【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】   作:Nyarlan

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第十三話 - 雨の足音

 その男は典型的なゼブラ柄の囚人服の上から大きなハートがあしらわれたセーターを着た、二メートルを優に超える巨漢であった。

 足元には重量感のある鉄球が付属した足枷を嵌められているものの、それが動きを阻害する様子は一切見られない。

 

 男は――S級ヒーローのぷりぷりプリズナーは、両手に抱いたガッツとイナズマックスをひしと抱きしめながら怪物を睨む。

 

「……A級12位のスティンガーちゃん、A級21位のイナズマックスちゃん、そしてハンターズの切込隊長ガッツちゃん。皆気になっている男子達だ、彼らを酷い目に遭わせたあなたは許せん」

 

 ビキビキと青筋を立てつつも手元の尻と太腿を優しく握るぷりぷりプリズナーに、腕の中の二人は全身が粟立つのを感じた。

 面識もなく、組織まで違うにも関わらずなぜか名前を把握されていたガッツは背筋を嫌な汗が流れ落ちる感覚に襲われる。

 

「な……なんでオレまで知っている?」

 

 ガッツが絞り出した言葉に、視線を落としたぷりぷりプリズナーが破顔する。ガッツは震え上がる。

 

「ふふ、気になった男子は所属関係なくチェック済みなのさ。セタンタちゃんとシロウちゃんの怪我の具合はどうだ? 見舞いに連れて行って欲しいが、あまり無防備な姿を見てしまうと我慢できるかどうか」

 

 当たり前のように自分たちの近況を把握している上での犯行予告に、ガッツは気絶しそうになる。が、気絶すると原作の本人と同じ目に遭いそうなので気力を振り絞って意識を保った。

 

「うん、絶対連れて行かない」

「はは、冗談だ」

「ほんとに? というか、おろして」

 

 キャラが崩壊する程に怯える彼と同じく事情を察して震えるイナズマックスをそっと地面へ下ろすと、ぷりぷりプリズナーは退屈そうに立つ深海王を再びキッと睨みつける。

 

……あらぁ? 最期のおはなしは終わったのかしら。あまりに待たせるもんだから腕が生え変わっちゃったわぁ

「……いい! 強い気配をビンビン感じる!」

 

 新しく生えた腕を見せ付けながらニマニマと笑う怪物を前に、彼もまた口元に笑みを浮かべる。

 

「万年最下位ではあるが俺も“S級”の端くれ、彼らのようにはいかないぞ。悪さをした分しっかりオシオキしてやる……と、その前に」

 

 ぬぎぬぎ、と擬音を立てながらぷりぷりプリズナーは衣服を脱ぎ始め、道の端にキチンと畳んで安置する。

 

 全裸である。ガッツとイナズマックスは吐き気を催した。

 

「怪人討伐後にいつも服が破れて裸で帰ってるのを、先日オールマイトちゃんに叱られてな……だから予め脱ぐ習慣をつけることにしたんだ」

 

((そういう問題じゃないと思う))

 

 一欠片の躊躇いもなく産まれたままの姿となった変態は、その彫像の如き肉体を晒してポージングを取ると……その肉体が急速に膨張する。

 

 脚に付けられた鉄球付きの枷が弾け飛ぶ程に膨れ上がった全身の筋肉をヒクヒクとさせながら、変態はズビシと深海王を指差した。

 

「生まれたままの姿を晒す――それすなわち、エンジェルスタイル! さあ、ガッツちゃんとイナズマックスちゃんは離れてろ」

 

 雄々しく唸り声を上げ、拳を構える変態。

 ちなみに言われる前から二人は十分距離を置いている。

 

醜いわね……でも、中々に上物の肉じゃなあい。いいわ、ちょっと本気出してあげる

「遺言はそれだけかァ!」

 

 腕をクロスしながら足をかがめ、全身をバネにした変態の巨体が宙を舞う。空中で全てを曝け出した変態は、何らかの認識災害的効果によって見る者に天使の翼を幻視させる。

 

「エンジェルスマァッシュ!!!!!」

――!?

 

 膨張した筋肉から放たれる強烈なパンチが深海王を襲い、その巨体が大きく揺らいだ。それだけでは終わらない。

 

まだだ! 拳に宿るは愛の力ッ! これが俺のぉ――!」

 

 体勢を大きく崩した怪物に、変態が迫る。

 

「ラァヴエンジェルラァァッシュ!!!!!」

 

 突き刺さるたびにのエフェクトを幻視させる悪質な認識災害を伴った重機関砲の如き拳の嵐は、鱗に覆われた強靭な肉体が激しく波打つ程の衝撃をもたらす。

 

「俺の愛を受け取れッ! ラァヴエンジェルスマァッシュ!!!

 

 そしてトドメとばかりに放たれた強烈な一撃が、深海王の巨体を大きく吹き飛ばした。

 

 拳を突き出したポーズで止まった変態――いや、“S級ヒーロー”ぷりぷりプリズナーの前で、深海王は地面へ大の字に倒れ込んだ。

 

(す……げぇ、これが、“S級ヒーロー”……!)

 

 目の前で起きた光景に、ガッツは呆然と立ち竦む。二人がかりでも一時しのぎが精一杯だった怪物をこうも一方的に倒してしまった。

 あまりの強さに、絵面の汚さに逸らしていた二人の視線は途中からその力強い背中に釘付けとなっていた。

 

 人類の守護者にして最終兵器たるS級ヒーローが一人。

 たとえ、男色の性犯罪者であったとしても、それに変わりはないのだ。

 

 

 

 

あ……あ゙あ゙……がら゙、だが……

 

 オールマイトが放った拳は†クラウド†男の胸に軽々と大穴を開けた。

 今までならばその程度の損傷は屁でもないとばかりに即座に修復していた筈だが、今回は様子が違った。

 

「こりゃ、一体どういう……?」

 

 アトミック侍が興味深そうに見つめた先では、胸に開いた穴から徐々に雲の肉体が崩壊を始めている†クラウド†男の姿である。

 

 風穴の付近には閃光のようなものが絶え間なく弾け、体を構成する雲がじわじわと消え始めている。

 

「Hum、雲だけあって水で構成されているとは思っていたが……ここまで効果的とは、少し驚いたね」

 

 その様子を観察していたオールマイトが構えを解きながら言う。

 

「水……? あっ!」

 

 よく見れば、†クラウド†男の体はただ消えているわけではない。

 風穴の周辺を中心とした部分から、ポタポタと雫が垂れはじめていた……まるで、雲が雨を落すかのように。

 

 雫の落ちる間隔は徐々に増していき、やがては豪雨のような勢いへと変わってゆく。それに比例するように†クラウド†男の肉体は薄れ縮んでいき、その表情は苦悶に歪んでいた。

 

ば、かな……オレ様は、無敵の……

 

 四肢をつき項垂れる怪物の真下に雨が降る。顔から流れるそれはまるで滂沱の涙のようにも見えた。

 

う、ぐ……あ゙あ゙ッ! ―――、さまァ

 

 急速に萎れた肉体が人型を保てなくなると、次の瞬間にはバシャリと全てが水に変わって大きな水音を立てた。

 排水溝へと勢い良く流れ込み始めた怪物のあっけない幕切れに、一同は気の抜けたような気分になる。

 

「……やっとくたばりやがったか、こういう面倒な輩はこれきりにして欲しいもんだね」

 

 竹串を咥えながらボヤくアトミック侍。自身の剣が全く通じない相手と言うのは、やはりプライドに関わるらしい。

 

「ねえ、崩れる直前に何かの名前を言ってなかった? なんちゃらさま〜って聞こえたんだけど」

 

 そう言って、オカマイタチが小首を傾げる。

 

「確かに聞こえたが、肝心な所は水音が強すぎて聞こえなかったな」

「なんとなく、末尾が“い”だったように聞こえた気はするぞ」

 

 弟子三剣士の言葉を聞きながら、オールマイトは思案していた。彼も同じく、“〜〜い、さま”という言葉が聞き取れていたのだ。

 

(……怪人協会の関係、か? い、もしくは“I(アイ)”で終わる名前といえば……ううむ、それらしいのが思いつかないな)

 

 そんな風に思っていると、彼の懐に入った端末が震え始める。

 ヒーロー協会からではなく、研究所からであった。

 

「もしもし!」

 

 オールマイトが慌てて通話ボタンを押し込むと、少し焦りを含んだ姉ブライトの声が受話部から聞こえてくる。

 

〘ふう、ようやく繋がったか。キミぃ、高速移動していただろう? アレすると電波がブツブツ切れるんだよね〙

「え、すみません……それで要件は……?」

 

 開口一番そんな事を言われ、オールマイトは面食らう。

 

〘要件だが――ガッツが深海王と接触したよ。現在はA級ヒーロースティンガーと……いまスティンガーがやられたね〙

 

 通話口でそこまで聞いた瞬間、気付けば彼の足は路上の被害を考慮する事も忘れ地を強く蹴っていた。

 

 近くにいたアトミック侍一行が突然の風圧に何事かと振り返るが、そこには既にオールマイトの姿はない。

 増水した排水溝を流れるざあざあという音だけが辺りに響く。

 

 ――まるでそれは激しい雨音のように聞こえた。

 

 

 

 

 構えを解いたぷりぷりプリズナーがフッと笑う声を聞き、呆けていたガッツはハッと我に返る。

 

「ふーっ、どうやらオールマイトちゃんたちとの“肉体♡交流会”を重ねた俺の敵ではなかったようだな」

 

((に、肉体♡交流会……!?))

 

 当然ながらそんな名称ではない。ないが、訂正できるものはこの場には残念ながら居なかったので、ガッツたちはドン引きする。

 早く来て訂正しなければ妙な風評被害が広まるかも知れないと言うことを、残念ながらオールマイトは知ることができない。

 

 ぶらん、とナニかを揺らして振り返った変態が、いつの間にかスティンガーを抱えて穏やかに笑う。

 さっきまでそこに転がってたのに、とその早業にガッツとイナズマックスは色々な意味で戦慄した。

 

「さあ、ガッツちゃんにイナズマックスちゃん! 怪人はやっつけた事だし、早くスティンガーちゃんを看病してやらないと。この近くにホテ……病院はあるか?」

 

「どこに連れ込むつもりだテメェ……!」

 

 薄っすらと聞こえた聞き捨てならない言葉に震え上がるガッツの肩を叩きながら、イナズマックスが苦笑いする。

 

「こんなだけど、性癖を表に出してない時は普通にいい人なんだぜ。たしか、病院ならこの先に――」

 

 イナズマックスが指差したのは変態が先程まで向いていた方向。そしてそこに注目した三人は気付く……深海王が体を起こしていた。

 

「――なっ、あいつ、まだ……!!?」

 

 慌てた様子のイナズマックスにスティンガーを預けると、彼は油断なく怪物へ視線を向けた。

 

「大丈夫だ、二人とももう少し俺の後ろにいてくれ」

 

 二人の前に立ち再び油断なく構えを取る変態の前方で、ゆらりと深海王が立ち上がる。

 

効いたわ……かなりね

 

 体の調子を確かめるように、各関節を鳴らして怪物は笑う。

 

良い連打だったわ、一発一発に殺意が込められ「愛だ」……殺意が込められてて、体がグチャグチャになるような、本当に凄い連打

 

 変態の妄言を受け流し、深海王は言い切った。

 

まあ、もう治ったけど

 

「ならば、何度でもグチョグチョにしてやるだけだ! エンジェルスマァッシュ!!!!

 

 肉体を膨張させた変態が躍りかかると、顔面に迫る拳を怪物は紙一重で躱す。耳元から生えたエラのような器官がちぎれ飛ぶのも構わず、カウンターの拳を出した。

 

「むんっ!!!!」

 

 股間を突き出すような動きで体を反らし、その拳を避ける変態。

 

いいわね、楽しくなってきたわ!

「実は、俺もだッ! ラァヴエンジェルラァッシュ!!!!

 

 再び放たれた嵐のような拳の連打、それを数発もらいながらも深海王は耐えて掻い潜り変態のボディへ鋭いアッパーを放った。

 その一撃は吸い込まれるように脇腹へと直撃し、何かが折れるような音が響き渡る。

 

ぐっ……!! エンジェルゥスマァッシュ!!!!

 

 筋肉が波打つ衝撃に悶えながらも、変態は深海王の顎に強力な一撃を食らわせる。

 怪物の体が浮き上がり、砕けた顎がぶらりと不自然に揺れ――次の瞬間には、元通りの形に戻っていた。

 

「フーっ……フーっ……!!」

 

 間合いを離し、変態は息を整える。

 対して骨が砕けるほどの打撃をいくつも貰っているというのに、未だに余裕を見せる深海王。

 

……あなた、やるわねぇ。記念に名前を聞いといてあげるわ

 

 怪物は心底感心したといった様子で、そんな風に尋ねる。

 フッ、と笑いながら変態がそれ答える。

 

「……俺は“S級ヒーロー”ぷりぷりプリズナー! ステキな男子たちを守る、愛の守護天使だ。あなたは?」

 

私は深海王。海人族の(おさ)にして、深海を統べるもの

 

 問い返された怪物は大仰に手を広げて見せながら答えた。

 

そして、この世の全てを支配下に置くもの……。褒めてあげるわ、この私にここまで刃向かえたのはあなただけよ

 

 不敵な笑みを見せてそう言う深海王に、変態は一瞬キョトンとしたような表情を見せると、やがて大口を開けて笑った。

 

……なんのつもり?

 

 想定外の反応だったのか、しばし硬直した深海王が不愉快そうに顔を歪めると、変態は胸に手を当てて笑みを浮かべた。

 

「いやすまん、あまりに無謀な事を言うもんだから笑ってしまった。どうもあなたは俺を最強の戦士か何かと勘違いしてるようだが、本当に強い人と比べれば俺なんてただの一般成人男子に過ぎない」

 

はあ? なに言ってるのあなた

 

 深海王はポカンと口を開け、本当に何を言われたか分からないといった様子で片眉を上げる。

 

「そんな俺とこうして互角に殴り合う程度じゃ、世界なんて無理だ。海の底でおとなしく暮らしていれば長生きできたものを」

 

 彼は少し憐れむようにそう言った。

 

……そう、じゃああなたもう死んでいいわよ

 

 怪物はその言葉をただの侮蔑であると受け取ったらしい。不愉快そうに口を閉じると、拳を構えた。

 対するぷりぷりプリズナーも静かに己の構えを取る。

 

 

 

 怪物同士が睨み合う緊張感の中、戦いの雰囲気に飲まれていたガッツは、己の鼻先で何かが弾けるのを感じて我に返る。

 

 ぽたり、ぽたり。ぱらぱら――周囲に静かな音が満ちてゆく。

 

雨、降ってきたわね

 

 深海王がポツリと呟いた。

 

 ――その言葉でそれが雨だと理解し、何かを思い出したガッツの顔色がサッと青褪める。

 

 ――この戦いは、ここからが本番となるのだ。




・愛の守護天使ぷりぷりプリズナー
読者にも惨敗すると思われていたのに今のところ大健闘の漢
S級の戦力増強を目的とした転生マイト主催の肉体♡交流会筋肉交流会にて大幅強化されている
原作のダークエンジェル☆ラッシュに匹敵するラヴエンジェル☆ラッシュを習得済み、そして転生マイトに影響を受けたエンジェル☆スマッシュなんてのもある
参加者は転生マイト、シルバーファング、超合金クロビカリ、タンクトップマスター、ぷりぷりプリズナーの五名

・深海王
死闘を演じている相手が「自分は一般成人男子」とか言い出してちょっと困惑中。でもまだ本気出してないし……とか思ってる

・ガッツの転生者
今回空気気味な販売価格銀貨3枚の男(嘘)
ぷりぷりプリズナーがハンターズ一同に目をつけてる事を知って恐怖に震えている

・オールマイトの転生者
状況改善のため裏で色々動いてる男
ぷりぷりプリズナーの裸族っぷりを注意したら結果的に逆切れ中の不意打ちを防ぐ結果になった
実際、転生者一同はあの辺りの詳しい経緯をあまり覚えていないっぽいと設定されているので滅茶苦茶ファインプレー
なお、日常業務で市をまたいでウロウロしてたら電話受けたとき既に深海王戦始まってて大遅刻中、地味に遠いぞ!
†クラウド†男をなんかよくわからん技で倒した(目逸らし)

・†クラウド†男
なんか意味深な事を言いつつ、雨を暗示して死んだ
ここまで書いてようやく「あっ、霧じゃなくて雲にしてよかったやん、雨を暗示できるし」と気付く私
……いかん、行きあたりばったりがバレるΣ(´∀`;)

それでは次回、vs深海王編決着!

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