて欲しい」

 

 

八幡の一言に全員の視線が1つに集まる。

 

 

「任せるって…なにをするんだ?」

 

「それについては…別に言っても良いがあまり言いふらしたくはないな」

 

「はぁ?何も聞かず全部任せろって?そんなの…」

 

「――いいわ。あなたに任せる」

 

「…ヒッキーがそう言うならなんとかなるんじゃないかな」

 

 

優美子の発言を切った雪乃の後に、遠慮気味に結衣が続いた。

 

雪乃だけならまだしも、結衣がそう断言してしまったら優美子もあまり強く言えない。

さらに葉山も何も言わず、任せるかのように下を向いた。

 

3人の態度に八幡自身も少し驚くが、任せられるのなら好都合だ。

 

 

「じゃあこの後行われる肝試しで実行する。お前らは平塚先生から言われた通り驚かしててくれ」

 

「…」

 

 

こうして、鶴見留美への対策は八幡に一任された。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

小学生への肝試しは、もちろん監視下のもと、安全に行われる。

 

驚かす高校生達とは他に教師が所々におり、正しい道案内などをしている。

そんな中、八幡は最も教師達が手薄になる場所を見つけ、そこにあるカラーコーンをどけ、留美達と留美を無視している子達を行き止まりまで誘導した。

 

 

「ここまでは順調に行き過ぎて怖いところだが…こっからだな」

 

 

行き止まりまでたどり着いた子達は、道がなくなり困惑の表情を浮かべる。

辺りは真っ暗で、森独特の気味悪さが困惑を恐怖に変えていく。

 

頃合いを見計らい、八幡はみんなの前に歩み寄る。

 

 

「あ、高校生のお兄さん…」

 

「…八幡、?」

 

 

留美は驚き、他の子達は安堵する。

 

ここから八幡が、どれだけ愚かでそれだけ恐ろしいことをするのかも知らずに。

 

 

「…お前らは、留美をどうして無視してる?」

 

「…え?」

 

 

あまりに直接的な発言に、全員がそう聞き返した。

 

 

「どうして無視してるって聞いたんだが…聞こえなかったか?」

 

「え、えっと…」

 

「…どうした。早く答えろよ」

 

「べ、べつにこれっていう理由があるわけじゃ…」

 

「そうか…だったら、」

 

 

そう言うと、八幡は静かに右手を前に出した。

 

何をするのか。

それに気づけたのはきっと、昼間一緒に特訓していた留美だけ。

 

 

「〈聳え立て、炎帝〉」

 

 

静かに発した詠唱に、吸血鬼の性質が応える。

 

八幡と小学生を囲む炎の檻。

高さも範囲も熱も最小限。

けれど確かな明るさをもつ炎は、きっと誰かに気づかれる。

 

 

「ど、どうして…っ」

 

 

安堵から恐怖へ戻された4人は怯え、涙が自然と出てくる。

 

 

「…悪いな。そういう行為、一番嫌いなんだわ」

 

「っ…」

 

「これでも総武で一番強いキングなんて呼ばれてるんだが…まぁここでお前らが死んでも不慮の事故ってことで解決出来るだろ」

 

「し、死ぬって…い、いやっ…」

 

 

目の前の高校生、いやどこか狂ったかのように整然と、人の死を語る人物への理解が追いつかない。

なぜこんなこと、いやここまでするのか。

あまりに情報量がない答えは出ず、目の前の光景を信じるしかない。

 

 

「…俺も昔されてたことがある…いや、どうでもいいか。運がなかったって事で諦めてくれ」

 

「た、たすけてっ!」

 

「…」

 

 

そして、もう一度静かに右手を前に、いや4人に向けて伸ばした。

 

声を上げるもどうにかなることではなく、八幡が口を開けた。

 

 

「なんで――!」

 

「…あ?」

 

 

 

八幡の耳に響いた留美の声。

それにより、八幡の詠唱が止まる。

 

 

「…なんで、こんなことするの」

 

「人を無視する…それはそいつのことを下に見てるから出来ることだ」

 

「…」

 

「人を下に見る、とかそういうもんはこうやって分からせるほかないんだよ」

 

「それでも、ここまで…」

 

「そもそも、謝ったら許されるなんてのが甘いんだ。やったからにはそれ相応の報いがなくちゃいけない。そこに年は関係ない」

 

「…なら、」

 

 

どこか、悟ったように、何かを決めたように、留美が呟いた。

年に似合わない瞳を八幡に向け、その右手に覚悟を顕現させる。

 

紅く燃え上がる炎の剣。

 

それは目の前の相手にいる相手への開戦の合図だ。

 

 

「…お前のためにやってるつもりだったんだが…お前が教師にチクらないなんわかんないからな」

 

「…変だよ、八幡。こんなことするなんて…」

 

「そんな仲じゃねぇだろ。分かったような口をきかないでくれ」

 

「っ…」

 

 

八幡の冷たく突き放した言葉を合図に、留美が全力で八幡の懐に入る。

 

同じ年代から見ても、流石は吸血鬼の高位種。スピードが違う。

――しかし。

 

 

「…」

 

「――!」

 

 

八幡は剣で応じるわけでもなく、ひらりと躱すだけ。

その行為が留美をさらに激昂させた。

 

 

「(なんで…)」

 

 

子供の遊びに付き合っているように八幡は躱すだけ。

つまらなさそうな表情をする八幡の顔を見れず、留美は半ば無理やり戦闘に入り込む。

 

 

「(なんで――!)」

 

 

八幡の心を考えても、無表情は変わらない。

 

それに、この戦いとも言えないお粗末な遊びだっていつまでも続くわけじゃない。

炎の剣を顕現させ続けるのは留美にとっては過酷だった。

 

 

「(…相手の裏をかいたりしろ、勝てばなんでもOK)」

 

 

昼間に言っていた八幡の言葉を頭の中で繰り返す。

 

格下の相手が格上の相手に勝つとき、裏を掻くのは最も普遍的な手段だ。

 

 

「ぁ…っ!」

 

 

そして、留美が動く。

 

最早、何度目かも分からない八幡の躱しに、留美が足下の石につまづく。

よろけながら何歩か、前に進むと目の前には燃え盛る炎の壁。

 

 

「…は?」

 

 

八幡が作り上げた炎の檻。

 

中心に居る八幡が避け、そのまま留美が真っ直ぐに進めば、炎に当たるのは当たり前。

眼前に迫る炎に、留美は目を閉じて――、

 

 

「っ…」

 

 

だがしかし、熱さも痛みもやってこない。

 

やってきたのは、後ろに力で引っ張られる感覚のみ。

 

八幡があと寸前のところで、留美の服をつかみ後ろへ引き戻したのだ。

抱える余裕はなく、荒くなってしまったがそれでも留美を助けられたことには変わらない。

 

 

「お前、なにして――!」

 

 

留美に意図を聞こうとして、視線を向ける。

 

だが――。

 

 

 

そこには、笑顔でこちらに手を向け佇む留美の姿が。

 

 

 

「――八幡なら、助けてくれると思った」

 

「…」

 

 

「――これで、いいんでしょ?」

 

 

その留美の瞳を見て全てを察した。

 

留美が自分の身を捨てようとしたことが、演技で、まんまと自分が騙された事に。

そして、自分の浅はかな計画が留美にはお見通しだと言うことも。

 

最後の会話はきっと2人にしか聞こえない。

 

留美が仕上げの言葉を、唱える。

 

 

「〈灰と散れ、紅炎〉!」

 

 

留美が今できる、最高の詠唱を唱えた。

 

「――――」

 

 

今度は留美の詠唱に吸血鬼の性質が応える。

 

炎の海を作り上げようと、留美の右手から火が吹き出る。

きっと他の4人からすれば、留美がこんな大技をすることは恐怖に感じるだろう。

 

だが吸血鬼は戦闘を好んだ種族。

自分の体を顧みなければ、この程度はできるものだった。

 

 

「はぁはぁ…」

 

「る、留美…」

 

 

炎が落ち着く頃には、八幡の姿も炎の檻も消えている。

 

今度こそ脅威が無くなった現状に、留美の名を呟くしか出来ない4人に対して、留美はふらふらしながら一言呟いた。

 

 

「…大丈夫?」

 

 

見るからに消耗しているのは留美の方なのに、自分達に大丈夫かと問いかけてこられてはどう返して良いのか分からない。

 

けれど――、

 

 

「とりあえず、戻ろうよ」

 

 

そう言うと、留美は何故か微かに灯る火の玉を頼りに来た道を引き返し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「…答え合わせを、しましょうか」

 

「あん?」

 

 

大きな火を囲み、小学生達が歌に合わせ踊る。

ドキドキワクワクのキャンプファイヤーを周りから眺めていると雪乃が隣に腰掛けた。

 

 

「由比ヶ浜さんが心配になってあなたのことを見に行ったそうよ。けれど、あなたの姿は見えず炎に囲まれていた、と」

 

「…盗み見てたのかよ」

 

「その言い方が正しいのか分からないけれど…いえ、私がどうこう言えることではないわね。それで、外道谷くん」

 

「…なんだよ」

 

「答え合わせをしましょう」

 

「答えなんて持ってねぇよ」

 

「私があなたに質問して、それにあなたが答えるだけよ」

 

「それ答え合わせじゃねぇだろ…」

 

 

真剣な眼差しを向けられて、八幡は素直に黙った。

 

 

「あなたの狙いは…恐怖による支配、かしら」

 

「こえぇよ…そんなもんじゃない、人は助けられた恩人を無視できるほどひどいもんじゃないだろ、特に小学生は」

 

「そうね。けれど他の子達は彼女を怖がってしまったのではないかしら。由比ヶ浜さんも怖かったと言っていたし」

 

「吸血鬼ってのは所詮そんなもんだ。高位種にもなればな。というか恐怖ってのはそう悪いもんじゃない」

 

「…恐怖によって避けられるものよ。ソースは私。周りの人たちに怖がられて無視されることがあるのよ」

 

「そうだな、俺もそういうことがあったな」

 

「…だったらなぜ」

 

「それは俺とお前の場合だ。留美は俺たちみたいにコミュニケーション能力がないわけじゃない。それにあの容姿だ、そうはならない」

 

「…」

 

「あいつなら尊敬になるだろ」

 

「そう、かもしれないわね」

 

 

どこか思い当たる節があるのか、雪乃は八幡に言葉を返さずに下を向く。

 

恵まれた容姿というのは、思った以上に効力があるものだ。

どんなに怖い一面があっても、可愛らしく笑えば、なぜか緩和される。

ギャップ萌なんていうやつもいるだろう。

 

 

「あと…集まったときはごめんなさい」

 

 

次の質問、というか突然の懺悔に八幡は驚いて雪乃に視線を送った。

 

 

「三浦さんに言われたとおりだわ。あなたとそんな関係でもないのに分かったような口をきいて…」

 

「…まぁぶっちゃけあれは意味分からなかったな」

 

「それにあなたに任せたのはきっと信頼なんてものじゃなくて…あなたならどうするのか知りたかっただけ」

 

「…」

 

「…一方的に謝りたかっただけ。ごめんなさい」

 

 

少し共に過ごしただけで、自分は軽口をたたき合う仲になっていたのだと思っていた。

自分達はそういう関係性なんだと決めつけて。

その上、人が八幡を下に見ることには怒りを覚えた。

 

それはまるで――。

 

 

「…別にお前が口悪いのは今に始まったことじゃないだろ。三浦へのブーメランの意味は分からんがお前に軽口叩かれるのはもう慣れた」

 

「…そう」

 

「――あの、」

 

 

2人の会話が一段落したところで後ろから声がかかった。

後ろを振り返るとそこには、吸血鬼グループの担当の女性教師だった。

 

先の一見がもうばれたのか――、

 

 

「えーと…肝試しの片付けを高校生の皆さんにも頼めと平塚先生が言ってて…」

 

「あぁ…分かりました」

 

「一応、ここら辺が雪ノ下さんと由比ヶ浜さんが担当で、比企谷くんはこっちだそうです」

 

「うげ…俺の場所遠いじゃねぇか」

 

「私達もあまり変わらないわ。運が良いことにあなたとは場所が遠いようだけれど」

 

「うるせ。めんどくせぇな…」

 

「知らせてくれてありがとうございます」

 

「あ、いえいえ!では私はこれで」

 

 

そう言って、駆け足で立ち去る。

どうやらいつも忙しいらしい。

 

 

「小学校の教師とか大変なんだろうなぁ…」

 

「…あなた、まさか」

 

「深読みしすぎだろ…」

 

「平塚先生のような先生なのでしょうね。私は小学校の時の教師なんて覚えてないけれど」

 

「覚えてないとかお前は俺か…ってやっぱぼっちは同じもんなんだな」

 

「あなたと同じなんて最悪ね。それに流石に覚えてないことはないわ」

 

「ま、覚えてるよな。あんなにいい先生ではなかったけど」

 

「ふふ…もう行くわ。あなたもさぼらないように」

 

「さぼったら平塚先生が怖いからな」

 

 

そう言って先に立ち去る雪乃。

すぐに後を追いかける気にもならず、少しだけキャンプファイヤーの風景を眺める。

 

きっと留美は八幡のことを言わないだろう。ほかの4人にもそう言ってるかもしれない。

最後の自分の身を投げ出した戦略は見抜けず、自分の計画は見抜かれ、合わせられてしまった。

 

どこかモヤモヤした気持ちを考えず、自分の片付ける場所に足を向けた。

 

火は、未だに燃え続けていた。

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。
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