【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】   作:Nyarlan

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第三話 - 戦慄のタツマキ

――何!? 超能力が使えなくなっただと!?

――ふざけるな! まだほとんど解析出来ていないんだぞ!?

――独房へ入れろ! 超能力を取り戻すまで出す必要はない!!

 

 暗くて何もない独房の中。幼い私は能面のような表情で膝を抱えうずくまっている。

 ……今まで散々私を持て囃していたくせに、力がなくなった途端にこの扱い。もし力が戻ったら反抗されるとは思わないのかしら。

 

 だけど、これでいい。あいつらにとって無価値だとわかったら、私は捨てられる。そうしたら、あの子の……フブキのところへ帰ることができる。だからそれまでの我慢。

 

――クソっ、襲撃(けいさつ)だ! 資料だけ集めて逃げるぞ! 早くしろ!

――ガキどもはどうする!? 貴重な検体だぞ!

――大半は低能力のゴミだ! タツマキも力が戻らん以上価値はない! 置いていけ!

 

 不意に、牢の外が騒がしくなる。

 どうやら、あいつらのやってる悪事が外に漏れたらしい。

 これで家に帰れる……そう思っていた時、身の毛もよだつような獣の咆哮が周囲へ轟いた。

 

――合成獣をけしかけろ! なるべく時間を……うぎゃあああ!

――暴走だとッ!! クソっこんな時に、俺はもう行くぞ!!

 

「……ここから出して! 私を置いていかないで!」

 

 恐怖に駆られて叫んだ私の声に応える者は、誰一人としていなかった。慌ただしい足音と、何か物が壊れる音、そして銃声と悲鳴だけが施設内を反響しながら遠のいていく。

 やがて、鼻の曲がるような異臭が重い足音と共に近づいてきた。血の臭いの混ざった荒い吐息が漂い、新しいエモノを探すように鼻息を荒げて嗅ぎ回る音が周囲に響く。

 そんな状況下で幼い私はにできたことは、息を殺して牢の奥で震える事だけだった。

 

 そして大きな怪物についた無数の目玉と鉄格子越しに目があってしまった瞬間、私は絶叫していた。

 

助けて! だれかぁ!!

 

――もう大丈夫、私が来た!

 

 重たい破壊音と、血の匂いが私を包む。

 開け放たれた扉から差し込む光を背負った、その大きな人影はそう言った。

 

 

※※※

 

「……サイアクの目覚めだわ」

 

 じっとりと寝汗の染み込んだベッドの上で、一人の少女が呻いた。

 彼女は深く大きなため息を吐き出すと、汗でピタリと肌に貼り付いたネグリジェを荒々しく脱ぎ捨て、そのままシャワールームへ重い足取りで向かう。

 熱いシャワーを浴びて汗を洗い流すと、少女は再びため息をついた。

 

(……この間の怪人のせいかしら)

 

 独りでにバルブが回り湯が止まり、水音が消え。次の瞬間、彼女の体の中心から膨らむように現れた緑色の力場が、熱を帯びた滑らかな肌の表面と艷やかな深緑の頭髪から水分を弾き飛ばした。

 

(怪我はとっくに治った。……そもそもバリア越しに軽く肌を焼いた程度じゃ怪我のうちに入らないし)

 

 淡い緑色の光に包まれながら浮遊してきた衣類を掴むと、彼女はそれをさっと身につけた。

 

(……悔しいけどアイツに庇われなければ危ない場面も何度かあった。一人じゃ苦戦するほど強い怪物なんて、今まで存在しなかったのに)

 

 ふと見れば、窓から差し込む陽光の位置は既に昼を回って久しい事を示していた。たまの休暇とはいえど、彼女にしては遅い目覚めだったらしい。

 

(だからかしらね、まだ弱かった頃の夢を見たのは)

 

「それとも、アイツが訪ねてくるから?」

 

 ポツリとこぼした言葉は、静かな部屋へ吸い込まれて消えた。

 

 

 

――ピンポーン。

 ドアチャイムを鳴らし、とある高層マンションの一室の前に立つ大小二つの人影。

 それは筋肉とモヤシ……つまりはオールマイトとシゲオの二人であった。

 

「うーん、出ないですね。あの、ちゃんとアポイントメント取ったんですか?」

「……ええと、私ってそんなに非常識に見えるかな?」

「……なんとなく、衝動的に行動してそうなイメージが」

「ええーっ、これでも考える脳筋を心掛けてるんだけどなあ。しかしこの遠慮のなさ、ちょっと距離感縮まった感じがして嬉しくなるね!」

 

「アンタたち、人んちの前で騒がないでくれる?」

「わっ!?」

 

 唐突にドアが開き、二人の前に深い緑の髪と瞳を持つ小柄な少女が姿をあらわす。無防備なじゃれ合いを見られた事で軽く赤面しながらも、シゲオは目の前の人物に目をやる。

 あまり背が高いとは言えないシゲオより更に小柄なその少女は、肌にピッタリと張り付く深緑の衣服を身に纏っている。勝ち気そうな緑の瞳が鬱陶しそうな視線を二人へ向けていた。

 

(この人が、“戦慄のタツマキ”。町中で超能力者を見掛けることはたまにあるけど、こんなに強烈なオーラは……)

 

 同じ力を持つシゲオの目には、目の前の小柄な少女の体から立ち昇る濃密なオーラが映っていた。そのあまりにも配慮を欠いた威圧感に、彼は冷や汗を垂らしながらゴクリと生唾を飲む。

 ――戦慄のタツマキ。彼女はヒーロー協会の最高戦力たるS級ヒーロー第二位であり、シゲオの隣に立つ筋肉と同等以上の強さを持つとされる“超能力者”である。

 

「やあタツマキくん、休暇中にすまないね!」

「ホントよ、何日ぶりの休日だと思ってるの? まあ、休みの日っていつも暇でしょうがないから別に構わないけどね……で、そいつが例の?」

 

 オールマイトに対して軽口を叩く彼女だが、口ぶりとは裏腹に休暇を邪魔された苛立ちを見せる様子もなく、ただ興味の色を含んだ鋭い視線でシゲオを射抜いていた。

 圧倒され無意識に後退るシゲオの体から本能的にオーラが漏れ出すのを見て、タツマキは目を細める。

 

「……ふぅん? 確かにそこそこの力を持ってるみたいね、私には及ばないけど。まあ、いい線行ってるんじゃない?」

「だろう? 君を除けば最も強い力を持っていると私は踏んでいる」

 

 そう言うと彼女はすっと目元を和らげた。それと同時に周囲を取り巻くオーラが引っ込み、プレッシャーもまた消え去りシゲオはようやく安堵した。

 

「ど、どうも。これからよろしくお願いします、タツマキ先生?」

「正直面倒だけど、そいつの頼みだから。まあ上がりなさい」

「はい……」

 

 ツンとした態度のまま部屋へと戻る彼女に、シゲオは若干ビビりながらついていく。そんな様子にオールマイトは苦笑する。

 

「あまり怖がらせないでやってくれ、一般人だから」

「そんだけの力持っておいて一般人? 笑わせるわね」

「……すみません」

 

「さて、と。コーヒーでいいわね?」

 

 テーブルに二人を着かせたタツマキは不意に手を奇妙に踊らせる。すると食器棚からコーヒーカップとコースターが3つずつ飛び出し、テーブルの各人の前へと音も立てず着地する。

 

 同時にキッチンから飛んできたドリッパーにペーパーフィルターがセットされる。コーヒーミルがゆっくりと豆を挽きながらテーブルへと飛来し、その中身をドリッパーへ空けてキッチンへと戻っていく。湯気の立つ電気ケトルがゆっくりとドリッパーへとお湯を注ぎ……抽出されたコーヒーが空中で三股に分岐しコーヒーカップへと注がれてゆく。

 

「相変わらず魔法みたいな光景だね」

「そんなオカルトと一緒にしないでくれる? ……って、アンタは何を呆けてるのよ」

 

 慣れた様子のオールマイトとは対象的に、コーヒーが出来上がる様を唖然とした表情で見ていたシゲオにタツマキが半目で問いかける。

 

「い、いや、だって……」

「なによアンタもこれくらいは……え、もしかしてできないの? それじゃ普段何に力使ってるのよ」

「ええと、重いものを持ち上げたり、高い所にあるものを取ったり……?」

 

 その返答に対し、今度はタツマキが唖然とする番であった。

 

「――はぁ!? アンタ……ちょっとまって」

 

 そう言って手首を軽くスナップさせると、キッチンから少量の生米が飛んできてテーブルの上にぶちまけられる。そして、彼女は顎でそれを指し示す。

 

「それ、拾ってみなさい」

「え? は、はい……」

 

 意図を読み取れないながらも彼がおずおずと伸ばした手に、タツマキは目を剥いた。

 

違う! なんでそこで手を使うのよ、超能力使えっつってんの!」

 

 突然の大声に、シゲオはビクリとして手を引っ込める。そして今度こそ超能力を使って生米の一粒一粒を浮かせると、自分の手のひらへと引き寄せ始めた。

 そんなたどたどしい“力”の行使を目の当たりにし、彼女は深くため息をついた。

 

「こんな大出力の能力者がどんな指導を求めてきたのかと思ってたけど……アンタはアレね? 超能力を特別な()()だと思い込んでるタイプね」

 

 木っ端能力者にありがちな“力”の捉え方だわ。そう吐き捨て、タツマキはテーブルの生米を一斉に浮かせた。シゲオの目には、彼女の指先から伸びた力場の線がテーブルで薄く広がり生米を包み込み、形を変えずに持ち上げる様が見えた。

 それに対し先程の彼は、生米の一粒一粒を力場で包み込み持ち上げていた。

 

「いいこと? 私達にとって超能力は手足の延長なの」

 

 タツマキが指で円を描くと、米粒の板は形を維持したままくるりと回り出す。そのまま手の平をゆっくりと開くと粒の間隔もまた広がり、握ると圧縮されて塊となった。

 

「だから使えば使うほど鍛えられて器用になるし、使わなければ鈍る」

 

 そしてピンと指を弾くと生米の塊は弾丸のように飛んでゆき、そのままキッチンへと消えていった。

 

「長時間の維持もできない木っ端能力者ならともかく、この程度の動作私達には負担ですらないわ。私は日常生活でも超能力でやれる事は全部超能力でしてる」

 

 そう言って、タツマキはシゲオの目を真っ直ぐに見つめた。

 

「それはズルしてる訳でも、怠けてる訳でもないの。私達にとってはこれこそが普通のやり方で、見方を変えれば日々の鍛錬でもあるわ。むしろ、積極的に使わない事こそが怠惰よ」

 

 そこまで喋った彼女は湯気の立つカップを手元に引き寄せ一口飲むと、深くため息をついた。

 

「そこの筋肉に頼まれたときは何の稽古をつけるべきか悩んでたけど……そうね、アンタはまずその意識を変えるところから始めなさい、全てはそこからよ」

 

 そう言って、タツマキは真剣な眼差しをシゲオに向ける。

 

「アンタがもし助ける側(ヒーロー)を目指すならその力を伸ばすことは必須よ。そうでないとしても、この間みたいな時の為に力は伸ばすべきよ。ただ助けられるのを待つだけじゃなく、アンタ自身も足掻いて、助ける側の助けになれるようになさい」

「……はい」

 

 叱られた子供のように俯きながら小さく返事をする彼に、タツマキは再びため息をついた。

 

「週一回……そうね、土曜の昼頃にうちへ来なさい。それと、日常的に能力を使う事に慣れる事。超能力は磨き続ける事で光るのよ。返事は?」

「……はいっ!」

「よろしい。それじゃあまずは……って、アンタは何をニヤニヤしてんのよ」

 

 基本的な指導を始めようと口を開いたタツマキは、横で嬉しそうに笑うオールマイトに怪訝な表情を返す。

 

「いやあ、想像以上にいい先生になってくれそうだから嬉しくて」

 

「……暑苦しい笑顔向けないで」

「照れちゃって、しっかりと私の……おおうっ!?」

 

 タツマキの頭を撫でんと伸ばされた大きな手はバリアに弾かれる。

 

「撫でんな! いつまで子供扱いする気なの、私もう28よ!」

「えっ」

 

 ごめんごめんと笑いながら謝るオールマイトにテーブルから身を乗り出して怒る彼女の姿は子供そのものであった。その怒りの矛先は素っ頓狂な声を上げたシゲオにも向けられる。

 

「……で、アンタは何を驚いてんのよ。私がいくつに見えた訳?」

「(返答間違えたらキレるやつだこれ!)ええと、18くらい……?」

 

 シゲオがしどろもどろになりながら答えると、タツマキはフンと鼻を鳴らして椅子に座り直す。

 

「あらお上手。……年下や同年代とかぬかしたら捩じ切ってたわ」

(何を!? 怖っ!!)

 

 まだくつくつと声を殺して笑うオールマイトにご立腹らしく、タツマキはバンとテーブルを叩いて立ち上がった。

 

「あーもう、アンタ、来週来るときはその筋肉ダルマ連れてこないでよ鬱陶しいから。今日はもうおしまいっ、とっとと帰りなさい」

「ちょ、それは酷くないかい!?」

「いいから……帰れっ!」

「「わっ!?」」

 

 タツマキが右手の中指と人差し指を気合とともにクイッと立てると二人の体が持ち上がり、その手のひらを反転させつつ押し出すと同時に開いたドアの外へと放り出された。

 二人が放り出された背後ではバタンとドアが締まり、丁寧にロックまで掛けられる。

 コンコン、と部屋をノックがされるがタツマキはガン無視である。

 ややあって本当に対応する気が無いと分かると、二人の気配は彼女の部屋を離れ始めた。

 

「……あの、怒らせちゃったみたいですけど」

「大丈夫、あれは照れてるだけだからね!」

「本当ですかー?」

 

「……覚えてたのね」

 

 ドア越しに遠ざかっていく声に一瞥をくれるとタツマキは少しだけ笑みを浮かべる。そして両手を踊らせ空になったカップをキッチンへと飛ばし始めた……少しだけ機嫌を直した様子で。

 

 

※※※

 

 たった一撃で倒した怪物を背にし、大きな影は幼い私に大きな手を差し伸べる。人を安心させるその暑苦しい笑顔は、逆光の中でも不思議とよく見えた記憶がある。

 

「……だあれ?」

「私はオールマイト、ヒーローさ」

「ヒー、ロー……?」

「……まあ、今はまだ自称なんだけどね」

 

 彼の手は腰の抜けた私の体をしっかりと抱き上げる。今まで戦っていたからだろう、あの時の熱い体温は不思議と今でも覚えている。

 

「……君は超能力者だろう、なぜ使わなかったんだい?」

 

 その質問に、幼い私は心臓を鷲掴みにされた心地だった。

 

「……超能力が出せなくなって」

「ふむ……」

 

 私の返答に彼は少しだけ悩むような仕草を見せ、やがて口を開く。

 

「……私は、私の手が届く限り、死力を尽くして誰かを助けるつもりだ。だけど、私の手は自分で思うより短くてね、目一杯必死に伸ばしても届かない事は幾度となく経験した。全力で走ってそれでも間に合わず悔しい思いをした事も沢山ある」

 

「だから、もしさっきみたいに助けが必要になったら……まずは、全力で足掻いてほしい。助かる為に戦ってほしい」

 

「その戦いは文字通り抵抗であったり、息を殺して潜む事だったり、相手を刺激しないよう振る舞うことだったり、状況によりけりだ。とにかく、助けが来るまでの時間を生き延びるための戦いをして欲しいんだ。そうすれば、助けが間に合うかもしれない」

 

「助かろうと頑張る事で、助けようとする者を助けて欲しいんだ」

 

 あの忌々しい研究所から開放された私の全身におひさまの光が降り注ぐ。

 腕の中で見上げた空が眩しかったのは、きっと太陽のせいだけではなかったのだろう。

 

 あのときの景色に焦がれたからこそ、私はこうしてヒーローになったんだと思う。

……アイツには、絶対に言わないけど。

 

 




タツマキ「来週から土曜は休むから」
協会「え、なにかご用事でも……?」
タツマキ「弟子取った」
協会「……!?!?」

・タツマキ回
ヒーローマンション編まで行く予定などないので転生者以外のメインキャラである彼女の過去掘り下げをここに持ってきました
・神「アイツ(ブラスト)はもう消した!」(AA略)
18年前にすでに会社員→現在恐らく40代、オールマイトも同年代キャラかぶり……もうそのまますげ替えちゃえ!!
となった訳です、だって原作ブラストの掘り下げが足りなくて扱いに困るので……

ブラストの方針がわかったので、彼は画面外でキューブ回収してます。
・タツマキの性格がかなり丸い
オールマイトの転生者は「いざというとき誰かが助けてくれると思ってはいけない」なんて厳しい事を幼女に言うわけがないので……
・地の文「少女」表記
とりあえず見た目重視で……ロリ姉さんもアリよね!

とりあえずここまでが導入部分的な感じになるのかな?
次から原作をなぞり始めます……なお、転生者の暗躍でイベント大幅カットの模様(筆頭:進化の家)
原作のヒーローや他の転生者にスポットライトを当てていきたいですね

2021/10/13こっそり加筆修正

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