Inferior Stratos   作:rain time

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 雪広は育ててくれた幸雄のことを外では「親父」と言いますが、身内だけ(一夏と幸雄)の時は「じっちゃん」と呼びます。決してミスではありません。

 そして、読者が離れる展開かもしれません。こういう小説と思って読み進めてください。

あと、お気に入り数がまさかの100になりました。皆さん、ありがとうございます。何にもフィードバックできませんが


第6話 exile

 ピットに戻ると、楯無さんと何故か山田先生がいた。

 

「おめでとう、一夏君」

「おめでとうございます」

「ありがとうございます、楯無さん、山田先生」

 

 あれ?なんで山田先生がここにいるんだ?織斑のほうにいたはずなのに

 

「クラス代表決定戦を最後まで見るためにここに来たそうよ。織斑千冬は試合そっちのけで一春君の看病に行っちゃったから」

「ほんとですよ。公私混同しないでほしいです・・・」

 

 何というか、山田先生も大変なんだろうな

 

「ところで、一夏君。君が3勝したからクラス代表になりますけど・・・」

「ああ、それは辞退させていただきます」

「えっ!?ど、どうしてですか!?」

「面倒ごとをするのが嫌なので。それに、優勝者がクラス代表になるとは言っていませんでしたし」

 

 このクラス代表決定戦はあくまでクラス代表を決めるための戦闘であり、優勝者がクラス代表になるとは一言も言ってない。大体こういうのはクラス代表になれる『権利』だろうから、それを放棄するのはできるだろう

 

「じ、じゃあ次点の雪広君に聞いて見ま・・・」

「自分がどうかしました?」

 

 と、ここで兄さんだけがこっちのピットに来た。(学園長は庭の仕事で別れた)なんか今日、タイミングが良すぎるな。エスパーでも身に着けたか?ま、兄さんも拒否するだろう。

 

「ちょうど良かった。雪広君、クラス代表に・・・」

「パスで」

「早い!!」

 

 やっぱり、兄さんも面倒ごとを押し付けられると思ったからだろうな。

 ということはクズになるのか・・・それはそれで嫌だが仕方ないな

 

「うう~、じゃあ織斑君に聞いてきます・・・」

 

 トボトボとピットから出ていく山田先生。確かに、あんな素人をクラス代表にするのは嫌なんだろう。明日のショートホームルームで文句が出るに違いない。

 

「ねえ、織斑君はクラス代表になると思う?」

「ああ、それについては大丈夫です。ヤツがなる以外ありえませんから」

 

 拒否しようがしまいが、と兄さんは言う。

 

「え?でも彼が拒否したらオルコットちゃんがクラス代表にならない?」

「ええ。ですから()()()()()()()()()()。今夜それを確定させるので」

 

 やっぱり兄さんはアレをしたのか。兄さんは今までにやったことを楯無さんに伝える。そして、最後にこうなるだろうと楯無さんに説明した。

 

「分かったわ。私が最後に言えばいいのね」

「はい。ご迷惑をおかけします」

「いいのよ。生徒会長なんだから」

 

 『率先垂範』と書かれた扇を開く楯無さん。あの扇はどういう仕組みなのか?

 

「じゃあ、お疲れ様ね、二人とも。今日はゆっくり休むのよ。雪広君は特に夜更かししちゃだめだぞ」

「はい」

「分かってますって」

 

 楯無さんはそう言ってピットから出る。俺たちも戻るか。でも、その前にやることがある

 

「さて、整備するか。流石に全部は無理だが、大きな傷とかは今日のうちにやっとかないとな」

「そうだな」

 

 いくら疲れていてもそのままにするのは機体に悪影響だし、何より相棒だからな。

 とはいっても、俺たちは満身創痍だから大きな問題だけやって、あとは明日に回すか。それに、兄さんはやらなきゃいけないこともあるだろうし。って、兄さんの言ってたことまんまだな。

 

「さて、そんじゃやりますか~」

「おおー」

 

 

 

 

 

 

 あの後整備をしてそのまま早めの夕食。あんまり人がいなかったから、さっさと食べ終え、部屋に戻る。雪兄さんはそのまま()()()()をする。

 

「どこまで進んでいるの?」

「もう動画と音源は流してある。これからそれぞれに対応していくってわけ」

「なるほど。ってことはあんまり時間かからない?」

「まあ、それぞれの対応する時間は少ないな。個別で来るから少しめんどくさいが」

「なら、今回の試合の反省しない?レポート書かなきゃいけないし」

「そうだな。並行してやるか」

 

 専用機持ちは公式の試合ごとにレポートを書く必要がある。そのためにも今日の反省は必要不可欠だった。兄さんは作業しているのと同時に俺と今日の試合、主に俺たちの試合の反省会をした。あの時、もっと牽制すればよかったとか、もっと慎重にすればよかったとかで、双方にまだまだ課題があることが分かった。そして、形態変化のことも話した。

 

「自分はジレス社の模擬戦で初めてできた、と言うよりなった感じかな。『負けたくない!』って焦っていたら、なんか精神世界?みたいなとこに来て・・・後はあんまり覚えてない」

「兄さんもか、俺も大体似たような感じだな。俺もそこで何したかは覚えてないんだ」

「とはいっても、自分はその後暴走してたらしいし・・・まだ弱かったからすぐに取り押さえられたけど」

 

 ま、それが単一能力だったんだけどね、と兄さんは言う。暴走する姿が容易に想像つく。

 

「でも、トリガーは何だろうな。束さんも分かってないって言うし」

「そこは俺たちが考えるとこじゃないな。それをうまく使えるようにするのが先だ」

「それもそうだな」

 

 こんな感じの充実した反省会をして、レポートも書き終わった。兄さんもレポートや()()()()が終わったようだ。

 

「疲れた~」

「兄さんもお疲れ。タオル温める?」

「ああ、助かる」

 

 兄さんはベッドに横たわる。兄さんは結構目を酷使するから、時々温タオルで目を温めて目の疲れを取っている。今日も試合だけでなく、その後もパソコンに張り付いていたから相当疲れが溜まっているだろう。俺はタオルを温め、兄さんの目に乗せる。

 

「ああー、あったけえ~」

「お疲れ、兄さん。何か飲み物買ってくるか?」

「じゃあ緑茶で。できれば温かいやつ」

「分かった」

 

 俺は財布を持って部屋から出る。本当なら茶葉があればよかったが最近まで訓練や対策などでそれを買う余裕がなかった。だから自販機まで行くことにした。

 

 ただ、俺は俺たちの部屋に近づくやつを見逃していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏と家に帰る。玄関には幸雄じっちゃんが出迎えてくれる。

 ああ、これは夢だ。懐かしい夢。分かっているが起きようと思わない。今に不満があるということではないが、あの時が一番満たされていた。じっちゃんがいる。一夏がいる。三人でこたつに入ってたわいもない話をする。これほど幸せなことはない家族の時間。

 コンコンとドアを叩く音がする。一夏が帰ってきたか。現実に戻り、タオルを取ってドアに向かう。

 ドアを叩かなくても鍵で開ければと思ったが、飲み物を二つ買ったから両手が塞がっているのだろうと思い、半分寝ぼけた状態でドアを開ける。

 

「サンキューな、いち・・・」

「こ、こんばんは」

 

 一夏じゃなくゴミ(セシリア・オルコット)がいた。一気に最悪な気分になった。なんだコイツ、試合の腹いせにでも来たか?このゴミにさっきの夢の時間を奪われたことが余計にイライラを募らせる。

 内心では舌打ちしつつ、皮肉交じりに話す

 

「どうしましたか、オルコットさん。この極東の猿に何の御用があるのでしょうか」

「・・・すみません、謝罪しに参りました」

 

 は?何言ってんだコイツ。あんな代表候補生にあるまじき発言を連発しておいて今更謝罪とか、頭に蛆でも湧いてんじゃないか?

 

「先日はあなたの家族を馬鹿にしてすみませんでした!」

 

 深々と頭を下げるがどうだっていい、むしろ視界にいるだけで不愉快だ。でも平静を装う

 

「・・・で?」

「え?」

「おいおい、まさかとは思うが、平謝りで許されると思ったか?散々俺たちのことを猿だのクズだの吐き捨てといてさ」

「あ、あの・・・」

「そんで、何?試合に負けたら手のひら返すように謝罪?本当に申し訳ないと思っていたらもっと早くに謝罪するのが普通じゃないの?」

 

 こいつの謝罪は本当の謝罪ではない。見下していた男に負けたから、それの被害を抑えるために動いている、許されようとする謝罪だ。生きる上では上手なやり方だろうが、こんな人間が俺は嫌いだ。反吐が出る。

 

「で、でも、どうしても謝りたくて・・・」

「じゃあ一つ聞くけど・・・もし俺とお前の試合で『俺が負けていたら』お前は今謝罪しているか?」

「!?そ、それは・・・」

「しないよなあ。『やはり男は生きる価値なんてないですわ!』とか『これだから男は』っていうだろうなあ」

「あ、あの・・・その・・・」

 

 図星のようだな。女尊男卑の人間ってどういう思考回路しているんだ

 

「それに、もう取り返しはつかないと思うけどね」

「え!?ど、どういうことですの!?」

「自分で考えなよ、エリートなんでしょ?こんな底辺のクズに教えられるのも嫌でしょう?」

「そ、そんなこと」

「あるよね、だって自分はクズの家庭に育てられた男だから」

 

 もういいや、これ以上は本当に不愉快だ。

 

「ということで、君のことを許すつもりなんてさらさらないし、君を見ていると不愉快だから。それでは帰ってください」

「あ、あの・・・」

「もう一度言いますね、帰ってください。」

「そ、その・・・」

 

 その場から動こうとしない。・・・もう我慢の限界だ

 

「・・・『帰れ』って言ってんのが分かんないのか!!!」

「ッヒイ!?」

「あれだけ罵詈雑言浴びせといて、すいませんでした、の一言だあ?調子乗ってんじゃねえよ!!!」

「あああ・・・」

「一夏のことも親父のことも馬鹿にしやがって!!!ふざけんなよ!!!大事な家族を馬鹿にした奴を許すわけねえだろ!!!クズが!!!!」

 

 周りから音がする。見ると何人かが何事か見に来ていた。のほほんさんもいる。そうだった、今は夜だった。これ以上怒鳴り散らすと周りに迷惑をさらにかけてしまう。怒り抑え、別れを告げる。

 

「もういいだろ。じゃあな、イギリス代表候補生さん。俺を敵に回したことを後悔するんだな!」

 

 バタン!!と強くドアを閉め、ベッドに倒れる。最悪な気分だ。目を温めなおそうとするが、タオルは何とも言えない温度になっていた。乱暴にタオルを投げ捨てる

 

「チッ!!」

 

 誰もいない部屋に俺の舌打ちが響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トボトボとセシリアは俯いて自身の部屋に行く。

 男はみんな弱い。社会的にも実力的にもそう思っていた。だが、それはクラス代表戦で粉砕された。今まで何と愚かだったか。なんと自分が傲慢であったか。思い知らされた。それと同時に雪広たちへの申し訳なさでいっぱいになった。謝罪しようと行動に出た。

 だが、拒絶された。許してもらえると思っていたが、その考えが甘かった。どうすれば許しを得られるか、もう無駄なのか、様々な思いがセシリアを駆け巡る。

 

「待ってたわよ」

 

 突然の声に顔を上げる。そこにはセシリアの部屋の近くの壁にもたれかかっている楯無がいた。

 

「あ、あなたは生徒会長の・・・」

「そう、更識楯無よ」

「な、何の御用ですか?」

 

 もしかして雪広との仲を取り持ってくれるかも、淡い期待をセシリアは持つ。

 

 しかし、次の言葉で絶望のどん底に叩き落される

 

 

 

「イギリス政府からの通達よ。セシリア・オルコット・・・あなたをこの学園から退学することが決定したわ」

「・・・えっ?」

 

 あまりのことにセシリアは固まる。その間に楯無はスマホである動画を開き再生する。するとセシリア自身の1週間前の教室で言った日本を侮辱する音声が流れる。

 

「そ、それは・・・」

「これ?あなたは分かっているんじゃない?あなたが日本に対して言った差別発言でしょ?」

 

 これだけじゃないわ、と言って別の動画を再生する。そこには今日の試合で雪広に言った侮辱が映像付きで流れていた

 

「え!?」

「これ今日のクラス代表決定戦ね。新鮮そのものよ」

 

 まずい、非常にまずい。この二つが公開されたら退学では済まされない・・・そうセシリアは思っているが

 

「もう無駄よ」

「え?」

「分からない?これらの動画は()()()()()()()()()()()()()。つまり、これは今も全世界中で流れているのよ。もちろんあなたの祖国にも、政府にも流れているわ」

「!?」

「『こんな人間を代表候補にするのか』って世界中、特に欧州の国がイギリスを非難しているわ、これからどうなっちゃうのかしらね?」

「あ・・・あああ・・・」

 

 祖国にプライドを持っているセシリアは、自身が原因でイギリスに泥を塗ってしまった事実に対し、これ以上ない精神的ダメージを負う。

 

「と、いうわけで改めて言うわね」

 

 楯無は放心しているセシリアを見て・・・死刑宣告をする

 

 

「セシリア・オルコット、本日をもってあなたを退学とします」

 

 

 

 

 

 

 

 その後、IS学園に入ることを許可してあるイギリス大使館の役人が来て、オルコットを連れて行ったのを見届けた。愚かな代表候補生だったわね

 

「それにしても・・・」

 

 と、私はこの動画を見る。

 これに私は何の関与もしていない。全部彼、雪広君がやったことだ。

 

 雪広君がやったこと、それは入学初日のオルコットの発言を録音し、それを発信したことだ。それもただ発信するのではなかった。まずはイギリス政府にのみ、その音声動画を流した。当初、イギリス政府は知らぬ存ぜぬで、なかったことにしようとした。しかし、今日の朝にその動画をイギリス以外のEUの各国に流した。

 さらに、イギリスはその動画をもみ消そうとしたという情報まで流したことで、イギリスは窮地に立たされた。そして、追い打ちをかけるように今日のオルコットの戦闘結果の動画とイギリスのIS企業の汚職問題(そのほとんどが女尊男卑の人間によるもの)を全世界に発信したことで、イギリスはこんな人間を代表候補生にするのか、企業も人も腐ってる、差別をする人間を代表にするから惨敗するのだと、世界中からバッシングを受けることになった。

 少なくともオルコットは重い罪が課される。だが、それでもイギリスは孤立するだろう。特にIS産業は深刻なダメージになる。場合によっては国が崩壊しかねない。

 

(ここまで読んだうえでやったというの?)

 

 各国がどう動くかを推測しきった上での行動だろう。さらにネットで拡散させるようにネットの住民も味方につけ、彼女を退学以上に追い込んだのだ。

 もし、彼が敵に回ったらと考えるとゾッとする。

 

「彼を警戒しなきゃね・・・」

 

 学園のために。そして守るべき者のために。

 

 

 

 

 

 

「思ったより時間がかかったな」

 

 緑茶だけピンポイントで切れていたから買うのに手間取ってしまった。まあ、いい散歩にはなった。夜に歩くのも悪くなはいな、違った景色が見れて楽しいし。

 部屋の前までついた後、鍵を開けて部屋に入る

 

「兄さん、遅くなってごめん」

「・・・おう」

「怒ってる?」

「お前に対してじゃない」

「話なら聞くさ。嫌なことは吐き出したほうが楽だろう?」

 

 話を聞くと、オルコットが今更謝りに来たらしい。そりゃ兄さんも不機嫌になるわけだ。俺は話を聞きつつ、買ってきたお茶を温めて兄さんに渡す

 

「ほんと何様って感じだ。あの野郎」

「でも、あの動画を流したでしょ?」

「ああ、多分退学(クビ)になるはずだ。そうしなきゃ、イギリスは大バッシングを受けるからな」

 

 お茶を飲んで兄さんは話す。話したからか、それともお茶のおかげか、怒りも収まってきたようだ。

 

「でも、ISと関係のないイギリスの人は少し可哀そうかな。何もやってないのに国が叩かれているから」

「配慮はしたつもりだけどね。IS企業とその代表候補生に非難が集中するようにネットにも書き込んどいたし。ISに関係のないイギリスの人には申し訳ないと思うけど、こうでもしないと女尊男卑のクズたちは減らないからね。女尊男卑の人間は死んでも治らないから」

 

 最後のは兄さんの口癖だが、強ち間違いではないと思う。今回のは社会の掃除ってわけだな

 

「ありがとな、一夏」

「どういたしまして、びっくりしたよ。俺が遅いことにキレたのかと」

「タイミング的にそう見えるな」

 

 ははは、と笑いあう。良かった、兄さんの機嫌も直ったようだ。大きなことを終わったし、何とかなって良かった。あとは明日になってから考えよう。

 




 原作読んでて思ったんですよ。あれだけ日本のことを罵っておいて、平謝りで許されるっておかしいのでは、と。小学生ならまだしも高校生ですよ。それも代表候補生ですよ。ちょっと無理があるのではと思うんです。それに、主人公がセシリアと仲良くなる未来がどうしても見えないのでこうなりました。

"exile"は某アイドルグループではなく、英語で「追放」という意味です

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