第1話 覚醒の鼓動
話は14年前に遡る。
俺は一度死んでいる。
こんな事を言うと頭がおかしい人だと思われるだろうが、事実なので仕方がない。
死因は脇見運転の車に巻き込まれて、とさして珍しくもない死に方だ。
免許取った時に日本では毎日誰かが交通事故で死んでるって言ってたしな。
即死だったのは唯一の救いだろう。
中途半端に意識が残って苦しみながら死ぬとか最悪だし、運が良かったと思う。
ん?悪いのか?
…まぁ、今では前世の出来事も死んだ時の事とか余程のイベント以外は余り思い出せなくなっているくらいなので、さして未練も無かったのだろう。
唯一の心残りは自分の部屋の本棚の裏に隠してある大量の変身ヒロインもののウ=ス異本コレクションくらいか…
それはもう基本のいちゃラブから触手系、闇堕ち系、百合物まで古今東西あらゆる食指に触れる物を集めに集めたものである。
こんなのが最大の思い残しとか我ながらロクでもないな…
という訳で、ごく普通の奴が普通に死んだ訳だ。
しかし、何故かここからが普通と違う所だった。
まぁ、死んだの初めてだからこれが普通なのかもしれんけどネ!
なんか死んだ、と思って気付いたら事務所みたいなところにいた。
『あ、お疲れさまです』
そこには、なんか妙に目に優しい黄緑の服を着た美人さんがいた。
死んだらお疲れさまと言われるらしい。
『残念ながら、貴方は死んでしまいました』
うん、そうみたい。
『でも諦めてはいけません!これは逆にチャンスですよ!』
え?死んでるのにチャンスとかあるの?
『はい!今回、特別に転生のチャンスが当たりました』
特別にをやたらと強調される。
ていうか、転生?
『はい!転生ですよ!プロ…じゃなかった、幽霊さん!』
幽霊か…
改めて言われると結構クる物があるな…
ところで、今何と言い間違えたの?
『そ、そんな事より転生する貴方のお供にライバルと差を付けるお得なスタートパックのドリンクセットは如何でしょうか?今なら3000コインと大変お得になってますよ?』
あ、結構です。
死んでんのに金持ってる訳ねぇじゃん…
というかライバルってなんなの?
『あ、それは言葉の綾といいますか…とにかく!お得なんでお一つどうでしょうか?』
あ、結構です。
そんなぁ…とか可愛い仕草されても無い物は無いです。
とりあえず、その見るからに怪しい商魂逞しい事務員?が言うには別世界でモブとして生きるか、俗に言うチート転生するかのどちらかを選べるとの事らしい。
ちなみにどちらを選んでも転生先は変わらないのと、確実に事件には巻き込まれるらしい。
転生しても波乱の人生とか生まれる前から絶望的なのもいいところなので、普通にあの世行きはダメか聞いてみたが、絶対裏しかない笑顔で返されたので辞めておいた。
あれは絶対いい事無いって顔だった。
そして、どうせ巻き込まれるなら…とチートの方を選んだのだが…
「煩わしい太陽ね」
「あ、蘭子ちゃんおはよー」
「おはよう、蘭子は相変わらずだね」
………この通り、コミュニケーション能力が著しく悪い…というより変なのだ…
より正確に言うと、発言に関する機能がバグっている。
先ほどの発言に俺の意志は介在していない。
普通に「おはよう」と言おうとするとこのように謎の厨二ワードに言語変換されるのだ…
後、精神的には男のままなのだが、なんか神崎蘭子という名前の女の子になってた。
TSとかこの謎翻訳フィルターとか色々聞いてないんですけどっ!?
更に言うと未だにチートらしいチート能力に目覚めてもいない。
この通り重度のコミュ障、体力は中の上くらい、学力は生前の知識のおかげでやや優等生といったところだ。
まぁ、見た目はかなりの美少女なのだが、このコミュニケーション能力のせいで色々と帳消しになっている感が否めない。
なんか色々と騙された感満載である。
どうやら、あの黄緑の事務員?は神様ではなく邪神の類だったらしい。
某凶悪ピエロもある意味邪神だし何かをオススメしてくる奴はだいたい邪神なのだろう。
ドリンク買わなかったから呪われたのかな…
…とまぁ邪神談義は置いといて、先ほど挨拶をしたのは最近友達になった立花響ちゃんと小日向未来ちゃんだ。
響ちゃんはやや茶色がかった癖っ毛の、見た目通り活発な美少女で、未来ちゃんは響ちゃんとは対照的にセミロングの黒髪で落ち着いたイメージの大和撫子を彷彿とさせる美少女だ。
二人とも何度も謎翻訳言語で翻弄したのだが、全く怯む素振りも無く、ついにはこの謎言語のニュアンスを解釈可能なレベルまで解読した猛者でもある。
ホント、めんどくさい友達でゴメンね…
「そういえば、響、蘭子、来週のライブはちゃんと行けるの?」
未来ちゃんが聞いてくる。
なんでも、未来ちゃんお気に入りのツヴァイウィングというユニットのライブらしいのだが、俺は音楽には疎いのであまり詳しくは知らない。
しかしまぁ、こういうものは友達と一緒に行く事自体が楽しい訳で、
「時の欠片を紡ぐなど我にとって容易なこと…来る日に魂の安息を味わうが良い!」
「私も大丈夫だよ!楽しみだなぁ!」
「良かった。当日は3人で集合ね?」
……ホント、予定は大丈夫、友達と遊ぶの楽しみってのが、なんでこんな不可解言語になるんだろうね…
ていうか、なんの質問も無くコミュニケーションが成立してるのがマジでスゴい。
チート能力者って実は俺じゃなくて、この二人なんじゃないの?
***
ライブ当日。
未来ちゃんが急に家の用事で行けなくなった。
なんでも叔母さんが怪我をしたらしく家族で行く事になってしまったとの事。
残念だがこればかりは仕方がない。
今度埋め合わせにお好み焼きを奢ってくれるらしいので、遠慮なくゴチになろう。
フッ、蘭子スペシャルを知らぬ事を後悔するといい。
あ、これなら翻訳されずそのまま言えそうだな。
しかし、問題なのは今日のライブの方だ。
俺も響ちゃんもよく知らないアーティストなので、楽しめるか少し不安…
まして俺コミュ障だしね…
いよいよライブが始まるみたいだ。
やべ、緊張してきた…
~~~♪
結論から言うと、不安は全くの杞憂だった。
ステージに立つ二人の歌姫に俺も響ちゃんも魅了されていた。
今まであまり興味が無かったんだけど、歌ってスゴいんだなぁ…
気付けば、サイリウム二刀流ではしゃぎ回る女子中学生二人組がそこにいた。
ていうか、俺達だった。
「スゴいね!これがライブなんだ!」
「我に言の葉を紡がせんとは…やりおる!」
そんな話をしていた時だった。
会場の盛り上がりも最高潮、歌姫達が次の歌を歌い始めるその時に事件は起こった。
俺の元いた世界ではあり得ないモノ…
特異災害ノイズ。
その、人を炭に変えるバケモノ達が会場に現れたのだ。
混乱の中、逃げ惑う人々。
それを追う異形の群れ。
会場は一瞬で地獄絵図と化していた。
まずいな…なんとか響ちゃんだけでも避難させないと…
「我が友!撤退を!」
「蘭子ちゃん!?」
響ちゃんを強引に避難する人々の波に押し込む。
これで後は、時間さえ稼げれば安全な場所まで避難できる筈だ。
俺?まぁ、俺は一度死んでる身だし、死なないに越した事は無いが優先順位は下げてもいい。
やっと出来た友達だ。
絶対に死なせたりしない。
それに…なんとなくだが、今この時の為に転生したんじゃないかと思えるくらいなのだ。
その割には全然チート能力とか兆しすら無いんだけどね!
まぁ、無い物ねだりしても仕方ないので、自分に出来る範囲で頑張るしかない。
とにかく、混乱の渦の会場の中で俺は比較的冷静だった。
だから、気付いていた。
会場に鳴り響く歌声に。
***
改めて、会場を見る。
この混乱の最中、おかしな話なので、とうとう言語能力だけじゃなくて耳までおかしくなったのかと心配したのだが、聞き間違いじゃなかった。
やっぱり、誰かが歌っている。
そして、戦っている。
…訳がわからないよ…
なんで歌いながら戦ってんの?
しかも、あの二人ステージにいたツヴァイウィングじゃない?
変身ヒロイン的な何かかな?
それなら触手が足りないよ?
あ、これは絶対勝てなくなるフラグだから駄目だ。
ていうか、あの赤い方の人、ちょっと旗色が悪くないか?
その時…色々と極限状態の上に理解困難な事柄を見て、脳内がショートしそうになっていたのだろう。
言い訳はいくらでもある。
要するにロクに周囲を警戒もせず、ボーっとただつっ立っていたのだ。
「蘭子ちゃん!危ない!」
「え?」
気付けば響ちゃんに突き飛ばされていた。
何故?とか、避難したんじゃ…とか色々疑問に思ったのも束の間…俺を突き飛ばした響ちゃんは次の瞬間、何かの破片に胸を貫かれていた。
「良かった…無事…だった…」
「我…が…友?」
そのまま響ちゃんは胸から血を流し倒れ込む…
世界がスローモーションになったみたいだ…
赤い髪の人が響ちゃんに駆け寄り何かを言っている。
その光景にただただ立ち尽くす…
わかっている…
俺のせいだ。
こんな状況で不注意を働いたのもそうだ。
それに…わかっていた筈だ。
あの事務員は何と言っていた?
事件に巻き込まれると。
なのに何故、仲良くした?
知って貰えるのが嬉しくて。
わかって貰えるのが嬉しくて。
そんな自分本位な気持ちだけで…
沸々と怒りが込み上げてくる――
ノイズに。
そして、何よりも自分自身に。
その言葉は気付けば、口から出ていた。
「我が
「
こんな時まで謎翻訳機能は健在だが、胸から歌がこみ上げてくる。
イメージは先ほど戦っていたツヴァイウィングの二人。
あの二人みたいに、戦う力を
「ブリュンヒルデの輝きよ!!」
***
瓦礫によって崩落したネフシュタンの鎧の起動実験施設。
既に本来の目的が何者かによって持ち去られた後のその施設の一つの計器が反応している。
瓦礫を押し退け、偶然その反応を見た風鳴弦十郎は目を見張る。
「新たなアウフヴァッヘン波形…だとぉ!?」
それは、起動実験をしていた完全聖遺物でも、ツヴァイウィングの二人が持つ物でもない、全く新しい反応パターンだった。
聖詠も熊本弁です。