ドンドンと空高く上がる花火。
昼間の空に上がる花火を綺麗とは思わないが、周囲の人物はそう思っていないように大きな歓声をあげる。
今の花火は試合の合図。
どうやら闘技場で試合が始まるようだ。
「…由比ヶ浜さん、少し買いすぎではないかしら」
「そ、そうかな?でもせっかくの優美子の試合だからいっぱい食べながら見たいじゃん?」
「出店で買うのと応援は関係ねぇだろ…」
学校外から出店を出させてくれという申し込みが多く、闘技場までの道には多くの出店が立っていた。
それら出店の料理で好きなものを片っ端から買った結衣は隣の席に料理を置いている。
若干失礼な行為だがどうしようもない、と諦めてもらおう。
「それで比企谷くん…あなたはどちらが勝つと思う?」
雪乃が真剣な顔つきで闘技場中央を見る。
そこには4人の人影、そして八幡が知っているのは3つだ。
「あー…葉山たちが負けるだろうな」
「やっぱりあなたもそう思うのね」
今、行われているのタッグトーナメント決勝。
4チームしかない僅かな出場枠の1つが葉山三浦ペアだ。
そしてもう1つ、葉山たちに相対するのは三年生ペア。
1人の秋神という女性とは知らないがもう1人は先日話題に出てきたばかりの人物だ。
『さぁ!総武祭タッグトーナメントもいよいよ決勝!解説は引き続き3年放送部の前川、そして解説は我らが総武高校が誇るエリート先生である神宮寺先生だー!』
『よろしくお願いします』
「…あの先生、神宮寺って名前だったのか」
「最初の授業で言ってたし…」
「かっこいい名前だな…」
解説役はあの実技の授業を担当してる先生だ。
2人の挨拶にまた観客のボルテージが1段階上がる。
『先生、今回の試合の見どころなんか教えてもらってもいいですか!?』
『そうですね…やはり第1試合でも圧倒的な力を見せつけた──城廻めぐりさんに注目していきたいですね』
『めぐりは3年生で唯一のガーディアン候補、同じ候補生として何かアドバイスなどはありますか?』
『それが特にないんですよね。才能はもちろんのこと努力もしっかりとしていてその上慢心がない』
『おぉー!すごい高評価!めぐりー!頑張ってー!』
『あはは…実況が応援しちゃダメじゃないかな…』
盛り上げ上手…かどうかは分からないが明るい実況役に冷静で実力のある解説役。
布陣としては高校の行事でもいい方なのだろう。
城廻秋神ペアvs葉山三浦ペア。
周りは前者の勝ちを疑っていないだろうが、どうなるのか。
『それではみなさん、カウント一緒にお願いします!さーん!にー!いーち!決勝戦スタート!』
ゴングの音が会場全体に鳴り響く。
盛り上がる観客。
それに対し、どこまでも冷静な挑戦者。
開始直後、先制攻撃は葉山ペア。
お互いが剣を作り出し真っ直ぐに城廻ペアに襲いかかる。
『ふむ…葉山くんは流石の錬成スピード。三浦さんは混合種なのにも関わらず早いね』
『鬼と天使というとても希少な混合種の三浦優美子さん!…というか鬼の血が入っているのに人間の姿なんですね』
『混合種はどちらかの血に偏ることが多いからね、三浦さんは天使の血が多く引き継がれたのだろう』
『なるほど…』
「…実況じゃなくて授業じゃねぇか」
八幡のツッコミも2人に届くはずもなく、結衣と雪乃が苦笑いで返す。
そう言ってる間にもペア同士がぶつかり合う。
「し────!」
「んっ──!」
葉山ペアの狙いはめぐり。
先制攻撃で大将の首をとってしまおうという作戦なのだろう。
そうはさせないと秋神が、めぐりの前に出ようとするがそれをめぐり自身が手で制す。
「午後からのクイーン戦のためにも体、動かしておこうかな」
ぽそり、と呟いた一言は近くにいた秋神と寸前まで迫っていた葉山にしか届かない。
それを聞いた葉山はぞわりと悪寒が背中を駆け抜ける。
「っ…」
しかし、こんなとこで立ち止まるわけにもいかず赤黒い剣をめぐりに向かって振り下ろす。
吸血鬼の上位種である葉山のスピードとパワーはそこら辺の人達とはやはり桁違い。凄まじい爆音と土煙が舞う。
「はやとっ──!」
想像以上に力が入ったのか、土煙が優美子の視界までも奪う。
取った、そんな感触など1ミリもないし、そもそもやれるなんて慢心もない。
ならば優美子の心配よりも先に、自分の周囲への警戒。
『凄まじい威力です葉山くん!吸血鬼の上位種はやはり格が違いますね!』
「わぁぁぁぁぁ──!」
特に盛り上がるのは葉山の取り巻きと、葉山のことをアイドルに見ている女子生徒だろう。
『…けど』
神宮寺先生の低い声で会場が一気に静寂の波が襲われる。
未だ舞う土煙の中で葉山が大声を上げる。
「っっつ!──優美子!上だ!」
再度襲う悪寒に従い、優美子に指示を出す。
晴れていく土煙。優美子と葉山は空を見上げる。
どこまで青く広がる空に佇むのは、
「あはっ…いいね」
──驚くべきほどに美しく、残虐な笑みを浮かべる紛うことなき『女神』だ。
左右に生える光を集めたような黄色の翼、そして神々しく輝く光輪。
みなが想像するような純白の翼ではなくともその姿は女神以外の何者でもない。
「〈降り注げ、光芒〉」
そして──詠唱。
両手に出来る、大きな弓矢。体に見合わない大きさのそれをゆっくりと引く。
投射と同時に一本の矢──いや、数千本に増えた矢が天から地上に降り注がれる。
「ちっ──!〈聳え立て、炎帝〉!」
めぐりの攻撃に呼応するように葉山が詠唱する。
葉山と優美子、2人とも囲うように出来る火の檻がめぐりの光の矢を消していく。
天才に食らいつく秀才。
ボルテージがまたひとつ、飛び上がる。
「はるさんが言ってた男の子…じゃ、ないね」
「っ…陽乃さんが何か?」
「んーん、なんでもない…。休んでる暇なんてないよ?ほら…〈穿ち放て、一閃〉」
続きざまに撃たれるめぐりの光を操る攻撃。
先程までの数で押す攻撃ではなく、一点集中。1つの矢に力を込め…放つ。
まるで天から降りた女神が力無き生物を罰するかのような光景だ。
「く、そっ──!」
最早優美子を気遣う余裕もない。一瞬でも彼女から目を離せば終わる──そう本能が告げていた。
だかしかし、葉山もそこで終わる者ではない。紙一重で攻撃を躱すとノータイムでこちらから攻撃を仕掛ける。
「〈薙ぎ払え、烈火〉」
先程とは打って変わり冷静な詠唱。
それはつまり、完璧に近い攻撃となる。
「っ──!」
めぐりの余裕の顔が一瞬歪む。
今大会、クイーンが初めて見せる表情に実況も解説も驚いて言葉を詰まらせた。
『せ、先生っ!今の技は!?』
『城廻さんの背後に火が噴き出す装置を作った…といえばわかりやすいね。葉山くん…少しなめてたかもしれないね」
『い、今の攻撃でめぐり…さんは下に落とされたような見えましたが…』
『あぁ、躱していたとしても一度地上近くまで降りないといけない。そしてそれを葉山くんは──』
一歩。
大地を大きく踏み込み、めぐりの着地地点まで走りきる。
地上に降りていなくとも、直接攻撃出来るほどまでは降りてきているはず。
「(きっと城廻先輩は詠唱の方が得意…!だから上空から動かなかった!だったら俺の得意な近接戦に持っていければ──!)」
数度交えただけにしては完璧な分析。
実際めぐりは詠唱の方が得意である、だから作戦も間違っていない。
ただひとつ、
「い、いない──!?」
そこに相手がいればの話である。
秀才は秀才。天才ではない。そこにどれだけの壁があるのか。
「〈天を駆け、〉」
うるさい歓声の中でも、その声ははっきりと聞こえた。
少し怒りを含んだ表情の女神を前に、何が出来るか。
…秀才では、天才に勝てない。
──1人、では。
「隼人!っ──!〈穿ち放て、一閃〉!」
先程のめぐりの詠唱をそのまま優美子が唱える。
静かに目を閉じ詠唱するめぐりに向かう矢は、誰もが予想していなかった…いや頭になかった一手だろう。
「〈我が手に、〉」
だか、めぐりは詠唱を止めない。
──どころか、詠唱が『終わらない』。
『──長節詠唱。ここまでとは…『絢爛の女神』城廻めぐり…僕でもきついかもね』
「〈集い狂え、雷光〉」
優美子の攻撃が届く、寸前。
完成した詠唱が形を成す。弓を引く動作から放たれる、この世の終わりを連想させる光に観客は目を閉じる。
──秀才と天才の間の壁は未だ知らず。
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「…す、凄かったね」
午前のメインイベントであるタッグトーナメントが終わり、午後から行われるクイーン戦とキング戦。
前座とされていたタッグトーナメントが予想以上に盛り上がりその気はなくとも個人戦のハードルも上がっていく。
「…正直、あの人に勝てる想像がつかないわ。これからクイーン戦で戦うと思うと…少し怖いわね」
「格上の相手と戦うと色々と分かるもんだぞ。自分の弱点とか惨めさとか虚しさとか」
「分かりすぎだよそれ…」
「けどまぁ、圧倒的だったな。葉山も頑張った方だが…」
「優美子、傷ついてそう…隼人くんのことサポート出来なかったーって」
「あれはサポートとかのレベルじゃねぇだろ…2対1でもあんまり変わってなかったと思うし」
「私たちも休憩しましょうか」
周囲の観客も熱が冷めないまま手洗いやらお昼ご飯とかに向かっている。
八幡も午後からやってくるという小町に会いに動き出す。
結衣と雪乃は手洗いに向かうようで、携帯片手に小町を探す。
すると少し遠くから手を振る小町…と、隣にはおとなしそうな女の子。友達とくると言っていたからその人物だろう。
「おー、迷わず来れたか」
「流石に迷う歳じゃないよ。あ、こちら小町の友達の桜木咲良ちゃん。で、こちら小町の兄の比企谷八幡でーす」
「…どーも」
「こ、こんにちは…小町ちゃんにはいつもお世話になってて…」
「こっちこそうちの小町がいっつも迷惑かけてすまんな」
「む…迷惑かけてる前提やめてよね。それでお兄ちゃんの出番はいつなの?」
「えーと…確か午後の2時ぐらい?だったかな。入り口にトーナメン表あるから見てこい」
「小町ちゃんのお兄さん、試合出るんですか!?」
思わぬ食いつきに、八幡どころか小町もびっくりしている様子。
まぁ見た目が弱そうなばっかりにそういった評価を第一印象で与えてしまうのはしょうがないことなのだが。
「あぁー…そういえば咲良ちゃんガーディアンとか強い人見るの好きだったね…総武祭に出れる人は大体強いから…」
「悪いけどご期待に添えるか分からんぞ。小町に出ろって言われたから出ただけだし」
「いえいえ!総武祭のキング戦とクイーン戦に出る人はエントリーの中でも優秀な8名だけなんです!だから弱い訳がありません!」
「お、おぉ…俺よりも総武祭に詳しいな」
「そして今年はガーディアン候補でクイーンの城廻めぐりさんや、キング戦での活躍が期待される最上大雅さんに葉山隼人さん!あぁ!クイーン戦にはガーディアンの妹である雪ノ下雪乃さんも…」
「はーい咲良ちゃんストーップ。どっからそんな情報仕入れてくるのやら…ほら出店行くよ。お兄ちゃんは?」
「ん、俺はその辺ぶらぶらしてるから2人で行ってこい」
「ほいほーい」
熱くなる咲良の手を取り歩き出す小町。その姿は少しだけ姉妹ように見えなんだか新鮮に感じた。
やる事が余ったより早く終わってしまったため八幡は小町に言った通りその辺をぶらぶらし始める……のだが。
「げ」
「ん…?あー、比企谷くんじゃなーい」
最近できた苦手な人、雪ノ下陽乃である。
神宮寺先生とめぐりとの3人で何やら話していたようだが運悪く見つかってしまった。
有名人であるガーディアンの陽乃だが、今はそれ以上に目立つ格好をしている。
「…それでガーディアンがなんでここに」
左右の背中から生えている純白の翼。
それは天使であるめぐりや神宮寺先生の方が似合うであろうが、人間である陽乃に付いている。
ガーディアンとして認められた者だけに扱える翼である。
「いやぁこの翼、便利なんだけど目立つんだよねー…人間は翼なんて生えないから違和感ありまくりだし」
「…いやそういう事じゃなくて」
「んー?警戒と威嚇、かな。この翼を見せつけるだけである程度抑止力にはなるし」
「大変ですね」
「まぁね。あ、こちら比企谷八幡くん。今回のキング戦に参加する期待のルーキー」
「…どーも」
自分の紹介文に文句をつけたいところだが、名前だけ覚えられればいいかと思い素直に頭を下げる。
ふんわりとした笑顔でめぐりが答える。
「3年の城廻めぐりです。えーと…よろしく?」
「(なにやだ可愛い)」
…という心の言葉は置いておき。
冷静に見てみれば中々豪華なメンツである。
ガーディアン第7席の陽乃に、候補生のめぐり、元候補生の神宮寺先生。
この学校の生徒なら立ち止まってみるほどのメンツだ。
「ま、比企谷くんが出るってことはやっと正体をバラす気になったの?」
「正体って…別にそんな大層なことじゃないですよ」
「…?」
不思議そうに首を傾げるめぐりに、「あぁそっか」と陽乃が説明を始める。
「比企谷くんは吸血鬼の高位種なんだよ。だからめぐりともいい勝負するんじゃないかな」
「へぇ…高位種」
ぎらり、とめぐりの目の色が変わる。
興味のあるものからないものへ、品定めをされているかのような視線を全身に浴びなんとも居心地の悪い空間だ。
「あんまり人の個人情報を言わないでくれますかね」
「ありゃ、怒っちゃった?」
「怒った…それなら勝手に俺のことを調べてることに怒りますよ」
「へぇ…なんでそのことを知ってるのかな」
「そこは認めないで欲しかったですけどね。まぁ少し情報を集められる人がいるんで」
「…君は思った以上に厄介かもしれないね」
「厄介じゃなきゃこんな性格になってませんよ」
ばちばちと視線が交差する中、止めに入ったのはめぐりだ。
「まぁまぁ…比企谷くんもはるさんも落ち着いて…戦うことは無いと思うけどよろしくね比企谷くん」
「…まぁ『絢爛の女神』様に敵うなんて思ってませんよ」
「その呼び方、恥ずかしいんだけど…」
照れるめぐりをよそに、陽乃がまた口を挟む。
もうそろそろ話すのをやめたいところだが、八幡も何故か口が止まらない。
「…私になら敵うと?」
「なんでそうなるんですかね。城廻先輩に敵わないって言ってるのにあなた…『純白の悪魔』、に勝てるわけがないでしょ」
「そう?君の目はそうは言ってなかったと思うけど」
「そんなこと言われても思ってないんでどうしようもないですね」
「ふん…私の呼び名も知ってるなんて…君は何者なの?」
「言ってるでしょう、少し情報を集められる知人がいると」
「はい、ストップだ。比企谷くんとめぐりくんもうすぐ控室に行く時間だろ?それに僕も解説役なんて受けちゃったからね」
めぐりで止められなかったため今度は神宮寺先生が止める。
ようやく落ち着いた2人だが周りの目が増えていることに気づき、陽乃が何も言わずその場を去ってしまう。
「じゃあ君たちは控室に向かいなさい」
言われた通り控室へ向かう。
冷静になって考えれば、いつもならあそこであんなに言い返すなんて自分らしくない。
なぜ口が止まらなくなったのか、そんなことをぼーっと考えていると不意に携帯が鳴る。
見れば小町からの応援メールのようだ。
『お兄ちゃん頑張って!本気でやってるかっこいい姿を小町も咲良ちゃんも期待してるよ!』
謎の自撮り付きのメールに苦笑いが漏れる。
恥ずかしそうに笑う咲良と、元気に笑う小町。美少女2人の写真に自然と手が保存ボタンを押そうとする。
「ってやべえか」
だか、間接的とはいえ今日初めて会った子の写真を保存するというのは抵抗が生まれる。
しかし兄としては小町の写真は欲しい。
小町の写真か世間体か。
迷った末に出した答えは、
「…2人とも可愛いから仕方ないな。うん」
考えうる限り最もクズのものだった。
ありがとうございました。