【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】   作:Nyarlan

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第二十二話 - 切り札

 ——ボロスという難敵を打倒するため、転生者たちはこの日に至るまでに何度も議論を重ね、対策を練ってきた。

 唯一戦闘が成り立つとされるのは、ハゲ不在のこの世界で現在最強の肉体を持つとされる“オールマイト”の転生者だけだ。その彼を武装で底上げしてみては、という意見はすぐさま却下される事となった。

 

「そんな領域の戦闘じゃ、()()()な兵器は枷にしかならねぇ」

 

 この世界で最も強い武器は鍛え上げた肉体だ、そう語るのはジャギの転生者として知られる男だった。

 

「強力な銃器を作ったとしてボロスや覚醒ガロウに有効打を与えられるか? サイタマが核ミサイルで火傷するか?」

 

 ありえないだろ、と彼は肩をすくめた。

 

「この世界で最強の物質は“鍛え上げた肉体”に他ならねぇ。最上位勢に銃弾程度は効かん、俺ですら気合入れりゃ包丁くらい生身で弾く」

 

「どんな強い兵器も意味をなさないような、極限の怪物同士の戦い……そんな領域に持ち込める武器は二つしかない」

 

——それが“武術”、そして“気功”だ。

 

 


 

 

 壮絶な威力を伴い放たれた突きは巨大な単眼の中心部を貫く――こと叶わず、太くも鋭い指先は表面を浅く抉りながら左へと逸れていた。

 

 眼球を削りまぶたを切り開き側頭部を裂いた手刀は、左耳を削ぎ飛ばした勢いのまま頭蓋を砕いて血と骨と脳漿を辺りに散らす。

 人間であれば……並大抵の生命であれば間違いなく致命傷となる損傷を受けながら、単眼の魔人の口元には深い笑みが浮かんでいる。

 

 ——それを認識すると同時にオールマイトの背筋は凍りつき、振りぬいた手刀でそのまま首を刎ねんと薙ぐがそこに首は既になく。

 

「くっ——!!」

 

 襲い来る死の予感に従い無理矢理に身体を捩った次の瞬間、逆袈裟で掬い上げるように放たれた鋭い爪が彼の胸板を浅く抉った。

 胸元に咲いた紅い華と焼けるような痛みに意識を割く暇もなく、オールマイトは地を蹴り両者の距離は大きく離れる。

 

 ——その途端に圧縮された時間感覚が戻り、空振った攻撃の余波が周囲を蹂躙していった。凄まじい爆風とともに広い執務室内を掻き回し、頑丈な筈の無数の内壁を船外まで穿ち抜いて大穴を創り出していた。

 

 瓦礫の乱舞と何かの機材が勢い良く破裂して炎を吹き出す轟音が耳をつんざき、広い執務室内を粉塵が漂う。

 

『素晴らしい』

 

 船外まで穿たれた巨大な風穴から勢い良く吹き込んでくる冷たい風に薄紫の髪を揺らしながら、ボロスはほうと感嘆の息を吐いた。

 

『攻撃の余波だけで外壁まで風穴を空ける威力、そして初手から目玉を打ち抜きにくる研ぎ澄まされた殺意……実に心地がいい』

 

 自らの血に塗れながら、彼は涼しい顔で笑みを浮かべている。

 ——全身全霊の一撃が届かなかったその事実に、オールマイトは苦々しい表情を浮かべる事しかできなかった。

 

『この(かお)を見れば、当然この眼が弱点だと思うだろう。だが、残念ながらここは俺の身体で最も強固な部位……それに深く傷を入れただけで賞賛に値する』

 

 そんな言葉の合間にも、砕かれた頭部の傷跡はまたたく間に盛り上がってゆき、綺麗に再生してゆく。

 その光景から転生者陣営の打ち立てた最大の危機に対抗するための第一プランは失敗に終わった事実を噛み締めながら、その動揺から乱れた“呼吸”を整えた。

 

 

 ——“気”ってのは、()()によって湧き上がるもんだ。

 

 武術の多くは身体を動かす際の呼吸の仕方にまで指導が及ぶ。

 “気”の存在を意識しない武術であっても、それによって結果的に体内の気を高め利用しているのだ。そして気功を意識的に取り入れた流派には、より効率的に気を高め運用する“呼吸法”が必ず存在する。

 

 肉体の限界値を引き出(リミッターをはず)す奥義とされる流水岩砕拳の剛醒呼法などで比較的知られるが、呼吸法の中には特異な性質を持つものがある。

 転生者たちの研究の成果たる、その呼吸法もまた——。

 

 コォォ……という独特の呼吸音とともに、切り裂かれた胸の傷に紫電が走る。じわりと抉られた肉が盛り上がり、オールマイトの傷が急速に治癒していく。

 それを見たボロスはほう、と息を漏らす。

 

『体内エネルギーの活性化と同時に傷が消えた、か。恐らくお前の種族のもつ自然治癒力ではないな、この星の戦闘技術か?』

「遥か昔に失伝したこの技を、仲間が資料を読み解き復元してくれたのさ。キミのような強大な侵略者に対抗するために、ねッ!

 

 その言葉とともに彼は強烈な踏み込みで床を砕きボロスへと肉薄する。

 全身を濁流のように荒れ狂うエネルギーを気合いで制御したオールマイトが振り上げた拳は音を置き去りにし、目の前の敵を打ち砕かんと振るわれる。

 

『ハッ!』

 

 躱しきれず掠めた拳によって砕かれた下顎、そんな些事は欠片も意識せず瞬く間に再生しながらボロスの反撃の拳が振るわれる。

 絶大な威力を秘めたその一撃は素直な軌道を描き、オールマイトの胸へと進み——横合いから飛んできた掌に払われ進路を大きく外れる。

 その初めて味わう奇妙な感覚に瞠目しながら、彼は次々と追撃を加えるが、その尽くが同じように逸らされてゆく。

 

(……ほう?)

 

 自らの攻撃が通らない事実に、ボロスの口元に笑みが浮かぶ。

 体内を荒れ狂う膨大な気の力で思考速度すら加速するオールマイトは、打ち込まれてくる致命の嵐を的確に捌き、そして合間を縫うようにボロスの身体をその拳で砕いてゆく。

 その絶技を可能としているのは転生者の存在によってこの世界へ混入したとされるものまで見つけ実用化した、本来交わることのない異なる起源を持つ三つの技であった。

 

 ひとつは、気を生じる呼吸法の中でも特に効率がよく、さらに癒やしの力をも備えた()()()()()()() “波紋の呼吸”

 ひとつは、体内の気を破滅的なまでに活性化させ、命を削りながら力を極限まで引き出す()()()()()() “刹活孔”

 そしてそれらを土台に振るわれるのは、受け流すことに特化する事で堅牢な防御力を誇る()()()()()()()()()()()() “流水岩砕拳”

 

 ——地力の差を刹活孔によって埋めながら、その反動を波紋の癒やしを以て和らげ、致命の一撃は流水岩砕拳で受け流す。

 これら三本の矢をオールマイトという最上位の肉体に搭載する事で、超越的な戦闘能力を発揮するに至っていた。

 

(一手でも違えば死ぬ。だが見える、対処できる……闘える!)

 

 コオォ…と“呼吸”をして体内の気を高めると、彼は気勢を上げた。

 

「悪いが一気に決めさせてもらうぞッ!!!」

『面白い、やってみろッ!!!』

 

 喜色満面に放たれる一際強烈な力を秘めたボロスの剛拳をオールマイトは気合の声と共に気を纏う左手で撃ち落とす。

 渾身の一撃を外された事で僅かに態勢を崩したボロスへ向け、彼は気を集中させた手を猛然と振り上げる。

 

「北斗破流掌ッ——!!」

 

 顎を強かにかち上げられたボロスの体が浮き上がり、大きな隙が生まれた。そしてその瞬間、オールマイトは大きな賭けに出る。

 

「これで終わりにしてくれ——HUUAAAAAAAh!!!

 

 気合によって全身の筋肉を隆起させた彼が構えを取ると、身体から漏れ出した闘気が吹き出す殺意に乗って前方の地面を砕いてゆく。

 オールマイトの体内を渦巻く膨大なエネルギーが急速に拳の一点へと集約されていくのを捉えてたボロスの目は大きく開かれる。

 

 目の前で破裂せんばかりのとてつもない“死”の気配に、彼は——それを()()()()()()()()()()

 

HAAAAAAAAh!!!!!

 

 気合の声と共に到来したその一撃は、無防備に宙を浮くボロスの頭部を芯から捉え、力強く打ち抜いてみせた。

 

 


 

 

 A市上空に悠然と浮かぶゲリュガンシュプは、制御下に置いた瓦礫を周囲一帯に漂わせることで対峙するタツマキを囲み、円を描くように舞い飛ぶ彼女へ次々と礫を放っていた。

 大気との摩擦で光を曳いて飛んでくる礫を身を捩り、避けきれない軌道のものは最小限のエネルギーで消し飛ばす。

 

 ——その戦闘は地上から見れば真昼の流星群のように見えるだろう。

 

 大きなダメージは負わずとも、じわじわと——しかし着実に削られてゆくタツマキだが、その表情に焦りはない。

 

〘おのれちょこまかと、諦めの悪い小娘め……!〙

 

 そんな彼女に苛立つゲリュガンシュプだったが、堅実にダメージを積み重ねてゆく——そんな時、彼らの頭上で再び轟音が響き、更にはその余波が空と大地を大きく揺るがせた。

 

〘ぬあっ!?〙

「——ッ!?」

 

 母船で再び起こった、先ほどのそれを凌駕する大爆発にゲリュガンシュプは触腕をもつれさせながら声を上げる。

 

〘こ、これは一体どういうことだ……?〙

 

 ——明らかな異常事態だった。

 絶対的な力を持つ首領が直々に戦い、艦を顧みないほどの馬鹿げた威力の攻撃を立て続けに二度も行った現状に彼は本格的に焦りを見せる。

 

「……ふぅ。あのバカ、珍しく苦戦してるのかしら? とっとと終わらせて地上をなんとかしなさいよ」

 

 ゲリュガンシュプと対峙するタツマキは大きなダメージこそ無いものの、その表情には僅かに疲れが滲み始めていた。

 

 ……超能力者同士の戦闘は単純な出力の大小が勝敗を分けやすく、番狂わせが起きづらいとされている。

 数分間の戦闘で彼女の感覚が弾き出した彼我の出力差は約1.4倍程、真正面から力比べすれば確実に敗北する。

 

(直接の念波攻撃は逸らす、地上へ伸びる力場は遮断する、馬鹿げた速さの石弾は躱す……全く面倒な相手ね)

 

 その気になれば星を()()できるほどの力の持ち主から地上を守りながら戦うのはタツマキの神経を削っている。

 

〘くうぅ、これはどう考えても異常事態……! もはや一刻の猶予もない、貴様に私の本気をみせてやる!〙

 

 ゲリュガンシュプが顔を歪めながら全ての触腕を力ませると、彼を中心に凄まじいまでの念波が胎動し、周囲に浮かぶ無数の瓦礫が一斉に震え始めた。

 

(——来た)

 

 一気に決めに来た相手を見て、彼女は表情を引き締める。

 

〘もはや出し惜しみはなしだッ、念動流星群!

 

 無数のがれきが周囲を渦巻き、さながら流星群のように殺到する。それに対してタツマキは——。

 

(いまッ!!)

 

 彼女は流星を避ける事を放棄し、指先から虚空へと伸びる力場の糸へと莫大なエネルギーを注ぎ込んだ。

 無数の光弾が彼女を覆うバリアを乱れ打ち、火花を散らして罅を入れ、漏れ出した衝撃波が身を打ち始める。

 そしてついには小さな綻びから破片が一つ貫通し、彼女の右腕を僅かながらに抉ってみせた。

 

「……っ!!

 

〘ハハハ、馬鹿め! 正面から防げる訳、?〙

 

 そのまま彼女が肉片へと変わる姿を幻視し、高笑いをするゲリュガンシュプの視界が——半ばから斜めに()()()

 

……!?〙

 

 瓦礫の流星は勢いを失い、そのままバラバラと自由落下を始める。

 攻撃に割いていたエネルギーを動員し、ずれた視界を——鋭利な刃で刻まれたかのように切れ目の入った頭を、脳や目玉が溢れないようにかろうじて固定していた。

 

「……アンタの守りは鉄壁だったわ」

 

 制御を失って徐々に落下を始める瓦礫の中、彼女は傷を受けて流血する左腕に手を当てながら安堵の息を吐いた。

 

「直接的な干渉が通らないのは当然として、空鞭で切り込んでも届かない。物理的な攻撃手段にしても周辺の瓦礫はアンタの制御下に置かれてるし、地上への干渉を弾くのに忙しくて遠くから引っ張ってくるのもままならなかった」

 

 弟子に大見得切っておいて正直ジリ貧だったわ、と自嘲する。

 ポロポロと長い触手が制御から外れ、徐々に崩壊してゆくゲリュガンシュプを見つめながら、彼女は言う。

 

「だからアンタお得意の投石を利用させてもらったわ。——辺りを掻き回す強烈な力場に感覚が麻痺して、瓦礫にへばりついているだけの微弱な力場の糸なんて気づかなかったでしょ? アンタの周りをぐるぐる回ってたのは、ただ逃げ回ってたわけじゃないのよ」

 

 彼女はゲリュガンシュプの領域たる輪の中を飛びながら、時折それを構成する瓦礫に触れて微弱で干渉力もない糸を繋いで回っていた。

 ——そして先程の一斉射出の際にその力場の糸へと力を流し、そのすべてを空鞭へと変えた。つまりはシゲオが砲弾を受け止めたそれと同じ技法である。

 

 大気との摩擦で発光する程の投石に引きずられた力場の糸たちは、十分な強度と威力をもって強力なバリアごとゲリュガンシュプの全身をバラバラに裁断したのである。

 

「……さて、いい感じに刻めたみたいだし、タコ焼きにでも転職したらどうかしら」

 

 タツマキの手元に、ゲリュガンシュプの制御から離れて落ち行くこぶし大の瓦礫が一つ引き寄せられ。パシッ、という音とともに射出されたそれはかろうじて崩れずに足掻いていたゲリュガンシュプの頭部へ衝突し、繋ぎ止めるエネルギーを失った肉塊はその場で花火のように弾けて飛散した。

 

「マズそうだから私は食べないけどね」

 

 空中にぶちまけられ、風に流されていくゲリュガンシュプだったものを尻目に、タツマキは黒煙を吐き出しながら佇む巨大な宇宙船を一瞥すると地上へと降りていった。

 

 


 

 

「ハア……ハァ……!」

 

 下顎から上を失い、抉れた金属製の床へと崩れ落ちたボロスを前にオールマイトは荒い息を繰り返しながら膝をついていた。

 熱を帯びた大きな身体からは冷や汗が蒸気となって立ち上る。

 

——闘勁呼法。

 刹活孔と並び、この一戦のために用意した()()()である北斗神拳の奥義。全身の気を拳に一点集中させる剛拳の呼法。

 

 彼の放てる最大の一撃は、見事にボロスの頭部を砕いた。

 壊れた船の機器が放つ警報音と風穴から吹き込む風の音が遠く響き、オールマイトの耳には自身の乱れた呼吸音だけが木霊している。

 

——ガシャン

 

 不意に響いた音に彼はハッと目を見開き、音の発生源へ視線を走らせる。

 仰向けに倒れ伏したボロス、その身を包む鎧の鳩尾に嵌め込まれた赤い宝玉が妖しく光を放っていた。

 

「まず——ッぐ!?

 

 オールマイトは咄嗟に追撃を放とうと立ち上がるが、全身を奔るとてつもない激痛にそれを阻まれる。

 刹活孔による負担を抑えていた波紋の闘気は先の闘勁呼法によって全て放出してしまっており、反動がダイレクトに襲い掛かっていた。

 

 宝玉の光が明滅しながら強くなるにつれ、紫色の肌を覆う鎧にはぴしりぴしりと音を立て大きな亀裂が走ってゆき——やがて、それは弾け飛ぶように崩壊する。

 

——ドクン

 響いた鼓動は、誰のものか。

 

 ボロスの失われた頭部が、残された顎から盛り上がるようにして再生すると、巨大な単眼がぱちりと開いた。

 

『素晴らしい……予想を遥かに超えた一撃だった』

 

 歓喜に震えるような声があたりに響き渡った。

 ぽたり、ぽたりとオールマイトの太い顎から滴り落ちた汗の雫が床で弾ける。

 

『あの一撃が核を直撃していれば、ともすればこの命に届いた可能性もあろう。……だが、そうはならなかったようだ』

 

 ボロスの巨体はその場でふわりと起き上がり。

 

『強大すぎる俺のパワーを封印していた鎧はいま役目を終えた』

 

 スゥ、と大きく息を吸うと彼は胸の前で両腕を交差させる。

 

ヌ…ウゥウウウウウッ……!!

 

 そして全身を力ませると鳩尾に存在したもう一つの“目”が開眼し、そこから全身へ向けて稲妻のような筋が走り輝くと。

 

 ボロスを中心に凄まじい衝撃波が爆裂した。

 

「ぐッ——!?」

 

 吹き飛ばされないよう懸命にその場へ踏みとどまるオールマイトの目の前に、絶望が再び立ちはだかった。

 

『さあ、生まれた頃から焦がれ続けた全力の戦いだ。俺を失望させてくれるなよ、オールマイト!』

 




VSゲリュガンシュプ、決着!
超能力者同士のバトルはなかなか難しく、こういった感じに
相手の得意技を逆に利用して勝つ展開っていいですよね

VS鎧ボロス
波紋の呼吸による練気+刹活孔によるバフ+闘勁呼法でワンパン戦法
ほぼ圧倒することができました、オールマイトを超えたオーバーマイトは伊達じゃない!

なお、頭砕いただけで死ぬとは思えなかったのでこうなりました

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