やはり吸血鬼の世界は間違っている。   作:Qualidia

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お願いします。


〈総武祭篇〉まずは情報を知ろう。

 

 

 

「そーいえばゆきのんはどーするの?」

 

 

もう少し待てば暗くなる時間帯。

すっかり奉仕部の部員として馴染んでいる結衣が雪乃に話しかけた。

 

話しかけられた雪乃は何のことか察したのか、本を閉じ結衣に向き直る。

 

 

「そうね…女子トーナメントには出るつもりよ。けれどタッグトーナメントは…ペアを見つけられそうにないから出ないと思うわ」

 

「あー…あたしも出たいけどまだまだだしなぁ…」

 

「由比ヶ浜さんの実力なら中々いいところまで行くと思うけれど」

 

「今年は応援に回るよ」

 

 

ここで総武高校学校祭──通称、『総武祭』について説明したいと思う。

 

学校の少し外れにある闘技場で行われる学校一の強者を決めるトーナメント戦。

スタジアムのようになっている闘技場は何百、何千という数の観客を収納できる、名門校である総武高校には学校外からも観戦しようと多くの人が集まってくるのだ。

 

 

「ヒッキーは…やっぱ出ないの?」

 

「…小町に格好いいところ見せろって言われてな…究極の二択すぎて迷ってる」

 

「目立つぐらいいいと思うけど…」

 

「まぁ…な」

 

 

そして行われる競技は大きく分けて3種類。

 

1つ目は女子だけで行われる女子トーナメント──通称『クイーン戦』

2つ目は男子だけで行われる男子トーナメント──通称『キング戦』

 

そしてペア同士で戦うタッグトーナメント、の3種類である。

 

 

「あんなに嫌がっていたのに妹さんの一言で揺らぐなんて…まさかシスコン?」

 

「ちげぇよ、ただ小町が大好きなだけだ」

 

「それはシスコンの意味を言っただけだと思うけれど…」

 

「まぁでもずっと隠しておくのも大変じゃん?だったら派手にバーンと格好いい感じで見せていいと思うけど」

 

「…由比ヶ浜はいいのかよ。ずっと強い女子を隠してる…ってなんかおかしいか…」

 

 

少し前に言っていた強い女の子という存在への抵抗。

雪乃という強い女の子を見ているから、少しは大丈夫になったと思っていたがトーナメントには出ないとのこと。

 

大丈夫なのか、と言いたいが八幡には言葉が足りない。

 

 

「うーん…あたしのグループからは優美子が出ると思うけど…」

 

 

その答えになっていない答えに八幡は返答を悩む。

うまく説明できないもどかしさに頭をガシガシと無意識でかいてしまう。

 

 

「ま、可愛くて格好いい女子ってのもいいと思うぞ。うちの小町なんか可愛くて強いからな。誰にもやらん」

 

「別に小町ちゃん欲しいなんて言ってないじゃん…」

 

「どうして強い女性に抵抗があるのか知らないけれど…もし気が変わったなら女子トーナメントに参加して見てもいいんじゃないかしら」

 

「うぅー…けどそうなったらゆきのんと戦わなきゃじゃん」

 

「そうね、もし当たったら……ね」

 

「その間はなに!?」

 

 

総武祭まであと1週間。

トーナメントへと出場登録はもっと早い。

 

どうしたもんか、と考えつつも小町に嫌われるのだけは、と思っている八幡の答えは決まっているようなものだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「じゃあ今日は久しぶりに僕と模擬戦闘をしようか。みんながこの少しの間でどれだけ強くなったのかを知るいい機会だ」

 

 

奉仕部で総武祭について話した翌日。

 

いつも通り実技の授業の最初で担当教師はそう言った。

初めて模擬戦闘を先生としてから数日。今日までの授業は一人一人の弱点を先生がまとめそれを克服するような授業をしていた。

 

 

「ちなみに総武祭に出る生徒とかはこの中にいるのかな?」

 

 

いつも通りにこにことした笑顔で先生がみなに問いかける。

 

すると見たことのある顔、3名が手を挙げた。

 

 

「葉山くんに三浦さん、雪ノ下さんか…まぁ君たちは出るだけの実力はあるだろうね」

 

「いやー隼人くんならキングになれるっしょ!」

 

「あんまりハードルはあげないでくれ」

 

「周りの奴らも優勝候補は隼人くんだーって言ってたべ!」

 

「それは嬉しいね」

 

「…まぁ僕からしても葉山くんは実際いいとこまで行くと思うよ」

 

「おぉー!」

 

 

先生からのお墨付きの言葉に生徒が盛り上がる。

言われた葉山も、ガーディアン候補生からそう言われて嬉しくないわけがないのだろう。少し照れた様子だ。

 

 

「そうだな…せっかくだ、何個かいい情報をあげよう。まずは葉山くん」

 

「はい」

 

「君と同等の人達はきっと三年生になってごろごろいる。特にこの学校で君よりも明確に強い人は…2人、かな。あんまり言えないけど三年生の最上大雅くんって子が相当な手練れだ」

 

「…最上先輩なら何度か話したことがあります」

 

「なら彼の強さも知ってるね。彼は去年、三年生を倒してキングになっている。ガーディアン候補生になってないのが不思議な子だ」

 

「そう、ですね」

 

 

周りの人もその人のことを知っているのか少しざわつく。

葉山に話していた先生が、ちらりと八幡の方を見てぱちりとウインクをする。

 

それが意味することは何なのか、少し察しがつく八幡だった。

 

 

「じゃあ次に、三浦さんと雪ノ下さんに。まぁクイーンの方は正直あの子にほぼ決まり…と言ったら少し意地悪かな」

 

「…あの子?」

 

 

先生の言い方に疑問符を浮かべた優美子が、眉を下げて聞き返す。

雪乃の方はどこか心当たりがあるのか、なんとも言えない苦悶の表情をしていた。

 

 

「──城廻めぐり。一年生の頃はあの陽乃くんと決勝でいい勝負を見せ次の年は圧勝でクイーン。ガーディアン候補生であり、ガーディアンに最も近いとされる天才児だ」

 

「…ガーディアン、候補生」

 

「優美子は去年、熱を出して総武祭見れてないからね」

 

「それは惜しい事をしたね。彼女は天使の高位種、僕と同じだ。それに加えて陽乃くんに色々仕込まれてるからはっきり言って隙がない」

 

「そんな人がいるなんて聞いてないし…」

 

「総武祭はガーディアンの人も来たりする。少しでもアピール出来るように頑張ってくれ。よーし、時間を少し使っちゃったから今日はちゃっちゃと終わらせようか」

 

 

先生の一言で、前回のように出席番号順に並ぶ生徒。

どうやら男子は最上大雅について、女子は城廻めぐりについて話に花を咲かせているようだ。

 

 

「…比企谷くん。少しいいかしら」

 

「なんかあったのか」

 

「いえ…先ほど先生が言っていた城廻さんについてなのだけれど…私も去年、総武祭に出てないからよく知らなくて…あなた何か知ってる?」

 

「奇遇だな。俺も去年は自主休校で行ってない。だから何も知らん」

 

「…はぁ。姉さんが一枚噛んでいるなんて知らなかったわ」

 

「ま、あの人に教えられてるなら相当だろうな。しかも天使の高位種と来たもんだ。お前でもきついかもな」

 

「え、えぇ…」

 

「…どうした」

 

 

八幡の言葉にきょとんとする雪乃。

ぱちりぱちりと瞬きを繰り返す八幡が問いかけた。

 

 

「いえ…あなたが私をそう評価していたのに少し驚いて…」

 

「いやなんでだよ…前にも言っただろ。お前は強いって。客観的だろうが主観だろうがそれは変わらねぇよ」

 

「そ、その…ありがとう」

 

「…俺はどんだけひどい奴だと思われてたんだか」

 

 

どこかもじもじとする雪乃のせいで何だか変な空気になる。

…が、八幡がとっさに話を切り替える。

 

 

「そういえば…人間って希少なのにこの学校はハーフが多いんだな」

 

「ハーフは大体が優秀な人材として生まれてくる。だから名門校であるこの総武高校に集まってるのではないかしら」

 

「じゃあ少し下の学校に行ったら混合種とかが多くなるのか」

 

「混合種は優秀な人材が生まれてくる確率が半分ぐらいだから…」

 

「へぇ…」

 

「努力すればここに来れたのでしょうけど、混合種は劣等感が強い種と言われているから…そういうことなのでしょうね」

 

「…なるほどねぇ」

 

「それよりもあなたは結局出ないの?」

 

「キング戦のことか?昨日の夜、出ないと絶交って小町に言われたからな…出ざるを得なくなった」

 

「…では楽しみにしているわ」

 

「出るからにはいいとこ見せないといけねぇしな」

 

 

八幡の言葉を最後まで聞いたのか、それとも聞こえなかったか、歩き出す雪乃の後ろ姿を見送る。

 

目前に控える総武祭に多少の不安を抱きながら、どうすれば目立たなくて済むか、そんなことを考えながら竹刀を取りに歩き出す。

 

 

 

 

総武高校一大イベント。

 

──『総武祭』が幕を開ける。

 

 

 

 

 




ありがとうございました。
ここからオリキャラが多くなるかと思います。

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