【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】   作:Nyarlan

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怪人娘のいる日常-1

「これっ、これですの!! やっと手に入れましたのっ!」

 

 夜明けを控えたZ市の路地裏に少女の嬉色を帯びた声が響く。

 がさごそとビニールの擦れる音を響かせながら一人の少女が手にしたものを掲げ、目をキラキラと輝かせる。

 

――その少女は異様な姿をしていた。

 

 土埃で汚れてなお金色に輝く長い髪と、くりくりとした碧色の目。

 満面の笑みを浮かべた顔立ちは人形のように整っている。

 ……しかし、そのだらしなく緩んだ口元からは鋭く尖った犬歯が伸びており、伸び放題の髪でかろうじて胸部を隠した裸体……その腰から下に伸びるのは大蛇の尾。

 少女は、いわゆる怪人である。

 

 そんな異形の少女が喜色満面に掲げているものは、先程捨てられた物を彼女が回収したコンビニの廃棄弁当入りのゴミ袋であった。

 

「おにぎり各種に炒飯弁当、冷やしラーメン、カツ丼……んはぁっ! 全部全部私のものですの! 誰にも渡しませんの〜っ!」

 

 ゴミ袋をぎゅっと抱きしめる少女の目には涙すら浮かぶ。そうして歓喜に打ち震える姿を誰かが目撃したならば、とても切ない気分になるだろう。

 しかし、少女はそんな自らの姿を顧みる事もなくその袋をゆっくりと開封すると、炒飯弁当を手に取り開封した。

 スプーンも箸も持っていない彼女は、一切の躊躇もなく汚れた指先でそれをつまみ上げる。

 

「では早速……いただきますの」

 

 指の隙間から米粒をこぼしながら、上向きにあけた大口にそれを放り込む。

 冷たい炒飯を無言で咀嚼する彼女の両目からは、やがて真珠のような涙がポロポロと溢れ出した。

 

「おい……しい……っ! 美味しいですの、美味しいですのっ! これが……これが……!」

 

 二口、三口と貪るように炒飯を食べ続ける少女は、肩を震わせ激しくしゃくりあげて慟哭した。

 

()()()()の、文明の味ィ……!!」

 

 口を大きく開けて残り少ない中身を口の中へと放り込み、空になった容器を放り投げ、おにぎりを開封すると同時にかぶりつく。

 

「米の甘み……ッ、適度な塩加減! 昆布の甘みと旨味ッ……! 野山では絶対味わえないやつですの! あの野蛮人どもめぇ!」

 

 フィルムを剥ぎ取った味玉入りおにぎりをぺろりと一口で頬張り、少女は必死の形相で咀嚼し飲み込む。

 

「野ねずみだとか……ッ! 野鳥だとかっ! あんなもの、この味を覚えてたら食えたもんじゃないですの! いつも丸呑みだから味なんて分かりゃしないけども!」

 

 次はおこわのおにぎりを口へ放り込み、ついでとばかりに赤飯おにぎりも詰め込む。

 

「大体なんでング……こんな世界にング……転生しなきゃならないんですの……私はただ……ングッ!?

 

 突然、愚痴をこぼしていた少女が喉を押さえて悶える……冷えたもち米が喉に詰まったのだ。

 小鳥やネズミを丸々嚥下する強靭な喉を持つ少女ももち米という殺人兵器には敵わないらしい。彼女は慌てた様子で袋を探るが、目当ての飲料は一つも入っていない。

 いろんな意味で顔を青くしながらのたうち回る少女だが、喉のつかえは取れる気配がない。

 

〜〜〜〜〜〜ッ!!!

 

 不意に、ドタバタと一人暴れる少女の目の前へ何かが差し出される――それはキャップの開いたペットボトルだった。

 少女は一も二もなくそれをひっつかむと、冷たいお茶を流し込み難を逃れる。

 

「――ップハーッ! し、死ぬかと思いましたの……!」

 

 ゼイゼイと息を荒げる少女の背中に、低い声が響いた。

 

「大丈夫か」

 

 息を整えた彼女は、命の恩人である声の主を振り返り――。

 

「ええ! おかげさまで助かり、まし……た、の……?」 

 

 ――そして硬直した。

 

ドッ ドッ

  ドッ ドッ

 

 それは、例えるなら大型バイクのエンジン音。

 一音一音に圧力すら感じるそれが絶え間なく響き渡る路地裏。

 その音の中心に男は立っていた。

 

 早朝の闇が影落とす中、三筋の傷を左目に受けた厳つい顔が浮かび上がる。

 その大きなシルエット――戦いに長けていない彼女でもひと目見ただけでわかる屈強な肉体からは、凶悪なまでの“強者のオーラ”が溢れ出ていた。

 

ひっ……あっ……

 

 少女はたった今潤したばかりの喉がかすれて行くのを自覚する。

 人類とそれ以外は常に敵対関係にあり、互いに殺し合っていることを彼女は同族から学んでいた。

 そして目の前にいる相手は押し潰さんばかりの威圧を放っており、少女の本能は窒息以上の脅威を男から感じ取った。

 

――勝てない。

 怯え竦んだ彼女の身体は戦う前から既に降伏していた。

 

 故に、彼女は。

 

おねがいします、ころさないでください

 

 その言葉をなんとか絞り出し、即座に土下座を敢行したのであった。

 

「…………」

 

 男は黙り込み路地裏には例の音だけが満ちてゆく。

――数分か、あるいは一時間か。

 実際にはほんの数秒間の沈黙が、少女には永遠にも等しく感じられた。

 

「……なあ」

 

「ッ!?」

 

 やがて口を開いた男の声に、少女の心臓が破裂しそうになる。

 斬首台に跪く罪人のような心持ちで少女が顔を上げると……男は相変わらずの無表情で彼女を見下ろしている。

 半ば死を覚悟した少女に、男は言った。

 

「腹、減っているのか」

 

 

※※※

 

 ジュワーッ、と高熱のフライパンが食材を炒める音が鳴り響く。

 香ばしい香りが部屋全体を包み込む中、男は深く思考する。

 

(どうしてこうなった)

 

 底の深いフライパンを揺すって米粒を踊らせる傍ら、視線だけを横へ走らせる。

 マッハで片付け、いつに無く整然とした自室の一角でガチガチの表情で座る異形――先程拾ってきた怪人の少女。

 

(いやいやいや、なんで拾った俺。可愛いけど怪人だぞ怪人)

 

 適当に選んで着せた赤いパーカーの裾からは鱗に覆われた太く長い蛇の下半身が伸びている。もしそれに襲われればワンパンでやられる自身が男にはあった。

 

 怪人は恐ろしく、狂暴で残忍。

 怪人は容易く他者の命を奪う、人類共通の敵。

 

 それは彼も身を以って知る常識であった。

 ……しかし。

 

(……なんか、ほっとけなかったんだよなぁ)

 

 廃棄のおにぎりを喉につまらせのたうち回り、彼の顔を見て涙と鼻水と冷や汗でグッチャグチャのシワシワになった彼女の姿は彼のよく知る「恐ろしい怪人」の像からはあまりにかけ離れていた。

 

 パラパラに仕上がった炒飯を2つの皿に盛り付けると、スプーンを添えて愛用のこぢんまりとしたちゃぶ台へ乗せる。

 少女は未だに緊張の極みにあるらしく、激しく目を泳がせながら同じく緊張で高鳴る彼の心音に合わせてビクビクと震えている。

 その様子はまるで誘拐犯に怯える幼気な少女のようであり――実際当たらずとも遠からずな状況ではあるが――まるで自身が脅しているようで男の内心には罪悪感が際限なく降り積もってゆく。

 

(……顔に傷まであるしガタイも無駄にいいからなあ、鍛えてもいないのに。実際はそんなのハリボテで、ただの小心者のオタクだけど)

 

 彼自身、自分が異常なまでに恐怖される事は当然自覚があった。

 チンピラとかち合えば道を譲られ、銀行で強盗と鉢合わせれば即座に降伏され、挙げ句の果てに怪人にこうして命乞いをされる。

 あのヒーロー協会から直々に『A級待遇からでどうか、順調に実績を積めばすぐにS級にも昇格できるだろう』とスカウトまでされてしまった事がある。

 無論、彼は断ったが。

 

(この心音だけでも鎮めれば幾分かマシになるんだけど……よし)

 

 彼は静かに目を閉じると、先日から放送を追っている美少女アニメのことで脳内を満たしながら深く息を吸った。

 

「すぅ――――」

 

ひゃひいっ!?

 

「はぁ――――」

 

ぴぃっ!? ご、ごめんなさいですのっ!」

 

「………………」

 

 ちょっと深呼吸するだけでこの有様である。彼はちょっと死にたくなった。

 しかし、目論見通り彼の心音は徐々に落ち着きを取り戻し、やがて部屋を支配していた謎の重圧が緩和されてゆく。

 ガクガクと震えていた少女もやがては落ち着きを取り戻し始めたのを見て、彼はゆっくりと口を開いた。

 

「……危害を加えるつもりは一切ない。だから安心していい」(仮に襲っても抵抗されたら俺が死ぬんだよなぁ)

 

 かわいそうなくらいに激しく何度も頷く彼女の姿に彼は内心ため息をつきたくなったが、更に怯えられても困るのでグッと堪える。

 

「腹が減っているんだろう? 男の雑な料理で申し訳ないが、せめて冷めない内に食べてくれ」

 

 そう言って彼は自ら先に炒飯を一口頬張り、咀嚼する。

 それを見て少なくとも毒ではない事を理解したらしく、少女は未だ微かに震える手でスプーンを握り、おずおずと炒飯を掬い上げた。

 

「で、では失礼して……い、いただきますの」

 

 そう言って少女は意を決したように固く目を瞑り、握りしめたスプーンを小さく開けた口の中へ差し込む。

 するっとスプーンを引き抜くと、もぐもぐと咀嚼を始めた。

 咀嚼を続ける少女の表情からは強張りが少しずつ抜けていき、やがてはその碧い双眸から滂沱の涙が溢れ出した。

 

あぅっ、う゛ぁ、ふぐぅぅぅう……!!

(お、おう……)

 

 嗚咽を漏らしながら猛然と食事を続ける少女に内心ドン引きしながらも、男はそっと自分の皿を差し出したのであった。

 

 

 

ずびーっ! ……お見苦しい所をお見せしましたの」

 

 鼻を勢いよくかみながら、穏やかな顔で少女が言う。

 彼女も現金なもので、どうやら満足する食事を与えられてすっかりと警戒心や恐怖心は解けたらしい。

 

「……俺なんかの手料理でそこまで感激されるとは思わなかったが、満足したなら良かった」

 

 結局二人分の炒飯とデザートにプリンを一つ平らげた少女を眺めながら、男は明日の朝食用のバナナを一本頬張る。

 

「思えば()を含めても母以外の手料理なんて食べたことがありませんの。飢えに飢えていたのもあるけど、今まで食べた何よりも本当に美味しかったですの」

 

 しみじみと呟く少女を前に、男は茶を淹れ始めた。

 

「これまでの食事ときたら、『グズに出すエサはない』なんて言われて苦手な狩りでボロボロになりながらようやく捕まえた小動物を丸呑みする日々。兄弟たちが満たされる中で一人飢えに耐えるなんてよくある事……ほんとクソみたいな日々でしたの」

(……怪人も色々大変なんだなぁ)

 

 音が淹れた茶をズズッと啜りながら、少女の語りは徐々にヒートアップしていく。

 

「主食は小さなネズミや野鳥! 丸呑みして毛や羽が口に残るのがどれだけ不快か! あーもう、あんなの二度とゴメンですの!!」

 

 なんとなく口の中が気持ち悪くなった彼がお茶で口をゆすいでいると、ふと一つの疑問が頭に浮かんだ。

 

「……生まれた時からそれなら、普通に慣れるんじゃないのか?」

「もちろん、餓死は嫌だからなんとか食えるようにはなりましたの。でも初めはホントひどくて、嫌がったり吐き出したりする度に腹を掻っ捌かれて折檻されたり」

(食事拒否のペナルティが重すぎる……)

 

 当時を思い出したのか、げんなりとした顔でうなだれていた少女は深くため息をついてから身を起こし、拳を握った。

 

「だから昨日一族で人間の街まで移り住んできた時に隙を見て逃げ出してやりましたの! あの野蛮人どもがドブネズミやらカラスやらを食べてる間に私は優雅に美味しくハンバーグやカレーライスを食べる予定ですの! あっはっは、ざまぁ!

(別に今までどおりの食生活なら悔しがったりしないんじゃあ……ってあれ? 何かおかしくないか?)

 

 年頃の少女がやってはいけない表情で笑う彼女にドン引きしつつ、彼の中でじわじわと膨れ上がっていた疑問が口をついて出る。

 

「あー、アンタはなんで人間の食事の味を知ってるんだ? さっきの話だと、森で生まれてからずっとその食事しか知らない筈じゃないか」

 

 そう問えば、少女はピタリと嘲笑をやめて硬直する。

 そして何かを考え込むように百面相を始めた彼女に、何か悪いことでも聞いてしまったのかと男が思っていると。

 

「……うー、別に話しても問題はないか。えーと、実は私、いわゆる“()()()()()”というものを持っていますの」

なんか想定外の方向に舵を切り始めたぞ……

 

 彼女はそんな風に話を切り出した。

 

「前世は普通の人間、一般人でしたが、ちょっとした……えー、不慮の事故で命を落としまして。ふと気が付けば私は神を名乗る不審者の目の前に座ってましたの」

(わあ、どんどん話が怪しくなっていく……)

 

 表情には出さない(でない)ものの、男の内心で少女の印象は電波ちゃんになっていく。そんな事は露知らず、少女は真剣な面持ちで怪文書じみたカミングアウトを続けた。

 

「それで自称神様から『前世で見知ったアニメや漫画のキャラとして転生させてあげる』と言われまして……いろいろ考えた結果とある漫画の主人公を選びましたの」

(神様ときたか、ますます胡散臭く……ていうかデザインが主人公っぽくないな。どっちかというと、人外娘とイチャコラする漫画のヒロインとかじゃないの)

 

 そう思いながら男の視線は無意識に少女を観察する。

 長い金色の髪に、クリクリとしたきれいな碧眼、人形のような可愛らしい顔。

 なんとも理想的なヒロイン像である。上半身裸だったり、下半身が大蛇でなければ。

 

(そういえば、喉をつまらせて転げ回ってたときにちらっと見え……げふんげふん)

 

 邪な方向性へ行きかけた思考をなんとか引き戻し、男は少女の電波な話へと再び集中しようと努める。

 

「その主人公はちょっと性格に難があって、自業自得で割とひどい目に遭いますの。でも流石に私もあそこまでアレな性格はしてないつもりなので、バイオレンス成分抜きに過ごせる見込みでしたの」

(なるほど、ツッコミが激しい感じのギャグ系の漫画かな)

 

 信じるかどうかは別として、男にもなんとなく彼女の言う「漫画」のジャンルが見えてきた。彼が目の前の少女を主役とした百合漫画を脳内に描いていると、彼女は突然青筋を浮かべて髪をかき乱す。

 

「それを……それをあの自称神様のクソ野郎は……ッ!!」

 

 口元をわなわなと震わせた彼女の表情にはハッキリとした怒気が滲み出ており、暴れだしたらどうしようかと男は戦々恐々とする。

 

こんな優しくない世界の、訳の分からん未開の地であんな連中の下に転生させるなんて詐欺もいいところですのおっ!!!!!

 

 湯気の立ちそうな激情をお茶をぐいっと飲んで抑え込んだ少女は、やり場のない怒りと悲しみに打ちひしがれ、ちゃぶ台へ突っ伏しながら滝のような涙を流し始める。

 

「私はただメデューサのヒモとしてイチャイチャしながら過ごして、ゆりねに召喚されても逆らわず家事手伝いしながら平穏に生きていくつもりでしたのに……ッ!! だいたいあいつはなんですの! 確かにいわゆるメデューサ的な姿だけどあんなキッツいやつは望んでませんのっ! 私はゆるふわでダメ男製造機みたいな可愛いメデューサに甘やかされて泥沼の共依存になりたかったのにィッ!!!」

(割とクズくないこの子?)

 

 堂々とヒモ志望宣言をのたまいながらオイオイと泣く少女。

 可憐な見た目とは裏腹にダメ人間の鑑のような存在だったらしい。男は同情心のあまりに拾ってしまったことを、今更少しだけ後悔し始めた。

 

「……それで、君はこれからどうするつもりなんだ? もう群れに戻るつもりは無いんだろう、アテはあるのか」

 

 彼がそう声をかければ、少女はピタッと泣き止む。

 ある訳がない、こちとら根無し草の糞雑魚怪物で人間の駆除対象だと彼女は脳内で毒づいた。

 少女はうつ伏せのままパーカーのファスナーをそっと下ろし、なるべく哀れっぽく見えるよう顔を歪めて目尻に涙を貯め込むと、まるで蛇が獲物を狙って鎌首をもたげるが如くゆっくりと上半身を持ち上げる。

 

「……!」

 

 おずおずと(見えるように)上げた少女の顔を見て、男が息を呑む。

 ハの字に歪んだ眉からは強い悲哀を感じさせ、潤んだ碧い双眸には涙がいっぱいに溜まっている。

 

「ここは人間の街で、私は人ならざる身。頼れる相手は、誰一人としていませんの。それに、一族から逃げてきた私に帰る場所はもう、どこにもありませんの……」

 

 そう言って悲しげに目を伏せると、その目尻からは一筋の涙がこぼれ落ちる。

 ぴたん、と雫がちゃぶ台の上へ落ちた。

 

「…………」(多分演技なんだろうけど……うーん、強か)

「…………」(くっ、あと一押し足りないか?)

 

 重い沈黙が部屋の中へ満ちる中、少女はちゃぶ台に手を付き体の角度に注意を払いながら上目遣いで身を乗り出した。

 ギョッとしてのけぞる男の目を真っ直ぐに見つめながら、少女は口を開く。

 

「ここまで助けてもらってばかりで、自分でも図々しいとは思いますの……でも、私にはあなたしかいませんの! どうか、どうか!

 

 そう言って懇願する少女。その適度に開けたパーカーの胸元は、彼女の狙い通りにギリギリ男の視線が通り……その膨らんだ胸元が微かに見えていた。

 

(ククク、裸パーカーによるチラリズム! その破壊力は普段の姿(ぜんら)の比ではない! お前の服を貸し出す紳士ムーブが皮肉にも私の魅力を何倍にも高めてしまったのだ!)

 

 悲壮な表情を維持したまま、心の中でほくそ笑む少女。

 彼女はこの部屋に居座るため己の魅力を100%利用する事に成功する。

 しかし、彼女には一つだけ致命的な計算違いがあった。

 

ドッ ドッ

  ドッ ドッ

 

ぴぃ――――っ!?

 

 突如として男の全身から溢れ出したとてつもない威圧感により、少女はたまらずひっくり返る。

 

ごごごごめんなさいですの! 私の魅力でコロッと落として優雅なヒモ生活を満喫してやろうとか考えてごめんなさいですの!! どうか殺さないでほしいですのォ――ッ!」

 

 蹲って滝の涙を流しながら命乞いを始める少女を見下ろしながら、男は静かに流れ出た鼻血をさっと拭き取る。

 ドキドキする心臓を鎮めながら、彼は一つ咳払いした。

 

ん゙ん。あー、別にここに住むのは構わない」

「……へ?」

 

 床から鼻水を伸ばしながら、目を点にした少女が顔を上げる。

 きたないなと思いながら、男は言葉を続ける。

 

「いい加減、一人暮らしにも飽きてきたしな。家事の分担くらいはしてもらいたいところだが」

「い、いいんですの?」

 

 男は頬を掻きながら小さくため息をついた。

 

「まあ、なんだ……このまま追い出して、ヒーローに討伐でもされたらちょっと目覚めが悪いからな」

あ゙、あ゙り゙がどゔござい゙ま゙ずの゙ぉ゙ーっ!!

 

 滝のような涙を流す少女に、男はため息をついた。

 

「……さて、同居人になるのに互いの名前も知らないままじゃ不便だろう。ここらで自己紹介でもしようじゃないか」

「あ、そういえばそうでしたの。えーと、私の名前は……あー」

 

 そう言って名乗ろうとして少女は口籠る。

 男が首をかしげると、彼女は大きくため息をついた。

 

「名前自体は、まあ一応ありますの。つい最近、人間の街へ移り住む時につけられたものですが、あまり進んで名乗りたいものでも無いというか……」

「それ以前の呼び名、それこそ前世の名前とかは?」

「前世は前世でアレなので捨てましたの。今世では……グズとかチビとかザコとか……この姿の元になったキャラクターの名前もあるにはあるけど、そっちはちょっと悪目立ちしますの」

 

 あ、そうだ。少女はポンと手を打って男へ顔を向けた。

 

「せっかくの縁だしアナタに名前をつけてもらいたいですの」

「お、俺に?」

 

 急にそう振られて、男は少し驚く。

 

「せっかくだし、ただの自称より誰かにつけてもらいたいんですの。別に、変じゃなけりゃ何でもいいですの! さあさあ!」

 

 そう言われ、男は腕を組んで目を閉じる。そして十数秒考え込んだ後に、彼は腕を解いて目を開けた。

 

「……『ミア』でどうだ。君のような姿の怪人をラミアと言うらしいし、そこから取ってみたが」

「ミア! まあ、なかなかいいじゃないんですの。コレからはそう名乗らせていただきますの」

 

 彼が口に出した名前を彼女は笑顔で受け入れる中、男は内心冷や汗をかいていた。

 

(まずい……! 咄嗟に『怪人娘と暮らすギャルゲ』のラミア娘の名前を付けてしまったぞ……! ちゃんとソフトを隠しとかないと!)

(前世で読んだ『モンスター娘と暮らすラブコメ漫画』に似たような名前のキャラが居たような気がするけど、まあいいですの)

「さ、今度はあなたの番ですの!」

 

 少女改め、ミアが促すと男は頬を掻きながら言った。

 

「俺か。……少し名前負けしてるが、笑わないでくれると嬉しい」

「アナタならどんだけゴツい名前でも似合うと思いますの」

 

 男の謙遜を真顔で返すミア。その反応に少し笑って、彼は答えた。

 

「キングだ。これからよろしくな」

 

 こうして、男――キングと、怪人の少女ミアの奇妙な共同生活は幕を開けたのであった。




・邪神ちゃんの転生者(ミア) 推定災害レベル:狼
読み返したら「邪神ちゃん」という単語が出てきてないわこれ、でもまあ隠してる訳でもないので容姿と口調と転生時の野望からだだ漏れです。
悪魔じゃなくて普通の?生物ですが多分能力的にはそのまま。
人の領域外の山中で誕生した一般人外枠、思考力ある人外系は記憶取り戻すまでが短い(人間と違って動物は生まれたその日に歩けるのと同じノリ)ので、人外の肉体と生活に慣れる前に人間の感覚が即座に蘇った地獄めいた状況。
スパルタな家族の中で生きる糧として邪神ちゃんエミュをしてたら口調がこれで固定された。本物よりチンピラ度はかなり低い。
本人曰く「ゆりねに斬り刻まれるほどじゃないけど、メデューサの庇護欲をそそる程度にはクズ」
ワンパンマンの原作知識なし、多分百合系とか日常ギャグとかばっかり見るタイプ。
転生前の性別?今が可愛けりゃどっちでもよくない?(暴論)

・キングさん
ついに登場、キングさん!
ハゲがいない影響で立場とかかなり変わっていますが、パッシブスキルのキングエンジンと強者のオーラは健在。糞雑魚怪人の邪神ちゃんにはめっちゃ効く。
『モンスター娘のいる日常』のパロディ的なギャルゲを持ってる、キングさん曰く結構泣ける名作らしい。しっかり封印したが多分邪神ちゃんは見つけ出して勝手に遊ぶ。


『まあいいか!! よろしくなぁ!』の精神。
いや、べつに彼もおっぱいに釣られて同居許したわけじゃないんですがおっぱいは強いという話。
 最近チェンソーマンどハマリしてますが、この作品にはチェンソーマンキャラは今のところ出せそうにありませんね、2019連載開始なので今まで出てきた転生者は誰も知らない作品だったりします(いままでの転生者たちは2017年夏頃までに転生してる)。

次に優先すべき番外編は?(あくまで参考、全部やったら深海王編行く予定)

  • 邪神ちゃんとキングさんの日常のお話続き
  • 最近影が薄いジラちゃんの過去編とかのお話
  • ガッツ、セタンタ、シロウの学生時代のお話
  • 転生事故(故意)を起こされた転生者のお話
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