インフィニット・ストラトス ~平和を守る戦士~   作:おるぱわ

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……これは迫り来る敵や、理不尽や、予算や、始末書と戦い続けた、
彼ら、新・広報二課の戦いの記録である。


第0話 桜並木の下で

 

春。

それは別れの季節であり、出会いの季節でもある。

そして、その象徴である、桜の木の連なる下に、俺らは立っていた。

 

 

「……ゴメンな。俺のせいでこんなことになって」

 

目の前の女の子に、俺はそう呟いた。自分でも分かるくらい情けない声だ。

だが、目の前の女の子はニシシッと、いたずらっぽく笑った。

 

「何言ってるの、お兄ちゃん! 私は気にしてないよ! たかがちょっと遠くに行くだけじゃんか!」

 

「そうだけどっ! ……あんな馬鹿なことしなければ、今頃、お前は友達と一緒に地元の高校に通えたのに……」

 

あぁ、今なら、二ヶ月前のバカな自分を殴れるような気がする。自分の考えの無さが悔しくて、少し涙が出てきたような気さえする。

 

「……お兄ちゃんが馬鹿なのは元々だよ! 友達と一緒にIS展示会場に乗り込んで、ISを起動させようとしたなんてさ」

 

「……すまない」

 

「あぁもう! そうやってまた塞ぎこむ……。もっとシャキッとしないと、全世界に放送された『世界二番目の男子のIS適性者』なんて重圧、耐えられないよ? 私でさえ行けない所にこれから行くんだから」

 

「そうだな……。……よっしゃ!! やってやるぞ!」

 

 

俺、『緋色 大樹』(ひいろ だいき)は、二ヶ月前にある事件を友達と一緒に起こし、色々あって、IS適性があると分かった男子の二人目だ。

 

インフィニット・ストラトス、通称『IS』という人の形を模した、パワードスーツのような物。今までの兵器を全て凌駕する性能を持つソレは、今まで女性にしか動かすことが出来ないという重大な欠陥があった。

それを動かした男子が、ISが世間に認知されて10年目に急に現れたので、さあ大変。

あれよ、あれよと言う間に、様々なことが変わっていった。

 

俺は、二ヶ月前の事件で知り合った『とある会社』に就職した。今までの高校は二年生で中退と言うことになるらしい。

明日から、新たな学校、『IS学園』に、一年生から入り直す予定だ。

妹と親父は、保護プログラムとかいう政府の命令で、この町から遠く離れる。そして、今日がその出発の日だ。だから、俺はここに立っている。

もしかしたら、一生会えないかも知れない、家族との別れだから。

 

もう、“あの時”みたいに泣いたりしない。10年前のあの時みたいに。

ならば、精一杯の笑顔で送り出してやるべきだろう。

俺は、目の前にいる俺の妹『緋色 優衣』(ひいろ ゆい)に笑いかける。

 

 

「…そろそろ、時間なんだろ? 俺も時間はあんまり無いけどな」

 

「あ……、そう…だね。じゃあ、そろそろ行くね!」

 

くるりと背中を向け、去っていこうとするその手を、咄嗟に掴んだ。

驚いた目で、優衣は俺を見た。

 

「優衣、いいか? 最後に一つだけ」

 

「何、お兄ちゃん?」

 

いざ、話そうとすると伝えたいことがどんどん出てくる。

 

「何かあったら親父を頼れ。ああ見えても、しっかり者だから。それと、向こうに行ったら、友達を作れ。俺の存在とか関係なしの良い友達をな。あと、それから……」

 

「……お兄ちゃん、一つって言ったでしょ?」

 

優衣は困った顔をして、手を離そうとする。だが、最後にこれは言っておきたかった。

少し背の低い、頭の上に手を乗せ、そっと撫でた。

 

「ピンチになったら、俺を呼べ。全力で助けに行くから」

 

「……今どき、ヒーローでもそんな青臭いこと言わないよ」

 

「う、うるさい」

 

これしか、思い浮かばなかったんだよ。悪かったな。

それに、苦笑いしながら涙流すなんて、お前も器用な真似するなよ。そういう所が母さんに似てるんだから。

最後の時間は、兄妹二人でしんみりと涙を流してお別れになりそうだ。

そして、掴んだ手を引いて、そっと抱きしめようとし__

 

 

「優衣に何しとるんじゃ、こんのバカ息子がぁぁぁっ!!」

 

 

「ごふっ!」

 

突然、横からの強烈なパンチに吹っ飛ばされた。視界が二転三転して、地面にドシャっと落下した衝撃が背中に伝わる。クソっ、思いっきり腹を狙いやがったな。

この声、この行動をする人間は一人しか思い浮かばない。即座に体を起こし、その人物を睨みつける。

 

「何しやがる、アホ親父っ!!」

 

「お前が、優衣に変な事しようとしとったから殴ったんじゃ!!」

 

「べ、別に変な事なんて、これぽっちもしてねえよ!」

 

「やかましい! 俺から見るとそう見えたんじゃ!」

 

「「何だと、オラァ!?」」

 

「ちょ、ちょっと二人とも! 落ち着いて!」

 

俺と親父が睨みあう間に、優衣が入り、少し頭を冷やすように諭す。

親父が先に、時計を俺たちに向けて、話し始めた。

 

「いつまで経っても、優衣が帰って来ないからな。もう、出発の時間ギリギリだから、呼びに来てやったのに……。やっぱ、大樹。お前は許せん」

 

「この親バカめ…。とにかく、ここに長居は出来ないって事か」

 

「そういうことだ。ほら、優衣。行くぞ」

 

親父が、声を掛けて踵を返し、歩き出した。遠くに、移動用の黒い高級車が見える。

優衣はチラチラと俺を見ていた。その後、視線を落とし俯いてしまう。

 

「……お兄ちゃん。………さよなら。」

 

ここで、その言葉を聞きたくないと思った。何故だか、本当に永遠の別れになってしまうような気がしたから。

 

「違う。こういうときは、『また、今度』って言うんだ。絶対また会えるさ」

 

「!! また、今度ね! お土産、いっぱい買っておいてよ!」

 

その言葉のおかげか、笑顔を咲かせ、親父の方へ歩き始めた。現金な奴め……。

苦笑いしている俺に、遠く前方から声が聞こえてきた。よく響く野太い声。

 

「大樹! これから先、色々あると思うが、俺から言うことは二つある!!」

 

「何だよっ!!」

 

「優衣を泣かせるようなことしたら、絶対に許さねぇぞ!!」

 

「それは、こっちのセリフだっ!!」

 

「それから、もう一つ!!」

 

何だよ、もう時間無いんじゃなかったのか。普段、大事なときにこそ喋らない親父にしては珍しい。

若干の溜めに、一言も漏らさないように、耳を傾ける。

 

「男の代表なら、もっと強くなれ!! どんな不利な状況でも諦めるな!! そして、必ず、前を見続けろ!!」

 

……良くある熱血な言葉じゃないか。それなら、返事は決まっている。

大きく息を吸い込んで、腹の底から一気に声を出した。

 

「当たり前だろ!! 俺に任せておけっ!!」

 

「よし、いい返事だ! 胸張って行って来い!!」

 

「おうっ! 行って来ます!!」

 

そう言って、親父も俺も互いに背中を向ける。そして、俺は歩き出した。

きっと、これでいい。今ここで振り向かないのが男ってもんだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「なーに、辛気臭い顔してんの?」

 

「うわっ!? 山吹さん…?に桃井課長まで!?」

 

「目元、赤くなってるわよ、緋色君」

 

「へ? あぁ! ス、すいません!」

 

少し歩くと、木の陰から、スッと二人の女性が現れた。

一瞬、男を卑下するタイプの女子かと思って身構えたが、そうではない。

よく見ると、この二ヶ月の間に、随分とお世話になった、先輩の二人が立っていた。

 

右にいる、肩まである茶髪を払い、ちょっと怖い吊り目で俺を睨んでいるのが、

『山吹 すみか』(やまぶき すみか)さん。

俺より二歳年上の十九歳で、今年度で入社二年目のれっきとした俺の先輩だ。

 

そして、左にいる、珍しい赤い髪をショートに揃え、大きくパッチリした目をしているのが、俺の上司で、新たに会社で発足する『新・広報二課』の課長である

『桃井 いぶき』(ももい いぶき)課長だ。

今は、会社の制服では無いピシッとした紺のスーツを着込んでいるが、すごく様になっていて、これぞキャリアウーマンと言った感じだ。

 

二人とも、俺を優しげな目で見ていた。ふと、嫌な予想が頭に浮かび、恐る恐る山吹さんに質問する。

 

「……さ、さっきの会話どこから見てたんスか?」

 

「『ゴメンな…。俺のせいで~』くらいからかな、多分」

 

「ほぼ全部じゃないっスかっ!!」

 

「こっちも結構、時間押してるんだから仕方ないじゃん」

 

山吹さんから、衝撃の事実を突きつけられた。あの恥ずかしい会話を全部聞かれてたのかぁ……。ベタだけど、穴があったら入りたいくらいの気分だ。

うなだれる俺は置いといて、桃井課長が山吹さんの言葉を受け、腕時計を見た。

 

「その通りよ。基地の人達を待たせる訳にもいかないし、そろそろ行かないと」

 

「確か、国防軍の基地に行くんでしたっけ?」

 

俺がそう言うと、桃井課長は溜め息をついた。

 

「はぁ……。緋色君、今から行くのは、国防軍じゃなくて『国連安全保障軍』 通称、安保軍よ。色々ごちゃ混ぜになってるんでしょうけど、間違えないようにね」

 

「あ、そうなんスか。頑張って気をつけます」

 

「それでよし。…っと、思い出した。行く前に、これを渡して置かないと……」

 

桃井課長は、鞄を開けて中から緑色の封筒を出して、それを俺に手渡した。

 

「何スか?これ……」

 

「それがあなたの社員証よ」

 

「え!? あ、本当だ…。」

 

封筒を開けて、中身を出してみると、確かに自分の社員証だ。

『二十一世紀警備保障、新・広報二課 緋色 大樹』などと書いてあり、左にはカチコチな笑顔の俺の写真が貼ってあった。

驚いて咄嗟に桃井課長を見ると、やけに真剣な顔でこちらを見つめている。

 

「これは、あなたの分身だと思って、絶対に無くさないようにね。これが無いと、あなたは、これから送られる試作機、いえ、あなたの専用機に乗る権利が無くなってしまうから」

 

「それって、IS学園でも、ッスか!?」

 

「そうよ。あなたの専用機は、色々な法律のちょうど中間に立っているわ。これから、起こるかもしれないことに備えて、その社員証は命綱だと思いなさい。…まあ、万が一の時は、早急に知らせてくれれば、再発行は出来るけどね」

 

「は、はい!! 了解しました!」

 

自分に言い聞かせるつもりで大きな返事を返すと、前の方からちょっと拗ねた様な声が聞こえてきた。その声の方向を見ると、山吹さんが退屈そうにしていた。

 

「二人とも早く行きましょうよー」

 

すると、少し渋ったような顔をして立ち止まった桃井課長。

 

「ちょっと待って。せっかく四人揃ったんだし、あなた達の門出をしたいと思うんだけど…。こんなにいい天気なんだから」

 

課長に見習って、俺も上を見上げると、満開の桜。その隙間から覗く青空は、確かにいつもより真っ青で、遥か遠くまで見渡せそうだった。

うっかりともの思いにふけりそうになる俺の隣で、山吹さんが疑問の声を上げた。

 

「四人? あともう一人誰かいるんですか?」

 

「……っと、ほら、ここにいるわ」

 

桃井課長が、鞄から青色のタブレット端末を出して、ほいっ、と俺達二人に渡した。

テレビ電話かと思ったが、画面は真っ黒で何も映っていない。怪訝な顔をした俺と山吹さんの顔が反射しているだけだ。

 

「課長、結局これって__」

 

 

『四人目とは私のことである。』

 

 

「うわぁっ!?」

「きゃあっ!!」

 

課長に問いかけようとすると、端末からいきなり男の声がした。

よく見ると、画面にイケメンの男が映っている。

というか、さらによく見ると、背景が青の空間に、アニメで出てきそうなキャラクターが…とにかく生身の人間ではない人物?(二次元)がそこに居た。

画面の中で、その男が口を動かす。

 

『桃井課長。何か命令がおありですか。』

 

「命令って訳ではないけど、ここで紹介しときたかったの」

 

「…………」

「…………」

 

俺と山吹さんは声が出なかった。一体どうなってるか、全く分からない。

え? 課長は何で自然に画面の向こうの子と会話してるの? 俺らがおかしいの?

それとも、課長は結婚が出来ないから、ソッチ系にのめり込んじゃったとか…。

色々な憶測が頭を飛び交う中、勇気を振り絞って聞いてみることにした。

 

「課長……。それ…じゃなくて、そ、その子は一体何なんスか?」

 

「あ、この子ね。この子は、つい最近完成したばかりの、パイロット補助+機体制御AIよ。明日から、あなた達と一緒にIS学園に行くことになるわ」

 

課長の納得がいく言葉に、ほっと胸を撫で下ろした。

つまり、早い話がサポートAIってことか。

それが分かると、山吹さんも隣であははっと笑っていた。

 

「そういえば、コイツの名前は何なんすか? まだ、決まって無いとか…」

 

「『藍』よ。AIを文字って」

 

「愛?! まさか女の子だったんスか!?」

 

「違うわよ…。藍色の『藍』よ。このタブレットの色と同じね」

 

名前を付けた人、ド直球過ぎないか? AIでアイで藍か。でもちょっとカッコいいな。

タブレットの中で、不思議そうにこっちを見ている『藍』に話しかけてみる。

 

「俺は、緋色 大樹。これからよろしく!」

 

『緋色大樹……。データベース検索…。該当有り…。貴官が当機のパイロットか?』

 

「へ? まあ、そうなるな。テストパイロットだし」

 

『了解。緋色、よろしく頼む。』

 

なんというか、堅苦しい感じ。まるで軍人みたいだ。

隣から、山吹さんがズイッと俺を押しのけて、タブレットを掴む。

 

「私は、山吹 すみか。一応、オペレーターってことになるかな?」

 

『山吹スミカ…。検索…。該当有り。外部オペレーターとして登録中…。』

 

う~ん。こうやって見ると、本当に綿密に作ってあるな。たまに瞬きするし、呼吸もしてるように肩が上下するし、話してる人と視線を合わせたりするもんなぁ。

これ作った人、誰なんだろ? こんなの作れる天才が、会社にいるって、整備の人に聞いた記憶があるけど。

 

『登録完了。山吹さん。以後、よろしく頼む』

 

ん?今、山吹さんって言ってなかった? 俺だけ呼び捨てなのか?ちょっとへこむな。

二人してタブレットを覗き込んでいると、上から声が掛かった。

 

「登録、終わったみたいね。なら、二人とも横に並んで」

 

「は、はい」

「分かりましたー」

 

言われるままに、山吹さんの隣に立つ。

桃井課長は、懐かしむように目を閉じた後、真剣な眼差しを俺らに向けた。

 

「三人とも。周りの人、景色を見て」

 

周りを見渡す。

今さっき、走り抜けていったジョギング中のおじさん。満開の桜を見に来た大人達、ベンチに座って笑いあっている夫婦。遠くには、小学生がワイワイ騒ぎながら走っている。

耳にイヤホンをつけて自転車を漕いでいる、高校生。

 

何気ない、いつもあるであろう風景。

 

「それが今、私たちが守るべき物よ」

 

ふざけた雰囲気など微塵も出さないで、桃井課長は言う。

 

「この当たり前の風景を守るために、これからあなた達の力が必要になるの」

 

ゴクッと生唾を飲みこむ。俺は、ある言葉を頭の中に思い描いた。

『大いなる力には、大いなる責任が伴う』

今、俺達は大いなる力を手にしようとしている。その巨大な力は使い方を絶対に間違ってはいけないという事だ。

 

「ダイ・ガード三号機、パイロット、緋色大樹君!」

 

「へ……」

 

いきなり名前を呼ばれて、反応しきれずに、俺は固まってしまう。

桃井課長は、俺をギロッと睨むと大声をあげる。

 

「返事は!!」

 

「は、はいィっ!!」

 

「外部オペレーター、山吹すみかさん!」

 

「はいっ」

 

「機体エンジニア、『藍』君!」

 

『了解』

 

横に並ぶ二人(三人?)の名前を呼び終わり、課長は全員と目線を合わした。

何かが始まるかのように、風が桜の花をビュウッと舞い散らせる。

 

「あなた達に、地球の未来と会社の未来を託すわ。悔いの無い様に、頑張ってくるのよ」

 

「はいっ!」

「分かりました!」

『了解した』

 

その言葉を聞くと、桃井課長の顔から笑みがこぼれた。

それに釣られて、俺らも笑顔になる。

 

「ふふっ。じゃあ、安保軍の基地に急ぎましょう!」

 

そう言うと、課長は後ろを振り返って歩き出した。その先には、送迎用の白い車が見える。

その後に俺らも、早歩きで付いて行く。

 

「緋色。大事な試験なんだから、落ちないでよね」

 

「分かってますって、山吹さん! そのためにスパルタ指導されてきたんスから!」

 

『緋色が合格する確率は、…62%だと推定』

 

「ちょっ、藍!? 不安になる数字を出さないでくれ!」

 

「何してるの、三人とも! 早く車に乗り込みなさい!」

 

「「は、はいっ!」」

 

 

騒がしくも、急いで駆け抜けた、満開の桜並木。

 

 

俺たちの『平和を守る戦い』は、この桜並木から始まった。

 

 

 





◇次回予告◇

ついにやってきたIS学園! でも周りは一人を除いて女子ばかり!!
頼みの綱は、もう一人の男子生徒なんだが、もう問題を起こしてるって!?
金髪お嬢様と決闘やら、世界最強やら、どうなってるんだよ、この学校!?

次回、〔二回目の高校一年生〕!!

「高校生だって平和を守れるんだッ!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

思いつきで書いたので、更新すっごく遅いかもしれません。
でも苦笑いで許してっ!
何か質問とかあったら下さい。


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