やはり吸血鬼の世界は間違っている。   作:Qualidia

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お願いします。


出会いはいつも突然に。

 

 

 

 

開いた口が塞がらない。

そんな言葉を結衣は今まさに体験していた。

 

雪乃と小町の模擬戦闘。

小町の実力を知らないため、結衣はどこか雪乃が勝つのではと読んでいた。

実際、雪乃は強い。けれどそれは学校内での話に過ぎない。

 

学校外を見てみれば化け物はいくらでもいるのだ。

例えば、

 

 

「…もう、終わりですか?」

 

 

禍々しい赤黒い剣の先を雪乃に向け、静かに唱える小町の姿。

それは可愛らしい容姿でありながら化け物と例えるのにふさわしい佇まいであった。

 

 

「…すっご」

 

 

展開は圧倒的。

始まったと同時に、猛攻する雪乃の攻撃を全て流して僅かな隙をつく。

強者が弱者を弄ぶような戦いだった。

 

 

「はぁ…はぁ…っ、まだ終わってないわ」

 

「…小町的には面倒くさいのでもうやめたいんですけど」

 

「ならば帰ってもいいわよ…その代わり私の相手は彼になるけれど」

 

「さっきからお兄ちゃんに突っかかってますけど、お兄ちゃんに恨みでもあるんですか?」

 

「恨み…そうね、才能のある者は努力を怠る。それがどれだけ愚かなことかを教えなければならないわ」

 

「…まぁ人間からすればそうですよね」

 

 

どこか遠くを、悲しげに見つめる小町に雪乃は疑問符を思い浮かべる。

吸血鬼には吸血鬼の悩みがある、そういったことは理解できているつもりの雪乃だがどうしても努力をせず踏ん反り返る者をタダでは見過ごせないのだ。

 

 

「…吸血鬼の性質の1つ、血を操る力ですけど」

 

「…?」

 

「必ず指とかを傷つけて血を出すんです。それに形状を変化してる間はその傷が広がるような痛みが続きます」

 

「…」

 

「火を操るやつも同じです。制御だって他の生物より難しいし、自分の肌の所だけ温度を下げるコントロールだって必須です」

 

「何が、言いたいのかしら」

 

 

きっと小町の言いたいことに気づいている。

が、それでも最後まで聞かなければ自分は納得しない。そこまで分かった上で雪乃は声を震わせながら問いかける。

 

 

「小町は一応高位種ですけど、お兄ちゃんよりは弱いです」

 

「──」

 

「──前座。お兄ちゃんと比べれば前座ですがあなたに余裕で勝つぐらいの力はあります」

 

「…だから…だから何が言いたいの!」

 

「小町はさっき言ったことを努力して出来るようになり今の強さになりました。…だったら小町より才能があったお兄ちゃんはどれだけの努力をすれば強くなれると思いますか?」

 

「……その努力だって、私は知らない。だからそれを努力したとは…!」

 

 

自分で言っていて理解している。

今、どれだけ自分が支離滅裂なことを言っているのかを。

 

いつからかこの世で1番努力しているのは自分だと勘違いしていた。

自分より、私より、努力している者などいない、と。

 

 

「…文字通り死ぬほど努力してきた兄を、才能があるから、の一言で片付けることは絶対に許しません」

 

「──っ」

 

「そこまでにしとけ小町」

 

 

すっかり戦意をなくした雪乃をよそに、八幡と結衣が二人の元までやってくる。

 

どこか恥ずかしそうな、だけど少し嬉しそうな表情を浮かべながら小町の頭をゆっくりと撫でる八幡。

 

 

「あー…別に今小町が言ったことは気にしなくていい。まぁ俺が力を出せない理由は相変わらず話せないんだが…」

 

「ね、ねぇヒッキー」

 

「ん?」

 

 

袖口をくいくいと引かれ目線を持っていかれた先には、困惑する結衣の顔が。

何事かと視線で訴えると結衣はしどろもどろになりながら答えた。

 

 

「ヒッキーって吸血鬼の高位種なの…?」

 

「…あ」

 

「小町ちゃんと兄妹で小町ちゃんより強いってことはそうなんだよね…?」

 

「…はぁ…小町に言っておけば良かったな」

 

 

小町には学校で吸血鬼の高位種であることなど細かいことは伝えていなかったことを今更になって後悔する。

 

言っていたとしても、さっき小町は喋っていただろうからしょうがないな、と自分に言い聞かせ素直に結衣に話始めた。

 

 

「このことは黙っててくれ。目立ちたくない、ってのが一番の理由だが他にも色々あるからな」

 

「う、うん。それは大丈夫…ちょっとびっくりしただけだから」

 

「助かる…で、雪ノ下。今の俺がお前に何を言っても嫌みにしかならないだろうから何を言ったらいいか分からないんだが…」

 

「…そう、ね」

 

「…あ、じゃあさ仲直りとこれからよろしくーってことでどこかよって帰ろうよ!」

 

 

結衣らしいみんな仲良くなるための提案にノータイムで八幡と雪乃が嫌な顔をする。

きっと3人ならば行かないという選択になっていただろうがこの場には部外者でありながらある程度の発言力を備えてしまった人物がいるのだ。

 

 

「小町は構いませんよー。元々今日はお兄ちゃんとブラブラしてから帰る予定でしたから」

 

「よーし!奉仕部仲良くなろうの会を始めるぞー!」

 

「おー!」

 

「「はぁ…」」

 

 

何故かハイテンションの小町にながされる八幡と、断るタイミングを完全に失ってしまった雪乃がうなだれる。

 

その後、第四実技場の鍵を返し近くのファミレスへ。

なんとも謎なメンバーではある上に、顔立ちの整った女子高生と女子中学生を引き連れている八幡に男達の痛い視線が刺さる。

 

小町は「名誉なことでしょ?」と笑いながら気にしないが八幡当人からしてみれば中々に居心地が悪い。

 

 

「それでそれで、小町ちゃんは彼氏とかいないの!?」

 

「居るわけねぇだろ、会ってすぐのやつに何聞いてんだビッチ」

 

「めちゃくちゃ辛辣!?」

 

「まぁまぁ兄は置いといて…彼氏はいないですよー。したい人も特にはいないです。逆に結衣さんはいないんですか?」

 

「うぇえ!?あたし!?あたしは…ママが優秀な人をゲットしなさいってうるさいから…その…」

 

「あー…なるほどなるほど」

 

 

八幡の方をちらりちらりと見ながら恥ずかしそうに喋る結衣はとても女の子らしくて可愛いのだが…当の八幡はコーヒーにガムシロップをいれるのに必死で話を聞いていない。

 

しかし小町は結衣の感情をある程度察したのか、少し考えた素振りをしてから、

 

 

「お兄ちゃんをどうぞ…と言いたいところですが正直小町はお兄ちゃんのこと好きなので簡単には渡しませんよ?」

 

「べっ、別にヒッキーのことじゃないし!」

 

「それで雪乃さんはいないんですか?」

 

「っ…私?」

 

 

急に話を振られたため飲んでいた紅茶をこぼしそうになる雪乃はどこか小町に先ほどの一件で抵抗があるのか緊張しているかのような表情である。

 

 

「あ、さっきのことは気にしなくて良いですよ。雪乃さんが悪い人じゃないことぐらい分かりますし小町の言ったことも理解してくれてると思うので仲良くしてくれるとありがたいです」

 

「…ありがとう」

 

「いえいえー…で、どうなんですか?」

 

「そうね…私は決められた相手と結ばれるからそういったことはあまり…」

 

「雪乃さんの家のことは少しぐらいなら知ってますけど…相手を選べないほど厳しいんですね」

 

「え、なになにゆきのんの家ってなんかひどいの?」

 

「少し込み入った事情が…ってそれよりもゆきのんってなにかしら」

 

「あぁ、小町が説明しますよ」

 

「待って、なんで小町さんが説明するのかしら。その前になぜ私の家のことを…」

 

「えぇ!なにそれひどい!」

 

「…はぁ」

 

 

なんだかんだいってバランスの良い3人が恋バナ、のような話で盛り上がる。

恋愛に関しては生物は関係ないようで、それぞれの恋愛観や雪乃の家の話、八幡の幼少期の話などでも話し始めている。

 

そんな3人をよそにちびちびとコーヒーを飲む八幡がこちらへ歩いてくる人物を見つける。

 

肩ぐらいまで伸びたさらさらの髪に整った顔。

その顔もきっと日本に住む者なら必ず一度は見たことのあるものだろう。

 

 

「雪乃ちゃん、久しぶりだね」

 

 

八幡達の席で止まり、雪乃に挨拶するその人物は見惚れるほどの笑顔だ。

結衣と小町は一瞬きょとんとするがその人物が誰か分かったのか驚きの表情を浮かべる。

 

 

「……姉さん」

 

 

周りの客も騒然としてこちらを見ている。

それもそのはず有名人が目の前に居れば誰だって騒ぐだろう。

 

 

「…相変わらず嫌そうな顔するなぁ」

 

 

史上最年少でその組織に名を連ねた、正真正銘の『天才』。

 

 

 

――ガーディアンが第7席、雪ノ下陽乃である。

 




ありがとうございます。
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