リリカルなのは-オーズクロニクル   作:スターみかん

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どうもです!

近頃仕上げが遅くなったりしてお待たせすることが多かったので今週は1話前の話と合わせて2本続けての投稿です。

今回はタイトルにもある通り、色々と区切りになることと新たな展開が広がって行きます。

それでは後書きでまた!


第10話「やり過ぎと終らせる意味と変わり行く戦況」

「ソリャッ!ハァ!」

 

ここまで戦い辛い戦闘は久しぶりだとオーズは斬り合う中で感じた。

 

相手の下半身の特性上、室内ではその跳躍力を生かしきれずになると考えたが半ば暴走状態に陥っているのか、身体を壁や天井、床に乱暴に激突させようがお構い無しに上半身側の力を生かして飛び掛かって来る。

 

「グキィシャー!!」

 

「全く!もうまんま獣だな、こりゃ。」

 

爪を立てての突進をジャリバーで捌き、その勢いは殺しきれずにあれから戻したバッタ足で片ヒザを摩らせるように床に当て後退した。

 

その言葉の言うように隙を見てクローで貫かれた目を再生もさせず、己の本能だけで獰猛にオーズ目掛けて襲い掛かっていた。

 

今は最初にはやてと再会したシャケヤミーの巣となった部屋から床を2階分ぶち抜き、その場で暴れていた。

 

はやてとヤミーの被害者も上に置いてきており、外はなのはたちが抑えてくれているためとりあえず今はコイツを倒すとオーズは決めていた。

 

だがいつまでも相手に付き合ってやれる程の時間的は無かった。

 

結界の外ではアンクたちが突入準備を終えている頃合いのはずだ。

 

「(こうなったら…アレで行く!)」

 

取れる手段の中でも最も強力な札を切ることにした。

 

にらみ合いの中、スキャナーとは反対に付いているメダルネストに手をかけた時、窓の外には轟音と共に桃色の光柱が現出した。

 

あまりのその存在感にヤミーが気を逸らした隙を見逃さなかった。

 

身を低めて落ちてきた穴の真下に転がつつ、取り出した3枚のセルメダルをジャリバーへと装填し、バッタレッグで上へと跳び上がった。

 

反応が一瞬遅れたヤミーも跳び、両手の爪をオーズに向けた。

 

はやてたちのいる階に着くと天井を足場にしてオーズは追撃を避けてはやてを背に立ち、目標を失ったヤミーは自慢の爪を深々と天井に突き刺して身動きが取れなくなってしまった。

 

トリプル!

 

スキャニングチャージ!

 

スキャナーを手に取り、メダジャリバー内部のセルメダルを読み取ると音声が流れ、刃に白銀のエネルギーが溜まっていった。

 

「これで終わりだ…。」

 

オーズバッシュ。

 

セルメダルの力を限界以上に引き出すこの一撃に間近で目の当たりにしたはやては目が点になった。

 

ヤミーはおろか、まるで刃を振るった空間そのものを斬ったように全てが文字通りにズレていた。

 

「す、すごい…。」

 

「ごめんはやてちゃん!ちょっと乱暴に行くよ!」

 

「へ?ってちょ!?きゃあーー!!」

 

そう彼女が呟くのとほぼ同時にオーズは車椅子にはやてを乗せて抱え、脇に女性を挟んで大急ぎでリビングの割れた窓から飛び出した。

 

直後に空間のズレは何事も無かったように元通りに戻ったがヤミーは戻った瞬間に爆発を起こし、メダルとなって霧散した。

 

密室での爆発はオーズたちにも爆風として襲い来り、その衝撃ではやては車椅子から投げ出されてしまった。

 

「くっ!はやてちゃん!」

 

飛び出した弾みで気を失って自由落下する彼女に手を伸ばそうとしたがある異変に気づいた。

 

途中からまるで水の中に落ちたようにゆっくりとなったのである。

 

「これは…。」

 

はやてが地に着くより早く先回りして受け止めて車椅子に乗せた際、荷物ケースから光が溢れていることに目がいった。

 

そこにはあの本が入っていた。

 

手に取ろうとすると光は消えたが、何か強い意思のようなものを感じた。

 

それはまるで…

 

そこまで考えていると遠くからサイレンが響いて来るのが聞こえた。

 

「やっば!もう時間か!あれ!?結界は…って俺が壊したのか!」

 

変身を解除してエイジに戻ると警察に目立つ所に女性を置き、車椅子を押してなに食わぬ顔でで逃げた。

 

住宅街の路地にエイジが入り、マンションからは見えなくなると同時に警官隊がマンション内に突入した。

 

「気を付けろ!また爆発するかもしれないぞ!」

 

「下に人が倒れてるぞー!」

 

すぐに救急車がやって来た。

 

撤収する前にエイジが呼んでおいたものだ。

 

走り去る救急車を路地裏から見つめる影はそれをじっと見つめていた。

 

「…。」

 

見る以外何をするでもなく、サイレンが遠退いて行くとそれは路地裏の闇へと消えていった。

 

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女性も病院へと搬送され、爆発の際に発生した火も大きくなる前に鎮火されて警察の現場検証が始まった。

 

それを遠巻きのビルの屋上から魔法の力でなのはは眺めていた。

 

「部屋はめちゃくちゃだね。あの部屋に誰かいたら…。」

 

家具から壁までだいたいのものが黒焦げになっており、もし人が残っているとと考えるとなのはは怖くなった。

 

「さっき近くで警察の人たちの話を聞いてきたけど中にいた多分ヤミーの被害者の人は部屋の下で見つかってそのまま病院に搬送されたって。」

 

フェレットの姿で先ほどまで現場に忍び込んで盗み聞きしてきたユーノが彼女の隣で告げた。

 

「ケガはしてるみたいだけど命にまでは別状は無いって言ってたよ。」

 

「良かった~。けどやっぱりヤミーってかなり危険なんだね。

この間みたいなのとかオーズさんが戦ってたようなのもいたら、あんなに大群で出てくるのもいて対処法も個別にあるみたいだし。」

 

思い返してみてもかなり厄介な相手だった。

 

恐らくオーズが倒したヤミーも強敵だったのだろう。

 

でなければ結界内であそこまで建物がめちゃくちゃになっていない。

 

「それに何でヤミーっていうのが現れるのかとか目的とかも分かんないし…。」

 

「そうだね。その辺りの事情をあのオーズって人に聞たら良かったんだけどね。」

 

「はあ~。そうだよね~。またどこに行っちゃったんだろう…。」

 

折角始まる前には少しだけとはいえお話出来たのに挨拶も無く引き上げられて少々寂しかったりもした。

 

結界が破壊された時は慌てて近くにあった今いるこのビルに降り立ったのだがオーズを見失ってしまった。

 

向こうからしてもこの間のように事情は話せないとして引き上げてしまったのだろう。

 

「ん、あれは?」

 

途方に暮れていると二人の頭上に見覚えのある機械仕掛けの赤い鳥が何処からか現れ、茶色く細長いアルミ缶状のものを落としてそのまま飛び去って行った。

 

「これってオーズさんの使ってた…。」

 

『PROTO』と書かれた缶を回しているとプルタブが独りでに動き、なのはの手の上でバッタの姿をしたロボットへと一瞬の内に変形した。

 

「わっ!?ビックリした!」

 

手から落としこそしなかったがなのはは驚いて尻餅をついた。

 

「お二人さんお疲れ様ー!オーズでーす!」

 

「「え?」」

 

ロボットのスピーカーから彼の声がしてきた。

 

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「さっきは助かったよ!ありがとう!

それとごめんね!何も言わずに離れちゃって。」

 

エイジは変身している時と同じ声色になるように自分側のバッタカンドロイドを調整して話しつつ、感謝と謝罪をした。

 

素の喉でも出せるには出せるが結構しんどいのだ。

 

「いえ、こうして連絡頂けて嬉しいです!

でも何だか可愛らしい感じのこの子は何ですか?」

 

「いいでしょ♪俺がデザインしたんじゃないけど結構この子たち気に入ってんだ~。

カンドロイドって言うんだ。ちなみにその子は見たまんまバッタタイプね。

どれだけ電波が悪くてもペアになる機体間なら通信可能な万能電話ってとこだね。」

 

へえ~と感心するなのはの横からユーノが聞きたかったことを続けた。

 

「オーズさん、今度は可能な範囲でもよろしいのであのヤミーという怪物やメダルの存在について教えて頂けませんか?」

 

「私も知りたいんです。人が傷ついたり、悲しい思いをするのを見たくないんです!お願いします!」

 

少しだけ考えるとエイジは一呼吸して答えた。

 

「いいよ。言えるだけの情報はあげよう。

まあそのためにこの試作品をプレゼントしたようなものだし。」

 

「「ありがとうございます!」」

 

「ただし!」

 

お礼を言い終えるのと同時にエイジは言った。

 

「こっちもやらなきゃいけないことがあるから少し待っててね。

二人も一緒に色々聞きたい人がいるんじゃない?」

 

「はい。かなり聞きたがる人たちがいます。」

 

ユーノは誰かのことを思い浮かべているのか力強く答えた。

 

「そっか。じゃあ長くなりそうだから今夜8時丁度に改めて連絡するよ。よろしいかな?」

 

「はい、大丈夫です!」

 

「ではまた夜に♪」

 

通信を切るとバッタは缶モードになり、それをコートの内にしまうと彼は病院の屋上から階段を下りてある病室へと向かった。

 

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目的の部屋の前にはスーツを着た男らが数人いたが彼の頭は否が応にも目立っていた。

 

どちらかと言うと勿論悪い意味で。

 

「アンク~。お疲れ~。」

 

病室側に用意されていたパイプ椅子に腰掛けていた彼は気の抜けたエイジの呼び掛けと労いに舌打ちしつつ立ち上がった。

 

「あのな、もう少しシャンとして来いよ。先生殿。」

 

「あらあら、あんまりカッカし過ぎたら無駄にエネルギー使うよ~。金髪トサカ捜査官殿♪」

 

「お前こそ白髪だろうが!」

 

「絡むとこそこかよ。っていうか白髪NO!

ぎ・ん・ぱ・つ!そこは大事!」

 

「分かった!分かった!さっさと準備しろ!」

 

今回はガス漏れ事故として処理される流れになったが、事故現場となったあの部屋の被害者が意識を取り戻したはいいがどうやら寄生ヤミー生成の悪影響でまともに事情聴取も出来ずにいた。

 

そこで一度心の観点からの診察ということで彼はアンクに連絡を取ってここにやって来た。

 

刑事たちにはそういう風に説明しておいたが、本当に医者としての資格もある上に心の部分での治療はエイジの

専門であった。

 

全く物は言い様だと心中では少々呆れつつも巧いことやるものだとアンクも感心していた。

 

ヤミー被害者の中には今回のように一概に身勝手な欲望と括れない部類の人間もいる。

 

自身の失ったかけがえの無い大切なものを求めさ迷っている人間ほど、アイツにとってはいい獲物だ。

 

仮にそいつから生まれたヤミーを倒しても根源の欲望と向き合わせない限りは延々とより強力になって生まれ続ける。

 

「準備オッケーっと。」

 

いつもの黒コートをアンクに預け、彼がそれと交換に白衣を渡してそれに着替えた。

 

「じゃあさっさとしろよ。」

 

他の刑事たちを理由をつけて人払いし、アンクは再び椅子に腰掛けた。

 

微笑を浮かべて頷くと彼は病室のスライドドアをノックして入っていった。

 

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「村田ケイさん…ですよね?」

 

「はい…。あの…あなたは?」

 

「黒斗っていう心療医です。特殊な事故や事件に巻き込まれた方を担当する者です。」

 

「私何が起こったのかさっぱり分からなくて…。」

 

彼女のベッドの横の椅子に座って状況に少々混乱しているが話は出来そうな彼女に聞きたかったことを話すことにした。

 

「一つ、変なお話なんですが質問させてほしいのですが、得体のしれない怪物のようなものに覚えはありませんか?」

 

「え?」

 

「例えばあなたの欲望を解放しろと言ってくる者に。」

 

そこまで言われた時、脳裏に残った記憶がフラッシュバックした。

 

「あの子の命日に…あの子のお墓に行ったとき…何かおぞましい化け物に『もう一度あの子に会いたくないか?僕なら叶えてあげられるよ。』って言われて…。」

 

「お子さんは…去年の春に病気で亡くなられたんですよね?」

 

下調べを済ませてからここに来た彼にはおおよその見当はついていた。

 

「ええ…。この病院でね。最初は恐ろしかった。けれどもしもそんなことが出来るのなら…。」

 

「それで応じたと?」

 

真剣な眼差しで彼女を見ながらエイジは尋ねた。

 

「会いたかったのよ!私にとってもうただ一人宝だったあの子がいなくなって耐えられなかった!

初めはみんな悲しんでいた!でも時間が経つとあの子のことをどんどん忘れていった!

私のことを過去に囚われ過ぎだと言った!

もう何もかも許せなくなった!!」

 

ずっと胸に秘めていたであろう彼女の心の叫びをエイジは黙って聴いた。

 

「ねえ?あなたもあの子を…私たちを…否定するの?」

 

泣き腫らして充血した目で感情を剥き出しにした視線にエイジは穏やかに切り出した。

 

「そんなことしませんよ。誰だってもう会えない人に会いたいと思いますよ。

それが自分にとって大切な人ならそれこそ。」

 

「え?」

 

彼は自分のバッグの中から何かを探しつつも目はずっと彼女の瞳を見ていた。

 

「大切な人との別れは悲しいですよね。

もっと話したいこともいっぱいあったし、行きたいところだっていっぱいあった。

…ずっと傍にいたかった。そうですよね?」

 

「ええ…。そうよ、したいこともいっぱいあった。」

 

うんうんと頷き、下を見ていないせいか探し物はまだ見つからないエイジは続けた。

 

「人は死んだら終わり。その人はもうそこでしたかったこともこれから何か心ときめくものに出会うことも出来ない…。

けれどねケイさん。人は誰か一人でも覚えていてくれれば、本当にいなかったなんてことにはならないんですよ。」

 

そう言いつつようやく探し当てた小さな包みを膝に載せた。

 

「そんなの詭弁よ。…あの子はどうあってもここにはいないわ。」

 

「じゃあ本人に聞いてみますか。」

 

包みを開けるとそこには亡くなった女の子の写真が入れられた額があった。

 

「ご自宅が吹き飛んでしまったのでこれしか娘さん関係のものが見つかりませんでしたがその写真立て、中を見てみてください。

答えはあるはずです。」

 

差し出されたそれを受け取ると中から不器用に封のされた手紙がベッドの上に落ちた。

 

「これは…桜の字!」

 

「ええ、自分の死期を子供ながらに察したのかお母さんが絶対に捨てないでいてくれるだろうものに潜ませていたようです。

まあ念入り過ぎて見つけれなかったようですが。」

 

封を丁寧に開け、中に綴られた文を読むと彼女はゆっくりと涙を流して手紙を抱き締めた。

 

中身を読んでいないエイジは内容こそ分からないが安心はした。

 

ここまで人が優しい、穏やかな顔で泣ける時は悲しみでではないと知っているからだ。

 

「娘さんは確かにもう世の中にはいないです。

一緒に日々を生きていた回りの人たちも忘れていくかもしれません。

でもここに絶対に彼女との大切なものを失わない人がいます。

ケイさんがいる限り、桜ちゃんはずっと一緒です。」

 

涙を流し続けながらも頷く彼女にエイジはその肩を優しく右手を置いた。

 

これから彼女が歩む上で必要なこの欲望は終わりを告げた。

 

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海鳴の外れにある廃工場。

 

「あ~あ。結構手間かけたのにこんなもんか~。」

 

ステージクリア前のボスに敗れてコントローラーを投げ出す子供のように不貞腐れて背をうんと伸ばし、両腕を頭の後ろで組んでその場で寝転んだ。

 

「まあいっか…。そこそこ楽しめたし、

あの本も…フフッ!また面白くなりそう!」

 

うねうねと嫌悪感をもたらす全身から生やした大小異なる触手をうねらせて企みを楽しんでいた。

 

朽ちた屋根から光る月が体表の滑りを怪しく照らし、その異形を際立ったせた。

 

上機嫌でいると割れた窓から見える空に向けて触手を玩んでいると何かがその横を掠め、グリードの顔のすく横に突き刺さった。

 

「…はいはい。分かってるよ。そろそろ本気で遊べばいいんでしょ?そう怒らないでよ。」

 

立ち上がり、窓の外の誰もいない虚空に向けて話す彼にに返ってくる言葉こそ無かったが刺さっていたカードは光の塵となって霧散した。

 

「さあ!序章は終わりだ…。」

 

その楽しそうな声色には滲み出る程の邪悪さが垣間見えていた。

 

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「-ではあのヤミーと呼称される怪物はセルメダルから生まれ、それを人間の欲望から作り出す存在がグリード…以上で間違い無いですか?」

 

「間違い無いよ。っていうかなのはちゃんたちといい、本当に君たちは呑み込みが早いね。

こういうのは慣れっこなのかな?」

 

診察を終えてはやてと夕飯を共にした後、エイジは一人この街に初めて来たとき以来の桜台にいた。

 

夜にもなると流石に人はおらず、バッタのロボットを掌に載せてそれに話しかける銀髪男という至極シュールな図も気にせずに通信出来るのでここを選んだ。

 

「変にサグリを入れないでください。

こうして情報をお話していただけたとはいえ、あなたの目的とその力にはまだ疑念が残りますし、何よりあなた自身の正体も教えていただけないとくればこちらも慎重になります。」

 

管理局というものが一体どういった組織かも気になったエイジは少しでもあちらの情報を持ち帰ろうと思ったが、このクロノという少年が年不相応なぐらいのかたぶ…もとい堅実で苦戦した。

 

俺のそれぐらいの頃はもっとやんちゃだったぞと少々爺臭いことを思いつつも質問に答えることにした。

 

「目的は件のグリードの始末or封印。

まあコアメダルは破壊は困難だから実際は後者が現実的かな。

それが一つ目の答え。」

 

「二つ目は?」

 

通信の始めに挨拶をして以来クロノに任せていたリンディが問うた。

 

「あなたが自分の力に溺れ、制御出来なくなって他者にに危険をもたらさないと言い切れますか?」

 

リンディの問いには言葉だけでも気圧されそうになるものがあった。

 

「言えますね。俺の力も救いを必要とする誰かの手を掴むためのものですから。」

 

「それでもやはり身を明かすのは憚れると?」

 

「ええ。」

 

カッコ良く言い切った後に即答で拒否するこの流れはと通信を中継しているなのはたち二人とアースラのハラオウン家の二人以外はずっこけた。

 

「なんでー!?」

 

「ストレートになんか恥ずかしい!」

 

なのはの疑問に何の躊躇いも無くそう言えるなら羞恥も何もあったもんじゃ無いと誰もが思った。

 

「とにかく今教えられることはこれぐらいだけどご質問あります?」

 

「あ!いいですか?」

 

「はい、なのはちゃん。」

 

モニターは無いが、授業のくせで手を挙げたなのはをエイジは指名した。

 

「逆にグリードの目的って何ですか?」

 

「セルを集めて力を手に入れること…だね。」

 

「じゃあ私たちがヤミーを倒したらそのままメダルは?」

 

「処分するか、絶対ヤツが手の届かない場所な置くかだね。」

 

そしてしばらくQ&Aは続き、結論としてはヤミー・グリード出現時はお互い共闘、それ以外では追う、追われるの関係で落とし込んだ。

 

とりあえず話すだけ話し、半ば強引に通信を終えた後にエイジはなのはに少し罪悪感を覚えた。

 

彼女の質問の答えは半分嘘であるからだ。

 

確かにヤミーを作り、セルを取り込んで自身の強化を図るのは合っているがそれならば今のヤツはどうにもおかしい。

 

今日の戦闘でだけでもかなりの数を稼げたはずなのにみすみすこちらに渡し、大漁が期待出来る水棲タイプに至ってはなのはの砲撃で一枚も残さずに消滅させられた。

 

結界張られて内部に手出しが出来なかったとしてもオーズもどきヤミーは結界の破壊と同時の撃破だったため望めたはずだ。

 

そしてコアメダルを狙っているのであればアンクと戦力が分かれている今は狙い時のはずだ。

 

なのに一切手を出すどころか姿も見せない。

 

ならば答えは一つ。

 

はやてちゃんだ。

 

可能性としてあったが今日確信に変わった。

 

今まで海鳴で出現したヤミーは全てはやてを狙っていた。

 

そしてそれらの宿主であった村田にはやての写真を見せると娘が病院に入院しているときによく見かけていたと片方にだけだが面識があった。

 

劣化した寄生タイプの影響で錯乱していたから顔をろくに認識出来ていなかったが、はやてを娘だと刷り込ませれば問題では無かったのだろう。

 

だがなぜ彼女が狙われるのかと考えてきたがあの本の存在も関係しているだろう。

 

落下する際に見せたあの能力といい、言い知れぬ底の分からない力はエイジから見ても気になった。

 

アンクも言っていたがあれは魔法の部類でもおそらく上位のものだろうと見当はつけていた。

 

本当ならばはやてから遠ざけたり、一時的に預かり詳しく調べる必要がある。

 

だがはやてが悲しむこととエイジ本人もそれを拒んでいた。

 

「やっぱあの夢見てからだなー。」

 

一人そう呟くと帰路へと着いた。

 

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家路に着くため坂を下りながらふとエイジははやて絡みであることを思い出した。

 

「にしてもあの子もなかなかのアクティブ派だな。」

 

あの戦闘の中で自分の手ギリギリにあったという桜ちゃんの写真を掴み取ったというのだから大した根性である。

 

本当ならば危ない真似は叱らねばならないのかもしれないが、エイジはその勇気を素直に褒めてあげたかった。

 

自分の身を侵してでも誰かの大切なものを守りたいと行動出来る人間などそうはいない。

 

行動一つで人の人生が変わることもあるのだ。

 

とりあえず今は通信のために交代ではやての家にいるアンクのためにも早く帰ることに…

 

したかった。

 

「あれ?」

 

視界が揺れ、足元が急に覚束なくなった。

 

そして-エイジの見える世界は暗転した。

 

 

 

 

 




この話が始まってからヤミーを作られ続けていた村田ケイさんですが、オーズ本編の
ピラニアヤミー回、シャム猫ヤミー回の被害者の名前からついています。

最初は同じように悲しんでいた周囲の人間たちはどんどんと娘のことをいなかったように明るく日常を送り、自分だけが娘のことを思い続けていたことをグリードに利用されたということです。

今回エイジとの会話にあったように人は死んだら終わりです。

亡くなった本人はその後どうなるとは誰にも分かりません。

残された人たちはどうしましょうか。

忘れないであげてください。

その人と過ごした時間、共に行った場所、やったこと、覚えていればいなかったことになんてなりません。

それが分かった彼女は一つの未練が終わったという意味でのサブタイでした。

さて!もう二桁いくのに作者的にはプロローグでいささかまとめる力を自分自身疑いますがようやっと大詰めです!

まだまだお付き合いしていただけると嬉しいです!

それではまた次回で!

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