【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】 作:Nyarlan
『ヒッ、ヒィ〜〜〜ッ!!!』
ギュウウン、と大きく旋回し宇宙人の戦闘機がビームを辛うじて回避する。辺境の惑星で逃げ惑う下等生物を上から追い回して愉しむ筈だった彼とその仲間は、逆にロボットから追い回されて次々と撃墜される羽目になっていた。
〘あっ、コラ市街地に逃げるなーっ!〙
『う、うるせェ! 下に逃げりゃ迂闊に撃てねぇだろ!?』
避難民の姿はもうないとはいえ建物や放置された車などが多くある繁華街のど真ん中を飛ぶ戦闘機。
それをパワードスーツ“リトルブレイバー”を身に纏ったS級ヒーロー:童帝は大火力ビームカノンを引っ込めてビームサーベルを手にして追いすがる。
『クソ、しつこいガキだ……! おわっ!?』
障害物を避けながら町中の地上スレスレを飛ぶ宇宙人の機体を、横道から馬鹿げたサイズの実体大剣が奇襲する。
『う、ぐあああっクソッ! 下等生物どもがあああ!』
荒れる機体をかろうじて制御する宇宙人の視線の先に、武装した人間の集団が映る。彼は怒りのままに操縦桿を倒し、機体を集団へ突っ込ませながら緊急脱出装置を作動させる。
機体上部から飛び出す際の加速度に呻きながらも、彼はせめて機体に引き潰される集団を目に焼き付けようと下を見下ろすと。
墜落する機体に向かって、武装集団——ハンターズの弓兵部隊が一斉に構えた。白いパワーアシストスーツに身を包んだ彼らの手には、ゴツゴツとした太い矢が番えられている。
「3番隊、二号放て!」
ハンターズ団長アクセルの号令一下、一斉に矢が放たれ、宙を切り裂く鋭い音と共に戦闘機へと突き刺さる。
『なっ、なにィ!?』
爆発が機体を包み込み、オレンジと黒の炎が空に広がる。衝撃波が周囲の瓦礫を吹き飛ばし、既にボロボロだった宇宙人の戦闘機は完全に機能を停止。脱出したグレイ型宇宙人は、開いたパラシュートによって滑空しながらその光景に目を剥く。
対鬼想定の『爆弾矢二号』は問題なくその威力を発揮し、戦闘機の突撃を見事に止めてみせた。
『こ、この下等生物どもが……畜生、畜生おおおお——ッ!?』
自身の最後の策がなんの効果ももたらさなかった事に憤る彼の視界に、不意に赤い槍が映る。
セタンタが握る、科学の粋を集めた偽りの
「あばよ、クソエイリアン」
セタンタの低い声と共に、槍が宇宙人の胴を貫く。緑色の血が飛び散り、汚い断末魔が荒れたA市に響き渡った。
「……おそらくはこれで最後、か」
後詰めとして油断無く警戒していたシロウが呟くと同時に、空からトリコロールカラーが映えるパワードスーツが降り立つ。
S級ヒーロー・童帝だ。リトルブレイバーの飛行ユニットが軽い煙を吐きながら停止し、ヘルメットのバイザーを上がると、彼は汗で張り付いた短い茶髪を指で剥がしながら息をつく。
〘ふぅ、やっと追いついた。ご協力ありがとうございます! ハンターズの皆さんですよね、お怪我はありませんか?〙
丁寧な口調でそう言いながらも油断無く周囲を見回す童帝に、戻ってきたセタンタが槍を肩に担いで応じる。
「俺らの事知ってんだな。ああ、こっちは問題ねぇよ」
「それより、空の敵は今ので最後か? 地上の敵に関しては別動する他の隊からも討伐報告が上がらなくなってきたが」
合流したシロウが尋ねると、童帝は頷いた。
〘今のが最後かと、レーダーに映る敵の陰はゼロ。あなた方も見かけたかと思いますが、タバネさん——S級ヒーローのホワイトナイトが放ったロボットたちも今は念の為に地上の警戒へ回してるみたいです〙
「……つーことは、残ってるのはほぼ上のアレだけって事だな」
セタンタがそう言って頭上で日を遮っている巨大な母艦を見上げて示す。それに釣られてシロウや童帝もそれを見上げた。
馬鹿らしいほどの大きさのそれは、幾度となく大爆発を起こしながらも未だに空で浮いている。
〘そうですね、でもきっとそろそろ終わりますよ。なんたってあの中にはオールマイトさんが突入したらしいので……それじゃあ僕はそろそろホワイトナイトと合流するので失礼します!〙
「おう、気をつけろよ!」
声を弾ませながら踵を返す童帝を見送りながら、セタンタとシロウは口が乾くのを感じていた。
「……やれるんだろうな。こっちがやれる事はもう終わったぞ」
「祈るしかあるまい。なに、後詰めもいくつか控えている、必要ならたとえこの命尽きようとも1秒でも長く時間を稼ぐのみだ」
まだボロス討伐の報告は上がっていない。もし彼が敗北すれば、仮に他の戦闘で全て勝利したとしても無意味となるだろう。戦場に一時の静寂が訪れ、燃え続ける戦闘機の残骸だけがパチパチと音を立てていた。
※
「ふぅーむ……この辺りの宇宙人たちはもう居ないようだな」
燃え上がる街を歩く全裸の変態——ではなく、もないが、S級ヒーローのぷりぷりプリズナーが宇宙人の死体を片手に呟く。
「逃げ惑う市民ももうこの辺には居なさそうだし、念の為に本部へ戻って指示を仰ぐかな……うん?」
何気に通信機器を無くしており、連絡手段を失った状態のぷりぷりプリズナーが本部ビルへと向けて歩きだしていると。横合いから騒がしい声が近付いてくる。
「ジラちゃんさん、走ると危ないよ!」
「ほらほら、避難所はもうすぐです! 急ぎまヴッ」
そんな少女の声が聞こえたかと思った次の瞬間、曲がり角に差し掛かったところで横から彼の臀部に軽い衝撃が当たる。
どうやらぶつかってしまったらしい相手の少女に対し彼は慌てて向き直る。しかし忘れてはいけない、今の格好を。
「おっと、すまない。注意不足だったようだ、怪我は……おや」
「あいたたた……だ、大丈夫で、す……???」
ぷりぷりプリズナーが謝罪して手を差し伸べると、ぶつかった相手に見覚えがあることに気づく。出自故に大きく話題になった事もある同業者、ヒーロー・チャーミングジラフであったからだ。
そんな彼女は伸ばされた手に掴まる直前で硬直しており、その後ろにも数人の少女が唖然とした表情で固まっていた。
「ヴェアアアアア!?」「へ、変態です!? 変態がいますッ!!」
固まるジラのすぐ後ろで、ココアとメグミンが涙目で絶叫する。無理もない話である、彼女らは宇宙人と出会う覚悟はしていても、露出狂の変態と出会う覚悟などはしていないのだ。
「あれはS級ヒーローのぷりぷりプリズナーか? まったく、市民の女の子怖がらせて何やってんだか……」
「……でっっっっか、なっっっっっっっが、ふっっっっと」
呆れるゾンビマン、もといA級ヒーロー:リボルバーことフジミに背負われたコナタもまた、若干思考停止気味であった。
「通信機と包帯を貸してくれて助かったぞ、リボルバーちゃん♡」
「おいやめろなんか鳥肌が立つ」
頬をポッと上気させ、妙にねっとりとした感謝の言葉を述べる変態に、フジミは全身の皮膚を泡立たせる。目の前の露出狂の褒められる点は、怪物じみた戦闘力と、年頃の少女たちの前でエンジェル☆エレクトを避ける程度の理性を辛うじて持っていた事だ。
それでも覚悟もなくG級モンスターと対面してしまった少女たちは密かに身を寄せ合い震えている。前世の残滓も今世の乙女心もまんべんなく恐慌に陥れたそれを世の中は取り締まるべきである。*1
それはともかく、見苦しいモノはフジミが持ち歩いていた包帯で間に合わせになんとか隠し——明らかに嫌な盛り上がりが目立つが——ひとまず見れる見た目となったぷりぷりプリズナーは、借り受けた通信機でヒーロー協会への報告を済ませた。
協会のオペレーターによると、既に地上へ降り立った敵戦力は概ね壊滅しているとの事であり。
「じゃあ、もう避難しなくて大丈夫ですかね?」
「んな訳ないだろう。上にまだでかいのが浮かんでるだろうが。とにかく、今は逃げ遅れた市民を可能な限り救出してシェルターに送るんだ。アレからまだ出てこないとも限らないからな」
宇宙猫ならぬ宇宙麒麟状態から立ち直ったと思ったらすっとぼけたことを言い出すジラにフジミが半目でツッコミを入れると、ぷりぷりプリズナーは頭上に浮かぶ宇宙人の母艦を眺める。
「アレも恐らくそろそろカタがつくだろうから安心していい。何度か爆発があったのを見てるだろうが、あの中にはオールマイトちゃんが直々に乗り込んでいるらしいからな」
そんな彼の言葉にフジミは目を丸くし、僅かに口元を綻ばせる。
「トシノリが? ああ、それなら安心か。ヒーロー活動に関してだけは無敵に近い存在だからな。まあ、それ以外は色々と抜けたところも多いが。それよりも、あいつがブッ壊したあれがA市に降ってくる事を心配すべきか」
「それもタツマキちゃんがいるから問題ないだろう。残骸をひょいと他所へ持っていくくらいはやってのけるだろうし、本部の屋上には彼女の弟子のかわいらしいボウヤもいたからな」
「なに? 戦慄のタツマキに弟子……?」
数年後が楽しみだ、と世にも恐ろしい犯行予告をスルーし、フジミはタツマキの弟子という言葉に反応する。オールマイトと双璧をなし、気難しい事で有名なタツマキが弟子と認めた存在に、彼も興味を持ったらしい。
「はいはーい! 私知ってます、とっても強くていい子ですよ!」
既に終わった気分となっているヒーローのたちがそんなのんきな会話*2をする中、ココアは不安げに二人へと囁きかける。
「……ねぇ、オールマイトさんについての報告、博士からまだ来てないよね……?」
「……そうですね、もうそこそこ時間が経ってます。確か初撃に全部つぎ込んで決着するのを目指す作戦だと聞きましたが」
「ま、なるようにしかならないしねー。私達は全部オールマイトさんにおっ被せてるんだから、信じて待つしかないよ」
※
「敵の航空部隊全滅確認!」「A市市民の避難、順調です」
「全エリアで地上襲撃部隊の討伐確認! 重軽傷者はいますが、現在死者は確認されていません!!」
次々と入る吉報に、ヒーロー協会の職員たちが沸く。
「あとは頭上の母艦だけだが、既にオールマイトが侵入済みだ。そう時間は掛からないだろう」
「宇宙船の残骸もタツマキがいればどうとでもなるな」「それよりもあの船、鹵獲すればどれほど未知の技術が手に入るか楽しみだ」
「メタルナイトとホワイトナイトに調査依頼を出す準備をしておきましょう!」「オールマイトが船を壊し過ぎていないと良いのだが」
ヒーロー協会は早くも戦勝の歓喜に酔っており、既に宇宙船を手に入れたつもりで手続きまで始めている始末だ。
……無理もない。ボロスの脅威を知らない彼らにとって、オールマイトはそれだけの信頼を積み重ねてきた絶対の守護者なのだ。
そんな中、その部屋の片隅では一人の女性職員と桃色髪の女学生の二人——ブライトとルイズだ——だけに、深刻な雰囲気が漂っていた。特にルイズの表情は酷く強張っている。
「……ルイズくん、心の準備だけは済ませておいた方がいい。作戦開始直後の爆発的な高まりの後からオールマイトの生命エネルギーは下がり続け、一時は殆ど使い果たしていた」
おそらくは初撃で決められず、闘勁呼法を使ったのだろう。ブライトは低く唸り、いつもの不敵な笑みも鳴りを潜めた沈痛な面持ちで閉口する。
「それでもなお討伐成功の報告がなく、そこからエネルギーが低い値を上下していると言う事は。彼が——我々が勝利する可能性が極端に下がったという事だよ」
ブライトの言葉に、ルイズは膝に置いた手でプリーツスカートをぎゅっと握り締める。指先が白くなるほど力を込められた手は、それでも小刻みに震えている。しかし伏せた顔を上げた彼女の目は、絶望などしていなかった。
「……エクスプロージョンの詠唱は、前世だけでも何千回と読み上げてきました*3。“悪足掻きのセカンドプラン”、問題なくやれます」
「一度きりとはいえ、キミの推定最大火力はオールマイトの全力にも勝るとも劣らないはずだ。……今しがた研究所でもユリコくんも準備を始めたらしい。彼女のサードブランはリスクも大きく、何よりボロスとの地上戦をも伴う大量の犠牲を前提とした本当に最後の手段だ、可能な限り避けたい」
「そうですね。そもそも手術が上手く行く保証もないって聞きましたし、ユリコさんのためにも私でケリを付けてみせます」
そう言うと彼女はスカートから手を離し、ゆっくりと立ち上がると、ブライトに向けて満面の笑みを浮かべてみせた。
「知っていますよね? 可愛いは正義、正義は必ず勝つ。つまり、宇宙一可愛い
目の奥に覚悟の炎を灯し、ルイズはブライトを伴って協会の屋上に続く階段へと足を運び始める。
その毅然たる足取りはブライトに微かな希望を齎していた。
『存外、呆気ないものだったな——予言も、あまりあてにはならなかったか』
何らかの計器が絶え間なくアラートを鳴らし、どこからか漏れ出したオイルに火がついて崩れた艦内は炎の海となっている。
ボロスは、どこか虚しい気分を湛えて炎の中を歩む。
『お前は、確かに強敵だった。未だかつてない程に、俺の生命に届きかけた……それは確かだ、この俺が本気を出すほどに』
彼の歩む先には瓦礫に包まれ、意識を失ったオールマイトの姿があった。下へと向けて放たれたボロスの体内エネルギーの放射を、彼は地上へ届かせる事なく凌ぎきった。しかし練り上げた気をすべて絞り尽くして天将奔烈を放った彼に、相殺で発生した爆発に耐える余裕は残っていなかったのだ。
『だが……やはり俺の期待にはお前でも届かなかった。俺は互いに全力を出し切り、互いに死力を尽くして闘いたかったのだ』
瓦礫の中に埋もれ、俯くように倒れるオールマイトの前でボロスは独りごちる。
『どうやら俺は孤独なのだろう。並び立つものなど存在しないのかもしれない……だが、それでも一時の夢を、闘いの興奮を与えてくれたお前には感謝しよう』
ボロスは凶悪に光る爪を伸ばし、オールマイトの心臓へ向けて手を伸ばした。せめてこの強敵の命を手ずから奪うために。
・悪あがきのセカンドプラン
ルイズの転生者による全力のエクスプロージョンでボロスを吹き飛ばす作戦。
1発きりなのと、最大威力がどこまでのものか測定困難なのがネック。
なおこれでは倒せません(無慈悲)