スターみかんです!
お待たせしました読者さんには大変申し訳ありませんでした!
投稿が止まってから早いもので、ジオウ…引いては平成ライダーの歴史はグランドフィナーレを迎え、令和の世になった今ではゼロワンが活躍する今日この頃。
なのはさんも15周年…そしてリリカルライブと素敵な催しが行われ、その歴史の重さと素晴らしさがひしひしと伝わりました!
さて、挨拶もほどほどに本編の方に皆様どうぞお進みください!
時をオーズとなのはが共闘する前まで戻した頃、海鳴では別の一団が人知れず戦闘を繰り広げていた。
「ハアァァ!!」
「タスケル!タスケルンダ!」
ブタカンにより隔離された商店街通りの上空では、シグナムの炎撃を見切って紙一重で避けるダツシオカラヤミーの空中戦が繰り広げられていた。
暴走寸前であるのか、宿主の思いを壊れた機械のように繰り返しながら杖を無造作に振るうヤミーには、到底その言葉の意味を理解しているようには見えない。
「言うは易し…大人しく眠れ!」
「…グッ?!」
隙の大きい大振りの一撃を避け、反撃に転じようとしたヤミーはその背部の衝撃に苦悶の声を漏らした。
「ハッ!元が上々でも所詮アイツの出来損ないのヤミー、オツムも力量も全く足りてないな。」
背中から大翼を羽ばたかせ、火炎弾を直撃させたアンクはヤミーを見下ろし悪態をついていた。
「楽勝なら遊んでないでさっさと仕留めろよ!これ引き付けとくのも結構楽じゃないんだぞ!」
地上の家々の屋根すれすれに高速で飛び交うダツヤミーを一手に相手取るヴィータからの怒号が響いた。
本体となるダツシオカラヤミーから分離し、桃色の魔力を纏い突っ込んでくるそれは一体でも直撃すれば致命傷になりかねないほど恐ろしいが、ある弱点も持ち合わせていた。
「こんっのヤローー!!鬱陶しい!!」
常人なら感覚がおかしくなりそうなくらい、手にしたアイゼンのブースターの勢いで独楽のように回転し、自信に群がるダツヤミーを悉く粉砕した。
「読み通りのようだな。」
「ああ。元になったダツが光に突っ込む習性を持ってるなら、奴らも同じはずだから…な!」
「ガアァァー!!」
ブースターから迸る目映いほどの業火を目標に捉えたヤミーたちをヴィータに任せ、本体が天敵とする炎を得手にする自分たち二人で一気に仕留めるまでがアンクの考案した作戦だった。
先程の一撃を脅威に感じたのか、主目的をシグナムからアンクに切り替えたヤミーは彼の周りを小刻みに滞空しつつ、僅かな隙を見つけては辻切りのように突進を繰り返した。
「ッ!ワンパターンなことを!」
鳥のグリードである彼の目をもってしても、一度の挙動で複数の残像を残すほどの速さを持つこの相手には姿こそ見えても動きを完全に追うことは敵わずにいる。
舌打ちと共に連続して放たれた火球の合間を縫うように突っ込んでくるヤミーは、彼を手にした得物の間合いへと入れた。
だが大きく振りかぶった一撃は彼の首筋手前で止まり、鋭利な杖先は弱々しく震えていた。
「…上出来。」
「当然だ。」
糸の切れた操り人形のように落下するヤミー。
落ち行くその背にはまるで翼を広げた隼のシルエットがまざまざと焼き付いていた。
その線上に浮かぶシグナムの手には弦の張られていない白い弓が握られていた。
レヴァンティンの刀身部の頭と鞘が上下に合わさり、形状を弓へと変わり、ヤミーが避けたアンクの火球を穂先で受け止めた上で彼女は自身の魔力の矢と合わせ撃ち返したのである。
「本当に多芸なもんだな。」
「この程度、造作も無いことだ。」
「ふぅ、やっと終わった~。二人もお疲れさん。」
地上に集中していたダツヤミーの群れはメダルへと帰し、奮戦していたヴィータも二人の下まで飛んできた。
「ああ。お前もよく働いてくれたな。おかげで邪魔者の入らずことも済んだ。」
「お、おう…。これぐらい、朝飯前だ。」
ストレートに働きを認められたヴィータは面食らった様子で、目元を帽子で隠してはいたが赤く紅潮した頬までは隠せていなかった。
「…なんだ?」
「いや。普段がぶっきらぼうというか、愛想の無いお前にしては随分と素直な言葉が出るものだなと感心していただけだ。」
「喧嘩売ってんのか!?あと愛想なんてお前も大概なもんだろ!会話の返事なんて「ああ。」か「そうだな。」ぐらいしかレパートリー無いくせに!」
「な!?そんなことは無いだろ!もっと他にもある!」
「おー!言ったな?どんなのがあるんだよ、じゃあ!」
「…。」
「図星じゃねえか!」
ぎゃいのぎゃいのと喚く二人にため息を漏らしつつ、今回自分たちだけにヤミーを任せて、自分はヤツの相手をすると連絡してきて以来音沙汰の無いバカのことを思い、沸々とイライラを募らせていた。
「(とりあえず…戻ったら覚えとけよ…。)」
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「ディバイーン…」
「やらせないよ。」
「くっ!きゃあ!」
そして現在。
戦闘が始まってものの数分の間に結界内の通りは見える範囲でも建物は半分近く崩れ、コンクリートで舗装されていた道路はライフライン類の管が剥き出しになるほどに抉られていた。
全快したとはいえ、相手はヤミーなどとは正直比べるのもバカらしい程の力と知恵を持つグリード。
得意の砲撃も読み切られ、発射はおろかポジション作りもかざされた手から放たれる砂嵐によってことごとく邪魔されていた。
「よっと!」
砂嵐に飛ばされたなのはを受け止めたオーズは、着地を狙って放たれる砂嵐と触手の鞭をビルの壁を蹴りつけ、どうにか捌き切った。
彼らの避けた先にあったビルの外壁は圧縮された砂の粒子に晒され、荒いドリルで作られたような大穴がポカリと空いていた。
「すいません!ありがとうございます!」
「なんの!一回奴から離れるよ。その間に作戦タイ…ム!」
自身の二の腕に乗せたなのはを片腕で落ちないように支え、追撃を掻い潜って先の攻撃で出来たビルの大穴に潜り込んだ。
「ふう…ギリギリセーフ。で、こっからどうしよっか?」
壁の瓦礫やオフィス機材が散乱したフロアの中央に転がる山の後ろに飛び込んだ二人の頭上を、螺旋状に舞う砂嵐が過ぎ去ったのも束の間、止むことの無い手当たり次第の追い討ちをどうにか凌ぎながら頭を巡らせた。
「随分効いたみたいだったから狙ってはいたんですが、バスターを撃とうにも、こうも間を詰められちゃうと…。」
「最初の一撃でアイツもかなり警戒してるみたいだからね。そう易々とはやらせてはくれないか。」
経験からか、相手の用心深さやパターンを心得ている彼はベルトのメダルネストに手を掛けたがすぐに下ろした。
「(今あるメダルはウナギとアンクに持たされてた…。手はこれしか無いんだが。)」
自身以外のコアを内包しているカザリには、他種のメダル同士が互いの弱点となる攻撃をカバーし合っているため、こちらが同じメダルを持ち出したところで、逆に相性の悪い攻撃を連発されて押されることは目に見えている。
だが唯一、奴も持ち合わせておらず、どのメダルにも悪い組み合わせにはならない好カードがある。
この期に及んで出し惜しむ訳でも無いし、何よりこれならば強気に攻められる保証もある。
ただ…
「あの!オーズさん!」
「へ!?な、何かな?」
脳内シミュレーションから呼び戻され、すっとんきょうな声で返事をするオーズになのははある提案をした。
「…っていう感じなんですが…。どうですか?」
「…乗った!」
こちらへの挑発か、焦らすように当てる気も無いような攻撃の飛び交う室内で、彼女から聞いた有用だと思えるその作戦に勝機を感じ秒で採用した。
粉塵や破片が舞う煙ったい部屋の中で、微笑と共になのはは闘志を煌めかせた目を輝かせて愛機を両手で構えた。
「今です!」
「オッケー!」
僅かに止んだ隙でなのはは短縮チャージのバスターを放った。
ただしその砲口はカザリには向けられていなかった。
「なに?」
室内で起きた爆発によって立ち込めた煙はフロア内を覆い尽くし、二人の姿はもちろんのこと中の様子はカザリからは完全に見えなくなった。
「そこをー!」
煙を切り裂き、飛び出した彼の手にした刃は鍔迫り合いを起こして火花を散らした。
「アハハ!やっぱり君とはこうでなくちゃ!」
「抜かしてろ。俺はお前とやり合うのも飽き飽きしてんだ…よ!!」
オーズとカザリ。二人の爪と剣の応酬は熾烈を極めていた。
体術からの剣の扱い、何よりオーズとしてメダルそれぞれの特性やパワーに振り回されること無く扱えるだけのセンス。
相手の弱点、周囲の地形に合わせて最適な形態と戦略を取りやすいのがオーズの強みであることは本人が一番よく理解している。
だからこそ今目の前にいる相手は実に戦い辛い相手だった。
「連れないな~。なら…」
建物の壁を足場に、高速でのぶつかり合いから切り上げたカザリは道路に着地した。
上から飛び掛かるオーズに身動ぎもせず、迎え撃つようにその場で力を集中させると、細身でアンバランスだった片足がもう片方と同じように堅牢で、まるで大木のような物へと変化させた。
刃を足と同じく変化させた腕で受け止め、強襲をかけたオーズの一撃を弾き返した。
「ふん、お前また進化しやがったな。」
宙返りを決めて着地し、構え直して悪態を着くオーズにカザリは筋肉隆々の黒い腕を元の鉤爪に変化させ嬉々として語った。
「どう?僕も君ともっと楽しく遊べるように色々考えてるんだよ。」
複数の系統の異なるメダルに意思を宿らせ、その複合体のグリードとして顕現しているカザリはこのような芸当も可能としていた。
いうなればグリード版オーズとでも言える力であった。
「だったらビジュアルにもこだわりを持てよ。
相変わらず端から見てゲテモノ感がすごいぞ。」
「ハハッ。個性的…とでも言ってよ…」
気怠げに肩を落としていたカザリは次の瞬間には彼の目の前にまで迫っていた。
足にはオーズの物よりも大きく、より生物めいた印象のバッタレッグが脹ら脛の肉を突き破るように生えていた。
「ね♪」
「…。」
オーズの首筋を掻き切るように振りかざした爪先には一際強い光が灯った。
「な!?」
寸でのタイミング、爪は首に当たる前に突如として砕け、ここまで飄々とした態度だったカザリも咄嗟のことで何が起きたか掴めず、獲ったと思った相手の反撃の膝蹴りを許してしまった。
「…小細工好きの癖して、やられる時はまんまと引っ掛かってくれるもんだな。」
搦め手の部位変化で押されたものの、相手が態勢を崩したのを逃さずにここぞとばかりに振るわれるジャリバーの連撃は、彼の触手数本と共にメダルを剥ぎ取っていった。
後ろに飛び退いて最小限のダメージで彼が下がると入れ替わり、オーズはこの仕掛けの発案者である小さな策士のいる方を見やった。
二人がいたビルから尾を引くように彼女の後ろに伸びる飛行機雲を見やり、大まかなことを察したのか切られた箇所を再生させつつ状況を把握した。
「ふーん。さっきの砲撃で反対の壁を撃ち抜いてそこから出て、オーズが僕を引き付けてる間に最適な距離を取ると…。なかなかいい使い方がするようになったね。」
「力は強くなっても、相変わらずくだらん考え方しか出来ないみたいだな。」
それにと続けるオーズはジャリバーの剣先を向け、強い語調で言い放った。
「誰かを信じるなんて、自分以外が物にしか見えないお前にはずっと思いつかない策だろうな。」
「そんなの必要ないからね。それよりいいの?あの子一人にしておいて。」
「何?」
「君の家族とやらがあの子で作ったヤミーを倒したんだろうけど…あれ一匹で本当に終わりなのかな~?」
張り付けた仮面のように表情こそ変わらないが、オーズもその悪意と愉悦がかき混ぜられた声色に、相対する怪物の顔が歪んで笑ったように見えた。
言い終わると同時に、なのはが位置しているはずの空で爆発が起こった。
「っ!なのはちゃん!」
「ほら、余所見しないで。」
「チッ!」
隙ありとばかりに放たれた砂嵐を咄嗟に腕を斜め十字に組んで防御を試みたが、前面に集中し過ぎた彼は背後の凶刃に気づくのに後れを生じさせた。
倒された筈のダツシオカラヤミーはオーズの無防備な背中を辻切り、正面に迫っていた流砂にもろに巻き込まれた彼を容赦無く鋭利な砂は切り刻んだ。
吹き飛ばされて瓦礫に叩きつけられた彼は、衝撃で火花を上げてその場で膝を付いた。
「驚いたでしょ?倒した筈のヤミーがここに居て。
まぁ正確には違うわけなんだけどね。」
下を向いて隣に降り立ったヤミーの首根っこを強引に引っ張り、顔を上げさせるカザリは隠し種が上手くいったとばかりに上機嫌な様子だ。
フォルム、色、武器に差異は無いが頭部の形状は通常種のものと異なり、代わりに屑ヤミーのものであった。
「前から何度か試してたんだけど、ヤミーから生まれたセルメダルを触媒にして屑に混ぜたら大体の能力をコピーした変わり種が出来るようになったんだ。」
ゾンビのようにふらふらと揺れるコピーヤミーを乱暴に投げ捨てて、片腕をまたも重量系の剛腕へと変えてオーズをいたぶるべく歩み寄った。
「さっきから静かだけどどうしたのかな?あ、もしかして落ちたあの子のことが堪えた?」
「…。」
「ちょっと面白かったけど、たかが人間じゃあこの僕には到底及ぶわけないってことも分からないなんてね。
まあ分かる前にさよならしちゃっ…」
二人の間に何処からか高速で飛んできた桃色の球体は閃光と共に弾けた。
「な!何だ!?目が!」
視力があまり良くないグリードとはいえ、すぐ目の前で視界を覆い尽くす程の光を直視すればただでは済まなかった。
「ほんっとにやられる時はとことんだな。お前。」
同じように光を目の前で見た筈の彼は何故か平気なようで、憎まれ口を添えて怯むカザリの背中をトラクローで引き裂いた。
「グッ!な、なんで?ガアァ!」
答えが分かるよりも早く、彼はヤミー共々桃色の奔流にまたしても呑まれて地に伏した。
「オーズさん大丈夫でしたか?」
「その言葉、そのまま君にお返しするよ。」
砲撃後の排熱を終えた杖を携えて隣に降り立った無茶の体現のような彼女はそんなオーズの言葉ににゃははとと惚けたように笑った。
「君、どうして?さっきやられたんじゃ?」
バスターの直撃が響いているカザリはそれ以上に、ヤミーの不意討ちで仕留めた筈のなのはが健在なことに驚いていた。
「悪いね。ぶっちゃけさっきビルに入った時にもうヤミーがどっかにいることは分かってたんだ。」
「は?」
「まあ気付いたのはこっちのお二人さんなんだけど。」
「レイジングハートが教えてくれたの。私と似た魔力反応がする何かが結界内に隠れてるって。」
返事をするように小さく灯った彼女の愛機を横目に眺めつつ、ネタばらしが始まった。
「元々、魔導士の彼女から作ったヤミーだ。
魔法を使えるってことはそれを探知する方法に引っ掛かるわけだ。」
通常ヤミーならば、アンクが感知して知らせが来るが、屑ヤミーは作り出したグリード本人にしか居場所も存在も把握出来ない。
この隠密性は戦闘力の低さを引いても厄介なものだ。
だが強化と遊び目的で魔導士であるなのはから作り出したヤミーと、それをコピーした屑ヤミーは魔力を持ったことで見事にその優位性は失われたのである。
「おまけに所詮は屑ベース。
至近距離にまで居て、なのはちゃんが起こした閃光弾の光を倒した光だと勘違いして俺の方に来るわ、俺への攻撃も元のヤミーより大分力が弱まってるしで劣化しまくってんだよ。」
「あらら。こんなもんじゃやっぱりバレちゃうか。」
読み辛いトリッキーな挙動に、新たに見知った魔法の力で利用しようにもコピーヤミーでは限界は知れていたようだ。
「今回はまあこれぐらいにしとくよ。十分楽しませてもらったし。」
帰り仕度とばかりに捨て台詞を残して撤退しようとする仇敵を逃すまいと構えるオーズに、コピーヤミーが飛び掛かった。
「チィ!」
「それ、今回のお礼にあげるよ。」
予定のノルマは満たしたとばかりに、未練そうな様子は微塵も見せなかった。
「!オーズさんそこから離れて!」
「!?」
鍔迫り合うヤミーの体が身震いを起こして苦しみ出す。
いち早く気づいたなのはの呼び声で離れたオーズは、その体を巨大化させ人型であることも捨てた、トンボとも魚とも言えない風貌をした羽根の生えた怪物を見上げた。
「倒せたらの話だけど…ね♪」
置き土産とばかりに自身のセルメダルを投入し、ヤミーを暴走体にした張本人の姿は砂煙と共に消えた。
「グゥルゥゥアァーーーー!!!」
「っ!なんて出鱈目!」
「不安定だった力のバランスをわざと崩して限界以上の力を引き出してんだよ!とんだ嫌がらせしてくれちゃって!」
暴走体となったコピーヤミーは人型時以上の弾幕を展開して突貫してくる高速ヤミー群をなのはは網目を縫うように回避していた。
だがオーズはと言うと…
「あぶね!」
障害物を挟みどうにか被弾こそしていないが、バッタレッグでは反撃する術も無く徐々に詰められていた。
飛来するダツヤミーをどうにか捌く彼の右手には二枚のメダルが握られていた。
「(本当にこれだけは勘弁して欲しいんだけど…)」
「オーズさん!」
自身の瞳と同じ、真紅の輝きを放つメダルを苦々しく見つめる彼の隙を本体の暴走ヤミーは見逃さず、巨体に似合わぬスピードでその背部を取った。
「させない!」
至近距離から彼を狙うヤミーに放たれたバスターは頭部に命中し、左目からは爆煙と共にメダルがばら蒔かれた。
怒りに駆られたヤミーは残った目で彼女を見据え、頑強な顎を剥き出しに向かって行った。
「やるしかないか!」
赤一色になったベルトは煌めく真紅の羽根と共に高らかにそのコンボのを歌い上げた。
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「Master!」
無茶をしてしまった。
さっきの一発である分だけの力を出し切ってしまった自分には避けるだけの力も無く、その場で飛ぶのにやっとだった。
「(もう…ダメなのかな…)」
心の中でそんなことが過り目を瞑った。
だけどなんでだろう?
どれだけ待ってもあの痛そうな牙が降りかかることは無かった。
うっすらと目を開けると目の前には大きな火の玉が佇んでいた。
燃え盛る虹色の炎を纏うそれは相対するヤミーを寄せ付けずにいた。
「キレイ…だな…」
もう正直限界だった。
視界はぼやけ、足のフィンが消失して地面へと落ちていった。
「大丈夫。後は任せて。」
赤い翼を大きく羽ばたかせ、自分を抱えて語りかける鳥は優しくそう語りかけた。
薄れ行く意識の中、その姿はまるで小さい頃に読んだ絵本に出てくる綺麗な火の鳥に見えた。
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タカ!
クジャク!
コンドル!
タ~ジャ~ドル~!!
真紅の鳥のメダルのコンボ-タジャドルコンボに姿を変えたオーズは気を失ったなのはを平地の陰に寝かせ、自身の放った炎に苦しんで墜落したヤミーへ向き直った。
「グギャオォオ!!」
「元気なこった。こんだけ暴れ回ってもまだまだやれるとは大したもんだ。」
背部から再び翼を展開して飛翔し、左腕を胸のオーラングルの前に翳すとそれと同じ不死鳥が描かれた円形武器
-タジャスピナーが現れ、そのまま腕に装着された。
暴走して切り離されたとは言え、元々はあの子の人を助けたいって願いから生まれたヤミー。
真っ直ぐで、それこそ優しい彼女の思いに終わりなど無いとばかりに炎から逃れようと力を奮う様に敬意とも取れる感心した。
「だけどもう終わろう。」
耳をつんざくような咆哮を上げ、ようやく炎から解放されたヤミーを見据えてスピナーを構える。
「その欲望は一人で抱えるには苦し過ぎるからさ。」
少し体を前に傾けると次の瞬間には巨体の後ろに回っていた。
スピナーから火球を連続で叩き付けると次は側面、上部、腹部に潜り込んで顎を蹴り上げて舞い上がった。
高速で飛び回り、ほんの僅かな隙も見逃さない目は、まるで自分は元々鳥として生まれたように錯覚させる。
スキャニングチャージ!
ベルトをスキャンし、蹴り上げた勢いを殺さぬまま反転すると折り曲げた膝上と爪先の装甲がせり上がって炎を纏い必殺キック「プロミネンスドロップ」を放った。
「ハアァァァ!ソッリャー!」
燃え盛る一撃は太陽が地上に落ちてきたかのように辺りを明るく照らし上げ、標的となった欲望の化身は断末魔の叫びを残す間も無く焼き尽くされた。
「ふぅ…。一丁上がり。」
翼を仕舞い、ゆっくりとなのはちゃんの近くの平地に降りた。
時間にしてみれば飛んでいた時間は短かったかもしれないがようやくの地上に一安心し、一先ずの勝利と共に大きく息を漏らした。
「よく眠ってるみたいですね。」
「Thanks to you.(おかげさまで。)」
最後まで持ちこそ叶わなかったが、病み上がりから大仕事に望んだ小さな天使の手には相棒さんがキラリと輝いていた。
「あなたのマスターさんは本当に大したもんだね。いつもこんな調子で?」
「Yes.It is a problem for her to do recklessness, but I am proud of her hard work like that.
(ええ。なかなかやんちゃな所も多くて心配ですが、何事にも真っ直ぐな彼女は私の自慢のマスターです。)」
「なかなか素敵なコンビなことで。」
「Thank you,your tactics were good too.
(ありがとうございます、あなたの作戦も素晴らしいものでしたよ。)」
「そりゃどうも。じゃ、そろそろ俺はお暇させていただきますが…よろしいですか?」
口の悪い相棒が全然褒めてくれないこともあって、彼女の言葉は嬉しいものだが、向こうから自分はあくまで手配犯と変わらない扱いなのを忘れるほど自分も能天気に構えてない。。
「…As soon as you got a piece, it flew away and disappeared. I will do that.
(…あなたはそのまま飛び去っていった、そういうことにしておきます。)」
「えらくあっさり見逃してくれますね。」
「I just want to rely on you.(単にあなたのことを頼りにしたいのですよ。)」
「?それはどういう…」
言葉に含みを感じ、その真意を問おうとしたのと同時にピギカンのタイムリミットが迫りブザーが鳴った。
「じゃあ今回はお言葉に甘んじましょう。」
「Be careful.(お気をつけて。)」
その場から大きく飛び上がった赤翼に別れを告げると、レイジングハートは小さくこう付け加えた。
「Nice doctor.(素敵なお医者さん。)」
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「…ふぅ。」
ゲンムファウンデーション会長室で宗正は一仕事を終えて椅子にゆったりと腰をもたれさせていた。
ヤミー騒動も頻発し、その対処方針の会議に政府側への経過報告。
加えて自社グループの会長としての業務を見事こなして見せているとは言え堪えるものは堪えるようだ。
小休止がてら、世に出る前の息子の新開発ゲームに手を出そうとするとピーッと外からの呼び出し音が鳴った。
「私だ。」
「失礼します。会長宛にお手紙が届いております。」
「私に?分かった、私の部屋まで届けてくれ。」
「承知しました。」
指示を出してほどなく、女性秘書は手紙を手にして部屋に来た。
「失礼します。こちらがそのお手紙です。」
「どれ…ああ、なるほど。」
手紙の差出人を見た彼は一人納得した。
「お知り合い様ですか?」
「古い友人でね。」
定規でも当てたようにミリ単位で真っ直ぐ揃った流暢な筆記体の英語で書かれた宛名書きに「相変わらずの几帳面さだ。」と溢す宗正はくるくると便箋をひっくり返した。
「どうもありがとう。ここ2、3日紙の相手ばかりで、生きている人間は自分以外いないのかと少々不安になって来た所だったから少なくとも君がいると分かって安心したよ。」
「2、3日では無く最後の会議からお休み無く4日間そのままですよ。」
「もうそんなにだったかな?」
広々とした部屋の中には応接間に資料庫、一体どこに店でも出す気なのかと言いたくなる業務用冷蔵庫に本格派キッチン、果てはトイレにシャワールームに壁の中にはボタン一つで収納可能なベッドと、最早ここが自宅と言っても差し支えの無い充実っぷりだ。
「会長ともあろう方が会長室に泊まり込みなんて社長に知られましたら…」
「ハハハ…。彼にはくれぐれも内緒で頼むよ。」
「承知しております。他に何かご入り用のものはございますか?」
「いや、大丈夫だよ。もうそろそろ定時も近いことだし君も残りの仕事に戻ってくれたまえ。」
失礼しましたと言って部屋を後にした。
便箋を開けるとこれまた丁寧に書き連ねた文が一杯の手紙が数枚入っていた。
「全く…電話もメールもダメかと思えばわざわざこんなものを。相変わらず機械は苦手なのか。」
手紙を読みながら小言を漏らすも読み進める手は生き生きとしていた。
「あまり変わらないな、ギルよ。」
同封されていた写真に愛猫達と写る旧友を眺めて懐かしみつつ宗正は表情を和らげた。
はい!タイトルにあるように翼…Flugelと、オーズといえばタトバに並んでこのコンボが好きという方も多いのでは、となるタジャドル登場でした!
オーズ本編でも様々な場面、そしてあの最終回での活躍は印象的でしたね。
こちらの物語中でも、このコンボは重要な役割を担うことになるので、タジャドルファンの方はお楽しみに。
今後も遅い更新だったりと、ご不便・不都合なことのなるかもしれませんが、温かく見守っていただけますと幸いです。
それではまた次回に。