【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】 作:Nyarlan
――しとしとと雨が降り出したJ市の路上は、激しい戦闘の余波による生々しい破壊の跡が散見された。
静まり返った町中で睨み合うぷりぷりプリズナーと深海王の姿を、ガッツとイナズマックスは固唾を呑んで見守っている。
どちらも自分たちの遥か上を行く怪物であり、そこに加わるほどの実力が自身にない事を、二人は痛いほど理解していた。
――はじめに仕掛けたのは深海王であった。目にも止まらぬ速さで距離を詰め、初動が見えない程の速さで拳を振るう。
「甘いッ!」
その拳は空を切り、地面へ突き刺さってアスファルトを砕いた。ぬるりと半身を反らし拳を回避したぷりぷりプリズナーはその勢いのまま左足を軸に大股開きで一回転し、前のめりとなった深海王の後頭部へ後ろ回し蹴りを叩き込む。
「まだだッ! ラァヴエンジェル☆――」
地面を転がる深海王を追って、ぷりぷりプリズナーが何らかの認識災害的効果で幻視させた翼を羽ばたかせながら宙を舞い。
「フラッピンスタァンプッ!!!!!」
猛然とした勢いでダブル・フットスタンプを仕掛ける。彼の両足が怪物の頭を踏み砕く――ことは無かった。
物理学に喧嘩を売るかの如く何故か綺麗なハート型に陥没したコンクリートの地面に深海王の姿はなく、いつの間にか瓦礫の噴水を隔てた正面で拳を振りかぶっていた。
『甘いわねぇ、隙よ』
着地の衝撃で身動きの取れないぷりぷりプリズナーに向けて巨大な拳の連打が襲いかかる。
彼は筋肉をより隆起させた腕を盾にして頭部や胸部などを守るしかない。拳の嵐が体に突き刺さる度に骨がきしみ、筋繊維が悲鳴を上げるのをぷりぷりプリズナーは気合で持ち堪えた。
一瞬の隙間を縫うように彼もまた反撃の拳を叩き込み始めると、やがては無数の拳のぶつかり合いへと移行する。
「――ッ!!! いくら好かれても、あなたからの愛は受け取れんッ!」
『……はあ? 何言ってるのあなた?』
「
一際強烈な拳が横っ面に突き刺さり、深海王の巨体がザザと後方へ大きく滑ってゆく。
ぜはー、ぜはーと息を荒くするぷりぷりプリズナーは高熱を発し、降り注ぐ雨を蒸発させてもうもうとした蒸気を纏う。
その体には痛々しい打撲の痕が目立ち始めており、対する深海王は見る間に傷が治ってゆく。明らかに、形勢が逆転し始めていた。
『頑張るわね。でも、動きが鈍くなってるわよ』
「ハァ、ハァ……ッ、まだまだ! この新形態、ミスティックエンジェル☆スタイルであなたを討たせてもらうぞ!」
濃密な霧を身に纏い多少は視覚に優しくなりながら堂々と言い放つぷりぷりプリズナーだったが、その実内心は芳しくない。
(くそぉ、いいパンチをまた何発か受けちまった。奴め、なんだかスピードもパワーもどんどん増してる。それどころか……ッ!?)
目を見開くぷりぷりプリズナー。視線を逸らしてもいないのに、感知できない刹那の間に巨大な拳が迫っていた。
――巨大な、というレベルではない。その大きさは2メートルを越す彼の巨体をすっぽりと包めるほどとなっていた。
「ぬ、お、おおおおおおお――――ッ!!!!!!」
拳圧がせっかくの霧を吹き散らし、咄嗟にガードした彼の巨体を撥ね飛ばす。まるでゴムボールのように軽々と弾き飛ばされたぷりぷりプリズナーの体は背後にあったビルの外壁を突き破り、瓦礫と土煙の中へと消えていった。
ビルは重要な支柱を破壊されたらしく、その自重を支え切れず凄まじい轟音を立ててその場で崩れ落ちる――ぷりぷりプリズナーを生き埋めにして。
『ふふ』
瓦礫の転がる音が収まり静寂が訪れた雨のJ市。
『うふぁはははははははははははっ!!!』
雨音の静寂を切り裂いて、巨大な異形が呵呵大笑する。
その姿は先程までとは大きく違っていた。人に近い二足歩行のフォルムは崩れ去り、異常発達した筋肉を支えるためか四足歩行へと移行している。
白塗りの人面が魚類のそれへと変わり、牙はより長く鋭く伸びていた。何より、6メートルほどだった体躯はいまや20メートルはくだらないほどに巨大化している。
――最早それは怪人とは呼べず、怪獣と呼ぶに相応しい。
『地上に出て随分と萎んじゃってたけど、雨のおかげで元気が出てきたわ……』
怪獣はポツリと呟くと、硬直するガッツとイナズマックスにギョロリと視線を向ける。縦に裂けた瞳孔が、二人を見て嗤う。
『あとはあなたたちだけね。彼ほどは楽しくないでしょうけど、せめて気持ちのいい声でないてくれるかしら』
「――ッ!!」
のし、のしと嫌に緩慢な動きでじわじわと近付いてくる怪獣。
今までの戦闘を知る二人は、その遅さが恐怖を煽るためにわざとやっているのだと察する。
「――なあ」
恐怖に縛られたガッツの横で、イナズマックスが絞り出すように声を出す。
「アンタ、ヒーローじゃないんだよな? よく知らないけど、多分未だにバウンティハンターやってる組織の所属だろ」
「……だから、何だって」
嗤う怪物から視線を逸らさず、問い返すガッツに、イナズマックスは抱えていたスティンガーを押し付けた。
困惑するガッツを前に、彼は笑う。
「割に合わないだろ、金儲け目当てにやるにはよ。だから、こいつ抱えて逃げてくれ」
「……は? それはどういう」
「俺はヒーローだからな。何秒も稼げないだろうけど、なるべく遠くに逃げろ。そんで他の――できたらS級ヒーロー連れてきてくれ」
そう言って、返答を聞くこともなく深海王へと一歩踏み出すイナズマックス。彼は小刻みに震える体で構えを取る。
『馬ー鹿ねー、逃げられるとでも思ってるの?』
「ヒーローはカッコつけてナンボなんだよ。ホントはこんな、負ける前提みたいな言い方もするべきじゃないが、つい口が滑ったぜ」
彼は口を歪めて笑った。ほとんど痙攣しているような笑みでしかなかったが、ガッツにはそれがとても格好良く見えた。
その反面、震えて思うように動かない自らの足に彼は失望する。
――
――
しかし彼は
(俺は――
目の前で駆け出すイナズマックスが、ガッツの視界の中のあらゆるものがスローに動いていた。
瓦礫を突き破り飛び出してきた傷だらけのぷりぷりプリズナーが純白の翼を広げ、ハートを撒き散らしながら拳を引き絞る姿が。
それに気を取られた深海王の隙を突き、高く跳躍し前方宙返りを繰り返すイナズマックスの姿が。
「これ以上、俺の前でステキな男子たちを傷つけさせはせん!」
「余所見してるんじゃねぇぞ! 喰らえッ――!」
「LOVE ANGEL ☆ SMASH!!!!!!!」
「稲妻大車輪両かかと落としッッッ!!!!!」
「こんな俺でも、ヒーローになれっかな」
彼には、とても眩しいものに見えていた。
二人の渾身の一撃が、深海王に炸裂する。
※
〘J市における海人族の襲来は、A級ヒーロースティンガー氏の敗北の報せを機に災害レベル:鬼と認定されました。現場からはJ市シェルター前の映像が届いております、ご覧ください〙
ニュースキャスターの言葉のあと、小さく表示されていたワイプ映像が画面いっぱいに広がる。
ヘリからの空撮と見られる映像には、シェルターの入り口へ殺到する海人族の残党が映されていた。
〘強靭な作りとなっているシェルターではありますが、入り口部分だけは少し脆いとのことですし、市民の不安を解消するためにもヒーローたちには頑張って欲しいですね〙
シェルターのハッチを叩く海人族の背後に自転車に乗った男が現れたところで現場映像が閉じる。
〘――さて、本日はゲストとしてヒーローランクA級1位にして、人気ランキングではかのオールマイト氏と1位を争うスーパーヒーロー、モデルや俳優、歌手としても大人気の“イケメン仮面アマイマスク”さんにお越しいただきました!〙
〘よろしくお願いします〙
キャスターの言葉でカメラが切り替わり、容姿端麗な男性――アマイマスクの姿が映し出された。
〘今回の一件は災害レベルが鬼に達しましたが、ヒーローとしてのイケメン仮面さんはこの事態をどのように捉えておられますか?〙
〘……難しい質問です、今の僕は歌手としての“仮面”を望まれて新曲の宣伝の為にこの場に居ますので。でも、そうですね、ヒーローの僕として答えさせていただきます〙
アマイマスクは口元に笑みを浮かべる。
〘ヒーローとは、人々の不安を取り除く希望の星でなければなりません。そう、かのオールマイト氏のように、存在自体が希望と平和をもたらす象徴として君臨すべきなのです〙
〘速やかに、そして鮮やかに悪を排除する事で市民の安寧を守るべきヒーローが、今回悪に屈してしまったことは残念でなりません〙
ですが、と前置きし、アマイマスクは表情を綻ばせる。
〘オールマイト氏はこう言っています、“希望とは一人で紡ぐものではない。たとえ一人のヒーローが敗北しようと、そのヒーローが稼いだ時間で他のヒーローが駆けつけられる。一人で勝てないなら皆で力を合わせる、そうすればより強い悪にも立ち向かえる”、と。なので、敗北したヒーローの働きもきっと無駄ではないのでしょう〙
なるほど、と関心した様子のキャスターが本題である新曲の宣伝について促そうとフリップを取り出す横で、彼は更に口を開く。
〘ちなみにこれはXX年XX月XX日に発売されたXXというヒーロー雑誌のXXページに掲載されたオールマイト氏へのインタビューで……。他にも……という……ですね……それから……〙
こいつオールマイトの事になると早口になるな……というニュースキャスターの呆れを含んだ視線にも気付かず、新曲の宣伝すら忘れてオールマイト雑学を語り続けるアマイマスクであった。
※
折れた鼻や割れた額から血を流しながら、イナズマックスが砕けたアスファルトの上で気絶している。
四肢をありえない方向ヘ曲げたぷりぷりプリズナーが、瓦礫の山に半ば埋もれるようにして意識を失っている。
たった一瞬でそれを成した深海王は、雨の中立ち尽くすガッツを見て嗜虐的な笑みを浮かべた。
『あらぁ? まだ逃げてなかったのね。腰でも抜けちゃったのかしら』
「……ああ、ビビり過ぎて腰砕けだ。逃げたくても逃げらんねぇ」
そう言って、彼は自嘲気味に嗤う。イナズマックスに託されたスティンガーは近くにあった木の陰へと寝かせていた。
『そう。まあ、逃げたところで追っかけて殺すけど』
「……だろうな。だから、生き残るにはこれしかねェんだ」
舌なめずりをする怪物の前で、ガッツは愛剣を構える。勝てる気は微塵もなかった。さっきまで腰が抜けていたのも事実であるし、逃げ切れないという確信があるのも確かだ。
しかし、逃げない事を選択したのは、間違いなく彼自身だった。
「……逃げ出した先に、楽園なんてありゃしないなら。辿り着いた先も戦場だってんなら、ここで戦ったほうがまだマシだ」
覚悟を決めた表情で、彼は深海王を睨み上げる。
「俺はガッツだ。俺はガッツが無様に逃げ回る所なんて見たかねぇ、だから戦う。文句あっか!」
恐怖を振り払うかのように、ガッツが吠えた。
『……何言ってるのかさっぱり分からないけど、腕の借りはキッチリと返させてもらうわよ』
そんな、半ば錯乱したような彼の言葉に、深海王はどこかつまらなそうに言い捨てた。
「言ってろ! 大体そのトカゲみてえなツラが気に入らねえんだ、嫌な事思い出させやがって、ブッ殺してやる」
精一杯の虚勢を張り、怒りを沸き上がらせて恐怖を塗り潰す。
そうしなければ、両足で立っていることすらままならないからだ。
『なんでもいいから、苦痛の悲鳴を聞かせなさい!』
そう言って飛びかかって来る深海王を前に、ガッツは大剣で地面の瓦礫を飛ばす。瓦礫は狙い通り深海王の顔に当たり――。
『あら、目潰し? 残念、効かないわよ』
「クソがッ……!」
にやけた表情で振るわれた大振りの拳を紙一重で回避し、懐に飛び込んで白い腹を斬りつける。……しかし、強靭な鱗に覆われた皮膚は最早彼の振るう刃を受け付けない。
横から飛んできた巨大な手のひらがガッツの胴をむんずと掴む。
「――ぎッ!?」
握り潰さないギリギリの握力で締め上げられ、彼の力が抜けた。大きな音を立てて地面へ転がった大剣を見下ろして深海王が嗤う。
「ご……の……ッ!」
ガッツは咄嗟に鎧の胸元に取り付けられたナイフを握り突き刺すが、無情にも刃は通らずナイフが折れる。
『はいざぁんねーん、ゲームオーバーよ』
「……ッ、があああッ!!」
折れたナイフを狂ったように叩きつける彼を深海王は嘲笑う。
『さあて、どうしてくれようかし――?』
にやにやと嗤う深海王が口の中に違和感を感じた次の瞬間――バンッ、という破裂音とともに、ガッツの顔へ返り血がかかる。
――しかし。
「……クソ、バケモンが。口の中まで頑丈かよ」
口の中から火薬の煙を吐きながらも、怪物はほとんど無傷であった。手投げ式故に災害レベル:虎程度を想定した武装とはいえ、口の中で炸裂させたにも関わらず怯みすらしないとは、ガッツとしても流石に想定外であった。
『なにすんのよ、油断も隙もないわね。……まあいいわ、流石に万策尽きたんじゃないかしらぁ?』
「ぐっ……がっ……!」
深海王が少し力を込めて握ると、肋の折れる音が連続して響く。口から溢れ出る血と押し殺した苦悶の声に怪物は満足げに頷いた。
『うふふ、良い声が出るじゃなぁい? さて、そろそろ取り立てをさせてもらおうかしら』
「な、何を……ッ!?」
左腕を掴み伸ばされた事で、ガッツは青褪め激しく体をよじる。しかし拘束は欠片も揺るがず、深海王の愉悦を満たすばかりだ。
『うふ、よく鍛えられた美味しそうな肉ね。よぉく味わってあげるから感謝しなさぁい』
「や、やめ――あ゙ッが!!!」
――ぞぶり。鋭い牙が肉へ食い込んでゆくゾッとするような感覚にガッツは息を詰まらせる。嬲るように、愉しむように、わざと長い時間をかけてじわり、じわりと顎へ力を込める深海王。
「〜〜〜〜〜〜〜ッッぐ、ぁ゙!!」
ばきり、ぼきり、という無機質な音とともに前腕骨がへし折れ両断される音が鳴ると、その耐え難い痛みにガッツは嘔吐する。
「フーッ……フーッ……!」
固く目を閉じていたガッツが目を開くと、彼の左前腕は半ばから先が無くなっていた。
『ふふふ、いい肉質じゃない、褒めてあげるわ。それに、なかなか気持ちのいい悲鳴だったわよ』
バキバキと自らの腕が咀嚼される音を聞きながら、ガッツは喉の奥からこみ上げる、くつくつという笑い声を漏らした。
『……あら、もうおかしくなっちゃったのかしら?』
「ああ……おかしい、さ。ッぐ……まる、で……運命みたいだな……次は右目か、畜生、め……ッ」
心底愉しいといった表情の深海王を、ガッツは脂汗の吹き出した顔で睨みつけ――そのままがくんと意識を失った。
『あらぁ、もうおしまい? ふふ、あなた雑魚だったけど、この私に傷を負わせられた事は評価してあげる……じゃあね』
怪物はぐったりとした彼を高く高く持ち上げた。
深海王は顔を上に向けると、凶悪な牙の並ぶ口を開き、ゆっくり、ゆっくりとガッツの身体を下ろし始める。
青黒くぬめった舌先が彼の体へ触れようとした、その時だった。
――――ズドンッ。
『――!?』
J市の一角が激しく揺れ暴風が吹き荒れると、次の瞬間訪れた衝撃は雨粒を――空間に揺蕩う全てを押しのけ、無音を響き渡らせた。
無音が世界を支配して数秒経つと無数の雨粒が一斉に地に爆ぜる、“ザッ”という音が耳を打つ。
……そんな明らかな異常に、圧倒的強者としてこの場に君臨していた深海王も思わず身を硬直させていた。
『一体、何が――ッ!?』
怪物は気付く。今まで握り締めていた太く強靭な指は全てあらぬ方向へと曲がり、手の中にあるはずのガッツの姿がない。
深海王が手指を再生しながら抑え切れぬ困惑をあらわに周囲を見渡せば、いつの間にか目の前にしゃがみこむ大きな人影。
その人影は、深海王が今まで確かに握っていたはずのガッツを地面に寝かせ、喪われた左腕へ向けぼんやりと光る手を翳していた。
とめどなく流れていた血は既に止まり、青褪めていた肌にも僅かながら朱が差し始めていた。――と。
「――情けない。不甲斐ない」
その男が、静かに言葉を発した。
「何が対処は難しくない、だ。何が我々の頑張りどころ、だ」
その声に覇気は無く――しかし、はっきりと怒りが感じ取れ。
「何が“ヒーロー”だ――何が“オールマイト”だッ!!!!」
その煮えたぎる怒りの矛先は、他ならぬ彼自身に向けられていた。
「割り当てられた役割も果たせず、仲間に、人々に取り返しのつかない怪我をさせて――“オールマイト”を名乗る資格など……!!」
ゆっくりと、男が――オールマイトが立ち上がる。緩慢にも見える動きで振り返った彼の表情は、仮面のような笑み。
彼が人々を助けて回るときにいつも浮かべている表情……それと形は同じでも、どこが作り物を思わせており――故に仮面のような印象を見るものに与えていた。
降り注ぐ雨は彼を濡らし、顔を伝って濃く影を落とされた眼窩の下から流れ落ちる。まるで滂沱の涙のように。
『な、なんなの、あなた――ッ!?』
濃密な強者の気配に、知らぬ間に肩を震わせる自らに気付いた。……絶対強者たる存在の自身が恐怖している。そんな事実に気付き、深海王は驚愕した。
目の前の男は、先程まで彼が圧倒していた相手と同じ程度の体格でしかない。簡単に引き裂き、喰らえるはずだ。と、そう思えないことに深海王は戦慄した。
『そんな事、あっていいハズがないわ……だって私はこの世の全てを支配する――ッ!!』
“本当に強い人と比べれば俺なんてただの一般成人男子に過ぎない”
――ただの侮蔑と切り捨てた言葉が、彼の脳内にリフレインする。
『あの言葉は、本当だったと言うの……?』
怯えを、恐れを押し殺して深海王は牙を剥き出しにする。
『認めないわ……私は深海の王、深海王! 海は万物の源にして母親のようなもので、それを支配する私は全生命の頂点に立つ存在……!!』
深海王はその巨大な拳を握り、振り上げる。
『その私に盾突くあなたは、死になさいッ!!』
そして、その拳の大きさにも満たない男に対し、振り下ろした。今までの遊びとは違う、全身全霊を込めた、殺意の拳を。
「資格などない……私自身、痛感しているよ」
『――――!!?』
その殺意は、呆気なく片手で受け止められていた。
肉体を打ち砕くどころか、微塵も揺るがすことすらできない。
「それでも、私は……この世界において“オールマイト”なんだよ。“オールマイト”であり続ける、“オールマイト”を体現し続ける、義務があるッ!!!」
――その時、彼は自身の死を感知することすら出来なかった。
不必要なまでの力を込められた一撃は深海王の矮小な体をなんの抵抗もなく貫き、その余波は雲を衝く。
J市を覆う暗雲は、たった一つのパンチによって祓われた。
※
J市のシェルター前には、市民の歓喜の声が響いていた。
「フーッ、これで、全部か?」
蛇革の特製スーツを身に纏った男が、息を整えながら構えを解く。
その横で鼻血を拭うオールバックの男と、もがれた片腕からはみ出した配線をスパークさせるサイボーグが床に座り込んでいる。
「や、やったぞ! アンタのおかげだ、無免ライダー!」
“拳”と一文字書かれた珍妙なシャツを着た、体格のいい癖毛の男はそう言ってぐったりとするサイクルファッションの男の肩を抱く。
ヒビ割れてズレたサングラスを戻しながら、男は――ヒーロー・無免ライダーは笑う。
「はは、恥ずかしながら俺は大して役に立てなかったよ。ほとんどみんなのおかげさ」
「いいや違うね、俺達は災害レベル:鬼の警報にビビってシェルターに篭ってた。アンタが外で必死に戦ってるのを知ったから、俺達もなんとかしなきゃって思えたんだよ!」
そう言って変なシャツの男――ヒーロー・ブンブンマンは青痣の付いた目を細めて笑った。
雨雲が消えて晴れた空の下、ヒーロー達は互いに称え合い、市民たちは彼らの活躍を賞賛する。
怪人の親玉もどこかで討ち取られ、一人の死者もなく収められた“海人族の襲来”事件は晴れ上がった空に相応しい大団円を迎えた。
とある男の胸中を除いて――。
・ぷりぷりプリズナー
新形態ミスティックエンジェル☆スタイル!に覚醒したり健闘したものの、雨で真価を発揮した深海王に敗北
ミスティックエンジェル☆スタイルとは、激しい戦いにより体に付着した水分を蒸発、濃い霧を発生させそれにまぎれて戦うスタイル
裸体が隠れて視覚的にとってもやさしいが、雨の日以外に使う場合は霧がムアっとした匂いを漂わせてむしろSAN値が下がる
・イナズマックス
逃げる時間は稼げなかったがその勇敢さにガッツは憧憬を覚え、ぷりぷりプリズナーはキュンとした
・深海王
「えっ、さっき言ってたのってマジだったの!?」
・ガッツの転生者
深海王を前に戦意喪失した自身に失望しつつもなんとか奮起して戦った結果左前腕を食い千切られてしまった(無慈悲)
初期から決めてた展開ですが、人選でバレバレだったみたいですね
目はまだ無事なのでまだもう一回できる(外道)
・オールマイトの転生者
遅れてやってきたら仲間が大変なことになってて、思わず深海王を全力で殴ってしまった。ハゲの無造作なパンチよりは威力がある
なんかヒーリング的な事をやっていた気がする
・アマイマスク
あいつオールマイトのこと話すときめっちゃ早口になるよな
・無免ライダーとか
シェルターに殺到してた海人族残党に無免ライダーが殴られても殴られても立ち上がる姿を見てシェルターに避難中のヒーローが飛び出し戦うというドラマティックな展開が裏であった
ガッツさんは皆さんの期待通り(?)隻腕化しました、あとは右目だけですね! 冗談です!
ガッツさんがリョナられてるシーン、実はオールマイトが飛んでくるタイミングが上手いこと書けず延々嬲られるのが悪趣味過ぎてスッパリカットしました、ここが執筆上詰まってたシーンですね……