第8話 再会と完成
クラス代表決定戦から一週間が経った。クラスでも話をする人が増えた。相変わらずクズたちは睨んでくるが気にしない。こういうアンチに対しては無視が一番って兄さんも言っていたし。
でも今日はいつもより教室がざわついている。どうしたのだろうか?
クラスでよく話す、のほほんさん―本名『布仏本音』で更識家の従者であり、簪の専属メイドらしい―に聞いてみる
「どうやら2組に転校生が来るんだって~」
「この時期に転校なのか?」
兄さんもそう思うよな。どちらかというと入学が遅れたっていう理由なんじゃないかな?
「で、どんな情報があるの?」
「確かね~、中国の代表候補生だったかな~?」
「中国か・・・」
あそこはISが登場したことで国が良くなった数少ない国だったな。もともと男尊女卑気味だったけど、ISの登場で女性の地位が上がり、結果的に男女平等になった。老害たちもISの登場でまともな若い人たちにより、社会から追放され、国全体の質が一気によくなった。日本との国交も良くなったんだよな。
でも俺はアイツのことが思い浮かんだ
「どうした?」
「あ、いや、何でもない」
アイツは今どうしているのだろうか?日本にいるのか、中国に帰ったのか、いろんな思いが渦巻く
ふと、教室の入り口が騒がしくなった。見ると
どうやら噂の転校生らしい、って・・・
「で、あんたたちが男性IS操縦者ってわけ・・・一夏?」
「り、鈴・・・?」
彼女を見て思わず名前を口にした。間違えるものか、あの時からの面影がはっきりと残っているし、何より俺の名前がすぐに出ている。
彼女は・・・
「一夏だよね・・・」
「時間的に2組に戻ったほうがいいと思うよ。ここ、織斑千冬が担任だから」
「そ、そうね!一夏!また後でね!!」
鈴は2組に行ってしまった。兄さんは鈴を理不尽な暴力から救ってくれたのだが、せっかく話すチャンスを失ってしまった。でも、話す機会はこれからあるはずだ。聞きたいことが山ほどある。
だが、まずは
お昼。俺たちは学食に行く。入学してすぐの時はあまりにも人が集まりすぎて食事どころじゃなく、昼は屋上とかレストスペースでパンをかじっていた。今はその人数も減り、学食でも動物園みたいにならずに済んでいる。
「待ってたわよ、一夏!」
「鈴、席取っといてくれるか?混み始めそうだし」
「分かったわ!」
軽快なフットワークで席を確保する。片手にはラーメンを持ちながらよくあんなに動けるな
途中、簪とも合流し、鈴のいる席に向かう
「まずは自己紹介からね!あたしは
「私は更識簪。日本の代表候補生です。よろしく」
「自分は遠藤雪広。世界で3番目の男性IS操縦者だったかな?よろしく」
「俺は必要ないかもしれないけど、遠藤一夏だ」
「『遠藤』?」
そうだった。俺が織斑の名前を捨てたのを言ってなかった。
誘拐され織斑千冬に捨てられたこと、今の兄さんの家族に拾われ、織斑を捨てたことと、鈴と別れてから現在までを説明した。
「・・・そう。一夏を助けてくれてありがとうね」
「いやいや、あの状況なら助けるに決まっているし、受け入れてくれた親父に感謝してくれ」
俺は見つけてくれた兄さんに感謝しているんだけどな。兄さんは褒められるのはあんまり好きじゃないから言わないけど
それから鈴は一夏と別れてからのことを話した。一夏がいなくなって悲しんだこと、中2の時、母方の両親の介護のために中国に戻ったこと、ISの適性があったから努力したら代表候補生になったこと、IS学園には書類不備で入学が遅れたこと。そして、2組のクラス代表になったこと。
「また何でクラス代表になったんだ?」
「あたしもやる気なかったのよ。でも代表候補生で専用機持ちって言ったらその時のクラス代表が『変わって!!』って言われたから」
「なるほど、専用機持ちなら優勝しやすく、デザートパスを手に入れやすいからか」
「そ。雪広だっけ?言う通りよ。みんなの意見を聞いたうえで変わったから問題ないわよ」
そうだよな。クラス代表を変われ、なんて言ったら絶対孤立してしまう。鈴がそんなことするわけないよな
「あなたもクラス代表なんだね?」
「そうよ、ってことは簪も?」
「うん。4組の代表。・・・負けないから」
「あたしだって負ける気なんて微塵もないわよ!」
二人の間に火花が散る。代表候補生同士と言うこともあり、ライバルになるだろう
「で、1組の代表はどっちなの?」
「俺たちじゃないぞ」
「え?・・・まさかアイツ?」
「そ。クズに押し付けた」
「・・・それはそれで好都合ね。クラス対抗戦でボコボコにできるんだから!」
「私も。あいつをこの手で叩き潰す」
クラス代表なら鈴や簪と戦えたが、クズがボコされるならそれで良かった。結果オーライって感じだな
いい感じで盛り上がっているところに歓迎されざる客が来た
「こんなところにいたのか、鈴」
「・・・何よ、アンタを呼んだ覚えはないけれど」
クズとモップが来やがった。ヤツは俺たちを一瞥するように見て鈴に言う
「なーに、どうせそこの出来損ないとつるんでいるだろうと思ったからね」
「いちいち癪に障るわね・・・」
「こんなのが1組の代表なんて・・・呆れて物も言えない」
「何だと!?」
「落ち着きなよ、箒。どうせ出来損ないといる連中なんだから仕方がないさ」
その出来損ないに惨敗したのはどこの誰だったんだか
「それにお姉さんと比べて所詮、代表候補生止まりなんだから、俺たちよりもそこの底辺たちといるほうがいいのさ」
姉と比べられるのを一番に嫌う簪の地雷を踏みぬくとは。よくそんなに敵を作ろうとするのか、天才の考えていることは分からねー。
「見下している相手に惨敗した上に白目剥いて無様に気絶して、皆からの期待を裏切ったのはどこの姉の七光りの自称天才だったっけ」
おー、簪も嫌味たっぷりにして言い返すねー。いいぞ、もっとやれ
「貴様!一春を侮辱するな!」
モップがどこからか出した木刀で簪を叩こうとする。が、当たる前に兄さんがつかみ、木刀を止める
「なっ!?」
「おーおー、これじゃあ木刀が可哀そうだ。こんな心が腐りきった人間に使われて」
「貴様ぁっ!!」
「もういいさ、行こう箒。こんな奴らに相手するほうが無駄だったんだから」
クズたちは去っていく。ったく、絡んできたのはそっちだっただろうが
「本当にむかつくわ!前より性格悪くなってんじゃない!?」
「あんな奴、死ねばいいのに」
代表候補生たちは憤慨する。てか、簪口悪くなりすぎ。
「ああいうのはいちいち反応しないほうがいいよ。労力の無駄さ」
煽り返すのが一番いいんだけどね、と兄さんが言う。確かに、クズは自分のことを棚に上げているから、そこを突けばキレるだろう
「どうせ最後は『千冬姉~』とか言ってんだろう」
馬鹿にしたモノマネで噴き出す俺たち。兄さんはこういう時に場を和ますのが上手だ。時には自虐を混ぜるときもあるが
いい時間になったので教室に戻ろうと兄さんたちが席を立つ。俺も続こうとした時、鈴に袖をつかまれた
「どうした?」
「あのさ、放課後、屋上に来て」
そう言って鈴も席を立つ
・・・あの時の返事だろうな。
俺は・・・
放課後、言われた通り屋上に来た。そこには俺と鈴以外誰もいない
鈴がベンチに座っている。俺もその隣に座る
「・・・来たわね」
「・・・ああ」
「心配したのよ・・・弾も蘭ちゃんも一夏のこと心配していたのよ」
「悪かった。連絡したいと思っていたんだ。だけどできなかった」
すまない、と再度謝る。誘拐された時、連絡手段を失い、どうしようもなかったのだ
「いいよ、一夏とまた会えたんだもん」
「・・・ありがとう」
沈黙。俺たちは景色を見る。空は赤みがかかっていて、海をオレンジに染めている。
「ねえ、一夏。覚えてる?あの時の約束」
「忘れるもんか。『料理が上達したら酢豚を毎日作ってあげる』だろ?」
「うん」
「プロポーズ・・・だよな」
「・・・うん」
俺は誘拐される前に鈴から告白されていた。その時は鈴が顔を赤くしてすぐに帰ってしまったから返事ができなかった。その後、俺は誘拐されてしまった
その返事を今、鈴は求めている
俺は・・・鈴が好きだ。友達ではなく異性として、恋人として一緒にいたいと思っている。俺でよければ、と言いたい。言い出したい。
だけど
「・・・もう少し待っててくれないか」
「・・・え?」
鈴が好き。他の誰よりも鈴が好きだ。
でも不安なんだ
「分かってる。ここで返事をするべきだろうと。・・・でも不安なんだ。俺が鈴に迷惑をかけるんじゃないかって。鈴を幸せにできないんじゃないかって・・・」
大切にしたい。だからこそ、俺でいいのかという不安が大きくなる。俺が鈴を幸せにできるのか、俺よりも幸せにできる奴がいるんじゃないか
そんな思いが渦巻いてしまう
「ごめんな、すぐに答えられなくて・・・幻滅したならそれでいい」
俺は顔を俯かせて言う。今、鈴はどんな顔しているかわからない。いや、知るのが怖い。上げられない
「顔を上げて、一夏」
やさしい声がする。言葉通りに俺は顔を上げ、鈴を見る
「もしかして彼女がいるかも、って思ってたからその答えは意外だったけど」
でも、と鈴ははにかんで言う
「自信がないなら、一夏が自信を持つまで、自信をもって私の告白に答えてくれるまで待つわ。いや、待ってあげる」
答えは『応諾』だった。良かった、こんな俺を待ってくれるのか。煮え切らない思いの俺を受け入れてくれるのか。思わず涙がこぼれそうになる
「・・・ありがとう」
「どういたしまして、なのかな?」
さっきまでの夕焼けが俺たちを明るく照らすように感じる。でもここからだ。延々と先延ばしにしてはいけない。俺が鈴を幸せにできる、そうなれると早く自信が持てるように頑張らなければ
「だけど!せめて高校卒業までには答えを出してね!」
「分かった。頑張るよ」
頑張ってよ!と手を握って鈴は答える。
過去の記憶に蹴りをつけなければ。いつか、いつの日か、鈴の求める答えを言えるように
「ホント、思い返すだけでも腹立つ」
「落ち着け、簪。プログラム、ミスるぞ」
時を同じくして放課後、自分は簪と整備室にいた。簪の専用機を完成させるためにいるが、前と比べ、大人数になった。4組のクラスメイトは簪のお願いに快く受け入れ、総出で開発にあたっている。その中に、自分や一夏、のほほんさんもいる。今日は一夏は鈴に呼ばれていたからいないが、これだけいれば何とかなる。
最初はいつになったら完成するか、完成の目処すら立っていなかったが、これなら今日中には完成する。細かい調整込みでクラス対抗戦までには間に合いそうだ。
そして、簪が最後のプログラム入力とエラーがないか確認している
「バグは・・・うん、出ていない」
「てことは!」
「完成・・・した!」
おおー!と拍手が起こる。まだ調整が残ってはいるが、1週間で出来上がるとは・・・さすがIS学園生。だてに倍率の高い入試を勝ち抜いていない
「みんな、ありがとう・・・!」
「いいよいいよ、友達でしょ!」
「これならクラス対抗戦で優勝だ!」
「そして私たちにデザートパスを!!」
最後のは欲望駄々洩れって感じだが、団結力は強くなったようだ。1週間前までぼっちだったのが嘘のようだ
「でも、これから試運転をしなきゃ」
「それなら自分がすぐ近くのアリーナ借りているから、そこでやるといいよ」
「・・・雪広っていろんなこと見越しているよね?」
自分の訓練がすぐできるからなんだけどね、本当は。まあ、結果的にそうなったという事にしとこう
あの後は簪の飛行テストや射撃練習も無事に終わり、帰り道。
「まだ出力とかを調整したほうがいいかも」
「そうか?見た感じ動きは悪くなかったけど」
「安定はしているけど全力ではない感じかな」
なるほど。実際に乗ったから分かる事もあるしな。っと、一夏からメールが来た。なになに・・・なるほど~?
「ほう~?」
「どうしたの?」
「一夏からのメール。クラス対抗戦まで鈴のサポートをするって」
「へえ~・・・一夏ってもしかして鈴のこと」
「多分そうだよね。いや~、青春だね~」
多分、一夏は鈴のことが好きなんだろう。鈴と会話しているとき、微妙に嬉しそうな顔していたし・・・
一夏のことをよく分かっているし、自分が口を挟むようなことはしない。そもそも自分は
「なら、自分は簪のサポートに徹するかな」
「え、いいの?」
「専用機の手伝いもしたし、最後まで徹底的に手伝うよ。友達でしょ?」
ま、専用機の手伝いはほとんどできなかったけどね。雑用メインで動いていたし
「分かった。お願いね」
「まかせて。目指すは優勝だ!」
「おおー」
これって代理兄弟戦闘になるじゃないか。なおさら負けられないな!
一夏、あの時の借りを返してやる!!
「ところで1組のほうは?」
「知らん」
こういう恋の展開もありかな?