【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】   作:Nyarlan

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5-傷を抱えて

「誰かッ、生きてるやつは居ねえのかーッ!」

 

 頭に包帯を巻いたガッツの声が荒れ果てた山荘の中に木霊する。

 

「もう怪物は1匹もいない! 外部からの救助も来た!」

 

 セタンタもまた声を張り上げながら、一夜にして廃墟と化した建物の中を進む。ハンターズの団員たちも犠牲者の運び出しと生存者の捜索を進めていた。

 ハンターズの面々に休んでいるように言われた二人――特にガッツは強く言われた――は、友人が心配だからと強引に作業へ加わっていた。

 

「ダメだ、二階に生存者は――」「人数が少し合わない、もしかしたら山の方へ逃げおおせた人も――」

 

 そんな団員たちの声を聞きつつ、ガッツは山荘を駆け回っていた。

 

 ――首を裂かれ廊下に倒れたクラスメイトがいた。

 ――クローゼットの中で何度も刃物を突き刺されて息絶えた野球部の仲間がいた。

 ――ドアが打ち破られたトイレの個室の中でうずくまる背中を貫かれた友人がいた。

 

 見知った顔の(むくろ)を見るたび、彼の心には張り裂けるような悲しみと煮え滾るような憎悪が募ってゆく。

 

(……クソッ、どこかあの蛇野郎共が入れないような隠れ場所はなかったのか!? 誰か、生き残りはいないのか……!)

 

――カタリ。

 

「……!」

 

 1階の死角となりそうな場所を走っている時、ガッツの耳は小さな物音を捉えた。物音を追って入った先は調理場だった。

 床には食材や食器が散乱しており、業務用の冷蔵庫も横倒しになる程に荒らされた形跡が見られる。

 

「誰か、いるのか!」

 

 林間学校のためにやってくる学生を相手にするため数人で作業できるやや広めのスペースながら、あまり隠れるような場所があるようには見えなかった。

 

 ――ドン、ドン。

 

「…………!!」

 

 今度ははっきりと聞こえた。音の出処は業務用冷蔵庫の下らしく、彼は中身がぶちまけられてなお重いそれを渾身の力で引き起こす。

 

「ぐ……おおあ゙ッ!!!

 

 ミシミシと傷だらけの体が悲鳴を上げるのを無視し、ガッツは倒れた冷蔵庫を起き上がらせる。壁に当たったそれが轟音を立てるのに目もくれず、彼は床に目を凝らす……すると。

 

ハァ……ハァ……これ、は……?」

 

 冷蔵庫の下敷きになっていたのは、蓋のような何か。彼が取っ手に手をかけ持ち上げると――冷気が舞い上がった。

 

(……ワイン、セラー?)

 

 床収納を改造した、極小サイズのワインセラーだった。

 大きめの水槽ほどの大きさしかないその一角にはずらりとワインが並べられた戸棚があり、その反対側には辛うじて人が立てるほどの――おそらくワインの出し入れに降りるための空間があった。

 

 人がしゃがんで入ってすら蓋がギリギリ閉まらないであろう僅かな空間に、カーペットにくるまった何かが小刻みに震えている。

 ガッツが意を決してそのカーペットを持ち上げると――その下から現れた埃まみれの金色がびくりと震えた。

 

「あ……ああ……っ!」

 

 彼がワナワナと震えながら膝を付くと、その金色のポニーテールはゆっくりと振り返り、泣きはらした赤い目を大きく見開く。

 

「――う、あああああん! ガッツぅ!!!

 

 乾いた涙と鼻水でガサガサになった顔を更にしわくちゃにしながら、少女――エイコはへたり込むガッツに飛びついた。

 

「お前っ、無事だったのか……!!」

「みんなが、みんながっ!! トカゲの、怪物に……っ!」

 

 彼女はひとしきりガッツの胸元で泣き終えると、やがてぽつりぽつりと経緯を語り始める。

 

 一階にいる時に蛇人族の襲来が起こり、たまたま近くにあった調理室へと逃げ込んだこと。

 

 偶然見つけたこの収納に逃げ込んだ結果、見つかることなくやり過ごすことができたこと。

 

 収納はワインセラーとして改造されていたため空調が通っており、酸欠にこそならなかったものの気温が低く冷風が常に背中に当たって凍えたこと。

 

 そして怪物が暴れたせいで入り口に蓋をされ、外が静かになってからも出ることが出来ずにいたこと。

 

「ぐすっ、誰にも見つけてもらえなかったら、私、一人ぼっちで凍え死んだ挙句にミイラになってたよぉ……」

 

 蛇人族たちもこの中に人がいるとは思わなかったのだろう。他でもない、校内でも随一の小ささの彼女だからこその隠れ場所だった。

 

「まあ、ここに入れたのは幸運だったな。でなきゃ今頃……」

「っ、やっぱり、他のみんなは……その……」

 

 そう言って目を伏せたガッツに、エイコは言葉を詰まらせる。

 

「……ああ、今のところ男連中で生き残ったのはオレとセタンタ、シロウの三人……女子はお前と……ハナの二人だ」

「そ、そんなっ……! そんな事って……ッ!」

 

 知らされた残酷な事実に、彼女自身枯れ果てたと思いこんでいた涙が再びじわりと滲んでくる。

 

「……オレだって、信じたくなかったさ」

 

 エイコの青ざめた顔を伝い落ちてはポタポタと床を濡らす涙を悄然と見つめながら、ガッツはポツリとこぼす。

 

 ――人から怪物へ体を作り替えるという、考えるだけでも(おぞ)ましい変異の半ばで放り出された人々は、単体での生存に耐え得る体をしていなかった。

 

 救出に当たった団員たちの必死の救護も虚しく、そのまま眠るように息を引き取った。

 反面、怪物として完成してしまったなら、今度は人としての意識を奪われていただろう。というのは、実際に体を作り替えられる中で何者かの声を聞いたというハナの言だ。

 

 人の心を残し、なおかつ生存に耐える得る段階で助け出された彼女は、まさに神がかり的なタイミングだったと言える。

 

「そんな場所に隠れてたなら体も冷えたろ。救助の人間が来てるから、保護してもらいにいくぞ……立てるか?」

「――ぐすっ、だでない

 

「……よし、任せろ」

 

 ガッツはえぐえぐ泣き続けるエイコの冷えきった小さな体をそっと抱え上げると、ハンターズが臨時で構えた救護拠点へと運んだ。

 

 ――その後、ハンターズを中心とした捜索は続けられたが、結局生存者として保護されたのはエイコが最後の一人となってしまった。

 

 

 

 


 

 ――怪人災害は年を経るごとに増加している。

 

 この悲劇は現在に至るまでの怪人災害全般からすれば死傷者数、被害総額からみてもそこまで大きな事件ではない。

 しかし、“N市学生生贄事件”と呼ばれるこの怪人災害は、当時の人々に非常に大きな衝撃を与えた。

 なぜならば、それ以前の人々の知る“怪人”あるいは“怪獣”といった存在は基本的に『人類生存圏の外』の脅威であり、それらから人類を守る境界防衛軍(Boundary Defense Army)(以下BDA)以外にとっては対岸の火事でしかなかったからだ。

 当時でもごく希に街中で人間(いじょうしゃ)が変じた怪人が誕生する事はあれど、それも無作為に暴れてはすぐに警察などによって排除される程度のものだった。

 

 ――故に、人類の生存圏内で起こされた明確な害意を持つ異種族による殺戮行為は、人々に大きな衝撃を与えたのだ。

 当時のBDAは、役割を果たせずみすみす異種族の侵入、侵略を許したとして『怠慢である』と相当にバッシングを受けた。事件の僅かな生存者や、対処に当たった賞金稼ぎ(バウンティハンター)の一団が『空間転移を行う怪人』の証言を行っていなければ、その炎上がどれほど長引いたか想像もつかない程だ。

 

 林間学校を楽しんでいた生徒たち及び引率の教師、そして施設管理者の内、生存者がたった五名。

 それも一名は取り返しのつかない後遺症を負ったとされるこの痛ましい事件を期に境界の防衛だけではなく人類生存圏の内部にも対怪人・怪獣を想定した戦力を設置すべきという論調が高まり、後にアゴーニ氏がヒーロー協会を設立する“さきがけ”になったとも言われている。

 

――書籍『怪人災害の歴史』より引用。

 


 

 

 

 

 

「本当に大丈夫なのかしら、研究所なんて」

「……A市の一番大きな病院でもお手上げだったんだ。せっかく話を持ってきてくれたのだし、ここへ頼るほかない」

 

 特別生物保護研究所(Special Creatures Preserve laboratory)という看板を掲げた巨大な門の前に、沈痛な面持ちで立つ者たちがいた。

 その内の大半は、あの痛ましい事件の生存者たちだ。あれから一週間が経ち、ようやく彼らもある程度は心の平静を取り戻しつつある。

 

お父さん、お母さん。私は大丈夫だから……それに、みんなもついてきてくれたし、ね?

 

 ぎちりと車椅子を鳴らしながら、左目を除く顔と衣服からはみ出した腕などを全て包帯で覆った人物――ハナが掠れた声で言う。

 

「そう、だな……いや、改めて礼を言わせて欲しい、娘のためにここまで付き添ってもらって……君たちも怪我が辛かろうに」

 

 彼女の父親が憔悴した様相で頭を下げると、対面にいたシロウは静かに首を横に振り口を開いた。

 

「頭を上げて下さい。……ハナさんは俺の目の前で攫われました。ハナさんがこうなってしまったのは俺が弱かったせいなんです」

ちがう! シロウくんのせいなんかじゃ――

 

 それに否定の声を上げるハナを、彼の隣に立つガッツたちの視線がやんわりと止める。

 

「だから、せめてハナが治療のために入る研究所がどんな場所なのか。それだけでも見届けさせていただけませんか」

「……本当に、ありがとうございます。ハナ、いい友達を持ったわねぇ」

 

 ハナの父母は、シロウの言葉に目元を押さえて涙ぐむ。

 そんな二人の前にちょこちょこと小さな影が駆け寄ると、口元に手を当てて口を開けた。

 

「おじさんおばさん、シロウくんはハナちゃんのお友達じゃなくて、恋人なんですよ、なんでも――」

ちちちょっとエイコ!? 何をいきなりっ……あああのねお父さん、ま、まだだから! 保留中だからっ!

 

 そう言ってエイコの言葉を慌てて遮るハナに、彼らを包み込んでいた重苦しい雰囲気は幾分か軽くなった気がした。

 

「ハナが目を覚した時、いの一番に駆け寄って人前で一世一代の大告白をしたんだよなぁ、シロウ?」 

 

 追撃するように言葉を足すセタンタにシロウは真っ赤になってうつむきながら、コクリと頷く。

 

「夏前からほとんどカップルみたいな振る舞いだったのに、コイツがヘタレでなかなか告白できずにいたんですよ」

「ぐっ、ヘタレで悪かったな……!」

 

 笑みを浮かべたガッツに肘で突かれてよろめきつつ、シロウが赤い顔を更に赤くしながら抗議するのを見て、ハナの父は顔を袖で拭いながら「おおん」と男泣きし、母親も「あらまあ、娘をよろしくお願いします」と頭を下げ始めた。

 

ああんもうお母さんったらっ……! き、気にしなくていいからねっ、シロウくん!

 

 唯一露出した左目周辺の皮膚を羞恥で真っ赤にしながらそう言うハナに、シロウは赤面したまま首を横に振った。

 

「いいえ、俺なんかじゃ頼りないかもしれませんけど、精一杯ハナさんの助けになりたいと思ってます」

シャイボーイだったシロウくんはどこ行っちゃったのかなっ!? もう、インターホン押すからね!

 

 照れた様子の彼女は、背伸びして研究所のインターホンを鳴らしてしまった。彼らがつい先程まで感じていた不安は、不思議とどこかへと行ってしまったようだった。

 

〘はあい……あ、間違えた〙

「……うん?」

 

 ピンポン、というインターホンのあとに応答したのは、幼い少女の声だった。直後にパタパタという走り去る音が聞こえたかと思うと、今度はしわがれた老人の声がインターホンに応じた。

 

〘……失礼。ハナさんと、そのご両親ですね。ただいま門を開けますのでしばらくお待ちください。案内の者をやりますので〙

 

 そう言ってプツリと音声が途切れると、門が音を立てて開き始める。一同が意を決してその内側へと踏み込んで待っていると、やがて白衣を身にまとった明るい金髪の少女二人が小走りにやってきた。

 少女たちは来訪者たちの顔をぐるりと見渡し、手を胸に当てて緩やかに会釈する。

 意図的なものか、余らせた白衣の袖がふわりと揺れた。

 

「ようこそ特別(S)生物(C)保護(P)研究所へ」「所長のブライト博士に代わって案内します」

 

 どこか表情が乏しいながらも小さく愛らしいうり二つの少女たちに、可愛いもの好きなエイコが思わず破顔する。

 

「ひゃわっかわいい! そっくりだね、双子ちゃんかな!?」

「ええ、私達は双子の姉妹で」「ブライト博士の孫です」

 

 そう答えた姉妹は、ちらりとガッツたち三人を見ると歩き出す。

 

「どうぞ」「こちらへ」

 

 その意味深な視線にガッツたちは顔を見合わせるが、そのまま後をついて歩き始めた。

 

 

 

「ようこそ、我が研究所へ」

 

 双子の少女に連れられて一行が通された応接間で待っていたのは、杖を突いた一人の老人と――。

 

「………っ!?」

 

 その老人の横に佇む、神秘的な雰囲気さえ感じさせる純白の女性。

 白い衣装から伸びる四本の腕は柔らかそうな白い毛に覆われており、背中からは無造作に広げられた純白の翅。

 

 そして白く柔らかそうな頭髪からは櫛のような形をした特徴的な触覚が一対生えており、その全体的なシルエットは正に。

 

「蚕の、怪人……!?」

〘おや、正解だ〙

 

 そう答えたのは、目の前の彼女であろうことはシロウ達にもわかった。しかしその口元は微笑んだまま微動だにせず、声が頭に直接響くという奇妙な感覚を味わうこととなった。

 

〘私はオシロ、無害でか弱く儚い蚕の怪人さ。だから妙な気は起こさないで欲しい、死ぬよ? 私が〙

 

 自慢じゃないがそこの小さなお嬢さんにも負ける自信があるよ、と本当に自慢にならない事でその豊満な胸を張るオシロに一同は思わず脱力する。

 

「おや、オシロくん。何やらゴキゲンだな?」

〘そりゃあそうさ。なにせ、ここにやってきて初めてのお仲間だ、テンションが上がらない訳がないだろう?〙

 

 老人の言葉に、彼女は車椅子に座るハナに微笑みかける。

 

〘……さて、濁しても仕方がないからハッキリと言おうか。私がここに来て二年経つが、未だに人間へ戻れる道筋は見えていない〙

……ッ!

 

 ……彼らが縋った一縷の希望を打ち砕く事実。それを開口一番で言い放ったオシロに、一同は思わず顔を引き攣らせる。

 その反応を意に介さず、彼女は言葉を続けた。

 

〘だが、ここで待つ以外に選択肢はないのさ。なにせ、私は点滴でしか栄養を摂れない身だからね〙

っ、そんな……

 

 そんな事実を事も無げに明かすオシロ。

 

〘おっと、同情を引きたくていったわけじゃあない、ただの事実さ。つまりだね、この研究所の中なら私みたいな生物学的社会不適合者ですら一定の自由を得られる。なにより、生存を赦される〙

 

 理由が何であろうと、怪人となった者に待ち受ける結末は“死”しかない。怪人化のプロセスは未だ謎に包まれており、変化した者の多くは抗いがたい他害衝動に駆られるとされる。

 その上、大半が武装した人間を生身で軽々と打倒し得る力を持っていると来た。

 故に怪人は、変異したその時点から排除の対象となるのは、彼らもよく知る世間の常識だ。

 

〘私は、幸運にもとある議員の一人娘でね。変異してすぐに匿われ、ここへ来るまでの徹頭徹尾身内にしか見られていない。故に私は今生きている、それがどういう事か理解できるだろう?〙

 

…………はい

 

 初めから、選択肢など無かったのだ。通常の変異プロセスとは違えど、彼女の姿は怪人以外の何者でもない。

 ここまで無事に来られたのは世間から見た彼女が自然と変異した者(精神異常者)ではなく怪人による被害者であること、そして徹底的に姿を隠してきたからだ。

 

〘最終的な結論は君次第だが、私はここへ入所することを強く推奨する。ついでに言わせてもらえば人間に戻る手段が生まれるとすれば、この研究所からに他ならないだろうね。なぜなら人間としてはともかく、科学者としては最高クラスの人材が何人も揃っているんだから……っと、このくらいでいいかな? 博士〙

 

「はっは、一言余計だが、伝えてほしいことは全部言ってくれたね。ありがとうオシロくん、もう部屋へ戻っても構わないよ」

〘ああ、そうさせてもらうよ。長話ならぬ長テレパシーも案外と疲れるからね〙

 

 ブライト博士がそう言うと、オシロはゆったりとした動きで出口へと向かい始める。

 

〘ま、ようやく現れた同類だ、仲良くしてくれると嬉しいかな〙

 

 そう言い残して、彼女は部屋を去っていった。ドアが閉まる音を残し部屋に静けさが訪れて数秒後、老人が口を開く。

 

「……さて、改めて自己紹介しよう、私は当研究所所長のブライトだ。いきなりで驚いたろうが、私自身が語るより同じ境遇の彼女に語ってもらう方が説得力があるかと思ってね。事前に頼んでおいたのさ」

 

……はい、なんとなく、実感が湧いてきました

 

 ブライトの言葉に、ハナは声を震わせながら頷いた。怪人という立場の危うさに、彼女は改めて気付かされた気分だった。

 

「私としても、治療薬の研究に協力してほしいとは思っているがね。重ねて言うが結論を出すのは君自身さ」

「あの、定期的な娘との面会は可能でしょうか……?」

 

 ハナの母が尋ねると、ブライトは頷いた。

 

「事前に連絡さえ貰えればいつでも構わないよ。あと、研究にある程度の協力をしてもらう前提ではあるが生活費用はこちら持とう」

 

「研究への協力とは――」

 

「基本的には人間ドックで行う内容と大差ない。いずれ治療薬の完成が近付いてくれば、治験の依頼も――」

 

 

 

……わかりました。このお話、受けさせていただけますか?

 

 それからしばらくの話し合いの結果、ハナは研究所で保護されることを決意し、彼女の両親もまたそれに同意した。

 

「そう言ってもらえるとこちらも助かるよ。ああ、既に部屋は用意してあるからご両親ともども見て行くといい、私物の運び込みはこちらも車両を――」

 

 話が円満にまとまり、付き添いで来たシロウたちは安堵のため息をついた。そんな彼らの元に、ブライトの孫を名乗る姉妹がトコトコと歩いてくると。

 

「お兄さんたちにご用事です」「会ってほしい方がいます」

「オレ達に用事……一体誰が?」

 

 白衣の姉妹に妙な違和感を覚えている三人は、少々面食らった様子で顔を見合わせた。余った白衣の袖でくいくいと手招きする少女に、一同はついていこうとする……が、もう一人の少女がエイコの腕にそっとしがみついた。

 

「おねーさんはここでお待ちください」

「え、私は駄目なの? 一人だと手持ち無沙汰なんだけど……」

 

 彼女がそう言うと、少女は口元に手をやって考える素振りを見せると、やがて袖をばさりと翻して大きく両手を広げエイコにひしっと抱きついた。

 

「わたしがギュッとしてあげます。幼女せらぴーです」

「ひゃわわっ!?」

 

 姉妹の片割れが笑みを浮かべたエイコに頭を撫でられているのを後目に、ガッツたちはもう一人の少女に導かれ部屋を後にする。

 

 

 

「なあ、一体俺らに会いたいってのは誰なんだ?」

 

 部屋を出て無言で歩く少女に、そんな疑問が突いて出る。

 

「――それは会ってからのお楽しみさ。君たちが私の想定通りの存在であれば、きっと驚くだろうね」

「……え?」

 

 少女はそう言ってセタンタの質問をはぐらかす――その口調と表情の変化に、三人は思わず戸惑い顔を見合わせる。

 

「さあ、この扉の先で“彼”が待っているよ」

 

 たどり着いた扉は、応接間からさほど離れていない。

 先程まで表情の乏しい印象だったその少女は、祖父であるブライトそっくりの胡散臭い笑顔で彼らに笑いかける。

 それに対して三人はどこか気味の悪いものを感じながらも、その扉に手をかけた。

 

「……………っ」

 

 意を決したセタンタがガチャリと開け放った扉の先には、机と椅子が立ち並ぶ会議室のようである。

 部屋の中央に立つ大きな人影に、三人は目を見開いた。

 

 既に190近い長身を誇るガッツをして見上げる程の巨躯。

巌を思わせる筋骨隆々とした鋼の肉体、金の触覚を思わせる特徴的な髪型、そして彫りの深い面立ちと、えも言われぬ力強さを感じさせる澄んだ青い眼光。

 

 ――三人は、彼のことを知っている。

 

 特にセタンタとガッツは、先日画面越しに目にしたばかりだ。

 彼らの前世において、読者でなくとも視界に入れた事のあるくらいの知名度を持つ有名少年漫画雑誌(JUMP)の看板作品の一つ、その()ともいえるその人物(キャラクター)の名は――。

 

「オール、マイト……!?」

 

 “僕のヒーローアカデミア”の主人公の師にして、押しも押されもせぬ最強最優最高のヒーロー、オールマイト。

 それが、見慣れた力強い笑みを湛えて佇んでいた。

 

「少年たち、よく来てくれた。できればもっと違ったきっかけで出会いたかったところだけど、ね。君たちだけでも、無事で良かったよ」

 

 人を安堵させるような穏やかな笑みを僅かに陰らせ、ヒーローはそう言った。そんな言葉に、ガッツは反射的に歯を食いしばる。

 

「無事、だ? あんな事があって、何が無事だ……! アンタヒーローなんだろ、なんであの時ッ……!!」

「よせ、ガッツ」

 

 セタンタが咄嗟に静止すると、彼は大きく息を吐きながら目を伏せる。オールマイトはその痛ましさに顔を歪め、深々と頭を下げた。

 

「すまない、無神経な発言だった」

「……癇癪起こしたガキの八つ当たりだ。悪かった」

 

 そんな謝罪の言葉に、ガッツはバツが悪そうに吐き捨てると、その場に気まずい沈黙が訪れる。

 

 こうして対面しているだけで、三人は目の前の男の強さをひしひしと感じ取っていた。仮にあの場にこの男がいれば。自分たちに彼ほど……あるいは()()と遜色ない力があれば。

 そんな無意味な仮定をせずにはいられない程度には、彼らの心は未だにささくれ立っていた。

 

「――それで、要件というのは? 概ね予想はつくが」

 

 シロウが沈黙を破って話を本筋へと戻すと、オールマイトは小さく咳払いをして口を開いた。

 

「ああ、話を逸らしてしまって申し訳ない。君たちへの要件というのは、我々の()()()について確認するためさ。つまり――」

「俺たちが()()()かどうかの確認って訳か」

 

 彼の言葉を、セタンタが続ける。想定していた内容ではあるが、自分たちの根底に触れる発言に横に立つ二人は思わず目を細める。

 その発言を受けたオールマイトは、横に立つ少女と目配せしつつ大きく頷いた。

 

「正解だ。さて、私は『僕のヒーローアカデミア』の“オールマイト”こと八木俊典(やぎとしのり)の姿を借り受けた転生者だ」

 

「そして私が『SCP Foundation(財団)』より“Dr.ブライト”の転生者……と言っても、反応からして私の事は知らないようだがね?」

 

 オールマイトの姿をした転生者と、その横に立つ少女はそう名乗りを上げる。祖父と同じ名前を堂々と名乗った少女は完全に擬態をやめた様子でにやりと笑う。

 

「君たちを呼び出したのは、何も自己紹介がしたかった訳じゃあない。この世界で生きて行く上で、耳に入れておきたい情報が二つあるのさ」

「耳に入れておきたい、情報?」

 

 祖父だという男と同じ名を名乗った少女の言葉を、セタンタが無意識に復唱すると、彼女は大きく頷いた。

 

「一つは、ここが『ワンパンマン』の世界であること。我々も()()()()()に出会うまではそれに気付けなかったからね」

「ワンパンマン……なるほど。この世界に怪人やら怪物が当たり前のように出るのはそういう事だったのか」

 

 ガッツが納得したように頷くと、オールマイトはそれに追加情報を付け加えた。

 

「ちなみに今は原作開始の約十年前となる。八年ほど前に私が出会ったタツマキ少女は当時十歳だったからね」

 

 十年、という数字にセタンタとシロウは思わず眉を顰める。蛇の神官が言っていた時期と概ね重なるからだ。

 その反応にどう思ったのか、白衣の少女は顎に手をやりながら口を開き、問いかける。

 

「『ワンパンマン』という作品についてだが、解説が必要な者は? これを知らないと、もう一つの情報の解像度が大幅に下がるんだが」

 

 三人が揃えて首を横に振ると、少女は満足したように頷いた。

 

「よろしい、では二つ目の情報だ。ここがワンパンマンの世界でありどの時期に当たるかを知った時、私は好奇心からある人物の所在を調べてみたのさ。ところが、その人物は見つからなかった」

 

「そんなハズがない! と、まあ私の持つコネの限りを尽くして、A市からZ市まで戸籍リスト全てに目を通す勢いで調べた結果……彼はどこにもいないという事実を突きつけられたのさ」

 

 そう言って、少女は困ったなぁといった表情で肩を竦めながらわざとらしく溜息をついた。

 

「……んで、それは誰なんだよ? そんな重要なのかそれ」

 

 焦れたようにガッツが聞くと、少女はあっけらかんと言い放つ。

 

「もちろん、だって()()()()()がいないと困るだろう? 特にこの世界だと……ねぇ?」

「……は?

 

「代りに転生者がそこそこ出てきてるけど、彼の代わりが務まるようなトンデモチートキャラは今の所一人もいないんだよねぇ……困った困った」

 

「「「はああああああああああああああああッ!?」」」

 

 このワンパンマンの世界を原作主人公( ハゲ )不在(抜き)のまま、本来居ないはずの者たち(転生者マシマシ)で切り抜ける必要があるかもしれないのだという、爆弾発言を。 

 

 


 

 

・ハナ(非転生者)

書き始めた時は死んでもらう予定だったが生き延びた。

怪人化させられた事で折れかけた心を辛うじて繋ぎ止めることができた。シロウの告白がなければ自ら死を選ぶことすら考えていた。

それでも異形化した自分の姿は嫌悪しており、心を許したごく一部の人間以外には姿を見せることはない。

そのため研究所に保護されているもののオシロさんやアリアちゃんとちがってその存在すら知らない転生者が多い。

シロウの事は信じているが、もし彼に他に恋人が出来たとしても笑顔で送り出すくらいの覚悟はしているし、歳を重ねるごとにもう私は置いといて幸せになってもいいんだよ、という思いも深まる。

夢は、いつか元の姿でシロウの告白されたら今度こそ受け入れる事。

 

・エイコ(非転生者)

書き始めた時は(ry 清書する段階で可愛くなってきたせいで殺せなかったし異形化すらさせられなかった、不覚。モブ班員A子の癖に。

ヒロイン化する予定とかは別にない。ないが、書いてて微妙に愛着が出てきちゃったんだよなぁ!

ゴシップ誌のライターを目指していたけど、今回の経験を経て『怪人』についての正しい情報を世に伝える方向を目指すらしい。

惨劇が繰り返されて欲しくないと思うが故に……。

 

・衛宮士郎の転生者

異形フェチ? 失礼だな、純愛だよ。

二度目の人生にして初めて心底から恋をした男。

容姿も好きだけど、色々遊びに誘ってくれたり、ファッションのこととか教えてもらったりしてる内にハナにベタ惚れ。

十年経った現在時間軸でもハナを一途に想っている。

ハンターズに即入団を申し出たら「せめて高校は出とけ」とギクリーにたしなめられた。

 

・ガッツの転生者

「一番あの件引きずってるのはシロウだろうなぁ」とか言ってたがコイツも大概ブッチブチにブチギレている青春を台無しにされた男。

選んだキャラがキャラだけに復讐者(アヴェンジャー)が似合う。

ハンターズに即入団を(ry

 

・セタンタ(クー・フーリン)の転生者

他の二人が割とアツくなりやすいのでなんかあった時はだいたいコイツが場をまとめる、三人のアニキ的役割の男。貧乏クジを引きがち。

一番冷静ではあるが、コイツも普通にブチブチブチギレ。

ハンター(ry

 

・オールマイトの転生者

ブライト博士と合流済み、多分もっと前から。

もちろん悪気は一切なかったが「ようやくカサブタができ始めそうかな?」くらいの心の傷口をエグる形になってしまい深く反省する。

具体的には数日間ちょっと凹んでいた。

 

・ブライト博士の転生者

本編時空のブライト姉妹(肉体年齢11歳のすがた)とまだ自力で歩けた頃のクローン1号で対応、こういう場では流石にふざけない。

妹個体でエイコに抱きついたのも割と真面目にセラピー効果の為であり、セクハラの意思はない。

セクハラをするならもう少しまともに元気になったガッツたちにやるくらいの分別はある……ものの「ハゲ抜き転生者マシマシ」な現状を教えてメンタルジェットコースターはしっかり体験させた模様。

ブライト本人がこの事実を知った時のリアクションは「そう来たかー」である(SANチェック成功)

ちなみに、調査範囲に無免ライダーの在学する……つまりサイタマが居るハズの中学校はしっかり入っている。

 

・オシロさん(非転生者)

久しぶりの登場、研究所に保護された最初の『無害な怪人』。

ここに出したが為に本編時間軸の実年齢が否応なしにそこそこ+されたこととなる。

〘怪人化の数少ないメリットだが……怪人は老けにくい〙

 

 

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 ざあざあと、風が鬱蒼と生い茂る木々を撫で付ける。

 鬱蒼と生い茂る森の中に、小さく切り拓かれた円形の広場があった。

 広場の中心には円柱上の岩が一つ鎮座しており――その上で、大蛇がとぐろを巻いていた。

 

 ――否、ただの蛇ではない。

 その紫の鱗はとぐろの中央部から滑らかな人肌へと変わり、巨大な上半身は人間の女のような形をしている。

 肌は薄紫、豊満な胸元を黒い布で覆い、肩や腕には豪奢な黄金の装飾を身に着けており。

 その端正な顔立ちは、頭に戴いた髑髏の髪飾りと頭髪の代りに伸びた無数の蛇の恐ろしさをより強調していた。

 

 燦々と降り注ぐ日を浴びながら瞑想を行っていた彼女の(まぶた)がゆっくりとした動きで開かれる。

 

『……これはこれは神官殿、おひさしゅうございます』

 

 目の前に立つ人影を認めると、彼女はその巨体を屈め頭を垂れた。

 それを見て、その人影――蛇の神官は鼻息を鳴らす。

 

よい。(おもて)をあげよガンリキ

『承知しました……して、神官どの。此度はヘビガミ様降臨の儀式のためヒト族の領域へ出向かれていたとの事ですが……!』

 

 隠しきれない期待の眼差しを向ける女――ガンリキに対し、蛇神官は目を伏せて頭を振った。

 

残念ながら、忌々しいニンゲンに阻まれて儀式は失敗に終わったネ

『なんと!? おのれヒト族、鱗も持たぬ猿どもめェ!

 

 その憤りを示すように、彼女の皮膚が黒く染まり鱗が浮き出すのを見て神官は片手を上げそれを諌める。

 

幸いにも十年後に再び星の巡りは整う。今はまだ雌伏の時、ということだネ……万全を期すためにも次はキミたちラミア族の力も借りようと思っているネ

『……はっ。我らが神のため、我が一族の力存分にお使い下さい』

 

 怒りを抑え再び頭を垂れるガンリキに背を向け、蛇神官は大きくため息を漏らす。

 

そこで一つ、大きな問題があるネ。“霊薬”もまた、ニンゲンの手によって喪われた

『霊薬が!? そ、それでは、ヘビガミ様の依代は……!』

……うむ。いくら巣穴に戻り一族を増やし、戦士を育てようとも……ヘビガミ様の強大さゆえ、秘薬の力がなければ器の身体が保たないネ

 

 十年では秘薬の再生産は間に合わない、と蛇神官は零す。

 

『うぬぅ……何か良い方法は……ッ!』

 

 ギェェエエ工!?

 

 ガンリキと蛇神官が頭を悩ませていると、不意に森の中で汚い絶叫が響きわたり二人は顔を上げる。

 

……今のは何だネ?

 

 そのあまりの聞き苦しい声に思わず蛇神官が眉間にシワを寄せ聞くと、彼女は深くため息をついた。

 

『ああ……恐らく今年産まれたグズがまた狩りで失敗したのでしょう。ネズミ1匹捕まえるのに数日もかけるような、一族の恥です』

……そんな有様で未だに餓死していないとは。エサでも与えているのかネ?

『とんでもない、そんなグズに与えるエサなど有りませぬ。……しかしあやつは()()()()だけは一級品でして。飢えに強いばかりか、腹を裂かれようが胸に穴が開こうが放っておけば治るようで』

 

 身内の恥を神官殿に知られてしまった、と顔を歪めるガンリキだったが、それを聞いた蛇神官は口元を歪めて笑う。

 

ほう? それはそれは……使えるかもしれんネ?




・蛇人族の神官
ヘビガミ降臨計画は大失敗に終わったが、戦士の補充手段は一応用意してあったらしい。
再生産の間に合わない霊薬の代替手段を探していたが……。

・ガンリキ(ラミア族族長)
村田版怪人協会編にて童帝及び豚神と交戦、丸呑みにされた怪人。
原作では単なる一怪人でしかなかったが、このサブシナリオを制作するに当たって異種族系怪人の族長キャラに改変した。
蛇系怪人なので当然彼女らもヘビガミ信者。
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