【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】 作:Nyarlan
「ぽへぇー」
とあるアパートのベランダにもたれかかり、物憂げな――と言うには少々間の抜けた表情で空を見上げる一人の少女がいた。
少女は人形のように整った顔立ちをだらしなく弛緩させ、緩やかに流れる大きな積乱雲をその紺碧の双眸でぼんやりと眺めている。
降り注ぐ日光を浴びてキラキラと輝く金糸の髪は、無造作に腰まで伸びており――その髪に半ば隠された細い腰から下は人間のそれではなかった。きめ細やかな緑の鱗に覆われた大蛇の尾がベランダの床にとぐろを巻いている。
――彼女は、いわゆる怪人と呼ばれる存在だ。
「ミア氏ー、そうめんゆがけたからお昼に――」
そんな人外の少女の背に、低い男の声がかけられる。風を受けて緩やかにはためくカーテンの先、陽を浴びて黄昏れる少女の姿に男は思わず口をつぐんだ。
……彼女がこのアパートに住み着いてそれなりの時間が経つ。
片時も外へ出ず過ごして来た彼女の生活には、男も思う所がないわけではなかった。
(そうだよな……口ではなんだかんだ言っても、ミア氏は自然で生まれ育って来たんだもんな。狭いアパートの一室に篭りきりじゃやっぱりストレスが――)
「あの雲、ソフトクリームみたいですの……じゅるり」
(――なんて繊細さは持ち合わせてなかったみたいだ)
なんのことはない、緩んだ口元が見えなかった故の誤解であった。
男――キングは、ため息を一つついて声をかける。
「ミア氏、お昼ゴハンのそうめん出来たから食べようか」
「……んあっ!? もうそんな時間ですの?」
驚いた様子で振り返った少女――ミアはグシグシと口元を拭いながらベランダから部屋へと上がる。
もちろん、設置されたタオルで大蛇の尾から埃を拭うことは忘れない。抜けた所のある彼女ではあるが、三度苦言を呈されて改められない程ではないのだ。
花の意匠が施されたガラスの器に、トクトクと出汁の香るめんつゆが注がれる。ミアは彼女用の桃色の箸で大皿の端に添えられた氷をつまみ、めんつゆの液面へと移す。
カラン、という涼し気な音を立てて器を漂う氷を前に、ミアは「むふー」と満足気に頷いた。
「さてと……いただきますの!」
キングによって食べやすく一口大に結ばれた束を一つ持ち上げると、氷で冷えた黒い液面へと晒す。
一度、二度とめんつゆを潜らせ結び目も緩んだそうめんをゆっくりと持ち上げ、彼女は大きく口を開ける。
「あー……んむっ!」
小さな牙の覗く薄い唇に咥えられたそうめんは、ずず、という小さな音とともに吸い込まれ――もぐもぐと咀嚼したミアは頬に左手を当てて顔を綻ばせた。
「ンン〜〜〜ッ!! やっぱり日本の夏はコレですの〜〜♪ これが無くちゃ始まりませんの〜〜っ♪」
(いつもながら美味しそうに食べるなぁ……ニホンはしらんけど)
彼女が浮かべる花の咲くような幸福満面の笑顔を肴に、キングもまたそうめんをすする。絶妙な茹で具合に彼も満足気に頷いた。
ガラスの大皿に盛られたそうめんの山は見る間に小さくなってゆき、あっという間に二人の腹に収まってしまう。
「ぷはーっ、ごちそうさまですのっ!」
脚を、もとい尾を投げ出して仰向けになるミアを後目に、キングはテキパキと食器を運び、流し台で洗い始めた。
その間に彼女はむくりと起き上がり、いそいそとテレビの前に移動すると、おもむろにゲーム機のセッティングを開始する。
カチャカチャという食器を洗う音に混じって格闘ゲームの起動する音が流れ始める。サッと洗い物を終わらせた彼が新聞を手にテーブルへ戻ると、ミアはNPCを相手にコンボ練習を始めていた。
NPCである女性キャラクター(キングの得意とするキャラだ)がボコボコにされる艶めかしい声と、ミアの怨嗟の篭ったようなゲスい笑い声をBGMにキングは新聞を読み進める。
(えー、なになに? “怪人ヒーロー、またまたお手柄! 変態怪人を単独撃破も男性ファン歓喜の衝撃ハプニング?”……ほう、ほう)
見出しの写真には倒れた怪人をバックに拳を掲げドヤ顔をする、A級ヒーロー・チャーミングジラフの姿が写されている。
その胸元には“見せられないよ!”と書かれたボードを手に持ったチャーミングジラフの二頭身イラストが笑顔で仁王立ちしており、記事を見るまでもなく何が起こったのか彼にも容易に察せた。
――チャーミング・ジラフ。
その可憐な見た目にからは想像できない程の怪力と頑丈さを武器にしたシンプルな強さに加え、天真爛漫な言動がその手のファンを強く引きつけるA級ヒーロー。
何かと話題に事欠かず、特にデビュー当初は各メディアが連日彼女についての報道を行っていた――その一番の理由は、彼女が動物のキリンから変異した“怪人”である事だ。
(人類に対する敵意を持たない怪人、ね……)
人類に対する敵意を持たず、重篤な罪を犯していない怪人を“無害怪人”として討伐対象外とする。
……数年前、No.1ヒーローであるオールマイトの後押しもあってようやく成立した制度だ。
しかし、認定されたからと言って、人間同様に自由とはいかない。特定の条件を満たした施設への居住、及び外出時には一定の戦力を保有する者の監督が必要となり、それらの条件からも開放されるには人類に対する一定以上の貢献――例えば、チャーミングジラフのようにA級ヒーローへの昇級、などが必要となる。
キングはちらりと、テレビの前に齧り付く異形の少女を見る。
「うひひっ! ホラホラ、手も足も出ない様子だなァ〜? くひっ、可哀想だから一発打たせてやろう――かかったなアホがァ!!」
NPCにわざと攻撃させ、当身技から始動する複雑なコンボを叩き込むミアの表情はまさに邪悪な怪人といった形相であった。
彼は思わず苦笑いを浮かべる。
(……まあ、多少アレな所があるだけで基本的にいい子なんだけど)
「ふふふ、これで、トドメ、です、のッ!!!!」
NPCの体力を残り僅かまで削った所で彼女の操るキャラクターのカットインが入り、無駄に派手な演出を経て“K.O.”の文字が画面に表示される。ミアはコントローラーを持った手を高々と掲げ、ドヤ顔でガッツポーズを決めた。
その姿は、新聞に掲載されたチャーミングジラフのそれと偶然にも一致していた。状況は全く違うが。
「あ゙ーっ、NPCとやっても虚しいだけですの……」
You Win!の画面を放置したまま、ミアはゴロンと横に寝転ぶ。
「滅茶苦茶楽しんでなかった……? まあいいや、相手しようか?」
そう言って2Pのコントローラーを握ったキングの横で、彼女はカフーと威嚇の声を上げる。
「ゔーっ、キングとやってもボコボコにされるだけでぜんっぜんっ楽しくないので遠慮しますのっ! 私は戦うのが好きなんじゃなくて勝つのが好きなんですのォォッ!!!」
……対戦の度にキングがいじめ過ぎたせいか、彼女はすっかりいじけてしまったらしい。彼は苦笑しながらボタンを操作する。
「オンライン! オンライン対戦はありませんのぉ!?」
「残念、このシリーズには搭載されてない。ゲーセンに行けばアーケードがあるけど……ほら、今日は指二本で相手してあげるから」
そう言って二本の人差し指を立てるキングに、ミアはがばりと身を起こす。その縦に割れた瞳孔にギラギラと光が宿る。
「言ったな! 他の指使ったらその時点で負けだかんな! 負けたほうが今週の便所掃除だかんな! ハッハーッ、今日こそヒイヒイ言わしてやりますのッッ!!!」
――You Win!!
画面内でセクシーポーズを取る女性キャラクターに、ミアの顎が外れんばかりにあんぐりと開かれる。その横では見せつけるようにピンと立てた2つの人差し指を掲げ不敵に笑うキング。
「今週のトイレ掃除、よろしく」
「……もう、二度と格ゲーなんてやりませんの」
パタリとその場に倒れ込み、真っ白になっていじけるミア。
「でもミア氏も結構強いと思うよ、普段通ってるゲーセンなら上から数えたほうが早いんじゃないかな」
「そこに行けねぇなら意味ねーですの……。いいんですの、私はクソ雑魚のウジ虫ですの、敗者には便所掃除がお似合いですの」
(そこまでいじけなくても……)
指先でイジイジと床に“の”の字を書きなぐる彼女の耳に、“ピンポーン”というインターホンの音が響く。
「お……来たかな?」
「んあー、なんか頼んでましたの?」
首を傾げるミアの横でキングがむくりと立ち上がり、そそくさと玄関へと向かう。
「どうも」「ありありしたー」
よいしょ、という気合の入った声を上げ巨大なダンボールを引きずるようにして戻ってきた彼にミアは目を大きく見開いた。
「でっか! 一体何を買いましたの?」
「フフ、それは見てのお楽しみだよミア氏」
意味深な笑みを浮かべながらカッターナイフを持ち出し、箱を開封し始めるキングに彼女は怪訝な表情を浮かべていたが、中身が顕になると目をキラキラと輝かせた。
「あ、あのっ、これって……!!」
――ガチャン、という音を立てて広げられたそれは妙に高い位置に座面がある、奇妙な形の車椅子だった。
レッグサポートはなく、座面の下には荷物を固定できるようにか目の細かい筒状のネットの取り付けられた広い空間がある。
左右の駆動輪から前輪の上には不透明な樹脂製のカバーが取り付けられており、横からの視線を遮っている。
手押しハンドルは長く取られ、間には荷物を入れられる籠の様なものが付いており、その底は抜けていた。
「変な注文ばっかりつけるから不思議そうにはされたけど、適当に誤魔化したから多分バレたりはしてないと思う」
「特注、ですの? 私の為に……?」
車椅子として少し妙な構造も、彼女から見ればその用途は容易に想像できた。取り外されたレッグサポートと座面下のネットのある広い空間、背面の底のない籠と目隠しの樹脂製カバー。
……それらは、ミアの長い尻尾を隠す為の空間となっていた。
「ちょっと工夫して、大きめのひざ掛けとか掛ければ人前に出ても簡単にはバレないと思う。ミア氏、ちょっと一回座って――」
どん、と鈍い音とともに、キングがよろめく。その胸元には、感極まった様子のミアがひしっとしがみついていた。
「ありがとうございますのおおおおっ!」
「あわ、あわわわわ!?」
むにゅりという少女の柔らかな感触にキングの頬が紅潮する。
同居生活の中で身につけた自制心を振り切って心拍数が上がり始めた所で、彼の下半身へミアの長い尻尾がぐるぐると巻き付く。
「ぐええっ!? み、ミア氏、締まってる締まってる!」
キング
「ご、ごめんなさいですの。つい、嬉しすぎて私の中のラミアな部分が暴走しましたの……」
「ごほっ。ま、まあ悪気がないのはわかってるからもういいよ」
正座(?)でしゅん、とうつむくミアにキングは苦笑を返す。
「でも、オーダーメイドの車椅子って、よく知らないけどすごく高いんじゃありませんの? その……」
もじもじとしながら、彼女は少々気まずそうに言う。
「養ってもらってる私が言うのもなんだけど、キングが働いてるところを見たことありませんの。お金は大丈夫ですの?」
「……た、確かに働いてはいないけども。その点には心配いらない」
悪気なく言ったであろう気遣いの言葉がブッ刺さった彼は、よろよろとした足取りでタンスに向かい、通帳を取り出してきた。
「ええと? いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん、せ、せんまん、い、いちちち……!?」
目の前に突き出されたそれをまじまじと見て、ミアは目を¥マークに変えたまま石になった。
「この通り、お金の心配はしなくていい」
ドヤ顔で言い放つキングの顔を、彼女は油の切れたロボットのような緩慢な動作で見上げた。
「……つかぬことをお聞きしますの。なんでこんなアパートに?」
「ミア氏、お金というのは、使えば使うだけ減るんだよ。そして使う事に慣れてしまうと、感覚は簡単には戻せない」
やれやれと肩を竦める彼に、ミアの頭上に疑問符が浮かぶ。
「……稼げばいいのでは?」
「労働に馴染めなくて……」
「その……投資とか?」
「買った株が三回連続で翌日紙切れになった話する?」
「うわあ……」
そんなやり取りの果てにタンスへ通帳を戻すキング。
「……あれ? じゃあこのお金どうやって稼いだんですの?」
宝くじなんて当たりそうもないですの、と彼の運の悪さを察した言葉を口から漏らすミアに対して、彼は口元に笑みを浮かべた。
「……四年に一度、世界中で最も強いファイターを決める祭典が開かれている。そしてその大会には、当然賞金も出るんだよ」
謎のオーラを背負い不敵に笑うキングに対して、彼女はゴクリと生唾を飲んだ。
「つ、つまり……キングはその大会で……?」
「ああ、四度優勝している」
ピシャーンと雷に打たれたような表情をするミア。
(只者じゃないとは思ってたけど……世界最強だったとは……!!)
この男のヒモになって良かったと、彼女は自らの幸運に感謝し。
「さて、ミア氏も外出できるようになった事だし。今日は俺の闘いぶりを見せてあげようかな……行きたがってたでしょ、ゲーセン」
「…………えっ??」
そして直後に発せられた男の言葉に、彼女は心底困惑した。
・邪神ちゃんの転生者(ミア)
ヒモ生活満喫中!メシの顔ノルマ達成!
そうめんってその夏の最初に食べる時は滅茶苦茶美味しく感じるけど、親戚から大量に送られてきて毎日食べてると途中からだんだん憎らしく見えてきますの……(遠い目)
感極まると内なるラミアの本能で相手に巻き付いてしまうらしい。
・ミアちゃん専用車椅子
キングさんが特注した謎の変更点が多数ある手押し式車椅子。
尻尾を座面の下から背面の籠にかけて収納できるようになっており、膝のあたりにも毛布が風等で外れないような仕組みとかがされている。
そのせいで電動車椅子くらいゴツいけど手押し式。
・キングさん
格ゲー4回連続世界王者(すごい)
13歳から4連覇しており、29歳となる今年、5回目の大会を目前にしている(フラグ)可愛い同居人を自慢しに地元のゲーセンへ(ずるい)
指二本でそれなりに格ゲーできるミアちゃんに勝てる(やばい)
・ONEちゃんねる
この世界で一番スタンダードな匿名掲示板、2chあらため5ch相当。
探せばジラちゃんのお宝写真や動画が普通に飛び交ってる。
画像も貼らずにスレ立てとな?(麻呂)
ONEPUNchにしようかと思ったけど流石にやめた。
次回は『ゲーミング邪神ちゃん!』をお送りしますの!(嘘)