チート転生したらしいが熊本弁しか喋れない   作:祥和

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闇に飲まれよ!(お疲れさまです)

無事、1週間毎日投稿いけました。
割と執筆活動が仕事の忙しさに左右されるので、書けるうちに書いてます。

想像以上に楽しんで読んで頂ける方が多いみたいなので、励みになります。


第9話 幽世に囚われし堕天使

『さて、それでは歌って貰いましょう。風鳴翼さんの特別ユニットで、"つまり、そういうこと"です』

 

クリスちゃんと二人で夕食を食べながらテレビを見る。

あのライブ以来、クリスちゃんは歌が嫌いと言わなくなったため、晴れて我が家のチャンネルの幅に音楽番組が追加された訳だ。

翼さんが出るって話なので、見たかったんだが、すんなりOKが出て良かった。

うわっ、何あの動き!?

言葉で表現するのは難しいが…なるほど、これが世界レベルという奴か…

 

「ところでさ、ちょっとお願いがあるんだ」

 

ん?急に畏まってどうしたんだクリスちゃん。

もしかして、夜のお誘い?

YesNo枕用意した方がいい?

 

「その…フィーネの動きもねぇみてぇだしさ。アタシもお前と一緒の学校に行きたいな…って」

 

と、顔を真っ赤にしながら言ってくる。

かわいい、かわいいよクリスちゃん。

よし、リディアンに通いたいなら一度弦十郎さんに相談するか。

 

***

 

「雪音クリスだとぉ!?」

 

早速弦十郎さんに相談に行ったんだが、何故か物凄く驚かれている。

クリスちゃんは俯いちゃってるし、どうしたんだ?

 

「蘭子君、彼女とどうやって知り合ったんだ?」

 

うーん、実は襲撃者がクリスちゃんでした、とは言えないしなぁ…

仕方ない、適当にぼかすか…

 

「我が魔王城の裏にて忘れ去られし豊穣の女神に我が祝福を与えん」

 

「???それは一体どういう…」

 

ぼかす必要なかったかなぁ…

まったく訳わからん単語のオンパレードで弦十郎さん戸惑ってら…

 

「ハァッ!?お前ぇ、アタシは猫かなんかかよ!?」

 

あっ、そういや優秀な通訳いたわ。

良かった、ぼかしといて。

でもクリスちゃんって動物に例えると絶対に猫だと思うんだ。

一部、猫ではあり得ない部分があるけど。

 

「う、うむ…それで、リディアン編入の件は何とかしよう。ただ、手続きの関係で2学期からになるだろう。それで住居の手続きなのだが…」

 

おっと、そうだな。

正式に二課の外部協力者枠になれば給料も出るだろうし、一緒に住む必要は無いのか…

またあの広い家で一人暮らしになるのは少し寂しいけど…

 

「アタシはこいつの世話しねぇといけねぇから、住居の手配はいらねぇよ!」

 

少し驚いてクリスちゃんを見る。

 

「んだよ?一緒に学校に行きたいのに別々に住むんだったら………意味ねぇだろ」

 

……これもう我慢する必要ある?無いよね?

かの高名な登山家の言葉に『そこに山があるから』という言葉があるらしいが、そうだよな。

山があるならば、登らないとね?

 

「オッホン!わかった、それでは編入の件だけ手配しよう」

 

あっ、弦十郎さん忘れてたわ。

危うく人の目の前でクリスちゃんのお山に登山するところだったぜ…

 

***

 

神崎蘭子と雪音クリスが立ち去った後、風鳴弦十郎は独り言ちる。

 

「雪音クリス、か…今になって2年前の任務が完遂されるとは…な」

 

風鳴弦十郎の公安としての最後の任務になったのが、雪音クリスの保護だった。

多くの仲間を失った。

弦十郎以外に関わった全ての人間が死亡、または行方不明となり史上最悪と言われた任務だった。

しかし、完全に凍結された後も一度請けた任務を投げ出すなど彼には出来ず、個人のつてを使い独自に調査を続けていたのだ。

それが今ようやく完遂された。

 

弦十郎は瞑目する。

 

「蘭子君を通じて、点と点が繋がってきている…いや、元々繋がっていたという事か?了子君、君は一体…」

 

行方不明の元部下の事を考える。

部下の不始末は己の不始末。

彼はそういう風に考える。

ならば、たとえ敵対したとしても、最終的に本人に復帰の意志があるならば暖かく迎えてやるのが、大人としての務めだろう、とも。

 

「俺も責任を取るような立場になっちまったか…まったく…年ばっか食ってる大人なんてみっともなくて仕方ないな…」

 

それは己自身に対する皮肉か、それとも己の置かれた状況やしがらみに対する不満なのか…

しかし、それも束の間、

 

「よしっ!2年越しの任務完遂祝いに今日はTATSUYAで名作を借りていくか!」

 

ストレスを巧くコントロールするのも大人の務めだと言わんばかりに弦十郎は気持ちを切り替えるのだった。

 

***

 

「あれ、蘭子ちゃん、クリスちゃん、どうしたの?」

 

「クリスが学校まで蘭子に会いに来るなんて珍しいね」

 

二課からの帰り道、中央棟を出たところで響ちゃんと未来ちゃんに呼び止められる。

やべっ、未来ちゃんに二課の事は内緒だしどうやって誤魔化そう…

いや、ここ中央棟だから普通に転入の手続きでいいのか…

 

「ハッ、アタシはコイツの()()らしいからな?会いに来んのは別におかしかねぇだろ?」

 

と思ったら、クリスちゃんがドヤ顔で先にそう答えてた。

 

「ぐぬぬぬぬ…」

 

「むぅ…」

 

ん?3人共どうしたんだ?

なんか不穏な空気が流れてるっていうか、響ちゃんは警戒してる犬みたいに唸ってるし、未来ちゃんは超不機嫌そうだ。

 

「ねぇ?丁度近くにいいお店あるし、お茶していかない?」

 

え?未来ちゃんこの空気でお茶に誘うの?

まぁ、二課の事とかどうでも良さそうだから俺的には助かるんだが…

 

「ま、いいんじゃねぇか?お前らとは、一度ゆっくりと話をしなきゃいけねぇと思ってたしな」

 

「うん、私も賛成」

 

まぁ、3人がいいなら俺も別に構わないんだけどね。

ちょっと小腹も空いてきたしな。

 

「ならば我も…」

 

「あっ、蘭子以外でって話だから」

 

「蘭子ちゃんはお留守番しててね?」

 

「ま、夕飯時には帰るから大人しく家で待っててくれよ」

 

行ってしまった…

何?こんな露骨なハブり方あんの?

チクショウ…こうなったらクリスちゃんの楽しみにしてた冷蔵庫のプリン食っちゃうからな!

 

***

 

とある喫茶店。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

「ほぇぇ、こんな所にお店あったんだ…」

 

立花響がそう漏らす。

それもそうだ。

どう見ても、普通の会社にしか見えないビルの中に所謂メイド喫茶があるとは外から見るだけではわからない。

経営事情が心配になる所だが…

カウンターで無表情のまま、珈琲を口に運ぶミステリアスな女性…本当に飲んでいるのだろうか?

「ボンバー!」などと叫んでいる同年代くらいの女の子…個人的には割と仲良くなれそうな気がするがあそこだけ周囲と物理的に温度差がありそうだ。

はたまたタブレット片手にピンク色のパスタを横にいるスーツ姿の青い顔をした男性の口に押し込むどう見ても小学生の女の子…親子には見えないし、一体どういう関係だろうか?

など、意外にも男女問わず利用されているようだ。

 

こういうお店は男性客の方が多いという響の先入観とは裏腹に、意外にも女性客の比率の方が多いようだった。

 

「うん、割と穴場でしょ?」

 

未来が返す。

穴場は穴場なのだろうが、客層に統一性がなく、カオスに感じる。

そんな中、席についた3人に兎の耳を着けたメイドがやってくる。

 

「お嬢様、ご注文はお決まりですか?」

 

「あっ!ウサミ…」

 

そう、そのメイドは響も見た事がある女の子だったのだ。

 

「響、そういうのは無粋だからやめようね?」

 

「な、なんか慣れてんな、お前…」

 

しかし、すかさず未来が止める。

確かにこういった場所で店員の素性を問うのは無粋だろう。

誤解されがちだが、こういったコンセプトを持つ飲食店では、客側にもそれ相応のマナーが求められるのだ。

とはいえ、クリスの言う通り、弁えているにしろ、未来は他二人に比べて慣れ過ぎている。

 

「未来お嬢様は3年前から来て頂いてる常連様なんですよ」

 

兎耳メイドが説明する。

その説明で響とクリスも納得するが…

 

「アレ?17歳の3年前って…」

 

「そそそそれじゃあ、ご注文の品を持って来ますね!!ご、ごゆっくりー!」

 

「もう、響!あんまりメイドさんを困らせないの!」

 

「ほぇ?私なんか悪い事言ったかな??」

 

「お前…ホントのバカだな」

 

ため息を吐く未来と本当にわかっていない様子の響を見て、クリスも少しだけ力を抜いて微笑むのだった。

 

***

 

はぁ…凹む。

まさか嫁と親友にハブられるとは思ってもみなかったわ…

チクショウ…今ごろ3人で俺抜きでガールズトークしてるんだろうなぁ…

俺だって見た目はガールの筈なのにね…

中身はアレだけど。

………もしかしてバレた訳じゃないよね?

それとなく探り入れた方がいいかもな…

 

「久しぶりね」

 

ん?目の前の女性に急に声を掛けられる。

 

「この禁断の果実…終焉の巫女!!」

 

「何処を見て人を判断している!!」

 

いやぁ、ね?

仕方ないよ。

そんな立派な物、見ない方が失礼だと思うよ?

 

で、どうしたんだ?

もしかして、おねショタやる気になった?

 

にしてはショタいねぇし、違うんだろうなぁ…

 

「少し話をしましょう」

 

はぁ…これは、まだ俺の勧誘を諦めてないって事なのかね?

 

***

 

とりあえずフィーネさんを家に上げてお茶を出す。

紅茶とかは専らクリスちゃんにお任せなので、淹れ方良く知らんし緑茶でいいか。

 

「…渋いな」

 

文句言うなら飲むな。

で、今回はどんな魅力的な提案をしてくれるんですかね?

 

「我とて闇に漂う魔力を高めし御業がある故、手短に願おう」

 

「ごめんねぇ、夕食の支度時にお邪魔しちゃって」

 

わかってんじゃねぇか…

今日は旨い飯作ってクリスちゃんを驚かせてやらんといかんのだ。

そういや、響ちゃんと未来ちゃんも来るかもしれんし、一応、4人分作っといた方がいいのかね?

余ったら明日の弁当にすりゃいいんだし。

 

「だが!ノコノコ敵を自分の本拠地まで上げるとはな!その油断がこういう結果を招くのだッ!!」

 

フィーネさんがいきなり杖のような物を振りかざす。

 

なんだこの光!?やべっ…………

 

……

………

 

生きてる…よね?

一体何がしたかったんだ?

ただの目眩まし?何の目的で?

 

しかし、急な出来事に混乱する俺を余所に、光が完全に収まって目に入る風景は、慣れ親しんだクリスちゃんとの愛の巣ではなく、なんか古代感漂う空間と…

 

見渡す限りのノイズの群れだった。




今回は
幽世に囚われし堕天使=バビロニアの宝物庫に飛ばされた蘭子
です。

原作では2期ラストにエクスドライブでクリスちゃんが機能拡張する流れですが、本作ではフィーネさんが改造する形に。
フィーネさん渾身の反撃は功を奏するのか…?

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