やはり吸血鬼の世界は間違っている。   作:Qualidia

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お願いします。


始まりはいつも不良から。

 

 

 

「じゃあ次はあれと…あ、これも可愛い」

 

太陽が上昇していくにつれ、気温も上がっていくお昼時。

正確に言えばもう太陽は折り返し地点を越えているのだが、屋内に居る2人には分からないことだろう。

 

「あのなぁ…流石に買いすぎだろ」

 

「お兄ちゃんが買ってやるって言ったんでしょ?」

 

「こんなに買うとは言ってねぇよ」

 

「女の子に、一着だけ買えっていうのは無理な話だよ」

 

両手に買い物袋を持ち、小町の後ろについて歩く八幡の顔は疲れ切っていた。

周りからは兄妹として見えているか恋人と見えているかは半分半分と言ったところだが、小町の容姿に引きつけられているのか、男子の視線が少し怖い。

 

「でも、お兄ちゃんに服燃やされたのは事実だし」

 

「あんなの事故だろ事故。それに燃やしたのは一着だけだから、買うのも普通は一着だろ」

 

「あのねお兄ちゃん。女の子に――」

 

「たった今聞いたわそれ」

 

時間は少し遡り、午前中。それは比企谷兄妹にとっては大事な時間だった。

強くなる――という意味合いも兼ねているが、2人は手合わせをしている。

 

今日もそれは例外ではなく、午前中は手合わせをしていたのだが、うっかり八幡が火を出しすぎてしまい小町の服の一部が燃えてしまったのだ。

 

「はぁ…お気に入りの服だったんだけどな」

 

「うぐ…悪かったって。意外と小町が強かったから少し、な」

 

「ふーん…ならいいけど…あ、これ欲しい」

 

唐突に八幡に褒められて嬉し恥ずかしになった小町は無理矢理、服に意識を持っていく。

兄離れ出来ておらず、憧れを強く持っている小町からすれば強くなった、と言われることは普通の人よりも大きな効果が出る。

 

「んー…今日はこのぐらいにしたげる」

 

「このぐらいって…何着だよこれ…」

 

「これでも少ない方だよ」

 

「まじかよ…由比ヶ浜とかならもっと買いそうだな」

 

「む…小町以外の女の人の名前出すなんてポイント減らすよ?」

 

「使い道のないポイントを貰っても嬉しくないんだけどな」

 

「八万ポイント貯めると小町をお嫁さんに貰えます」

 

「へーへー、そりゃ稼がないとなー」

 

適当にあしらう八幡に、頬を膨らませて不満気に睨む小町だが、八幡はそれに気づかず家に足を向けた。

 

「そーいえば、聞いたよ林間学校のこと」

 

「林間学校?俺から色々話しただろ」

 

「お兄ちゃんの言葉じゃ信用できなかったので、結衣さんに聞いたの」

 

「なにそれ、八幡的にポイント低い」

 

「無茶するのはいいけど…いやダメなんだけどさ…大丈夫なの?雪乃さんと結衣さん、変な集団に目つけられてるんでしょ?」

 

「みたいだな。まぁ雪ノ下は怖いお姉様がついてるから大丈夫だろ」

 

「結衣さんは?」

 

「分からん…雪ノ下と頑張ってるみたいだが…まだあいつらから自分を守れるほどの実力はないだろうな」

 

あの雪乃でさえも、単独で五色の脳に敵うとは思えない。

なら結衣はもっと無理だろう。成長は早い方、ではあるがまだ雪乃には及ばない。八幡も守ってやる、なんてことは思わないが目の前で起こったことに関しては対処する予定だ。

 

「小町とお兄ちゃんで倒せたぐらいだもんねー…お兄ちゃん1人でもきついのかな?」

 

「それも分かんねぇけど…この前も平塚先生と2人で戦ってやっとだからな…」

 

「戦ってみないと、って感じ?」

 

「ま、そういうことだな」

 

厄介な集団に絡まれた、と嘆いていた八幡も良い意味でも悪い意味でも、今の状況に順応してきている。

 

「この前戦ったのは鬼だったんでしょ?」

 

「あぁ」

 

「ならあと3人なんじゃない?」

 

「何の話だ?」

 

「あの集団のリーダーみたいな人だよ。ほら、あの天使と戦ったときもいた、のっぺらぼうみたいな人たちに指示出してた」

 

「…どうだろうな、そんなこと言ってなかったらしいし、仮にリーダーみたいなやつがいても2人いるかもしれないだろ?」

 

「だったら2人組とかで来ると思うけど…」

 

「そういうのはガーディアンの雪ノ下さんに任せればいいんだよ」

 

「それもそうだね」

 

リーダー――集団的には幹部と言った方が良いかもしれないが、何せ情報が少なすぎる。

目的などは雪乃達が聞いたようだが、集団の構成が見えていない。

 

八幡的には1つの生物に1人の幹部、の方がありがたいがその可能性も今は出せないだろう。

 

「――――!」

 

「…なんだあれ」

 

遠くから男の叫び声のような聞こえ、目線を送るとなにやら公園でもめ事が起きているようだった。

この距離では細かいことは分からないが、男が6人ほど…おそらく3人ずつのグループで喧嘩が起こっているらしい。

 

周りの人は見て見ぬ振りをしていて、人集りなどは出来ていなかった。

 

「うへぇ…真っ昼間からよくやるな」

 

「性質とか使えるようになるとああいう喧嘩も増えちゃうよね…」

 

「強い能力っていっても良いことだけじゃないしな…」

 

目を閉じ、うんうんとうなずき合う2人はどうやら何もしないらしい。

 

「触らぬ神に祟りなし、だな」

 

「神様にしては弱そうだけどね」

 

八幡も小町も、強いことは自覚しているがそれを誇示したいわけではない。

あくまで自分の身のため、小町は兄に近づくために努力しているだけであり、公園で起こっている男同士の喧嘩を止める労力は使わない。

 

「…!」

 

――男同士の、喧嘩ならば。

 

「お兄ちゃん、あれ!」

 

何かに気づいた小町が、八幡の襟をつかみぐいっと引っ張ると喧嘩しているところを指さす。

ぐえっと声を漏らした八幡が渋々そちらを見ると、小町の言いたいことが理解出来た。

 

「あの女の子達、巻き込まれてるんじゃ…?」

 

喧嘩している男達…幸いにも広い公園のため周りの通行者には被害は行かないだろうが、男達のすぐそばで怯えながら眺めている2人の女子学生が。

 

身長的には小町と同級生かその上…あの場から離れないということは喧嘩には巻き込まれていないが、喧嘩に関係のある人なのだろう。

 

「…いや大丈夫だろ。男達もあの2人に手は出してないし…ほら、帰るぞ」

 

「うー…でも流石に女の子は心配だよ…」

 

「俺はあんなやつらとは関わりたくないんだが…」

 

「でも…!」

 

お互いの考え方がぶつかる。

八幡の関わらない、というのも小町は納得しているが同じ女の子として見逃せることでもない。八幡も優しさがないわけではないが、それは身内に限るのだ。

 

「じゃあお兄ちゃんはここで見てて!小町がやっつけてくる!」

 

「お前はプリキュアか何かなの?」

 

ダッシュでその場に向かう小町の後ろを、「はぁ」とため息をつきながら歩いて追いかける。

流石に小町が巻き込まれたとなれば黙っている八幡ではない。

 

「あの!」

 

「あ…?」

 

短く、そして大きな声で小町が男達に呼びかけた。

男達の動きは止まり、女子学生は泣きそうな表情のまま小町を見ている。

 

「こんなところで喧嘩して…まぁそれはどうでも良いんですけど、この女の子達は無関係なんじゃないですか?」

 

「…お前はしゃしゃり出てきて、何言ってんだ?」

 

「喧嘩するならあなたたちだけでやってください」

 

「…あんなぁ、そもそも俺らがそこの女に話しかけたのにこいつらが邪魔してきたんだよ!」

 

「…ナンパしてたら横取りされたんですか?」

 

なんとなく憶測で言った言葉が男達の神経を逆撫でする。

事実そうなのかもしれないが、そう言葉にされると腹が立ってくるものだ。

 

そして小町の口から男達へ率直な感想が述べられる。

 

「…ださ」

 

「あぁ!?」

 

その一言でヘイトが全て、小町に向けられた。

6人全員が小町を睨み付ける。今まで喧嘩していたのに急に仲良くなったように小町を取り囲む。

 

そして1人が、自分の後ろの地面に手をつけた。

自分の影からにょきっと刀…いやバットのような棒を取り出す。

 

そんな芸当が出来るのはこの世界では限られている。

 

「…悪魔」

 

「女が増えた、って考えりゃ別に怒ることでもねぇな」

 

自己防衛に性質を使うことをこの国は許している。だが、ただの喧嘩で使うことは禁じられている。男達もさっきまでは性質は使っていなかった。

 

――けれど、一度性質を使ってしまえばそれは罪に問われかねない。

 

「――!」

 

影の棒を手にした男が小町にその脅威を容赦せず振り下ろす。

 

――だが、相手が悪い。

 

「が、ぁ?」

 

ひらりと躱すと、男の後ろ襟をつかむと思い切り引っ張り、地面に綺麗な尻餅をつかせた。

 

「はぁ…小町…」

 

「あ、お兄ちゃん、助けに来てくれたの?」

 

「助けが必要なら、な。てかお前ほんと何なの?ジャッジメントなの?」

 

「なにそれ」

 

「…なんでもない」

 

「…ナンパした女の子にやられてちゃ格好つかないだろ…警察も呼んだし、逃げるなら今のうちだぞ」

 

八幡が男達にそう伝えると、遠くからサイレンの音が鳴り響く。

どうやら通報したのは本当らしく、男達の顔が動揺に染まる。

 

「お、覚えてろよっ!」

 

「…」

 

そう良い走り出す男達はすぐに見えなくなった。

「ふぅ…」と安堵の声を漏らしてから八幡は小町と、女子学生と向き合う。

 

「あんなセリフ、アニメ以外で聞けるなんてな…」

 

「ありがとお兄ちゃん」

 

「まじ怖かった」

 

「そう言うと思った」

 

「あ、あの…」

 

安堵と、まだ消えない恐怖の間のような表情を浮かべる女子が話しかける。

 

「ありがとうございました…」

 

「いえいえ!何してないので大丈夫ですよ!」

 

落ち着かせるためか小町が目一杯の笑顔と元気な声でそう答える。

 

「小町、あとは頼むわ」

 

「え、帰るの?」

 

「荷物邪魔なんだよ…というか普通に疲れたから早く帰りたい」

 

「えー、警察の人来るんでしょ?」

 

「呼んだが、ここには来ないぞ。あっちにあるでかい公園でって伝えたから」

 

「なるほど。流石お兄ちゃん、悪いことに関しては頭いいね」

 

「褒め言葉として受け取っておくわ」

 

女子のことは女子に、そう考えている八幡はちらりと女の子の方を見てから荷物を持ち直し帰路につく。

 

後ろから元気な小町の声が聞こえ、どこか安心する。小町に任せておけば大丈夫だろう。

 

 

 

「へー!先輩だったんですね!えーと、いろはさん、でいいですか?」

 

 

 

帰りながら、とあることを思い出す。

 

助けた女の子の1人が八幡に覚えられるほど綺麗な髪をしていたのだ。

 

 

 

「うん、ありがとう小町ちゃん!」

 

 

 

――綺麗な、亜麻色の髪を揺らした、可愛らしい女の子だった。

 

 

 

 

 




ありがとうございました。
いろはすが好きすぎて登場させちゃいました。
少しでも原作に沿おうと、生徒会選挙篇を考えていたのですが、全く関係なくなるかもしれないです。


序章の序章の話でした。
次回より〈生徒会選挙篇〉もしくは〈一色いろは篇〉、はたまた全く違う名前の篇スタートです。

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