【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】   作:Nyarlan

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3-蛇たちの宴

「なによ、今の声……っ?!」

「何だ、何が起こってるんだ!?」

 

 突然の悲鳴に、バルコニーの生徒達へ動揺が広がる。

 それぞれにあてがわれた部屋へ向かおうとしていた者も、言いしれぬ不安に駆られて人の多いバルコニーへと戻りつつあった。

 

――ぎぁ゙ッ!?

 

 直後に、今度はすぐ近く――宿舎の周辺から悲鳴が聞こえ、生徒達は今度こそ凍りついた。直後に激しい足音と、扉が乱暴に閉められる音が聞こえ、どたどたと何者かが階段を駆け上がってくる。

 ガッツとセタンタは冷や汗をかいて身構えながらバルコニーの入り口を注目し――そして脱力した。

 

「お前たち、無事か……!」

「……なんだ、センセーかよ」

 

――担任のオニガワラだ。生徒達に安堵が広がるより早く、息を切らせたオニガワラが努めて冷静な声で伝える。

 

「……落ち着いて聞け。この施設は怪人の群れに襲撃されている」

 

 彼の言葉に、生徒達は困惑の表情を浮かべる。

 

「怪人って……テレビでたまに見る、あの?」

「怪物なんて境界の外にしか居ないんじゃなかったの!?」

「軍隊はなにやってんだ!」

 

騒ぐなッ、今他の先生が戸締まりを行っている! とにかく、警察に連絡を取って助けが来るまで――」

 

 ガシャーン!

 い゙や゙あ゙あ゙ッ!?

 

 大きな破壊音――ガラスの砕け散る音が響き渡った直後に轟く濁った悲鳴に、今度こそ周囲へパニックが起こる。

 しかし侵入されたのは館内であり、現在位置はバルコニー。どこへ逃げればいいのかの判断がつけられない。

 

「落ち着け! どこか安全な場所へ……ッ?!」

 

 ドンッと、重たい音がバルコニーへ響く。

 ざわめきを押しのけるようにしてその場にいる者たちの耳へ届いたそれの発生源へ視線へ向けると。

 そこには全身を鱗に覆われた暗赤色のトカゲが二本の足で立っていた。その手には黒い刀身の剣が握られており――。

 

お゙おォオオオ――――ッ!!

『ぎしゃあっ!?』

 

 弾かれるように飛び出したオニガワラが剣を握る怪物の腕を取り、猛然とした勢いで一本背負いを決めた。

 間近に怪物が叩きつけられた音と衝撃に生徒が悲鳴を上げる。重たい音を立てながら黒い剣がガッツの足元へ転がった。

 

 ――オニガワラはその厳つい名前に相応しく二メートル近い長身の鍛え上げられた肉体を持つ体育教師であり、古来より受け継がれてきた武術、“ジュードー”の使い手である。

 彼は床へ叩きつけられた怪物を鮮やかな手つきで締め上げ、次の瞬間には何かが折れるような音が響き怪物が動かなくなる。

 

「……ッ、ここは危険だ! 屋内の手近な……なるべく狭い所へ静かに隠れろ、それから一階へは降りるな!」

 

 彼の怒号が響き渡ると、我に帰った生徒達は悲鳴をあげながら堰を切ったようにバルコニーから屋内へと雪崩れこんでゆく。

 

 ――次の瞬間、立ち上がったオニガワラの背後で先程聞いた重い落下音が三度連続して響いた。彼が振り返ると、そこには三匹の怪物が立っていた。

 

『オオ、ナカマのセンシがシんでいる!』『あのオス、つよいセンシ!』『よいニエだ、ワレらのカミがよろこぶ!』

 

「…………ッッッ!!」

 

 オニガワラは背後をチラリと見る。幸いにも、生徒達はもう施設の中へ入っているらしくバルコニーに残った人影はない。しかし全員が隠れ終えるまでにはまだまだ時間がかかるだろう。オマケに、1階からいつ怪物が上がって来るかわからない。

 

「……はぁーっ、冗談キツいぜまったく……ッ!」

 

 オニガワラは深く息を吐くと、目の前の怪物たちへ鋭い視線を投げかけながら構えを取った。

 

 

 

 

「隠れるったってどうする、正直どこ隠れてもヤバい気がするぞ!」

 

 クラスメイトたちが手近なドアへ殺到する中、尚も廊下を突き進むガッツへセタンタが問いかける。

 素早く近くの客室やトイレなどへ逃げ込むクラスメイトたちを横目にしながら彼は首を横に振る。

 

「いや、隠れねぇ。まず先にシロウたちを探しに行く」

 

 ガッツの言葉にセタンタはハッとする。

 

「そうだ、あいつら外じゃねーか! 怪物に出くわしてたら……!」

「そうなって無いことを祈るしかねぇッ!」

 

 周囲から聞こえる慌ただしい音に耳を傾けながら、ガッツは先程咄嗟に拾い上げた黒曜石の剣を手にシロウたちの無事を祈った。

 二階の東端、展望台側の突き当りにたどり着くとガッツは素早く窓を開けて地上を見渡す。

 

「見える範囲にはトカゲどもはいないな。何匹いるかわからんが、多分この辺のは中に入ってるか正面と裏の入り口に殺到してんだろ」

 

 一階からは部屋を荒らすような音に混じって扉を破るような激しい音も聞こえてくる。彼は窓の側に備え付けられた防災用の縄梯子を開封すると、それを努めて音を立てないよう階下へ降ろす。

 

「……俺が先に降りるから、もしトカゲが追いつきそうならいっそ飛び降りろ。受け止めてやる」

 

 そう言うと彼は剣を腰のベルトへ引っ掛け梯子を降りる。

 セタンタもあとに続いて地面へ降り立った次の瞬間、彼らの頭上……二階の辺りから破壊音と絶叫が聞こえ始めた。

 客室のドアは、怪物の侵入を防ぐにはあまりにも脆い。

 霧で霞む古い建物のシルエットを見上げるセタンタの目からは、自然と涙があふれ出していた。

 

「……ッ、クソ………!」

 

 ――バキッ

 背後から響く何かが砕けるような音にギョッとしたセタンタが振り返ると、凄まじい形相で歯を食いしばったガッツが二階を睨んでいる姿が目に入る。彼は頭を振ると、展望台の方角へ目を向ける。

 

「――行くぞ、シロウたちが心配だ」

「……おう」

 

 二人は展望台へ向け、静かに駆け出した。

 

 

※※※

 

『ニエブクロ、さきにナカマとゴウリュウしろ』

 

 槍を持った怪物に促され、しゅると返事をしつつハナを飲み込んだ巨体の異形は移動を開始する。

 

「待――ッ!」

 

 それに追いすがろうと立ち上がったシロウは、直後に伸びてきた槍の一閃を本能的に躱して後退る。

 

『しゅるる、またカワしたな。おマエなかなかミどころある、よいニエになるよいセンシだ』

 

 どこか喜ぶようにそんなことを言う怪物に、シロウは苛立ちを募らせる。どのみち、目の前の相手をどうにかしなければ移動することもままならない。

 

(早くハナさんを助けなきゃいけないのに! どうしよう、こっちは丸腰で相手は槍を持ってる。クソ、魔術を使えたら……!)

『ユクぞ、ニンゲンのセンシ!』

 

 シロウは怪物が繰り返し突き出す槍を辛うじて躱し続ける。

 慣れない動きに息が切れ槍の穂先が体を掠めると、彼の焦りは加速度的に高まって行く。

 そして突き出された槍を躱すと同時に、脚がもつれる。

 

「しまっ――ぎっ!

 

 槍の柄が今度は左腕を打ち据え、彼は再び地面へ倒れ伏す。

 

『しゅるるっ、これでオワり!』

 

 高く振り上げた槍が霧でぼんやりとした街灯の灯りを受けて鈍く光るのを、シロウはただ見ている事しかできず――。

 

『ギシャッ!?』

 

 次の瞬間、怪物の横っ面を拳大の石が殴り付け、その片目がぐちゃりと潰れて鮮血が舞う。

 

 ――そして。

 

だああああッ!!!『しゅるっ!?』

 

 次の瞬間には、体ごとぶつかってきた大きな人影が怪物を押し倒して馬乗りになっていた。黒曜石の剣を握りしめたガッツだ。

 彼は刃を振り上げ、力いっぱい振り下ろす。

 

『ギシャア!?』

死ねッ! 死ねッ!

 

 何度も何度も刃を突き立て、その度に赤い血が周囲に飛び散った。

 やがて怪物が痙攣し動きを止めてなお刃を振るい続ける彼の肩を、後から追いついたセタンタが掴む。

 

「もういいガッツ、とっくに死んでる」

「……ッ! ハッ……ハッ……!」

 

 返り血に塗れたガッツは息を荒げながらもようやく刃先の欠けたドロドロの剣を手放してその場に項垂れた。

 呆然とするガッツから目を離し、セタンタはシロウへ目を向ける。

 

「……よう、シロウ。危なかったな」

 

 シロウは張り詰めていた物が緩み、その場で脱力した。

 

「……うん、助かった」

「所で……ハナは、どうした?」

 

 周囲を見渡して躊躇いがちにセタンタが尋ねると、シロウは俯いて歯を食いしばった。

 

「……大きな怪物に飲み込まれた。それにエーニも、殺された」

「そう、か……ここまで来る途中、セギーの遺体もあった。すぐに争う物音が聞こえたからそのまま置いてきちまったが……」

 

 セタンタは沈痛な表情を浮かべ、地面に転がった槍を拾い上げる。先端に黒曜石の穂先の括り付けられた槍は、血に塗れていた。

 

「――でも、ハナさんはまだ助かるかもしれない」

「なに? 怪物に食われたんだろ?」

 

 セタンタが怪訝な顔をすると、シロウは顔を上げる。

 

「その怪物を、そこのトカゲは“贄袋(にえぶくろ)”と呼んでいた。……生贄なら、生きたまま何かの儀式に使うつもりなのかもしれない。それに怪物の体はどうも不自然というか、絞め殺さないための作りに見えたんだ」

 

 彼は先程見た怪物の姿を克明に記憶していた。ドラム缶のように太く膨れた胴と、広く伸縮する喉と巨大な口。

 生きた獲物を運ぶ事に特化したような造りに見えなくもない。

 

「……なるほど、それなら急げば助け出せる可能性もある、か?」

「だから、俺は彼女を助けに行くつもりだ」

 

 その言葉にセタンタは息を呑む。彼はシロウのギラギラと光る目を見て本気だと悟り、小さくため息を吐いた。

 

「さっきは一匹倒せたつっても不意打ちだ、そして相手は怪物……肉体はともかく、中身は戦いなんてした事ねぇズブの素人の俺らでどうにかなると思うか?」

 

 諭すようなセタンタの言葉にシロウは頭を振って拳を握り締める。

 

「ああ分かってるさ……!! さっきは手も足も出なかった! ……でも、でもッ! どうしても、諦められないんだ……!」

 

 やり場のない怒りに地面を掻きむしりながら絞り出すように叫ぶシロウの悲壮な表情に、セタンタは思わず目を伏せる。すると。

 

「――近くに明日使う予定だったアーチェリー体験用の施設がある。弓がありゃ駆け出し弓道部のお前でも多少は戦えンだろ」

 

 そう言ったのは、ガッツだった。黒曜石の剣を杖に立ち上がり、静かに燃える瞳で二人を見ていた。

 

「オレも……こんな風に何もかもブチ壊されて、黙っていられる程大人じゃねェ」

 

 シロウに手を差し伸べて起き上がらせたガッツを見て、セタンタも頭を掻き毟りながら槍を手に立ち上がる。

 

「……しゃあねぇなぁ、もう! 俺もやってやらァ、ここで俺一人逃げちゃ本物のクー・フーリンに申し訳が立たねぇからな!」

「ハッ、黒い剣士(ガッツ)クランの猛犬(クー・フーリン)――それに正義の味方(エミヤシロウ)が怪物にビビって友を見捨てて尻尾巻いて逃げました、とかありえねェよなあ?」

 

 歯を剥き出しにしてガッツが嗤う。

 三人は互いに頷き合うと、しっかりとした足取りで歩き出した。

 深い霧の中、月明かりと携帯端末のライトを頼りに三人は進んでゆく。

 

 

 

「……こりゃあ、酷え」

 

 アーチェリー場を経由し、宿舎の前へと戻ってきた三人はその惨状に吐き気を覚えた。クラスメイトや教師、施設管理者の遺体が無造作に打ち捨てられているのをを目にして、ガッツが歯を食いしばる。

 虚ろに見開かれた友人たちの目を見つめ返しながら、三人はその場に呆然と立ち尽くしていた。

 

「あの状況で残って戦ったところで俺らの死体が増えただけだ」

 

 セタンタが能面のような表情で吐き捨てると、ガッツは一つ舌打ちをして深くため息を吐いた。

 

「ンなもん分かってる。それでも……クソが!」

 

 槍を胸から生やしたオニガワラの遺体を目にし、ガッツが拳をぎちりと握り締める。周囲には怪物の死骸もいくつか転がっており、その奮闘ぶりを示していた。

 そんな中、シロウはふと小さな違和感を覚えた。それは。

 

「……やられてるのは男だけ、か」

 

 彼は周囲を見渡し、違和感の正体に気付く。周囲を見ても、女性の遺体は一つも見当たらない。

 

(戦士がどうとか言っていたし、女は眼中にない? ……いや!)

 

 彼の脳裏を過るのは目に焼き付いた大きな怪物の姿。

 ――贄袋、生贄。……儀式。凄惨な妄想を、彼は頭を振って脳裏から追い出した。

 

「……おい、こっちだ。クソトカゲどもの足跡が残ってる」

 

 セタンタが指し示す先には、無数の足跡が一方へ向け伸びている。

 三人は無言でその痕跡を辿り、濃霧の中を歩き始めた。

 

 足跡は山へと向かい木々の覆い茂る登山道の途中で獣道へ入り込んでおり、更に先へと進むとやがて切り立った崖の下、岩肌の前で足跡が途絶えていた。

 三人は崖を見上げるが、霧に阻まれて何も見えない。

 

「……ここから登ったってならちょっとややこしいぞ」

「多分だが、登るってんならこんな一箇所に足跡は固まらねぇだろ。お約束で考えるなら、って……ハハ、まじかよ」

 

 岩肌に触れようと伸ばした手が崖を抵抗なく通り抜けて内部へと沈み込むのを見て、ガッツは乾いた笑いを浮かべる。隠し扉等は想定していたものの、目の前で起きた現象には頭が痛くなる思いだった。

 

「もう何でもありだな、こりゃ……」

 

 岩肌をよく見れば、ヘビがのたくった文字のような物がびっしりと彫り込まれている。それにどこか見覚えがあったガッツは、咄嗟に腰にさした剣を取り出す。

 

「……剣のコレも、なんかしらの意味があるのかねェ」

 

 刃先の欠けた剣の刀身には、同じような物が彫り込まれていた。

 何かしらの魔術的な意匠であることは間違いない。

 

 彼はため息を一つつくと、意を決して見せかけの岩肌へと首を突っ込んでみた。内部は驚くほど広い空間が広がっており、各所に設置された松明の明かりが揺らめいている。……敵の影はない。

 

 ガッツは顔を引き抜くと手で合図を送り、三人は互いに頷き合って中へと侵入した。

 

 

 

「見える範囲に奴らは居ない、か?」

 

 セタンタが内部を見渡してポツリとつぶやく。

 

「……トカゲの癖にいっちょまえに地面を整地してやがんな、奥に儀式の間でもあるんだろうよ」

「本拠地の中だ、何があるかわからん。慎重に行くぞ」

 

 ライトを消し、なるべく足音を立てないよう内部を進む三人。

 入ってすぐの空間にはやはり怪物の姿はないらしく、食料であろうか、獣の死体が吊るされていたりと独特の臭気を放っている。

 奥に続く道があるのを見て、彼らは無言で足音を忍ばせた。

 

(見張りの一つも無いとはな、入り口の仕掛けに自信ありか?)

 

 目的のハナを飲み込んだという怪物はおろか、トカゲの怪物たちすら見当たらないのを見てセタンタは妙に思う。

 見張りなど必要がないと思っているのか、あるいは見張りも建てず急ぎで何かをしているのか。そんな事を考える内に、奥への道から物音が聞こえてくる。

 それぞれの武器を握りしめながら、三人は奥へと進む。

 

――すると。

 

(なっ……?!)

 

 ――武器の打ち合う音、歓声と断末魔。

 

 松明で照らされた内部では、複数のトカゲ同士が円形の舞台上で互いに殺し合っていた。血しぶきを上げながら互いに傷付け合い、周囲からは熱気の篭った歓声が沸き立つ。

 相手の首を裂き勝利した怪物は、倒れた相手の心臓をえぐり出すとそれを口元へ運んでは丸呑みにする。

 

 そして次の挑戦者と戦い始める――その様子はまるで。

 

「――蠱毒(こどく)?」

 

おやおやおや、何かと思えばニンゲンのお客様じゃあないかネ

 

 セタンタがポツリとこぼすと同時に、そんな声が投げかけられ三人は思わず硬直する。怪物達は戦いをやめ、その舞台の奥から一体の怪物が歩み寄って来た。

 その怪物は他の爬虫類と違い、ゆったりとしたローブのような物を身に纏っており、右手には複数の蛇が絡み合うような形をした奇妙な杖が握っている。

 

フム、我らの襲撃から生き延び、あまつさえこの儀式場を見つけ出すとはなかなか優秀なニンゲンも居たものだネ

「……ハッ、気持ち悪ィトカゲ野郎に褒められても嬉しかねェな」

 

 ガッツの軽口に、怪物は目を細める。

 

……我々はヘビガミさまの信徒たる蛇人族、トカゲなどではナイ。私はニンゲンで言うところの神官のようなものだネ。――それで、キミたちは拾った命を捨ててまで何をしに来たのかネ?

 

「へェ? 手足が付いた蛇とはこれがホントの蛇足ってか」

「お前煽るのはいいけどまともにやったら死ぬの俺らだからな? ……ま、アイツら全員道連れにブッ殺すけどな」

 

 高揚した気分に任せて臨戦態勢を取るガッツとセタンタに、シロウは一つため息をついて弓を握りしめて口を開く。

 

「……お前らが攫った人間はどこへやった。殺す相手を選別して、それ以外は連れ去ったのはわかっている」

 

 彼の言葉に、蛇の神官は感心したように目を見張る。

 

ほう! そこまで気付いていたのかネ? 確かに、戦士であるオスは戦って殺し、戦えぬメスは生け捕りにするのが我ら蛇人族。捕えたメスのニンゲンはまだ生きて()いるネ

「いけしゃあしゃあと……ッ!! 武器も戦意もない一般人相手に何が戦士だッッ!!!!」

「ハナさん――彼女らを、返してもらう!!!」

 

 ガッツとセタンタが黒曜石の剣と槍を構え、シロウが矢を番え競技用の弓を引き絞ると、蛇の神官はキョトンとした表情をし、やがては呵呵大笑(かかたいしょう)する。

 

「何がおかしい!」

いやぁすまないネ、この状況でそんなことを言ってのけるキミたちがおかしくてたまらなくてネ。ふふ、あのメスたちならそこだネ

 

 そう言って蛇の神官が指差したのは、儀式場の奥の壁。そこにはシロウが見た大きな怪物たちがズラリと並び、微動だにしない。

 三人の殺気が膨れ上がり、今にも踊りかかりそうな中で――。

 

――今宵、星の巡りが揃いしとき。我ら蛇たちが父、偉大なるヘビガミ様がこの世界に受肉される

 

 ――蛇の神官は両腕を広げ、演説するように朗々と語る。

 

蛇の戦士の中で最も強き者を選び、特別な霊薬を与え神の器とする。……今やってるのがその選定だネ。しかしそうすると、蛇人族はヘビガミ様と私だけになってしまう訳だネ

 

 要領を得ない言葉に、シロウは苛立ちを募らせる。

 

「……それがどうした!」

 

 蛇の神官は、その異貌でも克明に分かるほど深い笑みを浮かべた。

 

つまり、ヘビガミ様に仕えるべき一族が新たに必要になる。そこで、捕えたメスたちの出番というワケだネ

 

 蛇の神官の言葉に、三人は嫌な予感を覚え――そしてそれは的中する事となった。

 

今まさに、あの中でニンゲンのメスたちは我らが同胞として作り変えられている。受肉の儀式が行われる頃には丁度変化が終わるネ――

 

 ――ビュウと鋭く風を切る音が静かな儀式場に木霊する。怨敵の脳天を撃ち抜くべく鋭く正確に飛んだ一本の矢は、バチリと激しい音を立てて蛇の神官の目の前で静止した。

 

「なッ……!?」

 

 矢を放ったシロウが狼狽えるの見て、蛇の神官はニタリと嗤う。

 

無駄だネ、無駄無駄ネ。ニンゲンは我々にとって餌でしかナイ、ヘビガミ様降臨の暁には深海王も地底王も天空王も敵ではナイッ! 我々蛇人族こそが、この世界を支配するのネ!

 

 蛇の神官の合図と共に、静観していた蛇人族の戦士たちが一斉に踊りかかってくる。その数十二、そして外で倒した者と比較しても明らかに体格が優れている。

 

「二人とも、来るぞッ!」

 

 シロウは新たに矢をつがえながら叫ぶ。

 

「しゃあねぇ、死ぬ気で殺るぜ!」

 

 セタンタは槍を強く握り、シロウを守るように前へ出た。

 

「ハッ、一匹残らず虱潰しだ!」

 

 ガッツは近付いてくる蛇人族へ剣を叩きつけんと振りかぶる。

 

 ――今の三人にとって絶望的な戦いの火蓋が、今切って落とされた。




・オニガワラ先生
強い一般人枠、並外れた体格と武術の心得を持つ。
柔道部兼、料理研究部顧問で放課後に料理をどっさり作って生徒と共に食べるのが日課。もちろん帰宅後夕食も食べる。奥さんには内緒。
名前に相応しい怖い外見をしているが面倒見が良く、生徒達からの信頼も厚い良い教師、だった。
幼い娘が一人おり、よく生徒たちに自慢して「お前たちには絶対やらん」と笑っては「そもそも歳が離れすぎてるし!」とツッコまれていた。

・蛇人族
海人族や地底人などと同じ敵対的人外種族カテゴリで、他種と覇権を争っている。
災害レベルで見ると狼〜虎程度。
他種族で言う“王”の代わりに神官をトップに据えているが、神官も“王”級には届かない。
ただし神官は怪しげな術を扱い、蛇系の種族総てが崇める「ヘビガミ」という神格の降臨を以て他種族を圧倒するという野望を持つ。
モデルはクトゥルフ神話の蛇人間だが、厄介な支配血清や人への擬態能力は持たないので安心?

・ヘビガミ降臨の儀式
敵対種族との殺し合いで出た死者を生贄として戦士たちの魂の位階を高め、生き残った精鋭たちで殺し合い、相手の心臓を喰らう蠱毒を行う。
そして最後に残った最も強い戦士に神官が“霊薬”を飲ませて不死の肉体を与え、神の器とする。
そして贄袋(にえぶくろ)と呼称する特殊な個体を使い、敵対種族の女を同族に作り変えておき、受肉した神の血を引く戦士たちを作り出してその戦力で他種族との最終戦争を開始する。














次回予告
(BGM:Berserk-Forces-)

大切なものを喪う時 ようやく人はその尊さを知る事ができる
尊きを喪った時 人は嘆き悲しみ その心に怒りの炎を宿す
再度(にど)とは奪わせぬよう 人はその()で鉄を打ち 刃を研いだ
それは奪う者を(おど)すため そして奪った者へ突き立てるために

次回、転生伝奇ONEPUNCHMAN~青春時代編~『復讐者の刃』
(CV:石塚運昇)
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