今回も思った以上に長くなってしまったので前後編に分けさせていただきます。
「後はこれを冷やして固めれば完成よ」
「ふむふむ、なるほど」
日曜日、私たちは約束通り、私の家でお菓子を作っていた。今回小紅ちゃんに作り方を教えたお菓子は苺ミルクプリン。苺を別のフルーツに変えれば色々な味を楽しめるし、タルト生地なんかに流し込めばお手軽なムースケーキになったりと、かなり応用が利くお菓子だ。
「2人とも手際良いな」
「本当だね~。小紅ちゃんは知ってたけど千景ちゃんも凄いね」
私たちの調理風景を見ていた美姫ちゃんとまゆらちゃんが感嘆の息をもらす。
「皆~、雪菜さんからクッキー貰ったからお茶にしよう」
ユウちゃんがクッキーを持ってきてくれて、そのまま紅茶を入れてくれる。紅茶は
「おお~、こっちも手際良いな」
「友奈にこんな特技があったとは」
「無駄が無い動きってそれだけで美しく見えるよね~」
ユウちゃんの紅茶を入れる姿に皆が驚く。
「?どうしたの皆?」
ユウちゃんは何故自分が注目を浴びているのか解っていなかった。
ユウちゃんが皆の分の紅茶を入れてくれて、苺ミルクプリンの方は固まるまでまだ時間がかかる。そんな訳で、皆でティータイムに突入。
「あれ?このクッキー割れてね?」
ユウちゃんが持ってきたクッキーを見て美姫ちゃんが疑問に思う。
「ああ、このクッキー、レストランで出せない失敗作なのよ。私たちのおやつは私が作らなかったらいつもこんな感じ。まあ、その分量はあるし。あ、割れたからお店で出せないってだけだから味は保証するわ」
「へー。ん?このクッキーは割れてないけど?」
私の説明を聞きながら小紅ちゃんがクッキーを1枚取るが、そのクッキーは割れてなかった。
「それは多分チョコで書かなきゃいけない文字のスペルを間違えたんだと思うわ」
よく見ると小紅ちゃんの取ったクッキーにチョコで文字が書いてある。
「雪菜さんが言ってたよ。バースデーケーキの注文で『Happy Birthday HAKUTO』って書かなきゃいけないのに『Happy Birthday HARUTO』って書いちゃったって」
「ハルト?」
「うん、ハルト」
「…………兄さんのせいで間違ったのかしら?」
「…………否定は出来ないかな。だって
兄さん遊戯王ネタが好きだからたまに叫ぶのよね。そういえば、叫びすぎてうるさいってお父さんに拳骨貰ったこともあったっけ。
ハルトォォォォォォォォォォォォォォォォ!
急に頭の中で叫び出す兄さんは嫌いだ。
「そういえば、今日はその千景ちゃんたちのお兄さんは?」
まゆらちゃんが私たちの会話で兄さんの存在を思い出し尋ねてきた。
「お兄ちゃんなら今日は真悟さんたちと道場に行ってるよ」
「道場?お兄さんって何か習ってるのか?」
小紅ちゃんが聞いてきた。
「うん、兄さんは小太刀術と仙術て言うちょっと変わった体術みたいなのの2つを習っているの」
「ちなみに真悟さんは
「あ、それはウチの兄貴からちょっと聞いてる。今日は総当たりで乱闘組み手やるって」
「そういえば、美姫ちゃんのお兄さんも武術やってるんだよね?えっと、銃剣術だっけ?」
「うん、そう」
「へー、千景たちのお兄さん武術やってるのに文芸部立ち上げたんだ?」
「兄さん昔から本読むのも物語書くのも好きだったから」
兄さん昔からよく物語書いてたな~。本人は妄想力が強いだけだなんて言ってだけど。
「………お前らの兄貴で思い出したけど、
「「「「あ~、
私たちは一昨日、金曜日の放課後に宣戦布告のようなことをして、そのまま名乗らずに颯爽と踵を返して去っていった女の子のことを思い出す。いや、忘れてた訳ではないのだが何と言うか面倒くさいと言うか、関わり合いたくないと言うか、全力で無視を決め込みたい。
「あの人が誰なのかはともかく、
「ん?お兄さんに聞いたんじゃないのか?」
小紅ちゃんが私の台詞に疑問を感じ、質問してきた。
「さっきも言ったけど何なのかは予想してたからね。もし私の予想通りの人なら今回は兄さんの力は当てに出来なかったし。案の定で
「そっちの立場?話を聞く限り、お兄さんかなり無茶苦茶で破天荒な人だと思うんだけどそれでも無理なの?」
「まゆらちゃんたちの頭の中でお兄ちゃんがどんな人になっているのかが凄く気になるんだけど。………まあ、今回ばかりは相手が相手だからね~」
「で?あの人は誰だったんだ?」
小紅ちゃんがアレが誰なのか尋ねてきたので私とユウちゃんが声を揃えて答える。
「「2年の
私が徹隆さんを意識したのはいつからだっただろう?
私が徹隆さんたちの通う小学校に転校してきたのは小学4年生の秋だった。理由は両親の離婚。原因は父親の不倫。私は母親の方に引き取られて1つ下の弟は父親の方に引き取られた。そして私とお母さんはお母さんの実家がある北岡市に引っ越してきた。そんな中途半端な時期だったからだろう、私は5年生になるまで友達が出来なかった。
そして5年生のクラス替えで私は彼らにあった。徹隆さん、真悟さん、景友さん、ユウキちゃん、ランちゃん、ひふみん。最初に声をかけてくれたのはユウキちゃんだ。ユウキちゃんの紹介で皆に出会って、仲良くなって、一緒に遊ぶようになって、皆の良いところをいっぱい知った。多分お父さんのせいだと思うけど私は無意識の内に男性に嫌悪感を抱いていた。男性は皆不誠実なんだと、男性は皆卑怯者なんだと。でもそうじゃ無かった。少なくとも彼らは違った。誠実で努力家で優しくて格好良くて、私は憧れた。そう、最初は憧れだったと思う。もっと近づきたい。もっと一緒にいたい。……私もあんなふうに格好良くなりたい。そう思って柔道を習った。元々運動が得意じゃなかったから最初はつらかったけど何とか今も続けられている。武術について彼らと話すことが出来たのも続けられた理由かもしれない。
私は徹隆さんと真悟さん、景友さんの3人に憧れていた。それでもほんのちょっとだけ徹隆さんに強く憧れていた。そんな気持ちに気付き始めたのは中学に入学してすぐ、徹隆さんが新しい部活を立ち上げると言った時だ。宮沢中にはそれなりに強い柔道部があったのだけれど私は文芸部に入部することを決めた。少しでも徹隆さんの力になりたかったからだ。まあ、当時はそんなふうに考えた自分に少し戸惑ったりしたのだが。
それから徹隆さんをよく目で追うようになった。徹隆さんが良くも悪くも注目を集め、意異名が付けられたら直ぐさまファンクラブを立ち上げた。あっという間に会員数が二桁になった時は一瞬思考が止まったりしたけど、徹隆さんだからとなんだかんだで納得した。徹隆さんはどんな人にも平等に優しくて、どんな人よりも努力家で、皆に笑いかけてくれる。いつしか私の中の彼への尊敬は恋愛感情に変わっていた。ピンチを助けられたとかそんな物語みたいなエピソードがあるわけじゃない。気付いたら彼の笑顔を眩しく感じていた。気付いたら彼と話すことが楽しみになっていた。気付いたら彼のことが好きになっていた。
だから私は嫉妬した。徹隆さんの妹である千景さんに。この世で1番の彼の笑顔を、この世で1番の彼の優しさを享受出来る彼女に私は嫉妬した。解ってる。この嫉妬は正当性も何も無いただの八つ当たりのようなものだってことは。だから、私は彼の妹の存在を知っても何もしなかったし、何かちょっかいをかけるつもりも無かった。仲良くなればこの嫉妬も少しは落ち着くかな何てことも考えてた。
そんな私にある出来事が起きた。父親と一緒に暮らしていた筈の弟が中学入学の二週間前からウチの住むことになった。何でもあの男は今度は弟すら置いて不倫相手と蒸発したらしい。蒸発するなら何で弟を引き取ったんだと問い詰めたかったが、その理由は直ぐに解った。弟はかなり我が儘になっていたのだ。お母さんが作ったご飯に文句を言って殴りかかる何てことは日常茶飯事で、ゲーセンで金がいるだの何だのとお母さんからお金を奪おうとする。私がいる時は私がお母さんを守っているのだけど、弟もテコンドーを習ってたらしく力が均衡していて、弟は私がいない時を狙い始めた。だから用事が無い時はなるべく家にいてお母さんを守った。そのせいで時間が取られて皆と遊ぶ時間が無くなって疎遠になりだして、そんな時だった。お昼過ぎに弟が遊びに行っている内にとお母さんから買い物を頼まれて駅前広場を通った時、徹隆さんと可愛い女の子が楽しそうに会話しているのを見かけたのは。私は目の前が真っ暗になって、その後買い物に行ったのか、そのまま家に帰ったのか、私がどうしたのかよく憶えていない。
そして、始業式の日に私は久しぶりにあったユウキちゃんとひふみん、中学になってから仲良くなった杏子ちゃんとさやかちゃんから彼女、月城友奈さんのことを聞いた。徹隆さんと千景さんの幼馴染みで、千景さんの親友で、徹隆さんの妹みたいな存在で、つい
結果から言って、やっちゃいました。恋は盲目と言うけど、やっちゃいました。何が『私たちは貴女たちがあの人の妹だなんて認めない!』ですか!!私はバカですか?バカなんですか!?しかも
…………はあ、とりあえず彼女たちに会って謝りましょう。その後は、いくら勢い任せだったとしても甘んじて罰を受けましょう。徹隆さんにも嫌われちゃうかな~。はあ~
そんなブルーな私の肩を誰かが叩きます。誰でしょう?私が振り返るとそこには、
「明希ちゃん、ちょっとええ?」
『
……………神様、罰は受けるとは言いましたが、謝ってからって言ったじゃないですか~!!
「千景、書庫室って何処だっけ?」
「図書室の貸し出しカウンターの隣の扉開ければそこが書庫室よ」
月曜日の放課後、私たちは水泳部に入部した美姫ちゃんと別れ文芸部の部室になっている書庫室に向かっていた。
「ここだね」
「じゃあ、入りましょうか」
私たちはノックしてから書庫室の扉を開ける。
コンコンッ ガチャ
「失礼しま……」
「ごめんなさいすみませんもうしません反省してます」
蓼原さんが吊されていた。
「失礼しました」
パタン
………………ん~、ちょっと疲れてるのかな私。
「どうかしたのか、千景?」
「ちょっと深呼吸してくるから、先に入ってて」
「「「?」」」
ガチャ
パタン
書庫室の中を見た3人も私の隣に来て深呼吸しだした。
「…………蓼原さんが吊されていたように見えたけど?」
「…………幻覚とか夢じゃないよね?」
「…………全員が同じ幻覚を見るなんてことあるかな?」
「…………流石にそれは無いんじゃないかな~?」
「そうよね~」
「「「「あはははははははは」」」」
「「「「…………………………………」」」」
うん、幻覚じゃないってことは現実と言うことである。そう、吊された蓼原さんが………。
「部室前で何してんの?お前ら」
「「「「うわっ!!」」」」
急に後ろから声をかけられて私たちは跳び上がる。後ろを振り返るとそこには兄さんと蓮太郎さんにそれから、イケメンがいた。………うん、イケメンだ。オールバックの黒髪に一束だけ前に流している髪型、泣き黒子、端整な顔立ち、イケメンとしか言い様の無い人がそこにいた。
「ん?ああ、このイケメンか?」
兄さんがイケメンさんを指差して聞いてきた。
「え、あ、うん」
「こいつも文芸部員だから後で紹介するよ。とりあえず部室入ろうぜ」
「え、あ!ちょっ、ちょっと待っ……」
イケメンさんのせいで放心状態だった私たちの横を通って部室に入ろうとした兄さんを、一足先に放心状態から復帰した私が止めようとしたが間に合わず、兄さんは扉を開けて中に入って行く。
ガチャ
「ごめんなさいすみませんもうしません反省してます」
蓼原さんはまだ吊されていた。
「……………」
兄さんは無言のまま部室に入っていく。それに蓮太郎さんとイケメンさんも続く。え、スルー?
「八神、そろそろ下ろしてやれ」
兄さんが蓼原さん以外に部室にいたらしいセミロングの茶髪で藍色の瞳の八神さん?に蓼原さんを下ろすように言った。
「ええの?終わるまで吊しとくつもりやったんやけど?」
え?今、あの八神さんっていう人何て言った?終わるまでってもしかて部活終わるまで?それはいくら何でも無いわよね?あ、自己紹介が終わるまでとか?それでも長いような。
「一学期終わるまで吊そうとしてんじゃねーよ。大騒ぎになるわ」
い、一学期!?え?本気で?
「つぅか、早く下ろしてやれよ。スカートだから見えそうで目のやり場に困るんだよ」
「里見君意外にスケベやな。後で
「ちょっ、何でそうなるんだよ!」
「そんなことよりはやて、早く明希を下ろしてやったほうが良い。そろそろ榛名先生も来るだろう」
イケメンさんが蓼原さんを下ろすように催促する。
「それもそうか、榛名先生にこれ以上心配させたらあかんな。……部長」
「ん?何?」
「妹ちゃんってどの娘とどの娘?」
「黒髪ロングと赤髪を一纏めにしてる娘」
「あんがとう。じゃあ、妹ちゃんたち?明希ちゃんのこと許してくれる?」
「「へ?」」
八神さんが私とユウちゃんに聞いてきた。何で私たちに聞くの?
後編は明日投稿予定です。