【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】   作:Nyarlan

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怪人娘のいる生活-3 - 後編

 その日、ゲームセンターはざわめきと怨嗟に包まれていた。

 

 大型の車椅子を押すキングと、その車椅子の上でガチガチに緊張した様子のミアに多数の視線が突き刺さる。

 

「KINGが女の子を連れている!?」「メチャかわいい……クッソ、あの野郎見せ付けに来たのかよ!」「仲間だと思ってたのに……」

「なんてこった、狙ってたのに!」「え、お前あの車椅子の子知ってるの?」「……なんで?」「えっ?」「えっ?」

 

 人々の視線が集中する環境にミアは心臓がどきどきとして気が気ではなかったが、幸いにもその視線の大半は彼女の顔面へと注がれており、完璧に隠した蛇の尾に気づかれる気配は皆無だ。

 

「ミア氏」

ひゃいっ!?

 

 人々の視線に緊張していたミアは、急に頭上から降ってきた声に心臓が飛び跳ねた。

 声の主、キングは特に気にした様子もなく、ゲームセンターの中をぐるりと見渡している。

 

「このゲーセンは結構有名な場所だから、そこそこ強いプレイヤーも来るんだよね。ミア氏ならかなりいい勝負できると思うよ」

 

 そんなミアの緊張を知ってか知らずか、彼は声を弾ませた様子でそう言った。彼女がおずおずと見上げると、キングの表情は普段と比べても明らかに柔らかい。

 ミアが普段との雰囲気の違いに戸惑う中、体格のいい男が瓶底眼鏡を左手で持ち上げながら近づいてくる。

 

「キ、KING殿! そちらのお連れさんは一体……?」

「や、ジュウジ氏、こちらはミア氏。最近できた友人で、ゲームセンターに行ってみたいって言うから連れてきたんだ」

 

 そんな風に自然体で話すキングの姿に、彼女は思わず目を剥く。

 男――ジュウジはミアへ向き直り、手を差し伸べてくる。

 

「ご友人か! 俺はジュウジ、どうぞよしなに!」

「あ、はい、ミアですの。よろしくですの……?」

 

 ミアがおずおずと握手に応じると、彼はニコリと笑ってキングへと向き直ってしまう。思いの外あっさりした反応であった。

 

「……あれ、そういえばジュウジ氏は今日オフなんだ? いつもと違う時間帯に居るけど」

「ああ、昨日相方が捻挫してな、治るまでは休む事にした。幸い、週一のノルマにも問題はない。……所でKING殿! 今年の大会で使われる“SMASH OF HEROES”の鍛錬の方は?」

 

 そう言って、彼はアーケード格闘ゲームコーナーにずらりと並べられた真新しい筐体へ視線を向けた。

 

「とりあえずは一通りのキャラを試して大体の傾向は掴めたかな。完全新作だけにスタートは皆横並びだし、まだ家庭用も出てないからもっと通い詰めないとね」

 

 筐体は濃い青字に赤と白のラインが入ったデザインで、画風の違う笑顔の筋骨隆々の大男が拳を掲げる絵が添えられている。

 

「しかし、ヒーロー協会も面白いプロモーションをしたもんだな。ゲームバランスも中々いいみたいで、評判も中々。出演オファーが来るのはA級以上だけなのが悔しいが、俺もいつかは……ちなみにKING殿の持ちキャラは、やはり“ジラちゃん”?」

「うーん……確かに、キャラデザ的にもマフラーを使ったアクションも使い応えがあってすごく、すごく好みなんだけど……」

 

 そう言って彼は筐体を見つめ、口元を綻ばせた。

 

「このゲームで俺が使うなら、やっぱり“オールマイト”かなぁ」

 

 その言葉にジュウジは分厚い眼鏡を押し上げ、キングの左目周辺に刻まれた三筋の古傷に視線をやった。

 

「……ふーむ、なるほどそう来たか。オールマイトは癖もなく扱いやすい、苦手なキャラも特にいない正にオールマイティな性能。王道故に使用者の力量が如実に反映される良いキャラだ」

 

 彼はウンウンと頷くと、再びミアを見る。

 

「さて、ミア殿!」

「は、はいですの」

 

 いきなり声をかけられて少々肩を震わせた彼女に、ジュウジは少し声量を落としつつ尋ねる。

 

「ゲー厶に興味があるとの事だけど、何がお好きで?」

「え、ええと、一応、格ゲーを少々……キングにいつもボコボコにされてちょっと自信喪失中ですの」

 

 そう言って恨みがましい目を向けられてもキングはどこ吹く風とおもむろにSMASH OF HEROESの空いた座席へと座った。

 

「ふふ、KING殿は初心者相手でも容赦ないからなぁ。ところで機種は……なるほど、それじゃああとで対戦しようか」

「えーっと、お手柔らかにお願いしますの」

 

 そんな風なやり取りの横でキングはスティックを操作してキャラクターの選択を行い、やがて画面が切り替わった。

 画面には青を基調としたコスチュームの巨漢、1Pの“オールマイト”と白を基調とした細身の男性、2Pの“閃光のフラッシュ”が対峙している。

 

 『READY, FIGHT!』という女性の声の後、ゴングのSEが鳴り響くとほぼ同時に“閃光のフラッシュ”が動いた。

 高速移動技で近接して来た対戦相手による上段・中段・下段と織り交ぜられた切れ間のない攻撃を、キングはその予備動作を見極め正確にガードし続ける。

 そうしてコンボのループ部分に発生する僅かな硬直を突き、彼の操る“オールマイト”は反撃を開始する。

 発生の早い足払いで怯ませコンボへと持ち込む。補正切りを交えたパワフルなコンボによって瞬く間に“閃光のフラッシュ”の体力は削り取られ、“K.O.”の声とともに1R目が終了した。

 

 続けて始まった第二ラウンドでは先程は防いでいた開幕の攻撃を無敵判定付きの技で切り返し、そのままコンボへと移行する。

 

「芸がないな」

 

 再び――今度はコマンドが複雑で画面映えする技を含めた、いわゆる“魅せコンボ”によって2Pをタコ殴りにしてゆき……そして、相手のHPが残り僅かとなった所で画面に“オールマイト”が大写しとなり、派手なアニメーションを伴う一撃必殺技が炸裂した。

 そんなデジャヴを感じる光景に、ミアは顔をしかめる。

 

うげーっ、昨日やられたヤツですの……わッざわざ長ったらしい魅せコンしてギリギリまで削ってから一撃技とか、やられてる側はメチャクチャ不愉快ですの……って、あれ?」

 

 画面内で“オールマイト”が勝利セリフを喋る中、周囲を取り囲んでいた人垣から聞こえてきた感嘆の声にミアは目を剥く。

 

ひえっ、いつの間にか囲まれてますの!?」

「ん、ああ、KING殿は大会四連覇中のレジェンド級チャンピオンだからな、プレイ中はいつもこんな感じだ……っと、長くなりそうだしミア殿の好きな機種で遊んでみるか?」

 

 次の挑戦者を相手に(じゅうりん)し始めたキングを見て少し悩んだ後、彼女はこくりと頷いた。

 

「……キングの無双する光景はもう見飽きてるし、せっかくゲーセンに来れたんだから私も遊びたいですの」

「それじゃあ、ミア殿が遊び慣れてるやつをプレイしてみようか。大丈夫、KING殿みたいにできる人はほぼいないから」

「ほんとに……?」

 

 

「――っしゃあッ!! また、また勝ちましたのッ!! ほぉれ見たか、私が弱いんじゃなくてキングが異常なだけでしたのッ!!」

 

(((うわあ……)))

 

「ふーっ、満足しましたの。やっぱり勝負事は勝ってこそですの」

 

 端正な顔を喜悦に歪め、拳を振り上げるミアの姿にチャンピオンの女(仮)の腕前を見ようと集まったゲーマーたちはドン引きする。

 

「四人抜き……ミア殿、強かったんだな。最初は手加減しようかと思ったけど普通に負けたし(よっぽどフラストレーション溜まってたんだな……ちょっといじめ過ぎじゃないかKING殿)」

 

 初戦にて激闘の末3R目で敗北したジュウジが顔を引き攣らせる中、ミアはスッキリと晴れやかな表情を浮かべる。

 満足した彼女がジュウジと席を交代したその時、“SMASH OF HEROES”の筐体付近から歓声が上がる。

 

「ありり? あっちで何かありましたの?」

 

 ミアが車椅子の車輪を回して戻ると、そこでは今までになく真剣な表情でプレイしているキングの姿がある。

 画面内ではキングが操る“オールマイト”と対戦相手が操る武術家らしき“シルバーファング”が熾烈な戦いを繰り広げていた。

 そして、彼女は画面の上部を見て目を剥いた。

 

なっ、キングが1R取られてますの!?」

 

 ラウンドは3R目にもつれ込んでいる――つまり、あのキングが1R相手に取られている。

 “手加減してあげる”などとのたまった時ですら1Rのお情けも掛けてくれなかった(序盤無抵抗を貫き、トドメを刺そうとした瞬間から逆転、ミアは泣いた)のにと彼女は驚愕する。

 

 ひょっとして負けるのでは? いっそ負けろ、と彼女が心の中で呪詛を吐いたものの、キングは3R目を危なげなく勝利する。

 ミアは密かに舌打ちをした。

 

「ふー、ちょっとだけ危なかったよ。腕は落ちてないね、JOJO氏」

 

 勝負を終えると、彼は立ち上がって対戦相手に語りかける。

 

「……むしろ、()()()()()()のに“ちょっとだけ危なかった”で済まされるのもいっそ清々しいな」

 

 対戦相手もキングやジュウジと同じく、この場に似つかわしくない程の体格の良い男だった。

 

「JOJO氏は仕事ようやく落ち着いたんだ? 何年か前に“仕事が忙しくなるから落ち着くまでは来れない”って聞いて以来ホントに姿を見なかったけど」

「ああ……と言っても、その成果が実るか否かはまだ()()()が来るまでは分からねぇ。ともかく、作業はひとまず終わりだ」

 

 そう言って大きくため息をつくと、JOJOと呼ばれた男はキングのすぐ側に寄ってきたミアの姿に気付く。

 

「そちらの方もお知り合いですの?」

「ん? ああミア氏、こちらはJOJO氏だよ。昔はよく遊びに来てたんだけど、最近仕事が忙しかったみたいで久しぶりに会ったんだ」

 

 そんな風に紹介された彼女はJOJOの方へ顔を向け、その眼光に思わず「ぴっ」と悲鳴を上げた。

 とっさに車輪を動かし彼の陰に隠れた彼女の反応にキングは少し笑い、JOJOは少し傷付いた顔をする。

 

「はは、JOJO氏は顔怖いけど面白い人だから大丈夫。俺も初対面の時はちょっとびびったけど。JOJO氏、こっちは友人のミア氏」

(顔が怖いとかこの人もキングにだけは言われたくないと思いますの。というか、この顔なんかどっかで見た事あるよーな……?)

 

 怪訝そうな顔で首を傾げるミアに、男は少し考えるような仕草をしていたが、やがて大きな体を屈めて彼女と視線を合わせる。

 

「学ラン姿じゃないが、ジョウタロウだ。よろしく頼む」

「学ラン……? ええと、ミアですの。よ、よろしく?」

 

 そう言って伸ばされた握手にミアが応じると、どういう訳かジョウタロウは眉を寄せ、更に考え込むように顎に手を当てる。

 

「な、何か気になる事でも……?」

「……いいや、何でもない。少し用事を思い出した、久しぶりに対戦を堪能したいところだったがそろそろ帰るぜ」

「そうなのか? JOJO氏との対戦は中々歯ごたえがあるから練習に付き合って貰いたかったんだけど……まあ、仕事が落ち着いたならまた機会はあるな」

 

 ジョウタロウは少し残念そうなキングに対し軽く手を上げて挨拶すると、ちらりとミアに一瞥してからその場を去っていった。

 

「な、なんだったんだろ……」

「さあ……? とりあえずミア氏、うちには無いSOH(スマッシュオブヒーローズ)で対戦してみる?」

 

 そんな提案とともに両手人差し指を差し出すキングにミアは顔をしかめ、べーっと舌を出した。

 

絶ッッッ対に嫌ですのっ!

 

 そんな彼女の反応に、彼は少し考えて左腕を持ち上げた。

 

「ふーむ……じゃあ今回は片手で相手してあげようか」

 

「……言ったな!! 流石に片手じゃどうしようもねーだろ!! 負けた方が一週間風呂掃除だかんなッ!!!」

 

 

 

 ゲームセンターからの帰り道、ミアは押す車椅子の上でぶんむくれた表情で押し黙っていた。

 

「ミア氏、そろそろ機嫌直った?」

 

 車椅子を押すキングが前のめりに顔をのぞき込ませると、彼女はぷいと顔を反らして答える。ご機嫌斜めであった。

 

「ちゃんと約束通り片手でやったじゃないか」

 

 やれやれ、と肩をすくめる彼をミアはぐぬぬと睨んだ。

 

「ぬぐぐっ、片手であの動きはおかしすぎるだろ……てか、たまには負けてくれてもいいじゃないですの!」

「ギリギリまでハンデ与えるのは構わないけど、わざと負けるのは性に合わないし……」

「ギリギリの状況を当然のように覆されると普通に負けるよりエグいダメージになりますのっ! キングとは二度と対戦しない!」

 

 そう言ってぷりぷり怒り狂う彼女にキングは苦笑を浮かべ、ふと視線の先に一台のキッチンカーが停まっているのを見つける。

 

「あ、ほらミア氏! ソフトクリームだってさ、食べる?」

 

 のぼりに大きく描かれた白と茶色の氷菓を指差すキング。

 

「またそうやって誤魔化して! 私がそんなのに釣られ……」

「え、ミア氏はいらないの?」

 

「………………」

 

 百面相を浮かべて葛藤するミアを眺めながら、キングはゆっくりと車椅子の方向をキッチンカーから逸らす。と。

 

た、食べりゅうううう……っ!

 

 彼女は顔をクシャクシャにして声を絞り出した。

 暑い夏の帰り道、ソフトクリームの冷たさと甘さに蕩けて機嫌を直したミアであった。




ジョウタロウ「金髪碧眼、車椅子、ですの口調もなりきりだとして……駄目だ思いつかん。そもそも転生者じゃあないのか?」
※車椅子は偽装である

・SMASH OF HEROES
ヒーロー協会完全監修のプロモーションゲーム。
A級とS級の中で同意が得られたヒーローのみプレイアブルキャラとして登録されており、一部のヒーローはこれへの出演をモチベーションにランク上げの意欲を増しているとか。
(ジラちゃんを除く)怪人はストーリーモードの敵オンリー。
とあるA級1位からとあるS級1位キャラの仕様についてものすごく“意見”が殺到し、一定以上の刺激を受けると壊れる拘束具を付けている手加減設定やら敗北モーションのダウン演出の削除やらと制作の手を煩わせたらしい。
勝利演出では勝ったキャラから対戦相手へのコメントをランダムで数種表示する仕様となっており、それを目当てに自宅へ筐体を設置したA級1位ヒーローがいるとかいないとか。

・キングさん
ゲーセンでは普段以上にイキイキする男。
プレイヤーネームとしてはKINGで通っている。格ゲー界においては無敵のチャンピオンとして知られており、彼との対戦をしたいがため遠くの市からゲーマーが来る事も。
可愛い同居人をゲーセンの連中に見せびらかして浴びた嫉妬の視線に密かにご満悦。

・邪神ちゃんの転生者(ミア)
食べ物で釣られるとめちゃくちゃチョロい怪人娘。あの後もちょくちょくキングとの対戦に応じてはボコボコにされている。
“ジョジョの奇妙な冒険”に関しては原作やアニメを直接見たりはしていないものの、一応一般教養として知ってはいた。……が、怪人の群れにいた頃の強いストレスで前世の記憶が強く摩耗しているらしく、ジョウタロウに気づくことはなかった。
一週間きっちりと風呂&トイレ掃除をさせられたが、それ以外の分担はキングが手伝ってくれたらしい。
なお、風呂掃除発言でゲーセンにいた周囲の人間は色々察した。

・空条承太郎の転生者
格ゲー好きで以前はそこそこゲーセンに通ってたキングのゲーセン仲間の内のひとり。
以前からキングとは顔見知りだったが、キングを原作キャラ(キング)だと認識したのはつい最近のこと。
キング相手にあまりにも勝てなさ過ぎてて意地になってスタープラチナの補佐を付けて対戦を行うようになったが、そこまでしてなお1Rを取るのが精一杯。
キングと親しげなミアを新手の転生者かと疑ったが、色々言って反応を伺っても反応が悪いので勘違いかと思いつつも報告は上げた。

・ジュウジ
キングのゲーセン仲間のひとり。
普段は忙しい本業の合間を縫うように来ているが、相方の負傷で休業中だから朝からゲーセン。
村田版の単行本描き下ろしで登場したとあるヒーロー。
本名やオフの格好(瓶底メガネ)等は捏造した。


SMASH OF HEROESはあの世界におけるNOBODY KNOWS的な……?
キングが“鉄仮面”を使えば世紀末バスケができるかもしれない
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