【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】 作:Nyarlan
「……ヨォシ、バッチリ決まったンじゃね?」
朝の日差しが差し込む室内、一人の少女が姿見の前に立っていた。肩まで伸びた黒髪は枝毛一つないサラサラのストレート。勝ち気そうな鳶色の瞳は、自身の着衣に不備がないかを入念に探った。
パキッとアイロンを当てたセーラー服を翻し鏡へと顔を近づけると、唇を指で開いてチェックする。歯石や歯垢の一つも見られない歯は白く輝き、舌まで綺麗に磨かれていた。
「……おし、完璧だな」
鏡から身を離すと、少女は満足気な笑みを浮かべた。
「ユリちゃんまだなのー? もうトウマ君待ってるわよー!」
「はいはァい、今行くから待っとけって言っといて!」
少女は階下から呼ぶ母の声に返事すると、シャアと両頬を掌でバチリと挟んで気合を入れ、鞄を持って自室を出た。
「もう、支度に何時間かけるつもりよ! 入学式に遅刻するとか、そんな恥ずかしい事お母さん許しませんからね!」
「あいあい分かってるって。ちゃんと逆算して起きてるだろォが」
プリプリと怒る母を片手で制し、少女はウキウキ気分を隠しもせずに玄関へと向かう。
ガチャリとドアを開けると、家の前に立っていた一人の少年がそれに気付いた様子で振り返った。朝日を背にしてキラキラと輝くビジョンを振り払い、少女は声を上げる。
「おっすトウマ、待たせたなァ!」
「おせーよ、もうギリギリじゃん」
そうやって肩を並べて歩き出す二人。そこに今までと変わりはない筈ではあるのだが、真新しい制服と行き先の違いは気分を新たにするには十分な要素だ。
「オンナは支度に時間かかンだよ、それに早歩きなら余裕だろォが」
少女は毛先を白く細い指で弄びながら笑う。
「はーん、女ねえ? 小学校までは泥だらけになりながらザリガニ釣りとかやってたのはどこのお嬢様だったカナー?」
少年――トウマがからかうように言うと、少女は顔を赤くする。
「う、うっさい! ガキの頃の話はノーカンだノーカン……あー、それよりさ、オマエ的にはど、どうよ?」
「……? どうって、何が」
疑問符を浮かべる少年に対し、今のは流石に唐突過ぎたかと少女は少し後悔しながら口を開く。
「制服だ、セ・ェ・フ・ク! ウチの高校、女子の制服の評判いいだろ? だから、その……」
目を泳がせる彼女に対し、トウマは小さく微笑んだ。
「おう、バッチリ決まってんぜ。しかしそうキッチリしたアイロン掛けとか、毎日してたらくたびれそうだな。俺、明日以降は乾燥機から出してそのまま着るぞ?」
「アイロンくらい掛けろや。……いや、そうじゃなくてさ、えー、あの、に、似合ってるか、とか、さ? ねェの?」
頬どころか耳まで紅潮させながら勇気を振り絞った少女が聴くと、トウマはキョトンとした表情で立ち止まる。
そして小さく吹き出すとゆっくりと歩き出した。
「はは! そんな事気にしてたのかよ」
「う……その、変か?」
少しだけ肩を窄ませながら、少女は歩調を落とす。それに合わせて歩きながら、トウマは何故か少し寂しそうな笑顔を浮かべる。
「お前くらい素材が良けりゃ、何着たって似合うだろ?」
「……え?」
「カワイーって事だよ。もっと自信持てって、俺にゃあ勿体無いくらいの幼馴染なんだからさぁ」
(河合ィ、カワイィ、かわいィ……可愛ィ!?)
ボンッと音がなりそうな勢いで、少女の顔の赤みが全体に広がる。頭は茹だり、混乱の極みに陥った彼女は、急に足を早める。
「ななな、何言ってンだ!? ほ、ほらさっさと行くぞ!?」
「あ、おい!」
自分を抜き去り、先へ先へとテクテク歩いていく少女をトウマは慌てて追いかける。
トウマが歩調を合わせようとするのを、少女はどんどん速度を上げて追いつかせないようにする。
なぜなら、自分の表情を全く制御できていないからだ。どうしてもニヤケ面が止められず、そんな顔を見せたくなくて、少女はどんどん足を早め、やがては走り出す。
「ちょ、おま! 早えよ!?」
「……バァカ、しっかりアタシの後ろに付いてこいや!」
少し楽しくなってきた彼女は、そんな風に挑発してみる。
「何その理不尽!?」
そんな笑い声を背に、少女は走る。半ば本気で走っても、少年は少し後ろをついて走ってくれる。
「まだ走るのかー? もう歩いても余裕で間に合うペースだぞー」
それが何より嬉しくて、彼女はついつい浮かれてしまう。
徐々に距離を詰めてきた彼の言葉に、少女は笑顔で振り向いた。
「……せっかくだし、このまま走ってくかァ!?」
「マジかー、流石は永年陸上部……恐るべし」
桜並木へ差し掛かり、風に吹かれて無数の花弁が舞う道を少女達は駆け抜ける。春の陽気に浮かれながら――そして。
「はぁ、入学式早々汗だくで登校かぁ――って、ユリコ!!!」
「えっ?」
――キキィィィィイイ!!
凄まじいブレーキ音と共に、目の前を通り過ぎたトラックに少女――ユリコは瞠目する。
トラックを追うように吹き抜けた風が、登校前に彼女が慎重にくしけずった髪を――走った時点で乱れていたが――台無しにしてゆく。
放心する彼女の腕を、息を切らせた少年がゆっくりと離す。
「ったく……おいコラ、ミラーぐらい見ろよビビるだろうが!……ああ良かった、
そう言って憔悴した表情の少年の顔が、見覚えのない誰かのものと重なって見え――ユリコは猛烈なめまいにその場でしゃがみ込む。
驚いたトウマがその肩を掴み声をかけるが、彼女にはその声がとても遠くに感じていた。
――次の瞬間、彼女の視界は真っ白に染まる。
―――
――――――
――――――――――
『――雄二危ねえッ!』『えっ?』
『残念な事に、君たち二人は死んでしまった』
『しかしこの空間に同時に来るとは珍しい、火災現場で同時に死んだ者たちも別々に来ていたし、君たちは相当に強い縁で結ばれているようだ』
『オレは
『同じ日に生まれて、新生児室で隣のベッドで』
『家まで隣同士で、ずっと同じ学校の同じクラスで』
『挙げ句の果に同じトラックに跳ねられて同時に即死! こりゃあもう漫画に出てくるレベルの腐れ縁だよな』
『一つ残念なのは……』
『『
『君達の願いは分かった。それじゃあ良い来世を――」
――――――――――
――――――
―――
「――い、おい! 大丈夫か!?」
焦ったようなトウマの声で、ユリコの意識は浮上する。
彼女は呆けたような表情で不安そうに見つめる彼を見上げた。
――特徴的なウニ頭と、トウマ……上条当麻という名前。
――転生。先程彼と被って見えた誰かの――彼の顔。
サイクリングが趣味で、好物は意外にも麩菓子な事――性格やちょっとした癖なんかもあの頃と変わっていない。
少女は全身から汗が吹き出すのを感じて、小刻みに震え始めた。
「お、おい、マジで大丈夫か……? 病院行くか?」
「誠一郎」
「……え?」
少女がポツリと呟いた名前に、救急車を呼ぼうと携帯電話を取り出していたトウマは動きを止めた。
「……ユウ、ジ? やっぱり、雄二なのか?」
唖然とした表情で少年が発した問いに、彼女は震えながら頷く。
「……マジか!!! マジで雄二か!!?!」
興奮したように彼女の肩を揺らし始める少年を、少女はなすがままに受け入れる。とても反応するどころではなかった。
「いやあ! なんかそんな気はしてたんだよ! つーか、半ば確信してた、ガキの頃の性格がまんまだったじゃねーか! ユリコって名前に違和感があるから『ゆーちゃん』って呼べって言ったりさ! これ前世でガキの頃に付けたあだ名だったじゃん? だから俺、嬉しくて……記憶が戻ってないだけで雄二なんだって」
「……おォ」
「なのにあれから年経る毎にどんどん変わって、最近じゃめっきり女っぽくなってきたしさ? そもそも俺はちゃんと上条当麻になったのにお前は
「……あァ」
彼の声は徐々に嗚咽混じりのものとなってゆき、その目には涙が浮かび始める。
「じゃあ雄二はどこへ行っちまったんだって、雄二だと思って接してきたのは全然別の女の子で、雄二はどこか別の場所に転生したのかなって。それともやっぱりお前が雄二で、記憶が戻らないまま消えちまってたらどうしようって……」
「…………なあ」
ポタポタと垂れた涙が地面に染みを作るのを眺めながら、少女は絞り出すように声を発した。
「いつから……お前は、セイはいつから記憶を取り戻してた?」
彼女の問いに、彼は噛みしめるような表情で答える。
「……
その答えに、彼女は思わず息を呑んだ。
「あの日、何とか状況を打破出来ないかって考えてて……そしたら、急に転生の記憶を思い出してさ。
(そう、か……そんな前から……)
少女の胸中に、この世界での思い出が次々と浮かび上がる。
『トウマ! 一緒にションベンいくかァ!』
『おれもトウマと一緒がイイ!』
『おれ、大人になったらトウマのお嫁さンになってやってもイイぜ!』
『偽装したエロ本見ィっけ! ほォ、こういうシュミねェ』
『……ふーン、オマエああいう髪型が好きなのか。あ、あーアタシもさ、実はちょっと……髪を伸ばそうかなァって思い始めてて』
『トウマ、オマエ志望校どこよ? ……ほォほォ、こりゃ楽勝だな! ……え? ……なら、アタシが勉強教えてやるよ』
『――ッしゃァ! これでまた三年一緒だなァ!』
『あの、に、似合ってるか、とか、さ? ねェの?』
自身の中から溢れ出した記憶に、彼女は苦しげに顔を歪める。
(……気持ち悪りィと、思ってたのかな? それとも、
――十五年。彼女は、十五年もの月日を女性として生きてきた。前世で男として生きてきた年数にもう追いつきかけている。
(……
記憶を取り戻してからの彼は、彼女を通して雄二を見ていのだ。
(……
彼女は喉の奥からくつくつと自嘲が漏れ出すのを自覚する。
(コイツにとっての
彼女は大きく息を吐いて、ゆっくりと立ち上がった。
「ふゥ……よォし
パチリと両頬を叩いて気合を入れると、彼女はそう言った。
「……さァてと、何だかンだやってる間にマズイ時間になってきてるなァ」
笑顔でそう言う彼女に、トウマは時計を確認する。
「えっ、あっ、マジだ! 完全に遅刻じゃねーか!」
「不幸だァァってか。しゃあねェ、一応走るかねェ」
そう言う彼女に、トウマは首を振ってニッと笑う。
「……いや、不幸じゃねぇ。雄二が俺を思い出してくれたってだけで人生最高の日だ! 遅刻したら母さんにはバチクソに怒られるだろうけどな!」
笑顔でそう言い切る彼に、彼女は少しだけ目を伏せる。
「……おォ。あ、それとだな……前世の事思い出したって言っても、そのまんま前世の名前で呼び合うのはちとマズくないかァ?」
だから、それは彼女にとって、せめてもの抵抗だったのかもしれない。
「確かに、みんな何事かと思うだろうし……そうだな。それじゃあユリコ、とっとと行こうぜ」
「……あァ、行くか!」
その後二人はギリギリ時間に間に合わずに遅刻し、学校で、あと自宅で盛大に怒られた。
……そしてユリコは数日後、床屋へ行くと数年掛けて伸ばした髪をバッサリと髪を切った。
両家の親は「そこまで反省しろとは言っていない!」と焦ったが、当の本人はケロッとしており、トウマもそれを歓迎していた。
大切に伸ばして手入れしていた髪を切り落としたユリコに対して家族は「なにかあったのでは」と勘繰るものの、当の本人たちの仲は今まで以上に良好となり、まるで同性の親友のような雰囲気となっている。
彼女の胸中を察することは、誰にもできない。
転生神「良かれと思ってやった、今は愉悦している」
ユリコ「ihbf殺w」
書き上げたとき「ち、違っ、こんな救いのない話にするつもりは……!」ってなった。
こうして実際に着手する前の構想としては転生神の被害者の一人として「なんか意に反して女にされちまったんですけど!?」的な感じのキャラとしてあっさり流される感じだったんですがなんかこう、ジメッとした感じに……。
正式版との違いは、ちょっと口調が男っぽい感じに。
おそらくお母さんからの矯正がちょっと控えめで前世の残滓を引きずってたら乙女度合いが必要なところまで上がらなかった的な。
今はこうやって抑え込んで雄二としてふるまっていますが、その間もきっと想いは募り続けて……と
その辺利用して悪辣な事できるやつ出したいやつですねこれは……