【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】 作:Nyarlan
『うーん、シェアワールドのキャラクターねえ』
「駄目でしょうか?」
『駄目ではないが、定まった姿のないキャラクターとなると……』
目の前の「自称・神」は何やら私の返答に難色を示しているらしく、腕を組んでしきりに唸っていた。
『……この転生で君に与えられるのは希望するキャラクターの姿と素質、原作と同じような成長ができる
「固定されたイメージを持たない“ブライト博士”という登場人物を識別する記号にSCP-963・不死の首飾りは必要不可欠、と」
私の言葉に、男とも女ともつかない人影は大仰に頷いてみせた。
……まあオランウータンという特徴的な姿があるものの、それが全てでもないしそれに固定されても困る。
『……その通り。今まで送り出して来た者たち……例えばFateシリーズのサーヴァントを選択した者にも宝具は与えていない。特殊能力や技能に関しても、後天的要素が強いものは自ら努力して習得してもらう必要があるんだ』
……それはある意味詐欺ではなかろうか。例えば英雄王を選んだテンプレじみた転生者がいたとして、期待した無数の宝具どころか、それを収める
『――しかしだ、顔も知れぬ“ブライト博士”として君を転生させたところで、不死の首飾りがなければジャック・ブライトと言う名を持っただけの人間にしかなれまい』
それではつまらないだろう、と目の前の人影はため息をつく。
素直に他のキャラクターを選ぶべきかと思考を巡らせ始めた所で、自称・神は口元を歪めて笑った。
『……だから、特別だ。君の人生の中で必ず“不死の首飾り”に触れる機会が来るよう調節しておく。その機能に制限は掛けさせてもらうがね』
「いいんですか?」
『なに、構わんよ。一人くらいは
そう言って自称・神が私の頭に手をかざすと、急速に意識が失われていった。
これが、私がブライト博士となる以前の最後の記憶だ。
※※※
「はは、ドッキリ成功、といったところかな」「SCPについて知っているなら、予測はできなくもないだろうが」
シゲオの目の前で二人に増えた女性……ブライト博士たちは心底愉快そうに笑い合っている。
「えー、オホン。改めて紹介しよう、こちらはこの研究所の所長であるブライト博士だ……見ての通り沢山いるけれど――」
「精神は一つ、という訳だ。ちなみにこの肉体は対外的に姉妹という設定で運用しているものでね」「見栄えがいいから他所のお偉い様の接待によく使うのさ」
「……設定、ですか?」
説明しようとするオールマイトの口元に手を当てて遮りながら交互に喋り始めた二人のブライト博士。その様子に胡乱気な視線を向けるシゲオに対し、彼女らはニヤリと笑った。
「おっと、なにやら誤解しているらしいが」「別に、どこぞから姉妹を攫ってきて残機にしている訳じゃないよ」「そんな事をすれば、いくら大切な
左右から淀みなくひとつなぎの言葉が発せられるので、シゲオは奇妙なステレオスピーカーを相手にしているような気分になる。
「ええと、つまりはどういうことですか?」
「答えは簡単」「クローンさ」「当然、私自身のね」
「……え、クローン? 本来のブライト博士は男性では……」
「その通り」
シゲオの言葉に答えたのは、聞き覚えの無い年老いた男性の声だった。驚いた彼が振り返ると、いつの間にか一台の車椅子が背後に迫っていた。
「……電動なんだから自分で来れるでしょうに、なんで私が」
「まあそう言うなジーナス君、新入りに対する大切な顔合わせさ」
車椅子を押してきた眼鏡の男――ジーナスの姿を見て、シゲオはあんぐりと口を開ける。
そんな様子を、車椅子の老人は心底愉快そうな笑みを浮かべた。
「ふふ、期待通りの反応ありがとう……紹介しよう、こちらはジーナス君。遺伝子研究のスペシャリストであり、私のクローンの調整もやってくれている」
「……念の為に言っておくが、自らのクローンをわざわざ女性体で作るような変態的発想は先生独自のモノだから、そこは勘違いしないで欲しいかな」
不服そうに口元を歪めるジーナスを気にも留めず、姉妹のブライトは車椅子の左右に陣取り、片割れが首から外した豪華な首飾りを老人の首へと掛けた。
「そして、私こそが現在のブライトの元締めであり」「我々ブライトクローンの第一号さ」「ちなみに設定上は姉妹の祖父となっている」
「……ええと、ちょっと頭の整理がしたいんですが」
立て続けに説明された事柄にシゲオは目を回すような気分だった。混乱した様子の彼に対して、老人のブライト博士は首飾りを手で弄びながら胡散臭さの溢れる満面の笑みを浮かべる。
左右の姉妹も同じ表情をしており、性別も年齢も違おうと同じ人物が素体になった事を感じさせた。
「……さてジーナス君、忙しいのに呼び付けて済まなかったね」「彼への
「先生の悪ふざけにこれ以上付き合う暇はありません。これから実験があるのでね」
車椅子から手を離したジーナスは、通り過ぎる際にシゲオの肩を軽く叩き「先生のやる事にまともに取り合うと胃に穴が開くぞ」と耳打ちして去っていった。その背中をぼんやりと見送っていた彼に対して、ブライトたちが言う。
「ふふ、驚いたろう? “進化の家”を作る筈だったジーナス博士はこの通り
(……実はここが最大規模の悪の組織なんじゃ?)
自慢げに語る三人のブライトにシゲオはそんな感想を抱いた。
「……とりあえず、その喋り方なんとかなりません?」
「おっと失礼。当然、こうして独立して喋ることも普通に出来るとも……しかし、演出としてはこちらのほうが良かろう?」
(演出なんだ……)
一つの返答をわざわざ分担して行う彼らに、シゲオは早くも辟易としていた。慣れているであろうオールマイトもまた同様らしく、うんざりとした様子の二人にブライト達は満足そうに笑う。
「……さてと、新たな仲間も十分に堪能できた所でこの老いぼれた体は休ませるとするよ」「こちらの姉妹はいつも通り所長室に控えておくから」「用事があればそちらに訪ねてくるといい。ではごきげんよう」
「あ、はい……」
口々にそう言うと、ブライトたちは軽く会釈をして二人に背を向け移動を始める。何を思ったか、姉妹の片割れが最後に振り返って投げキッスを残して、三人の姿は自動ドアの先へ消えていった。
自動ドアが閉まると、残された二人は深くため息をつく。
「……嵐のような人でしたね」
「あの人はいつもあの調子でね……ぶっちゃけ私も苦手!」
あんなのでも悪い人じゃないんだけどね、とフォローを入れつつもどことなく筋肉を萎えさせて肩を落とすオールマイト。
「せっかくだし、守衛室の子と挨拶してから出ようかな。彼女も楽しみにしていたようだしね」
「はい……他の
守衛室に向けて歩き出したオールマイトについて行きながら、シゲオは少し疲れたような声で訪ねる。
「ブライト博士は
※
「特徴的なオカッパ頭、気だるそうな表情……何より超能力を使う。アナタがなんの転生者なのか、このアミメキリンにはお見通しよ! アナタは、“モブ”ね!」
「……気は済んだ?」
ズビシッ、とシゲオを指差して得意げな表情をする少女に対し、オールマイトは苦笑を浮かべた。
ちなみにこの世界では人名に漢字を使う習慣はないため、モブというあだ名の由来を知る事ができるのは転生者だけである。
「はいっ! 久しぶりなので!」
「……それ、みんなにやってるんですか?」
「もちろん! 何を隠そう、このやり取りが好きだからこそわたしはアミメキリンを選んだんですっ!」
(一発屋にもほどがある……)
ふんすふんすと鼻息を荒くしながら心底楽しそうにそう語っているのは、室内にもかかわらず黄と茶色の網目模様が特徴的な長いマフラーを巻いた背の高い少女だ。
頭からは先端に毛の生えた角と白い獣耳が生えており、彼女の感情を示すようにピクピクと動いていた。
「では改めまして自己紹介させていただきます! わたしは“けものフレンズ”よりアミメキリンのフレンズとして転生した者です、どうぞ気軽にジラちゃんと呼んでください!」
「ど、どうもよろしく……」
力強い握手に体ごと持っていかれそうになりつつ応じた彼は、間近に迫る美少女の満面のニコニコ笑顔に思わず顔を赤らめた。
「ええと、ジラさんもここの職員なんですか?」
手を解放された彼は、照れを誤魔化すように質問をする。
「職員っちゃ職員かな、私と同じくヒーローと兼業ではあるが。公認された組織ではあるけど、転生者関連やらブライト博士達やらあまり表沙汰にできないものが多いからね。食堂や雑務、警備等も外注せず基本的に身内の持ち回りでやってるんだ」
一応
「警戒するのは得意ですし、睡眠時間もあまりいらないので警備は大得意なんです! 万一のときの腕っぷしにも自信ありますし!」
グッと力こぶを作ってみせるジラに、シゲオは微笑ましい気分になった。それを見て、オールマイトはニヤリと笑う。
「見た目は可憐だが、こう見えて彼女は研究所でも屈指の戦力なんだぞ、災害レベル:虎……それも鬼一歩手前のくくりだからね」
「災害レベル……ひょっとして、ジラさんは怪人扱いなんですか?」
災害レベル、という言葉にシゲオはギョッとする。オールマイトはその問いに頷いて肯定した。
「元々ジラ少女はA市動物公園で生まれた、ごく普通のアミメキリンなのさ。展示開始の初日に降ってきた流れ星が直撃して
オールマイトの補足に、対し彼は思わず目の前の少女をまじまじと見てしまう。それに対してジラはなぜかエヘンと豊満な胸を張る。
「一口に怪人と言っても、様々なパターンがある。ヒトや生物から変異したもの、深海族や地底人などの異種族、現象の具現化など。人類に対して敵対的な者が多いのは確かだが、そうでない者もいる」
彼女のようにね、とオールマイトはジラへ優しく微笑みかける。
「……しかし、その性質など関係なしに街中に現れた人外の生物というだけで怪人として排されてしまうのがこの世界なんだ」
「とても珍しい例外だから仕方のない事ではあるけれど」と彼は深くため息をついて守衛室のモニターを見上げる。
「そこで私がS級一位の地位とコネを利用してようやく築いたのが“無害怪人認定制度”であり、この研究所なんだよ」
「“無害怪人認定制度”……?」
聞き慣れない単語に、シゲオは首を傾げる。
「残念ながら未だに中々周知されてないけどね。重篤な罪を犯しておらず、人類に対する敵意を持たない事を入念に確認した上で特定の怪人を討伐対象から外す事ができるのさ」
シゲオがオールマイトが指差した守衛室のモニタに目をやると、アリの頭をした幼児が椅子に腰掛けて本を読んでいる姿が見えた。――明らかに人ではなく、怪人だ。
「……これまで運良く保護できた怪人は、ジラ少女を除いて殆どが権力者の身内だけなんだ。怪人の保護なんて掲げてると反発も多いが、そういった権力者の後ろ盾や資金援助があってなんとか成り立っているのさ」
「市井で現れた怪人は、保護される前に倒されちゃいますからね……。あと、ここでは怪人化した人を元に戻す研究をしています。わたしやオールマイトも協力してるけど、まだ成果は出てなくて……」
そう言って彼女は物憂げな表情でモニターに映る子供を見つめる。耳の伏せられた頭をオールマイトの大きい手が撫で付けた。
「なあに、ウチには原作でも破格の技術力を誇る博士二人に加えてあのブライト博士まで居るんだ。きっと彼女たちが救われる日も来るさ」
わしわしと頭が揺れる程に撫で付けられる彼女の姿を見て、まるで親子のようだとシゲオは感じた。
「……そうですね。あ、そうだシゲオさん、あの子はとってもいい子なんですよ。もしよければ次に来た時は一緒に遊んでくれると嬉しいです!」
笑顔でそう語る彼女に、シゲオは笑顔で頷いた。
「うん、次来たときは紹介してね」
「はいっ! ……あ、ところでお時間は大丈夫なんですか?」
思い出したようにそんなことを言う彼女に、二人が慌てて時計を見ると、研究所を訪れて既にそれなりの時間が経っていた。
「おおっとそうだった! 今日は顔合わせだけとはいえ、あまり遅くなるわけにはいかないからね。そろそろお暇させていただくよ」
「それでは門までお送りしましょう!!」
笑顔で手を振るジラに見送られ、二人は研究所を後にした。
――彼が転生者として記憶を取り戻してはや一年と少し。
シゲオは今まで知らなかった同類たちや、この世界について思いを巡らせると同時に、これから会うであろう超能力の講師――十中八九気難しい相手――について考えるのであった。
・アミメキリン(フレンズ)の転生者
現在判明している中で唯一の怪人枠の転生者、平常時で災害レベル虎上位相当なのでそこそこ強い。
A市の動物園で普通にキリンとして生まれしばらく過ごしたあと、
転生者中のメインキャラ最後の一人になる(はず)。
『ジラ』は動物園で付けられた名前。マグロは別に好物ではない。
・ブライト博士の転生者
原作開始の遥か前から暗躍してジーナス、フケガオという原作序盤の悪役博士をまとめて仲間に引き入れた不死身のやべーやつ&最も精力的に原作ブレイクを行っている転生者。便利屋枠。
基本的に自分のクローンしかブライト化しないが、ジーナスの技術等でクローンを魔改造するのでバリエーションは豊か。
作中で説明すると冗長過ぎたので省いたが、一つの思考で全コピーブライトを動かしている某QBみたいな存在。
他の個体がやっている事、感じていることをリアルタイムに共有してるという
ちなみに本作中に登場するSCPは「不死の首飾り」のみ。
ブライト博士の人事ファイル
http://ja.scp-wiki.net/dr-bright-s-personnel-file
SCP-963 不死の首飾り
http://ja.scp-wiki.net/scp-963
2021/04/23 加筆修正
2021/10/13 こっそり加筆修正