フランスは代わりに市民籍というものがあるようで、出生届けを出した段階で作られ、生まれた場所や日時、両親の名前が書き込まれます。
詳しくは調べてみてください。ということで本編どうぞ
「なんで男装してるんだい?シャルロット・デュノアさん?」
こっちはデュノアが女であることは分かっている。得意のハッキングで出た情報では、シャルル・デュノアは市民籍がない、つまり存在しない人だった。その代わり、シャルロット・デュノアという女の市民籍は存在していた。年齢的にも、父親の名前的にもほぼ間違いない。あとは本人の口から答え合わせをしてもらおう
「な、なに言っているのさ!胸もないし!男として入ってきているじゃないか!」
「そうか、だったらその上のジャージを脱いでみろよ」
「え!?」
「男なら上半身裸になってもなんも問題ないはずだが?それともできない理由でもあんのか?」
逃げようとしたって一夏のほうが扉に近い。それにドアに鍵もしている。逃げられはしない
「どうする?何なら強引にいってもいいんだぞ?こっちとしては手間がかかるし、面倒くさいのだがな」
「兄さん、さすがに強引なのはまずいよ。女の子に対してセクハラになっちまう」
「そうだよ!セクハラだよ!!」
「・・・今、女だと認めたな?」
「!?」
墓穴を掘ったぞ、コイツ。外見が女っぽいんだからせめて中身は男を演じ切ろうぜ・・・
「で、改めて言うがお前は男なのか?女なのか?」
「・・・」
黙る。だが、こいつの顔は悲痛な叫びを押し殺している顔だ。自分の得た情報が正しければ・・・と、思うなかでデュノアが口を開く
「いつから気付いていたの?」
「そういうってことは女だということでいいんだね?」
こくり、とうなずく。思ったよりも早く告発してくれそうでなによりだ
「まあ、一目見ておかしいと思ったな」
「ああ、俺もそう思った」
「う、嘘でしょ!?頑張ったのに!」
あれでOKがでたのも色々とおかしいが・・・まあ、細かいことを気にしていたら本題に入れない
「で、本題だが・・・どうして男と偽って入学したんだ?」
「それは・・・実家のほうからそうしろって言われて・・・」
「デュノア社だろ?そこは傾き始めているから・・・広告塔としてきたのか」
「半分正解だよ、遠藤君。だけどそれだけじゃないんだ」
そんな気はしている。だけど、本人の口から真実を確認したいためにあえて話さない
「男と偽って入学した理由。それは織斑一春君、もしくは遠藤一夏君の専用機のデータを盗むためなんだ」
やはり、スパイ目的で来たのか。最悪なパターンじゃないか
と、ここで一夏が疑問をぶつける
「でも、そんなにデュノア社って経営危機なのか?量産機のラファール・リヴァイブは第三位のシェア率だっただろ?」
「第二世代はな。あそこは第三世代の開発が遅れている」
「そう。欧州では欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』を進めているんだけど僕の会社、デュノア社は間に合わなかった。そのせいで政府からの援助が大幅にカットされたの。次の企画発表の時に間に合わないと援助が全面カットされちゃうの」
どれも間違ったことは言っていない。情報通りのことだ
「だけど、なんでお前がそんなことを命令されるんだよ!実の娘に!」
「それはね・・・僕は愛人の子供だからだよ」
「!!」
「・・・」
「・・・遠藤君は驚かないんだね」
「市民権を調べたんだ。お前の両親、父親はデュノア社社長だったんだが、母親はデュノア社長夫人ではなかったからな。まさかとは思っていたが・・・」
「そっか・・・そこまで調べていたんだね」
ハッキングだけどな
「引き取られたのは二年前。ちょうどお母さんが亡くなったときにね、父の部下がやってきたの。それでいろいろ検査をする過程でIS適性が高かったから、非公式だけどデュノア社のテストパイロットをやることになったの」
「・・・嫌なら話さないでいいぞ。な?兄さん」
「ああ、無理しなくていいから」
大丈夫、と言ってはいるが、顔は大丈夫じゃない。表情が無くなっていく
「父に会ったのは二回くらいでね、会話は数回だった。普段は別邸に住んでいたんだけど、初めて会ったときは本邸に呼ばれてね。あの時はひどかったなあ。本妻の人に殴られたんだ。『この泥棒猫の娘が!』ってね。参っちゃうよ。お母さんもちょっとくらい教えてくれたらよかったんだけどね」
何も言えなかった。最悪の想定通りのことになっている。一夏もあまりのことに呆然としている
「とまあ、こんなところかな。結局初日でバレちゃったし、きっと本国に呼び戻されるんだろうね・・・なんか話したら楽になったよ。最後まで聞いてくれてありがとう。それと、今まで騙しててごめんね」
デュノアは頭を下げるが、その表情は痛々しかった
・・・なるほどな
シャルル、もといシャルロットの告発に絶句してしまった。まさかここまで大きな問題だとは・・・俺と同じくらいのひどい人生を歩んでくる人がいるなんて・・・俺は一体どうしたら良いのだろうか
兄さんに目を向ける
「!」
「なるほどなぁ」
兄さんは椅子から立ち上がりゆっくりと机に近づき、両手をつける。机は壁に向いているため、兄さんの表情は見えない。
だけど分かる
「つまり、社長らの圧力で従うしかなかった。ってわけか・・・」
「「・・・」」
「で、デュノア。お前はそれでいいのか?」
突然、兄さんはシャルロットに質問する
「いいも悪いもないよ。僕に選ぶ権利なんてないんだから、仕方がないよ」
「・・・そうだよなぁ。どうしようもないよなぁ。俺たち子供に選ぶ権利なんてないよなぁ・・・」
そう言うと兄さんは頭を下げる。重い空気が漂い始める中・・・
「・・・冗談じゃない」
「・・・え?」
ぼそりと、でもはっきりと兄さんはつぶやく。シャルロットも聞こえたようで顔を上げる。そして
「・・・冗談じゃない!!!!」
「!?」
「なんでこんなことが許される!!なんでしたくもないことを強制される!!!なんで!なんで!!俺たちは自由を許されないんだ!!!!」
「え、遠藤君?」
「こんなクズが会社のトップにいるなんて・・・いい訳ない!!いい訳ねえんだ!!!」
「ど、どうしたの!?急に!」
兄さんが激怒する。このことは兄さんの逆鱗に触れているもんな。デュノア社に対して
でも、まずは落ち着かせないと。俺は兄さんの肩に手を置く
「兄さん」
「一夏ならわかるだろう!!分かるだろう、お前なら!なあ!!」
「
「そうだ!だから!」
「そうならないようにするんだろう?怒鳴るだけじゃあ何にも解決しないぞ」
「・・・!」
目をギュッとつぶって歯を食いしばり、荒い呼吸を落ち着かせていく。兄さんは数回の深呼吸の後、大きく息を吐く
「・・・悪い、一夏」
「気持ちはわかるよ」
「・・・ああ」
気持ちはわかる。だけど言わない。4年くらい兄弟なのだから言わなくてもわかる
兄さんは振り返り、椅子に座ってシャルロットと再び対面する
「すまない、取り乱して。気分を害したなら申し訳ない」
「う、ううん。そんなことないよ。突然すぎて驚いちゃったけど」
「まあ、シャルロットからしたらそう見えるよな」
俺は兄さんのことがよく分かるから取り乱すんだろうなとは思っていた。兄さんも実の両親に勉強を強制されたうえで虐待を受けていた。だからシャルロットの気持ちが理解でき、デュノア社の社長たちの考えも理解してしまったのだろう。そして兄さんはシャルロットを昔の兄さん自身と重ねて見たのだろう。だからあんな風に怒り狂ったのだ
ふと見ると兄さんは前かがみになる。こういう時は話の核心をするときだ
「さて、デュノア。自分から一つ質問がある」
「う、うん」
「デュノア社長、社長夫人をどう思っている?」
「・・・え?」
「要はこいつらを
やっぱり、兄さんはこいつらを潰すんだな。まあ、俺もこんなクソ野郎どもは生きる価値なんてないと思っているが
「・・・どうして?」
「うん?」
「どうして遠藤君は、僕を助けてくれるの?会って間もない相手なのに。スパイで来た相手をどうして?」
確かに、シャルロットはそう思ってしまうだろう。シャルロットから見たら兄さんは救世主、さながら悪いやつらからいたいけな少女を守ろうとするヒーローに見える。だが、
「・・・君は何か勘違いをしているようだね」
「え?」
「自分は君を助けるためじゃない。他人の人生を犠牲にしてまで自身は甘い蜜を吸う権力者をこの世から消し去るためだ」
「!」
「自分はな、悪い人間以外の人が理不尽な力に潰されないような世界にしたいと思っているんだ。そんな世界において、その社長のようなクズは邪魔なんだ」
要するにだ、と一呼吸して兄さんは言う
「自分が気に入らないから潰す。ただそれだけだ。もちろん、周りに迷惑はかけないようにするけどな」
たいていのヒーローは苦しむ人を助けるために悪を倒す。つまり、苦しむ人がいるからその根源を倒す。だけど、兄さんは自分の信念に合わないヤツ、社会悪な人間を潰すのが目標なんだ。結果的には救っているが、兄さんは人を救おうという意志をもっていない
「・・・だったら」
「ん?」
「だったら、僕を・・・僕も救ってほしい」
シャルロットが助けを求めている。普通の主人公ならすぐに「救ってやる!」とかいうだろう
「・・・やだね」
「え!?」
「自分たちはもう15,6だ。待ってりゃ誰かが助けたり救ってくれたりしてくれるような年じゃないんだ」
今度はふんぞり返って椅子にもたれかかる。兄さんらしいと言えば兄さんらしいが・・・シャルロットは悲痛な顔になる
「じゃ、じゃあ・・・」
「だから、対価が必要だな」
「対価?」
「そうさ、他人に何かを求めるときはそれ相応の報酬とかあるだろう」
基本は金だがな、と兄さんは言う。確かにこの時代、無償で何かをするのはよほどの善人しかいないだろう。兄さんは善人ではないがな
「ぼ、僕は・・・どうしたら・・・」
「だから対価が必要だと言っているだろう」
「な、何でもするから!だから、僕を助けて!!」
ふーん、と兄さんは目を細める
「じゃあ、お前の体で」
「えっ!?」
「兄さん!?」
「・・・ていう風に言う輩もいるから、『何でもする』は言わないほうがいい」
「わ、分かった・・・」
そうだよな、兄さんがそんなことを言うわけないよな。兄さんにおいてはその要求は
「で、だ。自分が求める対価だが・・・」
「・・・」
「『こちらからの質問に正直に答えてもらう』の一点だ」
「・・・」
シャルロットは呆然としている。どうしたんだ?
「シャルロット、どうしたんだ?」
「あ、いや・・・それだけでいいのかなって」
「なに言っているのさ、十分なことじゃないか。自分はデュノアの情報からデュノア社長たちを潰せる。デュノアはその束縛から救われる。win-winじゃないか?まあ、アフターケアをする手間が増えたがな」
なるほど、もともとそのつもりだったんだな。兄さんはデュノア社を潰すためにシャルロットを味方につけるつもりだったんだな
でも、助けるのはあくまでついでか・・・ま、そこが兄さんらしいと言えばらしいのだが
「で、どうするんだ?」
「そんなのもう決まっているよ」
そう言うとシャルロットは頭を下げる
「お願いします」
「交渉成立だな」
「うん。こちらこそよろしくね。遠藤君」
「自分も名前でいいよ。雪広で」
「僕も名前でいいよ」
「わかった、これからよろしくな」
「うん・・・よろしくお願いします」
二人は握手をする。
ここからが本番だ
「さて、それじゃあ質問するからしっかり答えてね」
「分かった」
「一夏も何か疑問があったら質問してくれ。自分以外の視点からの切込みも欲しいし」
「了解だ」
自分は机に向かっている。パソコンで質問と回答を記録するためだ
さあ、質問開始だ
「いきなり確認で悪いが、シャルロットの母さんが亡くなってすぐに社長の部下がやってきたのが二年前、でいいよな」
「・・・うん、そうだよ」
「で、IS適性があって非公式のテストパイロットに、その後デュノア社は傾き始めたと」
「うん」
「まず日本語はいつから覚え始めた?」
「確か・・・二年前、デュノア社に来てから会社で。社長が覚えるように、って言ってた」
「男装はいつからするように言われていた?」
「・・・3か月くらい前だったかな。男性IS操縦者が見つかったくらい」
「そうか、じゃあテストパイロットやっていた時に給料は支払われていた?」
「それは・・・どうなんだろう。デュノア社に入ってから見てないな」
まあ、普通は中高生が通帳を管理することはないだろう。自分たちは管理せざるを得なかったから、変な質問だったか・・・
と、一夏が疑問をぶつける
「見てないってことはそれほど困った生活はしていなかったのか?」
「うん、部下の人が大抵買ってきてくれたし・・・時々外にも出られたし」
なんか思っていたよりも縛られていないな。もっと不自由な生活かと思っていたが、外出もできていたようだし・・・
「そうだ、データを取るって言っていたけどどうやって取るつもりだったの?」
「それはね・・・」
シャルロットはポケットからやや大き目なUSBみたいな機械を取り出す
「これをISに差せばデータを取れるって言われて・・・」
「で、今日隙があれば取ろうと」
「ま、まあね・・・命令されていたし」
「それ、預かってもいい?」
「いいよ。どうせもう使わないから」
シャルロットからその機械を受け取る。見たところ普通のUSBみたいだが・・・
あっ、と一夏が何か思い出したように反応する
「そうだ、さっきなんか引っかかることがあったんだ」
「引っかかること?」
「シャルロットは俺か織斑のデータを取れって言われていたんだろう?兄さんのは何も言われていなかったのか」
「そ、それは・・・」
なぜかシャルロットは口ごもる
「何か言いにくいことなのか?」
「その・・・社長は雪広には近づくなって」
「ほう・・・なんで?」
「分からないけど、とにかく雪広と接触するくらいなら織斑君、無理なら一夏のデータが欲しいって」
つまり、自分のデータには興味がないという事か。同じ第二世代の機体に用はない感じか。あながち間違ってはいないとは思う
「つまり、雪兄さんは接触するなと」
「うん。だからお昼とか放課後とかは織斑君と接触しようとしたんだけど、僕を邪魔者みたいな目で見てきたし、訓練もしていなかったから・・・嫌になっちゃって」
「アイツはクズだぞ。接触しないほうがいい」
そこから一夏は過去のことを話した。数々のクズたちの悪事をシャルロットに伝えると顔を歪める
「そんな人だったんだ・・・嫌な感じはしたけど、それ以上だったな」
「多分あいつは思い通りに動く女にしか興味がないからな。シャルロットのことも煩わしいと思っただろう」
「サイッテーだね・・・一夏たちにバレてよかったのかも」
確かに、クズにバレた場合最悪脅されて性処理にされていたかもしれない。そういう意味では早めに見切りをつけたのは良かった
「それで、シャルロットが女だったことは俺たちだけの秘密にするのか?」
「いや、楯無さんや鈴と簪には伝えようと思う」
「え!?だ、大丈夫なの?」
「大丈夫。鈴や簪、楯無さんは信頼できるから。事情を伝えれば味方になってくれるよ」
「それに、皆シャルロットが女だと思っているし」
「な、なんでみんな分かっちゃうのかな!?」
むしろ、他のクラスメイト達がなぜ気づかないのかが不思議なくらいだ、とは言わないでおく
すると一夏はおもむろに生徒手帳を開く
「そういえば兄さん、特記事項は?」
「なんのだ?」
「いや、『在学生は在学中にあらゆる団体に帰属しない』ってのがあったような・・・それでシャルロットは守られるんじゃないかって」
「ある。確か第二一だったな」
「それなら僕は3年間・・・」
「いや、あくまで
「そっか・・・悪いシャルロット。変な期待を持たせて」
「ううん、気にしてないよ」
「だから楯無さんを味方につける。あの人国家代表だし、発言権はありそうだし」
「そういう事なんだね。わかったよ」
本当は暗部組織の長だからというのは伏せておく
「・・・うん、わかった。今のところはこれでいいかな」
「力になれた?」
「まだ確信が分からないけど、いい情報だと思う。じゃあ、明日から自分は情報を抜き・・・調べてくるから、一夏はシャルロットを護衛する感じで頼む」
「ああ、任された!」
「二人とも、改めてよろしくお願いします」
深々とシャルロットは頭を下げる。でも何か引っかかるんだけどな。シャルロットは嘘をついていないように思うのだが・・・
「じゃあ、改めて親睦会でもするか!」
「・・・そうだな。あんまり重い話ばかりだと参っちゃうからな」
その後は三人でたわいもない話や一夏からの無茶ぶり一発芸をやらされる羽目になった
男子校で受けた鉄板ネタが大スベリした時は死にたくなるくらい恥ずかしかったものの、それでシャルロットを和ませられたのなら良かったのかもしれない
・・・自分は泣きそうになったがな
シャルロットの家事情は難しい!(本音)
なにより、話をどこで区切ろうかが大変でした