【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】 作:Nyarlan
「よォーしよォーし、ようやく追い詰めましたの……!」
平日の昼下がり、とあるアパートの一室は独特の熱気と興奮に包まれていた。血の気が抜けるほどコントローラーを握り、ゲス顔を晒すのは大蛇の下半身を持った少女のミア。
何かのアニメキャラクターがプリントされた大きめのTシャツに汗染みを作りながら、彼女が血走った目で見つめるテレビモニタには格闘ゲームの画面が映っている。
ピンクでフリフリな魔法少女めいたキャラクターがウサ耳を付けた女性キャラクターを画面端に追い詰めており、その体力は魔法少女側が半分近く残ってるのに対し、バニー側はもう残り少ない。
「げへへ、たった数時間で初見プレイの女の子に追い詰められる気分はどうですの!?
顔に傷を持つ強面の男キングは、操作に合わせて体を動かしながら煽りに煽る少女を気にも止めず冷静に画面を見つめていた。
(……うーん、確かにこの動きは格ゲー初心者のソレじゃないよな。野山に暮らしてたってのが嘘じゃないなら、プレイ開始からの動きは明らかにおかしい。別ゲーだろうけど、それなりにやり込んではいる風に見える)
的確に攻撃を捌きながら、彼は山育ちの少女を観察する。
シャンプーで本来の輝きを取り戻した豊かな黄金の波を後ろに束ね、顕になったうなじには玉の汗が浮かんでいる。
大きすぎるシャツからはだけた白い肌はわずかに上気して赤みが差しており――。
「このッ、ここにきてガードが堅く……! あと数ミリなんだからおとなしく削り切られろ!! ほらほらほらァ!」
あと一歩というところで削り切れず苛立った様子で語気を荒げる少女の口の端からは少量の涎が垂れていた。
(やっぱり、転生っていうのはホントにあるんだろうか。そういえば、駅前で異世界転生教とかいう胡散臭い宗教が布教してたな)
「オラオラオラ、これで、終わり、DEATH、NO!?」
ミアが最高潮に調子に乗った瞬間、追い詰められていたバニーがペチリと反撃を差し込む。
一瞬の怯みに更なる追撃を打ち込み、画面全体にバニーガールのアニメーションカットインが入ると次の瞬間には『K.O.』の文字が浮かび上がってキングの勝利が示された。
彼はコントローラーを静かに置くと、グッと伸びをする。
「……さて、そろそろ昼飯にしよう。朝からずっとやってると流石に腹が減ってきた」
コントローラーを握ったまま真っ白な彫像と化したミアの横で、キングがあくびをしながら立ち上がった。
「い、インチキですのォ――!!! 一撃技とか、ウチのシマじゃノーカン! ノーカンですのぉ――!!」
ミアはコントローラーをフカフカの座布団の上に向けて投げ付け、仰向けになってジタバタと悔しがる。長時間のプレイの果てにようやく1R取れそうだという所でこの逆転劇は堪えたらしい。
「ていうか強すぎですの! なんで1Rすら取れないんですの! これでも前世ではそれなりのランカーだったのに――ぬぐぅぅう!!」
そんな彼女を無視して、彼は冷蔵庫を開けて顔をしかめる。二人暮しを始めて間もないためか、食材の消費速度を読み違えたようだ。
「あー、ちょっと食材が足りないな。スーパーに行って買い足してくるから掃除でもしながら待っててくれ。訪問者は無視で」
「むぐぅー! わかりましたのっ!」
クッションを抱いてゴロゴロ転がる少女の姿に笑みを浮かべながら、キングは財布を手にドアを閉めて施錠を行って歩き出す。
※※※
帽子越しに眩い太陽を仰ぎ、道端の鳥の声へ耳を傾けた。
――ここ数日、なんとなく世界が輝いて見える気がする。
キングはちょっと浮かれていた。仏頂面がほころぶ程に。
……確かに、大蛇の尾を持つ怪人だ。
そしてちょっと性格にもアレな所はある。垣間見えるガサツさや大雑把さの端々から前世の性別が男だった気すらしてくる。
――だが、ミアは美少女だ。
おっぱいもそこそこにある上、無防備極まりない姿を遠慮なく彼に晒す。これが嬉しくない男がこの世に存在するだろうか? 否、いるはずが無い、いてたまるか。
(拾った直後はやっちまった感凄かったけど、実際に暮らしてみると意外と家事もちゃんと手伝ってくれるし、ゲームも結構できるし、何よりかわいい。これは我が世の春が来てしまったんじゃないか?)
ウキウキとした気持ちの彼は「ちょっといいデザートでも買って帰ってやろうかな」などと思いながら道をゆく。
……しかし、キングは大事なことを忘れていた。今までの人生からして、自身の幸運が長続きしない事を。
――基本的に彼は、とても運が悪いという事を。
「――うわっと!?」
浮足立って歩いてたのが災いしたか、地面にある突起に足を掛けてしまい彼は派手に転んでしまう。
「痛た……っ!?」
彼は上体を起こすと、何に躓いたのかを確認しようとして振り返り――先程まで歩いていた辺りに、鋭い槍のようなものが突き出されているのを目にした。
『しゅるる……かわされた』
鱗に覆われた頭部が、建物の隙間から滑り出るように出てくる。ぬるりと現れたそれは、縦に割れた瞳孔を細めて地に伏せたキングを感情のない目で睨みつける。
上半身は人型で、下半身には長い尾と強靭そうな太い脚がある。全身を覆う滑らかな鱗はいかにも頑丈そうな光沢を放つ。
爬虫類型の怪人が、槍を手に立っていた。
(あっ……あっ……)
状況を脳が理解した瞬間、キングは自身の全身から冷や汗が吹き出るのを感じた。
――浮かれた気分が、黒い恐怖で塗りつぶされていく。
ドッ ドッ
ドッ ドッ
『…………!!』
速金を打つ心音とともに漏れ出した謎の威圧感に、爬虫類怪人は目を剥いて立ち止まる。キングはその隙にゆっくりと立ち上がる。
(……俺にビビるのは……主に私欲で動いてるやつ、リスクを避けたがるやつ、弱い者イジメしかしない小心者)
「ふっ……最近は……爬虫類にやたらと縁が、あるな……」
彼が腕を組み虚勢を張ると、爬虫類怪人は目を細める。
『しゅるるるる……おまえ、つよいセンシ。つよいセンシのニエ、われらがカミよろこぶ。このたたかい、カミにささげる!』
(……終わった、効かないタイプのヤツだこれ)
武者震いをする怪人を前にキングは腕を解き、一か八か逃げる心積もりを固めた。
細い管から空気が抜けるような声を上げてにじり寄ってくる怪人を前に、キングは構えも取らずにじわじわと距離を取りながら背後に大通りへ繋がる道を持ってくる。
『しゅるるるる! いくぞ!』
怪人が足に力を込めるのを見て、やや遅れて彼も踵を返し。
『ぎしゃあああああああ!?』
(んえっ!?)
次の瞬間、背後で響いた凄まじい悲鳴に思わずつんのめる。
振り返ると、怪人の左目には一本のナイフが突き刺さっていた。
何事かと思う間もなく――。
「ぉ……ぉおおおおおおおおおおッ!!!」
彼の目には、黒い暴風が吹き荒れたようにしか見えなかった。
風圧と生暖かい飛沫を受けて、キングはとっさに目を閉じる。
『ぐ……がぁ……』
そしてゆっくりと目を開けると、胸を貫く太い鉄の塊にビルの壁へ縫い付けられる怪人の姿が視界へ飛び込んできた。
――それは剣というにはあまりにも大きすぎた
大きく 分厚く 重く
そして大雑把すぎた
それは正に鉄塊だった――
「……シィィィィィ――ッ」
その鉄塊のような剣で怪人を縫い付けた男は、熱い息を吐き出すと動かなくなった怪人を地面へ打ち捨てる。
血の滴る剣を軽く振るってから納刀する姿に、キングはちょっとだけ憧憬を覚えた。
(やばいかっけえ、その武器は男の子すぎるわ……)
キングはヒーローらしき男に礼を言うべく近付こうとして――。
「大当たりだ――噂を信じてよかったぜ、久しぶりだなァ糞蛇ども」
男がぼそりとつぶやいた言葉と、憎悪に染まった笑顔に硬直する。
ドッ ドッ
ドッ ドッ
その心音に反応したのか、男は警戒した面持ちで振り返る。
「……横取りして悪かった。だがこいつらは俺の獲物なんでな。文句は――」
そこまで口にして、男は何かに気付いた様子で目を見開いた。
「え、待っ――キン――マジ?」
何やら狼狽えた様子で殺気を霧散させた男に対し、キングは安堵の溜息をついて話し掛けた。
「いやあ、助かりました。貴方はヒーローの方ですか?」
「――ああ、いや、俺はハンターズという自警団の者だ。凄え殺気感じたから横取りにキレてんのかと思ったらマジか」
男は小さくそう言うと、マジマジとキングの顔を見つめて来る。
「あの……俺は買い物の途中でして……」
居心地の悪くなったキングがそう言うと、男はやや慌てた様子で両手を振った。
「あ、ああ、悪い。怪我もないようだし、事後処理についてはこちらで手配するからもう行ってもらっても大丈夫だ」
「そういう事でしたら、俺はこれで失礼させてもらいます」
許しも出た所で、キングはそそくさとその場を離れる。足早に向かう先はスーパーマーケットではなく、自宅。
なんとなく、買い物の気分ではなくなってしまったからだ。
「んぅぇっ!? も、もう帰って来ましたの!?」
カギを開けて乱暴にドアを開くと、ゲームのコントローラーを握りしめたミアが驚いたように口から何かを落とす。
冷蔵庫に残っていた魚肉ソーセージだ。
「あ、あわわ……そ、掃除は……ちょっとだけコンボ練習したらやろうかと思って……こんなに早く帰ってくるとは……」
狼狽えた様子で落としたソーセージを拾い上げてもぐもぐし始める少女に、キングは脱力したようにため息をついた。
「あー、掃除は別にいいよ。まださほど汚れてないし……ちょっと気が変わった、昼は出前を取ろうか」
「マジですの!? ピザ! ピザがいいですの! 耳にもソーセージとチーズが入った肉マシマシのピザ!!」
(なぜそんな暴力的なまでのカロリーを求めるのか)
目をキラキラさせてそんなことを言うミアに苦笑しながら居間に上がると、急に彼女が真顔になる。
「あれ、何か怪我でもをしましたの?」
「え、確かにちょっと転んだけど……あっ」
彼はキョトンとした表情でそう答えると、シャツやズボンに少しばかり血がついているのを発見する。
(これは、あの怪人の……って、そうだ)
キングは自警団の男の言葉を思い出す。あの怪人がミアの一派であれば、彼女もまた彼の獲物という事になる。
「あー、ミア氏? 少し聞きたいんだが、キミの一族ってみんな同じような感じの姿でいいのか? 上半身が人間で、下半身が蛇の」
「えっ? ま、まあ大体似たようなもんですの。親玉レベルになるとめちゃくちゃデカイけど、見た目的には大差ないですの」
怪訝な表情をしていた少女はハッと目を見開き口元に手を当てる。
(――まさかあの野蛮人どもがもう刺客を!? ……それをあっさり退けるとは、やはりキングは只者じゃないですの)
(と、言う事はあの爬虫類は別にこの子の一族とかじゃないんだな。とはいえ、ミア氏はしばらく出歩かせない方が良さそうだ……)
垣間見えたキングの強さ(誤解)に、敵対しなくてよかったと改めて思うミアであった。
「ご苦労さまです」「ありあとあしたー」
ブロロロ、とピザ屋のバイクが去っていく姿を見届けると、キングは熱々のピザとサイドメニューの入った箱を手に自室へ戻る。
「ピザ届いたぞ」
「待っっってましたの! もうお腹ペコペコですの!」
ちゃぶ台の上に広げられたLサイズのピザに、ミアは涎を垂らさんばかり――少し垂らしながら目を輝かせた。
そんな様子に苦笑しながらキングはコーラをコップに注ぐ。
「ンッンー、やっぱりピザにはコーラ以外ありえませんの! これに異論のある非国民は粛清ですの♪」
(同感だけど過激派過ぎる)
「では早速……っ!」
言うが早いか、ミアはピザの一切れに手を伸ばす。
ベーコンやサラミがこれでもかと敷き詰められたそれ持ち上げると、生地の上と耳の中から熱々のチーズがにょーんと糸を引く。
ピザの耳からはチーズと同居するソーセージが覗いており、断面からは肉汁が溢れていた。
「ふおぉぉおおぉ……! ごくり、いただきますの!」
彼女は目をキラキラとさせて牙の生えた大口でピザへ齧りつく。
「〜〜〜〜〜〜〜っ♡」
じゅわっと口内に広がるベーコンの肉汁とチーズの味にミアは顔を蕩けさせる。なんとも幸せそうな表情で口からピザへのチーズの架け橋を伸ばしながらもぐもぐと咀嚼する姿を眺めつつ、キングもまた肉肉しいピザへと手を伸ばし始めた。
「んふぅ、満腹ですの〜」
ポテトやナゲットも含めキング以上に腹へ収めた少女は、ごろりと転がって床の一部と化し始めた。
「ミア氏はホントによく食べるなぁ」
「食べ盛りですの☆」
舌を出しながらウインクするミアに、キングは何度めかわからないくらいの苦笑を浮かべる。美少女は本当に得だと彼は思った。
……もっとも、この食生活が続けばいずれ丸々としたツチノコにでも変わってしまいそうではあるが。
「……さて。昼間はちょっとトラブったけど、今度こそ買い物に行ってくる。ミア氏はお風呂掃除頼んだよ」
「がってん承知ですの〜」
寝転がりながら返事をする駄蛇を背に、キングは今度こそと買い物へ出かけた。夜はサッパリしたものにしようと心に決めて。
ガッツ「キング見つけたわ」転生者一同「!?」
S級じゃないパンピーキングは割とレアキャラ。でも別に用事はない。
・邪神ちゃんの転生者
とにかく美味しい物を食べるのが好き。
味覚は割と子供舌であり、甘い物やお肉が大好き。
しいたけとなすびは嫌いなので泣きながら飲み込む。
美味しいものを食べさせるとメシの顔をする。
基本ぐうたらで行動が遅いが、頼んだ事はとりあえずやろうとはする。
・キングさん
ゲームが大得意。
一緒に遊んでくれる美少女相手にも容赦はあまりなく、格ゲーだと1Rすら取らせてやらなかった……おとなげない。
基本運が悪いので道端で怪人に遭遇するのは割とよくある。