やはり吸血鬼の世界は間違っている。   作:Qualidia

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お願いします。


「――前座、ですから」

 

 

 

 

「…」

 

「…」

 

 

静まりかえる奉仕部の部室はどこか重たく流れていた。

 

あの実技の授業以降、挨拶以外では特に話していないが今日はとうとう挨拶まで交わさないほどになっていた。

 

理由は、と聞かれれば生物が違うから、としか答えられないだろう。

 

ぺらりぺらりという紙をめくる音しか聞こえない部屋に、ノックの音が二回響いた。

 

 

「…どうぞ」

 

 

鈴の音のような声に応答するように扉がゆっくりと開かれる。

 

そこから現われる小さなお団子。

別にお菓子のことではない。髪で結われたお団子である。

 

そして遠慮がちに顔を覗かせると雪乃に目を合わせながら挨拶をする。

 

 

「失礼しまーす…えっと…奉仕部、だよね」

 

「えぇ。由比ヶ浜結衣さん、ね。そこに座ってちょうだい」

 

 

自分の名前が覚えられていたことに驚いたのかびくりと体を跳ねさせ、恐る恐る用意されたイスへと座る。

 

 

「…ってヒッキーなんでいんの!?」

 

「…気づくの今かよ」

 

「知り合いだったの?」

 

「この前も言ったが違う。これが正真正銘、初対面だ」

 

「む…同じクラスなのに」

 

 

頬を膨らませる結衣に雪乃が紅茶を差し出す。

ありがとう、とお礼を言ってから一口飲むと、緊張が和らいだのか顔が緩んだ。

 

 

「それで、要件は?」

 

「あ、そ、そうだった。うーん…雪ノ下さんって人間の高位種、だよね」

 

「えぇ。そうだけれどそれがどうしたのかしら」

 

「少し恥ずかしいんだけど、その…強くなりたくて…色々教えて欲しいなぁ、なんて…」

 

 

自信が無いのか、それとも雪乃が怖いのか、どんどんと弱まっていく言葉に雪乃は顎に手を当て考える。

 

そんな様子を八幡は本を読みながらちらりちらり。

 

 

「強くして欲しいから戦闘技術を教えて欲しい…ということでいいかしら」

 

「う、うん。そういうこと」

 

「けれどあなた、葉山君の友達なのだから彼に見て貰えばいいのではないかしら」

 

「隼人くんに教えて貰うと周りの女の子から色々言われるだろうし、てゆうか絶対優美子に怒られるし…」

 

「その優美子、という子は知らないけれどまぁ大体は理解したわ」

 

「それに同じ人間である雪ノ下さんの方がいいかなって。この前の実技ちょーかっこよかったし!」

 

「…ありがとう。そうね……あまり多くの時間を取らなければ別にかまわないわ」

 

「ほんと!?良かったー…てっきりダメって言われるかと思ったよー…」

 

 

すんなりと承諾してくれたことに安堵したのかもう一口紅茶を飲む。

 

雪乃もそこらへんの人物ならば渋っただろうが、同じ人間、そして実技での真面目な姿勢を見ていたからこそすぐに承諾したのだ。

 

 

「…あなたはどうするのかしら」

 

「…あ?俺か?」

 

 

急に話を振られたため態度が悪い奴の返事のようになってしまったが雪乃は気にしなかったのか話を続ける。

 

 

「これは一応奉仕部への依頼よ。ならばあなたもそれなりに働きなさい」

 

「依頼なら仕方ない…かもしれんがあいにく俺は人間じゃない。雪ノ下が教えるのが妥当だろ」

 

「メインで教えるのは私だけど、それはあなたが働かなくていい理由じゃないでしょう」

 

「そりゃそうだろうが…客観的な意見を言うぐらいなら構わん」

 

「と、いうことだけどこの男も同伴で良いかしら」

 

「う、うん。あたしはいいけど…ってかヒッキーって何の生物なの?」

 

「あー…あれだ、神様だ神様」

 

「そんな生物いないし!」

 

 

適当に逃げる八幡だが、別に吸血鬼と言うのは嫌ではないのだ。

以前は雪乃に吸血鬼であることは他言しないで欲しいと頼んでいたが、本当に嫌なのは高位種だとばれること。

 

なので吸血鬼であると言っても良いのだが結衣はこうやれば言わなくてすむだろうという確信の元、言わないのである。

 

 

「それで、いつから何をするんだ?」

 

 

依頼に対する動きを確認するべく八幡が雪乃へ問いかける。

 

 

「…早速今日にでもやりましょう。由比ヶ浜さんがどれぐらい出来るのかを確かめないと何も出来ないわ」

 

「お前に任せる。で、場所は?」

 

「第四実技場を借りましょう。大きくはないけれどこれぐらいの人数なら十分なはずよ」

 

「了解した…ってなんだよ」

 

 

雪乃とのやりとりの最中、視線を感じそちらを向くとぶすっとした顔の結衣がつまらなそうに足を揺らしていた。

 

 

「…別に。なんか、夫婦みたい…」

 

 

八幡達のやりとりを見て可愛い感情を抱いているのに当人は気づかない。

 

まぁいいや、といった感じで八幡は視線を結衣から雪乃へ戻す。

 

 

「私は鍵を借りてくるから先に行っててちょうだい。ジャージは…持ってるようね。じゃあ行ってくるわ」

 

 

そう言って荷物を持って教室を後にする雪乃。

残された二人は雪乃の指示に従い、第四実技場へと足を運ぶ。

 

いつも実技の授業が行われているのは大きな第一実技場。

それ以外の実技場は生徒の個別練習用として存在し、主に3年生が卒業近くなると使うような形となっている。

 

 

「…」

 

「…」

 

 

着替えもさっさと終わり、静かな実技場の中で二人きり。

気まずい空気が流れるが、話す内容もないのでそのまま時が流れていく。

 

すると当然、ピロリロリンと可愛らしい音が鳴り響く。

 

 

「ほわぁ!?」

 

「うるせぇな…俺の携帯だよ」

 

 

耳を押さえながら携帯を開くと一通のメールが。

差出人はどうやら愛しの妹からだ。

 

 

「あー…どうしたもんか」

 

「どうかしたの?」

 

「妹がこの学校の前まで来てるらしい…そういえば今日は一緒に帰る約束してたな…」

 

「妹さんと仲いいんだね」

 

「あぁ。仲良すぎてもうそろ一線越えるレベル」

 

「急にセクハラ!?」

 

 

顔を僅かに赤らめる結衣を見て、意外と純粋なんだなと認識を改める。

 

どうしたもんかと悩んでいると雪乃が実技場に到着したらしい。

 

 

「雪ノ下、ちょっといいか」

 

「なにかしら」

 

「今日妹と帰る約束をしてたのを忘れててな。どうやら校門まで来てるらしいんだが…どうすればいい」

 

「私に聞く質問?別にここに呼んでも構わないけれど」

 

「帰っていいという選択肢はないのな。分かった、とりあえずメールでここに来るか一人で帰るか提案してみる」

 

 

そう言って携帯とにらめっこを始める八幡。

妹のご機嫌を斜めにしないために文章を慎重に作成していく姿はなんとも悲しいものである。

 

そんな八幡をさておき、雪乃は早速結衣へ指導を始める。

 

 

「無駄なことは省いていきましょう。まずは私を相手に戦って貰うわ。詠唱無しの模擬戦闘でいきましょう」

 

「う、うん…分かった」

 

「っと、その前に俺の妹がこっちに来るらしい。だから戦いの前に挨拶でもしてやってくれ」

 

 

八幡がそう言い終わると同時、実技場の扉が開かれる。

 

お化け屋敷へ入るように辺りを見回す少女は八幡を見つけると明るい笑顔を見せトテトテと駆け寄ってくる。

八幡の妹であるという証のアホ毛が揺れている。

 

 

「ほい、妹の小町だ」

 

「どうもこんばんわ!お兄ちゃんの妹の小町です!いつもこんなダメな兄のお世話をしてくれてありがとうございます!」

 

「彼と同じ部活の雪ノ下雪乃です。よろしく」

 

「やっはろー。ヒッキーと同じクラスの由比ヶ浜結衣です!よろしくね!」

 

「はいー!雪乃さんに結衣さん!お願いします!」

 

 

八幡とは真逆と言っていいほどの明るい性格に少し驚くが人なつっこい笑顔と高いコミュニケーション能力ですぐに馴染む。

 

そんな光景を素直に凄いと思う八幡が、小町を部屋の端へ呼びこうなった状況を軽く説明し始める。

 

その間に雪乃と結衣は模擬戦闘を始めようとしていた。

 

 

「では、気を取り直して…準備はいいかしら?」

 

「い、いつでもどうぞ!」

 

「それじゃあ…はじめれ

 

 

雪乃のスタートの声と同時に結衣が雪乃の懐へ潜る。

 

ほぼ初対面の相手にスタート直後から仕掛けられる度胸と、油断していたとはいえ懐に入れるスピードに驚く。

 

 

「――!」

 

 

迫る剣を最小限の動きで躱し、今度の雪乃の番。

洗練された突きの一手が結衣の喉元まで迫る。

 

もちろん本気でやっているわけではないので寸前で止め気ではいるが、結衣が止める前にしゃがむようにしてそれを躱す。

 

 

「っ――!」

 

 

自分の一手が躱されたことに動揺したのか体勢が崩れる――が、風を足に纏わせ大きな跳躍で結衣から距離を取る。

 

 

「…なるほど」

 

 

八幡が鋭い目つきで今の攻防を観察する。

人間とたたかったことのない八幡はどれぐらいで人間が強いと呼ばれるかを知らないためなんとも言えないが弱くはない、ということぐらいは分かった。

 

 

「…正直、なめてたわ」

 

「あはは…お父さんが少し過保護で昔からよく教えて貰ってたんだよね」

 

「実技の授業は本気ではなかったのね?」

 

「うん…強い女の子って肩書きで少し嫌で…周りの子可愛い子ばっかりだから本気でやると色々言われそうだし…」

 

「…比企谷くん。何かある?」

 

 

意見係の出番が思ったより早く来たことに多少不満を持つが、呼ばれた以上意見を言わねばならないため雪乃のもとへ歩く。

 

何故か隣をぴったりと歩く小町には面倒くさいので何も言わない。

 

 

「…度胸に反射神経。一瞬だったから分からんが剣術もそれなりの実力だと思う」

 

「そ、そっか…」

 

「…まぁ悪いところをあげるなら体の使い方と剣術があってないって感じだな」

 

「私もそれは思ったわ…けど戦っていけばバランスよくなっていくはずよ」

 

「体の使い方と剣術のバランス…むぅ…よくわかんない…」

 

「…あなたが今度は相手をしてくれないかしら」

 

「んー…そりゃ無理だな」

 

 

今度は客観的に見たいという真意を孕んだ雪乃の提案をずっぱりと切る。

 

無理、と即答する八幡に雪乃よ結衣がきょとんとした顔を向ける。

が、雪乃は思うとこがあったのか真剣な眼差しで八幡を睨み付け、

 

 

「…人間とはレベルが違うから無理、と?」

 

「あ?そんなこと言ってねぇだろ」

 

「また自分の力をいやらしく隠すのね」

 

「なんでそうなる。俺には俺の理由があるんだよ」

 

 

この前の一件が再発したかのような重い空気に結衣が怖がるように身をすくめる。

 

 

「…どうせたいした理由ではないのでしょう?力を隠すのが格好良いと勘違いしているのかしら」

 

「ちっ…あぁそうだな。たいした理由じゃねぇよ。『人間様』にとってはな」

 

「っ――」

 

 

八幡の言った言葉が雪乃の沸点を超える。

 

他生物が人間よりも強いのは自然のことで、だからこそ人間は戦う術を得た。

だが、他生物に劣っているという認識も心の中にあった。

 

だから八幡に『人間様』と言われたことが理性を失ったことにつながったのだ。

 

 

「――!」

 

 

かっとなって八幡へ剣を振るう。

それは本当に小さな喧嘩の中で起きた、小さな出来事に過ぎないし八幡も気にしない事、なのだが。

 

 

「――落ち着けバカ」

 

 

そう呟く八幡の前には振り下ろしたタイミングで止まった雪乃の姿が。

 

だがしかし、それを止めたのは八幡ではなくそもそも今の言葉も雪乃に対しての言葉ではない。

 

 

「――落ち着けって…小町」

 

 

雪乃の風の剣を小町の血の剣が受け止める。

 

吸血鬼の二つある『性質』の一つ、血を操る力である。

 

 

「…よくわかんない状況だし小町は部外者だから口は出さなかったけどお兄ちゃんに手を上げるのは我慢できないよ」

 

「はぁ…雪ノ下も悪かった。だから剣を下ろせ」

 

「っ…ごめんなさい」

 

 

つばぜり合いの状況から元に戻ったが空気は重たい。

 

そんな空気の中、雪乃がぼそりと呟いた。

 

 

「…比企谷くん、私と勝負しなさい」

 

「……は?」

 

 

雪乃の真意がわからず固まる八幡に、雪乃自身説明を始めた。

 

 

「あなたが本気を出さないというのであれば私が出すわ。それに私の戦闘を見せることで由比ヶ浜さんも参考になるだろうし」

 

「そんな面倒くさいことやらねぇよ」

 

「…いい加減に…」

 

「――じゃあ、小町が相手しますよ」

 

 

雪乃の言葉を遮る明るいはずなのに暗い声が3人の鼓膜を揺らした。

 

どこまでも真っ直ぐに雪乃の目を見る小町の瞳には、戦いたいという意欲や興味といった感情ではなく明確な『敵意』が灯っていた。

 

 

「…私は構わないわ。けど…もし私が妹さんに勝ったら…そのときはあなたが相手しなさい」

 

「…分かったよ。悪いな由比ヶ浜。少し離れて見るぞ」

 

「う、うん…」

 

 

結衣への指導教室もどこへやら、実技場は戦闘ムードになっていた。

静かに風の剣をもう一度顕現させる雪乃。

 

それに対し小町はもう一度血の剣を顕現させる。

剣を右手に持ち、左手から小さく炎を出す。

 

――吸血鬼のもう一つの『性質』である火を司る能力。

 

 

「…恵まれた二つの性質…その才能に溺れるなんて許さない」

 

「…そんなに気を張らないでください。所詮小町は」

 

 

くるくると剣を回す小町はどこか不気味な影を纏っているように見えた。

オーラ、と呼ばれるそれは天真爛漫な女の子から発せられるものではない。

 

にこり、と可愛らしく笑うと一度切った言葉の先を続ける。

 

 

 

 

 

「――前座、ですから」

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。
感想を書いてくれた方、本当にありがとうございます。感想を励みにこれからも書かせて頂きます。
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