焔千景は日常を謳歌する   作:春囃子風

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第6話後編です。

リアルでトラブルがあり投稿が遅れまして申し訳ありません。その代わりと言う訳ではありませんが今回少し長めです。

最後に人物紹介あります。
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それでは本編どうぞ。


元気な心(後編)

 今まで物騒な準備をしていた2年の男性陣の動きが一斉に止まった。

 

 「え?加々知先生?マジで?」

 

 「マジもマジ大マジよ。ちょうど職員室に用あって行ったら加々知先生の前に正座させられてる男子生徒がいて、その近くにいた鳴橋先生に事情を聞いたら鳴橋先生も付き添うから文芸部に伝えといてくれって」

 

 「……………蓼原」

 

 「……はい」

 

 「帰ったら弟君に優しくしてやってな」

 

 「はい」

 

 兄さんがさっきまで言っていたことと真逆なことを言いだした。

 

 「兄さん、さっきまでと言ってること逆よ?」

 

 私の台詞に蓮太郎さんとディルムさんが答える。

 

 「千景、そりゃあ仕方ないって」

 

 「何と言ってもあの加々知先生に捕まったのだからな」

 

 「そんなに凄い先生なんですか?その加々知先生って」

 

 有馬君が質問する。確かに気になる。兄さんたちの反応である程度凄い先生だと言うことは解るのだが、具体的にはどれくらいなのだろうか?

 

 「加々知先生はな、風紀委員の担当顧問の先生やで。後、現在の3年の学年主任をやっとるな。そんでもってこの学校のOBで当時の意異名が『鬼神(きしん)』やったって話」

 

 「ずいぶん物騒な意異名だな」

 

 小紅ちゃんが苦笑交じりに言う。確かに物騒よね、鬼神って。

 

 「………見た目…も……とっても…怖いよ…」

 

 「まあ、初めて見た時はどこの殺し屋よって思ったわね」

 

 ひふみさんが震えながらポツポツと呟き、木更さんが同意するように当時の自身の感想を述べる。そんなに怖いのか。

 

 「あの先生の存在がウチの学校の生徒が教員に手を上げず、犯罪に手を染めない理由の8割を占めてるからな。ははは、こりゃあ意気込んで、ただで卒業させないなんて言ったが俺らの出番無くなったかな?」

 

 兄さんが苦笑しながらぼやく。

 

 「それで、天童の用事はそれだけ?」

 

 兄さんが木更さんに訪ねる。………そういえば、天童ってどこかで聞いたような。どこだったかしら?

 

 「いいえ、これを届けに来たのが本当の用事」

 

 「ん、ああ、部の年度目標と来週の部長会議の資料か。わざわざ生徒会議長様が届けなくても喚んでくれたら俺が行ったのに」

 

 兄さんが木更さんから紙の束を貰い呟く。

 

 「本当は会長が来ようとしてたのよ?」

 

 「は!?夜ノ森先輩自ら!?なんでそんなこと…………おい、()()()

 

 兄さんが小紅ちゃんを見て何かしらの答えに行き当たる。

 

 「その()()()よ。最初文芸部だけに行こうとしてたんだもの。私と撫子(なでしこ)副会長で止めたわ」

 

 「他の人たちは?」

 

 「皆他の仕事でいなかったのよ。保坂(ほさか)副会長以外」

 

 「なるほど」

 

 「そんな訳で代わりとして私が来たの。まあ、ちょうど私用で蓮太郎君が新入部員を邪な目で見てないかのチェックをしようと思ってたから」

 

 「ちょっ、木更さん!?」

 

 「大丈夫、()()()()()()邪な目を向けてないから」

 

 「せやけど、明希ちゃんのスカートの中身は気になっとってたで」

 

 「おい!?徹隆!八神!」

 

 「……………焔君、蓮太郎君連れてくけど良いよね?」

 

 木更さんが笑顔で兄さんに問う。

 

 「「「「「どうぞどうぞ」」」」」

 

 「な!?お前ら!?」

 

 2年生全員が肯定したわ。

 

 「チカちゃん、私びっくりしちゃった!」

 

 「ええ、私もよ。まさかディルムさんとひふみさん、蓼原さんも乗ってくるなんて!」

 

 「友奈!千景!変なことに驚いてないで助けてくれ!!」

 

 「あら?蓮太郎君、名前呼びで助けを求められるほど1年生の娘と仲良くなってたのね?

 

 「き、木更さん!?違っ!?」

 

 そう言って木更さんは蓮太郎さんの制服の襟首を掴んで引きずっていく。蓮太郎さんかなり力を入れて暴れているようだけど木更さんは軽々しく彼を連れて行く。蓮太郎さんって確か兄さんたちの中で1番強いんじゃなかったかしら?それをあんな軽々と。それとも蓮太郎さんの天童流戦闘術って体捌きに主きを置いているとか?ん?あ!()()流戦闘術!!そうか、天童ってどこかで聞いたことがあると思っていたら!てことは蓮太郎さんより木更さんの方が強いってことよね?蓮太郎さん暴れてるのに木更さん全然重心がぶれてないもの。

 

 「じゃあ、文芸部の皆さん。失礼するわね」

 

 「おう。夜ノ森先輩と鹿島(かじま)先輩によろしく」

 

 「徹隆!てめえ、憶えてr……」

 

 ガチャ

 パタン

 

 扉が閉まると同時に蓮太郎さんの声は聞こえなくなった。あら、かなりの防音設備ね。

 

 「あの~、里見先輩は大丈夫なんでしょうか?」

 

 今まで静かだったラティナちゃんが聞いてきた。

 

 「安心しろ、ラティナ。いつものことだ」

 

 「そうそう、夫婦喧嘩は何とやらって言うしな」

 

 ディルムさんと兄さんが気にしなくて良いと言ってきた。

 

 「あ、やっぱりあの2人は恋人同士だったんだ」

 

 「「「「「いや」」」」」

 

 「「「え!?」」」

 

 2年生全員からの否定にラティナちゃんだけで無く小紅ちゃんとまゆらちゃんも驚いた。

 

 「やっぱり、普通はそう思いますよねぇ」

 

 「………いつも、あんな…感じ」

 

 「ほんまに、はよくっつけ!て感じやな」

 

 どうやら毎回こんな感じらしい。と言うか、アレであの2人は本当に付き合って無いの?端から見たら恋人同士のイチャイチャにしか見えないんだけど。

 

 「さて、自己紹介も終わったし今日は文芸部の活動を説明して終わりにするか」

 

 「あ、お兄ちゃん、1つ質問良い?」

 

 ユウちゃんが挙手して兄さんに聞いてきた。

 

 「ん?何だ?」

 

 「お兄ちゃん、前に文芸部員は蓮太郎さんとひふみちゃん以外に4人いるって言ってたけど、後の1人は?」

 

 そういえば、言ってたわね。兄さんの数え間違えだと思っていたわ。

 

 「ああ、そういえば言ったな~。もう1人は今アメリカに留学中で来月には帰ってくる予定だから、きたら自己紹介して貰うよ」

 

 アメリカに留学中?確かユウキさんのお姉さんがそうだったような?じゃあ、文芸部の最後の1人はユウキさんのお姉さん?

 

 「他に質問ある奴いるか?………じゃあ、部活内容を説明してくぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃあ、俺は蓼原と職員室行ってくるから。千景たちはそのまま帰るのか?」

 

 部活が終わったので私と徹隆さんは職員室の加々知先生の元へ向かい、ことの経緯を聞くことになりました。なので他の人たちとはこのまま別れます。

 

 「ええ、途中まで皆で帰ることになったの」

 

 徹隆さんの問いに千景さんが答えます。本当に仲の良いご兄妹ですねぇ。羨ましいです。て、いけないいけない。どうやら私は自分が思っている以上に嫉妬深いようで、気を付けないといけません。

 

 「Ah,(あ、) j'y pense!(そうだ!)蓼原さん」

 

 「へ?は、はい!?」

 

 私が自己嫌悪に陥っていると友奈さんから声をかけられました。友奈さん今何て言いました?あ、そういえば、入学前はフランスにいたと聞きました。と言うことはあれはフランス語でしょうか?って今はそんなこと考えている場合じゃないですよねぇ。何でしょう?やっぱり本当は怒っていて、文句の1つや2つは言おうと思ったのでしょうか?

 

 「友達になりましたし、明希ちゃんって呼んでも良いですか?」

 

 「へ?」

 

 「私も明希さんって呼んで良いですか?」

 

 友奈さんと千景さんが笑顔で聞いてきました。ははは、私はこんなにも良い人たちに嫉妬していたんですか。本当に私は醜くてダメですねぇ。

 

 「構いませんよ。あと、ユウキちゃんやひふみんとは普通に話しているんですよねぇ?私にも普通に話してくれて良いですよ。その代わり、千景ちゃん、友奈ちゃんって呼んで良いんですか?」

 

 「ええ、良いわよ。それと……」

 

 千景ちゃんが私の耳元まで近づいてきます。え?何でしょう?

 

 「兄さんは鈍感だからちゃんと言わないと伝わらないわよ?」

 

 「!?」

 

 え?え!?

 

 「ふふふ。あ、そうだ()()に関しては私も一家言あるからなんかあったら相談に乗るわ。理由が知りたかったら兄さんに聞いて」

 

 「良いのか?」

 

 「ええ、私は構わないわ」

 

 「Je ne me dérange pas non plus.(私も構わないよ。)

 

 「じゃあ、先帰ってるわね。兄さん」

 

 そう言って千景ちゃんたちは帰って行きました。私の心を掻き乱したまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おや、焔さん、蓼原さん、部活は終わったのですか?」

 

 「徹隆君、明希さん、木更さんから話聞いてますか?」

 

 私たちが職員室に入ると加々知先生と榛名先生が声をかけてくれました。

 

 「はい、加々知先生、榛名先生。この度はウチの弟が大変御迷惑をお掛けして、申し訳ありません」

 

 私は先生方に謝りながら弟、博斗を見ます。正座させられて、坊主になってます。………よく見たら目からハイライト消えてますねぇ、コレ。

 

 「ん?ああ、コレですか?反省にはやはり丸刈りかな?と思いまして」

 

 加々知先生がことも何気に言ってきます。いや、まあ、坊主も驚いたんですが、何でハイライト消えてるんですかねぇ?

 

 「いや、加々知先生、多分蓼原が聞いてるのはそっちじゃないと思います。なんで小田原の心が折れてるのかが気になってるんだと思います」

 

 「普通に説教しただけなんですがねぇ?」

 

 ビクッ

 

 おや?今博斗が動いたような?

 

 「何『おかしいなぁ』みたいな顔してるんですか!!人の心折る説教ってどんな説教ですか!?」

 

 「焔さんたちを説教した時の10分の1程度なんですが?」

 

 ビクッ

 

 あ、また動きました。加々知先生の説教って言葉に反応してるんですかねぇ?

 

 「え!?それって由良のとばっちり受けた時のアレですか!?何やってるんですか!?普通の人の精神は俺らみたいにオリハルコンや由良みたいにリバイバルスライムで出来てないんだから折れるに決まってんだろ!!」

 

 「!!」

 

 「『あっ』みたいな顔してんじゃねぇ!どうすんだよ、コレ!?」

 

 「お、落ち着いて、徹隆君!先生が親御さん呼んでおきましたから!」

 

 「あ、榛名先生、いないと思ったら電話してたんですか。で、お母さんは来てくれるんですか?」

 

 「はい、20分くらいで来るそうですよ。……ところで明希さん、顔が赤いようですが大丈夫ですか?」

 

 「うぇっ!?だ、大丈夫です!」

 

 うー、さっき千景ちゃんに言われたことを思い出してしまいました。せっかく弟ばかり見て気を紛らわしていたのに。なんで千景ちゃんにばれたんでしょうか?そんなに解り易いですかねぇ?私って。と言うか千景ちゃんのあの台詞のせいでまともに徹隆さんの顔を見ることができません。

 

 「千景に何か耳打ちされてからだよな?何言われたか知らんがあまり気にしなくて良いぞ?千景のことだから今回の件のちょっとした仕返し程度に考えてるだろうから」

 

 なるほど、これは千景ちゃんからの罰なんですか。これはなかなかカナリの罰ですねぇ。流石徹隆さんの妹ちゃんです。

 

 「とりあえず、コレ少しはどうにかしません?」

 

 「確かにコレをこのままというのは流石にマズイですね」

 

 「でも、どうすれば良いんでしょうか、コレ?」

 

 「この際コレこのまま持って帰りますよ」

 

 「いえ、コレをこのまま親御さんに渡すのは教員としてどうかと。ねぇ、加々知先生?」

 

 「確かにそうですね」

 

 「元はと言えば加々知先生がコレをこんなんにしたんですから。何か妙案無いんですか?」

 

 「そうは言いましても、まさかコレがここまでになるとは思っていなかったので」

 

 「てことはアレか?最大の要因はコレが弱すぎたってことですかね」

 

 「すみません。コレが弱すぎて」

 

 「いえ、蓼原さんのせいではありません。全てコレの責任です」

 

 「そうそう、相手を考えず手を上げようとしたコレの責任だから。蓼原は悪くない」

 

 「てめぇら、さっきからわざとだろ!?」

 

 「「「「そうだよ(ですよ)」」」」

 

 コレ、もとい博斗が起きました。お母さんが来る前に起きて良かったですよ。

 

 「人が黙って聞いてりゃあコレコレコレコレと俺は物じゃねぇつぅの!!」

 

 「加々知先生に説教されて心が折れたにしては随分威勢が良いな?」

 

 「うっせぇ!その加々知とかいう亀みたいなつり目の先公だって俺の不意を突いただけだ!真っ正面からやったら俺が勝つね!」

 

 「亀みたいなつり目って言われてますよ?」

 

 「目つきの悪いガリガリ君に言われましても、ねえ?」

 

 「てめぇがやったんだろうが!?」

 

 博斗は大きな声で威嚇するように吠えていますが、徹隆さんと加々知先生にはどこ吹く風のようです。

 

 「はん!どうだろうと先公である限りPTAが怖くて体罰は出来ねぇんだ。だから口だけの説教しかしなかったんだろ?」

 

 あー、よくいる三下の台詞ですよ。我が弟ながら情けないですねぇ。

 

 「お前な~、加々知先生をまともな先生と一緒にするなよ」

 

 「なんだよ?昔堅気の体罰ありの先公だとでも言うのかよ?」

 

 「違う違う。まともな先生と一緒にするなって言ったろ?体罰をやったっていう証拠を残す訳ないだろ

 

 「は?」

 

 「焔さん、語弊がありますよ。ただ、更生するか、従僕するように強調するだけです

 

 「てめぇ、ホント先公か!?」

 

 「「この学校じゃあ普通だよ(ですよ)」」

 

 はい、その通りです。良くも悪くも変人の集まりなんですよねぇ、この学校。

 

 「まあ、先生の指導は時間かかりますし、今回は()()()()()()()()()でまとめましょうか?」

 

 「良いんですか、焔さん?」

 

 「こういうのは近くに、同年代で自分より強いヤツがいなくて天狗になってることが多いんで、この方が対処し易いことありますから。て訳で、俺が相手するから」

 

 「は?てか、さっきからてめぇ誰だよ?」

 

 「君が入部しようとした文芸部の部長だよ?」

 

 「明希の男じゃねぇのかよ?」

 

 「うぇっ!?」

 

 ちょっ!?博斗何言って!?

 

 「俺みたいな変人が相手じゃ蓼原が可哀想だろ?蓼原美人なのに」

 

 「…………蓼原さん、ものすごい顔してますよ?」

 

 「青春ですねぇ」

 

 恋人であることは否定されましたが、び、美人って言われました。………あー!悲しめば良いのか喜べば良いのか解りません!

 

 「あんた、意異名あんの?」

 

 「『常壊者』って意異名があるよ」

 

 「『常壊者』…なんだよ、『覇拳』の傘下じゃねぇかよ」

 

 「傘下ではないんだがな~。ん?あ、もしかして『覇拳』と戦うのが目的でウチの部入ったのか?」

 

 「そうだよ」

 

 「なんだ。蓼原がいるから入部したんだと思ってた」

 

 「は?」

 

 「だってさっき俺が蓼原の彼氏じゃないって言ったらホッとしてたし」

 

 あ、博斗の顔がみるみる赤くなっていきますね。

 

 「あ、それとも『覇拳』倒して蓼原に格好いいところ見せたかったとか?」

 

 「あー、徹隆君がまた天然で相手を煽ってます」

 

 榛名先生が溜息を吐きながら頭を抑えてます。徹隆さんは天然で相手を煽ることが多いんですよねぇ。しかも今回はかなり的外れなことを言うから博斗がすっごい怒ってますよ。

 

 「あれは天然ではありませんよ」

 

 え?

 

 「殺す!!」

 

 加々知先生が何か言ったように聞こえましたが博斗が大声を上げたので聞き取れませんでした。

 

 博斗が怒りのまま徹隆を殴ろうと右拳を突き出す。が、徹隆はその突き出た拳の手首を左手でつかみ、下に力の向きを変え、自身のパンチの勢いを殺すことが出来ずに博斗は回転し背中から地面に叩きつけられる。

 

 「かはっ!?」

 

 「あちゃー、ちゃんと受け身しなよ」

 

 勝負は一瞬でした。博斗が徹隆さんに殴りかかったかと思えば次の瞬間には博斗が地面に背中から叩きつけられていました。博斗は受け身が出来なかったから叩きつけられた時に肺の空気を全部吐いてしまってます。あれ、痛いし苦しいんですよねぇ。

 

 「はっ…はっ…こはっ……くっそう」

 

 「弱いな~、小田原」

 

 「…はっ…てめぇ」

 

 「なんでお前が負けたか教えてやろうか?」

 

 「…なに?」

 

 「お前、自分に嘘つきすぎ。そんなんだから俺の言葉で簡単に動揺すんだよ。もう少し自分の姉と話しなよ」

 

 「………………まえに…」

 

 「ん?」

 

 「お前に俺の、俺たち家族の何が解るんだよ!?」

 

 「……………」

 

 なんででしょうか?博斗がとても弱々しく見えます。

 

 「ん~。確かに蓼原家のことはよく知らん」

 

 「なら!」

 

 「ただ、()()で苦しんだヤツならイヤって程知ってる」

 

 『家族に関しては私も一家言あるから』

 

 何故でしょう?千景ちゃんのあの言葉が心に重くのし掛かります。徹隆さんの家族は良い家族と聞いていましたが。

 

 「あの~」

 

 と、そんなことを考えていたら、間延びした声が職員室に響きました。

 

 「連絡があり息子を迎えに来た蓼原ですけど~」

 

 「お母さん!」

 

 「あら?明希ちゃん?博斗くんを迎えに来たんだけど?」

 

 「博斗ならあそこですよ」

 

 私は大の字で徹隆さんに倒されてる博斗を指差します。ん?これって、徹隆さんのイメージ悪くなるんじゃ!?

 

 「あら?少年漫画的な展開かしら?」

 

 「………相変わらずですね、千紗希(ちさき)さん」

 

 実の息子が倒れていても自分のペースを崩すことのないお母さんに加々知先生が話しかけます。え?お二人知り合いなんですか?

 

 「………あら!?もしかして(あかり)くん!?久しぶり~」

 

 「…………お久しぶりです」

 

 やっぱり知り合いだったんですねぇ。と言うか、灯って。

 

 「加々知先生の名前って灯だったんですね。私同じ学校の教員なのに初めて聞きました」

 

 「………チッ」

 

 「ここまで舌打ちが様になっている人ってそうそういないと俺は思う」

 

 確かに、まるで舌打ちのお手本のようでした。

 

 「灯くん、昔から自分の名前嫌いだったもんね~」

 

 「はあ、それを知っていてなお、頑なに名前で呼んでくる貴女も貴女ですよ、『天魔(てんま)』さん」

 

 「ちょっと~!私がその意異名嫌いなの知ってるでしょ~!」

 

 「だから使ってるんでしょうが。まったく、皮肉すら通じない」

 

 加々知先生がここまでペースを崩されるなんて、お母さんって本当は凄い人なんでしょうか?

 

 「とりあえず、お宅の息子さん回収してって下さい」

 

 「はいは~い。じゃあ、博斗くん帰りましょうか~って、動ける?」

 

 「うっせぇ、ババア」

 

 「こら!博斗!また貴方は!」

 

 「うふふ、元気ね~。でも、後10分は動けないんじゃないかしら?博斗くんを投げた君~?そうでしょう~?」

 

 「……よく視ただけで解りましたね?」

 

 「うふふ、()()()は良いのよ~」

 

 博斗が後10分は動けない?

 

 「どういうことですか?」

 

 「体を叩き付けるときにちょっとした技を使えば相手の全身を好きな時間麻痺させられるんだよ。まあ、実力差がかなりないと出来ないけどな。それと、安心して下さい、蓼原さん。博斗君は俺が運ぶ予定でしたので」

 

 徹隆さんが私に自身がやったことを説明した後、お母さんに向かって話し始める。ああ、お母さん相手だから呼び方が小田原から博斗君に変わってますね。

 

 「あら~。アフターケアもばっちりね~。え~と?」

 

 「ああ、申し遅れました。博斗君と明希さんの所属する文芸部の部長の焔徹隆です」

 

 !い、今徹隆さんが私のこと名前で呼びませんでした!?しまったー!!レコーダーがありません!!こんなチャンス滅多にないのにー!!

 

 「…………ふ~ん。貴方が徹隆くん」

 

 「はい?」

 

 「うふふ、明希ちゃんから色々聞いてるわよ?」

 

 「お母さん!?」

 

 私がレコーダーが無いことを悔やんでいるとお母さんが徹隆さんに何かしら口走ろうとしてました。ちょっ、ちょっと!?何言おうとしてるんですか!?我が母は!?

 

 「うふふ、それじゃあ徹隆くん、博斗くんを車まで運んでおいてね~。私は灯くんに()()()()()()()()()聞いてるから~」

 

 そう言ってお母さんは加々知先生の方に向かって行きました。

 

 「マイペースな母ですみません」

 

 「良いよ。ウチの母親も似たようなもんだし。さて小田原、覚悟は良いか?」

 

 「は?」

 

 そう言って徹隆さんは動けない博斗を抱えます。お姫様抱っこで。え!?ちょっと!?なんて羨ましい!!

 

 「な!?てめぇ、なんだ!?こりゃ!?」

 

 「何ってお姫様抱っこだよ?知らねーの?」

 

 「そうじゃねぇ!!なんでこの運び方なんだって聞いてんだよ!?」

 

 「安心しろ明日には俺とお前の濃ゆいBL漫画が出来てる筈だから」

 

 「安心出来ねぇよ!てか、なんだよ、BL漫画って!?」

 

 「BL漫画知らない?男同士の熱い愛情の物語だ」

 

 「ふざけんな!?なんで俺がてめぇなんかと!?」

 

 「そう言うわりに身体は抵抗してないぞ?」

 

 「てめぇが動けなくしたんだろうが!てか、なんでそんな漫画が学校にあんだよ!?」

 

 「ウチの漫画研究部の女子が全員BL好きの所謂腐女子だからだな。ほら、耳澄ますと聞こえるだろ?どこからともなくスケッチしているカリカリって音が」

 

 「生徒が描いてんのかよ!?てか、てめぇは知っててなんでそんな落ち着いてんだよ!」

 

 「………30冊以上描かれたら、もう諦めるしかないよね!ここまで来ると犠牲者を増やしたくなってくるんだよね!」

 

 え!?30冊以上!?私、26冊しか持ってませんよ!?残りを明日から探さなければ!

 

 「この学校は変人しかいねぇのか!?」

 

 「「「「「「「何を今更」」」」」」」

 

 「おい、待て!今てめぇら以外の声が聞こえたぞ?漫研か?今のが漫研のヤツらか!?」

 

 漫研以外にもいますよ。生徒会、イヤ学校1の情報通さんとか。

 そんなこんなで博斗のメンタルをガリガリ削りながらの運送も終わりました。

 

 「………てめぇ、ぜってー殺す!」

 

 「なら明日からは文芸部に顔出せ。俺は放課後は文芸部に必ずと言って良いほどいるから」

 

 博斗を車の後部座席に乗せながら徹隆さんが答えます。

 

 「私、お母さん呼んできますね」

 

 私はお母さんを呼びにその場を離れました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「小田原」

 

 「………なんだよ」

 

 「お前が思っている以上に蓼原も蓼原のお袋さんもお前のことをよく見てるし、心配してるし、大切に思ってるぞ?」

 

 「………うっせぇ。……………………なあ」

 

 「ん?」

 

 「あんたがさっき言ってた()()で辛い思いしたヤツって」

 

 「…………その話はまた後日かな。本人にお前に話して良いか聞かなきゃな」

 

 「………そいつも文芸部か?」

 

 「ああ」

 

 「…………そうか」

 

 「お、蓼原たち来たな。じゃあな、小田原。明日はちゃんと部活来いよ?」

 

 「…………うっせぇ」

 

 「ははは、…………あ、そうだ。小田原、お前今日誕生日だろ?」

 

 「!?……なんで知って」

 

 「ちなみに、蓼原に聞いた訳じゃないからな。じゃあ、今度こそじゃあな。もっと自分に素直になれよー」

 

 「……………訳わかんねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車に帰ってきた後、博斗はずっと静かです。何か考えているようですが、徹隆さんに何か言われたんですかねぇ?

 

 「…………なあ()()

 

 !?博斗が私のことを姉貴って言いましたか!?ど、如何したんですかいったい!?

 

 「………おい、聞いてんのかよ?」

 

 「うぇっ!?あ、はい!なんですか?」

 

 びっくりし過ぎて反応出来ませんでした。いけないいけない。

 

 「あの徹隆ってヤツのこと、ホント好きなの?」

 

 「ヴぇっ!?」

 

 急にな、ななななな何言い出すんですか!?この弟は!?

 

 「………はあ、男の趣味悪すぎだろ」

 

 「あら?そうかしら~?結構面白い子らしいわよ?灯くんが珍しく褒めてたわよ~。なかなか良いぶっ飛び具合ですよって」

 

 「ぶっ飛んでる時点で碌でもねぇよ。てか、()()もあの加々知とか言う先公のこと好きだったのか?」

 

 あ、それは私も少し気になりますね。と言うか、今度はお母さんをお袋呼びですか。今まではババア呼びだったのに、徹隆さんホントに何したんでしょう?

 

 「うふふ、そうやって直ぐに恋愛関係に持ってくなんて博斗くんも青いわね~。ん~、灯くんは悪友かな~?灯くんと私と後2人の4人でよくやんちゃして先生に怒られてたな~」

 

 お母さんがとても優しく哀しそうな瞳で遠くを見ています。楽しい思い出だったんでしょうねぇ。

 そんなこんなで久しぶりに博斗といっぱい喋っていると直ぐに家について、私と博斗は着替えて、皆で家を出ます。

 

 「どこ行くんだよ?」

 

 「博斗、今日誕生日じゃないですか。我が家の誕生日は3年前からある場所でと決まっているのです!」

 

 「ある場所?」

 

 「うふふ、レストランよ」

 

 そう、こっちに暮らし始めてから誕生日は絶対ここでお祝いすると決めているのです。家から歩いて20分

 

 『レストラン ジェルダン・ドゥ・アリマン』

 

 「ここがそのレストラン?」

 

 「はい!なんとフレンチレストランなんですよ~」

 

 「何で姉貴が得意気なんだよ。………で、店名ってなんて意味なんだよ?」

 

 「うっ!?そ、それは、………明日友達に聞いてみます」

 

 「ダサ、意味知らねーのに得意気だったのかよ」

 

 博斗がニヤニヤしながら私をからかいます。くっそー、明日必ず友奈ちゃんに聞いとかないと。

 それから私たちは今日のために博斗が来た3週間前から予約していたコース料理に舌鼓を打ち、最後にホールのケーキが運ばれてきました。ケーキの上にはチョコレートで『Happy Birthday HAKUTO』と書いてあるクッキーが乗っています。

 

 「バースデーケーキですよ!バースデーケーキ!」

 

 「うっせぇな、ガキじゃねぇんだから、はしゃぐなよ」

 

 「何格好付けてんですか?博斗()()()()()()()()()()()()()じゃないですか?」

 

 甘い菓子パンよく食べてるし、卵焼きも甘い方が好きだし。

 

 「………………よく見てる、か」

 

 博斗が何か呟きます。なんでしょうか?声が小さくて聞こえませんでした。

 

 「博斗、どうかしたんですか?」

 

 「なんでもねぇよ。………姉貴」

 

 「はい?」

 

 「……俺はあいつのこと嫌いだけど、一応は、応援してやる……」

 

 「…………………ふふふ」

 

 「な、なんだよ!?」

 

 「いえいえ、なんでもありませんよ」

 

 なんだ、私の弟も()()()じゃないですか。

 

 




人物紹介

蓼原明希(たではらあき)
・文芸部副部長
・『常壊者(じょうかいしゃ)』ファンクラブ会長
・徹隆のアーッな本の愛読者

八神(やがみ)はやて
・文芸部員兼風紀委員副委員長
・『管理者(かんりしゃ)』の意異名を持つ
・女性陣のぶっ飛び枠筆頭

ディルム・クリューゲル
・文芸部員
・『輝貌(きぼう)』を持つ剣と槍の名手
・イケメンとしか言い様の無いイケメン

ラティナ・クリューゲル
・文芸部の新入部員
・ディルムの妹
・天使みたいな見た目の美少女

有馬(ありま)はじめ
・文芸部の新入部員
・数少ない男性常識人枠(になるか!?)
・ひづめと言う妹がいるという情報を入手

天童木更(てんどうきさら)
・現生徒会議長
天童流抜刀術(てんどうりゅうばっとうじゅつ)の使い手
・さっさとくっつけ

小田原博斗(おだわらはくと)
・文芸部の新入部員
・明希の弟
・元の髪型を実は作者は考えてすらいなかった

加々知灯(かがちあかり)
・宮沢中学3年学年主任兼風紀委員担当顧問
・宮沢中学のOBで当時の意異名は『鬼神(きしん)
・見本のようなドスの効いた美しい舌打ちをする

蓼原千紗希(たではらちさき)
・明希と博斗の母親
・宮沢中学のOGで当時の意異名は『天魔(てんま)
・最強のマイペースを持つおっとり美人


今週末に閑話を投稿予定
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