胸に浮かんだ歌を歌い終わると、自分の姿もツヴァイウィングの二人のように変化していた。
「お…お前…」
赤い方の人に声を掛けられる。
そういえば、ライブに来てるというのに俺、この二人の名前すら知らないや…
「我が名は傷ついた悪姫、ブリュンヒルデ!」
「お…おぅ、なんか強烈な奴来たな…」
やめて!引かないで!そんな目で見ないで!
本人が一番良くわかってるから!
「この
「あ、おい!?」
言い終わると同時にノイズ達に向けて走り出す。
早い所事態を解決して響ちゃんを病院に運ばなきゃいけないのもあるし、正直、もうあの残念な人を見る目に耐えきれそうにない。
♪華蕾夢ミル狂詩曲~魂ノ導~
人型のノイズ達が迫ってくる。
「我に刃向かうか!慮外者!」
「封書!」
叫ぶと同時に黒い紙の束がノイズ達を拘束し、そのまま収束してノイズ諸共消えてゆく。
しかし、今の所無意識に使えているけど、この能力なんなんだろう…
ツヴァイウィングの二人が何で戦ってるかも不明だし、わからない事だらけだな…
そう思ってたら芋虫みたいなのが、粘液みたいなのを吹き掛けてくるので横っ飛びで避ける。
うわっ、きちゃな!
改めて向きなおし、反撃しようとすると…
―蒼の一閃―
青い方の人が芋虫を一刀両断にしていた。
「呆けない!死ぬわよ!」
す、すいません。
ここは俺に任せろ(ドヤァ)とかしながら情けない…
「ならば我も戒めを解き放とう」
「え?」
ん?何か青い方の人がキラキラした目でこっち見てるような…
おっといかん。集中集中…
「我が憤怒、煉獄の業火を味わうがいい!」
辺り一面を極大の炎が包み込む。
―Laevateinn―
その炎で大方のノイズは焼き尽くせたらしい。
やっぱり人を炭に変えるだけあって、よく燃えるみたいだ。
よし、それじゃあ響ちゃんを急いで病院に…
「待ちなさい!」
青い方の人に剣を向けられる。
「貴方には私達と一緒に来て貰う」
「おい!翼!助けて貰ったんだから礼が先だろ」
いや、今そんな事してる場合じゃないの!
響ちゃんが…友達がピンチなの!
「裁きよ!」
号令と共に二人との間に炎の壁が立ち上る。
「待て!くっ!奏!放して!」
赤い方の人、奏さんっていうのか…
青い方の人を抱き寄せる形で止めている奏さんがウィンクしてくる。
任せろって事か、美人は何しても様になるなぁ…
そんな事を考えながら、今度こそ、俺は響ちゃんを抱えて病院へと向かうのだった。
***
銀髪の謎の少女が去った後、天羽奏は風鳴翼を宥めながら周囲を見渡す。
「こりゃまた、派手にやりやがったなぁ…」
周囲には逃げ遅れた人や大切な誰かの為にその場に残った人などが見受けられる。
そう、あの銀髪の少女が放った炎は完全にノイズだけを識別して殲滅していたのだ。
自分達、シンフォギアの力は研鑽した技とフォニックゲインに聖遺物が呼応して、発現する。
しかし、彼女のそれは、まるで彼女のイメージするままに能力が発現しているように見えた。
あり得ない程の規格外の力だ。
あれが敵に回れば、厄介どころの騒ぎではない。
だからこそ、翼は彼女を引き止めたのだが…
「傷ついた悪姫か…」
彼女の口上を思い出し、笑いを堪える。
奏にはどう転がっても、彼女が人に害を為す存在には見えなかったのだ。
「アタシもそろそろ潮時って事かねぇ…」
無茶をして来た事は自分でも理解している。
度重なるLiNKER投与による薬害で何度も地獄を見てきた。
既に、自身の身体が限界である事も悟っていた。
正直言うと、今でもノイズ達は憎い筈だ。
だが、何故か今はとても穏やかな気持ちだった。
「ま、後は若い者に任せますか」
そうして、天羽奏はシンフォギア装者を引退する事を決意したのであった。
***
結論から言って、響ちゃんは何とか一命を取り止めた。
後少し遅ければ命は無かったと言われ、肝が冷えた。
しかし、胸を完全に貫通された傷がすぐに良くなる訳もなく、傷が癒えてからも長いリハビリ生活が必要となった。
あの事件から3ヶ月が過ぎた今でも、退院出来ず未来ちゃんと二人で週3回お見舞いに足を運んでいる。
本人曰く『へいき、へっちゃら』らしいが、やっぱり見ていて痛々しい。
あの後、ツヴァイウィングの二人から何かしらのアクションがあるかと思っていたが、特にそんな事もなく、平穏に過ごせている。
あんな事件があったのに、世間は不自然な程に穏やかだった。
やっぱりこの世界は異常だ。
少なくとも、数百、数千人単位の人が亡くなった筈なのに、
あの事務員め!
こんな世界にモブで転生したら確実に2回目の死がすぐ来てたじゃないか…
そんな事を考えていると、いきなり周囲の景色が変わる。
あれ?ここは…
『お疲れさまです。蘭子ちゃん』
出たよ…邪神(仮)。
『もぅ!誰が邪神ですか!?』
…じゃあペニー◯イズ(女)?
『違います!私をあんな節操無いピエロと一緒にしないでください!』
まぁ、冗談はさておき、今日は何の用ですか?
ドリンクは買いませんよ?
『会話を先読みしないでください!』
買わせるつもりだったのかよ…
『コホン、覚醒おめでとうございます!蘭子ちゃん』
覚醒?あぁ、あのチート能力ね。
あの能力なんなの?
『説明が要ると思って、こちらに呼んだんです。ところで、ついでにドリンクは如何でしょうか?』
あ、結構です。
ついでじゃなくてそっちが本命では?
『そ、そんな事無いですよ?』
あんまり信用出来なくなるから目を逸らさないでくれます?
『じ、じゃあ能力の説明しますね!』
やや早口でまくし立てられる。
誤魔化しやがった…
この能力だが、名前は『シンデレラの靴』というらしい。
何故にシンデレラなのかは聞いても答えてくれなかった。
大人は質問に答えないという某ブラック企業重役のスタイルなんだろうか?
で、肝心の能力だが、簡単に言うと『何でも出来る』らしい。
まぁ、死者蘇生みたいな自然摂理とか物理法則を無視した事は無理らしいが、俺のイメージと、込める力…なんかフォニックゲインとか何とか言う力次第で本当に何でも出来てしまうらしい。
さすがにチート過ぎない?って言うと…
『夢見る星達の頂点、その二代目の証です。それ位出来て当然です』
との事だ。
まったく訳がわからないが、こんなチートが少なくとも後一個ある事の方が恐ろしいんだけど…
『ではその力、貴女がどう扱うか、見せて貰いますね』
そう結び、辺りが元の現実に戻った。
………やっぱり邪神だわ、アレ。
***
響ちゃんが退院した。
まぁ、あの日以来バレない程度に力を使って回復をサポートしていたので、医者の予想よりずっと早く完治まで至った。
しかし、退院した響ちゃんを待っていたのは、心無い人々の迫害だった。
ノイズ被害に対して世の中が穏やかなんていうのはまやかしだった。
ずっと…責める相手が責める事が出来る状態になるのを待っていたのだ。
完治して間もない響ちゃんに押し寄せるマスコミの人々。
あまりにしつこいので、直接来た人は全員響ちゃんの事だけ記憶喪失になって貰った。
しかし、それでももう止めようが無かった。
個人のチートが無力になる程の数の暴力という奴だ。
大勢の人が死んだ。
その責任を皆が皆、生死の境から生還した響ちゃんに問うのだ。
ノイズに対して消極的な異常な世界と思っていたが、甘かった…
俺が思ってた以上に、世界はこのノイズ災害に疲弊していたのだ…
本来何の罪も無い筈の響ちゃんに己を守る術などある訳が無かった。
あの優しい感じのおじさん…響ちゃんのお父さんも出て行ったまま帰って来なくなってしまったらしい。
今日も、響ちゃん、未来ちゃんと3人で響ちゃんの机に書かれた落書きを掃除している。
それを周囲で嗤いながら見るクラスメイト達…
もう自分自身、我慢の限界だった。
「我が友を嘲笑うな!」
「蘭子ちゃん…?」
気付けば、涙が流れていた。
それでも構わず、もう一度言う。
「我が友を侮辱するな!貴様等に輝き持ちし我が友を蔑む資格などありはしない!」
周囲からクスクス笑いが強くなる。
やっぱりこの謎翻訳は逆効果なのか…
仕方ない…こうなったら実力行使しかないよね?
仄暗い感情に支配されつつ、力を使おうとしたその時、不意に肩を掴まれる。
「ありがとう、蘭子。勇気、貰ったよ」
未来ちゃんだ。
未来ちゃんも目の端に涙を溜めている。
「私から響も蘭子も奪わないで!あの明るかった響を返して!返してよ!!」
周囲に動揺が走った。
それはそうだ。
迫害の対象となった響ちゃんやキワモノの俺ではない、あの陸上部のエースでクラスでも人気者の未来ちゃんが心から叫んだのだ。
未来ちゃんはそれだけ言って、響ちゃんと俺を連れて外へと飛び出した。
***
「ハァ…ハァ…ハァ…言っちゃった」
未来ちゃんが悪戯っぽく笑う。
俺の身体が男のままだったら今ので確実に陥落している。
「未゛来゛ぅ、蘭子ち゛ゃん、私のぜいでごべんね゛ぇぇ」
響ちゃんが泣き出してしまう。
「響のせいじゃないよ…泣かないで…泣かないでよ」
ついには未来ちゃんも泣き出してしまう。
俺?俺は未来ちゃんが叫んだ時から泣きっぱなしだ。
あの事務員が何を企んでいようとこれだけは決めた。
この先何があっても、俺はこの子達の友達でいよう、と。
という訳で2話でした。
以降は不定期更新になります…
おまけというか設定の一部
レーヴァテイン
北欧神話の神の炎をオリ主の元となった人物がイメージした疑似聖遺物。
前回、OTONAが見たアウフヴァッヘン波形はこいつのせい。
シンデレラの靴はガチチートなので、アウフヴァッヘン波形とか周囲にバレるような反応は一切発生しない。
奏さん生存
特にSAKIMORI関連が諸々大丈夫?って感じですが、全ての宿業をオリ主が背負うので大丈夫…な筈…たぶん…