【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】   作:Nyarlan

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第十一話 - 深海の王

 その日もJ市のビーチには穏やかな空気が流れていた。

 波を求めてやってきたであろうサーファーたちはナンパに精を出し、それに対応する若い女性グループも満更でもないといった表情である。

 そんな光景を眺めながら、ガッツは一人あくびを噛み殺す。

 

 彼はいつもの鎧姿ではなく、白いTシャツにジーンズ、そしてサンダルという極めてラフな格好をしていた。首元で鈍色に光る大剣の形をした首飾りを揺らしながら、大きく伸びをする。

 

「――かーっ、平和すぎてあくびが出らぁ」

「結構なことじゃないか。何事も平和が一番ってな!」

 

 彼の独り言にそんな風に応えたのは、ガッツが昼食の為に入った海の家の中年店主。注文した焼きソバはやや干からびていたが、それもまた海の家の醍醐味であると笑い飛ばした男だ。

 

「まあ、な。ただ荒事で食ってる身としちゃ、あまり平和過ぎでも干からびるから困りもんだ」

「お、なんだにーちゃんヒーローかい? そんなら、せっかくだしサインの一つでも貰っとこうかね、今は無名でも後で自慢出来るようになる日が来るかもしれないし」

 

 そんな風に微妙に失礼な事を言って、手もみしながらにじり寄ってくる店主に対しガッツは半笑いで手を左右に振る。

 

「ヒーローなんてガラじゃねぇさ。オレは――」

 

 その時、ガッツの横の席に一人の男がどっかりと腰を下ろした。

 

「――オッチャン、焼きソバ一つ!」

 

「お、いらっしゃい! ちょっと待ってなー!」

「紅ショウガ多めで頼むよ!」

 

 男はニッと白い歯を見せて笑いながら注文する。ガッツが何となく横に座った男の顔へ目を向けると、ばっちり視線が合った。

 

「……あ」

「おっ!」

 

 互いに知ってる顔だったらしく、お互いが声を上げる。

 

「おーっ、同業他社(ハンターズ)の剣士じゃん、久しぶりだな!」

 

「あー……タケノコランサーか」

「おい何だそのアダ名。ちゃんとヒーロー名で呼んでくれなきゃ困るぜ、『スティンガー』ってさ!」

 

 そう言いながら爽やかにサムズアップして見せたのは、A級ヒーローの『スティンガー』。

 穂先がタケノコという珍妙な槍を得物としながらも実力派として知られるヒーローであり、ガッツともちょっとした顔見知りであった。

 

「今日は一人か? 俺のフォロワー槍使いは元気かよ」

 

 出されたお冷に口をつけながら問うスティンガー。

 

セタンタ(アイツ)は災害レベル:鬼相手に怪我して療養中だ、まあそろそろ退院だが。あと別にアイツ、アンタのフォロワーって訳じゃねーぞ」

 

「そりゃ難儀な事で。えーっ、ピッチリしたコスチュームに逆立てた髪型、なにより武器が槍! 絶対俺のファンでフォロワーっしょ!」

「あー、まぁ、アンタのみたいに変な槍じゃないけどな」

「変とは何だ変とはーっ!」

 

 そうは言いつつも嬉しそうにバシバシと背中を叩くスティンガーに、ガッツは「面倒くさいやつが来たな」と少しウンザリとした気分になった。

 

「あんたは休暇か? 俺は見回りの途中で腹が減ってさ、焼きソバのいいニオイが漂って来たからつい入っちまったんだ」

「ここの焼きソバ干からびてたぞ、味は悪くないがな」

 

 調理中の店長が「ちょっとー!」と抗議するが、ガッツは素知らぬ顔で受け流した。

 

「マジでー? でもさ、たまに屋台とかで食う、そういうちょっと干からびた感じの焼きソバって妙に旨く感じね?」

「……それはちょっと分かる」

 

 だろー? などと人懐っこい笑みを浮かべるスティンガーの前に焼き上がった焼きソバの皿が置かれる。

 やはりちょっと干からびた焼き加減だ。

 

「ハイお待ちどおさま! にーちゃんもヒーローなんだろ? いつも街の平和を守ってくれてるにーちゃんに大盛りサービスだ」

 

「え、マジ? さんきゅーオッチャン……って大盛りなのは紅ショウガかよ! 多めとは言ったけども!

 

 普通盛りの焼きソバの上にこんもりと盛られた紅ショウガの塊にスティンガーが笑いながらツッコむ。

 そんな風にやいのやいのと賑やかな雰囲気の中、ガッツは瓶入りのコーラをグっとあおって脱力したようにため息をついた。

 

「それじゃ、オレは食い終わったからそろそろ行くわ」

「ん? おお、そんじゃ俺のフォロワー槍使いにお大事にって伝えといてくれよー」

 

 ガッツが席を立つと、焼きソバを頬張っていたスティンガーは片手を上げてそう言った。

 

「はいはい。それじゃ、ごっそーさん」

 

 それを受けたガッツも会計を手早く済ませると、店主の「また来てくれよー」という声を背中に受けながら片手をひらひらとさせてそれらに応えて店を後にした。

 

 

 蝉の鳴き声が真夏の日差しを彩る中、ガッツは眼下に広がるビーチを見下ろす。渚から響くきゃいきゃいと黄色い声がこの場所の平和さを示しているようで、彼は大きく背伸びをしながら歩き出す。

 

「来てから怪人の一体も出ねぇし、オレの担当はハズレかねぇ。まあ、おっさんの言う通り、平和が一番ってか」

 

 汗の浮く頭をぽりぽりと掻きながら、彼はビーチを見下ろす位置にある大振りな木の陰へと腰を下ろした。

 

 

 

「L市で起こった怪人災害に当たっていたA級ヒーロー、全滅! 災害レベルを『鬼』に引き上げます、現地に近いS級ヒーローは!?」

 

 ヒーロー協会では、数日ぶりに発生した大規模な怪人災害に騒然としていた。大画面のモニタに表示された市街地の映像には、白いヒト型が車を持ち上げて投げ飛ばす姿が映されている。

 

 険しい顔で端末を操作していた職員の表情がフッと和らいだ。

 

「付近にS級が一人が警邏中です! 既に現場へ急行中との事!」

 

 

 

 

うおおおおおっ!

 

 白いヒト型は近くに放置されていたオープンカーを軽々と持ち上げると、咆哮とともに放り投げる。放物線を描くように飛んだ車体が、逃げ遅れた人々の群れへと落下していく――。

 

――アトミック斬!

 

 高級そうなスポーツカーは瞬く間に小間切れの破片へと姿を変え、民衆へと降り注ぐ。そこへ飛び出した三つの人影がその細かな破片を一つ残らず叩き落とした。

 それを見た白いヒト型が苛立ったように吼える。

 

あァ!? なんだテメェらはァ?

 

 その大柄な影の前に一人の男が悠々と歩みを進めた。男は鈍く光る太刀を右肩に掛け、左手に持った竹串で歯間をつつきシーハーと息をしながら怒れる怪物を睨み上げた。

 

「ハードボイルドかつ人情派ヒーロー、アトミック侍参上! ってな……ったく、飯時に出てくんじゃねーよマナーがなってないぞ」

 

 和装の上にマントを羽織った男――S級ヒーロー、アトミック侍はそう言って唾をその場に吐き捨てる。

 

「師匠、怪人にマナーを説いても仕方が無いかと。あと、道端に唾を吐くのもマナーとしては……」

 

 西洋鎧を身に着けた男がそう言うと、アトミック侍は鬱陶しげに手をひらひらと振って振り返る。

 

「わあってるって。お前も真面目だな……イアイアン、オカマイタチ、ブシドリル、お前ら三人は先に救助作業でもしてろ」

 

テメェ、オレ様を無視してんじゃねェ――ッ!

 

 青筋を浮かべた怪物が見る間に膨張する。

 2m程だった背丈は5mを越す巨体となり、それに見合った大きな拳をアトミック侍へ振り下ろす。

 彼が竹串を放り捨て、軽く刀を振るうと。

 

 ――次の瞬間には巨大な拳が無数の破片へと分割され、怪物は驚愕した様子で硬直する。

 

「巨大化とは芸の無い奴め、俺はお前のようなデカブツは何十体も斬ってきた――が」

 

 飛び散った破片が集まり再び腕の形へと戻るのを目の当たりにし、顔を歪めて嗤う怪物とは対照的に面倒臭そうに顔を顰めるアトミック侍。

 

ククク……オレ様は無敵の怪人クラウド男! オレ様に刀は通じねえええええええ!

 

 再び振り下ろされた拳を彼が避けると同時に怪人†クラウド†男の全身へ無数の亀裂が入り、拳と同じ様に砕け散る……しかし、数秒も経てば元通りの姿へと戻ってしまう。

 

 そうして再び振り下ろされた拳を切り払いながら、アトミック侍は大きくため息をついた。

 

「ははァん……さては面倒なタイプだな? テメェはよぉ」

 

 

 

 木漏れ日の中、少しうつらうつらとしかけていたガッツはざわめくような民衆の声で暗がりに落ちかけていた意識を引き締める。気付けば灼熱の太陽は重苦しい雲に覆われ、薄い暗がりが広がっていた。

 

 曇り始めた空の下で渚から沖へと水が不自然に引き始める。

 津波だ、という誰かの声とともにビーチの人々が次々に丘へと上がり始め――ついに波の揺り戻しが、高く高くそびえ立つ。

 

 ――その波の中に、不気味な影がいくつも潜んでいるのをガッツははっきりと目の当たりにした。

 

「……ああ、ついてねェ。結局、オレがアタリかよ」

 

 彼が呟いた次の瞬間。津波が浜辺を打ち据え、人々の悲鳴を追いかけるように丘へと駆け抜ける。

 ガッツは先程まで身を預けていた巨木を頼りにそれを乗り切ると、波に乗じて続々と上陸してくる巨大な影を睨みつけながら携帯端末を取り出した。

 

 

 

 

『我らの使者を殺害した貴様らの意志、しかと受け取った! 愚かなる人間どもよ、この地上はこれより我ら海人族が支配する!』

 

 先頭を歩く蛸の頭部を持った巨人が逃げ遅れた民衆の中から一人を選び、その触手でぐるりと巻き上げて持ち上げる。

 

『逆らう者には死を。そうでない者には家畜の身分を与えてやろう』

 

 絶叫して暴れる男に対し、目元を歪めて酷薄な笑みを浮かべた――次の瞬間、男を捕える触手が鋭い刺突を受けて半ばからちぎれ落ちる。落下した男が慌てて逃げ出す横に、一人のヒーローが立つ。

 

「ただいま大好評売出し中のA級ヒーロー! 現在A級12位のスティンガーを皆様どうぞよろしく!」

 

 白い歯を見せながら不敵に笑うスティンガーの姿がそこにあった。

 

「スティンガーだ、助かったぞ!」「流石来るのが早い!」「が、頑張れぇえスティンガーっ! っと、カメラカメラ!」

 

 恐怖に逃げ惑っていた民衆は頼もしいヒーローの登場を前に足を止め、声援を送る。

 スティンガーもまたその声援へ応えるように手を振り返すと、目の前に立つ怪物たちに鋭い視線を向ける。

 

『やったな、人間め……!』

「ハッ、昼飯後の見回り中に変なのが出て来てくれてよかったぜ、ちょうど腹ごなしの運動がしたかった所だからな!」

 

 構えたタケノコの槍をブンブンと回しながら、彼は吼える。

 

「胴体にでけえ風穴作りてえ奴からかかってきな!!!」

ほざけェ!

 

 その声を革切りに、海人族達が一斉に襲いかかった。

 

 

 スティンガーが大立ち回りを演じる場へと駆けながら、ガッツは首元で揺れる大剣を模した首飾りを力強く握り締める。

 するとその握り拳から虹色に光る粒子が溢れ、ガッツの全身を包み込んだかと思えば、次の瞬間には黒の鎧を身に纏った彼の姿が光を突き破って現れた。

 

おおおおおおお――――ッ!

 

 マントを翻して跳躍しながら、彼は握った大剣(ドラゴンころし)を振りかぶりスティンガーへ殴りかかる海人族の一体を兜割りに一刀両断した。

 

 そのまま着地すると、彼はスティンガーと互いの死角を消すように背中合わせに構える。

 

「おおっと、サンキュー! ……チラッと見えたけど、なんか魔法少女みたいな変身してやがったな、何だアレ?」

 

「……魔法少女言うな。身内(てんせいしゃ)割引した上でローン組む必要があったオレの必需品だよ」

 

 ガッツが持つ首飾り――それは鎧と武器を量子変換して携帯、展開時に自動で装着する事を可能とするガジェットである。

 タバネがホワイトナイトの脱着に使われる技術の応用であり、一般的には出回っていない超技術の塊だ。

 

「へー、まあその鎧と剣じゃ持ち運びに苦労するだろうし、なッ!

 

 ガッツの剣戟を辛うじて掻い潜って迫り来る触手の一撃を、スティンガーのタケノコが鋭く打ち払う。

 

「実際、コレを手に入れるまでは嵩張るコイツの持ち運びには苦労したもんだ。壁に立て掛けて飯屋入ったら壁が抜けたり、よッ!

 

 襲い来る海人族の胴体へ風穴を開けるスティンガーの横合いから迫る強靭な大鋏をガッツの大剣が叩き斬る。

 

 一匹、また一匹と海人族がその数を確実に減らしてゆき――対して即席ながらも互いを補い合う二人の戦士は無傷のまま。

 

『ば、馬鹿な……人間如きが!』

 

「ヘヘッ、意外と粘ったじゃねーかヌルヌル族ども」

 

 槍を悠々と担ぎながら、スティンガーが笑う。獰猛な笑みを浮かべつつ、彼はタケノコを構える。

 

「さァて、残るは一匹。悪りィが手柄は貰うぜッ!」

『おのれェ!!』

 

 スティンガーは頭上で一回転させた槍を腰溜めに構えると、苦し紛れに放たれた触手を迎え撃たんと鋭く突き出す。

 

唸れ、タケノコッ!

 

 槍は激しく螺旋を描き、タケノコの穂先に触れた海人族の触手を散り散りに消し飛ばしながら尚も突き進む。

 

ギガンティック――ドリルスティンガーッ!!!!

 

 地を蹴り跳躍したスティンガーの持つ愛槍は驚愕に染まる海人族の顔面を抉り貫き、その脳漿を周囲にぶち撒けた。

 

 そのまま頭部を突き抜けて着地すると、彼の背後で首から上を喪った最後の海人族がどうと倒れる。

 

 ――シンと静まり返る海辺の町に、次の瞬間観衆の爆発的な歓声が轟いた。

 

「すげええええええ!」「あんだけいたバケモンをたった二人で蹴散らしちまいやがった!!」「スティンガーかっけえ! あっちの黒い剣士もただもんじゃねえ!」「あっちは何てヒーローだ!?」

 

 ヒーローの圧倒的勝利に沸き上がる観衆と、歓声に浮かれた様子で手を振るスティンガー。……そんな緊張の糸が切れた空間を。

 

――がおん、と金属がたわむ音が貫いた。

 

「――がァッ!?

 

 

 

 

あのね

 

 それの出現を察知できたのは、先を知るがゆえに神経を尖らせて油断なく周囲を警戒していたガッツだけであった。

 そのガッツですら、その一撃を愛剣の腹で受けるのが精一杯。防いでなお殺しきれぬ衝撃は、彼の身体を剣ごと弾き飛ばした。

 

あなたたち

 

――それが、“王”を冠する、異種族怪人のうちの一人。

 

――それが、海人族をまとめ上げる、強壮なる族長(おさ)

 

――それが、災害レベル:の中でも頭一つ抜けた怪物。

 

不快だから死んで構わないわよ

 

 硬直するスティンガー。静まり返る聴衆。

 

「なん、だ……?」

 

 暗雲に雷鳴轟くJ市へ、海人族の王――深海王が現れた。




・怪人†クラウド†男 災害レベル:虎→鬼
物理無効型怪人。役割が露骨すぎる憎いヤツ。
雲でできた体はどれだけ切り刻んでも瞬く間に修復される物理キラー、伸縮自在で実体がなさそうなのに車とか投げ飛ばす。
アトミック侍こんなやつばっか当たってんな!
でも物理無効以外のステータス的にはメルザルガルドや黒い精子には遠く及ばないので鬼止まり。
†(短剣符)が付いてる理由? ノリだよ!

・アトミック侍
一撃必殺持ちはそれが通じない相手と戦わせられる運命。
初登場早々物理無効と当ててすまんな、でも援軍くるからね♡
まあ攻撃通りはしないけど、鬼相手に負ける要素もないんだ。
三弟子は指示に従って避難誘導&救助活動中。

・スティンガー
大人気A級ヒーロー! ぴっちりコスチュームと逆立てた髪型、そして槍使いという属性被りなせいでセタンタさんと比較される。
知名度の差ゆえにセタンタさんがパチモン扱いされる悲しき現実。
原作と違って孤軍奮闘じゃないので雑魚海人族戦後も元気!元気だけど……ッ!
そして圧勝したせいで聴衆が全然逃げてない! 最悪かよ!

・ガッツの転生者
タバネさんのISもどきの量子変換技術を応用した魔法少女変身アイテム鎧装着アイテムを課金で手に入れた。身内とはいえ軽々しく渡せないレベルのものなので4割引きくらい大まけにまけてもなおローンを組むことになった。超高い、壊したりなくしたら詰む。
深海王が来る事は分かってたので滅茶苦茶警戒してたのにぶん殴られてぶっ飛ばされた。
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