【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】   作:Nyarlan

32 / 47
転生者たちの青春白書
1-二度目の春


 ――時が止まるという感覚がどういう物なのか、その日彼らは身をもって知る事となった。

 

 

 N市にある高校。

 月曜日のホームルームを控えた今の時間は、休みを終えた少年少女たちがお互いに近況を伝え合う、とても賑やかな時間だ。

 

 ――ガラリ。

 

 その喧騒は、教室の引き戸が開かれたその瞬間をもって終わることになる。

 

「……えっ」

 

 “彼”の登校に気付いた誰かが上げた小さな声。

 それは教室中に波及する。先程までの喧騒は、視線が入り口へと集まるにつれて、まるで波を引くようにさっと鎮まってゆく。

 

 ――かつ、かつ。

 

 教室の引き戸を開けて入ってきた少年は、その嫌に響く自分の足音がその身に染みるような錯覚を覚えながら自らの席へ歩いてゆく。

 

 インドア派であるその少年の色白だった肌は今真っ赤に染まっている。

 羞恥によるもの、だけではない。彼はこの田舎町に一軒だけある――いわゆる、日焼けサロンへ休日中に足を運び、慣れない日焼けで肌を痛めたのだ。

 前日の風呂は、それはひどい痛みをともなった事だろう。

 

 さらに少年のトレードマークとも言える赤銅色をした自前の髪は、脱色剤(ブリーチ)によって赤と金による珍妙な()()()()()となっていた。

 目元が隠れる程に伸び放題だった髪型も駅前にある馴染みの床屋で短く整えられており、ワックスによって軽く逆立てられている。

 

 これらだけでも、彼を知るクラスメイトにとってはなかなかにスキャンダラスな出来事であった。

 しかしそれ以上に際立って彼を目立たせているのは――。

 

 彼が近所の古着屋で見つけ出した――さらに言えばこの奇行の原因となった――赤い外套を羽織ってるからだ。

 

 現在の季節は初夏。

 蝉もそろそろ鳴き始めるかと悩む頃だ。

 言葉を選ぶ事を放棄して言うならば、あまりにもクレイジーなイメージチェンジとしか言いようがない。

 

 

 

 この高校の校則は頭の固い田舎の学校には珍しいほどゆるく、服装も髪型も節度を守れば自由にして良い事となっている。のでは、あるのだが。さすがに、こう……。

 

「「「…………………」」」

 

 ――ガラッ。

 椅子を引く音とはこんなにも大きなものだったろうか。

 身を切るような静けさの中、少年はプルプルと小刻みに震えながら着席すると、渾身の勇気を以て口を開く。

 

「……お、おはよう」

「「「お、おはよう……」」」

 

 クラスメイトは、この異常事態にもかかわらず、つい普通に挨拶を返してしまう。

 ――これは弄られねば、逆に辛いやつである。

 「おいおいどしたのその格好?」とか聞いてやるべき状況だが、あまりにもあんまり過ぎて逆に聞けなかったのだ。

 居心地の悪い沈黙が教室を支配し数分が経ったそんな時。

 

 救いの女神は現れた。

 

――ガラッ。

 静まり返った教室内に引き戸の開く音が響き、一人の少女が入ってくる。

 彼女は教室を支配する妙な静けさに首を傾げ――。

 

「おはよー、何かヤケに静かじゃな……ってシロウくんどしたの今になって高校デビュー!? 流石にそれは大胆すぎない!?」

 

 教室に入った少女、ハナは教室最前列に座る少年――シロウの姿に度肝を抜かれて思わず率直なツッコミをぶちかましてくれた。

 凍りついていた時が瞬時に解凍され、教室はゆるやかな笑いに包まれた。

 

「そ、そうだよ、いきなりイメチェンかよ?」

「は、ははっ、好きな人でも出来たのか?」

「へ、へへ、今まで髪も服もすげぇテキトーだったのにな」

 

「い、いやあ、ちょっと覚醒し(めざめ)て、ね……!」

「はは、今になって中二病かよ!」

 

 ――そんな渦中の少年、シロウは今まで比較的目立たない部類の生徒であった。

 別段、クラスで浮いてるだとか仲が悪いだとかはないものの、普段机で一人おとなしく本を読む姿をよく見かけるような少年だ。そんな彼の豹変に、クラスメイトはまさに度肝を抜かれていた。

 

「すっごい気合い入れてるね、何か参考にしたの?」

 

 あまりの変化にどう触れていいものか探り探り接している他のクラスメイトとは違い、一人だけグイグイと距離を詰める少女がいた。

 

「い、いやべつに……」

「そうなの? あー、肌焼いたあとのケアちゃんとしなかったでしょ、あとでやり方教えたげる。髪の色ムラも酷いねぇ」

 

 やや無遠慮な手つきで赤と金の不格好なグラデーションに手を触れるハナに、シロウは日焼けした顔を更に赤らめる。

 

「う、ああ、鏡で見て、ヤバイとは思ったけど、どうすればいいか分からなくて途方に暮れてる……」

「ね、よかったらやったげようか? 自分の髪弄るので慣れてるし。てか、髪切ったのはグッドだよ、せっかくイイ顔してるのに伸び伸びの髪で隠れて勿体無いと思ってたし!」

 

「えっ……あっ、髪は……あの、頼んでいい、か?」

「いいよ、任せてー! あと、服もそれはちょっと――」

 

 そんなやり取りを見ていたクラスメイトたちは「どういう意図があったにせよ結果的には成功だな」と思うと同時に、一部の男子は「顔が良けりゃ珍妙なナリでも女の子に構って貰えるのかよ、カーッ ぺっ!」と僻んだ。

――そして、それらとは別の反応をしている生徒が二人。

 

「シロウ……衛宮、士郎?」

「……こりゃ驚いたな」

 

 

※※※

 

 ホームルーム開始のチャイムと同時にやってきた担任教師に爆笑の後注意され、ようやくシロウは珍妙な赤いコートを脱いだ。

 そんな彼は昼休みにクラスメイトの男子二人からいきなり空き教室へ呼び出され、内心ビクビクしながら応じていた。

 

 相手は普段これといって接点のない野球部員二人。

 クラスどころか校内でも有数の体格の良さを誇る黒髪の男子と、その彼ほどではないが引き締まった筋肉質の体の青髪男子の二人だ。

 特に悪い噂などは聞かないとはいえ、身構えてしまうのも仕方がないと言える。

 

「それでお、私に……話って、話とは、一体なんだね?」

 

 少し声を上ずらせながら彼が尋ねると、二人は吹き出した。

 

「はは、ここに来てキャラ付け優先とか強いなお前! イジメとかじゃねーから安心しろ。ちょっと確認したいことがあるだけだ」

「確認したい、事?」

 

 シロウが首を傾げると、二人は呆れたような顔になる。

 

「あー、オレらの顔や名前になんか覚えはねぇか?」

「特に俺な、俺。俺は分かるだろそんなナリしてんだから」

 

 そんな風に言って何やらキメ顔をする青髪の生徒に、彼の困惑はますます高まるばかりであった。

 

「そりゃ、クラスメイトだから覚えはあるけど」

「「だあーっ!?」」

 

 そんなシロウのすっとぼけた回答に、二人は盛大にズッコケる。

 

前世! 転生! ここまで言やァ、解るだろ!?」

 

 体を起こすや否や痺れを切らしたように黒髪の少年が語気を荒げた。

 初めはクエスチョンマークを浮かべていたシロウの表情が徐々に驚愕に染まる。

 

「転、生……て、転生者? まさか、二人もなのか!?」

 

 そんな反応を返す彼に、二人は同時に深くため息をついた。

 

「やあっと気付いたか……そうだ、お前と同じ転生者だ」

「つっても、俺らはお前の醜態見て思い出したワケだが」

「しゅ、醜態……ッ!!」

 

 落ち込んだ様子のシロウに今朝の光景を思い出したのか、二人はくつくつと笑う。

 

「ま、おめーのお陰で『あ、オレ転生者じゃん!』って興奮して醜態晒すことが避けられた訳だ、一応感謝しとく」

「いやー、俺はあんな思い切った事はしねぇわ流石に。ひとまず、お互いせっかく思い出せたんだ、改めて自己紹介といこうぜ」

 

 そう言うと青髪の少年は近くのロッカーから箒を一本取り出すと、器用にくるくると振り回して見せ、バシッとポーズを決める。

 

「Fate/stay nightの槍ニキことランサーのサーヴァント、クー・フーリンの転生者だ、よろしく。まあ名前は幼名のセタンタだが」

 

 カッコつけてドヤ顔をキめた青髪の少年――セタンタに、黒髪の生徒は呆れたように笑う。

 

「いや、お前も十分やらかしそうじゃんそれ。あ、オレはガッツな、ベルセルクのガッツの転生者だ。よろしく」

 

 呆気に取られていたシロウだったがやがて正気を取戻すと、彼も掃除用具入れから短い箒とチリトリを取り出し両手に構える。

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した」

「いや誰も呼んでねぇし、チリトリはねぇわ」

「そもそもお前先週までの髪色とかからして衛宮士郎だろ」

 

 ドヤ顔を晒した少年は浴びせられたツッコミに撃沈する。

 

「俺、英霊のエミヤを指定したんだけどなぁ……とりあえず格好から入ろうと思って……我ながらやらかした」

「アーチャーも元をたどれば衛宮士郎だしそりゃそうなるわな。とりあえずあのコートはせめて冬まで置いとけ、な?」

「やらかし自覚しつつもキャラ付け貫いてたのは肝据わってるぞお前。……それにしても、やるじゃねえか、ええ? あの後どうなったよ」

 

 そうニヤニヤしながら机に腰掛けたガッツが尋ねると、シロウは途端に顔を赤く染めてもじもじとし始めた。

 

「き、今日放課後に髪色のムラをなんとかしてくれるってハナさんが……ど、どうしよ、おれ女の子と二人きりとか初めてなんだけど!?」

 

 いろんな意味で真っ赤っ赤な顔を手に持ったもので隠しながらシロウが悶える。

 

「お前折角の衛宮士郎フェイスを野暮ったい髪型と服装で台無しにしてたからな、前世が窺い知れるわ。まあ、なるようになるって」

「せっかくだし帰宅部やめて運動部にも入ったらどうだ? 確か弓道部あったしエミヤ目指すなら鍛えろよ、ボディが泣いてるぞ」

 

 二人が口々に言うと、彼は頬を掻いて目を逸らす。

 

「いや、今更になって入るのもちょっと気まずいというか……」

「今のお前ほど図太いやつを他に知らんから大丈夫だろ」

 

 セタンタのツッコミを受けつつ、シロウはため息をつく。

 

「そもそも、よく考えたら戦闘能力鍛えてもなぁって感じ、しないか?」

 

 そんな彼の言葉に、二人は顔を見合わせる。

 

「……まあ、なぁ。前世と違って怪物やら怪人やらが出るって言っても、それは軍や警察が片付けてるし、それ以外は普通に現代って感じだしな」

 

 そう言いつつ、ガッツは太い腕で腕組みをする。

 彼らが持つ前世の記憶の中ではフィクションの中の存在に過ぎなかったような生物がこの世界には存在している。遥か昔に起こった大戦により汚染された世界は異常をきたし数多の災害を呼び、人類の敵となる怪生物を発生させた。

 

 皮肉にも、争いが産んだ未曾有の危機によって人類は一つの共同体として団結し、この大陸へ逃げ込んで防備を固め厄災から身を守ってきた。

 

 ――それが今の世界である。

 かつて人間同士の小競り合いをするために存在した軍隊は、いまや人類の脅威から残された人類の生存圏を守る為に血を流している。

 

「この肉体のスペック活かして怪物狩りの為に防衛軍へ入隊、ってのも違う気がするし。ま、オレは精々前世でやり損ねた事をやるだけさ」

「やり損ねた事?」

 

 彼の疑問に対しガッツは空気のバットを握り、フルスイングして見せる事で示した。

 

「甲子園、故障で出られなかったんだわ。まあここにゃあ甲子園はねぇから来年の全大陸球技会だな。(ガッツ)の体だとズルしてるようでちと気分は悪いが、今日までオレが鍛えたオレの身体である事には違いねぇ」

「……うちの野球部は嫌な伝統で実力あっても三年生からの年功序列順でしか出してもらえねぇんだよな。ったく、そんなんだから弱小校なんだっつの」

 

 深くため息をついてそうボヤくセタンタに、シロウが苦笑する。

 

「そういや、お前はなんか目標あんのか? 前世でやり残した事とか心残りをどうこうするとかよ」

 

 ガッツに問われて、シロウは目をぱちくりとして泳がせる。

 

「……おれ? いや私は、その……れ、恋愛がしてみたい……

 

 か細い声で伝えられた言葉に二人はしばらく沈黙し、やがて声を上げて笑う。

 

「ヤり残した事ってか! いやまあ、イメチェンの甲斐あって早くも叶いそうでよかったじゃねえか、ははっ!」

「ハナは結構人気ある割には今の所フリーっぽいからな、案外脈あるかもしれねーぜ?」

「は、ハナさんとつ、付き合ったりできるかはともかくっ……! 折角イケメンに生まれ変わったんだから、期待はしたい、かな!」

 

 顔を赤くしながら宣言するシロウの真面目くさった顔に笑いながら、セタンタは箒を掃除用具入れに投げ入れる。

 

「ま、ガンバレ。夢、夢かぁ……俺もなんか考えねぇとな」

「あれ、セタンタは夢、無いのか? 野球選手とかじゃなく?」

 

 同じくチリトリを片付けながらシロウが問うと、彼は頭を掻きながら小さく唸って顔をしかめる。

 

「あー、野球はなぁ。前世でも高校でやってはいたが、そん時も別にそんなコダワリあった訳じゃねぇんだよな。なんとなくで入部したが、大学行った後は死ぬまでバット握らなかったし」

「高二だし、そろそろ進路は考えてたほうがいいんじゃねぇか? オレはスポーツ推薦でA市の大学行く予定だわ」

 

 そう言って大柄なガッツが机を軋ませながら立ち上がる。

 

「うわ……急に現実感出さないでくれ。せっかく転生者だってこと思い出してちょっとテンション上がったのに……」

 

 ガッツの言葉にげんなりした表情を見せるセタンタ。

 

「っと、そろそろ昼休み終わるし教室戻らないと」

「そうだな。ま、せっかくの縁だ、また今度転生者同士前世の事でも語り合おうぜ」

 

 予鈴まであと数分と言ったところで三人は空き教室を出る。 

 ――彼ら三人の縁は、この時から始まったのだ。

 

 

※※※

 

 ――カキン。

 金属バットが硬球を打つ音が響き渡るのを聞きながら、シロウは塗装の剥げた防球フェンスに体を預けていた。

 真夏の太陽が彼の浅黒い肌を焼き、白いシャツには汗が滲む。

 

 かつて(黒歴史)とは違い綺麗に脱色された金髪に、熱を帯びた強い日差しがキラキラと反射していた。……時は8月、夏休み真っ盛りである。

 

「おう、待たせたな。っと、気が利くじゃん、サンキュー」

 

 そう言ってバット片手に彼へ歩み寄って来たのはガッツだ。

 片手を上げて近づいてくる彼に、シロウは冷えたスポーツドリンクを手渡す。

 

「いや、こちらこそ練習中にすまない。……どうしても、相談したいことがあってな」

「……いやまあ構わないけどよ、形から入るって言ってもやっぱりその口調違和感バリバリだぞお前。遅咲きの中二病だってみんなが生暖かく見守ってるの気付いてるか?」

 

 ガッツがペットボトル片手に呆れ顔で言うガッツに、シロウはウッと胸を抑えてよろめく。

 

「ぐっ……! 気づいてはいるが、今更止める訳には……ってそうではない。相談したいことはそれではない……!!」

 

 英霊エミヤを目指し形から入るべく日々邁進するシロウ。

 日焼けと髪の手入れに加え、筋トレや弓道部での活動が実を結んだ引き締まった肉体を手に入れつつある彼は口調のエミュレートも続けていた。

 『照れるくらいならよせばいいのに』と周りから思われる中で、近頃ようやく慣れ始めたところなのだった。

 

「ん゙、んん。実はだな……こ、今度、こ、こ、こッ……」

「いや落ち着けや、ニワトリみたいになってんぞ」

 

 すう、と深呼吸し、シロウは目をつぶる。

 

「こ、告白をしようと思ってる……!! ハナさんに……!」

「いやまだ付き合ってなかったんかーい」

 

 迫真の表情で倒置法による自白をしたシロウに対し、ガッツは白い目でツッコミを入れる。

 

 例の周回遅れ高校デビュー騒ぎ以降、シロウはハナから髪や肌の手入れだとかオシャレな服装だとかの手解きを受けていた。

 服飾店に行ったりカフェで休んだりと、実質的なデートを行う姿を何度も目撃されているため、もう二人はとっくにデキているものだと周りは認識していた。のだが、実際はまだらしい。

 

「んで? 何でオレなんだ、恋愛相談ならもっと相応しい相手がいくらでも居ると思うんだが」

「……いや、やはり秘密を共有する者同士だと何かと相談しやすくてだな。それにほら、お前妻帯者だそうではないか」

 

 真顔でそう言うシロウに、ガッツは思わずむせ返る。

 やがて呼吸を落ち着けた彼は、半眼でシロウを見ながら口を開いた。

 

「……前世でな? まあ、結婚早々に死んですっげえ悪い事したと思ってっからあんまそこは突かないで欲しいんだけどよ。まあいいや、んで、具体的に何が聞きたいんだ」

 

 少し機嫌の悪そうな顔をする彼に、シロウはやらかしたと思いつつも相談を続ける。

 

「告白ってどうすればいいんですか……!!」

 

 絞り出すような彼の言葉に、ガッツは思わず吹き出しそうになる。

 

「キャラ崩れてんぞ。いやまあ、実質的に付き合ってるようなもんだし、適当にどっかのタイミングで言やあいいだろ。オレもそんな感じだったし」

「いやいや、やっぱこう、大事だろう!? ロ〜〜〜マンティックな感じで行くべきじゃあ、ないのか!?」

 

 クワッと目を見開いて詰め寄るシロウに、彼は少し引く。

 

「いやサイファーかお前は。ロマン……ロマンなァ……?」

 

 少し考え込むと、ガッツは「あ」と手を叩く。

 

「秋に林間学校あるだろ? 先輩曰く、学校が毎年借りてる施設の敷地にいい感じの展望台が有るそうなんだわ。カップルが夜中こっそり抜け出して、そこでイチャイチャするのが定番なんだと」

「つ、つまり、そこでならロ〜〜〜マンティックな感じに……!」

「お、おぉ。まあ、いいんじゃねえかな?」

 

 ガシっと汗ばんだ手で手を握られ、ガッツはギョッとする。

 

「ありがとう……! 恩に着る……!」

 

 どことなく晴れやかな表情で踵を返して歩いていくシロウの後ろ姿に、ガッツは大きくため息を吐く。その横で、ニヤニヤと笑う者がいた。

 

「ははァ、青春だねぇ?」

「うおっ!? 居たのかよ!」

 

 ガッツの背後にヌっと現れたセタンタは、流れる汗を拭いつつも小さくなったシロウの背中を眺める。

 

「せっかくこんなバリバリの武闘派に転生してこんな日常系的な暮らしかよ、って初めは思ってたが。……案外青春謳歌しちまってるな? 俺ら」

「おう、まあ条件のいい肉体で人生やり直せるってだけで儲けモンだわな。まさかまた高校球児やれるとは思わなかったぜ」

 

 フェンスにもたれかかり、ガッツは入道雲の浮かぶ空を仰ぎながらペットボトルの中身をあおって中身を飲み干した。

 

「……さァて、休憩はこの辺にしてそろそろ戻るかね」

「ああ、補欠の選抜から万一にも漏れるわけにゃいかねぇからな」

 

 空になったペットボトルをクシャリと握りつぶし、二人は練習へと戻っていく。

 ふと、西の空から黒い雲が流れてくるのを見て、ガッツは少しだけ憂鬱になった。

 

「こりゃあ、一雨降るな……」

 

 自販機横に設置されたゴミ箱へ向け、彼は小さくなったペットボトルを投げ入れた。




・衛宮士郎の転生者
前世では灰色の青春を送っていたらしい。
衛宮士郎ボディ持ちの今世でも危うくそれをなぞりかけていたが、転生者であるという自覚を得て彼はハジけた。
きっかけは古着屋で見つけた赤い外套だが、エミヤのあのデザインではなく、もう少しシンプルなもの。
周囲に恵まれていたのもあり、いい感じの青春を送りはじめた。

・ガッツの転生者
実は前世では妻帯者。学生時代は野球に打ち込み、いざ甲子園、と言うところで肩を壊し野球をやめてしまった。
その後少し荒んでた時期もあったが、後の伴侶との出会いで持ち直し、大学卒業してすぐに結婚――した直後に勤務中の事故で転生。
ちょっと引きずってるものの、とりあえず現在は割り切って高校球児を楽しんでいる。

・セタンタ(クー・フーリン)の転生者
前世ではやりたい事が見つからないまま大学を卒業し、フリーターをやってるうちに交通事故で転生。
今世でも前世をなぞるように割とダラダラ生きていたが、今度こそやりたいことを見つけようと意気込んでいる。
とりあえず今は野球に集中。

・ハナ(非転生者)
上記転生者三名のクラスメイト。Not転生者。
クラスの中でもムードメーカーの一人である明るい女の子、将来の夢はスタイリスト。
格好や髪型が野暮ったいながら顔が好みドンピシャだった男の子が突如身だしなみに気を遣い出した(?)のでそれをサポートしつついい感じの雰囲気になる強かさを持つ。シロウくんは私が育てた。

・N市高等学校
ど田舎であるN市にある学校。N市は人類圏の端の方にあり、広さの割に人口は少なく、この高校も一学年1クラスしかない。















次回予告
(BGM:Berserk-Forces-)

青春
己を得た少年少女は自らの人生へと火を灯し始める
夢に打ち込み 未来に思い悩み 時には恋焦がれる
灯した火が高く燃え上がるほど日々は褪せぬ輝きを放つ
二度目の春を迎えた者たちは、己を燃やし何を得るのか

次回、転生伝奇ONEPUNCHMAN~青春時代編~『霧に沈む夜』
(CV:石塚運昇)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。