【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】 作:Nyarlan
J市総合病院の一室に、シャリシャリという音が響く。
相部屋内の3つ並んだベッドの上にはスティンガー、イナズマックス、そしてガッツの三人が横たわっていた。
三人ともミイラ男かとばかりに包帯を巻いた重症であり、特にガッツは片腕を切断までしている。
そして現在、スティンガーとイナズマックスは、見舞いに来た人物に対して萎縮していた。
「傷は痛むかい? 一応、治りが早くなるように処置はしたけど、やっぱり専門家のジャギ君じゃないと……ほら、剥けたよ」
「ああ……」
死んだ目のガッツが天井を見上げる横で、二人は目配せし合う。
(なんでオールマイトが見舞いに)
(というか何でガッツにりんご剥いてやってんだ……?)
――オールマイトが甲斐甲斐しく世話を焼いている。
うさぎさんカットがされたりんごを爪楊枝に刺して差し出す彼に、ガッツは引き気味で首を振った。
「いや、あーんはやめてくれ……」
「え、でも両手動かないでしょ?」
((……いやどういう関係!?))
何か見てはいけないものを見てるような気分で冷や汗を垂らしながらも、怖いもの見たさといった様子で耳をそばだてる二人。
そんな中で、ガッツが深くため息をついた。
「……別に、腕の件はアンタが悪く思う必要はないんだぞ」
その言葉に、ピクリとオールマイトが動きを止める。
「だが、私がモタモタせず現場へ向かえていれば、キミの腕は……」
しおしおと自慢の筋肉が萎れたようなオールマイトの姿に、スティンガーとイナズマックスは密かに衝撃を受ける。
「あのアトミック侍が倒せねぇ怪人が暴れてたんだろ、ある意味深海王より深刻な事態じゃねーか。それにオレだって無傷で終えられるなんて楽観視して受けた訳じゃねえ、ある程度は覚悟の上だ」
「しかし……」
「しかしもカカシもねぇよ。とにかく、アンタがウジウジ謝ったって腕は生えて来ねぇんだ、とっとと切り替えてくれや」
ガッツのそんな様子にオールマイトがかける言葉を失っていると、なにやら廊下から騒がしい音が近付いて来る。
「ま、まだ安静にしてなきゃ駄目ですってば!」
「大丈夫です看護師さん、ちょっと彼氏たちの顔を見るだけなんで」
「か、彼――というか何で歩けてるんです、両足折れてますよね!?」
「それはもちろん、“愛”の力だッ!」
ばーんと強い音を立てながら入ってきた巨大な人影に、ガッツとイナズマックスは顔を少し青褪めさせる。
「ガッツちゃん! イナズマックスちゃん! スティンガーちゃん! 怪我は大丈夫かっ!」
青ひげに覆われた割れ顎、彫りの深い顔立ちに、オールマイトにも匹敵する巨体。
はち切れそうな病衣の上に大きなハートのあしらわれたセーターを着た大男――S級ヒーロー・ぷりぷりプリズナーが立っていた。
その腰には必死の形相の看護師がしがみついている。
「病院だから静かにしようよ、ぷりぷりプリズナー君」
フロア内を響き渡る大声に、オールマイトはため息をついた。
「オールマイトちゃんも来てたのか。昨日は助けられたな」
「……うん、ちゃん付けはもう諦めたよ、一回り以上私の方が年上なんだけども。それより、看護師さんが困ってるからちゃんと病室に戻りなさい」
ぷりぷりプリズナーを諌める彼の言葉に、看護師の若い女性も肩で息をしながらブンブンと首を縦に振った。
「はは、どうしてもひと声掛けたくてな。看護師さん、すまないが少しだけ時間をくれないか? そうしたらちゃんと病室に戻るさ」
「ふーっ、ふーっ……ちょっとだけ、ですからね……。どうせ言っても聞かない、ですし……引きずって連れ戻すのも、無理ですし……」
息を整えつつもジト目で見る看護師に彼は笑顔でありがとうと一言いうと、病床の三人に改めて顔を向ける。
「三人とも生きててくれて本当に良かった。S級である俺が負けてしまったせいでしなくてもいい怪我をさせた事は謝らせてくれ」
そう言って頭を下げるぷりぷりプリズナー。イナズマックスとスティンガーが慌てて声を掛けようとすると、彼はぬん☆ と勢い良く顔を上げた。
「……だが、俺はこんな所で終わらない! 俺のステキな男子たちを護るためにも、もっともっと強くなってみせるさ!」
そう言って力こぶを作り、病衣の腕部分を破裂させたぷりぷりプリズナーの姿に看護師が頭痛をこらえるように頭を押さえながら「それ三着目ですよ……」とこぼす。
「ガッツちゃん。左腕の事は残念だったな、俺の彼氏の一人がサイボーグ義腕を使っているんだが、本物に勝るとも劣らないテク……動きをするいい義腕なんだ、良ければ紹介しよう」
想定外の提案にガッツは面食らうが、やがてフッと笑いながら半ばから先が喪われた左腕を軽く持ち上げる。
「……義腕か。一応アテはあるが、もし必要なら頼むわ」
「何だったら新しい腕がつくまで俺が手取り足取り腰取り……」
「それはいらない」
真顔になったガッツに「冗談だ」と笑い、彼は背を向ける。
「そうだ、オールマイトちゃん。また肉体♡交流会を開いてくれないか? 俺のステキな男子たち、彼氏たちを護るためにはもっともっと力が必要だってよく分かったからな」
「……そうだね、バングさんと相談してまた皆と調整してみるよ。あと、名称は“
そんなやり取りを終えるとぷりぷりプリズナーは肩越しに手を上げ、看護師に引っ張られながら病室を出ていく。
「それじゃあ、みんなお大事に。またな、ステキな男子たち!」
「アンタも安静にしてろよ」
四人分の「お大事に」を背中で受け取ってぷりぷりプリズナーが去っていくと、ガッツは大きくため息をつく。
「ああいうのでいいんだよ、ああいうので。アンタは何でもかんでも背負い込みすぎだ、“オールマイト”だって神様じゃないだろ」
「だけど、うん……確かに、そう、かもしれないね」
「まーだ納得行ってねぇみてェだが。まあ、割り切ってくれや、当事者のオレが割り切ってんだからよ。つか、希望の象徴がそんなんじゃ周りが不安になるぜ、さっさと“オールマイト”に戻っちまえや」
力無く笑うガッツの言葉に、彼は大きく目を見開く。数秒の沈黙の後、大きく深呼吸をすると、“オールマイト”は普段通りの力強い笑みへと成っていた。
「……HAHAHA、これは一本取られたね! 私とした事が、“オールマイト”である事を少しばかり忘れていたらしい」
「頼むぜ、希望の象徴さんよ。オレ達も頑張るが、支柱はアンタだ」
迷惑にならない程度の声量で力強く器用に笑う彼にガッツが少しホッとしていると、病室の扉がそろりと開く。
何やら親密なガッツとオールマイトの様子に少しばかり戸惑っていたスティンガーとイナズマックスがそれに気付いて目を剥く。
「「…………えっ!?」」
扉の隙間から覗く特徴的な機械式のうさ耳を戴く端正な顔立ちの女性に二人は見覚えがあった。
オールマイトとぷりぷりプリズナーはまだ理解が及ぶ。どちらも昨日現場へ訪れた当事者だったからだ。しかし。
「良かったぁ……! ガッツくんが生きてるぅ……!」
涙を浮かべながら病室へ入ってきたその女性は――S級ヒーロー・ホワイトナイトはそうではない。
髪はボサボサ肌は荒れ気味、目には隈とやつれ果てた彼女の様子はただ事ではないとスティンガーたちにも一目でわかった。
――そして。
「うお、タバネ!? 作業はいいのかよ、目の隈もやべぇぞそれ」
((な、名前呼び……!?))
驚いた様子で目を見開きながらも当然のように事態を受け入れ、あまつさえ彼女をヒーローネームでは無く名前呼びするガッツに対して二人の疑念は加速する。「コイツマジで何者だ」、と。
「腕っ、腕が……! ごめんねっ、ごめんねっ、あたしが
彼の喪われた左腕を間近で目にしたタバネの涙腺が決壊する。
そんな様子の彼女を前に、オールマイトはオロオロとし、ガッツは困った様子で天を仰ぐ。
「……あー、お前もそういうアレかよ。事前の会議でナイトの配備は無理ってなってただろうが」
「でもっ、警報の後すぐ出せば間に合ったかもしれないんだよ! トシくんが他の案件に釘付けされてるのは研究所も把握してたのに、あたしっ、その時仮眠してて……っ!」
ほろほろととめどなく涙を流すタバネを前に、彼らは揃って困ったように顔を見合わせる。
「それなら尚更しょうがないだろ。というか、作業は大丈夫なのか? 深海王も倒したし期限迫ってるんじゃ」
「……ううん、そっちは大丈夫だよ。更に追加とかは間に合いそうにないし、最後のももう仕上げ段階だからってジョウタロウくんが」
息抜きも兼ねて見舞いに送り出したであろう彼女の助手の姿を思い浮かべつつ、ガッツは苦笑する。
「……そんなら、首飾りのメンテ頼んでいいか? 深海王戦でどっか壊れたかもしれねぇから。それでチャラって事で頼むわ」
「うーっ、分かった。ガッツくんがそれでいいなら……」
そう言って彼の首から取り外した物を見て、スティンガーは密かにあっと声を漏らす。共闘した際に見た魔法少女の変身アイテムの如き首飾りの出処が不意に知れてしまったからだ。
複数のS級ヒーローと親密そうに接し、S級ヒーローの超技術で作られたガジェットを装備する謎のバウンティハンターに、蚊帳の外となった二人の興味が増してゆく。
「……あっ、そうだ! ちょっとこれ見て」
不意に声を上げたタバネが懐から取り出した端末をテーブルに置くと、電子音とともに病室内に立体映像が表示される。
映し出されたビジョンにガッツは目を見開く。
「えーっとぉ、コレが元ネタをイメージした大砲付きの義手でぇ。こっちが火葬砲や焼却砲をイメージしたやつ。で、そしてそして、これがサイコガン! どれがいいっ!?」
メソメソしていた先ほどとは一転し、少し楽しげな様子で次々と詳細な所まで作り込まれたCADによる3Dモデルを表示する彼女に、ガッツは思わず目を白黒とさせる。
「どれがいいって……いや待て待て、まずこれ一晩でできるような設計図じゃねーだろ。どうなってんだ?」
彼が思わずツッコミを入れると、タバネは少しバツが悪そうにモジモジとし始める。
「えっとね、怒らないでね? 前々からいざというときというか、何となくこんな事起こりそうだなーってみんな冗談で言っててね? それでブライト博士とかもノリノリで手伝ってくれて……」
「待って。前々からオレ、腕無くすって思われてたの……?」
唖然として言うガッツに対し、タバネは一瞬フリーズし……誤魔化すようにアセアセと新たな図面を表示する。
「……ほ、ほら! こっちは普段目立たないように普通の腕そっくりなやつもあって、首飾りの機能で戦闘時に付け替えれて――」
呆れを含んだガッツと、苦笑するオールマイト。
そしてひたすら困惑する二人のヒーローを前にプレゼンを続ける彼女であった。
※
「それじゃー、希望通りに義手大砲イメージので作ってくるから 楽しみに待っててねっ! スティンガーくんやイナズマックスくんもお大事にー!」
「私もそろそろ巡回に戻るとするよ。三人とも、しっかり体を休めるんだよ? それじゃあ、お大事にね!」
そう言って揃って出ていくS級ヒーローたちの姿を見送ると、スティンガーとイナズマックスは気が抜けたように脱力する。
「ぷはーっ、緊張した! なんだよS級のバーゲンセールかよ!」
「つーかガッツ、アンタ何者だよ!? 肩お揉みしましょうか!?」
S級ヒーローがいなくなった病室に、A級ヒーローたちのテンションがおかしな事になった笑い声が響き渡る。
「あん? いきなり何だよ、つか鎖骨折れてっからやめろ」
「いやいや、お前どんだけS級に縁あるんだって話よ、ぷりぷりプリズナーはわかるよ、現場で初対面なの聞いてるし」
「そうそう、けどオールマイトとホワイトナイトに関してはめっちゃ親しげだったじゃねーか、どういう関係なんだよ」
「…………あー」
興奮した様子で矢継ぎ早に射掛けられた質問に、ガッツは己の――オールマイトとタバネも含めた失態を悟る。
三人が三人、普段研究所で友人として付き合っているノリをそのまま外に持ち出してしまったのだ。大怪我で動揺していたせいもあるが、あまりにも迂闊だったと彼は悔やむ。今更遅いが。
ガッツはしばし考え込むと、口を開く。
「あー、そうだな……。オレが古臭いバウンティハンター系の組織に属してるのは言っただろ」
彼の言葉に二人はウンウンと頷き、スティンガーが口を開く。
「ああ、ハンターズとかいう、隣の市を拠点にしてるやつだろ?」
彼の言葉を肯定するようにガッツは一つ頷き、言葉を続ける。
「オールマイトに関しては向こうがバウンティハンターやってた時代からの馴染みだな。んで、タバネ――ホワイトナイトの方はオールマイト経由でウチの組織に装備を卸して貰ってる」
それだけだ、と言葉を結んだ彼は「我ながら会心の説明だ」と密かに思う。まず内容に嘘がなく、それでいて核心となる研究所や転生者関連に関しては一切触れていない。
しかし、二人はどうにも納得していない様子だった。
「いや、オールマイトに関してはそれでいいわ」
イナズマックスの言葉に、ガッツは眉をひそめる。二人が顔を見合わせてニヤける姿にどうにも嫌な予感がしたからだ。
「じゃあなんだよ」
「そりゃもう、ホワイトナイトのあの態度よ!」
「あの心配で一睡もできませんでしたって感じの隈と充血した目!」
「化粧どころか髪を
「“良かったぁ、ガッツくんが生きてるぅ!”ってあの潤んだ瞳!」
濁流のように妄言を垂れ流し、くねくねとしながらタバネの口真似までするイナズマックスとスティンガーに、ガッツは白目を剥く。
「これでそんなビジネスライクな関係だって言われても信じられっかよ! 名前で呼び合ってるしさ! なあ!?」
「そうそう、ホントのことをキリキリ話せよ、どんな関係だ?」
隈は長期に渡るデスマーチの結果であり、化粧っ気のなさも髪を整えていないのも、ついでに言えば数日風呂に入っていないのも本人の物ぐさ具合とそれらを惜しんで作業をする日々の結果である。
しかしそれらを説明するわけにもいかず、ガッツは困り果てた。
「あ゙ー。言っとくが別にアイツとはそういう仲じゃねぇ、友人とは呼べる関係かもしれんがそれ以上では断じてねぇよ」
「んん〜? そんな誤魔化しが効くとでもぉ?」
「ンだよそのキャラ……」
ニマニマとする二人に、彼は脳をフル回転させる。
「それにアイツと一番可能性あるとしたら……そうだな、アイツの助手だわ、さっき話に出てきたジョウタロウってやつ」
空想上のジョウタロウが青筋を立て凄む姿を無視しつつ、ガッツはペラペラと話を続けた。
「そいつは生活能力皆無なタバネに対していつも甲斐甲斐しく世話を焼いててな、研究で何日も缶詰めになってるのを見かねて風呂にまで入れてやったりしてるらしいぜ」
嘘ではない。スタープラチナを使って強引に運搬し、沸かした風呂に白衣のまま叩き込む事を風呂に入れると言えるならば。
しかし、そんな事を知らない二人は感心したように妄想を繰り広げている様子であり、ターゲットを逸らす事には成功したとガッツは胸をなでおろす。なお、空想上のジョウタロウは完全にプッツンしてスタープラチナをけしかけてきた。
「はーっ、助手かぁ。そりゃ敵わねぇわな」
「ちなみにガッツ的にはどうなんだ、片思い?」
「ねーよ。見た目がいいのは認めるが、そういう対象じゃねぇわ」
彼はタバネのダイナマイトボディを思い浮かべつつも、どちらかといえば
「ほーん……なんだ、つまんね」
「おまえらなぁ……」
急に関心を失った様子の二人に、ガッツはため息をついた。
そんなとき、再びガラリと病室のドアが開く。
「おっす、暇してっかー。見舞いに来たぜ……あっ」
「腕を失くして黒い剣士に一歩近付いたと聞いたぞ……あっ」
なにやら見舞いの品らしい袋を手にしたガッツにとっては週間ぶりとなる見慣れた顔ぶれは、入ってくるなり固まる。
「おーっ、ハンターズの弓使いと俺のフォロワー槍使いじゃん」
「誰がテメェのフォロワーだ、全然ちげぇわ」
どこか嬉しそうに声を上げたスティンガーにゲンナリとした様子のセタンタと、それを見て笑うシロウの姿がそこにあった。
「よぉ、退院したのか」
ガッツが顔を上げると、シロウは荷物をテーブルにおろして来客用のパイプ椅子を2つ広げる。
「ああ、ちょうどお前とは入れ違いの形になるな」
「ま、ここしばらくは大事を取ってただけでほぼ治ってたからな。お前が入院したって聞いて退院してきたわ」
そう言って、皿に盛り付けられた手付かずのりんご――うさぎさんカットが施された――を無造作に齧るセタンタ。
「ちなみにそのりんご、オールマイトが剥いたやつな」
それを見たガッツがぼそりと言うと、セタンタは思わず吹き出しケラケラと笑い出す。
「ぶはっ! このうさぎカット誰がやったのかと思ったらあいつかよ、似合わねーなおい!」
シロウも横で声を殺してくつくつと笑っており、時折「くふっ」と笑いが漏れている。彼はクールキャラを気取ってはいるが、その実結構なゲラである。
「あーんして来たのは流石に拒否ったわ」
「あっはっは! 絵面やべえだろ!」「〜〜〜ッはははっ!」
そこで追加情報を出しとどめを刺すのが彼らの中では定番である。ひとしきり笑い、同室の二人から「仲いいなこいつら」という視線を貰いつつ、セタンタが切り出す。
「……んで、腕の方はどうよ?」
ガッツは一つため息をつくと、改めて左腕を持ち上げて見せた。
「ああ、見ての通り左前腕中心辺りからブッツリとやられたわ。いっそ運命を感じるねこりゃ」
「じゃあこれからは目とケツに気を付けなきゃな」
冗談めかして言うセタンタに、彼は乾いた笑いを浮かべる。
「やめろ、言っとくがぷりぷりプリズナーがハンターズ諸共に目をつけてたからお前らも他人事じゃねえぞ?」
「「なにそれこわい」」
二人も名を知られていたという追加情報に揃って真顔になる。
「……まあそれはいいとして」「よくないが?」
シロウの言葉を無視して、セタンタは真面目な表情で問う。
「まだ、剣は振れそうか? 失くした左腕の問題だけじゃねえぞ、まだお前は敵と戦えるのか?」
今まで誰も触れて来なかった確信を突く質問に、ガッツは言葉をつまらせる。シロウも黙り込み、病室に沈黙が訪れる。
たっぷり十数秒かけ、ガッツは口を開く。
「噛み千切られた腕の痛みは、まだ脳裏に焼き付いてる。成すすべもなく鷲掴みにされて、全身の骨をバキバキに折られた痛みもだ」
彼は大きくため息をつくと、天井を見上げる。
「……正直、ビビってるさ。世の中にはオレじゃ太刀打ち出来ねぇ化物が山ほど居る。またこんな目に遭わない保証はねぇんだ」
瞑目してそう語るガッツの声は、微かに震えている。腕を失うという経験が、彼の心に浅からぬ傷をつけている事は明白だった。
「それなりに強くはなったつもりだが、天変地異みたいなバケモンに立ち向かえるなんて自惚れてもいない。オレという戦力は必須じゃない……なのになんでオレがこんな痛い目見なきゃいけねぇんだって、強えやつに全部任せときゃいいんじゃないかって、当然思うさ」
そう自嘲するように吐き捨てる彼に、二人は目を伏せた。
実際、彼がこの戦いから降りても責められるようなことは無いだろう、と二人は考えている――そしてその彼らもまた、自身がガッツと同じ立場であると理解していた。
――しかし。
「……だけど、オレは戦いから降りたりしねぇ」
はっきりとそう宣言したガッツに、二人は少し驚いた。
「
そう言って視線を二人に向けると、彼は挑発的な笑みを浮かべる。
「それに――オレはガッツだからな、理由なんてそれ一つで十分お釣りが来るってもんだ。なあ?」
立場を同じくする三人にとって最もわかりやすい理由に、セタンタとシロウは口角を上げて笑う。
「……ククッ、わりい、愚問だった」
「
よし、と膝を打ちセタンタが立ち上がる。
「それじゃあ、俺達は入院中任せてた蛇野郎どもの調査を引き継ぐ。だからお前はとっとと傷を治して義手の扱いに慣れとけや」
「ジャギにでも頼んで早めに復帰してこないと、お前の出る幕がなくなるかもしれんぞ? ……あっ!」
ニヒルな笑みを作っていたシロウは、何かを思い出したようにハッとした様子で、これでもかとばかりにキメ顔を作ると。
「――奴らを調査するのはいいが、別に倒してしまっても構わんのだろう?」
取ってつけたように見事なドヤ顔でそんな事を言うシロウに、ガッツとセタンタは思わず噴き出した。
「思い出したように死亡フラグを立てるなや……それじゃあ、あとの事は頼んだぜ。オレももう少し“らしく”なって合流するからよ」
彼の言葉を背に受けて、二人は病室を後にした。
静かになった病室で大きく吐息を漏らし、ガッツは目を閉じる。
少しばかり熱の入った弁に、傷付いた体は疲労していた。
「なあ」
「……んだよ」
しかし、そんな彼に横から声がかかる。
眠ろうとした矢先の事で、その声は少し不機嫌そうであった。
「怪人絡みで、昔なんかあったのか?」
真面目な声色をかけてきたスティンガーの言葉に、ガッツはしばし黙り込み、やがて深くため息をつく。
「……病室で堂々と話してっからアレだけど、聞き耳立てて他人のプライバシーに踏み込んでくるのはどうかと思うぜ」
「はは、リンゴの剥き方が乙女なスーパーヒーローも言ってるだろ? “余計なお節介はヒーローの本質”ってな!」
「同室のよしみだ。無理にとは言わないけど、話せそうなら話してみろよ、何か力になれる事があるかもしれないし」
二人のそんな言葉に、ガッツは少し考え込み、やがて口を開く。
「……ま、別にこれは隠し事って訳でもねぇし、なにより今は暇を持て余してっからな。言っとくがあんまり愉快な話じゃねぇぞ」
そう言って彼は、記憶を辿るように途切れ途切れながらも話し始めた。
「……あの日から、そろそろ十年になるな。あれは、オレらがまだ呑気に学生やってた頃の話だった」
様々な感情を織り交ぜたような顔で、ガッツはつらつらと思い出を語る。
(人前じゃ平気そうな顔してっけど、オレらの一番引きずってんのは
真っ白な病室へ、彼の声がじわりと染み込んでいった。
他作品でいう組織の幹部級キャラが次々と見舞いに来て驚かれるというなんかすごい主人公ムーブをしてるガッツくん、オールマイトの仮面が剥がれかけてる転生マイトさんにちゃんとオールマイトを遂行しろと圧をかける(酷)