Inferior Stratos   作:rain time

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一人称ですが
一夏は「俺」
雪広は「自分」、キレると「俺」
です


プロローグ 中

 俺が遠藤一夏になってから3年がたった。この土地のこともよくわかるようになった

 

 ここは日本の首都、東京都であること、東京都が女尊男卑禁止地区という世界でもかなり珍しい都市なことがわかった。市長曰く、「今の時代は優秀な人々が不当な扱いを受けている、ならばその優秀な人材を集めよう」ということでその条例を作ったらしい。

 結果として東京は今まで以上に大きな会社が立ち並び、治安も他の地域と比べて段違いに良く、そのため東京は男のユートピアと言われたりもしている。

 

 俺たちの話をしよう。

 雪兄さんは学費の免除となる特別推薦枠で私立のトップの男子学に、俺は頭はいいといわれていたが、兄さんほど頭が良くなかったし、家計に負担をかけたくなかったから上位の共学の公立に入学した。結局、俺たち二人は小学校にはほとんど行けず、中学校で孤立しないか心配だったがそんなことはなかった。

 俺は剣道ではなく剣術や居合を学んでいる。こちらのほうがより実践向きでもしもの時に使えるからだ。仲間にも恵まれ、その力を上達させた。結果、周辺の学校では知らない人はいないほど俺はいい意味で有名になった。今はボクシングや体術なども学んでいる。

 雪兄さんは殺人術というものを学んでいる。実際に人を殺すのではなく、殺し方を学ぶことで殺されないようにどう立ち回るべきかを教えている。最初は俺もびっくりしたが、これを学校の体育の時間でやっているから驚きだった。(さすが私立と思った)まあ、俺もちゃっかり学んだりもした。他にも俺たちは自身の長所を自由に伸ばしていった。

 

 でも、楽しいことだけじゃなかった。幸雄父さんががんに侵されたのだ。しかも進行が早く、発症して1か月でこの世を去ってしまった。その時は雪兄さんとともに泣き、その後は荒れに荒れた。それでも先生や仲間たちが励ましてくれて今はもう立ち直っている。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで高校受験を終えた次の日、あるニュースで持ちきりとなった

 

 

「『世界初の男性IS操縦者発見! その名は織斑一春! 全国で第二の男性IS操縦者調査へ!』・・・か」

 

 俺の元兄がISを動かしたらしい。その影響で世界各地で男性IS操縦者を発掘することになった。なったのだが・・・

 

「らしいな、ここもその対象なのかな?」

「無理無理、どうせ動かねえっつうの」

「それにIS学園行きって文字通り地獄じゃねーか」

「絶対女尊男卑の人間がいっぱいに決まってる」

 

 クラスメイトたちはそれほど興味を持っていない、というのも女尊男卑が嫌になって東京に来た人がほとんどであり、男子でIS動かして女子高に・・・といった考えを持つ人はほとんどいない。女子にもIS学園は女尊男卑の巣窟と言われるほどその風潮を嫌っている。

 

「なあ一夏、こんな検査さぼってカラオケに行こうぜ」

「そうしたいのはやまやまだが、しないと研究所行きらしいぜ」

「マジ?それはやだな・・・」

 

 そんな雑談をしていると俺の携帯からメールが届いた。兄さんからだ。

 曰く、IS適正検査の補佐にされたらしく俺たちの地区担当になったとのこと

そんなメールだったが、追伸に気になることが書いてあった

 

「『嫌な予感がする』・・・か」

 

 雪兄さんはこういうときの勘がよいわけではなく、いつも杞憂に終わっている

 

 でも、今回のこの一文は・・・俺もそんな感じがした

 

 

 

 

 

 

 

 

 土曜日、この体育館はIS適性検査場としてその地区の中3男子が集まっている。担当の人は一見中学生のようでめっちゃキョドっていたが、兄さんがうまくまわった為、滞りなく進んでいる。

 誰も反応がないがみんな「やっぱりな」という感じだった。むしろ喜んでいる人が多い。

 そして俺の番になった。

 動くわけない、そう思っていた。

 

 

 

 気が付くと俺はISを纏っていた・・・

 

 

 

 最悪だ。

 担当の人が慌てているところに兄さんがフォローに入る

 

「山田先生、まずは残りの生徒の確認です。ここで時間をつぶすのは生徒に迷惑ですから」

「そ、そうでしたね。すみません、テンパってしまって」

「そのための補佐ですから」

 

 兄さんはうまく対応し残りの生徒の検査を終えた。結局俺だけISが反応したのだ

 担当の人には連絡を待ってほしいといって席を外してもらっている

 

「さて一夏、酷な話だが聞く覚悟はついたか」

「そのために時間を作ってくれたんだろう」

「ああ、残念ながら良くてIS学園、最悪は研究所に飛ばされる」

 

 やっぱりか。ほんとに最悪だ。研究所は生きていられる保証がない。俺には後ろ盾がないから研究所に行かされるだろう。でもIS学園にはあの屑がいる。つまり、どう転んでも俺にとっては嫌な選択しか残っていない

 

「研究所に行くというのは俺や俺たちの先輩がどうにかするから心配するな」

「でも、どうやって研究所行きを阻止するんだ?俺には後ろ盾がないし」

「政府のやばい情報や上層部の汚職を引きぬいて交渉材料にする」

 

 そうだった。兄さんは中学でプログラミングの才能が開花し、特にハッキングが他の人よりもとびぬけている。その能力を中学で磨き続けた結果、今では世界各国の重要データを自由に見れるほどだ。「いいのか?」と聞いたが「バレなきゃ問題ない」って笑顔で返された。まるで束さんみたいだったよ

 

「・・・」

 

 束さんこと篠ノ之束は幼少期、俺の味方になってくれた数少ないうちの一人で、いつも俺のことを気にかけてくれていた。暴力を受けていた俺を匿ってくれた。ISが兵器として認識され、女尊男卑が蔓延して俺への世間の態度がより強くなった時「いっくん、・・・ごめん、・・・ほんとにごめんね・・・」と泣きながら俺に謝ってくれた。

 今どうしているだろうか?俺のことを探しているのだろうか?それとも、あきらめてしまったのだろうか?

 

「大丈夫か?一夏」

「あ、いや。少し考え事をしていた」

「そうか。まあ、心配するなって言いたいとこだが状況が状況だからな・・・」

 

 でも、と兄さんはポン、と俺の頭に手をのせた

 

「つらくなったらいつでも相談しろ、一夏」

「・・・ありがとう、兄さん」

「弟のためならなんだってするさ!」

 

 犯罪以外ならな、と笑って雪兄さんは言ってくれた。

 いい兄さんに恵まれた、もう俺一人だけじゃない、大丈夫。そう思っているところに

 

 

 「探したよ!!いっくん!!!」

 

 聞いたことのある懐かしい声がした

 その声に俺はすぐに反応することができなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 弟がISを動かしてしまった。一夏の元兄である屑がISを動かせたため、一夏も動かせてしまうのでは、という自分の予想が当たってしまった。まずは政府がどう動くかだがどうせ研究室送りにするだろう。そうさせないためにハッキングで政府の汚職を見つけるか・・・。

 ふと一夏を見るとやはり不安な表情を浮かべている。自分はその不安をできるだけ取り除こうとして一夏の頭をなでる。大事な弟だから、それが兄としてのふるまいだ。

 

 

「探したよ!!いっくん!!!」

 

 

 そんな中、体育館の入り口で女性の声がした。その姿はまるで不思議の国のアリスのような服にメカチックなうさ耳をつけた奇抜な女性だった。こっちに向かってくる。

 でも、自分はそいつを知っている

 

「篠ノ之、束・・!」

 

 篠ノ之束、ISの生みの親で世界中で知らない人はいないほどの有名人

 そして・・・女尊男卑を生み出した元凶であり、一夏をより苦しめた人間。

 

 すぐさま俺は一夏を背後に回して、奴の前に立ちはだかった。大事な弟を守るために無意識に動いた。

 

「おい、私はいっくんに用があるんだ。そこをどけ」

「ハッ、はいそうですかっていうか、普通?」

「なんだよお前、偉そうにしやがって」

「てめえに言われたくねえな」 

「「・・・」」

 

 まさか殺人術がこうして生きるとはな。いつでも致命傷を与える準備はできている、奴が動いたらこちらも動く。奴もその気のようだ。

 あたりは殺気で包まれる。緊張が走る、狙いは奴の心臓・・・

 

 

 「ま、待ってくれ!二人とも!」

 

 

 そんな中、後ろにいたはずの一夏が俺たちの間に割って入った

 突然のことで自分も篠ノ之束も驚き、殺気も消える

 

「雪兄さん、束さんは味方だ!小さい頃に助けてくれた恩人なんだ!」

「そ、そうなのか?」

「ああ、で、束さん!雪兄さんは今の大事な家族なんだ!」

「そ、そうなの?」

「ああ、誘拐された後、俺のことを家族として受け入れてくれた大事な兄さんなんだ!」

 

 そういえば、一夏が小さい頃に味方になってくれた人がいるって言ってたが、その一人が篠ノ之束だったのか・・・!あまり深入りしないほうがいいと思って詳しく聞いていなかったが、まさかだったな。

 

「すみません!早とちりしてしまって・・・てっきり一夏を連れ去ろうとするのかと」

「こっちこそごめん!てっきりいっくんをいじめる人間かと」

 

 向こうも早とちりだったらしく互いに謝る。

 

「いっくん、久しぶりだね!!会いたかったよ!!」

「俺もです、束さん。でもどうして俺がここにいるってわかったんですか?」

「あのクズがISを動かせたときにもしかしたらいっくんも動かせるんじゃないかな~って予想してたの。で、ISの反応が分かったからそこに飛んできたわけ。そしたらビンゴだったよ!」

 

 篠ノ之束も自分と同じことを考えていたのか。確かにISの生みの親ならISを動かした反応から逆探知して探すこともできるわけか。

 それにしても篠ノ之束も織斑一春を屑と認識しているのか。メディアでは人格破綻者と言われているが思っていた以上にまともで助かる。

 と考えているところに篠ノ之束が自分のほうに顔を向けた。

 

「そういえば、君の名前は?」

「あっ、申し遅れました。一夏の兄の遠藤雪広です」

「雪広・・・、うん!『ゆーくん』だね!」

「ゆ、ゆーくん?」

「ああ、束さんは親しい人にはあだ名で呼ぶんだ、雪兄さん」

「出会って間もないのにか?」

「そりゃあ、いっくんの味方になってくれた人だもん!」

 

 そうか、一夏のことを本当に大切にしてくれていたのか。

 ・・・それならこの人に任せても大丈夫だな。たぶん一夏とは少なくとも3年は会えないだろう。高校でももっと話とかしたかったが割り切るしかない・・・。

 

「兄さん?聞いてる?」

「あ、わりい、聞いてなかった」

「兄さん、ISに触れた?」

「まだだった、どうせ動かないだろう」

「ゆーくんも確認してね。多分、動かないだろうけど・・・」

 

 わかってる。篠ノ之束の言う通り、どうせ動かない。動かないほうがいい。よくてIS学園という監獄、悪けりゃ研究所なんだから。

 

 

 

 でも

 

 

 

 動かせたら一夏と同じ高校に行けるのだろうか?それだったら動いてもいいかもな・・・

 複雑な思いで自分はISに触れる。

 動かないはずだった。

 

 「!」

 

 頭に情報が流れる。そのISが手に取ったかのようにわかる。

 

 

 気が付くと自分はISを纏っていた

 

「「「え?」」」

 

 自分たち3人は予想外の出来事にただただ呆然としていた




補足
 雪広、一夏は全寮だったが家は近かったため、土日は家に帰って家族三人で生活していた
 幸雄死後は家を解約し、それぞれの寮で生活していたが、かなりの頻度で一夏が雪広の所に遊びに来ていた


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