【ボロス編】ONE PUNCH MAN〜ハゲ抜き転生者マシマシで〜【開始】   作:Nyarlan

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第七話 - Z市の噂〜ゴーストタウンの幻影

――Z市郊外 ゴーストタウン

 

「ふーっ、ふーっ……」

 

 荒れ果てた無人街の中心で、一人の男が息を荒げていた。

 手にしたサーベルは半ばから折れ、自慢の特注燕尾服もボロ雑巾のように破れ悲惨な様相となっている。

 

 彼の名はバネヒゲ。このゴーストタウンの調査に訪れたヒーロー、それもA級という世間に実力を認められた強者の一角だ。

 しかし、目の前に立つ異形はそれをものともしない。

 全身から生えた昆布のような形の触手は鋼のように硬くそれでいて鞭のように柔軟にしなる、とても恐ろしい怪物だ。

 

「ふ、ふふ……こんな怪物が潜んでいるなんて、こんな街にはタダでも住みたくありません、ね」

 

 がくりと膝を突き、そのまま崩れ落ちるバネヒゲに、怪物は触手をうねうねと動かしながら冷めた眼差しを送る。

 

『あー、つまらん……ヒーローを蹴散らしても悲鳴の一つも上がらない。てか、こんなところ住処にしてても人間いないから有名になれないじゃん』

 

 ぶつぶつと文句をいいながら辺りを見渡す怪物。

 

(とどめを刺さず、このまま立ち去ってくれれば良いのですが……)

 

 バネヒゲは視線だけで近くの生け垣に突っ込み気を失っている仲間……同じくA級ヒーローの黄金ボールへ視線をやる。

 その胸がかすかに上下するのを見て、彼は少し安堵する。

 

『このまま居住区へ突っ込むかなー』

 

 しかし、怪物の言葉でバネヒゲの心臓が跳ねる。

 

(……ッ! 行かせては、なりません)

 

 そう思いながらも、限界を迎えた彼の体は思うように動かない。

 辛うじて上半身を起こすと、それに気づいた怪物がにやーっと気持ちの悪い笑みを浮かべた。

 

『あれれーまだ動くんだ。そんじゃあ、トドメを……って、うん?』

 

 彼の方へ進めていた怪物の歩みが止まる。

 

『なんだあいつ……新手のヒーローか?』

 

 怪物が怪訝そうに言ったそんな言葉に、バネヒゲは早くも救援が来たのかと安堵する。応援に現れたヒーローを一目見ようと痛む体を動かし体勢を変える。

 彼の目に映ったその姿は――。

 

 

 

「「「……な、なんだってぇーっ!?」」」

 

 特殊生物保護研究所の一角で、怒号にも似た叫び声が響き渡る。

 

シッ、声が大きい! まだ確定した訳じゃないんだからあんまり大騒ぎしないでくれ……!」

 

 難しい顔をしたオールマイトは呼び出した三人が興奮するのを両手で制する。セタンタは椅子に座り込んで茶を煽り、シロウは手で額を押さえつつそれぞれ息を整える。

 ガッツはそれでも興奮を抑えきれぬ様子でオールマイトへ詰め寄り、非常に暑苦しい光景になっていた。

 

「そうは言ってもよ、それが確定したらこれからの不安要素全部消し飛ぶくらいの情報じゃねーか!」

「しかし、だからこそ慎重にならねばならんぞこれは」

「ああ、これを公表して、それが勘違いだったら……落差はでけえ」

「ああ、だからこそ、裏を取るまではうちの連中(てんせいしゃ)にはなるべく内密にしておきたいんだ」

 

 

「サイタマらしき人物が目撃された、と言うことは」

 

 

 

「――改めて情報を整理するぞ。Z市の災因調査で昆布の怪人にバネヒゲと黄金ボールが敗れる。てかこれ原作イベントじゃねーか?」

「リストから完全に抜けてたわ、最悪二人死んでたぞこれ……」

 

 まずそこから頭の痛い問題であった。サイタマ不在の影響は散々話し合われ、対策が練られている。

 しかし、何人集まろうと前世の記憶、それも娯楽で嗜んだ作品の一つの情報を完全に洗い出すのは難しく、細かい抜けが度々見つかるのだ。

 

「……まあ、無事だったからとりあえず置いておく。それで、怪人に敗北したバネヒゲを助けたのが――」

「黄色いヒーロースーツに赤いグローブとブーツ、白いマントを羽織ったスキンヘッドの細身の男との事だ。後の調査で協会にそんなヒーローは在籍していないことがわかっている」

 

「サイタマじゃね」「サイタマだろ」「サイタマだな」

 

Wait wait焦りは禁物だ。その男はバネヒゲの横を通り抜けると、怪人を拳でワンパンで倒してそのまま去ったらしい」

 

「「「サイタマじゃん!!」」」

 

 三人が顔に喜色を浮かべる。この先に待つ絶望的な相手を退けるのに必要不可欠とも思える人物の影に、希望を見出していた。

 しかし、オールマイトは相変わらず渋い顔をしている。

 

「――しかし、しかしだよ? 彼はこれまで一度も姿を見せてない、過去の記録上にも見当たらない。それで今になって急に降って涌いてくるなど、あるのだろうかと」

「……それなんだよなぁ、現実的に考えると転生者のコスプレが一番ありそうな線なんだが。実際例の怪人の強さ的にはどうなんだ?」

 

 姿で判別できないならば実力はとセタンタが尋ねると、オールマイトは力なく首を振る。

 

「推定で虎程度かな。S級レベルの力もあればワンパンできる程度だから騙りが出来なくもない範囲ではあるんだよね」

「今こちらで把握してる中でそれが可能なのは……体型が引っかかるやつばかりか。あとは未確認の転生者だが――」

「それを言い出すとキリがないんだよな。なんにせよ、直接確認を取るしかないわなこりゃあ」

 

 セタンタが仰け反った事で椅子が鳴く音だけが部屋に響く。

 

「まあ、それでキミらを呼んだんだけどね」

「だよな、ここであーだこーだ言っても仕方ねぇ」

「場所がZ市のゴーストタウンとなると、大規模捜査はおろかお前が直接乗り込むこと自体今はタブーだからな」

 

 シロウは壁に寄りかかりながらため息をついた。

 

「その通り。大勢で露骨に調査したり、私やタツマキくんみたいなビッグネームが乗り込んで探すとなると、奴らを無駄に刺激する事になりかねない」

「怪人協会なァ、今のうちに各個撃破とはいかねぇのか?」

 

 彼の言葉にガッツが腕を組んで唸る。

 

「……奴らは単体でも強い。対処できるヒーローが限られる以上、散られると探し出して根絶するのは難しい。故に原作通り集結させて奴らが優位な状況を作り最大戦力をもって一網打尽にするのが最も確実だと思っている」

 

 オールマイトはそう言うと大きくため息をつく。現状、その事件が起こるまで人類が存続しているかも怪しいのだ。

 

「ま、迎えられないかもしれない未来の懸念は今は置いておこうぜ。そうなると――オレらが適任だわな」

「自分で言うのも何だが、それなりに強い怪人相手にも対処できる程度には強く、そして奴らを警戒させるほど過剰に強くもない」

「しかも顔の知れたヒーローじゃなくてマイナーな自警団の構成員ときた。凶悪怪人の巣窟を調査するにはうってつけだなあこりゃ」

 

 三人はそう言って凶悪な笑みを浮かべる。

 

「……危険な役割を任せてしまってすまない。キミたち以上の適任は居ないんだ、頼まれてくれるかな?」

「まかせろ。アンタほどじゃないが憧れの顔背負って生きてんだ、ここらで手柄の一つも上げにゃ本人に申し訳が立たねぇってな」

「アンタはでけえ役割があるからな、細かい手柄は譲ってもらうぜ」

「何、本当にサイタマが存在するなら危険などないも同然だ」

「……本当に、恩に着るよ」

 

 彼らの言葉に、オールマイトは深々と頭を下げた。

 

 

 

 

「つーわけでだ、どう探すよ」

 

 数日後、Z市のゴーストタウンにはフル装備でやってきた三人の姿があった。

 過去には災害レベル:鬼の討伐も成したことがあり、災害レベル:竜に対しても逃走程度はやってのけるだけの実力を持つ編成となっている。

 

「しらみ潰しだな。ま、最悪日を跨ぐことは覚悟しとけ」

「とりえず、原作に出てくるサイタマのアパートでも探すか」

 

 手がかりらしい手がかりも無いため、三人はそれなりに警戒しつつ地図を頼りに無人の街を行く。

 

「しっかし、ホントに誰も居ねぇな」

「ああ、数年前からこのあたりの怪人発生件数が上昇し続けて、住民は皆引っ越したんだとか。……例の集団の形成はもう始まってると見ていいだろうな」

「シッ、ここではあまり余計なことは喋らないほうがいいだろう。どこに『目』があるか分かったものではないからな」

「それもそうか。――っと、来たな」

 

 三人は立ち止まり、油断なく周囲を見渡す。やがて、廃墟の扉や破れた窓から複数の異形が姿を表した。

 

「なんだァ、人間が三匹かァ。ちっ、噂の怪物を拝めると思ったのに、全然居ねぇじゃねーか」

 

 異形の一匹が口から飛び出した牙を舐め回しながら言う。

 

「めちゃくちゃ強い怪人どもが集まってるって噂を聞いたから俺らも仲間に入ってやろうと思ったのに、とんだ肩透かしだぜ」

「まァ? せっかく馬鹿な人間を見つけたことだし、ちょいと遊んでやろうぜェ、プキキ」

 

 ニヤニヤと笑う怪人を前にしても、三人に焦りはなかった。

 三人より一回り小さな体格、全身を茶色の毛で覆われたそれは。

 

「はン、ウリ坊怪人ってところか」

「掻っ捌いて血抜きしてボタン鍋だな、幸先いいぜ」

「五頭はちょっと多いな、残りは燻製にでもして土産にするか」

 

 そんなことを言いながら武器を構える三人に、イノシシの怪人は憤りから地団駄を踏む。

 

「コイツら、ナメやがって!」

「みかん畑殺しのあらくれオーク兄弟と謳われた俺たちを食うだと!? やれるもんならやってピギュッ

 

 黒い風のように吹き抜けた一撃が、先頭にいた一頭の首をスパンと刎ねる。首が赤い軌跡を描いて地面へ落ちると同時に、ぶくぶくに膨れた肉体が波打ちながら地に伏す。

 

「――やっぱ駄目だな、肥えすぎててマズそうだ」

 

 大剣を肩に担ぎ直し死体の腹を踏みつけるガッツの姿に、我に返ったイノシシたちが絶叫する

 

「「あ、兄貴ィィイイ!?」」

 

「おのれェ! 兄貴の仇ィギャッ!?

「くたばれ人間めェバラッ!?

 

 手に持っていた粗末な槍を振り回しながらガッツへ踊りかかったイノシシの眉間を矢が穿ち、貫通した矢がその背後の一頭の心臓をそのまま射抜いた。

 

「や、やべぇ! コイツら強えぞ!」

「に、逃げ……ウヒィ!

 

 逃げようとしていた残りの二頭の目の前に朱槍が突き出され、揃って尻もちをつくことになり、制圧はアッサリと終了する。

 

「口ほどにもねぇなお前ら。あらくれポークソーセージだっけ?」

「あらくれオーク兄弟です……」

 

 両手を縛られ、正座をさせられた二頭を囲むようにガッツたちがしゃがみ込んでいる。

 

「んで、お前らは他所から噂を頼りにここへ来たんだな? 具体的にどんな噂だ」

「はい、Z市のゴーストタウンに強い怪人が集まってなんかやろうとしてる、みたいなフワッとしたもので、実際ここで調べ回ってもそれらしい集団は見つけられませんでした……」

「あとはとんでもなく強い怪物がこの街に住み着いてるとかです」

 

 冷や汗をだらだらと垂らしながら答えるイノシシたち。その返答にセタンタは考えを巡らせる。

 

(奇妙なくらい原作と似たような噂だな。前者は怪人協会の事、後者はサイタマの事だったはず……じゃあ、やっぱ居るのか?)

 

 三人は視線を合わせると、イノシシに顔を向けた。

 

「……じゃあ、ハゲ頭で黄色いヒーロースーツに白いマントを付けたヒーロー風の男。そういうやつに見覚えはないか?」

「ハゲ? いや、そういうのは見てないです……」

「ちっ、ハズレか。早くも情報が途切れたなオイ」

 

 舌打ちをするガッツに、イノシシたちの肩が跳ねる。

 

「……まあ、地道に探すしかなかろう。セタンタ」

「おう、ジッとしてろよテメェら」

 

 朱槍を手に立ち上がるセタンタに、二頭が震え上がる。

 

「ひ、ヒィっ! 情報なら喋ったじゃねぇかあ!」

「こ、殺さんでくれェ!!!」

「ジッとしてろ、つったろう、がっ!」

 

 ビュン、と槍が風を切る音が周囲に二度響く。

 

ぴぎぃぃぃぃ……あれ?」

 

 固く目を瞑って震えていたイノシシたちは、痛みが来ないことに気が付いておずおずと顔を上げる。

 すると、三人は既に背を向けて歩き出しており、そして縛られていた手が自由になっている事に気付く。

 

「もう畑荒らしたり人間襲ったりすんなよ、次はねえぞ」

「に、兄ちゃんたちぃ……!!」

「ゔお゙お゙お゙お゙ん゙! だずがっ゙だぁ゙……!!」

 

 ひしと抱きしめ合う二頭を背に、三人はその場を後にした。

 

「さあてと、振り出しに戻った訳だが」

「まあ、原作通りに近い状況で進行してるらしい事は分かったじゃないか。ゴーストタウンの怪物の噂はサイタマの可能性が高い」

「そうなら良いんだがな、宇宙海賊と真正面からとか冗談じゃねぇ」

 

 ため息混じりに街を散策する三人。時折、状態のいいアパートなどの中を探してみるものの、成果は上がらないまま時は経つ。

 早朝から始めた調査はすでに正午を回っていた。

 

「こりゃ、ホントに日を跨ぎそうだぞ……」

「三日までは許されてるが、果たして見つかるかどうか……」

「とりえず本物でもコスプレでも良いからさっさと出てきてほしいもんだ。成果なく時間切れじゃスッキリしねーからな」

 

 公園のベンチにどっかりと腰を下ろすガッツ。重い大剣を地面に投げ出すと、周囲に乾いた音が響き渡る。

 

「とりあえずそろそろ昼飯にしようぜ、腹減ったわ」

「ようやく昼か、何もねぇと時間が経つのが遅いぜ全く」

 

 二人もそれぞれ腰を下ろし、荷物から弁当箱を取り出した。

 握り飯を頬張りながらZ市の地図を眺めるシロウ。

 

「ふーむ、この範囲まで終わったか。午後からはこの辺りを探索するぞ、衛星写真から見て、原作でサイタマのアパートがあった辺りはおそらくこの辺りだ」

「はー、先は長いな。三日でどこまで回れるか……」

「粉々の怪人の死体とか、痕跡の一つでも見つけたいもんだ」

 

 もぐもぐと口を動かしながら地図を眺める三人。

 すると――。

 

「おーい、兄ちゃん達ぃ――ひえっ!?

「うおあああっ、仇討ちとかじゃねって!? 武器下げてくれ!」

 

 即座に武器を構えた三人に両手を上げて降伏を示したのは、先程のイノシシ怪人たちであった。

 

「なんだテメェらか。なんか用か?」

「餌が欲しいなら森へ帰れや」

 

 武器も持たず白旗を上げた事でひとまず警戒を解いたガッツ達に、二頭の怪人は冷や汗を拭いながら安堵の吐息をもらす。

 

「違うんす! 兄ちゃんたちが言ってた特徴の男を見かけたから知らせに来たんでさぁ!」

「さっき見逃してくれた恩を返したいんす!!」

 

 膝をつきうるうると目元を潤ませた二頭の言葉に、三人は思わず顔を見合わせる。

 

「……何処だ、どこで見た?」

「こっちッス! 付いてきてくだせぇ!」

 

 立ち上がったイノシシたちを見て、ガッツたちはすばやく握り飯を胃に突っ込み、身支度を整える。

 

 

 

「あっちッス! あっちにある路地で見たんす!」

「本当だろうな」

「ホントっす! 黄色い服に赤いグローブとブーツに白いマントのハゲ頭っ、あんなもん見間違えるほうが難しいッス!」

 

 テンション高めの二頭を追い三人は真剣な面持ちで歩みを進める。そんな姿を横目に、ガッツは声を潜めて言う。

 

「……どう思う」

「わからん。だが、貴重な手がかりには違いない」

「しかしお誂え向きに、サイタマのアパート方面だな……」

 

 イノシシに導かれるまま歩みを進み、路地へ入っていく一行。

 

「そこの角曲がった所ッス!」

「まだ居るといいッスけど……」

「サンキュー。んじゃあ、行くとすっか」

 

 顔を見合わせ、角を曲がる三人の目の前に現れたのは――。

 

 ――人気のない行き止まりであった。

 

 

「おい……これはなんの冗談だ?」

「間違えたならそう言いたまえ、返答には気をつけたほうがいい」

 

 青筋を立てた三人が振り返ると、イノシシたちは気持ちの悪い笑みを浮かべて立っていた。

 

「ブヒヒヒィ! 騙されたお前たちの姿は滑稽だったぜ!」

「頭の悪いクソ兄貴達とは頭のデキが違うのさ! 命乞いをするなら今の内だぜブッヒッヒ!」

 

 ニタニタと笑いながら馬鹿にした態度で物を言う二頭に、ガッツは凶悪な笑みを浮かべて大剣を抜いた。

 

「おーおー、拾った命を投げ捨てる覚悟は出来たみてぇだな?」

「賢い俺らがなんの策も用意してないとでも?」

「やってみろ、正面からぶった斬ってやる」

 

 剣を構えたガッツの目の前で、イノシシ達は大きく息を吸う。

 

「「とうちゃァン! 今だあああああ!!」」

 

「――なっ!?」

 

 自分の真上に影が掛かった事に気付き、ガッツはとっさに後ろに飛んだ――直後。

 

 

――ずうううぅぅぅううん

 

 

 重たい音とともに地面が揺れ、路地に埃と砕けたコンクリートが舞い上がる。

 

「ガッ――クソっ」

 

 風圧に飛ばされたガッツは警戒するセタンタとシロウの前に剣を構えて立ち上がる。

 

『ブォーッホッホ! 人間ごときがよくもオレ様の息子たちを三人もブッ殺してくれたなァ??!』

 

 土埃が晴れると、そこには先程のイノシシ怪人たちとは比べ物にならないほどに巨大な大猪が立っていた。

 白銀の毛皮に覆われた肉体は屈強な戦士のそれであり、口から飛び出した牙は鋭く長い。いくつも刻まれた古傷が歴戦を物語る。

 

「こりゃあ、大物が釣れやがったな糞が」

『我が名は(おっとこ)ヌシ! Z市郊外の森の主である! 生意気な人間どもめ、後悔させてくれるわ! カアーッ!』

 

 手に持った巨大な棍棒を振り上げる漢ヌシに、三人は飛び退いて回避する。振り降ろされた棍棒はコンクリートで舗装された地面を軽々と粉砕し、その破片を飛び散らせた。

 

「チッ、災害レベル:鬼はありそうだな……厄介な」

「加えてこの狭い場所では虎の子である2号の矢は使えん、なんとかして広い場所へ移動するぞ」

「そうは言っても簡単には抜けられそうにないぜ」

 

 袋小路に追い詰められた三人はまさに袋のネズミ。

 

「ブーッヒッヒ! さあ土下座して命乞いをしろ! そうすれば楽に死なせてやらんでも――あびゃあ!?

「ブヒッ!?」

 

 ガッツが投げたナイフが額に刺さり、大猪の後ろから煽っていた一頭のイノシシがもんどり打って倒れる。

 

「しゃあねぇ、やるぞ」

「おう、援護は頼んだぜシロウ」

「まかせろ――っと!」

 

 シロウが放った三本の矢を漢ヌシは横薙の棍棒で散らした。

 棍棒を抜けた一本が腕に当たるものの、厚い毛皮に弾かれる。

 

「せぇぇぇあッ!」

 

 棍棒を振り切ってガラ空きになった腹を大剣が渾身の力で斬り付ける。大質量の一撃は、しかし有効なダメージを与えれず、皮膚を浅く裂くに留まった。

 

『ブモオオオ! 効かぬわっ!』

「ッセエエエッ!!!」

 

 無茶苦茶に振り回される漢ヌシの棍棒をガッツは大剣で力強く、しかし繊細な技術を以って打ち払う。

 鉄板を打ち据える音が断続的に響く中、ガッツは痺れる腕を気合で動かし攻撃をいなし続けた。

 最初と同じように漢ヌシが大きく振りかぶると、ガッツは歯を強く食いしばる。

 振り下ろされる棍棒を紙一重で横に避け、飛び散る石と木の破片をものともせずに大剣を振り上げ――。

 

「――お……おおおおおおおッ!!!!」

 

 万力を込めた打ち下ろしで、棍棒を半ばから圧し折った。

 剣戟の嵐が止むその瞬間、風のように飛び出してきたセタンタが折れた棍棒を持つ大猪の腕を駆け上がり、二の腕の半ばで跳躍する。

 

プギッ!?

 

 朱い槍の穂先が漢ヌシの右目を浅く斬りつけ、鮮血が舞う。

 セタンタはそのまま広い肩を足場に更に跳躍し、その巨体を飛び越え……そして、大猪の背後に立っていたイノシシ目掛け投槍した。

 

「――プギャッ!?

 

 寸分違わずに喉を貫通した槍を、着地したセタンタがすばやく掴みつつイノシシの胴を蹴る勢いで引き抜く。

 

『オノレェ!!!』

 

 折れた棍棒を捨てた漢ヌシが掴みかからんとするのを、ガッツは大剣を盾にしながら横へ飛ぶ事で回避した。

 そうして彼が退いた空間を一本の矢が通り抜け、それは先程ガッツが付けた傷口へと寸分違わず突き刺さり――。

 

『プギャアッ!?』

 

 ――空気を震わせて爆発した。飛び散る肉片と鮮血……しかし、その傷口は想定よりもかなり浅く、致命傷には至らない。

 

「――ちっ、一号では殺しきれんか!」

 

 腹を押さえて膝をつき、それでもなお闘志を失わない怪物に、弓を構えたシロウが舌打ちをする。

 

『この、小童どもがあっ――プギッ!?』

 

 血を吐きながら、なおも立ち上がらんとする漢ヌシ。その体は、唐突に硬直し、短い悲鳴を上げる。

 

「――体が硬いやつへの対処法ってのは、昔から変わらねぇ」

 

 その背後には朱槍を突き出したセタンタが立っており、その槍は漢ヌシの肛門へ深々と突き刺さっていた。

 

「これで終わりだ、ゲイ・ボルグッ!」

 

 量子変換にて格納されていた長く太い棘が槍の側面から無数に飛び出し、漢ヌシの腸内をズタズタに引き裂く。巨大な猪は声にならぬ絶叫を上げ、横倒しに倒れ伏してついに動かなくなった。

 

 

 

「……ッハー! のっけからヘヴィだなこりや!」

 

 大剣を背中の鞘に納めながらガッツが笑う。

 

「……流石は魔境と名高いZ市ゴーストタウン、いきなりこんな化物に遭遇するとは。これは気を引き締めてかからないといかんな」

 

 シロウは額の汗を拭いながら深くため息をついた。

 

「ッたく、ゲイボルグの予備を持ってきて良かったぜ。流石にこれをそのまま持ち歩きたくねえわ……」

 

 血の滴る肛門から生えた愛槍を見ながら、セタンタがうなだれる。

 

「捨てて帰ったらジョウタロウがキレるぞ」

「わあってるよ、回収してビニールにでも包んで持って帰――」

 

 

――それは、その場の誰もが想定していない事態だった。まさか、内臓をグチャグチャに掻き回された生物が。

 まだ生きていてなおかつ動けるなどと、信じられようか。

 

 

「ガッ――――!!」

 

 再び動き出した怪物は、油断して近づいてきたセタンタの足をむんずと掴み、そのまま地面に叩きつけた。

 強かに頭を打ち、彼の意識が瞬時に飛ぶ。漢ヌシはそのままセタンタの体を振りかぶり、渾身の力で投げる。

 

「ッ、セタン――がっ!

 

 矢のような勢いで投げ飛ばされた彼の体はガッツの横を通り抜け、シロウを諸共に巻き込んで壁へと叩きつけられた。

 ――決して、彼らは侮っていたわけではない。災害レベル:鬼に至った怪物とは彼らの想定を、常識を食い破るほどの存在だった。

 ただ、それだけの話だ。

 

「……マジ、かよ」

 

 一人残されたガッツは、滝のように汗を流しながら再び起き上がる巨体を只見上げることしか出来ない。

 

(相手は死にかけ――それでも、一人で殺しきれるか?)

 

 ガッツは再び剣を抜き、呻く二人を背に守りながら立つ。

 その体は小刻みに震え、顔は恐怖に引き攣っていた。

 

 

――ズン。重い足取りで、漢ヌシが一歩歩みを進める。

 

――ズン。地面にはビタビタと血が滴り、見るからに半死半生だ。

 

――ズン。目は虚ろで、焦点は定まらない。しかし。

 

――ズン。その体から滲み出す殺意は、ガッツの体を縛り付けた。

 

 

 

 

『フシュ――――ッ』

 

 大きな豚鼻から血飛沫混じりに吐き出された吐息が、彼の前髪を揺らす。もう、その距離は目と鼻の先。

 路地の外からの逆光で、その表情はよく見えない。しかし、怒りに染まった目だけが、炯々とガッツを射抜いていた。

 

 漢ヌシが、緩慢な動きで太い腕を持ち上げるのを、ガッツは。

 

(あっ――死ぬ――)

 

 ただ見ている事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――ズドン。

 

 

 

 

 

 

 

 大砲のような音とともに、ガッツの視界に光が差し込む。

 目の前には漢ヌシの下半身が饒舌に血を噴き上げており――次の瞬間には、ガッツの真横に漢ヌシの上半身が落ちてきた。

 

(な、何が――)

 

 血の噴水が勢いを失い、半身を失った体が崩れ落ちた時。

 

「――――」

 

 彼は腰の入った拳を突き出した一人のヒーローの姿を見た。

 黄色い衣装、赤いグローブとブーツ、白いマント。

 

――そして、日に照らされて輝く見事なスキンヘッド。

 

 それは、まさに彼らが待ち望んだ男の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (・___・)

 

 

「サイタ――――あ゙っ?!」

 

――その気の抜けるような顔を除けば、だが。




ガッツの転生者「すげぇぞ さすが超越者 ほんとに死なねえぜ(恐怖)」

・ハンターズ転生者三人衆
この三人組、話動かすのにめっさ使いやすい……
三人だけでも連携すれば弱めの鬼ならそれなりに安定して倒せます、しかし本物ほどメンタルキマってないので崩れると弱い
ドラゴン殺しで攻撃をいなすガッツ
裏取って攻めるセタンタ
牽制とメイン火力爆裂矢一号&二号持ちのシロウ

・サイタマ(?)
偽サイタマ、あらわる!ホンモノかと思いました?ざんねん!
さあ、コヤツは何モンなんでしょうねぇ……

・あらくれオーク兄弟
推定災害レベル:狼
みかん農家と死闘を繰り広げるうちに怪人化したイノシシたち
5頭兄弟だが兄弟仲は別に良くない、対みかん農家の勝率は三割ほど

(おっとこ)ヌシ
推定災害レベル:鬼
森のヌシである老いた大猪が怪人化したもの、つよい
あらくれポークどもに煽てられて良いように使われる(頭は)よわい
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