「……ねえ、徹隆さん。今から迎えに行く2人って、どんな人なの?」
樹海に突入しスマホの地図を見ながら真悟さんたちの元に向かっていた最中、郡さんが兄さんに聞いてきた。……男性だからやっぱり気になるか。
「ん?真悟と景友か?」
「……ええ」
「ん~、そうだな~。真悟は俺らの中では一番の常識人だな。で、景友の方はかなりぶっ飛んだ奴だ。まあ、2人とも変人では有るが悪人ではないから安心しなよ」
「…………そう」
「真悟たちも一番の変人枠である徹には言われたくないと思うよ?」
「おいこらユウキ!……って言いたいが自分でも他の人と感性がかなりズレている自覚が有るからな~」
「……自覚してたのね」
「まぁな」
「アンタ並みの変人ってかなり疲れそうね」
「あはは、まあ真悟は思考回路は俺と似たり寄ったりだけど一応ツッコミ担当だし、景友は園子たちと趣味趣向が同じだけど他人に迷惑は掛けないから」
話を聞いてた夏凜ちゃんが零した台詞に兄さんが苦笑交じりに答える。
「園子ズと同じってだけで大変そうじゃない!?」
「徹隆さん、アタシも1つ聞いても良いですか?」
「ん?良いぞ。何だ?」
「さっき言ってたことって、アレ本当なんですか?」
今度は銀ちゃんが兄さんに質問してきた。さっきのアレとは真悟さんがキレるとかなり強いってことに対して言っているようね。
「ああ、真悟がキレるとヤバいって話か?本当だぞ。ただ、さっきも言った通り滅多にあることじゃないから。俺はあいつと8年程の付き合いだがブチギレした所を2回しか見たこと無いし。それに、キレたとしても周りが見えない程荒れ狂うって訳じゃなく、少し躊躇と手加減と慈悲が無くなるだけだから大丈夫さ」
「いやそれ明らかに大丈夫じゃないと思いますけど。……てか、その真悟さんって人はキレなくても徹隆さんやユウキさん並みに強いんすよね?」
「ああ。ちなみに学年強さランキングだと景友が俺と同位で8位、真悟がキレた時の強さ込みで6位だな」
「え!?アタシたち全員で一斉に掛かって漸く互角って人より強い人がまだ5人もいるんすか!?」
「いるいる。ぶっちゃけ上位5人には
「へ!?」
「……ねえ、焔さん?貴女のお兄さんがなんか変なことを言っているのだけど、記憶障害を起こしているんじゃない?」
兄さんの台詞に銀ちゃんが驚き、郡さんが怪訝そうに言ってきた。というか郡さん、記憶障害って。
「郡さん、いくら兄さんが変態でも記憶障害ではないわよ。………………多分」
「おい!千景!変態って何だよ!?俺は精々変人止まりだよ!!」
「「…………え?そこなの?」」
私と郡さんの声がかぶる。おいおい兄さんや、そこかい?そこなのかい?
「……というか、記憶障害じゃなかったら今の話は本当なの?」
「残念ながら本当よ。私とユウちゃんも近くで見てたし」
「つまり、徹隆さんやユウキさん位強い人たち5人掛かりでも倒せない人が5人もいるってことですか!?」
「まあ、そうなるな」
「それこそ正に人外ね。一体どんな大男よ。ソイツら」
「ん?大男?三好、何故に大男?」
「え?だってアンタたちみたいなの5人掛かりでも勝てないんでしょ?だったらもう見た目から人外みたいになってんじゃないの?」
「イヤイヤ何?そのおかしな理屈?それはいくら何でもアイツらが可哀想だよ。それに、さっき名前を上げた5人の内、3人は女の子だからな」
「「「「「「「「「「え!?女の子!!」」」」」」」」」」
「……何で皆さん私を見るの?」
兄さんの発言を疑うのは、…まあ、仕方が無いかもしれないけど、何故私を見るのかしら?
「いや、本当のことかな~?と思って」
「………………俺って、そんなに信用ないかな?」
皆の気持ちを代弁してくれた風さんの台詞に兄さんがヘコむ。あら、珍しい。
「……一応本当のことよ。さっき兄さんが名前を上げた人の内、天童木更さんと月拝美華さん、フェイト・テスタロッサさんは正真正銘女の子よ」
「ちなみに、全員『絶世の』って枕詞が付く位の美少女だよ」
私の言葉にユウキさんが補足を加える。確かに。3人ともタイプは違うけど美人よね。
「……あの3人が凄い美人なのは確かだけど、アイツらに『絶世の』って枕詞を付けるなら負けず劣らず美人な勇者部の女性全員にもその枕詞は付くんじゃね?」
「「「「「「「「「「…………………」」」」」」」」」」
「…………徹」
「…………兄さん」
「…………
「あれ?何、この空気?」
はぁ~、全くこの兄は。
真悟さんと景友さんがバーテックスと戦闘を行っている為に出来るだけ早く合流しなければいけないので、兄さんの何気ない一言で勇者部の女性全員が嬉しいやら、恥ずかしいやら、呆れるやら、何とも言えない微妙な空気を発生させて黙り込んでいる中、私たちは真悟さんたちの元へと歩を進めた。
「「流石、てったん先輩~!」」
「え?何が?」
…………前言撤回。この状況を何となくで楽しめている猛者が2人いたわ。
「……!!今、コレクションに加えるべき若葉ちゃんの貴重な表情を見逃した気がします!」
何の脈絡も無く、急にひなたちゃんが叫びだした。
「……………ねえ?水都ちゃん、亜耶ちゃん、コレは神託?」
「…………え~と、違う…かな?」
私の問いに水都ちゃんが躊躇いがちに答えてくれた。やっぱり、というか当然神託では無かったらしい。…はっ!となるとコレは恋の力!?…って、私は何バカなこと考えているのかしら。
今、私と明希ちゃんは巫女グループの3人と一緒に部室でお留守番をしている。理由は只今絶賛気絶中のひふみんを介抱するため。まあ、目を覚まして近くに友人の私たちが1人もいなかったら、ひふみんはパニクるわよね~、確実に。
「それにしても、ひふみんが巫女ですか」
そう言いながら明希ちゃんは自分自身の膝の上に寝かしているひふみんの頭を優しく撫でる。…………明希ちゃん、
「確かに驚きよね~」
「……あの、つかぬ事をお聞きしますが、お二人の世界に神樹様はいらっしゃらないのですよね?」
亜耶ちゃんが聞いてきた。彼女の顔には多少なりとも戸惑いを感じる。神世紀の子たちは皆そうだが、多分神樹様がいない世界を想像出来ないんじゃないかしら?そんな中でも彼女は特にそう言った所が顕著に出ている。亜耶ちゃんは幼い頃に巫女になったって聞くし、日常の近くに神樹様が居るのが当たり前みたいに思っているのかも。まあ、そんな戸惑い混じりの困り顔も天使のように可愛らしいから私は好きよ!ああ、本当亜耶ちゃんってどうしてこんなに可愛いのかしら!
「ランちゃんから怪しい気配を感じますが、触らぬ神に祟り無しですからツッコミませんよ。…………とりあえず、亜耶ちゃんの質問に答えますと、確かに私たちの世界には神樹様はいませんねぇ」
明希ちゃんが私を無視して答える。おっといけない、亜耶ちゃんの質問に私も答えなきゃ。
「そうね~、神社や宗教なんかは普通に有るけど、こっちの世界の神樹様みたいな目に見える神様はいないわね」
「天皇陛下を神様と崇めることはしますがねぇ」
「後は精々、神か悪魔に成れるんじゃないかって程強い人外みたいな存在がゴロゴロ居るくらいかな?」
「そ、それはそれで凄いと思うんだけど……」
「あはは。まあ、私たちはそれが当たり前だと思う程慣れてしまいましたがねぇ。ところで亜耶ちゃん、何故急にそんなことを?」
「いえ、ただ、いきなり神樹様から御神託が下されたら、今気絶中のそちらの方が驚かれてしまうのではないかと思いまして」
「うーん、どうだろう?神託の下され方にもよるんじゃない?」
「と、言いますと?」
「もし、神託が言葉とかだったら確実にびっくりするわね。でも、夢とか映像とかならそこまで驚かないんじゃないかな?」
「まあ、そうですねぇ。なんたってひふみんは私たちと6年以上の付き合いですから。そんじょそこらの人よりは非常識に慣れていると思いますよ」
「な、なるほど~」
「な、なんだか凄く解った気がする」
私と明希ちゃんの答えに亜耶ちゃんと水都ちゃんが何となくで納得する。
「……うー…ん…」
と、そこでひふみんが目を覚ました。
「おはようございます、ひふみん」
「…………明希ちゃん?」
ひふみんは焦点の合ってない目をぱちくりしながら明希ちゃんを見つめていたが、徐々に焦点が合い始めると急に膝上から飛び起きて叫びだした。
「……!そうだ!明希ちゃん、ランちゃん、千景ちゃんと友奈ちゃんのドッペルゲンガーが!!」
「ひふみん、落ち着いて下さい」
「だ、だってドッペルゲンガーを見たら死んじゃうんだよ!このままじゃ千景ちゃんと友奈ちゃんが!!」
「大丈夫だから。あの娘たちはドッペルゲンガーじゃないし」
「そうそう、とりあえず落ち着く為に深呼吸して下さい」
「はい、ひふみん、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
「ランちゃん、それマラーズ法です。ベタなボケですねぇ」
「大丈夫よ、将来確実に真悟君との間で使うから」
「何が大丈夫なんですかねぇ?…………で、ひふみん、落ち着きました?」
「……うん、少しは。……それよりあの娘たちは本当にドッペルゲンガーじゃないんだよね?」
「そうよ。まあ、何より徹君があの娘たちのことを知っているから」
「……あ、テッちゃん知ってたんだ。……なら良いか」
「良いんですか!?」
「良いの!?」
「ヒッ!?」
私たちの会話にひなたちゃんと水都ちゃんが叫びツッコむ。それにびっくりしたひふみんが小さい悲鳴を上げながら明希ちゃんの背中に隠れ、おずおずと巫女の3人を伺うように明希ちゃんの肩からちょっとだけ顔を覗かせている。
「「「…………か、可愛い」」」
そんなひふみんを見て巫女の3人が感想を漏らす。
「ええ、ハァハァ、本当に小動物みたいで可愛いわよね~、ハァハァ」
「ランちゃん、呼吸が激しくなってますよ?」
おっと、あまりの可愛さについつい。
「うーん、とりあえずは自己紹介からですかねぇ?」
明希ちゃんの提案で私たちは巫女の3人にひふみんを紹介するのだった。
「よう、真悟、景友、久しぶr…」
「裏山死ねや!」
「ファブレッ!?(悲鳴)」
ゴキャッ ←真悟さんが兄さんを殴り飛ばす音
ヒューゴロンッゴロンッ ←兄さんが勢い良く地面を転がる音
ドゴンッ ←兄さんがそのまま近くの樹海の根っこにぶつかる音
真悟さんと景友さんの元に着いた私たち。その後、兄さんが真悟さんに声をかけたら先程のように急に殴ってきた。
勇者部の面々は急な展開について行けず固まっている。まあ、真悟さんとの付き合いが長い私たちなら何となく理由は解るけどね。
「ふざけんな徹ごらっ!何ハーレム創ってんだテメー!しかも全員美人揃いだし羨ましいわ!だから、殴りました。反省はしません。後悔もありません。俺は悪くねぇっ!」
ああ、やっぱりただの僻みか~。
と、どこぞの親善大使のようなことを叫んでいる真悟さんに殴り飛ばされた兄さんがゆっくりとした速度で歩いて近づく。そして、
「超振動パンチ!!」
「アクゼリュウスッ!?(悲鳴)」
ゴキャッ ←兄さんが真悟さんを殴り飛ばす音
ヒューゴロンッゴロンッ ←真悟さんが勢い良く地面を転がる音
ズサーッ ←真悟さんの顔面が地面を盛大に滑る音
兄さんに殴り飛ばされた真悟さんは、数秒後に無言で立ち上がり兄さんに向かってゆっくりと歩いてくる。その間、兄さんはどこから取り出したのか髑髏のような仮面を身につけ、真悟さんを待つ。
真悟さんは互いに一歩踏み出せばぶつかる位の距離でその歩みを止め、兄さんと真悟さんは互いに睨み合う。そして、真悟さんは、自身の腰に差してある刀の柄をゆっくりと右手で掴む。対して兄さんは脱力した体制で自身の左手に太刀を出現させて逆手に持つ。
「「……………………………………」」
目と目が逢う~瞬間に~
「
「
生きる事を~投げ出さないで~
シャリンシャリンシャリンシャリンシャリンシャリンシャリンシャリンシャリンシャリン
キシャンキシャンキシャンキシャンキシャンキシャンキシャンキシャンキシャンキシャン
互いに改号を叫びあい真悟さんの
「…………何でアイツらオサレバトル繰り広げてんの?」
「さあ?それよりも、お久しぶりです、景友さん」
「ああ、久しぶり、千景」
「
「おう、友奈も久しぶり」
とりあえず、私とユウちゃんは景友さんと挨拶を交わす。そして、再度兄さんと真悟さんの方に視線を移す。
兄さんたちは自分の獲物をしまい何故かボクシングを始めていた。あ、BGMがロッ○ーに変わってる。
まだ時間が掛かりそうなので私たちは無視して会話を再開する。
「そういえば、バーテックス…白玉擬きみたいな生物はどうしました?」
「ああ、アレなら視界に写る範囲で全部潰したよ」
「あれ?白玉擬きみたいなヤツ以外に巨大なヤツとか、他と姿形が違うヤツとか居ませんでした?」
「ああ、居たな。魚や鳥みたいなヤツとか、刀や棒みたいな一回りデカいヤツとか」
「ね~チカちゃん、その刀や棒みたいな一回りデカいヤツって」
「ええ、間違いなく進化体ね。景友さん、その一回りデカいヤツも倒したんですか?」
「ん?ああ、ただデカいだけだったからな。俺が刀みたいなヤツを。で、真悟が棒みたいなヤツを倒したな。……あれ?もしかしてダメだったか?」
景友さんは、私たちが呆然とした態度で話を聞いていた為、何かまずいことをしたと思ったらしい。
「あ、いえ、初戦闘で1人1体ずつ進化体を倒したなんて流石だな~、と思いまして」
「そうか?図体ばかりデカくて白玉擬きと大差無かったぞ?」
いや、バーテックスの進化体をしかも初戦闘で歯牙にも掛けないのは貴方たちだけですよ。
「ところで、後ろの女の子たちは何処のどなた?」
景友さんが私の後ろに視線を送りながら訪ねてきた。振り返り勇者部の面々を見ると兄さんと真悟さんの惨状を見て固まった状態から1人も回復していなかった。
「ああ、彼女たちはかくかくしかじかなんです」
「へ~、勇者ね~。…………まあ、色々聞きたいことは有るんだが、とりあえず、………何でかくかくしかじかで伝わるんだ?」
「さあ?この世界だとそういうモノだと思って下さい」
「ふーん。それじゃあ、仕方ないな」
「いや、仕方なくねえよ!?」
私たちの会話に真悟さんがツッコミを入れてきた。
「あら、真悟さんお久しぶりです」
「
「うーす」
「兄さんとのじゃれ合いは終わったんですね」
「おう」
「で?兄さんは?」
私の質問に真悟さんは「ん」と言いながら後ろを指差す。なので、私たちが真悟さんの後ろを見ると、そこにはうつ伏せで倒れている兄さんがいた。
「決め手は?」
「無言の腹パン」
「あ、私も真悟さんに聞きたいことが1つ有るんですけど、良いですか?」
「何?」
「真悟さんの
「そこ!?友奈、そこ!?」
「あ、それ私も気になる」
「千景もかよ!?」
「で?名前は?」
「…………ぶっちゃけ考えて無かったわ」
「あらら。………………なら、ここは兄さんに聞いてみましょう。と言うわけで、兄さんやさっさと復活しなさいな」
「………最近妹の俺への態度が冷たい」
「「
「友人すら冷たいorz」
「とりあえず、まなこ和尚、名前を教えて」
「おい!?誰がまなこ和尚だ、誰が!!………んー、
「ほうほう虚無間浮喰か。……うん、流石現役厨二病!」
「おいやめろよ」
古樹生華………ひどく困難なことの最中に、その状況を抜け出す方法を見出すこと。