【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】   作:Nyarlan

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サイタマがいない世界
Prologue - ハゲを探して早何年?


遠くから鳴り響く、連続した重い破壊音によって平穏な日常風景は突然終わりを告げた。

 

〘A市○○区にて怪人災害発生しました。災害レベル:鬼、付近の皆様はお近くのシェルター、または地下施設へ避難して下さい。繰り返します――〙

 

 街角に設置されたスピーカーが告げる現状に、人々は色めき立つ。

 

「災害レベル鬼だってさ、結構ヤバそうじゃね?」「最近怪人多いよなー」

「昨日“タツマキ”が飛んでんの見たぜ!」「マジかよ裏山……見えた?」「残念ながら……」

 

 それでも人々はさして慌てることはない。多少強い怪人が現れようとも、更に強いヒーローがすぐに対処してくれると知っているからだ。

 しかし、今回に限っては破壊音は収まるどころか、より近く、大きくなり始めており――。

 

〘怪人災害の続報です、災害のレベルが【竜】に格上げされました。A市全域の皆様は近くのシェルター、もしくは地下施設へ避難してください。繰り返します、災害レベルが――〙

 

 ――際大きな爆発音が響いた次の瞬間。どこから飛んできたのか、白い軽自動車がアナウンスを告げていたスピーカーへ直撃する。

 

「………こ、こっちに来たぞおっ!?」

 

 硬直していた人々は、そんな誰かの悲鳴を皮切りにパニックへと陥る。しかし、彼らには逃げ惑う暇すら与えられる事はなかった。

 その場にいた人々の内の何人かが、上空に浮かぶ黒く巨大な人影を視認した次の瞬間――周囲は閃光と爆音に包まれた。

 

 

 

 

(………ッ。一体、何が――?)

 

 何かが爆発するような音と、火の付いたように泣き叫ぶ甲高い――幼い少女の――声が耳へ入り、一人の少年の意識が浮上する。

 瓦礫と瓦礫の隙間にすっぽりとはまり込む形となっていた少年は、とっさにその隙間から這い出そうとし、動きを止めた。

 

「マ、マぁ……パパぁ……どこぉ……?」

 

 ちょうど彼の目の高さでぽっかりと空いた瓦礫の隙間から、広い空間へと視線が通っている。

 薙ぎ倒された建物の隙間にできた広場には、鳴き声の主であろう少女の姿があった。

 ――そして、その背後に迫る大きな人影に、少年は凍り付く。

 

 2メートルを優に超える鍛え上げられた巨躯、何一つ身に着けていない漆黒の肌。そして頭から飛び出した、先の丸い二本の角。

 ――それは、彼が意識を失う直前に見た、空に浮かんだ怪物。

 

 その漆黒の怪物は嫌にゆっくりとした足取りで少女に近付くと、その大きな手を少女へと伸ばした。

 差し出された手は急速に膨張し、少女を握り潰さんと大きく開かれ――。

 

『……む』

 

 ――しかし、その手は空を切った。

 少女の体が見えない何かに引っ張られるように宙を舞い、瓦礫の隙間へと吸い込まれたからだ。

 怪物は当然その行き先へと視線をやり、瓦礫に紛れて恐怖に引きつった表情のまま少女を抱きとめる少年の姿を捉えた。

 

(――あああああッ!! 何やってるんだ僕は!!! 馬鹿かっ!!)

 

 恐ろしい怪物と視線が合ってしまった彼は、激しい後悔に襲われていた。心臓は早金を打ち、体は震え上がり、歯がガチガチと激しく音を立てる。

 そんな少年を見つけた怪物は、煩わしそうにその掌を少年へと向ける。

 

(()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のにッ!!! 早く、早く来て! お願いだから早く――ッ!)

 

 そんな願いも虚しく、怪物の指先から激しい閃光と爆音が放たれ、少年を守る瓦礫の城は爆炎に包み込まれて木端微塵となる。

 吹き戻しの風に黒煙が吹き払われると――クレーターの中心には、気絶した少女を抱えて蹲る無傷の少年の姿があった。

 

『……ほう、バリアか』

 

 感心したように呟く怪物の視線の先では、緑色に淡く輝く半透明の球体が少年たちを守るように包み込んでいた。

 退屈そうな表情をしていた怪物の口元が、弧を描くように歪む。

 

「ひっ――!?」

 

 次の瞬間には怪物の手が少年の視界いっぱいに広がっていた。

 怪物がバリアもろとも彼らを鷲掴みにし、握りつぶさんと力を込め始める。バリアは抵抗するようにバチバチと紫電を走らせ火花を散らすものの、怪物が怯む様子はない。

 

『ふむ、人間にしては強力なようだが……この程度』

「ひっ……! あ……ッ!」

 

 怪物が力を込めるにつれて、バリアはガラスが立てるような甲高い音とともにひび割れてゆく。

 迫りくる濃密な『死』の恐怖に、少年は顔をくしゃくしゃにひながら縮こまる。

 

「死ねぃ――」

 

 バリアが限界を迎え、彼らの命が握り潰されようとした――次の瞬間だった。

 

 

「――SMAAAASH!!!」

 

 

 ――気付けば、少年の体は宙へと投げ出されていた。

 空中で成すすべもなく舞い落ちる彼の体は、次の瞬間には熱い体温にしっかりと抱きとめられる。

 少年が目を回しつつも目を開けると。

 

「助けが遅れてすまない。だけど、もう大丈夫――何故って?」

 

 力強い、笑顔があった。――冷や汗を彫りの深い顔いっぱいに浮かべて、口元は引き攣っている。

 それでも懸命に、全身全霊の笑顔を浮かべた漢の顔があった。

 

「オール……マイト……?」

 

「私が来たからだ!!」

 

 少年はその日、ヒーローと出会った。

 

 

 

 

 

『――何者だ、お前は。何をキョロキョロしている、ふざけているのか?』

 

 砂埃の中から現れた怪物は、不愉快そうに顔を歪めながら問う。

 気絶した少女と腰の抜けた少年をそっと地面に下ろすと、男――オールマイトはその筋骨隆々とした巨体に似合わぬ落ち着きのない動作で周囲をキョロキョロと見渡す。まるで誰かを探すように。

 ――やがて落胆したように肩を落とすと、彼は頭を振って怪物を正面に見据える。

 

「私は、ヒーローをやっている者だ」

 

『ヒーロー、だと?』

 

 自身を無視するような動きに青筋を立てる怪物に対し、()()()()()()誰もが知るヒーローはゆっくりと拳を構える。

 ――オールマイト。少年もまた、その名を知っていた。それこそ、彼が()()()()()()()()()()()()()だ。

 

『私は環境汚染を繰り返す人間どもの害悪文明を滅ぼすために生み出された地球意志の使徒! ワクチンマンだ!!』

 

 怪物が抑えきれない怒りに身を震わせながら吼えると、その身体は人の形を崩しながら急速に膨張してゆく。

 その圧倒的なまでの気配に空気がビリビリと震え、少年は目の前の光景に圧倒される。

 目の前の怪物が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にも関わらず。

 

「少年」

 

 オールマイトが背中越しに呼びかけて来た事で、怪物の変身を呆然と眺めていた少年は我に返る。

 

「今からコイツをなるべく遠くへ引き離す。――()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()? 可能ならその力で周囲の生存者を助けてやってくれないか?」

 

 確信を持った様子でそう言う彼に、少年はおずおずと頷いた。

 そして、少年はポツリと呟く。

 

「――あなた()、やっぱり」

 

 目の前で巨大な異形へと変わったワクチンマンを前に、オールマイトもまた深く息を吸い、全身に力を滾らせていた。

 

『地球は一個の生命体であり、それを蝕む貴様ら人間は病原菌に他ならない!! その病原菌がヒーロー!? 片腹痛いわ!』

「君にとってはそうなのかもしれない! だが君の言う病原菌たちも必死に生きているのでね、全力で抵抗させてもらう、ぞッ!」

 

 言うが早いか、ミサイルのごとき勢いで飛び出したオールマイトが全身でワクチンマンにぶつかった。

 

『ぬおおっ!?』

「この場は頼んだぞ、()()()少年――ッ!」

 

 そんな言葉を残して、オールマイトはワクチンマンとともに遥か彼方へと飛んでいってしまった。

 

「……そうだ。救助、しないと」

 

 その場に残された少年――シゲオがそう呟くと、周囲の瓦礫が音を立てて浮かび上がり始める。

 

 

 

――数日後、とある研究所の会議室。

 

「急に集まってもらって申し訳ない!」

 

 ミイラ男よろしく全身包帯まみれとなり、三角巾で腕まで吊った巨漢――オールマイトが壇上で一礼すると、ざわついていた会議室が静かになる。会議室には老若男女数十人が座っており、彼らの服装は非常に不揃いで統一感に欠けたものであった。

 

 高校生らしき学生服の者から、壁に鉄塊の如き大剣を立てかけた鎧姿の戦士や真っ黒なローブに身を包んだ魔法使いめいた者まで、非常にバリエーション豊かだ。

 そして彼らの中にも壇上に立つオールマイト程では無いにせよ、怪我を負っている様子の人物が幾人か見受けられた。

 

「さて、本日こうして集会を開いた理由だが――」

「御託はいい、まずは()()()()()()()()()()()()()()()()、単刀直入に教えてくれねぇか」

 

 カンペを手に口を開いたオールマイトを鎧姿の戦士が制する。

 彼もまた頭や腕に血の滲んだ包帯を巻いており、その表情には苛立ちと憔悴が見て取れた。

 オールマイトは言葉を遮られて目を白黒させていたが、やがてため息をひとつついて話し始める。

 

「うん、そうしようか。残念だが彼は――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 たった一言で、会議室に明らかな動揺が走った。

 ――その場にうなだれるもの、歯を食いしばるもの、頭を抱えるもの、顔を青ざめさせるもの。

 反応は様々だが、みな言いしれぬ絶望感を抱いていた。

 なぜなら、この場にいる皆がサイタマと呼ばれた存在の重要性を理解していたからだ。

 

 

 この場に集まる年齢も肩書も違う者たちに、一つ共通点がある。

 

――それは彼らが皆、()()()であるという事。

 

 それも、いわゆる前世の記憶があるというだけのものではない。

 死後、神を名乗る者によってそれぞれの「憧れている、あるいは理想の存在たる空想上のキャラクター」の姿()()()を得た上でこの世界に転生させられた者たちであるのだ。

 

 そして、彼らの転生先となったこの世界もまた彼らの大部分が知る空想の――漫画あるいはアニメで知られる物語の世界。

 

――ワンパンマン。

 次々と襲い来る人類の敵に立ち向かうヒーローたちの群像劇。

 その主人公にして、機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)としての役割をもつ、サイタマ。それが、いないのだ。

 

「……以前からの調査で彼の不在は濃厚とされていたものの、ワクチンマンとの戦い(だいいちわ)が始まればふらっと現れる、そんな可能性に皆が縋っていた……が、彼はとうとう最後まで現れなかった」

 

 ざわめく会議室内で、彼は絞り出すようにこぼす。

 

「改めて言うまでもなく、この世界においてサイタマ君は必要不可欠の存在だ。彼がいると思ったからこそ、我々は安心してこの人外魔境(せかい)で気負う事なく、思い思いに憧れた存在の姿でロールプレイ(じんせい)を楽しむことができていた。どんなに滅茶苦茶な強さの敵が現れようとも、最後には彼が一撃で蹴散らしてくれる、そう信じていたからだ」

 

 そして彼は深く、深くため息をついた。

 

「――しかし、彼がいないと分かった今、彼なしで世界滅亡レベルの危機に対処しなくてはならない……!」

「……まあ、アンタはその典型例だからなァ」

 

 どんよりとした表情でそう語る彼には同情するような声が上がり、周囲も同意するように頷いた。壇上で肩を落とすオールマイト(てんせいしゃ)はある種のロールプレイの結果としてS()()1()()の座に君臨しており、世界の存亡をかけた絶望的な戦いに否応なく駆り出される存在なのだ。

 がっくりとうなだれていたオールマイトだったが、ふうとため息を入れると顔を上げる。

 

「……しかし、悪いニュースばかりではない。知っての通り、あちらの世界で連載されていた“ワンパンマン”の中でも屈指の難敵とされるワクチンマン、その討伐に我々は成功した!」

 

 拳を握りしめて言うオールマイトに対して、一部から感嘆の声が上がる。

 

「ちなみに、あんなバケモノを一体どうやって倒したんだ? オレたちは近付いただけでこの有様だったが」

「正確には、まともに近付く事すら出来なかった訳だがね」

 

 そう尋ねた鎧姿の男に、複数の人間が同意するように頷く。

 彼らもまた全身に包帯を巻いており、軽くない負傷を負っていた。

 

「うん、D市方面からタツマキ君が来てるのは無線で聞いてたからね。まずはそっちの方面へ不意打ちでブッ飛ばして、後はエネルギー弾を撃たせないように近接格闘で時間稼ぎ。数分でタツマキ君が到着したら後は超能力で動きを鈍らせてもらって超殴った、腕にヒビ入るくらい!」

 

 でもめっちゃ抵抗されてこの有様さ! などとヤケクソ気味に笑って言うトップヒーローに、周囲はざわついていた。

 

「タツマキのねじ切りは当然効かず、か。S級最上位二人掛かりでやっととは、先が思いやられるなぁ……」

「……描写的に見てもボロスはあれ以上だろ? 勝てるのかよ」

「もうダメだぁ……おしまいだぁ……!!」

 

「はい、待って落ち着いて! 朗報はもう一つあるから!」

 

 悲観する声を遮るように声を上げたオールマイトは言葉を続けた。

 

「新たな転生者(どうほう)が見つかった! それも、タツマキ君に匹敵するであろう、とびきりの強キャラがね」

 

 その言葉に、悲嘆に暮れていた転生者たちの表情へにわかに明かりが差す。

 

「新しい転生者、それもタツマキ級?」

「そう、それも原作者のお墨付きさ! その名は――」

 

「原作者の……ああ、モブか」

「そういや100%モブでタツマキくらいなんだっけ」

「――うん。モブサイコの影山茂夫少年だね……」

 

 先に答えを察されて言われてしまったせいか、彼は心なしか筋肉を萎れさせながら話を続ける。

 

「端的に言うと、彼は先日の怪人災害の被害者だ。……破壊痕の中、生き残っていた所をワクチンマンに襲撃されたらしい」

「今まで活動を見かけなかったって事は、積極的に力を振るわないタイプの転生者か……戦いに引きずり出すのは難儀しそうだな」

 

 転生者の一人が唸る。転生者は数多くいれど、戦いに身を置く者ばかりが全てではない。むしろ、この場に集まった面々の大半は戦いと無縁の日々を過ごす者達だ。

 

「……ワクチンマンを前にした彼の表情は、脅威に怯える一般人そのものだった。正直言って、一人の大人として……なによりオールマイト(ヒーロー)として、力を持ってるだけの子供を戦いの場に引きずり出すような真似はしたくない」

 

「しかし、残念ながら今の我々には余裕がない。最大の敵(ボロス)を倒すためには必ず彼の力が必要になるだろう……サイタマのような無敵のヒーローはここにはいないのだから」

 

 まったく、自分の不甲斐なさが嫌になる。

 オールマイトはそう言うと深く、深くため息をついた。




・オールマイトの転生者
原作オールマイトはパンチの余波で天候変えてたのでS級上位組には入れるはず
中の人(転生者)が本物リスペクトでよく働くから協会上層部の評価も高い
強めに見積もってタツマキとまともにやりあえるかもくらいに設定(真面目に描写比べたらそこまで強いかはともかく)
ハゲ不在が確定して禿げそうなほどストレス受けてそう

現状転生者最強が彼です、そこにモブくんを加えてタツマキ級が三人となったということで
これでハゲ抜きでもボロスに勝て……たらいいなぁ

2021/4/23加筆修正&特殊タグ追加
2021/10/13こっそり加筆修正

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