【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】 作:Nyarlan
『しゅるるっ!』
「うおおおお――ッ!!!」
槍を手に迫りくる一体の蛇人族の戦士。
それと相対したガッツの持つ黒曜石の剣が、風を切る鋭い音を伴い渾身の力で逆袈裟に斬り上げられる。
――しかし。
「ガ――!?」
当たれば鱗ごと両断されるであろう強烈な逆袈裟を僅かに体を反らしただけで回避した蛇の戦士は、その勢いのまま長く強靭な尻尾を鞭のように振るい隙だらけのガッツの左肩を強かに打った。
その背後から、黒曜石の短剣を持つもう一体の戦士が迫る。
「させねぇッ!!!」
『しぎゃっ!?』
追撃に掛かった戦士の脇をセタンタの黒い穂先が抉る。
「落ち着けッ、力み過ぎだ!!」
槍持ちの戦士がすかさず彼に向けて穂先を突き出すが、体勢を立て直したガッツがそれを剣で打ち落とす。
「すまねぇ、助かった!」
『シュルル――ッ!』
槍によって浅からぬ傷を負い大きく後退した怪物の頭上を、間髪入れずに矢が通り抜けていく。
「くっ、当たらないッ……!」
「無理に頭を狙うな、どこでもいいから当たればいい! 狙いやすい胴体辺りを――うおっ!?」
「クソッ!!」
顔のスレスレを黒曜石の短剣が一閃し、セタンタは転げながら後退した。慌てたガッツが短剣持ちに斬りかかるが回避された。
焦る三人の前に、怪物たちがにじり寄ってくる。
「……やべぇ、実戦ナメてた。相手以前にオレらが弱え」
「ったりめーだ、ただの高校球児と初心者弓道部員だぞ」
痛む肩を抑えながら呻くガッツの横で起き上がったセタンタは冷や汗を拭いながら正面の怪物たちを槍で牽制する。
シロウが次の矢を番えながら周囲を見渡すと、蛇神官は奥で呑気に杖を磨いており、その横には手に壺を乗せた蛇人族の大きな石像。
そして儀式の間の最奥、その左右の壁際にはハナを飲み込んだ巨大な化物たちがまるで置物のように鎮座している。
そこまでの間には多数の武装した蛇人族が構えており、それらを倒さず救出だけして逃げる等はどう見ても不可能だ。
(クソっ、早く助け出さなきゃいけないってのに……!)
「ぐあっ……!?」
焦りを募らせるシロウの目の前で蛇人族の持つ槍がガッツの左腕をえぐり、血が吹き出す。明らかな劣勢だった。
『……フム、思ったより弱そうだネ。戦士たちよ、殺さぬ程度に痛め付けたら拘束しておけ、復活したヘビガミ様への供物としようじゃないかネ』
磨いた杖を手に嘲る蛇神官に、ガッツの額に青筋が浮く。
「ッ、ナメやがって……!」
「下がれガッツ! ちょっとマズいぞこれは……っと!」
『しゃぎゅっ!?』
負傷したガッツへ跳びかかってきた一体の脚を、セタンタの槍が捉えた。バランスを崩し倒れ込んだ戦士の首をガッツの剣が裂いた。
鮮血が飛び散り断末魔を上げる短剣持ち。
「――ッシャ、一匹目ェ!」
鬨の声を上げたガッツの横を通り、シロウの放った矢が槍持ちの土手っ腹に突き刺さった。悶えよろめいた怪物の胸へセタンタの突き出した槍が深くえぐり込まれ、怪物は絶命する。
「おし二匹目ぇ! ……案外イケんじゃねェかこれ!?」
セタンタは自らを鼓舞するように叫び怪物から槍を引き抜いた。
「……へっ、最初から一人あたり四匹ずつ倒しゃ勝ちだなんだよ。残りは十匹だ、気張って行くぞ!」
立て続けに二体倒されたことでやや慎重になったように見える戦士たちを剣で威嚇しながらガッツが叫んだ――その時。
『おやおや、戦士さえ倒せば私など問題ないとでも言うのかネ?』
そんな声のした方向を見ると、蛇神官が意地の悪い笑みを浮かべて三人へ向けて歩みを進めていた。
『……フム、魔力には余裕があるネ。せっかくだし、ヘビガミ様より授かりし力の一端でも見せてあげようかネ』
道をあける戦士たちの間を通り、ゆったりと近づいてくる蛇神官の姿にガッツが歯を剥き出して嗤う。
「ハッ、てめェから死にてぇってんなら話が早え!」
なんの構えもなく悠々と歩いてくる蛇神官に、初陣の高揚感に浮かされたガッツは弾かれたように斬り掛かる。
自分たちを包囲する戦士に警戒していたセタンタとシロウは、その行動を見過ごしてしまった。
「ッ、バカヤローッ、さっきの忘れたのかッ!」
セタンタの静止は間に合わず、ガッツによる渾身の一撃は蛇神官の首を狙って放たれ――。
――ギャリッ!
――その刃は見えない壁に弾かれ、光が散る。
「なッ――!?」
剣を振りぬいたままの体勢で瞠目するガッツに冷めた視線を送りながら、蛇神官は手に持った杖を軽く振るう。
『愚かだネ――〈せいしんのこぶしよ〉』
――ズダンッ!
儀式場を一陣の風が吹き抜ける。
セタンタとシロウは、自分たちの真横を矢のように過ぎ去ったものが何か、一瞬理解することができなかった。
柔らかい物が岩肌を打つ派手な音、そして地面に何かが崩れ落ちる音を認識した瞬間、彼らは全身から冷や汗が吹き出るのを感じた。
「――ガッツ!!」
シロウは身を翻して、先程の飛来物――ガッツへと駆け寄った。
あの頑丈極まりない男が、頭から血を流し目を剥いて気絶していた。何が起きたのか、二人には――おそらくはガッツ自身にも理解できなかったはずだ。
『フム、これで残りは二人だネ。さて、まだやるかネ?』
左右に戦士たちを従え、蛇神官は嘲った。
シロウは意識のないガッツの前に弓を構えて立ち、セタンタは冷や汗をかきながら後退る。
(聞いてねぇぞこんなの……前衛二人掛かりでもギリギリだったってのに、一人欠けてその上魔法まで飛んでくるとか冗談じゃねぇ)
壁にもたれ掛かったままピクリとも動かないガッツをチラリと見て、セタンタは大きく息を吐く。
そして手に持った槍を強く握り直すと、口元に諦観の笑みを浮かべた。
「おいシロウ、ガッツ担いで走れ。2、3分は時間稼いでやんよ」
「はぁ!? いきなり何を……!」
激昂し詰め寄るシロウを彼は槍を振るって制する。
「どっからどう見ても“詰み”だろうがッ……! 俺が
「そんな事ッ、できるわけないだろ!」
シロウは力強く弓を引き絞り、今まさに近寄ろうとしていた戦士へ向けて矢を放ったが、それは剣の一閃によって弾かれる。
それを見たセタンタが自嘲気味に鼻で笑った。
「ハッ、土台無理な話だったんだ。マンガの主人公じゃあるめぇし、ちょっと強えカラダ持っただけのド素人が化物の群れ相手に初陣で勝てるわきゃねェだろうが!」
セタンタは語気を荒げつつも戦士の斬撃を槍で打払い、追撃でその腕を貫く。悶えるその胸に矢が突き刺さり、戦士はどうと倒れた。
「できるできないじゃないだろ! 今諦めたら死ぬんだ、俺達も、ハナさんもッ! 俺は、みんなを置いて逃げたりしないッ!!」
「こンの、分からずやがッ……!」
頑なに逃げようとしないシロウにセタンタが焦りを深める中、その様子を見ていた蛇の神官はつまらなそうに鼻を鳴らす。
『ふゥん、意見はまとまったかネ? どっちにせよ誰一人として逃がすつもりはないが、ネ』
蛇神官の指図により戦士たちが一斉に歩みを進める姿に、セタンタは歯噛みする。
一番体格に優れた
――そして蛇神官の使う不可視の魔術と、破れぬ防壁。
どこを見ても、勝てる要素は一つとしてない。
(万事休す、か……!)
手汗で槍が嫌なぬめりを帯びているのをセタンタは感じていた。もはや勝利など彼の頭になく、いかにしてシロウ達を逃がすかに思考は傾いている。しかし肝心のシロウに逃げるつもりが無ければ、どうにもならない。
焦りだけが募る中、迫り来る蛇の戦士にセタンタが苦し紛れに槍を向けたその時――。
――儀式の間に、聞きなれない声が響いた。
「目ェ瞑れえ、ジャリどもッ!」
――ギンッ!
背後から突然響いたしゃがれた声にセタンタの意識が持って行かれた次の瞬間、儀式の間は強烈な閃光に包まれた。
怪物たちが悲鳴を上げる中で咄嗟に目を閉じた二人は、何者かに背後から押し倒されるのを感じた。
「撃てェーッ!」
――次の瞬間、耳をつんざく破裂音が断続して石室内で弾けた。
画面越しにしか知らない銃声と、初めて嗅ぐ硝煙の臭い。
驚いた二人が目を開け顔を上げると、眼前にはマズルフラッシュに照らされる小柄な老人の姿があった。
老体ながらガッシリとしているのが見て取れる上半身は白いボディアーマー包まれ、金属の光沢を放つ右前腕部の先端には銃口。禿げ上がった頭頂部の汗を左手で拭いながら、老人は悠然と立っていた。
「撃ち方止めえ! アクセル、もう離してやっていいぜ」
「了解」
銃声が止むと若い――それも同年代であろう声が耳に届き二人は驚く。背中の重みが消えると同時に助け起こされた彼らが慌てて周囲を確認すると、老人と同じボディアーマーを身に着けた屈強な男たちが二人を取り囲むように立っていた。
そして二人の背後には声から察した通り、彼らと同年代の少年が油断なく正面を睨んでいた。
「……ハンターズ?」
――そんな一団の姿に、セタンタだけは覚えがあった。
「ほお、俺らを知ってんのか? ンなら話は早えェわ、俺ァハンターズ団長のギクリー。もう安心していいぜ」
ギクリーと名乗る老人はそう言って口角を上げ、傷だらけな強面を歪めて嗤う。
――ハンターズ。
対怪人・怪物を主な標的とする、自警組織の形を取った
怪人・怪獣災害を憎む有志たちの組織の事を、バウンティハンターを志すセタンタは知っていた。
連綿と続く怪人への憎悪の炎で鍛えし復讐者の刃は、今ここに抜き放たれたのだ。
『せ、戦士達が全滅ゥ!? キサマら、一体どこから来たのだネ!?』
狼狽えた様子で後退る蛇神官。その周囲にはもう戦士の一匹も残っていない。障壁で守られた彼以外、全てが銃弾に倒れたらしい。
「ハン、少し前からテメェらがN市に潜り込んでるって噂があってな。馬鹿デケェ霧のドームなんぞ作ってくれたお陰で助かったぜ!」
老人が鼻で笑いながら鈍く光る銃口を向けると、激高した様子の蛇神官は再び杖を構えた。
『ぬ、ぬぐく……おのれェ!〈せいしんのこぶしよ〉!』
蛇神官が杖を振りかぶりあの恐るべき魔術が放たれんとした瞬間、ギクリーの背後にいたセタンタたちは、アクセルと呼ばれた少年に勢い良く引き倒された。
「遅え遅え、遅すぎてハエが止まるぜ!」
不可視の弾丸が駆け抜ける寸前、老人はまるで軽業師のように身を躱し右腕の銃口から弾丸を三発打ち込んだ。
頭、胸、腹を正確に射抜く弾道を描き――そして虚空でひしゃげて地面へ落ちる弾丸を見て彼は舌打ちする。
『ばか、な……この呪文を避けた、だと……!?』
不可視必中の一撃を躱され、あまつさえ相手の攻撃に全く反応できなかった蛇神官は動揺した様子で老人を見る。
「見えねぇ攻撃はともかく、妙な膜に包まれてやがるな。ふーむ、撃ちまくりゃ抜けるかもしれんが……弾の無駄だな、こりゃ」
彼は小さく唸ると生身の左手で長い髭を蓄えた顎を撫で付ける。
「……しゃあねぇ。アクセル! 例の試作品の出番だ、やれ!」
「了解」
老人の指名に応じてアクセルと呼ばれた少年は小さく頷いてへたり込むセタンタ達から手を離すと、腰から一振りの小剣を引き抜いた。
光沢のない鈍色の刀身は細く短く頼りなく、黒い鍔の根本からは謎のコードが腰元の箱へと伸びている。
「高周波ブレード、起動」
少年が握りについたトリガーを引くと小剣の刀身の輪郭がブレ始め、同時に耳障りな高音が鳴り響く。
アクセルが地を蹴ると、十メートル程あった距離は一瞬で縮まり、神官は思わず身を捩る。
目にも止まらぬ速さで振り切られた刃が甲高い音を立てると、次の瞬間にはガラスを引き裂くような音とともに硬い鱗を切り裂き蛇神官の右頬を深くえぐっていた。
『ぬあっ!? 障壁がっ……くっ、〈せいしんのこぶしよ〉!』
彼が身を躱しながら苦し紛れに放った術をアクセルは難なく躱し、追撃する――が、その刃は切れ味を発揮することなく蛇の神官の強靭な鱗に阻まれてしまった。
気付けば耳障りな音が消えている。恐るべき小剣がその機能を停止している事に、老人は思わず目を剥いた。
「あアっ!? あンのポンコツがっ、馬鹿高い癖に一回で壊れるとか嘘だろォッ!?」
これじゃあ銃弾の方が安くついたと悲鳴を上げながら老人が腕の銃を構えると同時に、神官は死に物狂いで杖を振るってアクセルを引き剥がし大声で叫んだ。
『〈わがみをまもれ〉ェェェッ!!!』
杖を起点に淡い光が広がり神官を包み込んだ瞬間、老人の放った弾丸が障壁に突き刺さる。
その隙に部隊と合流したアクセルが周囲の仲間とともに銃を構えると、蛇神官は一歩後退った。
『くっ、どうにも分が悪いようだネ……かくなる上はッ!』
そう言うと、彼は身を翻し儀式の間の奥へと駆ける。逃がすかとばかりに銃撃が行われるが、その尽くが障壁に阻まれる。
しかし奥には逃げ場などなく――そこで、これまで状況を見守る事しかできなかったシロウがその目的を察した。
「……あれが、“霊薬”か」
彼は最後に残る一本の矢を洋弓に番え引き絞ると儀式の間の最奥、蛇人族の石像の手に載せられた壺へと射掛ける。
矢は吸い込まれるように壺へ命中した。壺は存外硬いらしく、その中身を僅かに散らしながら宙へ舞い上がる。
『ンなっ!? や、やめ! あ、あああ゙あ゙あ゙ッ!!!?』
蛇神官が地を蹴り壺を受け止めようと手を伸ばす、が。
――ビシャァッ
伸ばされたその指先に当たった壺は勢い良く一回転し、その赤黒い中身を床にぶちまけながら床に転がり落ちた。
『あ……あ……? ああァァァあぁ……!』
彼の表情は脳が理解を拒否したような能面から徐々に歪んでゆき、やがては憤怒の形相へと変貌する。
『おおお、おのれキサマ、何という事をッッッッッ!!』
「なんかわからんがよくやった! お前たち撃て撃て!」
憤激し杖を振りかぶる彼の胸元にギクリーの放つ大口径の弾丸が連続して命中し、障壁が激しい火花を散らす。
それに続く様に弾幕を張る面々を忌々し気に睨みつけると、蛇神官は自分を落ち着かせる様に全身を震わせながら大きく息を吐き出した。
そしてくるりと背を向け、虚空へ向けて杖をかざす。
『〈もんよ ひらけ〉」
――次の瞬間、石像の前に楕円形の光が出現した。
蛇神官はそれの前まで歩みを進めると、大仰な仕草で振り返る。
その目は燃えるような怒りを湛えていた。
『……貴様らのせいで、我らの悲願たる儀式が台無しだネ……ウツワ候補たちはまだしも、一族の生と執念の結晶たる霊薬を……よくも、よくもやってくれたネッッ!』
シロウをギロリと睨み付け、神官はため息をつく。
『……まあ、いいネ。いやよくないがネ。……今は、まだその時ではなかったという事だネ』
『――十年後、再び星の巡りが揃いし時、今度こそ、今度こそ我らが神は復活する!!』
『そして貴様ら人間は……いいや、あらゆる生命は偉大なる神と我ら一族に支配される事になる、覚えておくがいいネッッ!!!』
そう言い捨てると同時に蛇神官の姿は楕円の中へと飲まれ、そして光は宙に溶けるように消えてしまった。
「撃ち方止め。ち、逃したか……クソ、この銃じゃ威力が足んねぇな」
その号令で団員は銃を下ろし、老人は腰をさすりながら振り返って大きな傷のある口元を歪めて二人に笑いかける。
「さて、あんなバケモンども相手によく頑張ったじゃねーかボウズたち、怪我は平気かよ?」
呆然としていたシロウは、そんな彼の言葉でハッとする。
壁にもたれ掛かるように気絶していたガッツはいつの間にか一人の女性隊員が頭に包帯を巻いたりと治療を施していた。
自分たちの方にも救急箱を持った隊員が近付いて来るのを手で静止し、シロウは悲鳴のような声を上げた。
「お、俺達は大丈夫です! それより、あっちの、で、でかい怪物、の、怪物の中にッ! 女子生徒たちが……ッ!」
口に出しながら、彼の目からは滂沱の涙が溢れだす。伝えるべき事はまだあるのに、喉がつかえてうまく喋れない。
それを察したセタンタは素早く身を起こし、引き継ぐように怒号を上げた。
「アレだアレッ!! あの怪物どもはアレで人間を怪物に作り変えると言っていた! 早くしないと間に合わなくなるッ!!!」
セタンタの言葉に、戦闘終了で安堵しかけていた団員たちがギョッとして石室の奥を注目した。
「は、ハァ!? マジか、ピクリともしねぇから死体かと思ってたが……おい、お前ら聞いたならアレの腹を割いて出してやれ!」
血相を変えた彼が指示を出すが早いか、刃物を持った団員たちが石室の奥に鎮座する物言わぬ怪物たちに殺到する。
シロウたちもギクリーに付き添われながらそれに続く。
「中身に気ィつけろ、慎重にやれよ!」
まるで卵の様な形に膨れ上がった怪物の巨体が並ぶ一角に集まった団員たちはその一つ一つの前に立ち、慎重に刃を向ける。
「頼むから生きててくれよ――ッ!?」
団員の一人が目の前の怪物の腹へ少し切れ込みを入れると、風船が破裂するかのように臓物と血が吹き出しその場にぶちまけられる。
飛び散る生臭い飛沫に近くにいた一同は、咄嗟に顔を手で覆いつつも、床に飛び出したものへ視線を向ける。
周囲からも連続して破裂音が響き、石造りの床はあっという間に血と臓物の海となって行く。……そして。
「こ、これは……」
「……こりゃあ、ひでェな」
「――――――――――」
「――――――――――」
シロウとセタンタは、思わず絶句する。
臓物とともに床へ投げ出されたそれらは、かろうじてではあるが人の形を保ってはいた。
しかし半端に変異が進行した結果だろうか、それらの体は血塗られた肌色と出来かけの柔らかな鱗状の皮膚とのまだら模様だった。
手足も人間のそれと、硬質な鉤爪が入り交じる異形となっている。
――そして何より。
「息を、していないっ! 心肺蘇生ッ!」
「イチ、ニッ、サン、シ、ゴ――――――」
心臓マッサージの掛け声が響く中、シロウは足元が崩れ落ちるような感覚に陥っていた。自失して膝をついた彼の目は、ただただ心臓マッサージで揺れ動く少女たち
そんなシロウの様子を、セタンタは沈痛な表情で見つめる。かける言葉が、見つからなかった。
「ダメだっ、逝くな!! まだ若いだろッ、人生まだまだこれからなんだろッ!!! 体だって、きっと治るから! 治るからッ!!!」
(ああそうか。この人たちも、形は違えど怪人のせいで身内を……)
必死の形相で心臓マッサージをする団員たちの目にも涙が浮かんでいるのを見て、セタンタは他人事のように思った。
まるで頭が働かない。彼も当然、覚悟はしていたつもりだった。
自分が死んでもシロウ達を逃がそうと言う極限の覚悟まで固めたばかりだ。状況からして、彼女らが助からない可能性も考えていた。
なのに、なのにだ。
「こんなの、あんまりじゃねェかっ……!!!」
――ダンッ!
血の池ができた石の床にセタンタが遣る瀬無さをぶつけた――その時だった。
「――――――――!!! 息を吹き返したぞ!!!」
救助に当たっていた団員の一人がそんな声を上げた。
シロウとセタンタの表情に、僅かな光が宿る。
「けほっ……けほっ……! おえっ……」
むせ返る少女の声を耳にしたシロウが弾かれたように立ち上がる。見守る団員を押し退け、息を吹き返した少女の元に走る。
そして。
「ハナさんッ!」
「シ、ロウ、くん……? 私……」
抱きすくめられ、ハナは目を薄らと開ける。
「声を……聞いたの。おまえは、生まれ変わる、って」
「無理に喋らなくていいよ、今は安静に……!!」
ハナは弱々しい力でシロウを抱き返しながら、か細い声で言う。
「ねえ、シロウくん、私……私……」
「いいんだ、大丈夫だから……ッ!」
彼女は、声を震わせながらシロウの胸を押し返し、涙に濡れた彼の顔を見上げる。
「私は今、どんな、姿なの……?」
「――――――――――」
息を飲み、言葉に詰まるシロウ。ぽたり、ぽたりと頬に落ちる雫の感触を確かめながら、彼女は静かに彼の目をのぞき込んだ。
やがて、彼女は静かに目を伏せる。
「……そう、バケモノになっちゃったんだね、私」
「――ッ、違う!」
シロウの潤んだ瞳に映った姿は、彼女の知る自身の姿とあまりにもかけ離れていた。他の女子生徒に比べて早いタイミングで飲み込まれたせいか、明らかに変異した部位が広い。
首から下に至っては、尻尾が無い以外はほぼ完全に蛇人族の肉体が完成してしまっている。顔も概ね左側、そして眉から上がかろうじて人間の皮膚をしているだけで、殆どが鱗で覆われていた。
口元に至っては完全に蛇人族のそれであり、鋭い牙の間から細長い舌が蠢いている。
「……ごめんね、きもちわるいよね」
「……………………」
涙を堪えるように震える彼女の姿に、シロウは強く握りしめた拳で涙を拭うと、彼女の肩に手を置いた。
「俺、ハナさんに伝えたいことがあるんだ」
「……なあに?」
ハナが涙に濡れた目を開くと、目の前には真剣な表情でまっすぐと彼女の縦に割れた瞳孔を覗き込むシロウの姿があった。
彼はすっと息を吸い込むと、意を決したように口を開く。
「ホントは、あの展望台で……夜空を見ながら伝えたいって思ってたんだけど。俺、俺……」
「ハナさんの事が、好きです。俺の恋人になってくれませんか」
一瞬、言葉に詰まりながらも、彼は今度こそ最後まで言い切った。
一世一代どころか前世から持ち越し二世二代の告白を受けたハナは、しばらくの間呆然としてシロウを見上げていたが、やがて口元に小さく笑みを浮かべた。
「……うれしい」
左右で形の違う彼女の目から雫がこぼれ落ちた。
「きっと伝えてくれる、って信じてたよ。でもね、私こんなになっちゃったから、もういいやって思ってた」
ぽろり、ぽろりと涙はとめどなく流れ続ける。
「こんな姿でも、好きだって言ってくれたから。私、もう……うんっ、お返事、言うね?」
「あっ、ああ……!」
滑らかな鱗の生えた手の甲で涙を拭うと、彼女は緊張した様子のシロウをまっすぐに見つめ返す。
「告白してくれて、本当にありがとう。でも……」
彼女は少し言い淀むが、やがて意を決したように口を開いた。
「ごめんなさい、おつきあいはできません」
「……………………え?」
予想外の返答にシロウが固まるのを見て、ハナは小さく笑う。
「シロウくんにはちゃんとした女の子と幸せになって欲しいから、私のことは忘れてください。大丈夫、シロウくんなら彼女もすぐにできるよ、色々教えた私が保証して――」
「嫌だ」
そんな言葉を、シロウは遮った。
「……初恋なんだ。しかも一回目の、だよ。それがようやく叶いそうなのに、諦めたりできない。俺はハナさんじゃなきゃ嫌だ」
「……でも私は、もう、こんなだよ?」
「関係ないよ、俺は絶対に諦めないから。ハナさんが折れるまで、ずっと待ち続けるから」
頑として譲らない彼に、ハナは涙を流しながら笑った。
「……ふふ。あはは、シロウくんって奥手でシャイなのに、変な所で頑なだよね」
「よく言われる」
照れたように頬を掻くシロウの姿に、彼女は目を細めて言った。
「じゃあ……いつか元に戻れた時、まだ私のこと好きでいてくれたなら、もう一度告白して? そうしたら、きっと私もちゃんと返事ができる、から……」
「……わかった。俺も、ずっと待ってる。君が元に戻れるよう、全力を尽くすよ」
慌ただしく救助が進められる石室の中、鱗で包まれた手を優しく握りながら、彼はそんな誓いを立てた。
・蛇人族の戦士・精鋭(推定災害レベル:狼〜虎)
黒曜石の剣、短剣、槍をそれぞれ装備した蛇人族の戦士たち。
異種族との闘争を生き延び、さらに同族との殺し合いの中で勝ち残ってきた12体の精鋭。最後の一体まで蠱毒が続き、霊薬を与えられていれば災害レベル:鬼相当まで強くなっていた。
・蛇人族の神官(推定災害レベル:【本体】虎/【杖装備】鬼)
特殊な杖を装備した、蛇人族で唯一の神官。
杖を介して魔術を使うことができ、攻防ともに優れる。
しかしヘビガミ降臨の為にも魔力は必要な上に全体的に燃費が悪く、魔力のチャージには特殊な刻印がされた黒曜石の武器によって命を収集する必要があるので無駄遣いは禁物。
【霧の結界】:視界と音、更には電波まで遮断する効果と、更には中に入った者を外に出さない仕組みまである。
【精神の拳】:ヨグソトースの拳(直球)。これ自体にダメージはないが、精神に直接作用し気絶させる(抵抗可能)のと、吹き飛ばして壁などにぶつければ大ダメージが入る。
【保護結界】:肉体の保護(直球)。込めた魔力に比例する強度の小さな結界を張り、攻撃を防ぐ。
【門の創造】:門の創造(直球)。長距離テレポーテーションを可能とする“門”を開く。本家と違い時空を超えることはできないが、発動に掛かる時間は短い。
・アクセル(ワンパンマン原作キャラ)
まだハンターズの団長になっていない、若き才能。
ガッツたちとさほど変わらない年齢ながら高い戦闘能力を持つ……つまり既にベテランに近いくらい復讐者歴が長い(悲惨)
当時の新装備である高周波ブレードは即壊れるポンコツだったが結界を切り裂く威力を見せた。
・ギクリー(非転生者)
オリジナルのハンターズ先代団長、強いジジイ枠。
結構な高齢ながら肉体は屈強、四肢の内右手と左足がサイボーグ化してもなお戦場に身を置く歴戦の強者といった風格の老人。
若い頃に突発的に発生した怪人によって妻を奪われた復讐者。
本編時間軸では既に引退しており……その理由は名前の通り。
次回予告
(BGM:Behelit)
引き裂かれた心も 体の傷も 月日だけが癒やす事ができる
取り零した命を嘆くよりも 守り抜いたそれを離さぬことが
その傷跡を過ぎ去りし過去へと変えてくれるだろう
人は歩みを止めぬ限り いつか未来へとたどり着けるのだから
次回、転生伝奇ONEPUNCHMAN~青春時代編~『傷を抱えて』
(CV:石塚運昇)